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マイ ライフ
Episode 05 -出会い-
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<ネルフ本部>

アスカはここ数日、毎朝励んでいた戦闘訓練を止めていた。今は、資料室で過去の戦闘
記録を読んでいる。

「そっかぁ、さっすがレイさん。ここで一旦撤退して敵を誘き寄せたんだ。」

シンジやカヲルは参考にならないので、レイの記録から戦い方を学んでいる。最初はわ
からないことも多かったが、徐々に真意が理解できる様になってきた。

難しいわよねぇ。
ただ攻撃するだけなら簡単なんだけどねぇ。

「やっぱ、レイさんはすごいわ。」

レイの戦い方を改めて調べてみると、まだまだとても適わない様な気がしてくる。その
判断能力の高さは相当な物だ。

「アスカ、いるの? 入るよ?」

今日はネルフで用事がある為、学校へ行かなかったシンジが、アスカが最近篭っている
資料室へとやってきた。

「あら? シンジじゃない。 どうしたの?」

「うん、時間が空いたからね。」

「ふーん。」

「どう? 最近ずっとここに篭ってるみたいだけど?」

「うん、もう、こないだみたいな目に会いたくないからね。」

「じゃ、一緒に模擬戦してみない?」

「えー? だって、アンタとやったら練習にならないもん。」

「ぼくがアスカの指示通りに動いてみるってのはどう?」

「それっ! いいっ!」

「やってみる?」

「うんっ!」

この数日で学んだ戦い方を試そうというのだ。アスカは、喜んでその申し出を受け入れ
ることにした。

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                        :
                        :

早速、リツコにお願いして準備をして貰った2人は、模擬戦用のエントリープラグに乗
り込む。

『ぼくは、トウジくらいの力で動くから、指示を出してね。』

「わかった。」

『リツコさんに頼んで、敵はサキエル3体出して貰うことにしたよ。』

「わかったわ。」

『それじゃ、行くよ? スタートっ!』

サキエル3体が第3新東京市に突如来襲したという設定だ。シンジとアスカは、並んで
地上に射出される。

『指示を出してね。』

「ええ。」

早速戦局を分析し戦術を考える。サキエルも進行してきているので、迅速に指示を出す
必要がある。

「シンジは、後方から援護。アタシが接近戦を仕掛けるわ。」

『わかった。』

シンジは、言われた通りに後方からパレットガンでサキエルを牽制する。その横からス
マッシュホークで、アスカが先頭に位置するサキエルに斬り掛かった。

「シンジっ! 右のサキエルを、牽制してっ!」

『うん。』

右のサキエルの進行を遅らせて、目の前のサキエルからまず片付け様という作戦だ。

「ATフィールド中和っ! とりゃーーーっ!」

正面のサキエルに、全神経を集中して特攻を仕掛ける。

ズドーーーンっ!

シンジが右のサキエルへパレットガンを打ち込んでいる間に、左のサキエルへと攻撃し
ようとするが、思いの外サキエルが接近していた。

「しまったっ!」

慌てて左のサキエルと戦闘開始。

「このーーーっ!」

あまりにも接近しすぎた為、サキエルと取っ組み合いになる。シンジは、ひたすら右の
サキエルを牽制し続けている。

『アスカっ!? サキエルがそっちへ向かってるよ?』

「えっ!? 食い止めてっ!」

『そんなぁ・・・。』

もちろん全力で走れば簡単に食い止められるが、ほぼトウジと同等かそれより少し遅い
ペースでサキエルを追い掛ける。

『アスカっ! 間に合わないよっ!』

「なんですってーーっ!!」

結局、2体のエヴァとサキエル2体が縺れ合う形になり、なんとかかんとかコアを破壊
して勝利することができた。

「アンタっ! 何やってんのよっ! 右のサキエルは頼んでおいたのにっ!」

『だって、ぼくはアスカの指示通りに動いただけだよ。』

「そりゃぁ、そうだけど。じゃ今度は、アタシがアンタの指示で動いてみるからやって
  みてよ。」

『わかったよ。リツコさん、同じシュミレーションを、再スタートして下さい。』

再びサキエルが第3新東京市に来襲し、2体のエヴァがリフトオフされた所から再スタ
ートされる。

『ぼくがアスカの代わりにフォワードやるから、バックアップしてね。』

「わかったわ。」

『いくよっ! アスカは右のサキエルへ突進っ!』

「バックアップじゃないのーっ!? もうっ!」

シンジが先頭のサキエルへ攻撃を仕掛けると同時に、アスカは右のサキエルへ突進し、
猛攻を仕掛ける。

『アスカっ! そっちはもういいから、先頭のサキエル撃破して。』

「なんですってーーっ!」

右のサキエルを押していたのだが、シンジの指示に従い蹴り飛ばして、先頭のサキエル
へと向かう。既にそのサキエルは足をやられており、身動きできなくなっている。

ズドーンっ!
ズドーンっ!

