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マイ ライフ
Episode 02 -チルドレンという責任-
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<ネルフ本部>

アスカがチルドレンとなって数日が経過したある日、チルドレン達がハーモニクステス
トを行っていると、ネルフ本部に警報が鳴り響いた。

『使徒接近中。シャムシエル4体,イスラフェル2体確認。』

オペレーターより通信が入ると同時にリツコはテスト中止し、ミサトの指示によりチル
ドレンは戦闘態勢を取る。

「今回は、使徒6体。例の2人が不在だから、相田くんが本部防衛。その他全員で出撃。」

「アタシはどうすればいいの?」

「あぁ、アスカ? まだ、アスカのエヴァが用意されてないから、本部で皆の戦いを見
  ていて。」

「えーーー。アタシも出たいーー。」

「そのうち、嫌でも戦うことになるわよ。」

「ぶー。」

「それじゃ、皆、出撃してっ!」

「「「「はいっ!」」」」

レイを始めとして、マナ,ヒカリ,トウジは、零号機及び量産型エヴァのケージへと向
かった。

<零号機ケージ>

プラグスーツを身に纏ったレイは、零号機のエントリープラグへ搭乗しようと準備して
いた。

「あのぉ、レイさん?」

そこへ、訓練生用の少し灰色がかった白いプラグスーツに身を包んだアスカが、忍び足
で寄ってくる。

「何?」

「アタシも一緒に乗せてくれませんか?」

「そんな命令は受けて無いわ。」

「お願いしますっ! 本物のエヴァに乗ってみたいんです。」

「・・・・・・。」

今まで人に頼られたり慕われたことの無かったレイは、アスカの申し出を無碍に断るこ
とができなかった。

使徒は6体・・・。
アスカを乗せて多少シンクロ率が落ちても、まだ余裕はある。

「わかったわ。」

「えっ!? ありがとうございますっ!」

レイは、アスカと共にエントリープラグへと入り、シンクロを開始した。予想した通り
アスカのノイズが混じる為、シンクロ率が30%前後まで下がる。

「これが、本物のエヴァの中なんですねっ!」

「そうね。」

「アタシも早く、自分のエヴァが欲しいなぁ。」

「出撃するわ。」

「はいっ!」

他のエヴァの先頭を切ってケージから出撃される零号機。地上へ射出されるGが、アス
カの体を襲う。

いよいよ戦闘なのねっ。
うわーーっ。なんだか、わくわくするわ。

始めてのエヴァへの搭乗,始めての戦闘に、アスカは興奮していた。

<地上>

レイを中心に、3体のエヴァは三角に陣を張って使徒を迎え撃とうとしていた。レイの
指示により、使徒に攻撃を仕掛けて行くマナ,ヒカリ,トウジ。

「鈴原君、もっと前へ出てっ!」

『わかっとるわいっ! いちいち指図せんでええっ!』

「ならいいわ。」

「なんなのよっ! せっかくレイさんが指示出してるのにっ、あの態度っ!」

「いいのよ。」

レイさんが、そう言うならいいけど。
なんか、ムカつくわねぇ。あの鈴原って奴っ!

使徒は、シャムシエル4体から先に攻撃を仕掛けてきた。イスラフェルは、少し後方で
対峙している。

「イスラフェルが、今出てきたらまずいわ。」

強敵であるイスラフェルが動く前に、シャムシエルを少なくとも2体は殲滅しなければ
苦戦を強いられる。

「アスカ、掴まってて。」

「はいっ!」

パレットガンを置きプログナイフを持つと、レイは自分の前に現れたシャムシエルに近
接戦闘を仕掛けた。

「霧島さんっ! 洞木さんっ! 他のシャムシエルが近づかない様に援護をっ!」

「まかせてっ!」

「わかりましたっ!」

他のエヴァに指示を飛ばし、1対1の状態にして一気に勝負を掛けるレイ。中和してい
くATフィールドが、眼前で真っ赤に輝く。

すごいっ!
これが、本当の戦闘なのねっ!

