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マイ ライフ
Episode 07 -レイの休日-
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<司令室>

諜報部より回されてきた資料を、ミサトは無造作に放り投げると、渋い顔をでコーヒー
を飲み干した。普段冷めたコーヒーを飲まないが、意識が別の所にある様だ。

「どうするの? あなたのミスよ?」

コーヒーより冷たい口調でリツコが叱咤するが、ミサトはそれに即答せず空になったコ
ーヒーカップを、苦虫を噛み潰した様な顔で覗き込んでいる。

「今はまだ動けないわね。」

絞り出す様な声で、呟くミサト。アメリカ国籍、ドイツ在住ということから、本来どち
らかの支部にアスカをチルドレンとする優先権がある。

「先にアメリカ支部と、ドイツ支部に手を回さないと・・・。」

「加持くん?」

「ええ。今回ばかりは、加持に頼るしかないわぁ。」

「ご両親には?」

「悪いけど、そっちのカタが付くまでは、公にはできないでしょうね。」

「しっかし、やってくれるわねぇ・・・あの娘も・・・。」

前髪を掻き上げながら呆れ顔で言い放ち、コンソールの上に無造作に置かれたアスカの
身元報告書と、両親がドイツの警察に出している捜索願いをチラリと見るリツコ。

「あの娘には?」

「下手に刺激して、妙な行動を取られたら困るわ。」

「そうね。」

「他の支部に・・・特にアメリカとドイツに取られるなんてことになったら事だし。」

アメリカ,ドイツ支部は、本部に迫る勢力を持つ2大支部である。アスカの動きで、レ
イ並みのリーダーを持つ本部対抗組織ができることになりかねないのだ。

<レイの団地>

その頃アスカは、珍しくネルフには行かずレイと一緒に荷造りをしていた。新しく買っ
た白いワンピースや、水着を丁寧に詰め込んで行く。

「ゆっくり休んできて下さいねぇ。」

「私は、行かなくてもいいんだけど・・・。」

「まーだ、そんなこと言ってるんですかぁ? せっかくの休暇なんですよぉ。」

ミサトのはからいで、レイは数日間の沖縄旅行をすることになったのだ。修学旅行に行
けなかった代わりの、いわゆる休暇である。

「アタシも沖縄って行ってみたいなぁ。」

「なら、あなたが行く? 葛城三佐に・・・。」

「何言ってるんですかっ! アタシなんかまだネルフに入ったばかりですよぉ。」

「でも・・・。」

アスカをこの家に置いて自分だけが遊びに行くことに、どうもレイは乗り気でない様だ。
そもそも、遊ぶということに親しみが無い。

「カヲルとケンスケも休み貰ったんだから、レイさんも羽を伸ばさなきゃ。」

「ええ。」

「でも、おみやげ買ってきて下さいねぇ。」

「おみやげ?」

「おみやげですよぉ。沖縄の名物とかぁ。沖縄って何が名物なんです?」

「さぁ。」

「レイさぁん、せっかく遊びに行くんだから、ちょっとは下調べしておかなきゃぁ。」

「そうなの?」

「そうですよぉ。」

休暇を貰ったレイ本人よりも、それを送り出すアスカの方が嬉しそうである。ニコニコ
しながら、荷造りをてきぱきとこなしていく。

「はいっ! できあがり。レイさんも、ちょっとは日焼けしてきて下さいねっ!」

「私、焼けないから・・・。」

「いいなぁ。アタシなんか、日焼け止をいっぱい付けないといけないもの。」

「そうなの?」

「そうなんですよぉ。でも、レイさんも焼けなくても太陽にたくさん当って来た方がい
  いですよ。」

「そう・・・。わかったわ。」

こういうことになると、戦闘指揮ではたぐいまれない能力を発揮するレイも、アスカに
押されてたじたじの様だ。

そして翌日、レイ,カヲル,ケンスケと加持率いる諜報部員30名は、沖縄へと旅立っ
て行った。加持曰く、こんな仕事なら毎日でも良いということらしい。

本来ならシンジとトウジも休暇対象だったのだが、さすがに戦力の問題から今回は許可
が降りなかった。

<ネルフ本部>

レイ達が旅立った後、シンジを除くチルドレン達は、司令室に呼び集められていた。

「統計的に見てレイがいない間に、使徒が出現する可能性は1回よ。」

えーーっ! レイさんがいないのにどうすんのよ。
シンジが出てくれるのかしら?

