<ゼーレ本部>

混沌の中。




                        命を宿した?
                        僕は誰・・・。

                        命を宿した?
                        どうして・・・。

                        命を宿した?
                        何の為に・・・。

                        命を宿した?
                        何が僕を必要とする・・・。








                            寒い。








                        「タブリス。」

                        タブリス・・・僕の名前・・・。




                        「目覚めよ。」

                        生を受けた者の宿命・・・




                        「目を覚ますのだ。」

                        呼んでる・・・?




                        「タブリス。」

                        そうかい。








望まれし者か、忌むべき存在か・・・ただ暗闇に開かれた瞳がその宿命に紅き光を放つ。




                        何を見せてくれるんだい?




空間に灯された人工的な光が瞳を刺激する。




                        神を見せて貰おうか・・・。




かつて神前に立つことを許された、神を見る者という名前の大天使がいた。




銀の光が、彼の・・・そしてリリンの運命を誘い、輝き靡いた。




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マイ ライフ 外伝 05 -Silver Attack-
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<ミサトのマンション>

今日は久し振りにパーティーが開かれていた。ヒカリがめでたくチルドレンとなったこ
とのお祝いである。

「これでみんな揃ったでぇ。いやぁ、めでたいこっちゃで。」

レイが参加しなかったので、今回はシンジ,トウジ,ケンスケ、そして主役たるヒカリ
が集まっている。

「やけに嬉しそうじゃないか? トウジ。」

「ほらぁ仲間が増えるっちゅうのは、ええこっちゃでぇ。」

「委員長は特にじゃないのかぁ?」

やっかみ半分で冷やかして来るケンスケ。親友のトリオの中で、トウジが1番乗りに彼
女を作ってしまったのだ。多少は仕方ないだろう。

「ほないなことあるかいなっ。お前ん時も、祝ったやないかぁ?」

「そうかなぁ、喜び方が違う気がするんだけどな?」

「なんやとっ!」

「もうっ。トウジもケンスケもやめろよ。折角のパーティーじゃないか。」

ひたすらエビチュを飲むミサトの横で料理を作るシンジは、呆れながら2人を止める。
今日はヒカリが主役なので、料理作りには参加しない、周りがさせないというべきか。

「洞木さん?」

「はいっ。」

エビチュを飲んでいたミサトが話し掛けてきた。作戦部長ということもあり、はっきり
と委員長らしい返事をする。

「洞木さんには、鈴原くんのバックアップを専門にやって貰うわ。」

「はいっ! 頑張ります。」

「相性、1番良さそうだしねん。」

「なっ! 何言うとるんですかっ! ミサトさん迄っ!」
「・・・・・・は・・・い。」

真っ赤な顔で照れ隠しに大声でまくしたてるトウジと、ただ俯いて大人しく返事だけな
んとか返すヒカリ。ミサトは、笑顔いっぱいで満足気。

「ミサトさんも、からかっちゃ駄目ですよ。」

シンジが料理を運んで来る。ヒカリに食べて貰う料理なので、内心対抗意識が出てちょ
っと気合いが入っていたり。とは言っても所詮シンジは、仕方なくやっているだけであ
り、料理が趣味のヒカリとは腕が違うのは仕方が無いだろう。

「シンちゃんも、彼女くらい作らないと駄目よん。」

「いいですよ。そんなの。」

「ドイツでなんかあったって聞いたけどぉ?」

「あっ、あれは・・・関係ないです。もぅっ! 加持さんはぁー!」

口を少し尖らせ加持に文句を言いながら誤魔化す。あの一件は加持しか知らないので、
犯人は間違い無いだろう。

「あの娘、可愛いじゃない。イライザだっけぇ?」

「もう。やめて下さいよっ!」

「照れちゃってぇ。かっわいいんだからぁ。」

「おいっ! どういうことだっ! シンジ?」

「関係無いってばぁっ!」

「本当かぁっ?」

「本当だよっ! それより、早くパーティー始めようよっ!」

ミサトのからかう様子を見ていたケンスケが、裏切り者を見る様な目で詰め寄って来る
が、シンジは無理やりパーティーに話題を振った。

<ドイツ支部>

「くしゅん。」

丁度その頃、食堂で昼食を取っていたイライザは、ハンカチで口を押さえてクシャミを
していた。

「あら? シンジがわたくしの噂をしているのかしら。」

当たらずとも遠からずと言ったところである。あれ以来、作戦部長がゲルハルトになり、
チルドレンにキャンディー,アニー,ニールが加わってドイツ支部は万全の体制となっ
た。ドイツがヨーロッパ支部連の頂点となる体勢がここに完成したのだ。

