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マイ ライフ 外伝 04 -Red Heart 後編-
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<中国支部>

中国支部の作戦部長チェンは、チルドレンのリーダーをしている15歳のサモハンを呼
び出し極秘会議を行っていた。

「先日、本部に使徒の調査依頼をした時の記録がこれだ。」

「はい。」

「この鈴原ナツミの黄色いエヴァに注意してくれ。」

「素晴らしい戦闘能力ですけど・・・それが何か?」

「情報を集めたところ、本部リーダーの惣流・アスカ・ラングレーと、鈴原ナツミの間
  が上手く行ってない様だ。」

「それで?」

「欲しいと思わないか? 鈴原ナツミを。」

「そりゃ、これだけのチルドレンが入れば、我が中国支部も・・・しかしどうやって?」

「所詮11歳の小娘だ。ちょっとプライドをくすぐってやれば、この手のタイプの人間
  はコロリと転がってくるさ。」

「で、わたしに何を?」

「お前の作戦指揮能力は、惣流・アスカ・ラングレーを間違いなく超えている。そこを
  アピールしつつ機会を伺い、交渉に持ち込めば・・・あるいは。」

「はい。」

このサモハンは士官学校のエリートであり作戦指揮能力は評価に値するが、戦闘能力が
極端に低かった。

更にリーダーとは言うものの、他には訓練段階のチルドレンが2名いるだけで、両名と
もこれといって優れた素質を持っているわけではない。まさに喉から手が出る程、戦闘
能力に長けたチルドレンが欲しいのが、中国支部の現状だった。

<ネルフ本部>

アスカ,マユミ,ナツミは北海道に現れた使徒を撃破して帰還しようとしていた。

「マトリエル2体くらい、ワタシ1人で倒せたわよっ!」

「地中にいたのよっ!? 溶解液にやられたらどうするのっ!」

「それならアスカだって同じじゃないっ!」

「わざわざ危険なことする必要ないでしょっ!」

「そうやってっ! いっつもアスカばっか目立って!」

「危険なことはするなっつってんのよっ!」

今日もまた作戦が終わり揉めながら帰ってくる2人。カンカンに怒ってエヴァから降り
てくるナツミを、待機していたノゾミが迎えに来る。

「どうしたの? ナっちゃん。」

「またアスカが手柄を1人占めしたのよっ!」

自分のことを非難しケージを歩くナツミを見ながらも、以前のトウジとレイの様に文句
を言われるのもリーダーの勤めだろうと、それ以上何も言わずに歩くアスカ。

「リーダーは、あまりナツミちゃんに危険なことさせたくないのよ。」

マユミがアスカのフォローをしている様だが、ナツミのイラ立ちは簡単には納まりそう
にない。

「それならっ! アスカ1人だけでいいじゃないっ!」

「そうもいかないでしょ? 新しいチルドレンを育てるのもリーダーの役目なんだから。」

「アスカは勝手なのよっ!」

「ナツミちゃんも、そんなにツンツンしないで。何か甘い物でも食べに行きましょうよ。」

「わかったわよっ。」

マユミ,ナツミそしてノゾミが、いつもの様に3人並びなんだかんだと言い合いながら
ケージを出て行く。

そんな中、独りケージから逆方向にあるコンピュータールームへ向かうアスカ。

「さてと。」

戦闘が終わったからといって、お疲れ様でしたというわけにはいかない。アスカは、今
回の戦闘におけるマユミやナツミのデータを整理しに、コンピュータルームへ向かった。

<廊下>

データの整理や報告書を作成し終わったアスカは、明日からの訓練シュミレーションを
組み立てる前に少し休憩しようと食堂へ向かう。

あら?
ナツミ達じゃない。

そこには、戦闘が終わってくつろいでいるマユミ,ノゾミ,ナツミが、テーブルに座り
ジュースを飲んでいた。

「いっつもそうなのよっ! アスカは自分ばっかで手柄を1人占めすんのよっ!」

「それだけ、リーダーには力があるって証拠よ。」

「でも、マユミ先輩? ナっちゃんだって強いわよ?」

「リーダーより強いってことはないでしょ?」

「フンっ! いずれアスカなんか追い抜いてやるわっ!」

「それは頼もしいわ。楽しみにしてるわね。」

「ねぇ、マユミ先輩っ! 駅前にファンシーショップできたんですぅ。」

「あっ! ノゾ。ワタシもそれ知ってるっ!」

「そうなの? わたし・・気付かなかったなぁ。」

「マユミ先輩、まだ行ってないんですか?」

「今度、ノゾと一緒に行こうっ!」

「そうね。リーダーも誘いましょ。」

「アスカはいい。煩いもん。」

「ナっちゃんっ!」

アスカを心底尊敬しているマユミが少し怒る。

「いいじゃん。休みの時くらい、顔合わせなくても。」

「それはそうだけど・・・。」

近頃こうやって3人で食事していることが多い。アスカは、わざわざ自分が出て行って
邪魔することもないだろうと、食堂には入らずそのまま休憩室へと足を運ぶ。

コポコポコポ。

休憩室でジュースを買い、1人コップを手にしてベンチに座るアスカ。

「はー。」

溜息をつきながら、コップを口に付けジュースを喉に通す。

アタシ・・・なんか間違ってるかなぁ?
どう思う? シンジ?

リーダーをちゃんとできてるのかしら?
どう思います? レイさん?