「そこで、その間リーダー代理を決めなくちゃいけないの。」

決めなくちゃって・・・鈴原しかいないじゃないのよ。
はぁ、レイさんの指揮がいいなぁ。

「ということで、リーダー代理はアスカと鈴原君にお願いするわ。」

ん?

「えーーーーーーーっ! アタシぃぃぃ?」

「そうよん。鈴原君,洞木さんチームと、アスカ,マナ,山岸さんチームに分けて作戦
  行動をして貰うわ。」

「2つにチームを分けて大丈夫なんですか?」

ミサトの作戦指示に、もっともな質問をヒカリがする。2つに分けるということは、戦
力分散に繋がりかねないという懸念だろう。

「レイ以外に、全体をまとめられるとは思えないわ。それに、どっちみち交代で待機す
  ることになるでしょ?」

「はい・・・そうですね。」

「でも、いきなりアタシにリーダー代理なんて、できるの?」

今度はアスカが、少し不安気に聞いてくる。マユミの指導はしているものの、作戦指揮
となるとレベルが違う。

「こないだも、充分やってのけたじゃない。」

「あれは、非常事態だったから・・・。」

「そんなの一緒よ。」

何を言っても、既に決定事項という感じで返答するミサト。アスカもこうなったら、が
んばってやってみようと、決意を新たにする。

「ってことで、解散っ! ちょーっち、アスカだけ残って。」

ミサトの号令の元、アスカを除く全員が司令室から退室して行く。それを確認したミサ
トは、アスカに椅子を進めると、自分も腰を下ろした。

「不安?」

「そりゃぁ、まぁ。」

「正直、あなたにはまだレイ程の指揮能力はないわ。」

「あったり前じゃん。レイさんになんて、まーだまだ。」

「そうかしら?」

「当然でしょ?」

「ま、これを機会に一度経験しておきなさい。失敗したら、バケツ持たせて立たせてあ
  げるから。」

「なによそれーーーっ!」

「じゃ、がんばってね。アスカ流ってのを期待してるわ。」

ミサトは軽く笑いながら、アスカの肩をポンポンと叩いて席を離れて行った。

<レイの団地>

その夜、アスカは1人レイの団地で、最近買った14型のテレビをぼーっと見ていた。
特に見たいものがあったわけではないが、レイがいないこの部屋は寂しすぎるのだ。

なんか、寂しいなぁ。

レイのベッドの横に、自分用の布団を敷いて寝ころびながらポテチをほおばる。部屋を
見回しても、レイの姿はない。

「はぁ・・・。」

アスカの目に、ネルフから支給された携帯電話が目に止まった。

誰かに電話してみようかなぁ。
マナ、起きてるかなぁ。

プルルルルルル。

「あっ、マナ?
  うん、特に用事ってわけじゃないんだけどね。
  どうしてるかなって思って・・・。
  うん・・・。
  そうなの? ごめん。
  じゃ、また、明日ね。」

プチっ。

電話の向こうでは、家族だんらんの食事風景が想像できるような、楽しい会話が聞こえ
ていた。

「はぁ・・・。」

アタシ、日本にいるのよねぇ。

そんなアスカの脳裏に、遠い昔の様に思えるドイツの街並みや両親,知人の顔が思い出
される。

プルプル。

しかし、その思いを振り払うかの様に、長い髪を揺すって頭を振るアスカ。

フンっ! もう帰らないって決めたんだからっ!
やめやめっ!

「はぁ・・・それにしても退屈よねぇ。そうだっ!」

アスカは再び携帯電話を手に取ると、今度はシンジの携帯電話の番号を、ポチポチと押
してみる。

『もしもし。碇ですが・・・』

「キャーーーーーっ! 助けてーーーっ! へんたーーーいっ!」

『アスカっ!? どうしたのっ!? アスカっ!? アスカっ!?』

「いやーーーーっ! たすけてーーーっ! シンジーーーっ!」

『アスカっ! アスカっ! アスカっ!!!!』

「家まで来てーーーーーーっ!!!! シンジーーーっ!」

プチっ!