「ところで、アニー? 昨日の戦闘はなんですの?」

「すみません。」

「わたくしの顔に、泥を塗らないで下さらないこと?」

「すみません。」

「ああいう時は、下手にグレイブを使うよりプログナイフをお使いになって下さらない
  かしら?」

「はい・・・すみません。」

そうは言っても、シャムシェルを1人で40秒である。悪いことはないはずだが、イラ
イザは気に入らない。

「お食事の後、シュミレーションで訓練ですわよ。宜しいですわね。」

「はい。」

イライザは些細なミスも許さなかった。彼女の叱咤,訓練は厳しい。しかし3人は、が
むしゃらに付いて行っていた。

今、彼,彼女達は成長過程の真っ只中であったが、この時期の訓練こそがドイツ四天王
と世界が恐れる4人を作り上げたと言っても過言ではないだろう。

<ネルフ本部>

それから数日後。ネルフ本部では、ちょっとした騒ぎが起こっていた。

「何かの間違いじゃないのっ!?」

「いいえ。計器は正しいわ。」

「直ぐに彼のことを調べてっ!」

書類や計器を何度も覗き込み確認するリツコと、驚いた表情で部下に激を飛ばすミサト。
突然チルドレンに志願してきた1人の少年が、いきなりのシンクロテストで40%とい
うとんでもない値を叩き出したのだ。

その書類に書かれた少年の名は、渚カヲル。銀色の髪に紅い瞳を持つ少年。

訓練も無しにレイを超えたっての?
あのレイを?

確かにシンジの例もある。シンジも1発目のシンクロで200%近い数値を叩き出した
のだ。しかし、シンジの場合は最初からある程度予測されていた事態であった。

ユイの死をもって完成したエヴァのコア技術。シンジのシンクロ率が異常なのは、全エ
ヴァに搭載されているコアの元となる、唯一存在しうるオリジナルにユイが入っている
以上、A10神経の理論から当然。

なぜかたった1度だけ現れたリリス。その分身がエヴァ。それ故、リリスが再び現れな
い限り、オリジナルのコアはもう生成できない。故に、シンジを超えるシンクロ率は彼
の・・・ユイの子孫にしかおそらく存在しないだろう。

レイはユイの分身とも言える存在である。たった1つしか魂を宿すことがなかったレイ。
シンクロ率がズバ抜けていてもおかしくはない。彼女も最初から40%近いシンクロ率
を叩き出した。

シンジとレイは、他に存在することが不可能な特殊な存在。

では、彼はいったい何だというのだろうか??

ミサトは安易に、シンクロ率が高い志願者と喜ぶわけにはいかなかった。写真に写る赤
い瞳を見詰める。特殊な生い立ちを持つレイと同じ色の瞳を。

                        :
                        :
                        :

「僕はカヲル。渚カヲル。宜しく。」

不敵な微笑を浮かべた少年の最初の挨拶。ミサトに紹介されながら、チルドレン達に挨
拶をする。

「あなた・・・誰?」

真っ先に警戒したのはレイ。

「君は僕と同じだね。」

「!」

珍しく感情らしきものを表情に出すレイ。それと同時に、ミサトも眉間を潜めて嫌な顔
をする。

「とにかく、いきなり40%を越える彼よ。レイ、1度シュミレーションしてみて。」

「はい。」

おかしな雰囲気の中で行われた自己紹介も終わり、早速シュミレーションがスタートし
ようとしていた。

「渚くん。初めてのシュミレーションだから、軽く動かす程度でいいわ。」

指揮するミサトの横で、リツコはカヲルのデータを最大限に取り始める。彼の何もかも
が不自然過ぎる。

『そうかい? じゃ、初めてくれていいよ。』

「いいわね。スタート。」

しかし、そのシュミレーションも何かがおかしかった。圧倒的に攻めているレイ。シン
クロ率はほぼ同じなので、同程度の実力を見せるはず。だが、なぜか間一髪で全ての攻
撃をまるで偶然の様にカヲルが交わしてしまい一向に勝負がつかない。

「レイ、何をしているの?」

『はい。』

レイも必死である。ここまで苦戦するレイなど見たことがない。どうしても決定打が打
てない。まるで暖簾を思いっきり叩いている様に。

それから10分以上も全力の戦闘が続けたレイは疲れ切ってしまい、決着がつかないま
まシュミレーションが終わった。

この奇妙な現象は、かなり後で原因が判明することになる。当時の計測器ではわずか一
瞬のシンクロ変動には対応できなかったのだ。そう、カヲルはぎりぎりでシンクロ率を
100%迄引き上げていた。

しかも、通常は40%の力しか出さない為、長時間でも疲れることすらなかったのだ。
40%だからといって、疲れが40%というわけではない。マラソンなら1時間走れて
も、全力なら1分持たないのと同じである。

「なんなのよ・・・。この子・・・。」

「僕には幸運の女神がついてるのかな?」

疲れ切ったレイに対して、微笑を浮かべながらシュミレーションプラグから出てくるカ
ヲル。その表情を、ミサトは得体の知れない物を見る様な恐怖の表情で見詰める。

「悪いけど、もう1度やってくれない?」

「シュミレーションをかい?」

「悪いわね。シンジくん?」

「はい。」

ミサトと一緒にカヲルの戦う様子を見ていたシンジは、笑顔でエントリープラグに入っ
て行った。

『いいかな? カヲルくん。』

『かまわないさ。』

「2人ともいいわね。スタートっ!」

2人が一気にシンクロを開始する。方やシンクロ率200%前後。方や40%強の戦い。
勝負は見えていた。

『フフフ・・・。』

シンジがカヲルに迫った瞬間、ミサトの前のコンソールからカヲルが軽く笑う声が聞こ
えた。

「えっ?」

その直後カヲルは抵抗らしき抵抗もできずに破壊され、シュミレーションは終了した。
シンジが勝って当たり前の戦い。当然の結果であったが、ミサトはどうしても腑に落ち
なかった。

