------------------------------------------------------------------------------
ジェネレーション
Episode 02 -桶狭間だぎゃー-
------------------------------------------------------------------------------

<アスカの小屋>

「水汲んできなさいよっ。」

「水? ぼくが?」

「あったり前でしょっ! 働かざる者食うべからずよっ!」

あの後、根気強く未来から来たと説明したが、理解して貰えなかった。ただ、自分と同
じ人間だということはわかってくれた様で・・・その途端このこき使われ方だ。

「・・・いいけど。でも、何処に行けばいいの?」

「うちを出て、ちょっと行った所に井戸があるわ。そこで汲んできて。」

「うん。」

木製のバケツを持ち、言われた通り井戸まで水を汲みに行くと、そこには既に農婦らし
き人達が沢山集まっていた。

カラカラカラ。

結構、重いなぁ。
あの娘、いつもこんな重いの持ち上げてるのかなぁ?

滑車の音をたてながら、井戸に垂れ下がっている縄を引っ張り、水を何杯か汲み上げる。
思っていた以上に重労働だ。

「よいしょっと・・・お、重い・・・。」

バケツに水をめいいっぱい入れたシンジは、それを持って立ち上がろうとしたが、あま
りの重さに千鳥足になってしまう。

「はぁはぁはぁ・・・。」

そんなこんなで、ひーひー言いながら水がいっぱいに入ったバケツを、やっとの思いで
小屋まで持って帰って来た。

「アスカ? 入れてきたよ。はぁはぁ。」

「何これ? なんで、こんなにたくさん入れてきたの?」

「え? だって・・・。」

「重いから、半分程捨ててきて。」

「えーーーーーーっ!」

「さっさとするっ。」

「・・・・・。」

なんだよっ。
半分でいいんなら、最初からそう言っといてくれればいいじゃないかっ。

しんどい思いをして持って来たのに、それが徒労だったとわかったので、がっかりしな
がら運んできた水を半分程軒下に捨てる。

「それが終わったら、アタシがご飯作ってる間に、洗濯してきてよ。」

「洗濯?」

「少し向こうに川があるわ。そこに置いてあるやつ洗ってきて。」

「えーっ。」

「ほらっ、早く行って来なさいよっ。」

「わかったよ。もう・・・。」

寝不足の上、朝っぱらからこき使われ、文句の1つも言いたくなったが、ここで見捨て
られては生きていく自信が無いので、しぶしぶ素直に洗濯物を持って出掛けて行った。

<小川>

シンジが小川までやってくると、そこにもやはり農婦らしき人達が、洗濯板で着物など
を洗っていた。

なんか・・・昔の人って大変だなぁ。
現代に戻りたいなぁ。

こき使われているんじゃないかと思っていたが、この世界ではこれが当り前なのだ。シ
ンジは、周りの人をちらちら見ながら、見よう見まねで洗濯をする。

雑巾くらいしか手で洗ったことなかったけど・・・。
これって、かなりしんどいなぁ。

いつも何気なく見ていた文明の力、洗濯機の便利さを噛み締めながら、シンジはアスカ
の着物をゴシゴシと洗う。着物とはいっても、薄汚れた使い古しである。

いつもこんな服着てるんだ。
服の1着くらいお土産に持って来てあげたら良かったな。

今、自分のおかれた境遇をすっかり忘れて、そんな呑気なことを考えながら冷たい水に
手を浸し、シンジはゴシゴシと着物を洗い続けた。

<アスカの小屋>

着物を全て洗い終わり帰って来ると、朝食の準備が整っていた。何か野菜の様な物の煮
付けとお粥である。

「終わったよ。」

「遅かったじゃない。ご飯できてるわよ。」

「うん、ありがとう。」

洗ってきた洗濯物を干し、アスカの対面に座ってご飯を食べ始めようとしたが、茶碗の
中に入っているものを見て、シンジは目を見開いた。

「なんだよこれーっ!?」

「何ってご飯よ?」

「鳥の餌じゃないかぁっ!」

それはお粥ではなく、鳥の餌をお湯につけた物にしか見えなかった。

「なんですってっ! どういう意味よっ!」

アスカは、せっかく作ってあげた自分の料理がけなされたと思い、目を吊り上げ怒って
立ち上がる。

「お米はどうしたのさっ!?」

「アンタバカぁっ!? お米なんて、毎日食べれるわけないでしょうがっ! 柴田様みた
  いに偉い方でも、毎日は食べてないわよっ!」

「だ、だって・・・。」

そう言われて、学校で習ったこの時代の生活を思い出したものの、生まれてから粟や稗
など口にしたことの無いシンジには抵抗が強すぎる。

「じゃ、じゃぁ、せめて今日くらいお米に・・・。」

「ふざけんじゃないわよっ! お正月とかよっぽどの時に大事に置いてあるお米を、そ
  うやすやすと出せる物ですかっ!」

「・・・。」

「いらないなら、食べなくていいわよっ! 出て行って頂戴っ!」

「うっ・・・。」

背中とお腹がくっつかんばかりの空腹に耐えていた為、食事を取り上げられた上、出て
行けと言われては、どうすることもできない。

「ごめん・・・。食べます・・・。」

「わかればよろしい。」

もう今の状況では、アスカに頼って生きていくしかない。シンジは、まさしく苦虫を噛
み潰す顔で、粟を喉へ流し込んでいった。

                        :
                        :
                        :

