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The Last War
Episode 06 - 2人の瞳 -
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<通路>

3人は通路の角がある度に曲がり、銃弾を浴びない様に追いかけて来る兵士達から逃げ
惑っていた。

「もぅっ! アンタに関わってから、禄なことが無いわよっ!!」

アスカは文句をたれながらも、とにかく必死で逃げて行く。そして、1つの角を曲がっ
た時、壁に扉があるのを見つけた。

「あそこに入るわよっ!!」

ここで兵士をやり過ごそうと、アスカはその扉を開けるやいなや一目散に中へ飛び込ん
だ。その後に、シンジとレイも続く。

「いやぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!」

「わーーーーーーっ!」

「キャーーーーーっ!」

そこは予想していた部屋ではなく、大きな縦穴の通気ダクトであった。アスカは、わず
かな引っ掛かりに手を掛けてしがみついたが、勢い余ったシンジとレイは落下して行く。

ガシッ!

アスカの足に抱きつくシンジ。

がばっ!

シンジの足に抱きつくレイ。

その上の閉まった扉の向こうを、まさか通気ダクトへ飛び降り自殺したとは思わない兵
士達は、3人のチルドレンに気付かず通過して行った。

「アスカっ! 離しちゃだめだよっ!」

「ウッサイわねっ! アタシは離さないわよっ! アンタが離しなさいよっ!」

「離したら、落ちちゃうじゃないかっ!」

「碇くんっ! 離したら駄目っ!」

「このままじゃ、アタシまで落ちゃうわよっ!」

ゲシッゲシッ。

シンジの頭を踏みつけるアスカ。

「わぁ、何するんだよっ!」

離してたまるものかと、アスカの足にしがみつくシンジだが、だんだんとずり落ちて行
く。それと同時に、アスカのズボンもだんだんとずり落ちて行く。

「ちょ、ちょっと! 離しなさいって言ってるでしょっ!!」

ゲシッゲシッ。

「や、やめてよっ! 落ちちゃうよっ!」

シンジがずり落ちるに従って、アスカの黒いパンツがあらわになってくる。

「えっちっ! 痴漢っ! 変態っ! 信じらんなーーいっ!」

ゲシッゲシッ。

「アスカぁぁぁぁっ! やめてってばぁっ!!」

アスカに蹴られてたシンジが、更にずり落ちると、ズボンと一緒に引きづられて脱げ始
めるアスカのパンツ。アスカのお尻が、半分顔を出す。

「イヤぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

とうとう我慢できなくなったアスカは、思わず下着に手を掛けてパンツを引き上げた。

「ア、アスカっ!」

「へっ!」

「わーーーーーーっ!!」

「いやーーーーーーーーーっ!」

「キャーーーーっ!」

手を離してしまったことに気付いたアスカは、慌てて手を伸ばすが手遅れである。3人
のチルドレンは、通気ダクトを落下し始める。

ガシッ。

なんとか、シンジはその下にあった横穴のダクトに手を掛けることに成功した。

ガシッ。

シンジの足に抱きつくアスカ。

がばっ!

