------------------------------------------------------------------------------
The Last War
Episode 04 -パーティー前夜-
------------------------------------------------------------------------------

<アスカの家>

訓練を始めてから1週間が経過し、レイは最長でも30分前後という短時間ではあるが
ATフィールドを発生させることができるようになっていた。

「あんまりのんびりもしてられないから、そろそろシンジ救出に行くわよ。」

イーグルの整備や燃料補給から戻ってきたアスカが、ATフィールドの訓練をしていた
レイに声を掛ける。

「いよいよなのね。」

レイは映像で見た銀髪の少年に対抗するだけの自信はまだ無かったが、なんとしてもシ
ンジを救出して世界を守るんだという決意を新たにした。

「今から行くの?」

「その前に、アメリカやゼーレの情報収集に行くわ。」

「情報収集?」

「少し向こうの街に、傭兵やスパイが集まる酒場があるのよ。そこで情報を集めておい
  た方がいいわ。」

「酒場? わたし、まだ18だけど?」

「アンタバカぁ? そんなこと言ってる場合じゃないでしょ?」

「そうだけど・・・。」

「わかったら、さっさと行くわよ。」

「うん。」

アスカはジープにると、迫り来る森の木々を寸前でかわしながらミサト顔負けの暴走運
転で掛け抜けて行く。その間レイは、白い顔をただただ真っ青にしたまま無言であった。

<酒場>

酒場の入り口をくぐると、そこはいかにも札付きの悪という様な人相の男達がたむろっ
ていた。

「さって、どいつから当たろうかしらぁ?」

おくびれもなしにズカズカと酒場の奥へ奥へと入っていくアスカだったが、レイはアス
カの背中に身を半分隠し恐々付いて行く。

「ん? アイツ何かで見たことがある顔ねぇ。ちょっと当たって来るから、アンタはこ
  こで待ってなさい。」

「え? 1人で?」

「あったりまえでしょ。他に誰がいるのよ。」

「うん、そうだけど・・・。」

レイが椅子に座るのを確認したアスカは、いかつい男が座るテーブルへ向かって酒場の
奥へと消えて行った。

あぁ・・・どうしよう。

アスカがいなくなってからというもの、酒場の隅にある4人掛けテーブルにレイは不安
そうに小さくなってじっと座っている。

なんか、ここのお店恐い。
アスカ、早く帰ってきてくれないかしら。

あまり顔を上げない様にしながら、上目使いでちらちらとアスカの帰りを伺い続けるが、
目に入るのは周りで酒をかっくらう荒くればかりである。

「注文は?」

丁度その時、酒場のウエイターが注文を聞きに来た。ウエイターとは言っても、かなり
人相が悪いどこかからの流れ者と言った感じである。

「え・・・あの・・・。」

「こっちも忙しいんだから、さっさと言ってくれねーか?」

「わ、わたし・・・、あのぉ・・・お、お、お、おれんぢぢゅーす。」

「はぁ?」

ウエイターが聞き直してきたので、レイは何かまずいことでも言ったのかと思い、注文
を変えることにした。

「お、おれんぢぢゅーすが無かったら、いちごぢゅーすでもいいです・・・けど・・・?」

シーン。

ウェイターとそれまで盛り上がっていたレイの周りの客が沈黙する。

シーン。

「あ、あの・・・なにか?」

どうしたのかと、小首を傾げながらレイがウェイターを見た時、どっと周りから笑い声
が沸き起こった。

「「「「どわははははははははははははは!!!!」」」」

「オレンジジュースかっ! こりゃいいやっ!!」