「それじゃ、そろそろ行くわよっ。」

「何処へ?」

「信長様のお館よ。」

「安土桃山城だっけ?」

「は? なにそれ? 清洲よ。」

「そ、そう?」

あれーー?
信長って、安土桃山城って習った気がするんだけどなぁ。
間違ってたのかなぁ・・・。

まだ、信長が尾張すら統一していない時代である。安土桃山城が出来ているはずもない。
それはともかく、シンジはアスカに連れられて清洲城へと向かって行った。

<清洲城>

パカラッ。パカラッ。

馬に跨り、シンジを後ろに乗せたアスカは、清洲城の門を潜る。

「よう、惣流殿。今日も女だてらに威勢がいいのぉ。」

「うっさいわねぇっ!」

近頃、信長に取り立てられ一気に足軽頭となった木下藤吉郎である。顔が猿に似ている
ので、アスカは好きになれない。なぜかアスカは、猿と聞くとムッとするのだ。

「その後ろにいる、変わった服を着ているのは誰じゃ?」

「アンタには関係ないでしょ。今度召し抱えた、アンタと同じ足軽頭よっ!」

ぼ、ぼくがぁぁ? 足軽頭ぁぁぁ? 召抱えられたぁぁぁ?
そんなこと聞いてないよっ!?

自分の事を紹介してくれるのはいいが、いきなりわけのわからない身分を押し付けられ
て、嫌な予感がしてならない。

「突然現れて、いきなり足軽頭か? ええのぉ。惣流殿の所は手柄を立てんでも、身分
  が上がるようじゃの?」

「藤吉郎も努力すれば上がれるわよっ!」

えっ!?
藤吉郎って? ま、まさか・・ひ、ひ、ひ、秀吉ぃぃぃぃ????

シンジは馬の後ろに跨ったまま、ひっくりかえらんばかりに驚いた。あの有名な秀吉が、
今自分の目の前にいるのだ。

「あ、あのっ!」

慌てて馬から降りたシンジは、いそいそと藤吉郎の側へと寄って行く。

「あの・・・握手して貰えますか?」

「なんじゃ? 握手だぁ?」

「は、はい。お願いします。」

「まぁ、ええけどな。」

藤吉郎は、不信に思いながらも握手をする。シンジは特に秀吉が好きというわけではな
かったが、やはり歴史上の有名な人物と握手できたので大喜びしていた。

アイドルと握手した人はいても、
秀吉と握手した友達なんていないだろうなぁ。

当り前である。本人もわかってはいたが、それでも感動しながら再び馬に乗りアスカの
後ろで藤吉郎に手を振った。

「がんばって下さいねっ!」

「おうっ! なんかお前、ええ奴じゃな。」

好意的に接してくるシンジに、藤吉郎も機嫌を良くした様で、手を振りながら笑顔で見
送ってくれた。

秀吉と握手したんだよなぁ。
カメラ持ってきたらよかったな。
元の世界に帰ったら、みんなに自慢しよっと。

誰も信じてくれるはずもないのだが、シンジは羨ましがる友達を想像して、1人優越感
に浸っていた。

「あっ!」

「どうしたの?」

「早く降りなさいよっ!」

「なにっ!?」

「信長様よっ!」

屋敷の奥へ入って行くと、その奥から家来を何人か連れた信長が、鷹狩りの格好をして
馬に乗って出てきた。

「え? あれが信長?」

「バカなこと言ってないで、早く頭を下げなさいよっ! 信長様よっ!」

すっすごーーーいっ!
本物の信長だーーーっ!
あっ! そうだっ! 握手して貰わないとっ!

またしても感動してしまったシンジは、トタトタと信長の前に進み出ると、藤吉郎の時
と同じ様に信長に握手を求めて右手を差し出そうとする。

「無礼物っ!!!」

しかし、シンジが信長に近寄った瞬間、まわりを取り囲んでいた家来達が、わっとシン
ジの前に躍り出てきた。

「へ? あの・・・ぼくは、ただ握手を・・・。ははは・・・。」

「貴様っ! そこへなおれっ! 打ち首しにてくれるわっ!」

「ひえぇーーーーっ!」

戦国時代の重厚な日本刀を取り出したのは佐久間森重。シンジの首目掛けて、その切っ
先を突き付けてきた。

「ぼ、ぼ、ぼ、ぼくはただ、握手を・・・っ! た、た、たすけてーーーーーーーっ!
  人殺しぃぃぃぃぃぃっ!!!!」

刀を見て目を白黒させながら叫び声を上げるシンジ。焦ったのはアスカである。ことも
あろうか、信長の前に躍り出たかと思うと、握手しようとしたのだ。アスカは、慌てて
馬を飛び降りシンジの前に出て、信長の前に平伏した。