アスカの足に抱きつくレイ。

「さっきは、頭を蹴られて痛かったよ? アスカ?」

立場が逆転したシンジは、ニヤリとアスカに微笑み掛ける。

「さ、さっきのは冗談よ。ははは、やーねー本気にしちゃって・・・。」

「何が冗談だよ。危うく、死ぬところだったよ。」

「碇くんっ! わたしまで道連れになるから、変なことしないでっ!」

「バカねぇ、アタシがアンタを本気で落とすわけないじゃない。ほほほほほぉー。」

「はぁ・・・。まぁそういうことにしとこうか?」

シンジは渾身の力を振り絞って、ぶらさがる2つのアンカを吊り上げながら、横穴へと
入って行った。

「はぁはぁはぁ。酷い目に合ったわ。」

ようやく横穴に這い上がって一息ついたアスカは、はぁはぁと息をしながらレイを見て
ぶうたれる。

「昔は白かピンクばっかりだったのに、黒とはねぇ。成長したんだね。」

「ちょっとっ! アンタっ!」

「怒らないでよ。あの場合仕方なかったじゃないかっ!」

「さっきのは、不可抗力だからいいわよっ! でも、どうして昔のアタシの下着の色を
  知ってるのよっ!」

「え・・・。」

自分の失言に気付き、タラーリと冷や汗を流すシンジ。

「そ、それは、ほら、あ、あの頃は、そのぉ、洗濯、そう、ぼくが洗濯してたから。」

「下着だけは、自分で洗ってましたーーーっ!!」

「うぅ・・・。」

「まったくぅ。」

腕を組んで、シンジを睨み付けるアスカ。

「アンタみたいなのと一緒に暮らしてたのに、よく襲われなかったもんだわっ!」

「ははははは・・・。あの頃は、ミサトさんのマンションで・・・。」

もう・・・あのマンションも・・・。何もかもが・・・。

シンジは、日本が沈没したことを思いだし、遠い目で昔を眺める。

「どうしたのよ?」

「なんでもないよ。ただ、ミサトさんが懐かしいなぁと思って。」

「ミサトかぁ。今ミサトと話ができたら、きっと・・・。」

アスカも空の彼方を見るような目で、今は亡きミサトを思い返した。自分が傭兵という
道に進んだのは、ミサトの後を追い掛けていたのかもしれないと、今になって思う。

「結構、ぼく達知らない所で迷惑掛けてたね。」

「なにも、わかってなかったから・・・。」

「・・・もう一度だけ・・・会えたら・・・。」

「そうね・・・。」

そんな2人の会話に、レイは口を挟むことができずじっと無言で見つめていた。ただ、
1つだけわかったことは、2人が失った人の存在の大きさだった。

「さぁ、シンジにレイっ! アタシ達はそうたやすく死ぬわけにはいかないわっ! 行く
  わよっ!」

「そうだね。それが、ぼく達が生き残った意味なんだっ!」

3人は、横穴を這いながら再び行動を開始した。

<ゼーレ司令室>

その頃司令室で、カヲルはシンジ脱走の報告を受けていた。

「碇シンジが、ネオネルフの侵入者と共に脱走を企てました。」

「それは困ったね。まだ彼には利用価値があったんだよ。」

「ただ今、全力で探索いたしております。」

「くれぐれも、まだ殺すんじゃないよ。」

「ハッ!」

「ん? この感じは・・・。」

その時、何かを感じ取ったカヲルは、その目を遠くに向けてニヤリと笑った。そして、
ぽつりと呟く。

そうか・・・。ついに彼女が動いたのか・・・。

「どうなされましたか?」

「ぼくも探しに行くとするよ。シンジ君とその愉快な仲間達をね。」

「何もカヲル様までが・・・。」

「君達では、役不足だよ。ハハハハハハ。」

カヲルはマントを翻し、高笑いを響かせながら司令室を出て行く。そんなカヲルの後を、
兵士達は付いて行った。

<戦闘機格納庫>

横穴を抜けたシンジ達は、ダクトから抜け出し気付かれない様に格納庫手前の物置の影
に隠れていた。

「どれでもいいから、1機奪い取って逃げるしかないわね。」

「こんなに厳重な警備の中、どうやって戦闘機を奪うんだよ。」

「アンタっ! そんなこともわからないの?」

「さすがアスカだ。何か、いい案があるの?」

「決まってるでしょっ!」

「え?」

「強行突破あるのみよっ!」

「げぇぇぇぇぇ。」

敵は数十名。こちらの武器は、アスカの持つレーザーガン1つのみ。これで、特攻を仕
掛けたら、誰が考えても間違い無く蜂の巣だ。

「そんなむちゃ・・・・・・・・・行っちゃったよ・・・。」

「うりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

やむを得ず、アスカの後に続いて走り出るシンジとレイ。

ビシューン! ビシューン! ビシューン!

