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マイ ライフ
Episode 03 -戦場の友-
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<ネルフ本部>

ネルフの食堂で夕食を食べながら、アスカはポケットに手をつっ込んでみる。指先に当
たる幾つかのコイン。残された全財産。

ネルフからお給料が出るまで、まだ10日以上かぁ。
まいったわねぇ。

さすがに数百円で泊めてくれる宿など、第3新東京市を探し回っても無いだろう。かと
言って、野宿は遠慮したい。

仕方ないわね。
休憩室で寝るか・・・。

食堂での食事は天引きだが、宿は今ある予算で確保しなければならない。寮もあるが、
手続きしようとすると親のなんらかんたらという項目が出てくるので利用できない。

なんで、クーラーなんかかけてんのよぉ。
寒いじゃないっ!

常夏の日本へ来るので、上着などを持って来ていないアスカは、Tシャツを布団代わり
に掛けるとベンチの上で丸くなって眠る。

体が痛いなぁ・・・。
早くお給料入らないかなぁ。

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                        :
                        :

翌朝、寒さのあまり早くに目が覚める。夜中何度も不審に思った警備員が起こした為、
寝不足である。

寒い・・・。

ポケットから残りわずかな小銭を取り出すと、夜通し横でうるさく動いていた自動販売
機に投入し、ホットコーヒーを買う。

あったかーい。
なんとか1夜はしのげたわ。

体を暖めてくれる1本の缶コーヒーを握りしめながら、アスカは休憩室のベンチに座っ
て食堂が開店する時間をひたすら待つのだった。

<食堂>

わかめうどんを朝食に食べていると、コーヒーをトレイに乗せて両手で持ったミサトが
近付いて来た。

「あら? 早いわね。」

「そ、そうなのよ・・・ははは。」

「早起きは3文の得。いい報告があるわよん。」

「なに?」

「あのねぇ。」

ミサトはニヤニヤしながら、勿体振って言葉を区切る。こういう態度に出られると、気
になってしまう。

「ねぇ、早く教えてよぉ。」

「自分のエヴァ、欲しがってたわよねぇ。」

「そりゃぁ・・・。まさかっ!?」

「今朝ねぇ・・・ふふーん。」

「け、今朝っ!?」

瞳を輝かせて体をテーブルに乗り出し、食い入る様にミサトを見つめるアスカ。

「アスカ専用量産型エヴァが、完成したわ。」

「えーーーーーーーっ!! 本当ぉぉ!?」

「今朝コアができたのよ。時間があるんだったら、見てきたら?」

「うんっ。行く行くっ!」

目の前のわかめうどんなどほったらかして、どたばたと走って行くアスカを、ミサトは
微笑ましそうに見送っていた。

<ケージ>

ケージへ到着すると整備員やオペレーター達が、朝から慌しく作業をしていた。アスカ
は近くにいる整備員を捕まえて、自分のエヴァについて聞いてみることにする。

「ねぇ、アタシのエヴァが完成したって聞いたんだけど?」

「あぁ、あそこに立っているエヴァがアスカ専用量産型だよ。」

「あれねっ!! サンキュー!」

整備員が指し示した先に、マナ達と同じ白い量産型エヴァが立っているのを見つけたア
スカは、まっしぐらに駆け寄って行く。



                          これが。

                         アタシの。

                       アタシ専用の。

                            :
                            :
                            :