「嬢ちゃん、オレンジジュースは良かったなぁ。ぎゃははははははは!!」

何が悪かったのかわからないレイだが、とにかく笑われてしまったので顔を真っ赤にし
て俯いてしまう。

「残念ながら、うちの店にはジュースは置いてないなぁ。」

ウェイターも笑いをこらえている様子である。

「え!? そ、そうなんですか? ごめんなさい・・・。」

そんなことくらいでどうして笑われるのかまだよくわからないが、下を向いてしょぼく
れてしまうレイ。

「で、注文はどうするね?」

「わたし・・・。その・・・お水でいいです・・・。」

「「「「どわはははははははははははは!!!!」」」」

再び沸き起こる大歓声。もうレイは何がなんだかわからなくなってしまい、ただただ顔
を赤しておろおろする。

「嬢ちゃん、ここへ何しにきたんだぁ? わははははは!!」

「水を飲みに来たようだぜっ! こりゃ、タダでいいやなっ! わはははははっ!!」

そんな大歓声の中、1人のいかつい男がレイの横に近寄って来た。

「よぉ! 嬢ちゃん! 俺のおごりだ、なんか酒頼めや。」

また、別の男もレイの席に寄って来て対面に座った。

「おうっ! 俺も嬢ちゃんの酒に付き合ってやるぜっ! ケケケケケ。」

「あの・・・。わ、わたし・・・お酒飲んだことないからいいです・・・。」

「それなら、これから酒の飲み方を教えてやろうじゃねぇか。なぁ。」

「い、いいです・・・本当に。わたし、本当にお酒なんて飲んだこと無いから・・・。」

「最初は誰も飲んだことねーんだよ。今晩一晩かけてゆっくり教えてやっからよぉ。」

「でも、友達を待ってるから・・・。」

「そんな野郎ほっときなって。さぁ、行こうぜ。」

そう言いながら、横に座っていた男がレイの手を持って立ち上がろうとする。それと同
時に対面に座っていた男も立ち上がった。

「アンタ達邪魔よっ! どきなさいっ!」

そこへやってきたのは、情報収集が終わったアスカだった。レイはアスカの顔を見ると、
天と助けとばかりに背中の後ろに逃げ込む。

「おぉこりゃまた、べっぴんな姉ーちゃんじゃねーか。嬢ちゃんの友達って、こんなべ
  っぴんな姉ちゃんだったのかい。」

「そんな強引な誘い方してたらもてないわよ。」

「俺達は強引だってさ。ぎゃははははは。」

「それじゃ、やさしーく誘うから、姉ーちゃん付き合ってくれるか?」

「アンタ達の戯言に付き合ってる時間なんか無いわ。」

アスカはレイを連れて出て行こうとしたが、男は懐から銃を取り出しアスカの腹部に押
し当てると、無理矢理座らせた。

「おっと、人の誘いをそんなに無碍にしちゃーいけねーな。」

「本当に強引ね。」

仕方なく呆れ顔で席についたアスカに、男は自分が飲んでいたビアジョッキを差し出し
た。レイはアスカの背中に隠れながら、そんな様子を肝を冷やしながら見ている。

「そう言わずに酒でも飲めや。」

「悪いけど、ゲテモノは飲まないの。」

「なんだとてめーーっ!!」

「臭い口を近付けんじゃないわよっ!」

「このアマっ!」

アスカの物言いと人を見下した様な態度に頭にきた男は、トリガーに手をかけてアスカ
の頭に銃を押し付ける。

「俺に逆らって今まで生きて帰った奴はいねーんだ! 素直に言うことを聞きなっ!」

「アンタ達・・・。」

銃を押しつけられたまま、アスカはジロリと男達を睨みつける。

「アタシに睨まれた奴で、生きてお日様を見れたのは1人しかいないのよ?」

その1人とは、その昔平手をくらい続けながらも毎朝アスカより先にお日様を見て、せ
っせと弁当を作っていた碇シンジその人だ。

「なんだと! 調子に乗んじゃねぇっ!」

「その言葉! あの世で後悔するのねっ!」

ズガーーーンッ! ズガガガガガガガガッ!

