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マイ ライフ
Episode 10 -Eye Of The Tiger 後編-
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<ドイツ支部>

プルルルルルルルルルル。

「お電話中ですか?」

「あら?」

紅茶を飲みながら何処かへ電話していたイライザは、携帯電話をテーブルの上に置くと、
近寄ってきたアニーの方へ向き直った。

「久しぶりに、アメリカ支部の知り合いにご挨拶をと思いまして。」

「そうですか。」

「でも、何度掛けても出ないんですのよ? 携帯のはずですのに、おかしいですわね。」

「そういうこともありますよ。」

「なにかございましたの?」

「ワルシャワ近辺に、使徒が出現しました。ロシア支部と共同作戦ということです。」

「管理主義のロシア支部とは、行動したくないですわ。」

「命令ですから、我慢して下さい。」

「でも、ただ今わたくし、ティータイムですの。」

「では、出動の準備をして待ってます。紅茶を飲み終わったら、ケージまで来て下さい。」

「わかりましたわ。ティータイムに現れるなんて、礼儀を知らない使徒ですこと。」

アニーが退室した後、イライザはローズティーを口につけて先程置いた携帯電話に目を
向けた。

おかしいですわねぇ・・・。

<オーストラリア支部>

本日のムサシ達の訓練も終了し、アスカはシャワールームで汗を流していた。元々、こ
ういった文化で育ったアスカだが、本部の銭湯が恋しく思える。

ある程度は形になってきたわ。
アタシが帰った後、自分達で訓練を継続できるくらいになれば・・・。

今日になって3人に目覚しい進歩が見えたのだ。その全てがリーダーとなったムサシの
がんばりによるところが大きい。

がんばるのはいいけどねぇ。
はぁぁぁ・・・どうしたものか・・・。

汗を流したアスカが、シャワールームから出て行こうとしたところ、入れ替わりにシン
ディーとすれ違った。

「あら、アスカさん。」

嫌な奴と会うわねぇ。

「ちょっと、模擬戦で私に勝ったからっていい気になってるんじゃないでしょうね?」

「なってないけど?」

アンタに勝っても、そんな気になれないわよっ!

「そんなことして、アンドリュー作戦部長に媚びても無駄よっ! フンっ!」

「だっ、誰がっ!」

アスカがキっと見返すと、シンディーはシャワールームの個室へと入り頭の先からシャ
ワーを浴び始めた。

「ちっ!」

ガタンッ!

アスカはシャワールームの扉を思いっきり閉めると、脱衣所に置いておいた自分の服を
ムカムカしながら身に纏うのだった。

<司令室>

翌日、ハワイに使徒が出現したとの報が入り、オーストラリア支部のチルドレンは司令
室に呼び集められた。

「アメリカ支部に連絡を取ろうとしたが、前回出動要請を出した時と同様返答は無い。
  よって、オーストラリア支部よりエヴァを出動させる。」

前回とは、アスカがここへ来ることになる切っ掛けとなった、チルドレン3人が死んだ
戦闘の時のことであろう。

「ハワイ島までは、輸送機で移動しその後は追って指示を出す。敵はサキエル3体だ。」

「作戦部長っ!」

「なんだ?」

「サキエル3体なら、アタシとマユミだけでいいわ。」

「それは駄目だ。シンディー無しで倒せる相手ではない。」

邪魔なのよっ!
こいつが来るとっ!