片足のサキエルをアスカが楽々倒した時、一足先に左のサキエルに攻撃を仕掛けていた
シンジも撃破していた。

『残りの1体を、挟み撃ちするよ。』

アスカが蹴り飛ばしたサキエルが、再度迫ってきた時には、既に2対1の格好になって
おり、遠距離攻撃のみで容易に勝負がついた。

<休憩室>

模擬戦の後、アスカはシンジと一緒に休憩室でジュースを飲んでいた。

「はぁ・・。」

「どうしたの?」

「確かにアンタの作戦は完璧だったわ・・・。アタシと何が違うんだろう・・・。」

「あれは、ぼくの戦い方じゃないよ。綾波だったら、あぁするだろうなって。」

「え? レイさん?」

「うん、綾波らしいやり方だよ。」

「アンタだったら、どうするの?」

「ぼくなら、ポジトロンライフルで遠距離攻撃に徹して、近づいて来たサキエルを各個
  撃破だろうね。」

「同時に3機近づいて来たら?」

「エヴァが2体いるんだよ。1人がぼーっとしてない限り、そんなことありえないよ。」

「ふーん、なるほどねぇ。で、アタシは何が悪かったのかしら?」

「それは、アスカの戦い方だから、アスカが考えるんじゃないかな? ただ、ぼくをほ
  おっておかないで欲しかったけどね。」

「あっ!」

自分の戦闘にかまけてしまい、味方の動きにまで気を配る余裕が無かっていたことに気
づく。

「目の前の敵しか見てなかった・・・。」

「うん、戦いってのは、1点でやってるんじゃなくって、平面でしてるからね。」

「平面でかぁ・・・。難しいわねぇ・・・やっぱり。」

「その辺は、綾波が得意だから参考になると思うよ。」

自分の戦闘に集中しつつ、周りに目を配れてこその司令塔なのだ。しかし、アスカは気
付いておらず、あくまでチームワークの訓練をしていると思っている。

「はぁ、アタシには、まだ荷が重いわねぇ。」

「そうかな?」

「やっぱ、レイさんは、すごいわぁ。」

「じゃ、そろそろぼくは用事があるから。」

「そうなの? あのさぁ、今度、第3新東京市案内してよ。」

「いいけど。」

「ネルフにばっかりいるから、街の様子わかんないのよねぇ。」

「うん、わかった。」

笑顔で応援しながら休憩室を出て行ったシンジは、あえて口にはしなかったが、早くも
アスカがレイの域に近づいていることを嬉しく思っていた。

<司令室>

「ミサト、遅いわよ。シンジ君はもう来てるのに。」

「ごめーーん。」

いつもの様に寝坊して、ネルフへやって来るミサトを、これまたいつもの様にリツコは
叱りつける。

「まぁいいわ。でね。これ見て欲しいの。」

「ん? 模擬戦やったの? えっ!? これって・・・。」

「すごいでしょ。」

「これ、本当にすごいわよ? リツコ。」

「最後、シンジ君を交えた混戦になってるけど、ちゃんと彼の動きに併せて動いてるわ。」

「ほぉ、この短期間でねぇ。」

「やっぱり、あの娘・・・天才ね。」

「そうね・・・。例の計画、進めておいて。」

「わかってるわ。」

                        ●

その日の午後、チルドレン達は全員司令室に召集された。

「今日は、新しいチルドレンを紹介するわ。」

え? 新しい?
そっか・・・アタシより新しいチルドレンが入ったんだ。

「山岸マユミです。宜しくお願いします。」

え? こんな大人しそうな娘なの?
なんか、シンジ以上に頼んなさそうねぇ。

「彼女は、まだシンクロ率10%前後。みんなでいろいろ教えてあげてね。」

その後アスカが入った時と同様に、チルドレン達の簡単な自己紹介を行い、今後の態勢
の説明を受ける。

「で、山岸さんなんだけど・・・。アスカっ!?」

「えっ? な、なに?」

「あなたが、指導してあげて。」

「えーーーーーーーーーーっ!? ア、アタシぃぃぃぃぃ!?」

「山岸さん用のエヴァは、カヲルくんの昔の物を使って貰うことにするわ。細かい説明
  とか宜しくね。」

えっ!?