通信で指示を飛ばしつつ、圧倒的な力で使徒に立ち向かって行くレイを、アスカは目を
輝かせながら見ていた。

<ネルフ本部>

その頃ネルフ本部には、松代から2人のチルドレンが戻って来ていた。

「ただいま、ミサトさん。」

「今、帰ったよ。戦闘しているようだね。」

「お帰りなさい。シンジくん。カヲルくん。」

「なんだか、レイの動きがおかしくないかい?」

「どうも、アスカっていう新しいチルドレンを乗せて出撃したみたいなのよねぇ。」

「大丈夫なんですか?」

「ま、アスカも実践を体験しておくのもいいかなって、ほっておいたけどねぇ。それよ
  り新型エヴァはどうだった?」

「初号機は、良かったです。」

「四号機、好意に値する機体だね。」

「そう。それは良かったわ。早速で悪いんだけど、いつもの様に二子山で待機しておい
  てくれないかしら?」

「はい。」

「出撃だね。わかったよ。」

シンジとカヲルは、基本的に使徒戦には参加しない。こちらの切り札のデータを他国に
知られたく無い為と、いざという時に使徒ではなく他国からの防衛が必要な為だ。

<地上>

シンジとカヲルが二子山にエヴァを出撃させた頃、地上戦ではシャムシエルを3体撃破
していた。

「とうとう動いたわね。」

その時期になって、ようやく動き出すイスラフェル。だが既に敵は3体となり、攻撃に
も余裕が出てきた。

「アスカ?」

「はい?」

「シンクロしてみる?」

「え・・・でも。」

「問題無いわ。」

「やってみます。」

「私がシンクロを止めると同時に、シンクロして。」

「はいっ!」

ドクドクドク。

アスカの鼓動が早くなる。始めてのエヴァとのシンクロ,始めての実戦に、緊張と興奮
が吹き上げてくる。

「アスカ、いいわよ。」

「シンクロ、スタート。」

アスカがシンクロを開始すると、レイのノイズが混じるのとコアがアスカ用で無い為、
15%前後のシンクロ率をキープした。

「霧島さんと、動きを合わせてイスラフェルのコアを狙うのよ。」

「はいっ!」

「プログナイフを持って接近。」

「はいっ!」

アスカはレイに言われた通り、マナと呼吸を合わせてイスラフェルに近づいて行く。敵
が攻撃を仕掛けてくるが、それをATフィールドでかわす。

「今よ。ATフィールドを中和して、コアを破壊。」

「はいっ!」

「霧島さんっ! タイミングを合わせてっ!」

「わかったわっ。」

ズドーーーーーーーーーンっ!

1体目のイスラフェル撃破。

<ネルフ本部>

ネルフ本部の司令室は騒然としていた。初陣のアスカが、レイの代わりにシンクロして
いきなり使徒を撃破したのだ。しかも、敵はイスラフェルである。

「あの娘、本当に天才かもね。」

リツコが驚いた表情で戦況を見ている。

「レイ・・・何考えてるのよ。今までこんな勝手なことはしなかったのに・・・。」

リツコの表情とは裏腹に、ミサトは苦虫を噛み潰す様な顔で戦況を見ていた。

<二子山>

「まずいよ。シンジ君。」

「うん・・・まだ、いるね。」

「どうするんだい?」

「綾波なら大丈夫だよ。」

「でも、今シンクロしているのは、惣流さんっていう新しいチルドレンだよ。」

「え・・・。」

「どうするつもりだろうね。レイは。」

<地上>

イスラフェルの爆炎の中、アスカは初の戦勝の感動に打ちひしがれていた。

「勝ったわっ! やっつけたわっ!」

「よくやったわ。」

「レイさんっ! アタシがやったわっ!」

「鈴原君と、洞木さんが残り一機のイスラフェルと交戦しているから、シャムシエルに
  向かって。」

「はいっ!」

アスカは、マナと共にシャムシエルへとエヴァを動かそうとした。

「はっ!」

その時、レイが悲痛な叫びを上げる。

「アスカっ! シンクロを私に戻してっ!」

「どうしてですか?」

「敵がまだいるわっ!」

ズドーーーーーーーンっ!!