「全戦力を投入にて、敵を殲滅する。」

アスカは沖縄での作戦行動を思い出し、仲間に背中を任せられるかそうで無いかで、精
神的プレッシャーが圧倒的に違うことを痛感する。

「気を引き締めて出撃し給え。」

こうして、アスカ達は輸送機に乗り込みエヴァと共にハワイへ向かって出撃して行った。

<ハワイ島>

アスカ達がハワイ島に到着すると、アンドリューの指示によりアリッサ,ケイタ,ムサ
シ,マユミ,アスカ,シンディーの順で縦一列に並び、行進を開始する。アンドリュー
お得意の戦闘パターンだ。

柔道や剣道じゃないんだから。
親分を一番後ろに持ってくりゃいいってもんじゃないでしょうに・・・。

初っ端からアスカは頭を抱えつつも、縦一列に連なる一糸乱れぬエヴァの行進に付き合
っていた。

今日で、もう6日目なのよねぇ。
ムサシ達も、結構形になってきたし・・・。

「ムサシっ! 聞こえる?」

『あっ! はいっ!』

「アタシが今まで教えた成果。見せて頂戴ね。」

『はいっ!』

「アンタ達3人だけでも、サキエル3体なら充分倒せるはずよっ!」

『はいっ! がんばりますっ!』

プライベート通信を開いたアスカは、ムサシに気合を入れさせる。おそらくこれが事実
上の卒業試験になるだろう。

『サキエル発見しました。ATフィールドを展開しています。』

アリッサから通信が入る。ようやくサキエルと接触した様だ。

『よーしっ! アリッサ,ケイタ,ムサシは、ライフルで攻撃しつつ前進だっ!』

『えっ?』
『ラ、ライフルって、ATフィールドを展開してるんですよ?』

アンドリューの指示に、疑問の声を上げるアリッサとムサシ。しかし、アンドリューは
おかまいなしに、命令を続ける。

『敵が前進しないように、威嚇するのだ。そんなこともわからんのかっ!』

『それなら、こちらもATフィールドで・・・。』
『接近戦なら、プログナイフの方が・・・。』

今度は、ケイタとムサシが反論する。

『つべこべ言わずに、さっさと行かんかっ! ナイフよりライフルの方が強いに決まっ
  とるだろうっ!』

『・・・・・・。』
『・・・・・・。』
『・・・・・・。』

結局、押し切られる形で命令された3人は、ライフルを撃ちながら前進を開始したが、
そんな会話を聞いていたアスカは、満足気だった。

『ケイタっ! アリッサっ! ATフィールド中和して。』

『『了解。』』

3体のサキエルのうち、先頭の1体と遭遇したムサシは、2人にATフィールドを中和
させながら近接戦闘をしかける。その間、2人はライフルで敵の集中を阻止する。

いい感じだわ。
初めて見た時はどうしようかと思ったけど、結構素質あるじゃん。

アスカは、ムサシ達の戦い方を嬉しそうに眺めながら、自分の教えた後輩が成長してい
く喜びを噛み締めていた。

途中アンドリューの意味不明の命令が入ったり、何度か失敗はあったものの、ムサシ達
は2体のサキエルを撃破し、最後の1体もあと少しで倒そうというところまできていた。

ん?
・・・何これ・・・。

ムサシ達の後方から時折多少の援護をしているマユミの横で待機していたアスカは、突
然奇妙な感覚にとらわれた。

ちょっと・・・これって・・・。
まさかっ!!!!!!!!!!!!!

思わず全力で走り出すアスカ。マユミも突然アスカが走り出したので、理由はわからな
いがとにかくアスカの後に付いて行く。

『アスカ君っ! 何をしているっ! 作戦中だぞっ!』

「まだ、使徒がいるのよっ!」

『なにを、馬鹿なことを言ってるんだっ! 配置に戻り給えっ!』

ザバーーーーーーーーッ!!!!