へへへへへぇぇぇ。

電話を切ったアスカは、その後しばらく玄関の扉を見つめてニヤニヤと笑いながら寝そ
べっていた。

                        :
                        :
                        :

15分後。

ドンドンドンっ!

「アスカっ! アスカっ!」

悲壮な叫び声をあげて、玄関の扉を叩くシンジの声が聞こえてくる。その声を聞いたア
スカは、笑顔を顔一杯に浮べた。

おーーっ! 
早い早いっ!
予想より、5分も早いわっ!

「アスカっ! 開けるよっ!」

ドアを蹴破るかと思われる勢いで、鍵の掛かっていないドアを開けると部屋の中に飛び
込んで来るシンジ。

「アスカっ! どうしたんだよっ!」

そこに見たものは、頭を膝の間に埋め込ませて丸くなりじっとしているアスカだった。

「どうしたのっ!? アスカっ! 何があったのっ!?」

「シンジぃぃぃ。」

そんなシンジを上目遣いで、見上げながら悲しそうな顔で抱き付くアスカ。シンジは何
があったのかと、悲壮な顔になっていく。

「ど、どうしたのさっ!? アスカっ!?」

「シンジぃ・・・。」

「何があったんだよっ!?」

「寂しかったの・・・。」

「・・・・・・・・へ?」

アスカの言った言葉の意味がわからず、きょとんとするシンジ。

「寂しかったの。」

「そ・・・それだけ?」

「うん。」

「ほ、本当に、それだけ?」

「うん、ああ言ったら、シンジが来てくれると思って。びっくりした?」

「な、なんてことするんだよっ! 心配したじゃないかっ!!!!」

さすがのシンジも、今回ばかりは怒った。そんなシンジの様子を見て、咄嗟にやりすぎ
たと焦るアスカ。

「ごめん・・・我慢できなかったの。寂しくて、1人でいるのが寂しくて・・・。」

間髪入れずに、シンジを見上げて涙をぽろりと流すアスカ。さすがにシンジも、こうい
う態度に出られては何も言えない。

「それじゃ、最初からそう言ってよっ!」

「今度からそうするから・・・今日はしばらく、ここにいて・・・。」

まだ怒りが納まらないシンジだったが、女の子の涙には勝てず、その日は夜遅くまでア
スカの話し相手をしてあげた。

「マナにも電話したんだけど、ご飯の途中だったから・・・。」

「・・・・。」

ぼくも、ご飯食べてたのに・・・。

無敵のシンジも、まだ女の涙の真意を見抜ける程、人生経験は豊富ではなかった。

<沖縄>

レイ,カヲル,ケンスケは、沖縄の砂浜の上で、休暇を楽しんでいた。とは言っても、
周りには付かず離れず黒服の男達がいるのだが、あまり気にしない。

ザザーーー。

波の音を聞きながら、レイは加持に渡されたサングラスをして、ビーチパラソルの下ト
ロピカルジュースを飲んでいる。

アスカ・・・やっぱり恥ずかしい。

アスカが選んだ、赤と白のストライプのビキニ姿の自分の体に目を向け、少し顔を赤く
するレイ。

「ねぇ、彼女? 一人?」
「どこから来たの?」

地元の高校生だろうか? 1人でジュースを飲んでいるレイの周りに集まって来ると、
それぞれが思いのまま声を掛けてくる。

「・・・・・・。」

「どうしたのさ?」
「俺達、恐くないって。」

「・・・・。」

そんな彼らを無視して、レイはジュースを飲み続ける。どうせ、下手なことをすれば、
諜報部員が駆けつけるので完全に無視である。