あの子・・・。いったい・・・。

悩むミサトの前に、シュミレーション用プラグから出て来たシンジとカヲルが並ぶ。

「お疲れ様。渚くんはもういいわ。シンジくんはちょっと残って。」

「はい。」

「じゃ、僕は帰るよ。」

「明日、またね。カヲルくん。」

「・・・・・・そうかい?」

「うんっ!」

笑顔でカヲルを見送るシンジを残したミサトは、直ぐに帰り支度を始めた。その後、シ
ンジと共に車に乗り込み、いつもよりかなり早い家路につく。

<ミサトのマンション>

帰り道ずっと黙っていたミサトだったが、家へ帰り着くとエビチュを取り出し椅子に腰
掛け真剣な目でシンジに話し掛ける。

「彼のことどう思う?」

「え?」

夕食の準備をしていたシンジは、顔だけ振り返りきょとんとした顔でミサトに目を向け
る。

「渚くんよ。」

「友達になれそうですね。」

「え?」

「うん。そんな気がします。」

思わぬ返事が返って来た。ミサトはビールをテーブルに置き、言葉を詰まらせてしまう。
シンジはあまり気にせず料理を続ける。

「彼の微笑・・・気にならない?」

「微笑? カヲルくん、笑ってなんかいないと思いますけど?」

「え?」

再び言葉を詰まらせるミサト。どう見ても、いつも微笑を浮かべている様にしか見えな
い。

「泣いてますよ。」

「どうしてそう思うの?」

「わかりません。でも、シュミレーションした時、そんな気がしました。」

「そう・・・。」

シンジの言う意味がよくわからなかったが、家に帰って迄これ以上ネルフの話もしたく
ないので、気にはなるもののそこでカヲルの話は終わらせた。

<ネルフ本部>

翌日、戦闘訓練を終えシンジが更衣室で着替えていると、同じ様に横で着替えていたカ
ヲルが声を掛けてきた。

「ここには、銭湯というのがあるのかい?」

「うん。あるよ。」

「案内してくれないかい?」

「一緒に行こうか。」

「僕とかい?」

「決まってるじゃないか。」

「・・・・・・いいね。」

今迄利用したことはなかったが、場所だけは知っていたシンジは、カヲルと一緒にネル
フの銭湯へと向かう。

「いいね。リリンの生み出した文化の極みだよ。」

「リリン?」

「そうさ。」

カヲルの言っている意味がよくわからなかったが、あまり気にせずカヲルの赤い瞳を見
詰めるシンジ。

「君は強いね。」

「はは・・・。どうかな。」

視線を戻して、軽く笑って誤魔化すシンジ。

「どうかな・・・カヲルくんが、本気になったらわからないよ。」

「フフ・・・。」

「ははは。」

「いずれわかるさ。」

「カヲルくんは、何しにここへ来たの?」

「君と会う為かもしれない。」

「そう・・・。」

「君はなぜ僕とここへ来たんだい?」

「友達に・・・なりたいからかな。」

「そうかい?」

「うん。」

紅い瞳に光が宿る。

浴槽から立ちあがるカヲル。

ビシャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!

その瞬間、浴槽の水が大きく弾け飛んだ。

「どうだい?」

カヲルを見上げるシンジ。

「カヲルくん・・・悲しい目をするね。」

「・・・・・・悲しい?」

「うん。」

浴槽の水が切り裂かれる。

自分とカヲルの間に大きく展開されるATフィールド。

その紅い壁ごしに、カヲルの目を悲しそうな目で見るシンジ。

「僕は、この為に生まれたのさ。」

「そうかな?」

「そうさ。」

「そうかな?」

「いずれわかるよ。」

「そうかな?」

「フッ・・・君は強いね・・・。」

カヲルはそれだけ言い残すとシンジを浴槽に1人残し、銭湯を出て行った。

<発令所>

その頃、発令所では突然ジオ・フロント内にパターン青が検知された為、大騒ぎになっ
ていた。

「ネルフ本部施設内ですっ!」

「場所の特定急いでっ!」

「今計算して・・・あっ!」

「どうしたのっ!?」

「消えました。」

「どういうことっ? 付近のモニタ、全て映し出してっ!」

パターン青を検知した付近の全てのカメラを映し出すと、幾人かの人が映し出されたが、
興味深い人物は2人。渚カヲルと、のんびり銭湯に浸かる裸のシンジだった。

「フム・・・。」

映し出されたカヲルを眉間に皺を寄せて見つめるミサトと、シンジのことを見詰める顔
を赤くしたマヤの姿がしばらく続いたという。

                        :
                        :
                        :