しかし、アスカの言っていることが正しかったことを証明するのに、わずかな時間も必
要なかった。

「なんですってーっ!! こんなにっ!! まずいっ!!」

気がつくと、ムサシ達を取り囲む様に、ゼルエル8体、イスラフェル4体が地中から姿
を現したのだ。

「マユミっ! 援護っ!」

『はいっ!』

アスカはムサシ達が囲まれない様に、使徒の中にスマッシュホークを振りかざして殴り
込んで行く。

ズガーンズガーン。

マユミは、アスカに敵の攻撃が集中しないように、ライフルで援護射撃をする。

「ムサシっ! みんなを誘導っ! マユミの所まで退却っ!」

『は、はいっ!』

シュミレーションでもやったことがない、最悪の戦局にムサシはしどろもどろになりな
がらも、ケイタとアリッサと共にマユミの所まで逃げて行った。

「うりゃーーーーーっ!!」

その後を追い掛けるゼルエルに切り掛かるアスカ。とにかく敵の数が多いので、振れば
何かに当る。

『ムサシ君っ! 早く逃げて・・・きゃーーーーーーーっ!!!』

「マユミっ!!」

ふと見ると、ムサシ達の盾になっていたマユミが、ゼルエル2体の体当たりを受け、飛
ばされている所だった。

「マユミっ!!!!」

アスカは目の前のイスラフェルを蹴り倒すと、マユミの前に走り寄る。

『すみません・・・手をレバーに詰めて痺れてますが、支障はありません。』

「逃げるわよっ!」

『はいっ!』

とにかく輸送機まで戻らなければならない。アスカは最後尾で敵の追撃を蹴散らしなが
ら、味方を逃がして行く。

くそっ!
また来たかっ!

「マユミっ! 後頼むわよっ!」

『はいっ!』

「うりゃーーーーっ!!!」

迫ってきたイスラフェル2体に、スマッシュホークを振りかざして突撃するアスカ。し
かし、敵はイスラフェル。切っても切っても、蘇生してしまう。

これくらい時間を稼げば充分かっ!

それでもある程度時間が稼げたので、アスカは先に逃げた仲間の後を追って走り出した。

                        :
                        :
                        :

「そ、そんな馬鹿な・・・。」

ようやく輸送機が着陸している空港まで辿り着いたアスカは、その情景を見て呆然とし
ていた。どこから回り込んだのか、ゼルエルが輸送機を破壊していたのだ。

くそっ。
敵を殲滅するしかないか・・・。

「ムサシっ! シンディーと協力してゼルエルの足止めしといてっ! 先にマユミとイス
  ラフェルを叩くわっ!」

『はいっ!』

ムサシが、遠距離射撃で時間稼ぎをしている間に、アスカはマユミを伴いイスラフェル
を攻撃しに行く。

「マユミっ!」

『行けますっ!』

「スリー,ツー,ワン! アタックっ!」

アスカとマユミの過重攻撃により、まずは1体のイスラフェルを撃破する。それと同時
に迫ってきていた別のイスラフェルを蹴り倒し、一旦距離を置いて再び攻撃を再開する。

「次っ! 行くわよっ!」

『はいっ!』

長時間ムサシ達がゼルエルの足止めができるとは思えないので、次から次へとイスラフ
ェルとサキエルを各個撃破していく。

「よしっ! 最後の1体よっ!」

『アスカさんっ! アリッサがっ! アリッサがっ!』

そして、ようやくイスラフェルが最後の1体になった時、ムサシの悲痛な叫び声が通信
に入ってきた。

「アリッサがどうしたのっ!」

アスカが、最後のイスラフェルとの戦闘を放棄してムサシ達の元へ戻ると、そこには片
足を切り落とされたアリッサのエヴァの姿があった。

『俺を庇って、アリッサがっ!』

「とにかく、アリッサを安全な所へっ!」

『はいっ!』

『キャーーーーーーーーーー。』

今度は、シンディーの悲鳴が通信に入ってくる。アスカが振り向くと、3体のゼルエル
に囲まれて、集中攻撃されていた。

「あのバカっ! なにしてんのよっ!」

『アスカ君っ! シンディーの援護に向かうんだっ!』

時折入ってくるアンドリューの声が邪魔で仕方が無いが、いちいち相手にもしてられない
ので、無視してシンディーの救出に向かう。

まったくっ!
こんな時に、足手まといになんないでよねっ!
敵の真ん中でライフル撃ってんじゃないわよっ!

アスカは、ゼルエルの軍団の一角に血路を開くと、シンディーの前に躍り出た。その後
方からマユミが援護射撃をしているが、さすがに敵はゼルエルなので効果が薄い。

ちっ! 囲まれたかっ!

