------------------------------------------------------------------------------
マイ ライフ
Episode 06 -パートナー-
------------------------------------------------------------------------------

<ネルフ本部>

朝からアスカは、模擬戦様のシュミレーションパターンを組み立てていた。今日は昼か
ら夕方まで6回のシュミレーションを行う予定だ。

都市防衛戦に、水中戦も入れてと。
こんなもんかしらねぇ。
でも、囲まれた時のシュミレーションもしたいなぁ。

時間的に制約があるので、どんなにがんばっても半日では6パターン以上はできないが、
マユミの実力アップを考えるとやりたいことはたくさんある。

マユミも、援護ばかりじゃ駄目よねぇ。
援護中に使徒が襲ってきたってのもやっとくべきよね。

リツコから許可を貰って借りているコンソールをパチパチと叩いて、使徒の出現位置や
行動パターンのロジックを組み立てていく。

ピリリリリリ。

時計が12時を知らせる。そろそろマユミも学校が終わる時間だ。マユミが帰ってくる
までに、シュミレーションを完成させなければならない。

「急がなくちゃ。」

このところ、毎朝6時からシュミレーション作成。その後マユミと訓練をし、マユミが
帰った後、戦闘結果を分析している為、寝不足気味である。

「どう? アスカ、進んでる?」

「ええ。もうちょっと。」

白いマグカップにコーヒーを入れたリツコが、研究室へ戻って来ると、アスカの前のモニ
タを覗き込んできた。

「へぇ。まぁまぁじゃない。」

「もうっ。 時間が無いんだから、邪魔しないでよ。」

「はいはい。なんなら手伝ってあげましょうか?」

「ほんと?」

「じゃ、こっちのクライアントからアクセスするわね。」

隣にあったクライアントマシンをブートアップさせると、アスカが打ち込んでいるデー
タベースにアクセスする。

カタカタカタカタカタカタカタカタカタ。

さすがに早い。アスカも人並み以上にコンピューターを扱えるものの、リツコと比べる
とレベルが違う。

「はやーい・・・。」

「そりゃ、プロですもの。」

そんなことを言いながら、リツコは強烈な速度でアスカの想定したデータと、いくつか
のいたずらを組み込んでいくのだった。

<シュミレーションプラグ>

マユミがネルフへやって来るとすぐに、アスカは模擬戦を始めた。最初は、セオリー的
な都市防衛戦である。

「マユミっ! 行くわよっ!」

「はい。」

ラミエル1体。サキエル3体が、第3新東京市へ迫って来る。いつもの様に、前衛アス
カ、後方援護マユミでそれを迎え撃つという設定だ。

「うりゃーーーっ!」

ラミエルの加粒子砲の射程内に入らないよう注意しながら、アスカがサキエルに突撃し
て行くと、マユミは後ろからポジトロンライフルで援護する。

ズドン。ズドン。

そして、難なくサキエル2体を倒したアスカは、ラミエルを背後から攻撃しようとして
いた。

「マユミっ! 援護射撃が遅いっ!」

「すみません・・・。」

「サキエルが近づいてきてるじゃないっ! 集中砲火っ!」

「はい・・・。」

マユミがサキエルの足止めをしている隙を狙って、ラミエルに躍り掛かる。この時、ア
スカは既にこのシュミレーションの成功を確信していた。

ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。

しかし次の瞬間、アスカの周りが一気に暗くなる。

「な、なにっ!!?」

ふと上を見上げると、サハクィエルが直上から落下してきていた。

「なっ! なによこれーーーーっ!!!」

データ入力などしていないサハクィエルが突然落下してきたので、あたふたと慌てまく
るアスカ。そんな様子を、リツコはニヤニヤしながら司令室から見ていた。

「いやぁぁぁぁぁぁ!!!」

アスカの悲鳴が、通信回線から聞こえてくる。

<司令室>

司令室ではミサトとリツコが、慌てふためく弐号機の映像を見て、コーヒーを噴出さん
ばかりに笑っている。

「リツコも、しれっとして、よくこんなこと思いつくわねぇ。」

「あら? 実戦では突然どんなことが起こるかわからないものよ。クスクス。」

「よく言うわねぇぇ。プクククク。」

「まっ、これもいい経験ってやつね。実戦で経験したら、やられちゃうんだから。」

「はいはい。プクククク。」

そんな言葉のやりとりをして、ニヤニヤしながらあたふたするアスカが映るモニタを覗
き込む2人であった。

<シュミレーションプラグ>

『クスクスクス。』

ミサトやリツコの笑い声が、微かに通信回線を通して聞こえてくる。

ムカーーーーッ!
そっちがその気なら、やってやろうじゃないっ!