翌日になり、チルドレン達がネルフ本部へやって来たが、そこにはカヲルの姿はなかっ
た。

「彼・・・遅いわね。」

カヲルを待ち続けていても仕方がない。ミサトが、他のチルドレン達だけでハーモニク
ステストを開始しようとした時、諜報部員から連絡が入る。

「渚カヲルをロスト。」

「なんですって・・・。」

ネルフの情報網から消えるなど、簡単にできるものではない。ミサトは歯ぎしりして、
手渡された経過報告書に目を通す。

「今日のハーモニクステストは中止。しばらく第2次戦闘体制で待機してて頂戴。」

「「「「「はい。」」」」」

「あっ、シンジくんは、残ってくれるかしら?」

「はい。」

レイやトウジ達が退室した後、ミサトはシンジと共に別室へと入って行く。

「渚くんと何か話した?」

「ええ。」

「何か言ってたかしら?」

「特には・・・ただ、ぼくを殺しに来たみたいですね。」

「えっ?」

「でも、止めちゃったみたいです。」

「どうして報告しなかったの?」

「ただの想像ですから。」」

「そう・・・。じゃ、想像でもいいわ。他に何か想うことない?」

「また、来るんじゃないかな?」

「また? ここへ?」

「たぶん・・・。そして、今度は・・・。」

「今度は?」

シンジはニコリと笑ってミサトを見返す。

「友達として。」

<ゼーレ本部>

ゼーレに戻ったカヲルは、キールと密室で話をしていた。

「なぜ碇シンジを殺さなかった。」

「必要ないからさ。」

「なぜだ。」

「勝つからね。」

「・・・そうか。いいだろう。出撃準備を進めろ。」

「もう行くのかい?」

「そうだ。その為にお前はアダムより生まれたのだ。」

「その為に・・・。」

南半球の多くの国を支配するゼーレ。本拠地はブラジル。

<ケージ>

カヲルはキールに案内され、ゼーレのエヴァの格納されるケージへとやって来ていた。

「これが、S2機関を搭載したエヴァだ。」

ゼーレは支配する国は少ないものの、技術はネルフより1歩リードしている。ネルフが
最初に開発したリリスの分身であるエヴァより早く、ゼーレが持つアダムの分身であり
飛行能力を有するエヴァには、既にS2機関の搭載が完成していた。

「行ってくるよ。」

カヲルは、微笑を浮かべたままエントリープラグに乗り込むと、ゼーレ本部を出る。

この戦いが終わったら・・・。
僕はどうして生きているのかわかるのかい?
それを知る為に・・・僕は・・・。

エヴァに語り掛ける様に思考を巡らしながら、シンクロをスタートさせるカヲル。その
シンクロ率は一瞬100%迄達したかと思うと、起動指数ぎりぎりの12%迄下がりエ
ヴァは飛び立って行った。

<ドイツ支部>

ゼーレのエヴァが単機で出撃したという情報は、世界のネルフに緊張を走らせた。その
エヴァがブラジルからヨーロッパ方面へと進行している。

イライザを始めとするドイツ支部の面々は、他国に先を越されてなるものかと、何処よ
りも早く出撃を完了し待機した。

「フッ。来ましたわね。」

ゼーレのエヴァの進行路を阻む様に陣を張ったドイツチームは、空を飛来するエヴァに
ポジトロンライフルを構える。

「単機で来るなんて、何を考えておられるのかしら? 皆さん、射程内に入ると同時に
  砲撃っ! 宜しいですわねっ!」

「「「了解。」」」

データを見る限り、敵エヴァのシンクロ率は10%強。空を飛べるという利点はあるが、
さほど恐れるものではない。それがイライザの判断だった。

「10・・・9・・・8・・・。」

カウントダウンを始める。

ドイツチームに向かって飛来して来るゼーレのエヴァ。

「3・・・2・・・1・・・ファイヤ・・キャーーーーーっ!!!!!!!!!」

いよいよ射程に入ったかという瞬間。

瞬きする間もなかった。

一瞬のうちに敵エヴァのシンクロ率が100%を示したかと思うと、瞬間移動した様に
イライザの眼前に現れ押さえ付けられた。

「キャーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!」

両手を引き千切られるように掴まれるイライザ専用量産型。

身動きすらできない。

モニタいっぱいに映し出されるゼーレのエヴァの光る目。

「イッ、イッ、イヤーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!」

ガチガチと恐怖に歯が震える。

ズバーーーーン!