                          エヴァ。



下半身をオレンジ色のLCLに浸し、悠然と目の前に立っている量産型エヴァを、ケー
ジの通路から瞬きも忘れてじっと見つめる。

「アスカ専用量産型エヴァンゲリオン。」

自分のエヴァの名前を、まるで呼びかける様にぽつりと呟く。

ジーーーーン。

最初は感動の眼差しで見つめていたアスカだったが、その感動がだんだんと落ち着いて
くると今度は知らず知らずのうちに、顔がニヤニヤしてくる。

アタシのエヴァなのね。
これが、アタシのエヴァなのね。

ケージの通路に1人立ち尽くし、いつまでもいつまでも自分のエヴァを見つめる。何分
見ていても見足りず、永遠に見ていても飽きることなどない様にすら思える。

これに乗って、使徒と戦うのね。
アタシも、自分のエヴァに乗って・・・。

いつの間にか、通路に座り込んだアスカは、両手を頬に当ててエヴァを見ながら、自分
の使徒と戦う姿を想像していた。

『レイさんは、そっちをお願いっ!』
『こっちはアタシ1人で大丈夫よっ!』
『鈴原は邪魔だから、下がりなさいっ!』
『マナっ! ヒカリの援護に向かってっ!』

                         なーんちゃって・・・えへへへへへぇ〜。

レイばりの統率力で仲間に指示を飛ばしながら、使徒を次々と撃退して行く自分の未来
像を想像して、ニヤニヤと1人で照れ笑いを浮かべる。

えへへへへ・・・へへへ・・・へへへへへぇぇぇ。

しまいには見ているだけでは物足りなく感じてきたアスカは、なんとか早くエヴァに乗
ってみたくなってきた。

乗ってみたいなぁ。
まだ、ダメなのかしら?

特に何をするわけではないが、一刻も早く乗ってみたい。とにかく近くの整備員に聞い
てみることにした。

「このエヴァってまだ乗れないの?」

「もう、いつでも発進できるよ。」

「別に、発進するわけじゃないんだけど、ちょっと乗ってみたくて。」

「じゃ、許可貰ってきたら、こっちはいつでもスタンバイできるよ。」

「あっ! そうだっ! プラグスーツは?」

「俺は、そっちの担当じゃないけど。たぶん、もう支給されてるんじゃないかな?」

「わかったっ!」

そこまで聞いたアスカは、喜び勇んでミサトから許可を貰いに、いそいそと司令室へ駆
け上がって行った。

<アスカ専用エントリープラグ>

アスカの搭乗は、エヴァとの直接シンクロテストも兼ねてすぐに許可が降りた。自分の
頼んでおいた真っ赤なプラグスーツに身に纏いエントリープラグに乗り込む。

「これが、アタシのエヴァの中かぁ。はぁ〜、新品っていいわねぇ。」

『それ、シンジくんのお古よ?』

ほおっておけば良いものを、せっかくアスカが感動しているところへ、ミサトの余計な
一言が通信で入ってくる。

もうっ!
いちいちそんなこと言わなくてもいいわよっ!
この飲んだくれっ!

喉まで出かかったセリフを、エヴァから下ろされてはかなわないので、口から出る寸前
でなんとか飲み込む。

「でも、アタシ専用なのよねっ!」

『そうよん。自由に使っていいわ。』

「ちょっと、動かしてみていいかしら?」

『じゃ、テストってことで、地上に出てみる?』

「いいの?」

『これも、テストの内よ。それに、早く動かしてみたいって顔に書いてあるわよ?』

通信画面でニコリと微笑みかけてくるミサト。

「そりゃ、もちろんっ!」

アスカは、先程の『飲んだくれっ!』を口にしないでよかったと思いつつ、地上へと射
出されて行った。

<地上>

地上に射出されたアスカは、ミサトに指示された通り手や足を動かしてみる。ここ数日
の訓練の成果もでて、シンクロ率も30%近く出る様になってきていた。

いい感じねぇ。
前、レイさんに乗せて貰った時より、スムーズに動くわ。

アスカ用に作られたエヴァにアスカ一人で乗っているのだ。シンクロ率も違うし、ノイ
ズも混じらない。

レイさんみたいに、使徒をやっつけるんだからぁっ!