ふと周りを見渡すがそこにいるのは自分だけ。以前ならこんな時、シンジが、レイが、
トウジが、ヒカリが、自分を叱り,元気付け,助けに来てくれた。

愚痴られるのも、叱るのもリーダーの役目・・・でいいんですよね。
ダメなんですか? レイさん。

作戦行動においてはナツミと正面から向き合うが、それ以外の愚痴は黙認している。そ
れは以前対立していたトウジに対するレイの真似をしているつもりなのだが、正しいの
かどうかよくわからない。

「はー。」

また溜息を付き、コップに入ったジュースがゆらゆらと揺れるのをじっと見詰める。

いつしか、周りは後輩ばかり。
いつしか、自分が人を叱り,元気付け,助ける立場。
いつしか、リーダー。
いつしか、独り。

レイさん・・・今度いつ帰ってくるのかな?
アタシもレイさんと、ファンシーショップ行ってみたいなぁー。

「うーーーーーーんっ!」

思いっきりノビをして立ち上がる。

「ヤメヤメっ!」

明日のみんなのシュミレーション仕上げなくっちゃっ!
ウジウジするなんて、アタシのガラじゃないわっ!

元気を奮い立たせたアスカは、紙コップをゴミ箱に投げ捨てるとコンピュータールーム
へ戻り、その日も遅く迄それぞれのチルドレンの個性に合わせたシュミレーションをプ
ログラミングして行った。

翌日、アスカ達チルドレンがネルフ本部へ訓練にやって来ると、中国支部のチェン作戦
部長とサモハンという体の大きなチルドレンが来ていた。先日の中国で行った調査によ
って、マユミとノゾミが危険な状態になった為、礼をしに来たということだ。

「これはこれは、貴方が惣流・アスカ・ラングレーさんですね。」

「ええ。そうよ。」

「こいつが、うちのチルドレンのサモハンです。君の様に戦闘能力は高くないが、指揮
  能力ではなかなかのものでね。中国の綾波レイと言われているんだ。」

ざけんじゃないわよっ!!!
レイさんと一緒ですってーっ!
レイさんは、もっとスレンダーで世界で1番綺麗なのよっ!

おもむろに嫌そうな顔をするアスカ。まぁ折角礼を言いに来てるのだから、言いたいも
のは勝手に言わせておけばいいだろうと、あえて何も言わなかったが。

「あなたが、鈴原ナツミさんかな?」

「そうよ。」

「この間の戦闘は素晴らしかったねぇ。君の様なチルドレンがうちにいたら、すぐリー
  ダーなんだがなぁ。ハハハハハ。」

「えっ!? ワタシが?」

そのお上手とも取れる言葉に、真剣に瞳を輝かせるナツミ。

「勿論だとも。君の様な世界1の戦闘能力を持つチルドレンだ。当然だろう。」

「世界1っ? そ、そうかな? アハハハハ。」

「まぁ、惣流・アスカ・ラングレーさんが本部にはいるから、本部でリーダーにはなか
  なかなれないでしょうけどね。ハハハハハ。」

上機嫌だったナツミが、その言葉を聞きジロリとアスカを睨み付けてくる。ムッとした
アスカは、何か文句の1つも言ってやろうとしたが、言っていること自体は全て誉め言
葉なので突っ込むことができない。

余計なことベラベラ喋んじゃないわよっ!
このバカっ!

まだ悪口を言ってくれた方が、ずっとマシであろう。即効その場で噛み付けるのだから。

「では、今晩は日本に宿泊致しますので、また明日お伺いします。」

「そうですか。では。」

ミサトと軽く挨拶を交わしたチェンとサモハンは、ネルフ本部を出て行った。その後ろ
姿をジロリと睨み付けるアスカ。

ったくっ! なんなのよっ!
今迄出動依頼して来ても、わざわざ礼なんか言いに来たことない癖に。
ナツミにおべっかまがいのこと言うしっ! 気に入らないわねっ!

まぁ、今いくらそんなことを考えていても仕方ない。そんなことより、今日予定してい
たシュミレーションを行うことにする。

「ミサト? もういいんでしょ?」

「ええ。いいわよ。」

「じゃ、シュミレーションしに行くわよ。」

残りの3人を伴なって発令所を出て行くアスカ。後ろから少し間を空けて、マユミ,ノ
ゾミそしてナツミ達後輩連中がつるんで付いて来ている。その時、ナツミの何気ない一
言が聞こえた。

「ワタシ、中国支部へ移籍しよっかなぁ。」

「なっ!」

ぎょっとして振り返るアスカ。さすがにこればっかりは黙って聞いていられない。

「何バカなこと言ってんのよっ!」

「ここにいたって、アスカが好き勝手してるだけだしさぁ。」

「好き勝手なんかしてないでしょっ!」

「あら? ワタシが向こうに行ったら、邪魔な後輩がいなくなるわよっ? せいせいする
  んじゃない?」

「アンタバカぁっ! いい加減になさいよっ!」

「だって、いっつも自分ばっか目立ってるじゃないっ!」

「目立ってんじゃないわよっ! 危険なことを回避してるだけでしょっ!」

「だから、いっつもそれくらいワタシにだってできるって言ってんのよっ! ワタシに
  もさせてよっ!」

「できても、しないにこしたことないでしょうがっ!」

「中国支部に行ったら、やらせて貰えるわっ! リーダーよっ! リーダーっ! 本部で
  させてくれてもいいじゃないっ!」

「アンタなんかにっ! リーダーが勤まるもんですかっ!」

「なんですってっ!」

「先輩っ! ナツミちゃんっ! こんなとこで大声出したらまずいですよ。」

またしてもおっぱじめるアスカとナツミの間に立ちオロオロし出すノゾミと、いつもの
様に2人を諌めるマユミ。

「ったくっ!」

ムスっとして、アスカは先頭を歩いて行く。

アンタなんかにリーダー勤まるもんですかっ!
どれだけ、キツイと思ってんのよっ!