「やぁ、レイ。友達かい?」

「違うわ。」

そこへ、どこからともなく現れたカヲルが、自分の白い肌をみせながらじりじりと沖縄
の男の子達に近寄って行く。

「君たちの肌は黒いね。好意に値するよ。僕なんか、ほら。こんなに白いんだ。焼けな
  いのさ。」

「な、なんだこいつ・・・。」
「男連れだったのか?」

「どうやったら、そんなに黒く焼けるんだい?」

「しるかっ! そんなもんっ!」
「太陽に当っとけ。」

「じゃぁ、僕と一緒に日向ぼっこをしないかい?」

「な、なんで、お前なんかとっ!」
「おいっ! 行こうぜっ!」

「ん? 行っちゃったよ。どうしたのかな?」

「・・・・。」

そんなカヲルも無視して、レイはトロピカルジュースを飲み続ける。カヲルはカヲルで、
呑気にレイの前で1人日向ぼっこを始めた。

「どうも、こういう所に来ても、何をしていいのかわからないよ。」

「そうね。」

「せめて、シンジ君がいてくれたら、楽しいんだろうけどね。」

「アスカも、来たがってたわ。」

「彼女には、こういう所が似合ってるね。」

「ええ。」

その時、ビーチの向こうで、見知らぬ女性の怒鳴り声が聞こえた。どうやら、またケン
スケが何かやらかした様である。

「何処撮ってんのよっ! 変態っ!」

「あ・・いやっ! これは・・・。」

ベキベキっ!

「あーーーーっ! 俺のカメラがぁぁぁ。」

「フンっ!」

そんなケンスケの様子を見ながら、カヲルはクスリと笑った。レイも飲み終わったトロ
ピカルジュースのストローを弄びながら、微笑んでいる。

「彼が、1番楽しんでるみたいだね。」

「そうね。」

「ん?」

「なに?」

「いや・・・この感覚・・・。はっ!」

カヲルが叫び声を上げたので、レイも意識を集中していく。

「あっ!」

「レイは、加持さんに報告してっ! 僕はケンスケ君と後から行くから。」

「ええ。」

カヲルとレイはビーチの砂を蹴ると、唐突に動き出した。

<ネルフ本部>

同時刻、ネルフ本部でも警報が鳴り響いていた。

「パターンブルーっ! 使徒ですっ! 出現地帯は沖縄っ!」

「なんですってっ! まずいわ、即みんなを呼び集めてっ!」

第3新東京市周辺が安全である為、ヘリによるチルドレンの収集が行われ、数分後には
全員が集結した。

「今、台湾支部が向かってくれているけど、あそこはエヴァ1体しかないわっ! しか
  も、チルドレンも名ばかりのパイロットよっ。みんな急いでっ!」

台湾以外に韓国や中国の支部にも出動要請を出したが、すぐに出動できないとのことだ
った。事実上の出動拒否である。

「あいつらっ! 覚えてなさいっ! ただじゃすまさないわっ!」

ガンとコンソールを拳で叩き付けるミサト。ミサトがここまで感情的になって焦る事も
珍しい。

「いきなりのことですもの。仕方ないわよ。」

そんなミサトをリツコが諌めるが、ミサトの目は釣り上がっている。

「どーせ、これでレイとカヲル君が死ねば、本部の戦力低下になるとでも思ってるのよ
  っ! あいつらっ!」

ガンっ!

ミサトは、コンソールを殴りつけながらも、アスカ達の出動準備を進めて行った。

<弐号機エントリープラグ>

沖縄に向かって空輸されている途中、アスカも輸送機に乗った弐号機のエントリープラ
グの中で焦っていた。

もっと、速くっ!
レイさんっ! ご無事でっ!