自分のエヴァは先の戦いで無くなった。それは仕方がないが、まだエヴァがあるのなら、
なぜ自分ではなくマユミ専用にするのか・・・アスカには納得できなかった。

どうして?
どうして、この娘に・・・。

<ケージ>

アスカは、マユミと一緒にケージまで降りて来て、各部の説明やエントリープラグへの
乗り方などを、自分がレイから聞いた通りに説明していた。

これは、アタシに対する当て付け?
エヴァをいきなり壊したから?

マユミがエントリープラグに搭乗するところを眺めるアスカ。そのエントリープラグに
は”MAYUMI”の文字がはっきりと書かれていた。

どうして、アタシにこの娘を・・・。
別にアタシが指導しなくても、いいじゃないのよっ!

一度そう考え出すと、全てが自分に対する当て付けや嫌みに思えてきてしまい、マユミ
を見る目までがきつくなってしまう。

ちくしょーっ!
ちくしょーっ!
アタシだって、がんばってるのにっ!

唯一自分専用のエヴァを持たないチルドレンとなってしまったアスカは、ケージの通路
の手摺を握りしめる。強く、強く握りしめる。

負けるもんですかっ!
こんなことくらいでっ!

<休憩室>

一通りの説明を言い終わったアスカは、マユミと一緒に休憩室へ来ていた。

「あの・・・惣流さん?」

「なによっ!」

「え・・あっ、すみません。」

マユミが声を掛けてきたので、イライラしていたアスカはつい大声を出して怒鳴りつけ
てしまった。

「あっ、ごめん。なに?」

そうよね・・・この娘には、関係無いことだもんね。
この娘も、アタシへの当て付けなんかに使われた被害者だもんね。

「わたし、怖いんです。」

「なにが?」

「両親に言われて、テスト受けたら通っちゃって・・・。」

「志願したわけじゃないの?」

「はい。わたしなんかが、エヴァに乗っても・・・きっと。」

「エヴァに乗りたくないの?」

「そういうわけじゃないんですけど。ただ・・・怖くて。」

「大丈夫よ、。アタシが・・・。」

アタシが守ると言い掛けたが、その言葉を喉の奥へと押し込む。守ろうにも、今自分に
はエヴァが無い。

「みんなが守ってくれるわよ。」

「そうでしょうか?」

「それに、そんな危ない目に会わない様に、アタシがちゃんと教えるからっ。」

「はい。宜しくお願いします。」

はぁ・・・こりゃ、責任重大だわ・・・。
レイさんも、最初こんな気持ちだったのかなぁ・・・。

マユミと話をしていたアスカだったが、ふと休憩室の入り口に人の気配を感じて視線を
移した。

ん?

そこには、おどおどしながらこちらへ向かって来ているシンジが見える。

「あら? シンジじゃない。」

ビクッ!

声を掛けると、いつにも増してビクっとするシンジ。

「どうしたの?」

「いや・・・そのちょっと・・・。」

「変なの。」

その時、廊下から誰かが走ってくる足音が聞こえた。それと同時に、休憩室に金髪のお
嬢様風の女の子が入って来る。

「シンジぃ、こんな所にいたんですの?」

「わぁーーっ!」

その女の子が入って来ると、シンジは顔を引きつらせて後ずさりする。しかし、その女
の子は、おかまいなしにシンジに抱き付いてきた。

「久しぶりですわねぇ。わたくしがいなくて寂しかったでしょ?」

「なんでだよぉ。ちょ、ちょっと、離れてよ・・・。」

「なんですの? 相変わらず恥ずかしがり屋さんですわね。」

ムーーーーーッ!
なによっ! こいつはぁぁぁぁぁっ!