そう・・・アタシにも勤まってなんか・・・。
リーダーはやっぱり、レイさんにしか。

リーダーなんかになっても、何もいいものではない。そこにあるのは。
ただ、孤独・・・孤独・・・孤独・・・。
なにもかも全て自分の責任で自分が決め、自分でやらなければならない。

『精神的にかなりの負担がかかるわ。』

ミサトの言葉が、シンジがいなくなり今になって大きくのしかかってきた。その言葉の
意味がよくわかってきた。なんだかんだ言いながらも、今迄どれだけシンジに頼ってい
たのか、助けて貰っていたのかが骨身に染みる。

ズズーーーン。

その時、地震が大地を揺さぶった。そう言えば、今日からシンジが本格的に地軸の修正
に入ると言っていたことを思い出す。

そうよっ!
シンジも独り氷の世界で頑張ってんだっ!
アタシも頑張んなくちゃっ!

レイさんっ! 見ていて下さいっ!
マユミをっ! ノゾミをっ! そして、ナツミをっ!
アタシだって、立派なチルドレンにしてみせますよっ!
特にナツミは本当に凄いんだからっ! 大事に大事に育てるんだからっ!

アスカは自分に元気を奮い立たせると、後輩達3人を連れてシュミレーションルームへ
と向かって行くのだった。

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                        :
                        :

3日後。

今日も中国支部のチェンとサモハンは、本部の発令所へやって来ていた。あれから、不
信に思ったアスカは、サモハンのことを調べたが。確かに言うだけのことはあって、作
戦指揮一点においては世界から一目おかれるエリートであった。

「いやぁ、どうも。日本の富士は絶景ですなぁ。」

「富士山を見て来られたんですか?」

作戦部長チェンの世間話に立場上付き合うミサト。

「ええ。美しい山ですね。」

「ところで、いつ迄こちらに滞在されるご予定で?」

いつ迄経っても自国へ帰らず、本部の周りをうろうろしている中国支部の2名がいい加
減鬱陶しくなってきたミサトは、それとなく伺いを立ててみる。

「いやぁ、今回はサモハンと共に休暇を取り観光がてら来ているものでしてね。もうし
  ばらくゆっくりしていく予定です。」

「そ、そうですか・・・。」

ならネルフ本部に入って来るなと言いたいところだが、スパイ活動をしている素振りも
なく、あえて隣の国とのいざこざを引き起こすのも裂けたい。ただでさえ、アメリカ支
部に介入したことで、ヨーロッパの支部連と緊張が高まっている状態なのだ。

プシュっ!

発令所の扉が開き、シュミレーションを終えたアスカ達が入って来る。

「やぁ、惣流さん。いつもご苦労ですね。」

また、こいつらいるわ・・・。
鬱陶しいから、来ないで欲しいのよねっ!

どうもアスカ達がシュミレーションを終える時間帯になると発令所に現れるので、毎日
顔を合わせてしまう。理由はないもののなんとなく気に入らないアスカは、嫌そうな顔
で睨み付ける。