出撃メンバーは、アスカ,マナ,マユミ,トウジ,ヒカリ。本部防衛のシンジ以外、全
兵力の投入である。対する使徒は、ガギエル6体。水中戦となる。

<沖縄>

レイ達は、沖縄本島のビルに避難していた。ときおり、海辺からガギエルのATフィー
ルドが展開され、島のあちこちのビルが崩れていく。

ドドーーーン。

少し離れたところにあるビルが崩れ落ちた。レイ達が避難しているビルは、台湾支部の
エヴァが一応守ってはいるものの、ATフィールドも弱く頼りない。

「来たみたいだね。」

それまで、目を閉じてじっと座っていたカヲルが、そっと赤い瞳を開けた。

アスカ・・・がんばって。

窓から見上げる空の向こうに、エヴァの輸送機が見え、だんだんと機影大きくなってい
く。そして、レイの瞳に輸送機から落下していく弐号機が見えた。

アスカ・・・。
今日はここから、見てるわ。

何もすることができないレイだったが、次々と落下していく本部のエヴァチームをいと
おしげな目で見つめるのだった。

<弐号機エントリープラグ>

一斉に砂浜に降り立つアスカチームと、トウジチーム。トウジチームがB型装備で、レ
イ達の防衛。アスカチームは、W型装備の使徒撃退が任務だ。

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作者注:本編ではB型,D型,F型しか出てこないので、水中戦用をW型と勝手に命名
        しました。BはBasicなので、WはWaterということで。
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間に合ったっ!
レイさんっ! 見ていて下さいっ!

「マナっ! まずは、北の海域から行くわよっ!」

『まかせてっ!』

「鈴原っ! レイさんをお願いねっ!」

『おうっ! 地上のことは気にせんで、やってくれっ!』

水中戦は、マナの18番である。逆に水中戦を苦手とするトウジは、得意な地上で今回
後方支援という形になる。

「行くわよっ! レディーっ! ゴー!」

一斉に水中に飛び込むエヴァ3体。アスカも初めての水中戦に、勝手がわからずとまど
ってしまう。

くっ! シュミレーションで何度もやったはずなのにっ!
こんなに、動きにくいなんてっ!

思う様に動かないの身体を、シンクロ率でカバーしながら、なんとかかんとかマナに付
いて行くのが精いっぱいである。

『先輩っ! 付いて行けませんっ!」

「マユミは、後方から距離をあけて付いてくればいいわっ!」

そこへ、ガギエルが突っ込んで来る。

ダメっ! かわせないっ!

逃げようにも自由に動けないアスカは、すんでのところでATフィルードを張り、なん
とか直撃をかわす。

ドーーーン。

アスカをすり抜け去って行くガギエルに、水中用のライフルを発射するが、あっさりと
かわされてしまった。

ダメだわ・・・マナの援護に徹するか・・・。

そんな中、マナは水の中に浮かび上がったリボンの様に水の流れに合わせて巧みに身体
を動かすと、ガギエルと戦闘を繰り返していた。

マナに迫るガギエル。その水の流れを利用して、さらりと身を交わすと、すれ違い様に
アクティブソードをコアに突き刺すマナ。

すごいっ!
どうして、あんな奇妙な動きができるの?

アスカもやってみようとするが、うまく動いてくれない。マナの動きを思い出しながら、
なぜだろうと考える。

そうか・・・敵が迫る水圧を利用してるのね。

マユミと共に、マナに使徒が集結しないように援護していたアスカだったが、ふわりふ
わりと水の中をガギエルに迫って行く。

さぁ、来なさい。
ほぉら、待ってるわよぉ。

マナに攻撃しようとしていたガギエルが、近寄って来たアスカを目に止め、進路を変え
て突撃してくる。

『アスカっ! 危ないっ!』

「アンタは、あっちの使徒をっ!」

『でもっ!』

さっきまで、のたのたしていたアスカが前線に出てきたので、心配してマナが援護に来
ようとするが、アスカはそれを制する。

来たわねっ!