またしても、レイの真似をして使徒と戦闘する自分の未来像を想像しつつ、ニヤニヤし
ながらエヴァを動かす。

『それじゃ、アスカ? 武器の使い方も訓練しておきましょうか?』

「どんな武器があるの?」

『いろいろあるから、順番にやっていきましょう。』

芦ノ湖に隣接する山間に作られた訓練場へ移動したアスカは、射出される武器を次々と
試す。それぞれの武器の使い方と、相性の良い武器を見つけるのが目的だ。

『どう? 気に入った武器あった?』

「バズーカも派手でいいけど、ソニックグレイブとかスマッシュホークがいいわねぇ。」

『アスカは、近接戦が好きみたいね。』

「うーん、そうかも・・・。」

『わかったわ。アスカを使う時は、考慮するわ。』

へぇー、この飲んだくれ、結構話がわかるじゃないの。

『じゃ、そろそろ戻りましょうか。』

「わかったわ。」

一通りのテストも終わり、アスカはアスカ専用量産型エヴァと共にケージへと戻る。破
壊力があって、振り回し易いスマッシュホークがお気に入りとなった。

<ケージ>

ケージに戻った後、特にすることが無かったアスカは、しばらくエントリープラグに座
っていた。

そっかぁ、これってシンジのお古なんだぁ。
ま、あの鈴原のじゃなくて良かったけど・・・。
でも、もうアタシの物よねぇ。

よくよく見渡して見ると、エントリープラグの内壁やシートなどに細かい傷がある。驚
いたのは、レバーの硬いグリップにくっきりと爪の跡が残っていたのだ。

こんな硬いグリップに爪の後がつくなんて・・・。
アイツでも苦戦したことあるのかなぁ。

その傷は、カヲルが既に全滅したゼーレによって送り込まれた時の戦い・・・エヴァ史
上最大の決戦と言われる、他のチルドレンが近寄ることもできなかったシンジとカヲル
の激戦の時についた物。しかし、それも今ではシンジの良き思い出の傷。

アタシの知らない所で、このエヴァもきっといろいろな歴史を刻んでたのね。
シンジと一緒に・・・。

これからは、アタシと一緒に刻んで行くのよ。
よろしくね。

キュッキュッキュッ。

エントリープラグから降りたアスカは、本来は整備班の仕事であるエヴァの掃除を、念
入りにしていた。エントリープラグ内は超クリーンルームの為、外周りを掃除する。

キュッキュッキュッ。

あまり掃除とかが好きではないアスカだったが、綺麗になっていく自分のエントリープ
ラグを見ていると嬉しくて仕方が無い。

キュッキュッキュッ。

「ん?」

ふと、プラグに印刷されている文字に目が止まった。そこには”ASUKA”の文字が
刻まれている。

「へへへーーー。」

改めて自分専用ということを意識したアスカは、ニヤニヤしながらその文字を何度も何
度も念入りに磨く。

ベロン。

「ぎゃーーーーーーーーーーっ!」

しかし、磨きすぎたのか”ASUKA”という文字が、べろりと剥がれてしまった。ど
うやら、シールを貼っていただけの様だ。

いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!
ど、ど、ど、ど、ど、ど、どうしようっ!!