ズガガガガガガガガ。

アスカが数発レーザーを発射すると、その100倍返しで敵の銃弾が返って来る。

「ひーーーーーーっ!!」

いくらなんでも生きた心地がしなかったアスカは、少し前にあった物陰に飛び込んで身
を隠した。当然後ろに続いていた2人も、そこへ飛び込む。

「こんなのっ! どうしろってのよっ!!!」

「だからっ! 言ったじゃないかっ! はぁぁぁ、綾波もアスカもどうしてこんなんなん
  だ・・・。」

敵の兵を連れてくるレイに、猪の様な突撃をかますアスカ。2人に期待していた自分が
情けなくなってくる。その前で、アスカはレーザーガン片手に必死で応戦していた。

「アスカっ! わたしがATフィールドでっ!!」

「アンタバカぁ? ここで使ったら後がもたないでしょうがっ!」

「でもっ! ここを突破したら、脱出できるんでしょっ!」

「そんなに甘かったら苦労しないのっ!! アンタはっ! しばらくじっとしてなさいっ!
  最後の切り札なんだからっ!」

「アスカ・・・。」

銃弾で吹き飛ぶ鉄の破片に手を傷つけながらも、自分を気遣って必死でかばってくれる
アスカを、レイは感動して見つめていた。

「うりゃうりゃうりゃーーーーーーっ!!!」

再び特攻を仕掛けるアスカ。しかし、2人程敵兵士を倒した所で四方八方から銃弾が飛
んでくる。

「キャーーーーッ! レイっ! ATフィールドっ! ATフィールドぉぉぉっ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

一目散に逃げながら、レイに助けを請うアスカ。レイは先程の感動はなんだったのかと、
半分呆れながらも、ATフィールドを展開した。

ドッカーーーーーーーンっ!!!

