「いやっ! キャーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

「ノゾミちゃんっ!!!」

「敵がっ! マユミ先輩っ!!!」

「ライフル正射っ!!!」
























「シンジっ! 速く走りなさいよっ!」

「なにが家事は任せて・・・だよ。最近いっつも遅刻ギリギリじゃないか・・・。」

「ブツブツ言わないで、さっさと走るっ!!」

「誰のせいで、走ってると思ってんだよ・・・。」

「何か言ったぁぁぁぁ?」

「いえ・・・。」
























「やぁ、トウジ君。今日から復帰かい?」

「すまんなぁ。長い間迷惑掛けてもて。」

「どうだい? 慣らし程度にシュミレーションやってみないかい?」

「おうっ! 体がなまって死にそうやったんや。一発かましたるわいっ!」
























キーンコーンカーンコーン。

「あーーーーっ! チャイムよっ! シンジ急いでっ!」

「もう間に合わないよぉぉ。」

「そーんなのっ! やってみなくちゃ、わっかんないでしょっ!」

「はいはい・・・。」
























「敵中央が開いたわっ!」

「はいっ!」

「3・・・2・・・1っ! 離脱っ!」

「だ、だめっ! 敵がっ!」

「ノ、ノゾミちゃんっ!!!」
























「シンジっ! 行っくわよーーーーーっ!!!!」

「アスカっ! なにをっ!?」

「どりゃーーーーーーーーーっ!!!!!!!」

バッカーーーーーーンっ!

「あっちゃぁぁぁーーー。」

ズザザザザザザザザーーーーーーーっ!
























「セーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーフっ!!!!!」
























------------------------------------------------------------------------------
マイ ライフ 外伝 03 -Red Heart 前編-
------------------------------------------------------------------------------

<職員室>

登校するや、アスカとシンジは職員室に呼び出され、カンカンに怒る先生の前に立たさ
れていた。

「先生に鞄を投げつける生徒が何処にいますかっ!」

「あぁでもしないと、遅刻しちゃうじゃない。」

「門が閉まる時間に来るから遅刻するんですっ!」

「あっらぁ? まだ門は開いてたから、遅刻じゃないはずでしょ?」

「あなたが、生活指導の先生に鞄を叩きつけて倒したんでしょっ!」

「校則じゃ門が閉まったら遅刻ってなってるわっ! 門は開いてたからセーフよっ!」

「アスカぁ、もうよそうよ。」

「シンジは、黙ってなさいっ!」

「アスカぁぁ〜・・・。」

チャイムが鳴り、生活指導の先生が門を閉め始めたのだが、アスカがこともあろうか鞄
を投げ付け先生をぶっ倒して飛び込んだのだ。

「先生に鞄をぶつけること自体校則違反ですっ!」

「何処にそんなこと書いてあんのよっ!」

生徒手帳の校則が書かれている所を開き、ビシっと見せるアスカ。確かに”鞄をぶつけ
ると駄目”なんて細かいことは書いていないが・・・。

「書いて無くても常識ですっ!」

「そーんなの。書いてなくっちゃ、わっかんないわっ!」

「アスカぁぁ〜・・・。」

素直に謝ればいいものをとことんアスカが反抗するので、シンジもそれに付き合わされ
てずっと立たされっぱなし。

ズンチャッ♪ ズンチャッ♪ ズンチャチャ♪ ズンチャッ♪

その時、シンジの携帯電話が鳴り響いた。アスカの好きな、ジングルベルの音楽が着メ
ロに設定されている。

「はい。シンジです。
  えっ!?
  アスカっ!」

うなだれて立たされていたシンジが、表情を真剣な物に変えアスカに視線を送る。その
シンジの目を見たアスカも、コクリと頷いた。

マナは、母方の実家の年老いた祖母が危篤状態の為、学校もネルフもしばらく欠席状態
となっている。

「ハンっ! 今日のところは許してあげよーじゃないっ!!」

怒り散らしている先生をビシっと指差しその言葉を叩き付けると、職員室の窓を開けて
1人飛び出すアスカ。シンジはちゃんと入り口から走り出ている。

「窓から出てはいけませんっ!」

「だったら、校則に書いときなさいよねっ!」

おくびれもせず言い放ったアスカは、飛び出て来たシンジと合流し一陣の風の様に姿を
消して行った。

「校則・・・改訂しようかしら。」

唖然と2人の生徒を見送った先生は、最後にぽつりと呟いた。

<小学校>

5年生のナツミは鉛筆を咥えて、1時間目の算数の授業を受けていた。先生の話など何
処吹く風で、窓の外ばかり見ている。

「鈴原さんっ!?」

「えっ!?」

不意に先生に当てられるナツミ。びくっとして前に視線を向けると、怒った顔の先生が
こっちを見ている。

うわちゃー!