キャンディー,アニー,ニールがポジトロンライフルを砲撃。

全てが真っ赤なATフィールドに遮断される。

戦闘開始から秒針が数度動いた時には、ドイツ支部の精鋭達は1機残らず全滅していた。

<ネルフ本部>

ドイツ支部の一瞬にしての全滅。その情報は、世界を恐怖のどん底に陥れた。全ての国
は出撃を控えてしまい、本部に対応が迫られる状況となる。

「間違いないわ。彼ね・・・。」

「ミサト。一瞬、シンクログラフが100を示しているわ。」

「それくらい・・・ありえるわね。」

イライザ達が残した情報が次々とドイツ支部より送られてくる。状況がこうなっては、
ネルフ同士で勢力争いをしている場合ではない。ドイツ支部も最大限の協力をしている
様だ。

「みんなっ。出撃体制っ! シンジくん・・・どうするつもりか聞かせてくれるかしら?」

「輸送機で、南極迄飛ばして下さい。」

「南極?」

「はい。ここだと被害が大き過ぎます。」

「彼がここへ来たら?」

「必ず南極へ来ます。」

「どうしてわかるの?」

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

「わかります・・・としか言えません。」

「わかったわ。もうわたし達には、あなたを信じるしかないわね。」

「すみません。」

「じゃ、みんなは本部防衛。シンジくんは、輸送機で出撃。」

「「「「「了解っ!」」」」」

防衛とは言っても、シンジのいない本部へカヲルが来たらレイがいるだけややマシと言
う程度で、ドイツ支部の二の前は確実である。残された道は、シンジの言葉を信じるし
かなかった。

<ゼーレエヴァのエントリープラグ>

シンジが出撃した頃、カヲルはアルプスからチベットに掛けて飛行していた。

フフ・・・。
出て来たかい?

カヲルのモニタには、一直線に南極へ向かうシンジのエヴァを乗せた輸送機が映し出さ
れている。

目的はネルフ本部なんだけどね・・・。
それもいいさ。

カヲルは、進行方向を直角に変えると、南極へ進路を取る。そんな状況を見て驚いたの
は、ゼーレ本部であった。

「何をしている?」

「彼が出たのさ。」

「碇シンジか?」

「先に倒すよ。」

「そうか。」

エヴァの戦いといえども、戦術、戦略は前世紀の戦争と同じで欠かすことができない。
例え有能なチルドレンでも、作戦を失敗すると負ける。

だが今まさに、そんなものが入り込む余地など許されない戦いが始まろうとしていた。

そこにあるものは、絶対無二の存在である超越した力と力の激突。

<南極>

シンジが南極に到着すると、そこには氷に溶け込む様な白いエヴァが翼を畳んで待ち構
えていた。

「待たせたね。」

『いいさ。』

シンジのエネルギーは輸送機に搭載した予備も含めて260分あるが、一旦シンクロを
スタートさせるとそこ迄長時間は戦うことは不可能。無制限のエネルギーと言える。

『これでいいかい?』

カヲルは氷の固まりを手に持ちシンジに見せる。

「うん。」

頷くシンジ。

カヲルがポンと空高く投げ上げる。

舞い上がる氷。

弱い太陽に輝く氷。

歴史にエヴァ史上最大の激突と名を残す戦いは、こうして静かに幕を開け様としていた。

氷の塊が引力に逆らえなくなる。

落ちる。

落ちる。

落ちる。

ドシャッ。

砕けた。




ズガンっ!!! ズガンっ!!! ズガンっ!!! ズガンっ!!! ズガンっ!!!

一気に攻勢を仕掛けたのはシンジ。

カヲルのATフィールドを中和し、アクティブソードで斬り付ける。

ズガンっ!!! ズガンっ!!! ズガンっ!!! ズガンっ!!! ズガンっ!!!

ATフィールドを中和されたカヲルは、空を飛べる利点を生かし防戦一方で逃げ続け
る。

ズバーーン。

空へ逃げるカヲル。

「くっ!」

シンジもATフィールドを反転させ地面にぶつけた勢いで、氷を舞い上がらせながら空
へ跳躍。

ズバーーーーン。

飛び上がる為に、一瞬ATフィールドが使えなくなったタイミングに合わせ、カヲルが
ATフィールドを叩きつけて来る。

「ぐっ!」

地面に突き落とされながら、逆にATフィールドを放つシンジ。

『ぐぐっ!』

ATフィールド同士の真っ向勝負になっては、カヲルに勝ち目はない。

また逃げるカヲル。

追うシンジ。

シンジは、シンクロ率で優位に立っていることを生かし、突撃を繰り返す。

彼には長期戦が許されない。

カヲルは、シンクロ率の劣勢に苦しみながら逃げる。防戦に徹すれば、なんとか持ち応
えられる可能性もある。

シンジが疲労する迄。

<ネルフ本部>

輸送機と衛生から送られて来る戦いの映像を、ミサトやレイを始めとする職員達は、固
唾を飲んで見守っていた。

「まずい・・・。」

最初に言葉を零したのは、ミサトであった。どう見てもシンジ優勢で進めている戦いで
あったがその顔が歪む。

「リツコっ! 後どれくらいっ!?」

既に戦いが始まって7分。優勢ではあるものの、互いに致命打を与えられないまま激戦
が繰り広げられている。

「もって10分。シンジ君の精神力が、この窮地で限界を超えたとしても15分持たな
  いわ。」

「くっ・・・。」

その頃チルドレン達も、エントリープラグに映し出されるモニタの中のシンジを見てい
た。

「碇君・・・。」

あのシンジにして、敵に致命傷を負わすことができないでいる。時間が経過するに従っ
て、レイの拳に力が入る。

「葛城三佐っ! 行きますっ!」

『駄目よ。』

「でもっ! 碇君がっ!」

『あなたに何ができるの。』

「・・・・・・。」

『わたし達には何もできないの。それを認める勇気を持ちましょ。』

「・・・・・・。」

レイに言われずとも、なんとかできるものならとっくに対策している。だが、世界最強
のネルフ本部作戦部長を務める葛城ミサトを持ってしても、この状況は打破できなかっ
た。