その様子の一部始終を見ていたアスカは、目を吊り上げてベンチを立ち上がると、ズカ
ズカとシンジに抱き付く女の子に向かって近寄る。

「嫌がってるじゃないのっ! 離れなさいよっ!」

「なんですの? あなたは?」

「アスカよっ! アンタなんなのよっ! いきなりっ!」

「あっらぁ。わたくしは、ドイツ支部のイライザですわ。シンジのフィアンセですの。」

「な、な、なんですってーーーーーーっ!!!!!!」

「ち、違うだろーーっ! 勝手なこと言うなよーーっ!」

シンジが冷や汗を流しながら慌ててその言葉を否定したので、その様子を見ていたアス
カは、胸を撫で下ろしていた。

「まだ決心できないんですのぉ?」

「決心も何もないだろーー?」

「じゃぁ、他に好きな娘でもいるんですか?」

「なんで、そうなるんだよっ!」

その瞬間、アスカはシンジとイライザの間に体を捻じ込み、キッとイライザを睨み付け
る。イライザもアスカの意図を察して、睨み返した。

「ふーーん。そういうことですのね。」

「なによっ!」

2人の視線が宙でかち合い火花が飛び散る。その横でシンジはわけもわからず、脂汗を
だらだらと流している。

「あなた、アスカさんって言いましたわね。」

「そうよ。イライザだったかしら?」

険悪なムードにおどおどするシンジを余所に、しばらく続いた睨み合いだったが、イラ
イザへの呼び出しがかかったので、ひとまずその場は事無きを得た。

「はぁ、アスカ助かったよ。」

「アンタも、もっとシャキっとしなさいよねぇっ! もぅ。」

「ははは・・・。」

まったくもう、どうしてこう情けないのよ。
あの女も、なんでこんな奴に言い寄って来るのかしら。

ん?

えっ?

えーーーーーーーーーーーっ!

突然顔を真っ赤にしたアスカは、くるりと振り返り休憩室を飛び出す。

「あ? アスカ?」

シンジの呼び声に振り向きもせず、アスカはそのまま女子トイレへと入って行った。

<女子トイレ>

洗面所にめいいっぱい冷たい水を溜めて、バシャバシャと顔を洗うアスカ。顔が熱くて
熱くて仕方が無い。

アタシ嫉妬してたの?
いきなりあの女が、シンジに抱き付いてくるから無我夢中で・・・。

シンジの顔を思い浮かべると、また顔が熱くなってくる。確かに今まで優しいなとか格
好いいなと思ったことはあったが、これほど意識したことはなかった。

そっかぁ・・・。

水浸しになった自分の顔を洗面所の鏡で見ると、いくら冷たい水で洗っても赤くなって
いるのがわかる。

そうだったんだぁ・・・。

そんな自分の顔を見ていると、なぜかだんだんとおかしくなってきて、クスリと笑いが
こぼれた。

アタシ、アイツのこと・・・。

「ははは・・・ははは・・・。」

そっかぁ、そうなんだぁ。

「はははははは、アハハハハハハハハハハっ!」

トイレの洗面所にのっかって座り込んだアスカは、両手をお尻の後ろに付いた姿勢のま
ま、遠くを見る目で天井を見上げると、1人笑い続けるのだった。

<司令室>

翌日、アスカとマユミは、司令室に呼び出された。なんでも、模擬戦をするということ
である。

「ようやく来たわね。」

アスカが司令室へ到着すると、そこにはニヤニヤ笑いを浮かべたイライザが待っていた。

むーーっ!
嫌な奴がいるわねぇ。

「アスカ? 早速で悪いんだけど、イライザが帰る前にどうしてもアスカと模擬戦して
  みたいって。」

イライザも用事が終わりドイツ支部へ帰ることになったので、ミサトにアスカとの模擬
戦を頼み込んだ様だ。

「ふーん。」

「イライザもドイツ支部のエースだし、急成長中のチルドレンだから、いい勉強になる
  わよ。」

やっぱり、こいつの仕業かっ!
いいじゃない。やってやるわよっ!

「あまり時間が無いから、今から始めるわ。アスカもいい?」

「構わないわ。」

「じゃ、配置に付いて。それから、山岸さんは、アスカの戦い方をモニタで見ておくと
  いいわ。」

「はい。」

ミサトの指示に従い、それぞれ配置に付くチルドレン達。

「アスカさん?」

模擬戦用のエントリープラグへ向かう途中、イライザが話し掛けてきた。

「なによ。」

「この戦いで負けたら、シンジから手を引くこと。宜しいわね。」

「なっ!?」

「なーに? 自信がおありにならないのかしら?」

ムカーーーーっ!

