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The Last War
Episode 02 -アスカ再び-
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<フランス外人部隊基地>

チベットを旅立ったレイは、ゼーレという組織に発見されるのを避ける為飛行機などの
交通機関を使わず、ヒッチハイクを繰り返してフランスへとやってきた。

やっと着いたわ。
あそこに惣流・アスカ・ラングレーと言う人がいたらいいけど・・・。

外人部隊基地の前までやってきたレイは、門の前に立っている衛兵にアスカのことを聞
いてみることにした。

「あのぉ、すみません。」

「なんだ?」

「あの・・・古い友人を探しているんですが・・・、惣流さんっていう、女の傭兵さん
  がこちらにいますか?」

「は? 惣流? 聞いたことないな。」

「え!? そ、そうですか・・・。わかりました・・・。」

叔父にここにいる可能性が一番高いと言われたので、希望を託してやってきたのだが、
いないと言われてがっかりする。

どうしよう・・・。

アメリカのゼーレ本部へ乗り込むにも、知識も経験も無い自分だけではどうしていいの
かわからない。

こんな都会でうろうろしてたら、ゼーレの兵隊に見つかるかもしれないし。
困ったなぁ・・・。

アスカの探し方と自分のこれからの身の振り方に悩みながら、フランス外人部隊の基地
を離れようとしたレイの脳裏にあることが思い浮かんだ。

そう言えば、こんな都会にいて惣流さんはどうしてゼーレに見つからないんだろう?
そうだわっ! 名前を変えているかもしれない。

そのことに思い当たったレイは、再び門の前に駆け戻ると叔父から貰った14歳の頃の
アスカの写真を兵隊に見せてみた。

「これが14歳の頃の友人の写真なんですけど? 見覚えありませんか?」

「あっ! この人は、エリザベス・ゴールデンラングレーさんじゃないか。」

「ぶぅぅぅぅぅっ!」

いくら偽名を名乗るにしても、もう少しましなセンスの名前は無かったのかと、思わず
吹き出してしまう。

そんな名前じゃ、余計に目立っちゃわないのかしら?