次の瞬間アスカは、テーブルの下にいつのまにか用意していた小型マシンガンを、前に
座る男達に向かって乱射した。

「ア、アスカ・・・。」

突然の銃声に酒場の客が一斉にアスカ達の方へ振り向く。レイはどぎまぎしながら辺り
を見渡すが、すぐに皆関わり合いになるまいと酒を飲むことに集中し始めた。

「ウェイターっ! ちょっといらっしゃい。」

「は、はい。」

「後宜しく。」

アスカはかなり多めのチップを握らせると、店員はおじきをして後片付けをはじめた。
レイは先程のことがよほどショックだったのか、少し落ちこんだ様子である。

「アンタどうして、ATフィールド使わなかったの?」

「何も殺さなくても・・・。」

「アンタもシンジを救出しようなんて考えてるんなら、そんなこと言ってたら死ぬわよ。」

「・・・・・・・・・。」

「甘いこと考えてるんだったら、アタシは降りるわよ。死にたくないもの。」

「わかってる・・・。」

「本当にわかってるの?」

「ええ・・・。」

「そう、ならいいわ。」

レイはなんとなく釈然とはしなかったが、シンジを助けて世界を救うんだという一念か
ら、自分の甘さを捨て様と努力するのだった。

<アスカの家>

翌朝、家で寝ていたアスカは玄関付近の物音に気付き目を覚ます。

まずいっ!!!

アスカは咄嗟に跳ね起き昨日用意しておいた服を身に纏うと、手近にあったレーザーガ
ンとバッテリーパックをポケットに詰め込みレイの部屋へと走った。

ガチャッ。

「レイッ起きなさいっ!」

「むにゃ・・・。もう少し・・・。」

「起きろっつてるだろうがっ!!」

ガスンっ!