「いいじゃない。やってやるわよっ!」

「ふふふふふ。」

<アスカ搭乗エントリープラグ>

スタート直前。アスカは高まる鼓動を、レイに見習って冷静に沈めていた。

大丈夫っ!
レイさんが認めてくれたんだ。
きっと、勝てる。

レイに教えられたこと、シンジに教えられたこと。今まで勉強したことなどを、反復し
ているうちに心が落ち着いてくる。

『2人ともいいかしら?』

準備が整った様だ。ミサトから模擬戦開始の報が入る。

『用意スタートっ!』

ミサトの掛け声と同時に、眼前全面に広がる地上の風景。舞台は第3新東京市。目の前
にはイライザのエヴァが見える。

戦術とは全体を見ること・・・。
戦いは平面で行われている・・・。

猛然と特攻してくるイライザを、兵装ビルを盾代わりにして交わしていくアスカ。その
ままビルに飛び移り、背後を取ろうと旋回する。

ドーンドーン。

バズーカで牽制しながら、ビルの間を縫ってアスカは旋回を続ける。

<イライザ搭乗エントリープラグ>

「フン。逃げ回ってても、決着はつかないですわよっ!」

ビルとビルの間を動き回るアスカに対して、イライザはあまり移動せずに照準を定めよ
うとしていた。

「はっ!」

次の瞬間、スマッシュホークに持ち変えたアスカが、ビルの間から突如現れイライザに
斬りつけてくる。寸前でATフィールドを展開しつつ、その攻撃を交わすイライザ。

「武器を持ち変えたんですのね。でも、それくらいじゃわたくしは倒せませんわ。」

スマッシュホークで斬り掛かって来るアスカを寸前で交わしながら、自分の有利な場所
へ導いていくイライザ。

「シンクロ率が高いって聞いてましたけど、噂通り攻撃がずさんですわね。」

アスカが近接戦闘を仕掛けてきたので、イライザもライフルを捨ててアクティブソード
に持ち変え応戦しつつ、場所を移動していく。

「よしっ! そこですわっ!」

次の瞬間、スマッシュホークを交わしたイライザは、アスカのエヴァを蹴って足場の悪
い湖へと突き落とした。

「貰いましたわよっ!」

そのタイミングを逃さず、一気にアクティブソードで斬り掛かるイライザ。しかし、ア
スカも寸前でそれを交わして、湖から脱出する。

「くっ! ある程度はやるようですわね。」

<アスカ搭乗エントリープラグ>

アスカは焦っていた。思った以上に相手が手強い。しかし、この戦い、絶対に負けるわ
けにはいかない。

誘い込まれたのか・・・下手に深追いするのは危険。
アタシは・・どうすれば・・・。
シンジっ! レイさんっ!

その時、ふと昨日の模擬戦後のシンジの言葉が脳裏を横切った。

相手とは1対1。
そうかっ!

アスカは、一旦イライザから距離を空けると、再びビルの間に身を隠した。

<イライザ搭乗エントリープラグ>

「なーに? また逃げるつもりなんですの? 案外情けないですわねぇ。」

やれやれといった感じで、アスカが逃げた方向を追いかけるイライザ。すると、ビルの
間からライフルが連射されてきた。

フンっ!
こんな距離でいくら撃ったって当たりませんわよっ!

イライザは最近レイにも迫る実力を備えてきたチルドレンである。ドイツ支部の切り札
であり、徹底された教育を受けてきた。アスカの様な駆け出しのチルドレンとは違う。

所詮、この程度の相手だったんですわね。

ちらちらと見えるアスカのエヴァを確認しながら、ライフルを交わして近づいて行くイ
ライザは、既にこの時ほぼ勝利を確信していた。

「ふーん、そこねっ!」

すぐ目の前のビルからライフルが撃ち込まれてきているのがわかる。アクティブソード
を振りかざしたイライザは、ビルの向こうに隠れるアスカに一気に切り込んだ。

「なっ! 何ですってっ!」

しかし、そこには無人のライフルがあっただけで、アスカの姿はどこにも見えない。
イライザは、アスカの様な駆け出しのチルドレンとは違った・・・。

「くっ! 何処にいったんですの?」

敵を見失い、じりじりと後づさりしたイライザの真後ろで爆発が起こる。

ドカーーーーンっ!