「次の問題、解いて頂戴。」

しまった。
聞いてなかったわ。

聞いていたとしても、算数はいつも”がんばりましょう”が通知票に付くナツミには、
まずわからないだろうが。

「どうしたんです?」

「えっと・・。」

「先生の言ってたこと、聞いてましたか?」

「えっと・・・。」

ピンピロリン♪ ピンピロリン♪

その時、ナツミの携帯が鳴った。基本的に小学生は携帯電話など持って来てはいけない
が、無論チルドレンのナツミは例外。

「はい。ナツミよ。
  あら、アスカ?
  そっ! わかったわっ!」

「どうしたんです?」

「ネルフからの呼び出しよっ! じゃっ!」

「そ、そうですか。」

フッフーン。
たまには、あのムカつくリーダーも役に立つじゃないっ!

ナツミはバッとスカートを翻し机を飛び越えると、クラスメートの歓声の中ネルフへ向
かって駆け出して行った。

<中国>

中国支部より、使徒らしき反応があるということで調査依頼来た。調査目的で、主力フ
ォワードのアスカ,ナツミを出すわけにもいかず、マユミとノゾミが出動していた。

しかし、今朝突然マトリエル8体が地中から姿を現した。バックアップのマユミとノゾ
ミでは、対応しきれず窮地に追いやられている。人選にマナがいなかったのが痛かった。

「マユミ先輩!」

「囲まれた・・・わね。」

「もうライフルの弾が。」

接触からかなりの時間が経過し、2人とも残弾が無く武器はプログナイフのみ。輸送機
が近くの着陸可能な平地にまで救出に来ている為、そこ迄逃げなければならない。

「わたしが、中央突破するわ。」

「はい。」

「その隙に、あの岩山迄!」

「た、助かりますよねっ!」

「当たり前でしょ。リーダーがいつも言ってるじゃない。何をしてでも生き残れって。」

「はいっ!」

マトリエル6体が迫って来る。2体撃破はしたが、変わりにライフルの弾が無くなった。

「行くわよっ!」

「はいっ!」

「スタートっ!」

ノゾミに先駆け、マユミが特攻。

ATフィールドを張り接触。

ドーーーーーーーーーン!

走って来た勢いで、マトリエルに体当たりし血路を開く。

「ノゾミちゃんっ!」

「はいっ!」

「早くっ!」

「はいっ!」

僅かな脱出路から、岩山へ向かって疾走するノゾミ。

ズガガガガガガガっ!

マユミを押し戻すマトリエル。

別方向からマトリエル2体がノゾミに迫る。

「先輩っ!!!」

退路を断たれるノゾミ。

「くぅぅぅぅぅっ!!!!」

精一杯の抵抗をしていたマユミだが、背後からマトリエルに挟まれた。

先輩!
助けてっ!

マトリエルの足がマユミ専用エヴァに迫る。

ライフルを投げ付け回避したものの一時凌ぎ。

マユミとノゾミにマトリエルが迫る。

マユミは死を覚悟し、目を閉じた。

ズズーーーーン。

その時、地響きの衝撃が体を揺さぶる。

「えっ!?」

ビビビビビッ! ズガーーーーーーーーーンッ!!

目を開けたマユミの眼前には、雷が落ちた様な電気が光り炎を上げる森。視線をノゾミ
に移すと、追撃していたマトリエルが爆炎を上げている。

「ナっちゃーーーんっ!!!」

通信回線を通じて、ノゾミの歓喜に満ちた悲鳴が飛び込んでくる。目の前には、アクテ
ィブソードを2本持つ黄色いエヴァ。ナツミ専用機。

「ハーーッ! ハッ! ターーーッ!」

ビビビビビッ!

アクティブソードから電気を放ち、疾風のごとき早さでマトリエルに切り込んで行くナ
ツミ。彼女の特殊アクティブソードは、背中の電極にコードで繋がれ電気を発する。

「ノゾっ! 脱出っ!」

「うんっ!」

2つ年下だが同期のチルドレンというで、ノゾミとナツミは仲が良い。しかも、ナツミ
のフォワードとしての攻撃力は桁違いである為、逆に頼りにしているところがある。

「ハーーッ! ハッ!」

ズガーーーーンっ!