ただ、ネルフ本部が誇るシンジが勝つことを信じること以外は。

<南極>

周囲数十キロの氷は、ダイヤモンドダストの様に、宙を舞い続け落ちることを忘れてい
た。

2人の戦いは、ATフィールドの激突、中和、回避を果てしなく繰り広げる。それも全
ては、カヲルが防戦一方に徹しており、まともに正面衝突できない為。

後少しが入れない・・・。

ギリギリまで追い詰めるシンジ。

だが間一髪で交わされ続ける。

例えシンクロ率が上回っていても、防戦に徹されると簡単には倒すことができない。

「うぉぉぉぉーっ!!!」

渾身の力を込めATフィールドを全開にし、宙を舞うカヲルに斬り掛かる。

だが空を飛べるという利点を生かし、ギリギリで交わし続けるカヲル。

<ゼーレエヴァのエントリープラグ>

シンジが焦る一方、カヲルはカヲルで焦っていた。彼も決して余裕で交わし続けている
わけではない。既に装甲具のあちこちが破壊され、エヴァのあちこちが損傷している。

「まだなのかい? もう・・・持たない・・・。」

シンジの集中力の限界を待つカヲルは、攻撃を交わすだけでなく自分のシンクロ率をで
きるだけ低く押さえ続けなければならない。

ズシャーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!

「ぐっ!!」

それ迄、何度も間一髪で交わしてきたカヲルだったが、ついに左腕が切り落とされた。
その痛みを直接神経に感じ顔を歪める。

やるね・・・。
さすがだ。シンジ君。

左肩を押さえながら、空高く舞い上がる。

強大なATフィールドのエネルギーを使い、飛び上がって来るシンジ。
カヲルには、シンジの姿が神々しく見える。

今で15分か・・・。
後どれくらい、その神の様な力が持つんだい?

今、シンジとまともにぶつかるわけにはいかない。
カヲルは痛みを堪えながら、逃げ続ける。

<シンジ専用量産型のエントリープラグ>

「はぁはぁはぁ。」

高シンクロ率を維持するには、それなりのエネルギーを使う。シンジは、シンクロ率を
自らの意思でコントロールできない。つまり、休むこともできず、全力で走り続けてい
る状態である。

20分を経過した。

シンジの表情に苦痛に歪む。

このままじゃ・・・。

「うぉぉーーーっ!」

自分に残された時間は少ない。

最後の力を振り絞り、全力でカヲルを攻撃する。

「全開っ!!!」

ATフィールドが、南極の氷を縦一文字に切断する。

空へ逃げるカヲル。

「うぉぉぉぉぉーーーーーー−−−−っ!!!!!!!!」

それを想定していたシンジは持てる限りの力を使い、進行方向へATフィールドを何枚
も叩きつける。

ズガンっ!

ゼーレのエヴァの足から血が吹き出る。

だがカヲルの巧みな防御の前に、致命傷には至らなかった。

「ぐぐぐ・・・。」

そして、シンジは血を吐いた。

<ネルフ本部>

見守るスタッフ達。

その静寂した空気を貫くマヤの声が響き渡った。

「シンクロ率がっ! 195っ! 190っ!」

リツコがコンソールを覗き込む。

ミサトが目を吊り上げる。

「シンジくん!!!!!!」

シンクログラフに一瞬目を向けたミサトだったが、こうなることは最初からわかってい
た。

「更にっ! 150っ! 140っ!」

シンジのシンクログラフが、一気に降下していく様子をネルフスタッフ達は何も言葉に
することができず見ていることしかできなかった。

<南極>

ATフィールドを一気に5枚展開したシンジが、下がり続けるシンクロ率に苦しみなが
ら力を振り絞って特攻。

カヲルの上下左右にATフィールドが展開される。

シンジの捨て身の攻撃に、脱出を封じられるカヲル。

「くっ! 終わりかい・・・。」

さすがにとうとうカヲルも逃げ場を失い、自らのATフィールドすら中和され、死を覚
悟し目を閉じた。

しかし、衝撃は来なかった。

ん?
どうしたんだい?

ふと下を見ると、跳躍がカヲル迄届かず、地面に落ちて行くシンジ専用量産型の姿があ
った。

フッ・・・。
そうか。

時計を見ると、戦い初めてから20分以上経過している。

カヲルは微笑を浮かべた。

これ程とはね・・・。
凄いよ君は。
でも・・・。

既に自分のエヴァの装甲具の大半が砕け散り、左手を無くし両足からも血が流れ出てい
る。

さぁ、そろそろ行くとするよ。
シンジくんっ!