『いやーーーーーーーーっ!』

ズガガガガガガガガガガガガ。

半狂乱となったシンディーが、むやみやたらとライフルを乱射する。

「こっちが、危ないから撃つなっ!」

「いやーーーーーーーーっ!」

ズガガガガガガガガガガガガ。

「撃つなっつってるだろうがっ!」

ガンっ!

自分や仲間に当てられかねないので、シンディーのライフルを地面に叩き落とす。

「あそこの一角を切り崩すから、そこから脱出するのよっ! わかったわねっ!」

『あ、あそこから、逃げれば・・・。』

「そっ! あそこよっ! よく覚えておきなさいっ! 行くわよっ! うりゃーーーっ!」

とにかく、逃げ道を作らなければならないので、ゼルエル1体に集中攻撃する。

「ATフィールド全開っ!」

ズガーーーンっ!!

ATフィールドを全開にし、スマッシュホークで切り付けるが、両隣に位置するゼルエ
ルがATフィールドを張ってくるので、完全に中和できずスマッシュホークを遮られて
しまう。

「このーーーーっ!!!」

ズガーーーンっ!!
ズガーーーンっ!!

何度も一点集中で切り付けるが、敵の力が強すぎる為致命打とならない。それどころか、
敵の攻撃を避けるのが精いっぱいである。

「はぁはぁはぁ・・・。」

『先輩っ! 駄目ですっ! 遠距離射撃では埒が開きませんっ!』

ゼルエルの輪の外からマユミ達がアスカと息を合わせて攻撃しているが、遠距離攻撃で
はゼルエルのATフィールドが突破できないようである。

『キャーーーーーーーーッ!!!』

背中から、シンディーの悲鳴が聞こえてくる。振り返るとゼルエルの攻撃を受け、右手
が切り落とされていた。

なにしてんのよっ!!
あの、役立たずがっ!!

ゼルエルへの攻撃を止め、シンディーの援護に向かうアスカ。ゼルエルの輪もどんどん
狭くなってきており、このままではやられるのが時間の問題である。

『ぐぁぁぁぁぁぁぁ。』

今度は、ケイタの叫び声が聞こえた。アスカを助けようと近接戦闘を仕掛けて、逆撃を
食らってしまったのだ。

「ケイタっ! ムサシっ、ケイタを避難させてっ!」

『はいっ!』

くぅ・・・。
絶体・・・絶命か・・・。

でもっ!
なんとしてでも、みんなだけはっ!

再び、自分を奮い立たせたアスカは、既に刃の所々が欠けてきているスマッシュホーク
を握り締めて、ゼルエル1体へと突撃していく。

「うりゃーーーーーーーーっ!!!」

ガンガンガンっ!

ゼルエルの白い帯がアスカに迫る。

「させるかっ!」

その帯を、スマッシュホークでぶった切り、さらに切り込んで行くアスカ。

ガンガンズガンっ!