「いったーーーーーっ!」

気持ち良く寝ていたレイだったが、突然レーザーガンで殴られ両手で頭を押さえながら
目を覚ました。

「目は覚めた?」

「うぅぅぅぅ・・・もうちょっと優しく起こしてよぉ。いたたたた。」

「それどころじゃないわっ! 今直ぐ出発するわよっ! 急いでっ!」

「えっ!? ちょっと待って、着替えるから。」

「そんな場合じゃ無いって言ってるでしょっ! さっさとしなさいっ!」

自分はしっかりと着替えたアスカだったが、レイに与える着替えの時間は無いらしく、
パジャマのまま連れ出して行く。

「敵がもうすぐ来るわっ。裏口から逃げるわよっ!」

「えーーーっ!」

「シッ!」

アスカは真っ白なだぶだぶのパジャマを来たレイの手を引きながら、裏の抜け道へと向
かって走り出す。その時、玄関付近でドンッという爆発音がした。

「来たわねっ。昨日の酒場にいた奴らの中に、ゼーレの回し者がいたんだわっ。」

2人は裏口の細長い通路を駆け抜ける。ゼーレの兵士は、突然どこかへ消えたアスカ達
を探すのに手間取っている様だ。

「これを登るのよ。」

「わかったわ。」

アスカ達が辿り着いたのは、森の中の井戸の底だった。そこに垂らされている1本の縄
を伝って登っていく。

「レイっ。外に顔を出す前に、目だけ出して外の様子を見て頂戴。」

「ええ。」

縄を登って、井戸の上まで辿り着いたレイが頭半分出して外の様子を見ると、丁度アス
カのイーグルの格納庫の横に出ていた。

「格納庫に3人くらいの兵士が見張っているわ。」

「でしょうね。気付かれないように、出れそう?」

「ええ、あっち向いてるから大丈夫。」

「それじゃ、音をたてないように出るのよっ。」

「うん、やってみる。」

見張りの兵士達に気付かれないようにそっと井戸から抜け出し、森の茂みに隠れて格納
庫を観察する。

「裏に見張りはいないようね。問題は中に何人いるかってとこね。」

「どうするの?」

「裏から回って、格納庫へ入りましょ。」

2人はできるだけ物音がしないように気を使い月明かりを避けながら、ゆっくりと格納
庫の裏へと回り込んだ。

「ちっ! 中にもいるじゃない・・・。」

アスカが格納庫の裏から中を覗き込むと、3人のマシンガンを持った兵士がイーグルの
周りをうろついている。

「わたしが囮になるわ。」

「え?」

「ATフィールド、試してみる。」

「わかったわ。イーグルを奪ったら援護するから、それまで持ちこたえるのよ。」

「ええ。」

走り出す体勢を取りながらレイがアスカにウインクすると、アスカもにこりと微笑んで
ウインクを返してきた。

「へいたいさーーーん! こっちよーーーっ!」

格納庫の中に踊り出たレイは、兵士に手を振りながら格納庫の入り口に向かって走って
行く。

「な、なんだ?」

いきなりレイが現れたのでゼーレの兵士は目を丸くしてその様子を見ていたが、その少
女がターゲットのレイであることに気がつき追いかけ始める。

「いたぞーーーーーっ!!!」

ズガガガガガガガガガガガガっ!!

「きゃーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

マシンガンの銃弾が四方八方から飛んでくる。レイは両手を思いっきり振って、格納庫
の入り口向かって逃げ出した。

「いいわよレイっ! なかなか役に立つじゃない。」

レイを追い掛けて格納庫から兵士がいなくなったので、アスカは悠々とイーグルへと乗
り込んだ。

ピキーンっ! ピキーンっ!

先程から飛んでくる銃弾をATフィールドで弾き返しながら、格納庫の前の滑走路を右
へ左へ逃げ惑うレイ。

ズガガガガガガガガガガガガっ!!

「ひーーーーーーーっ! アスカぁ早く助けてぇぇぇぇぇ!!!」

まだATフィールドを張ることは初心者のレイなので、一瞬でも気を抜けば蜂の巣であ
る。泣きそうになりながら、ただひたすら滑走路を逃げ惑う。

「レイっ! 今援護するわよっ!!」

アスカがイーグルを格納庫から出すと、四方八方から銃弾を浴びて逃げ惑うレイの姿が
あった。アスカはあわてて援護射撃を開始する。

「あっ! しまった・・・。」

ズドーーーーーーーーーン!!! ズババババババババババババ!!!

「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

次の瞬間、兵士と追い掛けっこをしていたレイは強烈な熱風と衝撃を受け、ATフィー
ルドごと弾き飛ばされる。

「いったーーーーーーーっ!!! な、なに!!???」

滑走路の端で頭を押さえながら立ちあがると、辺りは一面火の海だった。ふと顔を上げ
ると、目の前にイーグルが滑走してくる。

「さっ! 乗りなさいっ!」

コックピットから手を出してレイを引き上げるアスカ。

「こ、これは。何が起こったの?」

「へへへ・・・間違えてナパームぶっぱなしちゃったわ・・・ははははは。明日の新聞
  は山火事で持ちきりね。」

「ナ、ナパーム・・・。」

ジト目でアスカを睨みつけるレイ。

「わたしを殺す気だったのね・・・。」

「やーねー。違うわよぉ〜。レイが大変そうだったから、助けてあげたんだってば。」

「大変なことになったのは、アスカが援護してくれた後よっ!」

「結果はうまくいったんだから、よしってことにしましょ。たはははは。」

「・・・・・・・・・もぅ!」

「まぁまぁ、そう怒らないでよぉ。」

ぷぅと膨れるレイをなだめながら、アスカは火の海の化したドイツの森を飛び立った。
行く先はアメリカのゼーレ本部。

「レイ・・・。」

「なによっ!」

レイはまだ膨れっ面のままアスカを睨みつけたが、先程までと違う真剣な表情をするア
スカを見て口を閉ざす。

「いよいよ、アメリカへ乗り込むのよ。」

「ええ。」

「ここから先は今まで程甘くは無くなるわ。」

「わかってる・・・つもり。」

「レイ・・・。」

「何?」

「悔いの無いパーティーにしましょうね。」

にこりと微笑みかける朝日に照らされたアスカの顔を見たレイは、必ず生きて3人で戻
ってくるんだと決意しながら笑顔を返した。

朝日の中2人を乗せたイーグルは、アメリカ大陸へ向かって飛び去って行く。今まさに
ゼーレとの決戦の火蓋が切って落とされようとしていた。

To Be Continued.
作者"ターム"へのメール/小説の感想はこちら。
tarm@mail1.big.or.jp
inserted by FC2 system