「部外者を基地内に入れることはできない。俺がエリザベス・ゴールデンラングレーさ
  んに連絡してきてやるよ。」

「よろしくお願いします。」

それからしばらくして基地の中から、少女の頃の赤毛の色を少し残す金髪の美しい女性
が姿を現した。

「あっ!」

基地から走り出てきたその女性は、門の前に立つレイを見つけて立ち止まる。口をぱく
ぱくと開けて、目を真ん丸に見開いたままレイのことをじっと見つめる。

「エリザベスさん、間違いございませんでしょうか?」

衛兵が確認すると、その女性は首を縦に一度振ってレイに近づいて来た。

「ええ、紛れも無くアタシの旧友よ。通してあげなさい。」

「わかりました。おい、入っていいぞ。」

「ありがとうございます。」

門を通して貰ったレイは、衛兵に一度軽くお辞儀をした後その女性の元へと歩いて行く。

「ふーーん、まさかアンタが生きてたなんてねぇ。」

アスカは、レイのことを流し目で見ながら基地内に招き入れた。

「あなたが、惣流・アスカ・ラングレーさんね?」

「あなたがって・・。アンタ、何が言いたいのよっ!?」

「ごめんなさい。わたし、あなたが知っている綾波レイじゃないから。」

「なによそれ。」

叔父から聞かされた範囲内で、レイは自分の出生の秘密とこの4年間の記憶にある自分
の生活についてアスカに話して聞かせた。

「ふーーん。じゃ、アンタはアタシのこと知らないわけね。」

「えぇ、ごめんなさい。」

「ま、その方が都合がいいけど。で? そのアンタがどうしてわざわざ楽しい幸せな生
  活を捨ててまで、アタシの所へ来たのかしら?」

「実は、このペンペンが持っているマイクロチップを見たの。。」

「えーーーーっ!? この温泉ペンギンって、ペンペンなの?」

「クェーーーーーッ!」

アスカはペンペンの前に腰を降ろすと、懐かしそうにペンペンを見つめて頭を撫でる。

「さぁ、わからないけど、Pen2ってプレートに書いてあったから、わたしが勝手に
  そう呼んでるの。」

「いーえ、間違いないわ。このきったない字はミサトの字ですもの。へぇ、ペンペンも
  生きてたんだぁ。よかったねペンペン、ヒカリは元気かなぁ?」

「クェーーーーーッ!」

「それで、そのペンペンのプレートの裏に、こんなチップが貼り付けてあったの。」

「これがそのチップね。ちょっと貸してみなさいよ。」

そのチップを受け取ったアスカは、レイと一緒にコンピューターが置いてある自分の部
屋へと入る。そして、そのチップ内の動画を見たアスカは、目を大きく見開いた。

「シ、シンジ!」

そこに映し出されたのは、あれから4年経ち繊細な顔が精悍な顔に、やさしさがたくま
しさに成長したシンジの姿であった。

「ふーーん。そういうことぉ。これを見て、シンジを助けに行こうって思ったわけね?」

「ええ。だから、惣流さんも手を貸して欲しいの。」

「はぁ?」

「え?」

「なんでアタシまで手を貸さなくちゃいけないのよっ! アンタが何しようと知らない
  けど、アタシは知らないわよっ! 勝手にやって頂戴。」

「そ、そんなっ! このまま世界がゼーレの手に渡っちゃったら、大変なことになるの
  よ?」

「そーんなの、アタシの知った事じゃないわよ。もしそうなったら、ゼーレに雇って貰
  うまでのことよ。」

「ひっどーーーいっ! 」

「何がひどいのよっ! 突然押しかけて来て、仲間になってくれ? 調子のいい事言って
  んじゃないわよっ!」

「突然来て迷惑はかけたけど、でもっ!」

「だいたいねぇ! なんでこのアタシがバカシンジなんかを助けにいかなきゃいけない
  のよっ!」

「あなたは、世界を守りたいと思わないの!?」

「興味ないわ。それとも何かしらぁ? ここの傭兵の雇い金額より、多くの雇い金を出
  してくれるとでも言うの?」

「な、なんて人なのっ! 叔父さんが頼りになるって言ったから来たけどっ! もういい
  わっ! わたし1人で碇くんを助けるからっ!」

レイはとうとうアスカの態度が頭にきて、席を立ち上がった。

「まぁ、せいぜい1人でがんばんなさいなっ。」

アスカは、部屋から出て行くレイを自分の部屋の椅子に座ったままで見送る。

「がんばりますよーだっ!」

そんなアスカを睨み付けながら出て行こうとしたレイだったが、これからどうすればい
いのかわからない。

はっ! そうだわっ!

その時レイは、咄嗟にあることを思い付き、部屋の入り口から数歩部屋の中に戻った。

「碇くんて、今はネオネルフの旗印らしいわ。その碇くんを助け出したら、きっと膨大
  な賞金が出るはずよ。」

「うっ・・・。」

思わずその膨大な賞金に目がくらむ借金だらけのアスカ。

「まぁ、わたしが助け出したら、それはわたし1人の物よねぇ。」

「確かに・・・それはありえるわね。」

「間違い無く貰えると思うけど?」

アスカの突然の変化を見たレイは、これはいけるっ!と思いそんな保証など全く無いの
だが、この線で強く押すことにする。

「じゃ、6:4でアタシにくれるなら、その話乗ってやってもいいわよ。」

「ほんとっ!? もし一緒に来てくれるなら、全部あげてもいいわっ!」

「ぜ、全部!?」

膨大な大金が、全部アタシの物に・・・。
膨大な大金が、全部アタシの物に・・・。
膨大な大金が、全部アタシの物に・・・。
膨大な大金が、全部アタシの物に・・・。
これで、今まで買った戦闘機の借金が全て返せるかもしれないわっ!

傭兵が初心者の頃、買っては壊し買っては壊しした戦闘機の借金と、今乗っている戦闘
機の改造に使った借金が膨大にあったのだ。

「その言葉、嘘じゃないでしょうねっ!」

「嘘なんかじゃないわっ!」

「まぁ、そういうことなら、乗ってあげるわ。」

「ありがとうっ!」

ひとまず口先でアスカを丸め込んだレイは、アスカと固く握手をした。アスカは、その
後、即外人部隊に除隊手続きをしに行った。

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                        :
                        :