しかし、何重にもお互いに重ねて相乗効果で強くしたATフィールドは、どんなにAT
フィールドを中和しつつ切り付けても、アスカだけの力では突破できない。

「こんちくしょーーーーーーっ!!!」

どんどん刃が欠け落ちていくスマッシュホークだが、諦めずに攻撃を繰り返すアスカ。

ズバーーーーーーーーーーーン。

そこへ、一筋の閃光がアスカの前で輝いた。

ズバーーーーーーーーーーーン。

「な、なに?」

ズバーーーーーーーーーーーン。
ズバーーーーーーーーーーーン。
ズバーーーーーーーーーーーン。
ズバーーーーーーーーーーーン。

その閃光は、アスカが攻撃していたゼルエル1体に何本も集中的に集まってくる。さす
がのゼルエルもその膨大なエネルギーの前に、じりじりと後ろに押されて行く。

「これはっ!?」

ふと、アスカがその閃光の元へ視線を向けると、空の輸送機からポジトロンライフルを
撃ち込みながら落下してくる零号機や本部のエヴァチームの姿が目に入った。

「レ、レイさんっ!? ど、どうして?」

『鈴原君っ! 着地と同時にアスカと連携して突破口をっ!』

『よっしゃっ! まかせとけっ!』

通信回線から、懐かしいレイの声が聞こえてくる。それと同時に、疾風のごとき速さで
トウジが落下地点から疾走してくる。

「鈴原っ!」

『ワイと山岸でATフィールド中和するさかい。突破してこいやっ!』

さすがはトウジである。あっという間に、アスカ達と合流すると、一気にATフィール
ドの中和を始める。

ズバーーーーーーーーーーーン。
ズバーーーーーーーーーーーン。
ズバーーーーーーーーーーーン。
ズバーーーーーーーーーーーン。

その間も、絶え間無くレイの指示で撃ち込まれてくるポジトロンライフル。さすがのゼ
ルエルもATフィールドを中和された所へ、ポジトロンライフルの集中攻撃を食らって
は耐え切れない。