しかし、時の女神はカヲルに微笑んだ。

<シンジ専用量産型のエントリープラグ>

「はぁはぁはぁはぁ・・・。」

エヴァの体が急激に重くなり、ATフィ−ルドが弱まっていく中、シンジは肩で息をし
ながらキっとカヲルのエヴァを見据えていた。

「はぁはぁはぁはぁ・・・。」

駄目だっ!
負けるわけにいかないんだっ!
この戦いだけはっ!

急激に低下していくシンジのシンクロ率。

前方からはシンクロ率を100%に引き上げたカヲルが突撃して来る。

「うぉぉぉーーーー!!」

爪がレバーのグリップに食い込む程の力で握り締め、その攻撃を必死で回避する。

指と爪の間から血が流れ出る。

「ぐっ! ぐっ!」

シンクロ率の低下を70%前後でなんとか留めているものの、今度はシンクロ率で優位
に立ったカヲルが、その全てを中和し斬り掛かって来る。

こちらからなんとか切り込んでも、相手のATフィールドを中和しきれない。

ズガンズガンっ!

これ迄圧倒的優勢にほぼ無傷で戦っていたシンジ専用量産型の装甲具が砕け散る。

あと少しっ!
あと少しだけなんだっ!!!!!!!

シンジは最後の力を振り絞って、シンクロ率を上げ様とする。

体力と精神の限界以上で戦い、シンクロ率を無理矢理上昇させる。

ズバーーーン。

激しい頭痛を感じながらも、ATフィールドを100%近く迄上げたシンジは、仕掛け
て来たカヲルに対し、初めての正面からの接近戦を開始した。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!!!!!!」

まだシンクロに余裕のあるカヲルも、エヴァ自体はボロボロ。

シンジのエヴァは損傷は少ないが、いつ集中の糸が切れシンクロ率が一気に起動指数を
割るかわからない。

完全に中和し合ったATフィールドを挟んで、激突する2体のエヴァ。

ズガーーンっ!
ズガーーンっ!
ズガーーンっ!
ズガーーンっ!

力と精神力が激突する。

ズババーーーン!
ズババーーーン!
ズババーーーン!
ズババーーーン!

カヲルがシンジの装甲具を攻撃する。

「ぐふっ! うぉーーーっ!」

時間の無いシンジは残された力を全て使い、カヲルのエヴァのコアへの攻撃を敢行。

さすがにコアを破壊されてはまずい。最も強度の強い装甲具に守られているとはいえ、
近接戦闘で集中攻撃されては、破壊されるのも時間の問題だ。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!!!!!!」

シンジの攻撃を回避しようとするカヲル。
だが、片手が無く自由に動けない。

まだこれ程の力が残っていたのかとカヲルが焦る。

バンっ!

とうとう、最後の装甲具が砕けた。

露出するゼーレのエヴァのコア。

「ぐはっ!!!!!!!!!!!!」

その瞬間。

シンジは目の前が一気に真っ暗になった感覚に囚われた。

<発令所>

マヤが絶叫する。

「7%! ろ・・5%!」

「シンジくんっ!!!!!!!!」

悲痛な叫びを上げるミサト。

総立ちになるネルフ職員。モニタには氷面の上でカを落とし、ぐったりとするシンジ専
用量産型が映し出されている。

「シンジくんっ!!! シンジくんっ!!!」

『ぐはっ!」』

エントリープラグのモニタに向かって叫ぶミサトの目に、血を吐くシンジの姿が映し出
される。

「シンジくんっ!!! シンジくん!!!」

だが既にその声を聞くだけの力も残っていないらしく、シンジは両手でレバーに掴まっ
て苦しんでいるだけだった。

<シンジ専用量産型のエントリープラグ>

『い・・かり・・くん・・・。』

こと切れそうなレイの声が入ってくる。

『うらっ! シンジっ! 何さらしとんやっ! それでもワイらの切り札かいっ!』

トウジの叱りつける涙声が入ってくる。

しかし、そんな声も耳には届かず朦朧とする意識の中、シンジは自分自身と戦っていた。

駄目なんだ・・・。
この戦いだけは、負けちゃ駄目なんだ・・・。

ズバーーーン。

ぐったりしたシンジ専用量産型を頭から右手でわし掴みにし、吊るし上げるゼーレのエ
ヴァ。

そこにカヲルからの通信が入って来た。

「僕はどうして生きているんだい?

  君は僕の答えじゃなかったのかい?

  そう・・・僕は生きている意味なんて無いのかもしれない。

  さよなら。別れの言葉さ。」

カヲルはシンクロ率を100%迄上げ、シンジのエヴァに最後の攻撃を仕掛けた。


駄目だ・・・。

カヲルくん・・・駄目だっ!

駄目だっ!!

駄目だっ!!

駄目だっ!!

駄目だっ!!

駄目だっ!!

駄目だっ!!

お願いだ。母さんっ! カヲルくんがっ!




そして、世界が光った。




<ネルフ本部>

ズドォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーォォオオオオオオン!!!!!!