次の瞬間、迫って来ていた全兵士は一斉に吹き飛ぶ。

「どう? アタシが敵を一カ所に誘き寄せてたから、アンタもATフィールドの展開が
  一瞬だけで良かったでしょ。」

先程の情けない逃げっぷりとは裏腹に、胸を張って自慢するアスカ。

「はぁ・・・。そうね・・・。はぁ・・・。」

「なによっ! その目はっ!」

「別に・・・。」

「シンジっ。アンタの武器奪ってきたわっ! 今がチャンスよっ。一気に滑り込むわっ!」

兵士から奪ったマシンガンをシンジに手渡して、物陰から飛び出そうとした時、格納庫
の隅で拍手の音が聞えた。

パチパチパチ。

「さすがは、綾波レイ。見事な、ATフィールドだったよ。好意に値するね。」

「ア、アイツは・・・。」

「でも、残念ながら、君達をここから逃がすわけにはいかないよ?」

ゆっくりと歩いてくるカヲルの姿を見たアスカ、そしてシンジの顔が青ざめる。マシン
ガンを何千用意しようとも彼には通用しないのだ。

「レイ・・・。」

「うん。」

「アンタの出番よ。アタシ達が飛行機を奪取するまで、アイツを食い止めてて。」

「わかってる。」

「じゃ・・・、飛行機は任せて、アンタは戦いに集中してね。」

「うん。」

「死ぬんじゃないわよっ!」

ちゅっ。

アスカは、レイの頬に軽くキスをするとシンジと共に走り出した。

「シンジっ! レイのATフィールドには限界があるわっ! 30分以内に、戦闘機を奪
  取するのよっ!」

「わかったっ!!」

2人が去った後、レイは真剣な目をしてその場を立ち上がり、カヲルの側へゆっくりと、
ゆっくりと歩いて近寄って行く。

「どうだい? 同じリリスの化身として手を組まないかい?」

「断るわ。」

「そうかい。残念だよ。綾波レイ。」

数メートルの距離を置いて対峙するカヲルとレイの間に、真っ赤な光が展開される。A
Tフィールド同士の戦いは一見静かであるが、その裏では強靭な精神力を必要とする。

なんて、強いATフィールドなの・・・。

必死でATフィールドを展開しカヲルに対抗するが、ぶつかり合うATフィールドの接
点がジリジリと押されてくる。

「くっ・・・。」

レイは苦痛に顔を歪めながら、持てる力を限界まで振り絞って、ATフィールドを展開
する。しかし、そんなレイに対して、カヲルは薄ら笑みすら浮かべている。

「どうしたんだい? 昔の綾波レイの力は、こんな物じゃなかったよ?」

ジリジリと後ろに押されながらも、レイは歯を食い縛ってカヲルのATフィールドに抵
抗し続けた。

「まずいっ! レイがもたないっ!!」

乗り込もうとしている戦闘機の周りに群がる兵士達。なんとか、数を減らそうとレーザ
ーガンを撃ち続けるが、敵も物陰に隠れているので互いに進展がない。

「シンジっ! アタシが合図したら、向こうに見える戦闘機まで走るのよっ!」

今乗ろうとしていた戦闘機の更に奥にある戦闘機を指さす。

「えっ! あれは遠いよっ! 辿り着くまでに蜂の巣だよっ!」

「いいから、言う通りにしなさい! 助かりたくないの?」

「わかったっ! アスカ、信じるよっ!」

「まっかせなさいっ! せーーーのっ! GO!!」

掛け声と共に走り出すシンジとアスカ。そこに敵兵はマシンガンを浴びせようとするが、
その瞬間アスカのレーザーガンが目の前の戦闘機の燃料タンクに命中した。

ドッッガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!

兵士達もろとも戦闘機は吹き飛び、辺り一面火の海となる。そんな炎の中を、向こうに見
える戦闘機目指して走る。

「ATフィールドが・・・もぅ・・・耐えきれない・・・。」

レイはカヲルに圧倒されていた。通常なら30分前後展開できるはずであったが、力の
差がありすぎる為、既に限界にきている。

「さぁ、どうするつもりだい? くくくくく。」

カヲルは容赦無く、1歩1歩近づきながら、レイのATフィールドを浸食していく。

「くぅぅぅぅぅ・・・。もうダメ・・・。」

グイーーーーーーーン。

そこへ、アスカの操縦するゼーレの戦闘機が滑走してきた。

「綾波っ! 捕まってっ!!!」

コックピットから体を乗り出して、手を差し伸べるシンジ。

「碇くんっ!」

「レイっ! 離陸するまでATフィールド全開っ! 敵の迎撃ミサイル及びカヲルのAT
  フィールドを遮断っ! 急いでっ!!」

「わかったっ! ATフィールド全開っ!!!」

レイの救出を見届けたアスカは、ミサトばりの指示を飛ばすとエンジン全開で一気に離
陸を開始した。

「くぅぅぅぅぅぅぅぅっっ!!」

カヲルとの戦闘で限界まで疲労していたレイだったが、最後の力を振り絞ってATフィ
ールドを全開にする。しかし、もう力が出ない。

「駄目・・・もう消える・・・。」

敵の迎撃ミサイルを数発遮断した所で、だんだん薄れて行くレイのATフィールド。そ
の後ろから、更なる迎撃ミサイルと、カヲルの強大なATフィールドが迫ってきた。

「レイっ! がんばってっ!」

「綾波っ! 後少しだっ!」

「くぅぅぅ・・・ごめん・・・もう・・・。」

ATフィールドは、もう肉眼では確認できない程薄くなっている。そんな様子をカヲル
はニヤリと笑みを浮かべてせせら笑っていた。

「ここまでだね。まだ利用価値はあったけど、死んでもらうよ。」

カヲルは、ここぞとばかりにATフィールドを全開にする。

「なっ!」

しかし、次の瞬間、カヲルの顔が青ざめる。






レイ・・・。

誰?

4人目のレイ・・・。

誰なの?






レイのATフィールドが、再び赤く・・・いや真紅に染まっていく。カヲルのATフィ
ールドは完全に中和され、迎撃ミサイルは見るも無残に破壊される。






がんばりなさい。レイ。

あなた・・・。いえ、あなた達は誰なの・・・。

まだ、あなたにはやるべきことがあるわ。

あなた達は・・・いったい・・・。






グイーーーーーーンっ!!

アメリカ大陸を離陸していく戦闘機。そして、大西洋へと飛び立ち、安全圏に差し掛か
った頃、レイは疲れきって眠りに落ちていた。



2人の優しい瞳を感じながら・・・。

To Be Continued.
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