「シンディーっ! 行くわよっ!」

「わ・・・わ・・・わかったわ。」

ズドーーーーーーーーン。

そしてとうとう、1体のゼルエルが爆発した瞬間を狙って、その包囲網から脱出するア
スカ。それと同時に、レイ達もアスカ達と合流してくる。

『本部のエヴァがどうして出動してるんだ?』

どうしてここにレイ達が現れたのかわからないアンドリューが、わけがわからないと言
った感じで言葉を発する。

『とにかく、これだけの戦力だ。全員で、ライフルを使徒に向かって砲撃するんだっ!』

『あっらん、斬新な命令を出すわねん。』

そんなアンドリューの指示に、ミサトが口を挟んで来る。

『でもあの子達には、もう指示を出してるから、大丈夫よん。』

『これはこれは、高名な葛城三佐。既に? どんな指示を出されているのですかな?』

『使徒殲滅よん。』

『はぁ? それだけ・・・ですか?』

『そうよん。他に目的があるかしらん?』

『いや・・・そうではないですが・・・。』

『じゃ、黙って見てましょうね。』

『ぐぐぐぐ・・・。』

そんな通信など無視して、レイは的確な指示をチルドレンに与えて行く。そんな様子を
シンジは、キラウエア山から見下ろしていた。

後は、ゼルエル7体とイスラフェル1体か・・・。
どうってことないね。

ゼルエルの包囲網から脱出したアスカは、レイからアクティブソードを受け取ると、再
びゼルエルへ向かって攻撃を仕掛けた。

『山岸さんは、アスカのバックアップに。霧島さんと相田君は、私に続いて。鈴原君と
  洞木さんは、向こうのイスラフェルへ。』

『わたしも、ライフルで遠距離射撃をっ。』

味方優勢と知るや、自分もライフルを持って攻撃に参戦しようとするシンディー。

『邪魔よ。』

『なっ!』

『邪魔やっちゅーとんやっ! ワレッ! 目の前でちょろちょろすなぼけっ! このドヘ
  タっ!』

『くっ・・・。』

レイにばかりか、トウジにボロカスに言われたシンディーは、反論することもできず、
おずおずと後退する。

そんなシンディーを無視して、レイの的確な指示の元、次々と粉砕されていくゼルエル
軍団。その様子をムサシ達は、驚きの眼差しで見つめる。

すごい・・・。
これが、アスカさんのいる本部のチームなのか・・・。

『よっしゃっ! イスラフェル、倒したでっ!』

『アスカの援護に回って。こっちは、もう片付くわ。』

「フンっ! 鈴原が来る前に、こっちも片付くわよっ!」

『なんやてっ! ワイの足をなめたらあかんでっ!』

意地になったトウジは、全速力でアスカの前まで駆け寄ると、そのままの勢いでアスカ
が狙っていたゼルエルのコアへアクティブソードを突き刺した。

「ア・・・アンタねぇ・・・。」

『どやっ! みたかっ!』

「アタシの獲物を取るんじゃないわよっ!」

こうしてあっという間に、ゼルエル軍団は消滅した。そんな中、このチームに自分がい
ることがどれほど恵まれているのかを、アスカは改めて実感するのだった。

「でも、どうして、レイさんが?」

『山岸さんのSOS信号を受け取ったの。』

「へ? マユミ、そんなの出したの?」

『いいえ・・・。私は何も・・・。』

『リングからの信号が途絶えたわ。』

『あっ!』

ふと、マユミが自分の指を見ると、ゼルエルに体当たりされてレバーに手を詰めた時に、
指輪が壊れてしまっていた。

『手を詰めた時に、指輪が壊れたみたいです・・・。』

「そういうことか・・・。ま、おかげで助かったわ。」

そこへ、それまで戦局を見ていたシンジが、とことこと近寄ってきた。

「シンジぃぃ。シンジも来てくれたのぉ?」

『うん、カヲル君以外、全員出動したよ。』

「そうなんだぁ。」

久しぶりにシンジの声を聞いて嬉しくなるアスカ。しかし、そこへムサシが勢い良く駆
け込んでくる。

『お前が、シンジかっ! 俺と勝負しろっ!』

『へ?』

いきなり、挑戦状を叩き付けられて、呆然とするシンジ。

『この俺と、この場で1対1で勝負だっ!』

「ムサシっ! 何バカなこと言ってるのっ!」

慌ててアスカが止めに入るが、ガンとしてシンジの前から動こうとしないムサシ。

『この俺とどっちが強いか、アスカさんの前で勝負だっ!』

『ぶははははははははははははははははははっ!!!!』

その通信を聞いていたトウジが、突然腹を抱えて笑いはじめた。

『シンジと勝負だって? 正気か? ワハハハハハハ。』

ケンスケも、トウジに続いて笑いはじめ、つられる様にマナやヒカリの笑い声まで通信