「鈴原ナツミさん? 今日のシュミレーションはいかがでしたか?」

「簡単過ぎて面白くなかったわ。」

「おや、そうですか。実力が過小評価されているんでしょうかね。」

「いいこと言うわねっ! まったくよっ! アスカの奴っ!」

チェンの言葉に乗り気で対応するナツミ。そこへ、ここぞとばかりにアスカが割って入
って来る。

「アンタバカぁっ!? アタシがシュミレーションのスケジュール立ててんのよっ! 余
  計なこと言うんじゃないわよっ!」

「おっと。これは失礼しました。失言でした。お許し下さい。」

しかし、直ぐに丁寧に頭を下げられてしまい、それ以上何も言うことができなくなって
しまう。だが、ナツミは黙っていなかった。

「アスカこそ余計なこと言わないでよっ! ワタシはもっと敵がたくさんいるシュミレ
  ーションがしたいのよっ!」

「それはアンタの得意分野でしょうがっ! そういうのは、ゲームセンターでやってら
  っしゃいっ!」

自然と矛先がナツミに向いてしまうアスカ。

「なんですってーっ! だいたいアスカは、いっつもいっつも自分勝手に何でも決める
  所が嫌いなのよっ!」

「ぬ、ぬわんですってーっ! ダレの為にシュミレーション作ってると思ってんのよっ!」

「アスカが作ったシュミレーションなんか、やってらんないっつってんのよっ!」

「む、む、むぉーう1度言ってみなさいよっ! アンタっ! 何様だと思ってんのよっ!
  このバカがっ!」

「何度でも言ってあげるわよっ! アスカのシュミレーションなんか、やってらんない
  わよっ!」」

青筋を立てて言い合い睨み合う2人を、ニヤリとほくそ笑みながら見詰めるチェンとサ
モハンが、誰にも聞こえない声でぼそぼそと互いに耳打する。

「この様子だと、楽に鈴原ナツミを引っ張れそうだな。」

「はい。」

その時、発令所に警報が鳴り響いた。

「千葉方面に使徒が現れましたっ!」

「敵の状況はっ!?」

「分析中・・・ラミエル2体ですっ!」

「街中にラミエルか。やっかいね・・・。アスカっ! 出てっ!」

「上陸地点で、一気に粉砕してくれるわっ! ナツミっ! マユミっ!」

そのアスカの作戦立案の様子を、待ってましたとばかりに笑みを浮かべて見ていたチェ
ンとサモハンが、また耳打する。

「ようやく使徒が来たな。指揮能力では惣流・アスカ・ラングレーより、お前の方が高
  い。期待してるぞ。」

「任せて下さい。」

そんな会話をひそひそとしたチェンは、声を上げミサトに進言する。

「われわれも東京湾に停泊している軍艦にエヴァがありますので、出動しましょう。」

「協力して下さるんですか?」

「はい。隣の国のよしみです。できる限りのことは。」

「それは助かります。」

「ただ・・・サモハンは指揮専門で戦闘が苦手なんですわ。鈴原ナツミさんを貸して貰
  えませんかね。」

「なっ!!!!」

アスカが目を剥いた。

「バカ言ってんじゃないわよっ! ナツミは本部のチルドレンよっ!」

「では、惣流さんはどういう作戦をお立てで?」

「上陸地点で一挙殲滅よっ!」

「サモハン。お前はどうだ?」

「上陸地点と言っても、人家がある場所ですね。被害は免れません。この位置からだと、
  南へ誘導し待ち伏せしているのが効果的かと。」

「いかがですかな? 葛城副司令。」

「さすがね・・・。」

今回の作戦立案においては、サモハンに一日の長があると認めざるを得ない。

「ちょっと待ってよっ! ミサトっ! 上陸地点でも海岸線で倒せば、人家に被害は出な
  いわっ!」

「防衛ラインが狭いわ。難しいわね。」

「やってやるわよっ!」

意地になって抵抗するアスカだったが、既にミサトの結論は決まっていた。作戦立案に
も同意でき、かつこんなことで同じアジアの国と揉めたくはないという副司令らしい考
えだった。

「わかりました。ナツミを貸します。アスカいいわね。」

「ぐっ・・・。」

確かにサモハンが立てた作戦の方が優れていることはわかっていた。結局アスカは何も
言えず、ノゾミを本部防衛に残しマユミと共に出撃して行くことになった。

<弐号機エントリープラグ>

輸送機で千葉の海辺まで輸送される弐号機とマユミ専用機。

「マユミっ! いいわね。上陸地点の海岸沿いで、絶対撃破すんのよっ! あんな奴の作
  戦通りにさせるもんかっ!」

『先輩・・・あまり気負いしない方が・・・。』

「うっさいわねっ! キーーーっ! ムカつくーーーっ!!!!」

『はぁ・・・せんぱーーーい・・・。』

作戦指揮の立案で負けたアスカは、イライラしながら作戦行動に移っていく。こうなっ
たアスカには何を言っても無駄なことを知っているマユミは、両手で目を覆う。

だが、マユミはもう1つ知っていることがあった。

先輩がこんな状態になる時はまだ・・・。

<千葉海岸沿い>

アスカとマユミが、海岸沿いで待ち構えていると、太平洋上を飛行しラミエル2体が現
れた。マユミをバックアップとし、フォワードにアスカが立って迎え撃つ。

いらっしゃいっ!
ここがアンタの墓場よっ!

意気揚揚とラミエルを迎えるアスカ。

弐号機、ラミエルに接触。

「うりゃーーーーーっ!!!!!」

スマッシュホークで斬り付ける。

ラミエル、ATフィールド展開。

同時にもう1体のラミエルが迫ってきた。

「マユミっ!」

ズガガガガガガガガガガガっ!

ライフルで弾幕を張る。

「でやーーーーーっ!!!!」

弐号機、目前ラミエルのATフィールド中和。

一気に突撃するアスカ。

『先輩っ!』

「えっ!?」

しかし、背後でもう1体のラミエルが人家の集中する方向へ進撃を始めてしまった。

ちっ!
一件たりとも破壊させるもんかっ!

「進行止めてっ!」

『はいっ!』

ラミエルの進行を弾幕で阻止するマユミ。

その間に、アスカは目前のラミエルへ突進。

その時、民家へ向かったラミエルが加粒子砲の発射準備に入った。

「まずいっ!」

焦るアスカ。

ズドーーーーーーーーーーーーーンっ!

だが、別の方向から火線が横切って来た。

「えっ!?」

山間からポジトロンライフルが2体のラミエルに向かって発射されたのだ。

容赦無いポジトロンライフルの連続攻撃を食らい、ラミエル2体は砲撃を中止しそちら
へ向かって進行する。

「逃がすかっ!」

追うアスカ。

しかし、海上を飛行して行くラミエルをそれ以上追撃することができない。

やむを得ず山を越え遠回りで追い駆けると、そこには船の上からラミエルを攻撃し誘導
しているサモハンのエヴァがあり、岬の山間では黄色いナツミ専用エヴァが待ち伏せし
ていた。

動きを止める弐号機。

「マユミ・・・。」

『はい・・・先輩。』

「決着はついたわ。引き上げるわよ。」

『ナツミちゃんの援護に回らなくていいんですか?』

「フっ・・・。」

苦笑を浮かべるアスカ。

「ラミエル2体。誰が相手すると思ってるのよ。」

『そうですね。』

「ナツミがしくじるはずないでしょ。あの娘、凄いんだから。」

『はい。』

後輩のチルドレンの中で、唯一マユミだけが知っていた。ナツミのことを喋る時のアス
カが、どんなに嬉しそうな顔をしているのかを。そして、どれだけナツミを心配し可愛
がっているのかを。