史上最大の大地震が世界を・・・地球を襲う。

「なっ! 何が起きたのっ!」

立つどころかその場に倒れていることもままならない状態で、ミサトはコンソールに掴
まり状況を分析しするが、全ての計器は既にまともに動作していなかった。

「みんなっ! 無事っ!?」

「は、はい・・・。」

固い隔壁に覆われたジオ・フロントの中枢にある発令所の壁もが、ひび割れ歪んでいる。

「怪我した者は退避っ! 残った者で人名救出っ! 急いでっ!」

「はいっ!」

状況が全く掴めないまま、ある程度地震が納まると、全世界のネルフ,国連,軍隊,戦
自,警察は全力で人名救助,治安回復に勤めた。

セカンドインパクトと後に呼称されることとなる、シンジが混沌の中で引き起こしたエ
ネルギーの暴走であった。

<南極>

                        命がある?
                        僕は・・・。

                        命がある?
                        どうして・・・。

                        命がある?
                        何の為に・・・。

                        命がある?
                        何が僕を必要とする・・・。








                            暖かい。








                        「カヲルくん。」

                        カヲル・・・僕の名前・・・。




                        「目を開けてよ。」

                        命を残してくれたのかい・・・




                        「目を覚ましてよ。」

                        呼んでるのかい・・・。




                        「カヲルくん。」

                        そうかい。








生きることを認められたのか・・・瞳がその運命に紅き光を放つ。




                        僕は何を見てるんだい?




真っ赤に染まった南極の光が瞳を刺激する。




                        神・・・。




かつて神前に立つことを許された、神を見る者という名前の大天使がいた。




銀の光が、彼の・・・そして彼自身の運命を誘い、輝き靡いた。




カヲルを包んでいたものは、シンジの作り出したATフィールドだった。

そうか・・・
やっぱり、負けたんだね。

次第に薄れていくATフィールド。

『帰ろう。カヲルくん。』

「僕は死ぬべきなのさ。」

『どうしてさ。』

「僕は世界を滅ぼす為に生まれたのさ。それを君が阻止したんじゃないのかい?」

『そう。だから、もういいじゃないか。』

「僕の生きている意味はなくなった。君こそ生きるべきなのさ。」

『なくしちゃったんなら、また見つけようよ。』

「・・・・・・。」

『もう、カヲルくんの生まれた意味はなくなったよ。だから、今度は生きる意味を見つ
  けよう?』

「生きる意味・・・。」

『うん。』

カヲルは、ボロボロになった自分のエヴァのエントリープラグに映るシンジの姿に目を
向ける。

「新たな命を君がくれたのかい?」

『一緒に探そうよ・・・。本当の笑顔を。』

「君がそう言うなら・・・。少し時間をくれるかい?」

『うん・・・。待ってるから。』

「ありがとう。」

空高く飛び立っていくカヲル。その姿を、シンジは、もうシンクロすらできない疲れた
体ではあったが、優しい瞳で見送る。

そして、迎えの輸送機が来る迄、長い長い眠りにつくのだった。

<ネルフ本部>

数時間後。

ネルフ本部にシンジ救出完了の報告が入った。

ミサトそしてチルドレン達を始めとし、ネルフ全体が湧き上がる。

輸送機のモニタに映し出されるシンジ。

「シンジくんっ! 大丈夫っ!?」

『はい。』

「彼はっ!?」

『どっかへ行っちゃいました。』

「どっかって・・・。それより、南極で何があったのっ?」

『すみません・・・。よくわかりません。』

「そう・・・わかったわ。早く帰ってらっしゃい。みんな待ってるわ。」

『はい。』







世界中のネルフを震撼させる情報が入ってきたのは、それから更に数時間が経過した時
だった。




                        ”ゼーレ壊滅”




その知らせを聞き、全てを理解したのはただシンジ1人であった。

                        :
                        :
                        :

3日が経過した。

ミサトを始めとするスタッフ達は、驚いた顔で2人の少年を見詰める。

「シ、シンジくん・・・。」

「帰って来たんだ。」

シンジが横に立つカヲルを笑顔で紹介する。

「あなたって子は・・・。」

初めてカヲルを見た時の表情とは打って変わって、優しい微笑みを浮かべるミサト。




エヴァの戦いといえども、戦術、戦略の入り込む余地はなかった。

そこにあるものは、絶対無二の存在である超越した力と力の激突。

だが、そんな中に入り込むことができたものがあった。




それは・・・。


                        人としての心。




生きる意味に渇望していた彼は、押しつけられた世界制覇にそれを見出そうとした。

そして今、碇シンジと共に新たな意味を探そうとしている。

それが、どの方向に向かうのかはまだわからない。

ただ言えることは、碇シンジが平和を望むのであれば、彼もそこに生きる意味を見い出
して行くに違いないだろう。

ある意味それは危険なことには違いはない。

なぜならば、カヲルの生きる意味は平和にもネルフにもなく、シンジ個人に委ねられた
のだから。

だが、それがシンジであるならば・・・。




カヲルはシンジと並び、心から笑みを浮かべるのだった。




fin.
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