回線から聞こえてくる。

『なにを馬鹿なことを言い出すんだっ!』

焦ったのは、アンドリューである。ムサシは知らない様だが、さすがにアンドリューは、
作戦部長である。シンジの名前くらいは良く知っている。

『これは、宣戦布告かしらん?』

そんなアンドリューをからかい始めるミサト。

『ご、ご冗談をっ! ムサシっ! 馬鹿なことは止めろっ!』

『とりゃーーーーっ!!』

しかし、ムサシは聞く耳持たないと言った感じで、プログナイフでシンジの初号機に切
り掛かった。

『ミサトさーーーん。』

そんなムサシのプログナイフを、当る直前でギリギリの大きさのATフィールドを展開
してかわしながら、どうしたものかミサトにすがるシンジ。

『お相手してあげれば?』

『そんなぁ。』

『どりゃーーーーーっ!!!』

しかし、ギリギリの所でシンジがATフィールドを張っている為、ムサシは当っている
と勘違いしているのだろう。何度も何度も切り付けてくる。

「ムサシっ! やめなさいっ!」

アスカが慌てて止めに入る。

『なんでっ! なんで、こんな奴の方が、アスカさんは好きなんですかっ! アスカさん
  は、こいつの何処が好きなんですかっ!』

「!!!!!!!!!!!!!」

『えっ!?』

目が点になるシンジと、突然顔が真っ赤になるアスカ。

「アンタバカぁぁぁぁああああっ!! なんてこと言うのよっ!!!」

『だって、シンジって奴のことが好きだって言ってたじゃないですかっ!』

『ア、アスカ?』

「バカーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

ズガーーーーーーーーン。

思いっきり弐号機に蹴り飛ばされるムサシのエヴァ。残されたアスカは、何と言ってい
いかわからずシンジの初号機を見上げる。

「あ、あの・・・その・・・だから・・・。」

『アスカ・・・今のって・・・。』

「アンタがいけないのよっ! アンタがっ!」

『え?』

「そうよっ! アンタがいけないのよっ!」

『はぁ?』

「ウルサイっ! ウルサーイっ! 好きなもんは好きなんだから、しょうがないでしょう
  がっ! 文句あるわけぇっ!」

『いや・・・だから・・・。』

そんなシンジとアスカの会話の横で、ぼそぼそと小声の通信が入る。

『なぁ、ケンスケ? 惣流の奴、何言うとんのや?』

『さぁ・・・。』

『素直に言えない娘なのよ。』

『ほやけど、ヒカリ・・・わけわからんど。あいつの言ってること。』

そんな外野の声はさておき、アスカは弐号機から降りると初号機の下まで走って行った。
シンジもそんなアスカを見て、何事かと初号機から降りるとアスカの元へ駆け寄る。

「好きになったもんはしょうがないでしょっ! ア、アンタは・・・アンタはっ! アタ
  シのことどう思ってるのよっ!」

「そんな・・・急に言われても・・・。」

「嫌いなのっ!?」

「そういうわけじゃ・・・ないけど。」

「じゃっ! 好きなのねっ! 好きなのねっ! 好きなんでしょっ!」

「へっ?」

「じゃ、両思いなのねっ! 好きなんでしょっ!」

「そ、そうなるの?」

「そうなるのよっ!」

「うん・・・。」

「ほ、ほんとうっ!? 本当なのねっ!!! 本当に、本当なのねっ!!!」

アスカはそういいつつ、がばっとシンジに抱き付いたかと思うと、顔を隠して両手でシ
ンジを抱き締める。

「アタシじゃ、嫌?」

「そんなことないよ。」

「アタシ、結構わがままよ?」

「知ってるよ・・・。嫌っていう程・・・。」

「ムッ! 失礼しちゃうわねっ!」

「だって・・・。」

「アンタも、アタシのこと好きなんでしょ?」

「う、うん・・・。たぶん・・・。」

「じゃ、キスして・・・。」

「えーーーーーーーーーーーーっ! みんな見てるよっ!」

「いいからっ!」

「嫌だよぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」

「するのっ!」

「うぅぅぅ・・・。」

どうしていいのかわからなくなったシンジは、やむなくアスカの顔に自分の顔を近づけ
る。アスカも目を閉じて運命の瞬間を待ったが、その感覚を感じたのはおでこだった。

「あっ! あーーーーーっ! ちがーーーうっ!」

パーーーーーーーーーーーーンっ!
パーーーーーーーーーーーーンっ!
パーーーーーーーーーーーーンっ!