「入んなさいよ。」

「うん。」

アスカは、いろいろな戦闘機が収められている格納庫にレイを招き入れる。その一角に
アスカの乗る真っ赤なF15イーグルがあった。

「これが、アタシのイーグルよ。」

「なんか、古い戦闘機ね・・・。」

「失礼ねっ! 型は古いけど、このアタシが改造に改造を重ねた機体よっ! 性能は保証
  するわっ。」

おかげで、借金だらけだけど・・・。

アスカが、レイにアスカブランドイーグルを紹介していると、外人部隊の仲間が幾人か
近寄ってきた。

「おいっ! エリザベスっ! 抜けるんだってなっ!」

「もっと率のいい雇い主が見つかったからねっ!」

「そっか、エリザベスがいなくなったら、作戦がやりづらくなるな。」

「まぁ、後はがんばんなさいよっ!」

「あぁ。戦場で敵として、エリザベスにだけは会わないことを祈るよ。まだ、命は惜し
  いからな。」

「また、お金に困ったら戻ってくるわっ。」

「おうっ! 待ってるぜ!」

外人部隊の仲間達に別れの挨拶をしたアスカは、イーグルを回して格納庫から出し、レ
イに手を差し伸べた。

「ほら、レイ。掴まんなさいよっ!」

「ありがとう。」

アスカのイーグルは、救出作戦にも利用できる様に4人乗りになっている。レイは、隣
の席に腰を落ち着け、ペンペンは後部座席に座ることになった。

「それじゃ、行くわよっ!」

「わたし・・・飛行機に乗るのなんて始めて・・・。」

レイはかなり緊張している様で、顔を真っ青にして引きつらせながらしっかりとシート
にしがみ付いている。

「心配しなくてもいいわよっ。アタシの操縦より、ミサトのルノーの方がスリルあった
  と思うわ。」

そして、イーグルはエンジンに火を灯し飛び立って行った。

                        :
                        :
                        :

「まずいっ!」

北に向かってしばらく飛んだ頃、コックピットの計器を見ていたアスカの顔が、突然歪
んだ。

「どうしたの?」

アスカのその言葉を聞いたレイが不安気に聞き返した時、通信に男の声が不意に入って
くる。

『今日、こんな所を戦闘機が飛ぶという連絡は受けていない。所属は何処のものかっ!』

まずい・・・ゼーレだ。突然だったから、何も手続きしてないわよ・・・。
ここで、部隊の名前を出したら、みんなに迷惑かかるわよねぇ。

「手続き出してるわよっ! ちゃんと調べてないの!?」

いちかばちかで、その場限りの嘘の言い訳を言ってみる。

『そんな報告は受けていないっ! おいっ! 聞きたいことがあるっ! 着地しろっ!』

ちっ! ゼーレなんかに掴まったら、一発で惣流・アスカ・ラングレーってことがばれ
ちゃうじゃないのよっ!

「レイっ! 掴まってなさいよっ!」

「えっ!? キャーーーーーっ!!」

アスカはそのまま戦闘態勢を取ると、妨害電波を発しながら敵の戦闘機に急接近する。
自分のイーグルはステルス加工してある為、こんな山奥での戦闘なら敵のレーダー網か
ら逃げ切る自信はあった。

『刃向かうつもりかっ!』

「冥土の土産に聞かせてあげるわっ! アタシの所属は、ネオネルフっ! アタシは惣流・
  アスカ・ラングレーよっ!!」

『なんだと!? 貴様っ! もう一度・・・ジジジジジジジジジジ』

妨害電波で、途切れる敵の無線。

「このアタシを、貴様呼ばわりするとはいい度胸じゃないのっ! 遺言は残したかしら
  ぁ!?」

そのままドッグファイトに縺れ込む2体の機体だが、あっと言う間にアスカが背後に回
り込んだ。

「さぁ、どうするの? さっきの威勢はどうしたのかしらぁ?」

ロックオンしたまま、敵の背後を舌なめずりしながら追撃するアスカ。敵機体は、外か
ら見ても恐怖に脅えている様子で、何度も旋回しながらアスカを振り切ろうとしている。

「フフフっ! これが、惣流・アスカ・ラングレーの、ゼーレに対する宣戦布告だと思
  いなさいっ!!!!」

ズガーーーーーーーーーーーーン。

次の瞬間、木っ端微塵に吹き飛ぶゼーレの戦闘機。その爆炎の横を地上すれすれで飛び
去って行く真っ赤なイーグル。

「ハハーーーンッ! じゃーねっ!」

爆炎に手を振りながらイーグルをドイツに向けるアスカの心には、いつしか4年前の高
ぶりが充満していた。

偽名を使い身を隠して組織に使われながら影に生きてきたが、その影の世界から光の当
たる世界へと踏み出した瞬間であった。





                        アスカ再び、表舞台に舞い下りたり。

To Be Continued.
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