その瞬間、地中から一斉に現れるゼルエル3体。マナとアスカが取り囲まれる形になる。
いくらアスカといえども、敵がゼルエルでは相手が悪い。

「キャーーーーーーーーッ!」

ゼルエルが次から次へとエヴァに襲いかかってくる。

「アスカっ! シンクロ切ってっ!」

「キャーーーーーーーーッ!」

しかし、あまりの恐怖に興奮状態に陥ってしまったアスカは、感情が高ぶりシンクロを
カットすることができない。

「くっ! エヴァが重い・・・。」

アスカのノイズが入り混じり、レイはまともにシンクロできずに戦闘していた。司令塔
のレイが動けなくなり、総崩れになる4体のエヴァ。

「綾波さんっ!」

マナがレイの援護に向かおうとするが、行く手をゼルエルが立ち塞がり、背後からはシ
ャムシエルが攻撃してくる。

「きゃーーーーーっ!」

シャムシエルの体当たりに、飛ばされるマナの量産型エヴァ。

「鈴原っ! 援護に行くわよっ!」

「しるかいっ! あの女が勝手なことするさかい、こないなことになったんやろがっ!」

「こんな時に、何言ってるのよっ! さっさと来な・・・きゃーーーーっ!」

「ヒカリっ!」

援護に向かおうとした、ヒカリも2体に分裂したイスラフェルに攻撃される。

<二子山>

「総崩れじゃないか。どうするんだい? シンジ君。」

「綾波・・・なにやってんだよ。」

「レイは、ちょっと慢心してたね。」

「援護に行くよ。」

「僕が行ってもいいよ。」

「初号機の力も試してみたいしね。」

「そうかい? じゃ、ここで僕は見物させて貰うよ。とは言っても、短い上映時間だろ
  うけどね。」

「ははは・・・。じゃ、全滅しないうちに行ってくるよ。」

<地上>

レイは、自分を取り囲む3体のゼルエルの攻撃から、必死で零号機を交わしていた。し
かし、アスカのノイズが邪魔して思う様に動けない。

「くっ!」

次から次へと襲いかかってくる、白い平面の布。

「キャーーーーーーーーーッ!」

アスカは、あまりの恐怖に何もわからなくなっていた。

「はっ! まずいっ!」

ガスッ!

切り裂かれる零号機の腕。

「ぐぐ・・・。」

その瞬間、通常のエヴァの何倍ともいえる疾風のごとき速さで、紫色のエヴァが零号機
の前に舞い降りる。

「はっ! 碇くんっ!」

『綾波、なにしてんだよ。』

「ごめんなさい。」

『ATフィールド張って、防御してっ!』

「わかったっ!」

地上に出ていた4体のエヴァは、使徒に対する攻撃を一斉に止め防御のATフィールド
を全開にする。

『ATフィールド全開っ!!』

全ての使徒に、初号機の真紅のATフィールドが突き刺さる。

次の瞬間、爆音と共に勝負は決した。

<ネルフ本部>

四号機に連れられた零号機は、ケージへと戻って来ていた。

「レイ。」

「はい・・・。」

カヲルに見据えられたレイは、頭を垂れてじっとしている。

「君のおかげで、全滅するところだったよ。」

「ごめんなさい。」

「今回のことで、シンジ君のデータがある程度は他国に渡ったね。」

「ごめんなさい。」

「まぁ、いいさ。もうすぐミサトさんが降りてくるだろうから、後は任せるよ。」

そこまで聞いていたアスカは、我慢できずにレイの前へ出てきた。

「違うわよっ! アタシが無理言って乗せてもらったからっ!」

「君が、惣流さんだね。」

「アタシが無理を言ったのっ! レイさんは悪く無いわっ!」

「いいのよ、アスカ。」

レイがアスカを止め様とするが、我慢できずに叫び続けるアスカ。

「アタシが、恐くなってシンクロをカットできなかったから、こんなことになっちゃっ
  たのよっ!」

「君を乗せた責任は、レイにあるんじゃないのかい?」

「違うわよっ! アタシが勝手にっ!」

「もういいのよ、アスカ。私の責任だから。」

「まぁ、いいさ。レイもわかってると思うから。それに、こういうことはミサトさんの
  役目だしね。」

「ごめんなさい・・・。」

去って行くカヲルに、頭を下げて詫びるレイ。レイはわかっていた。自分の勝手な判断
が、今回の失敗に繋がったことを。

なんなのよ、アイツ・・・。
助けにも来なかった癖に、偉そうにっ!

それにしても、あの紫のエヴァには誰が乗ってたのかしら?
めちゃくちゃ強かったけど・・・。

その後レイとアスカは、ミサトにこっぴどく叱られた後、開放された。

<休憩室>

アスカは、ぐたーーっとしながら休憩室でジュースを飲んでいた。

はーーぁ、レイさんには悪いことしちゃったなぁ。
それにしても、駄目なら駄目で最初っから言えばいいのにっ!
あの、飲んだくれっ!