その瞬間、本部のエヴァチームがポジトロンライフルを宙に向かって一斉に撃ち放つ。

『おめでとーーっ! アスカぁっ!』
『いやぁ、めでたいこっちゃでぇ。』
『おめでとーっ!』

少し不満が残るアスカだったが、皆に祝福され想いも叶い幸せ一杯の笑顔を、少しはに
かみ照れながら振り撒くのだった。

<オーストラリア支部>

オーストラリア支部に戻ると、完全に失恋したムサシが、1人休憩室でうな垂れていた。

「ほら、アリッサ。」

「でも・・・。」

「行ってきなさいよ。」

「はい・・・。」

そこへやって来たおでこにばんそうこうを貼ったアスカは、背中を押してアリッサをム
サシの元へと押しやる。

「ムサシ・・・。」

「なんだ。アリッサか。」

「あの・・・。」

「もう大丈夫か? 俺をかばったりするから。」

「だって、ムサシにもしものことがあったら。」

「関係無いだろ。」

「そんなことない・・・。」

「どうしてだよ。」

「だって、その・・・わたし・・・ムサシのこと好きだから・・・。」

そこまで物陰で聞いていたアスカは、思わずガッツポーズを取ってアリッサの勇気を褒
め称える。

「えっ!?」

「その・・・前から好きだったの。」

「俺を?」

「うん・・・。」

「そ、そうだったのか・・・俺、何も知らなかったから・・・。」

そうこうしているうちに、だんだんと2人が良い雰囲気になってきたので、アスカも、
もう大丈夫だろうとその場を離れていった。

<空港>

そして、翌日。

いよいよアスカが帰る日となった。

「ムサシ達の教育、ご苦労だった。ある程度は、力は付いた様だ。」

最後の挨拶にアンドリューが飛行機のタラップの上まで見送りに来ている。

「もう、彼らに任せておけば大丈夫よ。」

「それより、前にも言ったが、どうだろう? うちに転属する気はないか?」

「アタシは、本部が好きなの。」

「あんな、いい加減な指令しか出さない葛城三佐の元じゃ、碌なことが無いぞ?」

いちいち、ムカつく野郎ねっ!

「先輩?」

マユミが心配そうに声を掛けてくるが、気にすることは無いと手で制して穏便に話を続
けるアスカ。

「本部には、レイさんがいるから、あれくらいの指示でいいのよ。」

「綾波君か。」

「そうよ。」

「彼女も、こないだの戦闘を見たが、戦術のセオリーを知らないいい加減な作戦指示を
  出すリーダーなんだな。」

ムッカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!

「アタシや、ミサトはともかく・・・レイさんの・・・レイさんの・・・。」

拳をブルブル震わせ、目を吊り上げ、髪を逆立てるアスカにも構わず喋り続けるアンド
リュー。まずいと思ったマユミが慌てて止めに入ろうとするが。

「所詮、綾波レイもあの程度の・・・」

「レイさんの、悪口を2度と言うなーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」

ズバーーーーーーーーーーーーーーーーーーンっ!!!

しかし、マユミもその気迫に足がすくんでしまい、次の瞬間アスカの足がアンドリュー
の顔にめり込んだかと思うと、アンドリューはタラップから滑走路まで転げ落ちていた。

「ハンッ! 今度、レイさんのことをとやかく言ったら、弐号機で踏み潰してくれるわっ!」

そんなアンドリューの姿を、目を覆って見ているマユミを置いて、アスカがズカズカと
機内へと入って行く。

はぁぁ・・・。
いくら私でも、先輩を止めれることと、止めれないことがあるのに・・・。

どうやら、アンドリューは触れてはいけない禁断の領域を刺激してしまった様である。
そんなアンドリューの顔に、アスカはオーストラリアにいた証として足跡を残し、日本
へと帰国して行ったのだった。

                        ●

<オーストラリア支部>

それから、2日後。

オーストラリア支部に、シャムシエルが3体来襲していた。シンディーをリーダーとし
た、エヴァチームが出動する。、

『ムサシ、ケイタ、アリッサが、前衛。シンディーは、後方から援護射撃。』

毎度毎度の、アンドリューの作戦である。しかし、これを待ってましたとばかりに、ム
サシを中心とするケイタとアリッサは、そのままシャムシエルに接近して行った。

えっとぉ。
こういう時は・・・。

ムサシは、この7日間でアスカに教えて貰ったことを、頭の中で巡らす。

「ぼくが、真ん中の奴を攻撃するから、2人は右のをっ!」

『何をしてるんだ。同じ数だけいるんだ、1体1で戦うんだ。』

「すみません、もう今からじゃ無理です。」

『馬鹿者がっ!』

ムサシが中央のシャムシエルを食い止めている間に、アリッサとケイタは2人がかりで、
右方向のシャムシエルを攻撃し続ける。

それから・・・。

「そっちの奴は、もういいから真ん中のを頼むっ。今度は、俺が左のを食い止めるから。」

丁度、以前アスカがシンジに教えて貰った戦法と同じ形である。シンジ直伝の攻撃方法
だ。負けるはずが無い。

ドーンっ!

最後の1体のシャムシエルを自分達の力だけで倒したムサシ達は、それぞれのエントリ
ープラグで飛び上がらんばかりに喜んでいた。

後に、オーストラリア支部を背負って立つ、3人のチルドレンの初勝利であった。

To Be Continued.
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