目にも止まらぬ速さでアクティブソードを振り翳し、あっと言う間に2体のマトリエル
を撃破。

シンクロ率30弱、攻撃速度は随一。戦術指揮のレイ,パワーのアスカ,テクニカルの
イライザの3巨頭の中に、いずれは割って入るのではないかと言われる程の実力。

ビビビビビッ!

電気を放つアクティブソードと共に目を光らせる黄色いナツミ専用エヴァに、後方から
4体のマトリエルが迫る。

「ナツミちゃんっ! ここは逃げるわよっ!」

「そうはいくもんですかっ!」

「駄目っ! 4体に囲まれたらっ! わたし達の任務は調査よっ! もう十分だわっ!」

「フンっ!」

マユミの忠告に耳を貸す様子もなく、マトリエルに突撃して行く。

「ハッ! ターーーーーッ!」

「ナツミちゃん駄目っ!」

後は中国支部に任せれば良い。なんとか攻撃を中止し退却しようとするマユミだったが、
ナツミは振り切って突撃する。

『ったく!』

その時、通信を介してマユミの耳に聞き慣れた声が聞こえてきた。

空を見上げると、雲の切れ間で旋回しているもう1つの輸送機。

『しゃーないわねぇっ!』

上空から降下してくる真紅のエヴァ。

「せんぱーーーーいっ!」

その弐号機を見た瞬間。マユミは絶対的な安心感を感じ、時をおかずしてそれは現実の
物となったのだった。

<ネルフ本部>

本部へ帰還した後、アスカはナツミと面と向かって言い合っていた。先の作戦行動で取
ったナツミの行動についてである。

「マユミが止めたでしょうがっ!」

「フンっ! マトリエルくらい6匹いようが7匹いようが、ワタシひとりで十分よっ!」

「そうじゃないでしょっ! マユミが戦闘指揮取ってんだから、命令に従えっつってん
  のよっ!」

「勝てば文句ないんでしょっ!」

「そんなこと言ってるんじゃないでしょうがっ!」

このところ、日を追うごとにアスカとナツミが揉めることが多くなっている。その様子
を、今日も副司令のミサトと作戦部長のシンジは黙って見ている。

「好き勝手動かれちゃ迷惑なのよっ!」

「ワタシが行った時は、もう指令系統も何も無かったわよっ!」

「アタシが待機してたから良かったけど、ミイラ取りがミイラになったらどうするのっ!」

「あそこでアスカが降りて来たから、余計邪魔だったわっ!」

ここは発令所である。そんな場所でいつ迄もギャーギャー言い合う2人に、いい加減ミ
サトも黙っていることができなくなる。

「シンジくん? いい加減にしてくれないかしら?」

「すみません。」

もうミサトは副指令たる立場なので、直接チルドレンには介入せずシンジを通すことに
している。

シンジからすれば、自分が一言言えばナツミとて黙らないわけにはいかないだろうが、
立場の違いを傘にきる様であまり好きではない。

なんだか悪いけど・・・。
平和的に解決しようかな。

背後でギャーギャー言い合う声を聞きながら、シンジはパネルのスイッチを操作してア
メリカ支部へ通信を繋ぐ。

ブラックアウトしていたスクリーンが光り、アメリカ支部作戦部長のカヲルがそこに姿
を現した。

「やぁ。どうしたんだい?」

「えっと・・・。最近、どうかなと思って。」

ビクッ!