                        :
                        :
                        :

アスカとマユミが輸送機で退却し始めたと同時に、ラミエル2体をナツミが撃退したと
いう報告が入って来た。通信回線を開くと、中国支部の人間と楽しそうに話をしている
ナツミの声が入る。

『いやぁ、さすがは鈴原ナツミさん。すばらしい腕前ですな。』
『アハハハハ。当然よっ!』
『もし中国支部に来て下さったら、サモハンをバックアップにしてリーダーとして活躍
  して貰うんですがねぇ。』
『でしょでしょ。絶対ワタシはリーダーになるべきよっ!』

輸送機で移動するアスカ達の耳に、戦勝気分で話を弾ませるナツミとチェンの通信する
声が聞こえてくる。

『鈴原ナツミさん程の力があれば、戦闘の全てを一任できますからなぁ。』
『でっしょぉ? アスカにも聞かせてあげたいわ。アハハハハハハ。』

あのバカっ!
調子に乗ってんじゃないわよっ!

そこへ、マユミからプライベート回線を通じて通信が入ってきた。わざわざプライベー
ト回線を使うくらいだ。何か聞かれたくないことでもあるのかと、一般回線を切る。

『先輩。ナツミちゃん。大丈夫でしょうか?』
『渡すわけないでしょ。使い捨てのコマにされるのがオチだわっ!』
『それならいいですけど・・・。』
『ナツミは、そんな安っぽい娘じゃないのよっ!』
『そうですね。』

アスカ、マユミに続き、作戦行動をしたサモハンのエヴァも本部責任で点検するという
ことで、ナツミと共に第3新東京市のネルフ本部近くまで帰還してくる。

「いかがですかな。我が中国支部のチルドレンは?」

「なかなかの作戦指揮能力を持っておられますね。大したものです。」

まだチルドレンと共に地上に残されているエヴァの格納準備ををしている間に、一足早
く発令所に入ったチェンとミサトが建て前上の遣り取りを交わしている。

「本部もあの綾波レイさんがいなくなって、作戦指揮の面で辛いんじゃないですか?」

「アスカがいるから大丈夫よ。」

「指揮能力はさして高くないと聞いてますが?」

「そうね。」

適当に話だけ合わせるミサト。その時、再び本部に警報が鳴り響いた。

「なっ! こ、これはっ! 使徒!?」

「どうしたのっ!」

「見たことも無い使徒ですっ! 衛星軌道上に突然現れましたっ!」

コダマが叫ぶ。

「衛星軌道ですってっ!!!!」

「敵、肉眼で識別できませんがっ! パターン青っ! 使徒ですっ!!!」

それは人類が初めて遭遇することになる使徒、アラエルの来襲の知らせであった。

<ドイツ支部>

同時刻、ヨーロッパ方面でもその映像はキャッチされていた。突然、日本の第3新東京
市直上の衛星軌道上という、予想もしていなかった所に使徒が現れ混乱していた。

「アニーっ! 援護に向かいますわよっ!」

イライザが作戦部長の命令も待たずに出動態勢に入る。作戦部長の許可無く動くのは、
いつものことだが、そのおかげで幾度もドイツが救われているのも事実。

「あそこは本部の管轄では?」

「どこに出現したと思ってますのっ? 本部がやられましたら、次はアメリカかここに
  来ますわよっ!」

「わかりましたっ!」

「キャンディーとニールは、敵がドイツに来た場合に備え待機っ! 宜しいですわねっ!」

「「了解っ!!」」

各国混乱の中、いち早く援軍に出動したのはやはりドイツだった。

イライザには更に深い考えがあった。日本への援軍が間に合わなくとも、出撃していれ
ば戦場は位置的にロシアとなり、ドイツへ被害が及ばないのが狙いである。

<ネルフ本部>

未知の敵との遭遇戦となれば、まずはデータ収集が先決となる。そこでまだ地上でエヴ
ァに搭乗していたサモハンが、今回もチェンに対して作戦内容を立案してきた。

『超長距離射撃で、まず威嚇してみるのが良いかと。』

「サモハンもこう言ってますが。いかがですかな? 葛城副司令?」

「いいでしょう。ノゾミとマユミに威嚇射撃をやらせてみます。」

客人のサモハンは勿論のこと、帰還した直後のアスカとナツミを後方で待機させ、マユ
ミとノゾミに迎撃体制に入らせる。バックアップ専門の2人が適任との判断である。

照準を定める2人。アラエル目掛け、スナイパーポジトロンライフルを構える。

準備を完了したミサトは、中国支部のエヴァに通信を開いた。

「サモハンくんの立案だから、あなたが指揮してみる?」

『はい。わかりました。ありがとうございます。』

<弐号機エントリープラグ>

「ちっ!」

部外者にいいように自分の後輩が使われ悔しいものの、先の戦いにおいて指揮能力で引
けを取ってしまった為、あまり口出しすることができず悔しさだけが込み上げてくる。

「むかつくわねぇぇぇっ! あのバカっ!」

『先輩・・・聞こえますよ。』

「フンっ!」

マユミになだめられ、口を尖らせるアスカ。マユミも、こういうアスカを見ていると、
安心して作戦ができるとクスリと笑みを零す。そう、こういうアスカは安心できるのだ。

『用意はいいですか?』

サモハンの指示が飛ぶ。

『『はい。』』

返事を返すマユミとノゾミ。

『発射っ!』

ポジトロンライフル発射。

2つの火線が衛星軌道に伸びる。

その瞬間だった。

アラエル。ATフィールド展開。

バッ!