とにかく、そのシールにしわが付かない様に丁寧に持って、整備員に声を掛けてみるこ
とにした。

「あのーーっ!?」

「どうかしたのか?」

「これ・・・剥がれちゃったんだけど・・・。」

「あぁ、擦りすぎたからだよ。後はやっとくから貸して。」

「うーーー。」

アスカは剥がれた自分の名前のステッカーを整備員に手渡すと、しょんぼりしてとぼと
ぼとケージを後にするのだった。

<司令室>

その日の午後、使徒が現れたという知らせを聞いたチルドレン達は、司令室に召集され
ていた。

「ゴビ砂漠に、使徒の反応があったわ。出動要請が来たから、よろしく。」

「中国支部はどうしたんですか?」

ケンスケがミサトに、もっともらしい質問をする。ゴビ砂漠に使徒が出たのであれば、
中国支部,インド支部,ロシア支部などが対応するはずである。

「砂漠だからねぇ。アンビリカルケーブルが無いから、どこも嫌がるのよ。」

「いつも、利権を1人占めするなって言う癖に、都合が悪い時は本部任せですか?」

「そういうものよ。」

「勝手だなぁ。」

「でも、大丈夫。うちには俊足コンビがいるでしょ。」

言わずと知れたレイと、足の早さだけではレイにひけをとらないトウジである。エヴァ
はチルドレンの特性が出る為、足の速いトウジはその利点をエヴァでも生かせる。

「ワイかいな?」

「そうよ。予備バッテリーで、四方に散らばった敵を粉砕して貰うわ。」

「わかりました。」

いつもの様に、冷静に答えるレイ。

「わかったけど、今回はワイ、自由に動いていいですか?」

「どうして?」

「いちいち指示受けてたら、動きが遅うなるんや。」

「そう。レイもそれでいい?」

「構わないわ。」

なんなのよーっ! こいつはっ!
いちいちムカつく奴ねぇっ!

何かというと、レイに突っ掛かってくるトウジのことを、アスカはジロリと睨み付ける。
どうもトウジとは相性が良く無い。

「それから。アスカは、シンジくんのエヴァに乗って、後方から2人の戦いを見て来な
  さい。」

「アタシ? アタシのエヴァで出たら駄目なの?」

「付いて行けないでしょ?」

「う・・・。」

「シンジくん、宜しくね。」

「はい。」

こうして、エヴァ3機とチルドレン4人の発進準備が始まった。

<ゴビ砂漠>

発進直前。

「レイさん、がんばって下さいねっ!」

「ええ。」

「他国だから、ぼくはあまり動けないけど・・・ははは、綾波なら大丈夫だね。」

「わかってるわ。」

ゴビ砂漠に作られた仮設基地でアスカとシンジに見送られながら、レイが乗り込もうと
した時、隣に配置されているトウジ専用量産型の下から声が聞こえてきた。

「おい、綾波っ!」

「なに?」

「使徒は5体っちゅーことや。多く倒したほうが、次のリーダーってのはどうや。」

「構わないわ。」

「よっしゃ決まりやっ!」

前からトウジは、女であるレイに指示されることを嫌っていたが、前回のレイの失敗が
その想いにさらに輪を掛けていた。

「ちょっとっ! どういうつもりよっ! アンタがリーダーなんかできるとでも思ってる
  のっ!」

その会話を聞いていたアスカは、頭にきてトウジに怒鳴り散らす。シンジやカヲルなら
ともかく、その特別な2人以外にレイ以上のパイロットは考えられない。

「いいのよ。碇君が待ってるわ。」

「でもっ!」

「作戦開始よ。」

しかし、レイに促されたアスカは、しぶしぶシンジの乗る初号機のエントリープラグへ
と入って行った。

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                        :

いよいよ作戦開始。

予備バッテリーを搭載し、活動限界時間は5分。その制限時間内に、砂漠に点在する使
徒を殲滅しなければならない。速度が命の作戦だ。

『みんないい?』

ミサトから通信で指示が入る。

『まかせといて下さいっ!』

『はい。』

「ぼくもいいです。」

『いくわよーーーーっ! よーーいっ! スタートっ!』

その掛け声と同時に、アンビリカルケーブルを引きずって出走し始める2体のエヴァ。
限界までアンビリカルケーブルを引きずり、ぎりぎりの所で切り離す。

初号機は四号機と並んで、初のS2機関搭載機である為アンビリカルケーブルは不要で
ある。

「速ーい。」

一斉に走り出す零号機とトウジ専用量産型。そのあまりの足の速さに、後追いする初号
機の中で、アスカは感嘆の声を上げる。

「純粋に足の早さでは、トウジの右に出るチルドレンはいないよ。」

「でも、レイさんも速いじゃない。」

「綾波は、シンクロ率でカバーしてるんだよ。」

「荷物いっぱい抱えてるのに、アンタもその2人に付いて行けるのね。」

シンジはいざという時の為、幾種類もの武器を両腕にめいいっぱい抱きかかえて、2人
を追尾していた。

「武器やアスカの重さくらいで、綾波達に置いて行かれたりしないよ。」

「それっ! どういう意味よっ!」

「へ?」

「アタシが重いって言いたいわけぇぇぇぇぇぇっ!」

「い、いや・・・そ、そんなつもりは・・・。」

「じゃぁっ! どういうつもりよっ!!」

「ご、ごめん・・・。つ、つ、つい・・・口から・・・その・・・あの・・・。」

「やかましぃっ!」

バッチーーーーーーンっ!