それまで目を吊り上げて怒り狂っていたナツミだったが、突然目の前にカヲルが現れ即
座に借りてきた猫の様に大人しくなった。

「あっ! 渚先輩っ!」

「やぁ、ナツミちゃん。中国では活躍したらしいね。」

「そ、そんな・・・。」

「どうしたんだい? 惣流さんと揉めてるのかい?」

「い、いえ・・・いつもリーダーには良くして貰ってます・・・。」

頬を染めてモジモジしだすナツミを、やってられないと言った感じでジト目で睨みつけ
るアスカ。

なーにが『良くして貰ってます』よっ!
ったく。

アスカの視線などなんのその。視線はカヲル一直線で、嬉しそうにニコニコと喋り続け
るナツミ。

「最近、シンクロ率も伸びてきてるようだね。頑張ってね。」

「はっ、はいっ! 頑張りますっ!」

「なーにが、『頑張ります』じゃっ! ナツミっ!」

「げっ、アニキ・・・。」

目に星を鏤めてナツミが見ていたモニタに、突然トウジの顔が全面に現れた。

「おまえ、惣流の足引っぱとんのちゃうやろなぁ。」

「そんなことしてないわよっ!」

「惣流1人でもみんなに迷惑やのに、お前迄迷惑掛けたらあかんでぇ。」

「ぬ、ぬわんですってーーーーーっ!!!」

トウジの言葉にナツミも何か言い返そうとしていたが、その10倍くらいの声を張り上
げてアスカが割って入って来る。

「アンタこそ復帰早々、レイさんに迷惑掛けてんじゃないでしょうねっ!」

「お前と一緒にすなボケッ!」

「キーーーっ! この筋肉バカが偉そうなこと言ってんじゃないわよっ!」

発令所の騒動を沈める為にアメリカ支部へ回線を開いたはずが、太平洋戦争が勃発して
しまい余計に煩くなってきた。シンジは、頭を抱える。

「じゃ、カヲルくん。また連絡するよ。」

「ハハハ。わかったよ。シンジ君。」

アスカとトウジが喚き散らす後ろでそそくさと遣り取りを済ませたシンジは、問答無用
で回線を切りチルドレン全員を解散させたのだった。

<ミサトのマンション>

今日は家族3人揃っての食事。作戦部長になってからというもの、ミサト同様シンジも
帰りが遅いことが多いので、久し振りに全員揃った食事だ。

「賑やかな食事っていいわねぇっ!」

「・・・・・・。」
「・・・・・・。」

近頃1人で食事をすることが多かったアスカは、嬉しそうに夕食のおかずを口に放り込
んでいるが、シンジとミサトは少し沈痛な面持ち。

「あのさアスカ。話があるんだ。」

「え? どうしたの、2人とも?」

「いいわ、シンジくん。わたしから言うから。」

「なに? なんの話よっ?」

2人のぎこちない様子から嫌な予感を覚えるアスカに、ミサトが真面目な顔で話を始め
る。

「シンジくん。しばらく南極に行くことになるの。」

「えっ?」

「アメリカのリツコと一緒にね。」

「南極ぅぅぅ????」

寝耳に水とはまさにこのこと。アスカは目を丸くしてシンジとミサトを交互に見るが、
その面持ちからどうやら本当のことのようだ。

「う、うそ・・・。」

「大事な任務なのよ。」

「いつ迄?」

「早ければ、半年くらい。」

「半年・・・。南極なんか何しに?」

ミサトは話を進める。半年前の戦いで、シンジがセカンドインパクトを起こしたことが
明るみになり、世界から反発を受け始めた。そこで、リツコと共にシンジが凍結されて
いる初号機で南極へ向かい、地軸を元に戻す計画を実施するというものだ。