そんなアスカに容赦無く突撃してくるガギエル。しかし、アスカは待ってましたとばか
りに舌なめずりをして迎え撃った。

えっと、こうやってっと・・・よっと。

マナの真似をして、水の流れを利用しながら、エヴァの身体をふわりと浮かせる。

それでっと・・・。
よっと。

ドーーーン。

アスカがスマッシュホークをコアに斬りつけると、使徒がコアをスマッシュホークにぶ
つけて来る様な形で直撃し、ガギエル1体を殲滅した。

「なーるっ!」

目を剥いたのは、マナある。シンクロ率の違いがあるとはいえ、自分が何度も訓練して
身につけた技をいきなりの実戦でこれである。

「マナっ! だいたいコツは掴んだわっ! こっちの残り1体はアタシがやるから、マナ
  は、反対の海域の3体に向かってっ!」

『え、えぇ・・・。』

マナは唖然としながらも、アスカの指示に従い反対側の海域に向かって行った。

「さてと・・・残りの1体は?」

マナが反対側の海域へ向かったので、アスカはマユミを伴い残ったガギエルを捕捉しよ
うと水中を進んで行く。どうやら、岸に近い所にいるようだ。

「よし、とらえたわっ! 行くわよっ!」

しかし、アスカが近付くと、ガギエルはアスカに向かわず更に岸の方へと向かって行っ
た。丁度、レイ達がいるビルの近くの海域である。

「ま、まずいっ! マユミっ!」

『後8秒で射程に入りますっ!』

「急いでっ!」

マユミはアスカが指示をするより早く、その意図を察して敵の進路を妨害する位置へ移
動していた様だ。アスカは、目前の戦闘に全力を集中する。

「行かせるかっ!」

全力でガギエルに突進するアスカ。ガギエルも、あと少しで岸というところで、マユミ
が弾幕を張った為、ユーターンしてアスカに迫って来る。

「このぉっ!!!」

先程と同じ様に、敵の動きに合わせてスマッシュホークを振りかざすが、パターンが違
った。

「ちょ、ちょっとっ! 真っ直ぐ来なさいよっ! 下から突き上げてくる敵の対応なんて、
  まだ見てないわよっ!」

所詮はマナの物真似である。少し戦闘パターンが変わると、メッキが剥がれてしまい、
ガギエルを取り逃がしてしまった。

「くっ! マユミっ!」

『やってますっ!』

ふと見ると、逃がしたガギエルを再びアスカの方へと、ライフルで威嚇しながら誘導し
ているマユミの姿が見えた。

そう。その調子・・・。

先程アスカが敵を倒した形と同じ遭遇戦になる様に、マユミが誘導してくれたおかげで
難なくガギエルを殲滅することができた。

<沖縄>

全ての使徒を撃破し、アスカ達は沖縄本島へ上陸していた。今回は、アスカの功績もあ
るが、やはりマナが一番の功労者である。

「さっすが、マナねぇ。アタシが1体倒すより早く、3体倒すんだもんねぇ。」

「へへへぇ。ちょっと、あの後とっておきの攻撃をね。」

「えーーーっ、なになに? どんなことしたの?」

興味津々といった感じで、マナに詰め寄るアスカ。しかし、マナはにこっと笑って、軽
くはぐらかす。

「えへへ。内緒ぉ。これ以上、アスカに技を盗まれたら、わたしの見せ場がなくなるわ。」

「ぶぅ。ケチぃ。」

そんな他愛の無い会話をするアスカとマナの所へ、レイとカヲルが走り寄って来る。

「あっ! レイさーーんっ!」

大きく手を振るアスカに、レイも小さく手を振って駆け寄ってくる。

「あ、綾波さんって・・・意外と大胆なのね。」

駆け寄って来たレイの水着を見たマナは、目を丸くして驚いていた。レイもマナの反応
に頬を赤く染める。

「こ、これは・・・アスカが・・・。」

「これ? アスカが選んだの?」」

「そうよっ! 似合ってるでしょ?」

「そ、そう? 綾波さんにはもっと、白いワンピースとかの方が・・・。」

ポリポリと頭を掻いて苦笑するマナ。アスカにならともかく、あまりレイには似合って
いるとは思えない。

「やぁ。マナ、がんばってたね。」

「な、渚くんまで・・・。」

さらに顔を真っ赤にするマナ。カヲルの海水パンツはいわゆるブーメランと言われる露
出度の高いものだった。

「あっらぁ、カヲルもだいたーん。」

さすがのアスカも、そのカヲルの姿には目を丸くする。

「そうかい? この間、シンジ君とお揃いで買ったんだ。」

「シ、シンジぃぃぃ?」