頭に血が上ったアスカは、地面を蹴って一気にラミエルの正面へ躍り出ると、ATフィ
ールドの中和を開始する。

『先輩っ! あぶないっ!』

「アンタは、サキエルに集中してっ!」

ラミエルが加粒子砲を射出しようと、エネルギーを増幅する。

「ATフィールド全開っっ!!!」

アスカはATフィールドを中和しつつ、加粒子砲を今にも発射しようとしているラミエ
ルに突撃して行く。ラミエルも、アスカに向かって発射態勢に入った。

ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。

眼前には、加粒子砲。頭上には、もうそこまでハサクイエルが落下してきている。

「うりゃーーーーっ!」

ラミエルの直前で全力で飛び上がったアスカは、頂点部に体当たりする。その勢いでラ
ミエルはぐるりと90度回り、加粒子砲を直上に発射した。

ズドーーーーーーン。

アスカの真上まで落下してきていた、ハサクイエルのコアをラミエルの加粒子砲が貫く。

「アンタもっ! 飛ぶのよっ!!」

爆発するハサクイエルへ向かってラミエルを蹴り上げ、同時に爆炎を上げる2体の使徒
をアスカは肩で息をしながら見上げていた。

「はぁはぁ・・・これでもかっ! はぁはぁ。」

<司令室>

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

モニタを見ていたミサトとリツコが、目を丸くして呆然と口を開ける。やられたアスカ
が、怒ってシュミレーションプラグから出てくると確信していたのだ。

「やるわね・・・。」

「ええ。」

「リツコの負けね。」

「そのようね。たいしたものだわ。」

笑いのネタは無くなってしまったものの、今後の戦力アップに更に期待を掛ける2人だ
った。

<シュミレーションルーム>

シュミレーションが終わったアスカは、リツコのいたずらのせいもあって、かなり疲れ
てた様子でエントリープラグから出てきた。

「まったくもうっ! なんてことしてくれんのよ。びっくりしたじゃない。」

続いてマユミもエントリープラグから出てきたので、アスカはちょっと怒った顔で近寄
って行った。

「あのハサクイエルは別としても、今日は反応が悪かったわよ。」

「すみません・・・。」

「援護射撃もテンポが遅いし。アタシがいちいち指示を出してたじゃない。」

「すみません・・・。」

「さぁ、次のシュミレーションやるわよ。今度はしっかりやってね。」

「はい・・・。」

次のシュミレーションを、リツコのいたずらが無いことを確認しながら、セッティング
していく。

「あの・・・先輩。少し休憩していいでしょうか?」

「ダメよっ! 時間が無いんだからっ!」

「はい・・・。」

早くレイの役に立てる様になりたい気持ちと、指導者という立場からマユミを早く皆と
同じレベルまで成長させてやりたいという気持ちが、アスカに焦りを生んでいた。

「セッティングできたわ。行くわよっ!」

「はい・・・。」

身体の疲れを押して、勢い良くエントリープラグに乗り込んで行くアスカと、どことな
く元気のない様子で入って行くマユミ。

こうして、シュミレーションは、2つ3つと早いペースでこなされていった。

                        :
                        :
                        :