「そう・・・。そうなの・・・。」

おもむろに寂しそうな顔をし、それまで楽しそうに食べていた夕食も、箸がピタリと動
かなくなる。

「あなたの気持ちもわかるし、こんな時に言うのもなんだけど・・・。」

「なに?」

「シンジくんがいなくなるの。カヲルくんはアメリカ。本部の保険がなくなるわ。」

「はっ!」

初号機は凍結されていてもバックにシンジがいるというだけで、アスカのみならずチル
ドレンの大きな心の支えになっていたのは事実。その保険がなくなる。

「それだけ、精神的にあなたに掛かる負担が大きくなるわ。」

「だーいじょうぶよっ! シンジが頑張ってくるんだもんっ! アタシだってっ!」

「お願いね。じゃ、わたしちょっと出掛けてくるから。」

必要最低限のことを伝え終わったミサトは、後は2人に気を効かせたのか、席を立ち何
処へともなく出掛けて行った。

「ったく。そういうことになってんなら、もうちょっと早く教えてよ。」

「ごめん。全てが決まる迄は、極秘事項だったんだ。」

「ま、そんなとこでしょうね。」

「なにか困ったことがあったら連絡してね。すぐ帰ってくるから。」

「風邪引いちゃったとか?」

「それは・・・ちょっと。」

「なーんだ。困ったことがあっても、帰って来てくれないじゃん。」

「ご、ごめん。・・・。」

「ウソウソ。冗談だってば。でもさ・・・寂しーな。いつ行くの?」

「その・・・明後日には。」

「えーーーーーーーーーっ!!!!! 明後日ーーーーーーーーーっ!!!!!」

いくらなんでも早過ぎる。そんなにギリギリになる迄教えてくれないなんて酷いと思う
が、ネルフの体質からすれば仕方ないこともわかるので何とも言えない。

「じゃ、じゃぁ明日はデートしてよっ!」

「ごめん・・・。出発前の準備で忙しくて。今日早く帰るだけで精一杯だったんだ。」

「えぇぇぇぇぇっ! つまんなーい。」

「たまに通信入れるから。」

「駄目よっ! 毎日よっ!」

「ま、毎日ぃぃっ!?」

「あったり前でしょうがっ! アンタは嘘つけないタイプだから、浮気でもしたらすぐ
  わかるんだからねっ!」

「そ、そんなことしないよっ。」

シンジを狙う女性が多いことを知っているので防衛線を張る。しかも、経歴や家筋目当
てが大半というのが許せない。イライザなど、よっぽど純粋な恋敵である。

「とにかく、毎日連絡入れることっ! 毎日メールで何したか報告することっ! いいわ
  ねっ!」

「は、はいぃぃ!」

業務報告より大変な作業が増えてしまったと、思わず項垂れてしまうが、とてもシンジ
に嫌などと言えようはずもない。

「じゃ、明日はもう一緒にご飯食べれないのね。」

「ごめん・・・。」

「しゃーないわね。大切な任務だもんね。」

「ごめん・・・。」

「ちょっと、散歩行かない?」

「そうだね。うん、行こうか。」

既に部屋着に着替えていたアスカとシンジだったが、それぞれ外出着に着替えるとご飯
もそこそこに、2人手に手を取って散歩に出掛けて行った。

<マンションの近く>

腕を絡めて近所を歩く。普段なら恥ずかしがるシンジだが、今日ばかりはアスカの我が
侭にとことん付き合うつもりらしく、身を寄せ合って歩く。

「レイさんもアメリカ行っちゃったし・・・。シンジも遠くへ行っちゃうのね。」

「半年なんてすぐだよ。」

「シンジと一緒ならね。」

「・・・・・・ごめん。」

なんと答えていいのかわからず、謝ることしかできない。そんなシンジの顔を見て、ニ
コリと笑顔を作るアスカ。

「あーーーーっ! やめやめ。今日くらい楽しくしなくちゃ損だもんねっ!」

「でもさ、半年って言ってもたぶんずっとじゃないと思う。綾波やカヲルくんもたまに
  来るだろ?」

「そうねっ! お土産ちゃんと持ってくるのよ。」

「南極のお土産って・・・。」

「氷でもなんでもあるでしょ。」

「氷しかないと思う。」

「ったく。夢がないわねぇ。」

「ごめん。」

「『君の為のオーロラを持って帰って来るよ。』くらい言えない?」

「ブッ!」

あまりのキザなセリフに、吹き出してしまう。

「アンタに言えるわけないか。」

「カヲルくんなら、言いそうだね。」

「まぁね。アイツなら様になるけど・・・もし鈴原が言ったら、アタシ気絶するわ。」

「アハハハハハハ。ぼくも気絶するかも。」

「アハハハ・・・ところでさぁ。渚って好きな娘いるの?」

「さぁ。カヲルくんのそういうとこ、よくわかんないから。」

「ナツミが、もうすんごいのよ。『渚先輩っ! 渚先輩っ!』って。」

「ぼくにわかるくらいだもんなぁ。露骨にアタックしてるよね。」

そんな何気ない会話をしながら、何処へ行くでもなく夜の町を歩き続ける2人。しかし、
時間は無情にも過ぎ去り夜は拭けて行く。

「そろそろ帰らなくちゃいけないわね。」

「もう11時か。」

「明日から忙しいんでしょ?」

「うん・・・そうだけど。」

「帰ろっ!」

絡ませている腕を引っ張り、足をミサトのマンションへ向けるアスカ。

「しばらく寂しい想い・・・させるけど。」

「それは、もう言いっこなし。シンジのせいじゃないもん。」

「うん・・・。」

「次帰ってくる時は、ちゃんと四季を復活させてくるのよっ!」

「頑張って来るよ。そうだっ!」

「ん?」

「お土産。思いついたよ。」

「なに?」

「桜。」

「へーー。シンジも言うようになったじゃん。」

「そうかな。」

「でも、そのお土産。必ず持って帰って来てね。」

「来年の4月になったら、日本全国に桜を咲かせてプレゼントするよ。」

ミサトのマンションが目の前に見えてくる。その前の並木道には、咲かなくなった桜の
木が沢山植えてある。

「この桜が咲くの楽しみにしてるね。」

「うん。」

「シーンジっ。」

マンションの下でシンジに飛びつくアスカ。

「アスカ・・・。」

アスカをシンジは両手で抱きしめる。

月明かりの下、2人の影はいつまでもいつまでも重なり続けていたのだった。

To Be Continued.
作者"ターム"へのメール/小説の感想はこちら。
tarm@mail1.big.or.jp
inserted by FC2 system