「いたーーーーーっ!」

『どうしたのっ!? シンジくん? 遅れてるけど、敵でもいるの?』

「・・・その・・・エントリープラグ内に・・・。」

『え?』

「いえ・・・なんでも無いです。すぐ追い付きます。」

『それならいいわ。ま、シンジくんなら、大丈夫ね。』

「ははは・・・。はぁ〜。」

カヲル以上の強敵を、シンジは初めて見た気がしたのだった。

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                        :
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3分経過。

作戦は順調に進み、3体のサキエルを既に撃破していた。現在、レイが1体,トウジが
2体撃破である。

よっしゃぁっ! 後1体倒したらワイの勝ちやっ!
これで、あないな女に指示受けんで済むわっ!

砂丘の向こうの左手に、こちらへ向かって進行して来るサキエルが見える。レイは、わ
ずかにトウジより先行して走っていた。

なに?
何か、別のパターンを感じる・・・。
砂の中に別の使徒がいるの?

レイは、また別の使徒の気配を、微妙なセンサーの数値やATフィールドの干渉から感
じ取っていた。

何処?

サキエルへと突進しながらも、隠れている使徒を必死で探すレイ。おそらく地中にいる
ので、センサーと微かなATフィールドの共鳴が頼りである。

サキエルの・・・近く・・・。
この感じは・・・。

はっ! マトリエルっ!
サキエルの右っ!

レイがようやく気付き、マトリエルへの攻撃態勢を整え様とした瞬間、トウジがレイに
右から追い抜きを掛けて来た。

「駄目っ! 右はっ!」

『何ぬかしとねんっ! ワイがアイツを倒したるっ!』

最短距離でレイが走っているので、少し大回りで右から砂丘を迂回しようとするトウジ。

「くっ!」

このまま進めば、間違いなくトウジはマトリエルの溶解液にやられる。レイは、大きく
右回りを膨らませる形で進路を取ると、トウジをブロックして無理矢理滑り込む。

『なに滑っとんやっ! 下手くそっ! おかげでインコースが開いたわっ! サキエルは
  頂きやっ!』

トウジが左の内側に走る軌跡を確認したレイは、砂の中にパレットガンを連射しながら
滑る足にブレーキを掛けるが、下が砂である為すぐに止まれない。

ズバーーーーーーン。

それと同時に飛び出てきたマトリエルは、溶解液を零号機に発射した。態勢が不安定で
あった為避け切れず、零号機の足が溶解液に溶かされる。

「レイさんっ!」

後ろから見ていたアスカは、マトリエルに攻撃される零号機を見て悲痛な叫びを上げて
いた。

「アンタっ! どうして助けに行かないのよっ!」

「ここは他国だから、ぼくは簡単に動けないよ。」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょっ! 鈴原を守って、レイさんが危ないじゃ
  ないっ!」

「綾波なら大丈夫だよ。それより、よく綾波がトウジを守ったってわかったね。」

「だって、砂の下に隠れている使徒に向かって行ったじゃない。」

「えっ!?」

「なによっ!」

「なんでもないよ。それより、綾波の戦い方を見ておいたら?」

「そ、そうね・・・。レイさんっ! がんばってっ!」

隠れている使徒を、特別な機械も無しに見つけるということは、かなりハイレベルの能
力である。シンジは、アスカはレイと同等かそれ以上の金の卵であることを確信するの
だった。

<トウジ専用エントリープラグ>

何しとんや、あの女。
ワイの邪魔して大回りするさかい、あないな目に合うんや。

ん?

なんで、わざわざ大回りしたんや?