「そこっ!」

慌てて爆発が起こった場所に突撃しようとしたが、それは最初にアスカが持っていたバ
ズーカが爆発した音であった。

「なっ!」

イライザの顔が引きつる。

「来るっ! 何処からっ!? アスカが来るっ!  駄目っ! やられるっ!」

いつの間にか、イライザは見えなくなったアスカに恐怖すら覚えていた。アスカは、イ
ライザの様な経験を積んだチルドレンではない。駆け出しである。そのアスカが、ここ
まで戦えるということが何を意味するのか・・・。

<アスカ登場エントリープラグ>

バズーカにパレットガンを打ち込んだ瞬間、アスカはスマッシュホークでイライザの背
後に躍り出ていた。

1対1なら、2対1にしてやればいいのよっ!

「うりゃーーーーーっ!!!!!!!!」

イライザは、反応できなかった。

ズガーーーーーーーーーーーーーンっ!

勝負は決した。

<司令室>

「アスカ見事だったわ。」

イライザが帰った後、今回の戦い方を絶賛するミサト。しかし、アスカは・・・。

あンの女めぇっ!!
あンの女めぇっ!!
あンの女めぇっ!!

ムカムカして我慢できないアスカ。それも、すべて模擬戦の後のイライザの一言が原因
である。

『アタシの勝ちねっ!』

『まっ、今日は勝たしておいてあげますわ。ちょっと手を抜きすぎたかしらぁ。』

『なんですってーっ!』

『あーら、このわたくしが本気でやってたとでも思ってるんですの? ほほほほほ。』

『まぁいいわ。とにかく、勝ったんだから、シンジにはちょっかい出さないでよねっ!』

『あら? なんのことかしらぁ。よくわかりませんわねぇ。おほほほほほ。』

『なんですってーーーっ!』

『だいたい、そんなことはシンジが決めることですわ。なんですの? シンジを賞金み
  たいに・・・。』

                        :
                        :
                        :

ということが、イライザが帰る直前にあったのだ。

あンの女めぇっ!
アイツだけは、絶対に許さないっ!

「惣流さんっ! わたし、感動しましたぁ。』

「へ?」

戦いの一部始終を見ていたマユミが、目を潤ませ感動の眼差しでアスカを見つめている。

「私、一生惣流さんに付いて行きますっ!」

「ア、アンタねぇ・・・。」

マユミに慕われまくり、嫌な気はしないまでもそのプレッシャーにげっそりしてしまう
アスカ。自分がレイにしたことなど忘れて、勝手な物である。

「ちょっと待ってよ・・・。」

そんな様子をニヤニヤしながら見ていたミサトが、ツカツカと二人の近くへ寄って来る。

「アスカ? 山岸さんを、宜しくね。」

「うぅぅぅぅ。」

その時、司令室の扉がエアの抜ける音と共に開いたいたかと思うと、黒いジャージを着
たトウジが入って来た。

「なんっすか? 急な用事って。」

「突然呼び出して悪いわね。じゃ、鈴原くんに、アスカ。ちょっと来て。」

ミサトはトウジとアスカを連れると、司令室を出てケージへと降りて行った。

<ケージ>

「これって・・・・。」

「なんや、これはぁ?」

2人の前に悠然と立つ真紅のエヴァと漆黒のエヴァ。

「赤い方が、エヴァンゲリオン弐号機。アスカのよ。で、こっちはエヴァンゲリオン参
  号機。鈴原君のね。」

「エヴァンゲリオン弐号機・・・。」

突然の自分専用のエヴァを見たアスカは、まさかの展開に呆然としつつも、その4つ目
の巨人を見上げる。

「本当は、もっと早くにできるはずだったんだけど、開発がちょっち遅れちゃってね。」

量産型をアスカ専用という名前で割り当てた物では無い。アスカ用に全てを開発された
エヴァである。

カヲルのエヴァをアタシにくれなかったのは、これを開発してたから・・・。
アタシは・・・。

なにやらトウジと話をするミサトに、握り拳を固めて目を向けるアスカ。なにかとうる
さいことを言うミサトであったが、全ては自分の為なのだ。

アタシ・・・。
ここに来て良かった・・・。
本当に・・・・・・良かった・・・。

尊敬すべき先輩、親身に自分のことを考えてくれる上司、いざとなったら危険を省みず
自分を救ってくれる友、自分を慕ってくれる後輩、そして、恋する人・・・。

それに加え、今また最良最強のパートナーをアスカは得ることができた。視線を高々と
上げると、弐号機が自分を見つめている様に思える。

アンタとは、良きパートナーになりましょうね。
これから、ずっと・・・ずっと・・・。

これが、アスカとそのパートナーとなるエヴァンゲリオン弐号機との出会いの瞬間であ
った。

To Be Continued.
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