マユミとノゾミの周りに7色の光が襲い掛かった。

「「キャーーーーーーーーーーーーーーァァアアアアアアア!!!!」」

悲鳴を上げる2人。

「どうなってるのっ!!!!」

ミサトが叫ぶ。
発令所もパニックに陥る。

「マユミ機っ! ノゾミ機っ! 精神汚染っ! 操作不能っ!」

「なんですってっ!!!!」

ミサトの目が今迄に無く真剣なものとなり吊り上がる。

「な、なんてことだ・・・。」

愕然とするチェン。

チェンは咄嗟にサモハンに通信回線を開く。

「サモハンっ! どうするっ!」

『敵のデータを・・・』

「葛城副指令っ! とにかく敵の・・・」

「どきなさいっ!」

チェンを突き飛ばし、サモハンの回線を強制切断すると、アスカに回線を開くミサト。

「アスカっ!!!!」

<弐号機エントリープラグ>

だがその時既に、おろおろするサモハンを蹴り倒し、アスカは弐号機を走らせていた。

絶叫するナツミ。

「マユミっ! ノゾっ!」

悲鳴を上げる2人にナツミが叫ぶ。

「ナツミっ! 来なさいっ!!!!」

アスカがナツミを呼ぶ。

『はいっ!!!!』

そこへ、7色の光を目の前にしたサモハンから通信が入ってくる。

『無闇に動くと危険だっ!! ぼくの指示に・・・』

『ウルサイっ!!!』

だがナツミは聞く耳を持たない。そこにアスカの声が響く。

「ナツミ急いでっ!」

『はいっ!』

ナツミは、アスカに続いてジオ・フロントの排気ダクトへと飛び込んで行った。

<発令所>

サモハンは本部のチェンに通信回線を開く。

『チェンさんっ! ここは一旦退却して、敵データの収集をっ! 通常兵器ならあの2体
  のエヴァを退却させられるはずですっ!』

その提案をチェンがミサトに提案した時、アスカから通信が入って来た。

『ミサトっ! 本部ぶっ壊すわっ! 即職員退避っ!』

「OK! 任せてっ!」

そんなミサトに更にチェンが声を上げる。

「サモハンの案を採用して下さいっ! 彼は仕官学校エリートのっ!」

「本部のリーダーはアスカよっ!」

「ですがっ! 指揮能力はっ!」

「誰だってねっ! 順風なら船漕げんのよっ! だけどねっ!」

キっとチェンを見据えるミサト。

「逆風に立ったアスカはっ! 伊達じゃないわっ!!」

<南極>

「高度1万っ! それが最低ラインよっ!」

「はいっ!」

「外宇宙に放出っ! いいわねっ!」

「出ますっ!」

<弐号機エントリープラグ>

その頃、ジオ・フロント排気ダクト最下層にN2地雷をしこたま並べ壁にめり込ませた
アスカは、ダクトのや上部に位置していた。

「ナツミっ!」

『む、むちゃよっ! こんなのっ!』

「フフーーーン。でっかい大砲打ってやろうじゃないっ!」」

『でもっ!』

「世界1でっかい鉄砲で、ATフィールド付きの弾丸お見舞いしてくれるわっ!」

『アスカが・・・。』

「敵にATフィールドあるなら、弾にATフィールドつけりゃいいっ! それだけよっ!」

『アスカっ! 全職員退避したわっ!』

ミサトから通信が入る。

「よしっ! 後はアンタに任せるわっ! それだけの力がアンタにはあるはずよっ!」

『アスカっ! 絶対帰って来てっ!』

「いくわっ! 3! 2! 1!」

『アスカを抜く迄、ワタシはリーダーになれないんだからっ! 帰って来てっ!』

目を閉じ、ポジトロンライフルを構えるナツミ。

アスカが叫ぶ。

「てっ!!!!!!!」

『くっ!』

トリガを引くナツミ。

ズガガガガガガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!!!!

排気ダクト最下層で大量のN2地雷が炸裂。

衝撃波がダクトに沿い天空へ放出。

ジオ・フロントのダクト周辺が轟音と共に崩れ落ちる。

「うりゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」

N2の衝撃に対し、下方向へATフィールドを張るのが精一杯。
コンクリートと鉄筋の雨の中を、弐号機が突き破る。

ビッ! ビッ! ビッ!

レッドランプがあちこちで点灯。

頭部破損。

バッテリー破損。

S2機関破損。

左腕破損。

体中に激痛が走る。

「こんちくしょーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」

ズガガガガガガガガガガガガガガガガっ!!!!!

視界が開け青空が広がる。

大空に飛び出す弐号機。

”01:30”

S2機関破損,左バッテリー破損の為、カウントダウンが始まる。

迫るアラエル。

敵もATフィールド展開。

「ATフィールド全開っ!!!!!!!」

眼前に迫るアラエルのATフィールドを中和し突撃。

ATフィールド中和完了。

敵コア照準セット。

「でやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!」

スマッシュホークを振り翳す。

ズガガガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!!

弐号機アラエルに激突。

スマッシュホークがコアに突き刺さる。

衝撃がアスカの体に跳ね返って来る。

「ぐはっ!」

血を吐くアスカ。

ドカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンっ!!!

