------------------------------------------------------------------------------
The Last War
Episode 03 -銀色の烈火-
------------------------------------------------------------------------------

<アスカの家>

ドイツ北部の森の中に隠れる様に作られているアスカの家に続く森のトンネルの様な滑
走路に着地するイーグル。垂直離着陸が可能になっている、アスカブランドイーグルに
は滑走路は必要無いのだが、前に乗っていた機体の時に作った滑走路だ。

「降りなさい。ここがアタシの家よ。」

「暗いのね。」

「こんな所じゃないと、すぐにばれちゃうからね。」

レイはアスカに連れられて、イーグルの格納庫からアスカの家へと向かって歩いて行く。
まだ日は高いのだが、森の木々に覆われて辺りは薄暗い。

「ところで、アンタ。ゼーレに乗り込むからには、ATフィールドが張れるんでしょう
  ね? アンタと違って、アタシはエヴァ無しじゃそんなことできないわよ?」

「ATフィールド?」

「そうよ。ATフィールドよ。」

「なんなの? それ?」

「やっぱりね・・・。まったく・・・アンタそれでよくゼーレなんかに攻め入ろうなん
  て考えてたものね。」

大げさに両手で天を仰いで、呆れ返る振りをするアスカ。

「だから、なにそれ?」

「それにしても、アンタよく喋る様になったわね。世代交代すると性格も変わるのかし
  ら?」

「そう? これで普通だと思うけど?」

レイの性格うんぬんよりも、ゲンドウに育てられるか気立ての良い老夫婦に育てられる
かでは、これくらいの差は出ても当然だろう。

「まぁいいわ。それより、そんな状態でゼーレなんかに攻め込んだら自殺行為だから、
  まずはアタシの家でアンタのATフィールドを復活させましょ。」

「だから、ATフィールドってなんなの?」

レイも結構しつこい。まぁ、わけのわからない言葉を説明も無しに連発されれば、疑問
も沸くだろうが。

「家に入ったら、ゆっくり説明するわ。」

「ここが、あなたの家?」

最先端の設備が整った戦闘機を自由に操り、傭兵などをやっているアスカのことなので、
どんな家に住んでいるのかと思っていたレイはその家を見て驚く。

「そうよ。入りなさい。」

「ええ・・・おじゃまします。」

アスカに招かれたレイは、ぼろぼろの枯れ木や小枝などを集めて作ったような小屋の玄
関をくぐった。

「こっちよ。」

「暗いのね。」

小屋の中に入ると真っ直ぐ地下に伸びる階段があり、その向こうには重厚な鉛で作られ
た扉がぽつりとみえる。その扉の前にアスカが立って喋り掛けると、カチリと音がして
扉が開いた。

「わぁぁぁぁぁ。」

「さぁ、着いたわよ。」

その扉の向こうは、最初にレイが想像していた通りの最先端の設備を網羅した空間が広
がっている。

「これからATフィールドの記録を見せるから、よく見ておくのよ。」

「ええ。」

レイは、アスカに言われた通りに大きなスクリーンの前に座って映像を見続ける。そこ
には、4年前のエヴァの戦いの記録が映し出されていた。

「わたし、本当に戦っていたのね。」

「よーく見ておきなさい。これが、最後にアンタが発生させたATフィールドよ。」

スクリーンの映像が切り替わり、シンジとカヲルの戦いと3人目の生身のレイが発生さ
せるATフィールドの様子が映し出された。

「こんなこと、わたしできない・・・。」

「そんなわけないでしょ!? 仮にもアンタは綾波レイなのよっ! と、言うよりATフ
  ィールドが張れない限り、シンジ救出なんて諦めるのね。」

「どうして?」

「映像に映ってるこの男・・・カヲルの2人目が、今ゼーレを仕切ってるわ。こいつの
  ATフィールドを押さえない限り、ゼーレには対抗できないのよ。」

「でも・・・。」

「やる気が無いんなら、帰りなさい。アタシはフランスに戻るから。」

「・・・・・・・・・。」

「アンタの気まぐれに付き合って、アタシの貴重な時間を無駄にしたくないのっ! ど
  うするのよっ!」

「わかったわ。やってみる。」

「はぁ? やってみるじゃなくて、やるからには必ずやるのよっ! アンタ、本当に自分
  のやろうとしてることの意味が、わかってんでしょうねっ!」

「うん。やるわっ!」

その日から、レイのATフィールドを張る訓練が始まった。アスカも、自分がエヴァに
乗っていた時、どうやってATフィールドを発生させていたかなど、少しでも参考にな
りそうなことをレクチャーしながらレイの訓練をサポートしていくのだった。