4つ目のシュミレーションが終わった時、アスカはマユミの前に立ち少し怒った顔で見
下ろしていた。

「アンタっ。 やる気あんの?」

「すみません・・・。」

「もっ! ぜっんぜんダメっ! 援護もなにもあったもんじゃないじゃない。」

「すみません・・・。」

「アンタがそんなんじゃ、アタシまで危なくなるのよ。」

「すみません・・・。」

「やる気が無んなら、もういいから、帰れば?」

「いえ・・・がんばります。」

確かに今日のマユミは、いつもと比べて驚く程に動きが悪かった。ひどい時には、ぼー
っとしてたたずんでしまっている時まであるのだ。

「さっきもそう言ったじゃない。今日はこれまでにしましょ。後は、アタシ1人でやる
  わ。」

「いえっ! やりますっ!」

「もういいわよっ。嫌々やっても、時間の無駄だわっ。」

「そんな・・・。」

そこへ廊下でアスカの声を聞き付けたマナが、部屋の中へと入って来た。

「どうしたの?」

「どうしたも、こうしたもないわよ。見てよ、この結果。」

アスカは、紙に出力した今までのシュミレーションの結果を手渡して見せる。それを見
たマナは、少し驚いた顔でマユミに目を向けた。

「これは・・・ひどいわね・・・。」

「でしょっ!?」

「でも、最近のアスカってちょっと訓練がハードすぎるわよ? 疲れてるんじゃないかしら?」

「そんなことないわよ。これくらい、やって当然よ。」

「でもねぇ。」

「やる気が・・・」

ビーービーービーー。

その時、ネルフ本部全体に警報が鳴り響いた。使徒来襲である。アスカ,マナ,マユミ
は、会話を中断し走って司令室まで上がって行った。

<司令室>

アスカ達が司令室へ上がって来ると、モニターには6体のイスラフェルが映し出されて
いた。

「ちょっち、まずい状況だわ。」

困った時の癖なのか、ミサトは爪を噛みながらアスカ達に体の正面を向ける。

「今日の待機は、あなた達3人だけだから苦戦になるわね。」

「アタシ達でなんとか食い止めるわ。マユミっ! 実戦よっ! 今度はヘマするんじゃな
  いわよっ!」

「はい・・・。」

「ねぇ、アスカ? 山岸さん、出撃させて大丈夫なの?」

今日のシュミレーションの結果を見たマナは、不安そうにアスカに問い掛ける。

「行けるでしょ!? マユミ!?」

「はい・・・。」

アスカに念を押されたマユミは、少し元気の無い様子で出撃して行ったのだった。

<地上>

地上に打ち出された3体のエヴァは、6体のイスラフェルを前に、逆三角形の形で迎え
撃つ陣形をとる。

『アスカ。あなたが、作戦指揮を取るのよ。』

そんな3人に、ミサトから通信が入る。

「アタシが? マナはっ!?」

『マナは、地上戦が専門じゃないわ。』

「わかった。やってみる。マユミっ! 後方から敵集結を阻止っ! マナっ、行くわよっ!」

『わかったわっ!』
『はい・・・。』

敵はイスラフェルである。2対1の態勢で、1体づつ順に倒していく必要がある。アス
カとマナは、マユミの援護射撃の元、イスラフェルへと突進して行った。

軽い! 体が軽いっ!
これが、弐号機の力・・・。

始めての弐号機の実戦を体験したアスカは、今までの量産型と比べて遥かにスムーズに
体が動くのを感じていた。

『アスカっ。 ちょっと待ってよ。』

「あっ、ごめんごめん。マナは陸に上がると、のろまな亀さんだったわね。」

『むぅ〜・・・。』

確かにマナの専門は水中戦だが、さすがに亀さん扱いにはムッとした様だ。それはとも
かく、2人は最初のターゲットとなるイスラフェルへと近接戦闘を掛け始めた。

「マユミっ! 敵が集まって来てるじゃないのっ! どこ狙ってるのよっ!」

『すみません・・・。』

「しっかりしなさいよっ! 敵が集結したら、こっちが危ないのよっ!」

『すみません・・・。』

先程からマユミの援護射撃が甘く、アスカとマナはあと1歩のところで、なかなか接近
できずにいる。

『アスカ? 今日の山岸さん、やっぱりおかしいわ。』

「まったくよ。狙いがめちゃくちゃよ。」

『そうじゃなくて・・・』

「来たわよっ!」

『はっ!』

通信で話をしていたアスカとマナだったが、イスラフェル3体が囲んできたので、敵の
攻撃を回避しつつ背後に回り込む。

「チャンスよっ! マナっ!」

『ええっ!」

上手い具合に、1体のイスラフェルの背後をタイミング良く取ったアスカとマナは、一
気に攻撃を掛ける。

「うりゃーーーーーっ!」
『やーーーーっ!』

ドガーーーーン。

「よしっ! まずは1体っ!」

『アスカっ! まずいっ!』

「えっ!?」

ふと気が付くと、先程まで離れた所にいた残りのイスラフェル3体が、アスカとマナの
周りを囲み始めていたのだ。

「マユミは、 何してんのよっ!」

援護射撃はどうなっていたのかと、視線をマユミに向けると、マユミ専用量産型エヴァ
は、その場に崩れ落ちていた。

「マユミっ!!! どうしたのっ!!! マユミっ!!!」

『アスカっ! とにかく、後退よっ!』

「ちっ! このーーーーっ!」

アスカとマナは、敵の弱い部分にそれぞれが持つスマッシュホークとアクティブソード
で斬り掛かり、一点突破で脱出した後マユミ専用量産型エヴァの元へと走った。

「マユミっ! マユミっ!」

アスカが何度も呼び掛けるが、何の反応も無い。特に敵にやられた外傷はエヴァには無
いだが、身動きひとつしなかった。

『アスカっ! 山岸さんを撤退させてっ!』

その時、ミサトからの通信が入る。突然マユミが倒れたので調査したところ、高熱を出
して意識を失ったということだった。

「熱っ!? マナっ! マユミを撤退させてっ! アタシが、敵を食い止めておくからっ!」

『わかったわっ! すぐ戻るから、それまでがんばってっ!』

「まかせなさいっ!」

マナは、マユミ専用量産型エヴァをズルズルと引きずって本部へと戻って行く。その間
も容赦なく攻撃してくるイスラフェルに、アスカはマユミの残したポジトロンライフル
で応戦していた。

ズドーンっ! ズドーンっ!