爆炎を上げ、衛星軌道から落下していく巨大なアラエル。

その爆発エネルギーで、アスカも太平洋を南へ南へと落ちて行く。

内蔵電源カウント残り。

”00:05”

”00:04”

”00:03”

”00:02”

”00:01”

エントリープラグがオレンジ色の光に包まれた。

生命維持に必要なエネルギーだけ残し停止する弐号機。

「ハハッ・・・・。」

大気圏を落下していくアスカ。
ATフィールドも張れず、摩擦熱で弐号機の装甲が溶け始める。

みんなに必ず生きて帰れって言ってたのに。
アタシが死んでちゃ世話ないか。
自分の命令に違反した罰かな・・・はは。

もうシンクロしていない為、直接熱は神経に伝わってこないが、弐号機を伝導してエン
トリープラグが徐々に熱せられてくる。

地球でも見るか・・・。
始めてよね。地球なんか見るの。

残った生命維持の電力を使い、小さなモニタを映す。

「はっ!!! しまったっ!!!!!」

そこには真っ赤に染まったアラエルが東へ東へ落下していく様が映し出されていた。あ
の巨大な物質が落下したら都市1つが吹き飛ぶくらいでは済まないだろう。

「動けっ! 動けっ!!!」

ガチャガチャとレバーを揺するが、びくともしない弐号機。

摩擦熱でどんどん機体が熱くなり、それにともないアスカの意識もが朦朧としてくる。

ちくしょーっ! ちくしょーっ!
あんなの落としたまま死んでまたるかっ!!!

太平洋のど真ん中へ落下しながら、悔し涙を流すアスカ。

「ちくしょーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」





その時、赤道のやや南。

成層圏で強大な光が外宇宙に向かって放出された。





                            ・

                            ・

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                          あれは?

                            ・

                            ・

                            ・

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                            ・





『アスカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!』





ズガーーーーーーーーンっ!!!!

「ぐっ!!!」

強烈な衝撃を食らい、前のめりに体を突き上げられるアスカ。

しかし、一気に体は冷えてくる。

『アスカっ! 大丈夫っ!?』

モニタの目の前に初号機が見える。

「シっ、シンジっ! どうしてっ!?」

『無事なんだねっ!』

「う、うん・・でもっ! なんでシンジがっ!?」

手足も顔も溶けた弐号機を抱かえ、初号機が今度は北西方向へと落下していく。

「違うっ! そんなことよりっ! シンジっ!!! 使徒が東へっ!!!
  アタシはいいから、使徒をっ!!!」

『大丈夫だよ。』

それでも、シンジは弐号機をATフィールドで守りながら、海へ向かって落ちて行く。

「なんでよっ! ほ、ほらっ! 使徒がっ!」

アスカがモニタを見ると、アラエルは逆の東へとまだ火の玉となって落ちて行っていた。

『何言ってんだよ。あっちに何があると思ってるの? アスカ?』

「え?」

<アメリカ支部>

同時刻。

カヲルが、微笑を浮かべてチルドレン達と通信回線に開いていた。

『そろそろ、そっちのレーダに映るはずだよ。』

「ええ。捕らえたわ。」

レイが答える。

州を1つを担う原子力発電所を占有し、スナイパーポジトロンライフルに接続したエヴ
ァが4体。西の空に照準を合わせる。

「発射準備。」

「「「OK」」」

レイの指示に答える、トウジ,ケンスケ,ヒカリ。かつて生死を共に戦った、アスカの
仲間達がライフルを構える。

「アスカ。またやってくれたわね。」

笑みを浮かべるレイ。

「後は任せて、アスカ。・・・3,2,1・・・発射っ!」

バシュッ!

4本のエネルギーのラインが太平洋を西へ横切った。

<弐号機エントリープラグ>

ズガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!