                        ●

<ゼーレの独房>

時間はシンジがゼーレに連行された時までさかのぼる。

「久しぶりだね。シンジ君。」

「馴れ馴れしく、『シンジくん』なんて呼ばないでよっ! 君はぼくが知ってるカヲル
  君なんかじゃないっ! 君はあんな、ひどいことを・・・君は・・・。」

皇帝と名乗るキールの下で、カヲルが指導するゼーレの圧政は苛烈を極めた。残された
対抗組織はヨーロッパに潜伏するネオネルフ唯一となっていたが、ヨーロッパの何処か
にエヴァ3体のコアが隠されている為、ゼーレも迂闊に攻撃することができないでいた。

「昔の親友に向かって、つれない言葉だねシンジ君。どうだろう? 他の2体はいいから、
  初号機のコアのある場所だけでも教えてくれたら、君達の安全は保証するよ?」

「そんなの信用できないよっ! おまえなんかに、絶対に死んでも言もんかっ!」

「口を慎めっ!」

殴り掛からんばかりの勢いでカヲルに叫ぶシンジを、衛兵は力づくで無理矢理ひざまづ
かせる。

「まぁ、そう言わないでくれよ。僕もあまり手荒なことはしたくないんだ。しばらく1
  人になって考えるといいよ。」

カヲルはそう言いながら、マントを翻し幾人かの兵士を伴ってシンジが監禁されている
独房から姿を消した。

「ちくしょうっ! ちくしょうっ! リツコさんがいれば、今頃こんなことには・・・。
  ちくしょーーーーっ!!」

リツコとMAGIを失った今となっては、エヴァを製造する技術が無いのだ。しかし、
エヴァの構築は無理でも、ようやくコアを組み込んだ戦闘機が開発されようとしていた。
そんな時、ネオネルフで唯一シンクロ可能なシンジが捕まってしまったのだ。

頼むみんな! アスカか綾波を探し出してくれ。そうすれば、ぼくがいなくても・・・。

ペンペンが直接レイの元へ行ったことを知らないシンジは、仲間達がアスカかレイを探
し出してくれることを、独房の中で祈り続けていた。

<ゼーレ司令室>

「なんとしても、初号機のコアの場所を聞き出すんだよ。いいね。」

「はっ! 司令っ!」

「フフフフっ。これでコアが手に入れば、世界は完全に僕達の物になるんだよ。ゾクゾ
  クするじゃないか。」

「はっ!」

「じゃ、準備を急いでおくんだよ。それから、シンジ君にはまだまだ使い道があるから
  ね。忘れるんじゃないよ。」

「イエッサー!」

兵士が司令室を去った後、カヲルはスクリーンに映し出された巨大なATフィールド発
生装置を、不敵な笑みを浮かべて見続けていた。

<ゼーレの独房>

「碇シンジ。出ろっ!!」

数日後、シンジは独房にやってきた兵隊に連れ出されて、別の部屋へと連れて行かれた。

「そこに座れ。」

「何をするんだ。」

「さっさと座れっ!」

足を蹴られて半ば強制的に椅子に座らされるシンジは、椅子に取り付けられている鉄性
の拘束具で、足,手,腰,胸,首,頭を拘束される。それらの拘束具からは、大量の電
気の配線が伸びていた。

「いよいよ、ぼくを殺すのか・・・。」

「そんなことはしないよ。君にはまだ利用価値があるからね。」

シンジの背後の扉から、カヲルが入って来る。

「ただ、ちょっと催眠療法を使ってね。コアの位置を教えて貰うだけだよ。」

「なっ! やめろっ!! やめてくれっ!!」

カヲルの言葉を聞いたシンジは絶叫しながら体を右に左に揺するが、完全に拘束されて
いる為身動き一つできない。

「さぁ、やってくれ。」

しかし、カヲルはそんなシンジの悲鳴には耳を傾けず、兵士に催眠機のスイッチを入れ
させた。

ビビビビビビビビビビビビビビビ。

「ぐわぁぁぁぁぁ!!」

ビビビビビビビビビビビビビビビ。

「殺せっ!! ぼくを殺せーーっ!!!」

ビビビビビビビビビビビビビビビ。

「こんなことしても、絶対喋るもんかーーーーっ!!! 今すぐぼくを殺せーーっ!!」

ビビビビビビビビビビビビビビビ。

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっっっ!!!!!!」

兵士がスイッチを入れると同時に体に電流やパルスが走り抜け、シンジの意識は闇の彼
方へと沈んで行く。

「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっっっ!!!!!!」

                        :
                        :
                        :

「もう、およろしいかと・・・。」

「そうかい? じゃ、そろそろお話しを始めようか。」

カヲルは、シンジの前に配置された黄金の豪華な椅子に腰を降ろすと、ぽつりぽつりと
喋り始める。

「君の名前はなんだい?」

「・・・碇・・・シンジ・・・です。」

「年はいくつだったかな?」

「18歳・・・です。」

「君の父親の名前は、なんだい?」

「・・・碇・・・ゲンドウ・・・です。」

「君はその碇ゲンドウに呼ばれて、14歳の時に何処へ行ったんだったかな?」

「第3・・・新東京・・・市・・・です。」

                        :
                        :
                        :