ATフィールドを中和しつつ敵の進行を食い止め様とするが、イスラフェル相手に単発
のポジトロンライフルでは、さほどの効果は得られない。

『鈴原くんが来たわっ! 霧島さんも復帰するからっ!』

ミサトからの通信が入る。

「もう、距離がないのよっ! 急いでっ!」

『あと少し、絶えなさいっ!』

その後、トウジとマナが地上に射出され、残りのイスラフェル5体は本部直上まで進行
を許したものの、撃退することができた。

<治療室>

マユミは40度の高熱を出していた為、今は治療室で点滴を打ちながら寝ている。アス
カも戦闘が終わると、すぐに駆けつけてきた。

「マユミは?」

検査を終えた所だろうか。治療室から出て行こうとする医師を捕まえて、マユミの容態
を聞く。

「大丈夫ですよ。疲れが出たんでしょう。しばらく安静にしていると、すぐ良くなりま
  すよ。」

「そうですか・・・。」

医師は、アスカとその後からやってきたトウジにそう告げると、幾人かの看護婦を伴っ
て廊下を歩いて行った。

マユミ・・・。

心配そうにアスカがマユミの顔を見つめると、熱の為か顔を赤くして少し荒い息で苦し
そうにしている。

「おいっ、惣流。ちょっと来いや。」

「え?」

「ええから、来いっちゅーとんや。」

「なによっ。」

マユミが心配だったので、しばらく側についていたかったアスカは、トウジが外へ出る
様に言ってきたので、機嫌が悪そうな顔で廊下へ出て行く。

「もうっ、用があるならさっさとしてよね。」

「最近、山岸をめちゃくちゃしごいとったそうやなっ!?」

突然トウジが食って掛かる様な言い方で怒鳴りつけてきた。アスカは、突然のことに目
を丸くして、トウジを見上げる。

「山岸があないになるまで、訓練さすっちゅーのは、どういうこっちゃっ!」

「そんな無茶なことしてないわよっ! アタシはスケジュールに従ってっ!」

「山岸は学校へも行っとんのやっ! お前なんかと一緒にするなっ!」

「な、なんですってーーーっ! アタシだってっ!」

「言い訳なんか、聞きたーあらへんっ! あんな状態で、実戦に出撃させたんは、惣流
  やろがっ! 殺す気かっ!」

「ぐっ・・・。」

「ちょっとリーダーになったからって、ええ気になんなっ! こんボケがっ!」

「体調が悪いなんて知らなかったんだから、仕方ないでしょっ!」

確かに、体調の悪いマユミを出撃させてしまったのはアスカである。最も罪の意識を感
じる所をズバっと突かれて、口ごもってしまうアスカ。

「知らんかったっちゅーのは、どういうこっちゃっ!」

「いくらなんでも、そこまでわかんないわよっ!」

「なんやとーーーっ!」

「アタシだって、マユミが体調悪いって言ってくれたら、訓練なんか中止してたわよっ!
  出撃なんかさせなかったわよっ!」」

「お前は、人の指導なんかすなっ! 1人で勝手にせーーーっ!」

トウジは吐き捨てる様に言い放つと、アスカを置いて廊下をズカズカと歩いて行ってし
まった。

なによっ! アタシ1人が悪いみたいにっ!
体調が悪いなんて知らなかったんだから、仕方ないじゃないっ!