ぼーーっと想像してみるが、とても似合いそうに思えない。それどころか、なんとなく
そのアンマッチに笑いそうになってしまう。

「でも、シンジ君。恥ずかしがって履いてくれないんだ。」

「やっぱりねぇ。あら? ところで、ケンスケは?」

「台湾支部のパイロットの女の子と、話してたよ。」

「お、女の子????」

「うん、チュン・リーとかいう、かわいい娘だったよ。」

「な、なんですってーーーーっ! マナっ! ヒカリっ!」

キラーンと3人娘の目が光ったかと思うと、カヲルからケンスケの居所を聞き、一斉に
走り出した。

<ホテルのロビー>

アスカ達が、ホテルのロビーまで駆けつけると、予想していたのとはかけ離れているシ
ーンが繰り広げられていた。

「ちょとっ! あれどういうことよっ!」

アスカがマナのプラグスーツをぐいぐいと押す。

「へぇ、相田くんもやるわねぇ。」

「シッ。気付かれるわよっ!」

アスカ達が驚くのも無理はない、どう見てもケンスケの方が迫られているといった感じ
なのだ。

『ねぇねぇ、彼女いないんでしょ?』

『うん、いないけど・・・。』

『じゃ、わたしが彼女になっちゃおっかなぁ。』

『え・・・。』

『遠距離恋愛は嫌?』

『そんなことないけどさ・・・。』

女の子からこんなことを言われたことのないケンスケは、いつもの呑気さはすっかり姿
を失せ、あたふたと慌てふためいていた。

「しっかし、あの娘も趣味悪いわねぇ。」

「アスカぁ。そんなこと言うもんじゃないわよ。」

「わたしも、そう思うわ。」

「マナまでぇ。」

といいつつ、ヒカリも興味津々で2人を植木の陰から、眺めている。そうこうしている
うちに、話は一方的に女の子の方からまとめていき、文通することになった様だ。

「それじゃ、最初はわたしの方から書くから。あっ! 時々、電話もするね。」

「あ、あぁ・・・。」

そろそろ帰国の時間なのだろう。その娘は堅く握手とすると、何度も手を降ってケンス
ケの元から走り去って行った。

「・・・・・・。」

それまで押されまくって、困った顔をしていたケンスケだったが、だんだん実感が沸い
てきたのか、ニヤニヤしながら握り拳を作ってじっと見ている。

「ケンスケーーっ! おめでとーーーっ!」
「相田くん、やるーーっ!」

そんなケンスケの横から、アスカとマナが飛び出してきた。ケンスケがビクッとして振
り返ると、後ろから出てきたヒカリにパチリと写真を撮られる。

「一部始終を、この中に納めたわよ。」

「あっ! ちょ、ちょっとっ! まってっ!」

ヒカリの手に持つカメラを奪おうとするが、アスカとマナに行く手を遮られる。

「アタシ達の写真、今後1枚でも取ったら、そのニヤけた顔をあの娘に渡すんだからね
  っ!」

「げっ!」

「それから、今まで取った写真のネガも全部返してね。」

「う・・・。」

マナとアスカに押し切られたケンスケは、その後写真を取れなくなったが、そんなこと
をする必要もなくなったというのが真相かもしれない。

<海岸>

ホテルのロビーから戻ってきたアスカは、マナ達と海岸で遊戯れていた。

「レイさんの、零号機を持ってきたら良かったわねぇ。そしたら、あんな苦戦しなかっ
  たのに。」

「そういう手もあったわねぇ。」

「今回は、初めての水中戦だったから苦労したわぁぁ。」

マナと水辺でそんな会話をするアスカだったが、数日後、いかに自分が恵まれていたの
かを実感することになろうとは、この時は想像もしていなかった。

<ネルフ本部>

その頃、戦闘が終わりレイ達も無事だと知ったミサト達が一息ついている所へ、オース
トラリア支部より通信が入った。

「やっかいなこと言ってきたわね。」

その通信内容を見て、リツコが眉をひそませる。

「そうかしら? 物は考え様よん。しばらく、アスカを他の支部から隠せるわ。」

「でも・・・あそこって・・・。」

「それが問題だけどね。ちょっち、考えもあるから。」

「ならいいけど。」

リツコは、少し不安を感じながらも、オーストラリア支部より入った通信文に再度目を
通すのだった。

To Be Continued.
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