「おいっ!」

その時、自分に声を掛けてくる男の子の声がした。黒いジャージを着た、硬派なチルド
レン鈴原トウジである。

「なに?」

「ワイはなぁ、お前みたいな奴を見とると、ムカムカしてくるんや。」

「なによっ! アンタっ!」

「お前みたいに、いいかげんな気持ちでエヴァに乗っとる奴がいるから、味方まで殺す
  ことになるんやっ!」

「うっさいわねぇっ!」

「なんやとっ! お前のせいで、危うく全滅するとこやったわっ!」

「わかってるわよっ! 何度も同じこと言ってこないでよねっ!」

「わかっとらんっ。お前に、チルドレンの資格なんかないわっ! さっさと止めちまえ
  っ!」

「なんですってーーーーっ!!」

確かに自分の非は認める所があるものの、ここまで頭ごなしに言われては、はいそうで
すかと我慢のできるアスカでは無い。

「トウジぃ。もう、いいじゃないか。」

アスカが殴りかからんばかりの勢いでベンチを立ちあがった時、トウジの後ろから白と
青のプラグスーツに身を包んだ、おとなしそうな少年が現れた。

「おうっ! なんや。」

「もう、わかってると思うから、その辺でいいじゃないか。」

「シンジが、そう言うんやったら、別にええけどな。」

「洞木さんが、ゲートで待ってるって。」

「ほうか、悪いなぁ。」

トウジは、今更ながら顔を少し赤くしその場を立ち去った。

「ごめんね。トウジって、エヴァの戦いで妹が怪我しちゃってね。」

「そ、そうなの・・・。」

誰なのよ、コイツはぁ。
なんだか、今まで見た中で一番情けなさそーな奴ねぇ。

「ぼくは、碇シンジ。君は、惣流さんだよね。」

「そうよ。アスカでいいわ。」

「綾波が、アスカに悪いことしたって、詫びてたよ。」

「そ、そんなっ! アタシが勝手にレイさんに乗せて貰ったのよっ!」

「うん・・・。でも、今までの綾波だったら、きっと断ってただろうね。」

「どういうこと?」

「綾波って、誰にも感情を見せないんだ。でも、アスカだけは特別みたいでね。」

「え?」

「アスカが、綾波の始めての友達なんじゃないかな?」

「・・・・・・。」

「怒られたことより、アスカと友達になれたことを、アスカが実戦で使徒を倒せたこと
  を、綾波は喜んでると思うよ。」

「レイさん・・・。」

シンジは、そんなアスカににこりと微笑みかける。そんな笑顔を、じっと見つめるアス
カ。

「アンタも、チルドレンなの?」

「そうだね。」

「アンタ、優しいね。」

「そうかな?」

「そんなんで、チルドレンが勤まるの?」

「まぁね。一応、初号機に乗ってるよ。」

「えっ!!!!」

「それじゃ、また明日ね。」

「ちょ、ちょっと・・・っ!」

アスカが呼び止め様としたが、シンジは休憩室をそのまま出て行った。

アイツが、あのエヴァのパイロット?
うそーーーーーっ!
あんなに、優しそうなのに・・・。

アスカは、自分でも気付かないうちにじっとシンジの去って行った方を、その後ずっと
見つめていた。

<ホテル>

アスカは、今日もホテルに泊まっていた。来日した頃泊まっていた豪華なホテルではな
く、今は予算の関係で安いホテルに泊まっている。

まずいわねぇ。
もう、お金が無いわ・・・。

財布の中を覗いてみるが、明日ホテルに泊まれそうにない。かといって、無断で日本に
滞在しているので、親にお金を送って貰うわけにもいかない。

パパやママに連絡だけはしといた方がいいわよね。
警察になんか連絡されたらことだからねぇ。

アスカは、ホテルの電話を取ると自分の家へと国際電話を掛けた。

プルルルルルル。

「もしもし? ママ?
  アタシ、アスカ。しばらく、日本にいることにするわっ!
  え? よく聞こえないわっ!
  とにかくアタシは大丈夫だから、それじゃーねっ!」

ガチャッ。

電話の向こうで何やら大騒ぎしていたが、強引に言うことだけ言って電話を切り、ベッ
ドに体を横たえる。

相変わらず、ウルサイ親ねぇ。
もう、帰らないんだからっ!

アタシは、チルドレンとして・・・。
チルドレンとして・・・。

今日のことを思い返すと、始めての戦い,カヲルの言葉,トウジの言葉,レイの言葉が
思い出される。

みんなの言ってることは、正しい。

エヴァに乗る限りは、責任があるんだ・・・。
人類を守るという、責任が。

浮かれて乗ってちゃいけないんだ。

アスカはそんなことをいろいろと考えているうちに、最後に会ったシンジのことを思い
出した。

アイツ・・・アタシがレイさんの始めての友達だって・・・。
アタシ、レイさんの気持ち裏切っちゃったのかも・・・。
ごめんなさい・・・レイさん。

それにしてもアイツの笑顔って、綺麗だったなぁ。
まさか、アイツがあのエヴァのパイロットだったなんて・・・。

優しくて・・・強くて・・・格好良くて・・・。

はっ! アタシ何考えてるのよっ!

それより、明日の宿のこと考えないと・・・。

アスカは、頭をブンブン振って頬を両手で叩くと、残りわずかなお金の資金繰りを始め
るのだった。

To Be Continued.
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