<ゼーレ司令室>

カヲルは、眼下に集合した数百名の兵士達を前に号令を掛ける。

「初号機のコアは、ローマ! コロッセオの地下にあるっ! なんとしても奪取してくる
  んだ!」

その号令を聞いた兵士達は、ある者は戦闘機にある者は戦艦に乗り込み、一斉にローマ
へ向かって飛び立って行った。丁度それは、レイとアスカが再開した日のことであった。

                        ●

それから数日後、シンジは司令室に連れて来られた。

「気分はどうだい? シンジくん。」

「殺すなら、早く殺せっ!」

「前にも言ったと思うけど、まだ君には利用価値があるんでね。それより、君に見て貰
  いたいものがあるんだ。」

カヲルはそう言いながら兵士に合図をすると、後ろ手に手錠をされ押えつけさえられて
いるシンジの前に大きなスクリーンが広がった。

「君が親切に初号機のコアの位置を教えてくれたおかげで、ようやく完成したんだ。ど
  うだい素晴らしいと思わないかい?」

そのスクリーンに映し出された、完成した巨大なATフィールド発生装置を見て、シン
ジは愕然とした。

「今から、最初の実験を行おうと思ってね。最大の功労者であるシンジ君にも、立ち会
  って貰おうと思うんだ。」

「なっ、なにをする気だっ!!」

「ヨーロッパ全土を消滅させるには、最低10回の連続発射が必要なんだよ。だから、
  その前に、簡単な所から試してみるのさ。」

映像が切り替わり、次にスクリーンに映し出されたのはシンジの故郷である日本列島だ
った。

「なっ! ま、まさかっ!! やめろっ! やめてくれっ!」

「まぁそう言わずに、静かに見ていてくれよ。さぁ、ショーの始まりだ。」

「お願いだっ!! やめてくれっ!!」

カヲルは絶叫するシンジの前で、ニコリと微笑みながら兵士に声を掛ける。次の瞬間、
ATフィールド発生装置の発射スイッチが押され、ATフィールド発射装置が徐々に光
り輝いていく。

「うーーん、エネルギーを溜めるのに時間がかかるのが問題だね。シンジ君、待ちどう
  しいだろうが、しばらくこの綺麗な輝きを見て待っていてくれないかい?」

「・・・やめてくれ・・・お願いだから・・・うぅうぅうっ。」

それから幾分かの後、ATフィールド発生装置の周りがどんどん赤く光を増していく。
スクリーンに映し出された映像で見る限り、直径100キロメートル近くにもなるであ
ろう巨大なATフィールドが展開されていた。

「さぁ、クライマックスだよ。」

そして、ついにその巨大なATフィールドの固まりは日本に向けて発射され、日本列島
を縦一直線に抉り取っていく。

「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!!!!」

見る見るうちに、九州から北海道にかけて水面下に沈没していく日本列島がスクリーン
に映し出される。

「わぁぁぁぁぁぁぁっ!! わぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!!!!」

シンジは、涙を流して絶叫していた。今、自分が教えたコアの為に故郷も旧友も全てが
消滅していったのだ。

ビーーービーーービーーー。

その時、司令室にサイレンが鳴り響いた。

「どうしたんだい?」

「大変です。ATフィールド発生装置がオーバーヒートしました。」

「そうか・・・すぐに修理するんだ。それから、技術部長?」

「は・・・はい・・・。」

怯えながら、カヲルの前に現れる技術部長。

「これで、許してあげるよ。」

カヲルの微笑みの前で、真っ赤なATフィールドに包まれる技術部長。そのATフィー
ルドは、限り無く収縮していき血1滴流さず声1つ出せずに技術部長は無へ帰した。

「次の技術部長は君だ。即修理するんだよ。ハハハハハ。」

カヲルの任命を受けた、副技術部長・・・いや新技術部長は青ざめた顔を引きつらせな
がらカヲルに敬礼する。

「ハハハハハハハっ!」

カヲルが高笑いしながら司令室を出て行った後、泣き崩れるシンジは兵士達に独房へと
連行されて行く。





初号機のコアを手に入れたカヲルの眼前に燃え盛る世界征服の烈火は、最終段階を迎え
様としていた。

その銀色の炎の中に新たに燃え始めた青と赤の小さな小さな2つの灯火の光になど気付
かせないくらいに、銀色の烈火の勢いは全盛を極めていた。

To Be Continued.
作者"ターム"へのメール/小説の感想はこちら。
tarm@mail1.big.or.jp
inserted by FC2 system