最短距離を走っていたレイが、いくらブロックするにしてもインコースを開けてまで、
大回りする必要など何処にも無い。

まさかっ!

サキエルと交戦していたトウジがレイへ視線を移すと、足を溶かされた零号機が、砂の
中へパレットガンを連射していた。

あいつ、マトリエルが出る前から、パレットガンを撃っとたやないかっ!
くそっ! そういうことかいなっ!

トウジがサキエルとの交戦を止め、零号機の援護に向かおうとした瞬間、すぐさまレイ
から通信が入る。

『時間が無いわ。先へ行ってっ!』

「ほやかてっ!』

『バッテリー時間を考えて。あなたなら、一人でもできるはず。』

「わかったっ!」

トウジは援護に向かうのを止め、目前のサキエルを撃破すると、残る最後のサキエルへ
と向かって全力疾走を始めた。

<仮設基地>

全ての使徒を撃破し、輸送機によって回収されたエヴァ3体は、ゴビ砂漠の仮説基地へ
と引き上げられていた。

「あなたの勝ちね。」

零号機から降りてきたレイは、先に下りてレイを待っていたトウジに一言呟いた。トウ
ジの撃破4体。レイの撃破2体。

「命助けられて、勝ちもなんもあらへん。」

「そう。」

「まぁ、リーダーはお前に譲ったるわ。」

「いいのね。」

「ワイも、使徒戦の実力ではお前には負けてへん!」

「そうね。」

そこへ初号機から降りたアスカとシンジが近寄って来た。トウジがレイに難癖をつけて
いると思ったアスカは、頭にきて文句を言いに行こうとするがシンジに止められた。

「ほやけど、リーダーはお前や。じゃぁな。」

トウジはそれだけ言うと、手を振って仮設基地の中へと入って行った。

「何? 素直にレイさんのこと、認めたみたいだけど。」

「トウジもわかったんだよ。」

「何が?」

「トウジが優秀な戦士だとすれば、綾波は戦局全体を見ている司令塔だってのがね。」

レイも仮設基地へと向かって歩いて行く。前を歩く2人には、それ以上の会話は無かっ
たが、今までの殺伐とした雰囲気は消えていた。

戦いの中に芽生える、信頼かぁ・・・。
戦場の友ってのは、こういう風にしてできていくのね・・・。

今まで自分の育ってきた世界とは全く違う世界で、戸惑うことも多いアスカであったが、
また1つ自分の生きていく世界を知った気がした。

<ネルフ本部>

夜。ネルフ本部へ帰ったアスカは、途方に暮れていた。

また、休憩室で寝ないといけないの?
しまいに、風邪ひいちゃうわよぉ・・・。
体中痛くなるしぃ。

しかし、他に寝る所があるわけでも無いので、今日も休憩室の硬いベンチに横になるア
スカ。横で動く自動販売機がうるさくてかなわない。

はぁ・・・。
お布団が恋しいなぁ・・・。

「あれ? アスカ? 何してるの?」

そこへ、既に帰ったと思っていたシンジが、不思議な顔をして近寄って来る。

「あっ・・・。」

アスカは、まずい所を見られてしまったと、目を泳がせながらしどろもどろになるのだ
った。

<ロシア支部>

その頃ロシア支部では、司令室にチルドレン3人を呼び集め、秘密会議が行われていた。

「貴方達のシンクロ率は、すでに25%を越えたわ。」

ロシア支部の作戦部長であるアンが、チルドレンに指示を出している。

「次に使徒が現れたら、ネルフ本部に出動要請を出します。その作戦で、我々が優秀だ
  ってことを見せ付けてやりなさい。」

「「「はいっ!」」」

アンの指示に返事をするロシア支部のチルドレン。フローネ,ハイジ,ペリーヌ。

「フフフ。いつまでもネルフ本部が一番優秀だなんて、言わせておくものですか。」

戦績一位を独走する本部を、目の敵にしている支部は多い。アンも、ネルフ本部より優
秀な成績を出そうと、水面下で画策している1人であった。

To Be Continued.
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