そうは思うものの、何かが心のどこかに引っ掛かった様な気持ちになりながら、アスカ
は独り休憩室へと向かった。

<休憩室>

プラグスーツから私服に着替えたアスカは、毎日一生懸命考えてきたこの1週間のスケ
ジュール表をベンチに座って独り眺める。

ちょっとハードだけど、無茶なスケジュールじゃないわよねぇ。
アタシだって、一緒にやってるんだから。

確かにトウジの言う様にマユミには学校があるものの、アスカもそれ以上に訓練の準備
やシュミレーション結果の分析を毎日やっているのだ。

もともと、体調が悪かったのよ。
今日のマユミ、いつもと比べてちょっとおかしかったもの。
アタシ、そんな無茶なスケジュールさせてないもん・・・。

「アスカ?」

スケジュール表を覗きこんでいたアスカの頭の上から、突然マナの声が聞こえた。

「あら。」

「ちょっと、いいかしら。」

「ええ。どうぞ。」

マナは、2つ買ってきたジュースの片方をアスカに手渡すと、自分も片手に紙コップを
1つ持って横に並んで座った。

「今日の山岸さん、調子がおかしかったわよね。」

「うん。」

「あのね・・・以前のことなんだけどね・・・。」

                        ●

<硫黄島仮説基地>

数ヶ月前。

硫黄島付近で、ガギエルが3体発見された為、待機任務に当たっていたマナとケンスケ
は、レイより一足速く現地へ到着していた。

「綾波が来たみたいだよ。」

「そうね。」

本部へ駆けつけるのに時間が掛かったレイは、2人より少し遅れて硫黄島へと輸送さて
来る。敵の進行速度も遅かったので、マナとケンスケはレイの到着を待っていたのだ。

「綾波、思ったより早かったね。」

「ええ。」

「ほら、あれがガギエルさ。肉眼でも、もう見えるよ。」

ケンスケが指差す方向を見ると、確かに沖の方から迫るガギエルの姿が、時折水面上に
現れている。

「久々の水中戦だな。頼んだぜ、霧島。」

いよいよレイも到着したので、ケンスケはマナにそう言うと、自分のエヴァへと乗り込
んで行く。

「それじゃ、わたしも。」

マナもレイに手を振って、自分のエヴァに乗り込もうとしたが、すっとレイがマナの手
を掴み身体を引き寄せた。

「あなたは、ダメ。」

「え?」

何のことだろうと振り返ったマナの額に、レイが自分の額を当ててくる。突然の仕草に、
きょとんとするマナ。

「少し熱い。」

「えっ???」

驚いたマナは、慌てて自分の額に手の平を当ててみるが、プラグスーツを着ている為よ
くわからない。ただ、改めて言われると、確かに先程から間接が痛いとは思っていた。

「後は任せて。」

「でも、水中戦だからっ!」

「霧島さん・・・。」

しかし、絶対に出撃の許可は出さないという目で、レイに見据えられたマナは、やむを
得ず待機任務についたのだった。

                        ●

<休憩室>

「あの時、緊張で気付いてなかったんだけど、後で計ったら、38度もあったの。」

「・・・・・・。」

「レイさんは、少しわたしの顔を見ただけでわたしの体調を見抜いたわ。」

「・・・・・・。」

「そして、出撃はさせてくれなかった・・・。」

「アタシ・・・。」

「あの時は、折角の水中戦に参加できなくて、残念だったけど・・・。レイさんの言う
  ことを聞いてたら、間違いないんだって思いもしたわ。」

「アタシ・・・。」

「まだ指揮する人は1人だけだけど、アスカも同じ立場なんじゃないかしら?」

「・・・・・・・。」

「じゃ、ジュースも無くなったし、行くわね。ちょっと考えてみて。」

1人で床を見つめて黙り込んでしまったアスカを後に、マナは空になった紙カップを捨