太平洋の上で木っ端みじんに砕け飛ぶアラエル。

その閃光をアスカは肉眼で捕らえながら、シンジと共に大海原へ落ちて行った。

『綾波のことだもん。いつでもアスカをバックアップできる様に、気を配ってるさ。』

「レイさん・・・。でもシンジ、どうしてここに?」

『アスカが攻撃体勢に入った時さ・・・。』

シンジはフォースインパクトで飛び上がろうとしていたが、リツコに止められた。地球
への影響が無視できないからだ。

そこで、ネルフの輸送機を最低高度1万迄上昇させ、その位置で外宇宙へエネルギーを
放出させればいいと。ぎりぎり間に合うはずだとリツコに指示されたのだ。

「そっか・・・。」

『落ちるよ。』

「うん。」

ザッパーーーーーーーーン。

初号機は弐号機を抱き締める格好で、周りにATフィールドを張り太平洋に着水する。

その時、上空に3体の輸送機が飛んで来た。初号機と弐号機を回収しに来たのだろう。
だが、B型装備なので身動きができない。

「輸送機が来たのはいいけど、どうやって海面に上がれっての?」

『ほら?』

ドッポーーーーン。

上空から落下して来る深緑色のファンがあちこちに付いたエヴァ。マナ専用機。

『アスカーーーっ! ひっさし振りーーーっ!』

「マナーーーーーっ!!!!!」

本部にいて、唯一相談に乗ってくれていたマナの声を久し振りに聞くアスカ。

『やっだーーっ! こんな暗いとこで2人して抱き合ってるのぉぉ?』

「そうよっ! アンタ邪魔だけど、助けさせてあげるわ。」

『ち、違うだろぉぅ!?』

なんてことを女の子2人で言ってるんだと、焦るシンジ。

『言ってくれちゃうわねー。しゃーない、助けてあげるかっ。』

マナはファンをくるくる回転させながら、初号機と弐号機を持ち上げ、輸送機に乗せて
いく。

「ねぇ、おばあさんどうだったの?」

『あぁ、大往生よっ!』

「え? 亡くなっちゃったの?」

『そりゃぁもう。110歳だもん。拍手ものよ。』

「110って・・・。危篤っていうから心配してたのにーっ! で、マナなんでここに?」

『だって、おばあちゃん家千葉だからさ、急に使徒が現れて本部に駆け付けたら、アス
  カがぶっ壊してるし、飛んで行っちゃうし。どうしようかと思ったわよ。』

「うっ・・・。か、かなり壊れてた?」

『ボロボロよ。』

「そ、そう・・・たははは。」

『ナツミちゃんなんか、泣いちゃってさ。大変だったんだから。』

「ふーーーん。あの娘、意外にそういうとこあんのよねぇ。」

輸送機に乗ったアスカは、僅かに映るモニタから初号機へ、マナ専用機へ、そして遥か
彼方のアメリカへ目を向ける。

アタシ・・・独りなんかじゃないじゃない。
地球の裏側からでも、レイさんもシンジも見ててくれるじゃない。
マナもナツミも・・・。

アスカ達を乗せた輸送機は、太平洋を日本へ向かって、仲間のいるネルフ本部へ向かっ
て飛んで行くのだった。

<ロシア上空>

本部の援護に向かったイライザ達は、ロシアの上空で引き返し、進路をドイツに取って
いた。

「あの赤い小娘・・・瓦礫に汚く埃塗れになりながら、飛び上がったらしいですわね。」

『あははははは。相変わらず、不細工な戦い方ですね。』

アニーがイライザの言葉に笑う。

「何が可笑しいんですの?」

『だって、イライザさんが汚く埃塗れって・・・。可笑しくって。』

「あなた・・・。目標がドイツに向けられてたらどうしますの?」

『えっ?』

「突然飛来してくるエヴァ。対応できませんわ。」

『うっ・・・。』

「埃塗れになるのと、敗北という恥辱に塗れるのでは、どちらがおよろしいかしら?」

『・・・・・そうですね。』

「あの赤い小娘。何しでかすか・・・。」

愕然とするアニー。その横で爪を噛んでいたイライザだったが、ふっと視線を上げると
いつもの勝ち誇った笑みを浮かべる。

「ま、わたくしがいる限り。そんなふざけた真似はさせませんことよ。
  おーーーーーーーーーーーーーほほほほほほほっ!」

アスカを乗せた輸送機が日本へ向かっている頃、ロシアの上空を2機のエヴァ輸送機が、
ドイツへ向かって飛行機雲を描いていた。

<ネルフ本部>

シンジは地軸修正中であった為、アスカに通信で別れを言い急遽南極へと戻って行った。

本部へ戻ったアスカがケージから降りて来ると、涙で目を赤くしたナツミがジロリと自
分のことを睨む。その横立つミサト。

ノゾミとマユミは短時間とはいえ、精神汚染を受けた為、念の為集中治療室で検査中と
いうことらしい。

「あら? 中国支部の2人は?」

「さっき、大人しく帰って行ったわ。さっき迄の勢いは何処へいったのかしらって、感
  じだったわよ。」

ミサトがあの後の事情を簡単に説明した。

「ふーん、そう・・・。ほっときゃいいのよ。」

アスカは視線をナツミに向ける。

「心配掛けたわね。ナツミ。」

「フンっ! 誰がアスカの心配なんかっ!」

「中国支部に行きたそうだったじゃない。リーダーにしてくれるとかってさ。」

「あーんなとこでリーダーになってどうすんのよっ! アスカを抜いてリーダーになる
  って言ったでしょっ!」

「あら? 抜いてって。いつもアタシより上手いって言ってるの誰だっけ?」

「そうよっ! あったり前よっ! ワタシの方が上手いわっ! フンっ!」

そう言いながら、アスカに近付いて来たナツミは、トンとアスカの肩を叩く。

「さっきの出撃・・・・。」

少しはにかみつつも、ニッと笑ってアスカを見上げる。

「格好良かったわっ! でも次は、もっとワタシが格好いいとこ見せるんだからっ!」

「楽しみにしてるわ。」

「それ迄、死んだりしたら承知しないんだからねっ! ワタシ達の・・・。」

ビッと親指を立てるナツミ。

「リーダーっ!」

ナツミに答えるかの様に、ニッとアスカは笑うとビっと親指を突き立てる。

                        :
                        :
                        :

アスカは、ケージを出てナツミと廊下を歩く。

「でもね、ナツミ?」

「なによっ。」

「アンタがアタシから、リーダーを奪ってプラグスーツを着たりしたらね。」

「ん? どうするのよ?」

「アタシ、プラグスーツ脱いじゃってるかもねぇ。」

「逃げるのっ?」

「違うわ。もっといいもの着てるの。」

「何?」

可愛い後輩に視線を落としアスカは、微笑んで言った。その言葉にさすがのナツミも、
完敗してしまった様だ。

そのアスカの言葉が現実となる日は、そう何年も先の話ではなかったが、今はまだ夢物
語の延長であった。





                    「いつもアタシを見てくれてる人の横でね。

                      いつもアタシを見てくれてる仲間の前でね。

                      ウェディングドレス着てるのよっ!」






fin.
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