てると休憩室を出て行った。

今日のマユミ何処かおかしかった・・・。
レイさんは、顔を見ただけで・・・アタシは・・・。

マナの去った後、アスカはがっくりと休憩室のベンチに腰を落として、じっと頭を垂れ
ていた。

アタシは、何も考えてあげてなかった。
単に、優秀なパイロットを作ろうとしてただけ・・・。
マユミのこと、ちっとも・・・。

マユミへ詫びる気持ちと自分に対する情けなさに、アスカは歯を食いしばって、ただた
だ床を見つめる。

謝ろう・・・。
もう、アタシのことなんか、先輩だとは思ってくれないかもしれないけど。
とにかく・・・謝ろう。

アスカはそう決心すると、ベンチを立ち上がってマユミのいる治療室へと戻って行った。

<治療室>

アスカが病室へ入ると既に点滴は取られており、意識を回復したマユミが清涼飲料水を
飲んでいるところだった。

「あっ! 惣流先輩っ!」

「マユミ・・・。」

「あの・・・今日は、すみませんでした。」

扉を開けて入ってくるアスカを見つけたマユミは、まだしんどそうな顔で上半身をベッ
ドの上に起こしてぺこりと頭を下げる。

「ううん・・・。アンタの体調も考えないで、出撃させたアタシが悪いの・・・。」

「えっ? 」

「もっと、よくアンタの様子を見ておくべきだったの。アタシ、何も考えてあげてなく
  て・・・。」

「そんな・・・。」

「やっぱり、アタシには人の指導なんてできないのよ。失格だわ。」

「そんなこと言ったら、わたしも自分の体調も考えないで、出撃したんですから。」

「だって、あの状態じゃ行くしかなかったでしょ。」

「調子が悪いなとは思ってたんですけど、まさかこんなことになるなんて思わなくて・・・。」

「だから、これからはレイさんに見て貰う様にお願いしてみるから。」

「嫌ですっ!」

アスカがそう言った瞬間、珍しくマユミが強い意志表示を視線で訴え、強い口調言い放
った。

「わたしは惣流先輩を見て、チルドレンとしてやって行こうって決めたんです。レイさ
  んが嫌いなわけじゃないですけど、惣流先輩に付いて行きます。」

「・・・・・・・・。」

思いもしなかった返答に、アスカは瞳を大きく見開いてマユミの顔を見返す。

「でも、アタシよりレイさんの方が・・・。」

「じゃぁ惣流先輩は、レイさんよりエヴァの操縦が上手い渚先輩に、どうして付いて行
  かないんです?」

アスカは、少しの間マユミに言われた言葉の意味を考えていたが、その結論に達すると
笑顔でマユミを見返した。

「そうね。」

「はい。」

そんなアスカに、マユミも笑顔を返す。

「これからも、仲良くしていきましょ。」

「はい。よろしくお願いします。」

アスカとマユミの距離がすっと近くなり、お互いに堅い握手を交した。この時、2人の
間に始めて本当の心が通じ合ったのかもしれない。

「まぁ、碇先輩だったら、惣流先輩は付いて行きそうですけどね。」

ボムッ!

なごやかな雰囲気に包まれていたアスカの顔が、いきなりの言葉に突然沸騰する。

「ど、ど、ど、どーーーーして、それをっ!!!!」

「見てたら、わかりますよ。」

「う、うそっ!」

「なんたって、わたしのあこがれの先輩のことなんですから。」

「たはははは・・・。内緒よ。」

アスカは、軽くウインクをしてマユミに合図をする。

「はい。」

近い将来、この2人の絆がより明確な形となって現れることとなるのだが、アスカは今
マユミの回復を祈るばかりだった。

To Be Continued.
作者"ターム"へのメール/小説の感想はこちら。
tarm@mail1.big.or.jp
inserted by FC2 system