「申し訳ございませんっ! ポルトガルから来た所で、まだ日本の礼儀作法などわかっ
  ておりませんのでっ!」

「惣流殿の配下かっ!?」

「はいっ! 申し訳ございませんっ! しかと、礼儀作法を教えておきますので、今日の
  所は何とぞっ!」

「ほぅ。お主もポルトガルの者か。我ら日本人と似ておるのぉ。」

そんな様子を、馬の上から見物していた信長が、シンジを見据えながら喋り掛けてきた。
普通に喋っているのだが、さすがに天下人だけあってかなりの威圧感を感じる。

「よかろう。今回は、惣流殿に免じて許して遣わす。だが、次は無いぞ。」

アスカが頭を下げ、また信長も穏便に対応したこともあり、佐久間森重は刀を鞘に納め
た。

「ほらっ!土下座してっ!」

アスカに頭を押さえつけられて、その場に土下座するシンジ。その前を、信長とその家
来達は、悠々と過ぎ去っていった。

「ふぅ、死ぬかと思ったよ。」

「アンタバカぁ? なんてことすんのよっ! こっちまで殺されるかと思ったじゃないの
  よっ!」

「ごめん・・・。」

「全くっ! 何考えてんのよっ! アンタはぁっ!」

「ごめん・・・。」

「ほら、さっさと行くわよっ!」

アスカはシンジを乗せると、その後できるだけ偉い人に会わない様に気をつけながら、
屋敷の裏を回って柴田勝家の屋敷へと向かった。

<柴田の屋敷>

屋敷に着いたアスカは、柴田にシンジを紹介した後、今日も自分の役目である足軽の訓
練を始める。

「どう? これが、アタシが柴田様から預かる100人の精鋭達よっ!」

アスカの前で、その足軽達は槍を持って訓練に励んでいた。なかなかの強者揃いだとい
うことが、見た目にもわかり統率もしっかりと取れている・・・が・・・。

「ふーーん。」

「なによ、その返事はっ!」

「だってさぁ。いくら槍を突く練習したってさ、もうすぐ鉄砲が主流になるのに。」

「これだから、素人は困るのよ。まだまだわかってないわねぇ。鉄砲って言ったら1発
  撃てばしばらく使えないのよ? まだまだ槍や弓の時代なのよっ!」

「あれ? 3列に並べて、時間差を付けて撃つんじゃないの?」

「!!!!!」

「おっかしいなぁ。1番前が撃ってる間に、後ろで弾を込めるって習ったような・・・。」

「アンタっ!」

アスカは、目を大きく見開いてすごい気迫でシンジに迫って来る。突然のことに、シン
ジの方が腰を引いてしまった。

「な、なんだよ。」

「それいけるわっ! アンタ、それって凄いわよっ! 時代が変わるわっ!」

「凄い? そう・・・かな? 習っただけなんだけど・・・。」

よくわからないながらも、とにかくアスカに誉められたので、頭をぽりぽりと掻いて照
れ笑いを浮かべるシンジだった。

<信長の屋敷>

その夜、鉄砲を使った作戦を進言しようと、シンジとアスカは信長の屋敷まで訪れてい
た。

「失礼の無い様に、昼間アンタが言ってた戦法を説明するのよっ!」

「やだよー。もう会いたくないよぉ。怖いよぉ。」

「あの作戦を進言すれば、間違いなくアンタは、信長様に取り立てて貰えるわっ!」

「いいよ。べつに。武将になんてなりたくないよぉ。」

「もぉぉっ! 男でしょうがぁ。情けないわねぇっ!」

「アスカが説明してきたらいいじゃないかぁ。」

「アタシはそれでもいいわよ。でも、アタシの手柄になっちゃうのよっ!?」

「いいよ。そんなの。もう怖いから会いたくないよ。」

「アンタって、ほんっと変わった奴ねぇ。」

アスカにとっても、出世に繋がる妙案なので自分が進言することに不服はなかったが、
どうもシンジの考え方には、ついていけない所があった。

「失礼します。」

「惣流か。なんだ。」

信長は、1人蝋燭の灯った部屋で寛いでいる最中だった。そんな中、頭を下げて部屋に
入り腰を降ろす。

「鉄砲について、新たな作戦を進言しに参りました。」

「鉄砲? あれは、まだ使えんと言った所だ。」

「はい、そのことなんですが。鉄砲を3列に並べて・・・」

シンジが昼間言っていたことを、信長に詳しくする説明するアスカ。最初はあまり聞く
気の無かった信長だったが、次第にその話にのめり込んで行った。

「でかしたっ! 手柄じゃっ! 惣流っ!」

「はっ!」

「明日からお前には、400の兵を与える。わしの直下で、よりいっそう励めっ!」

「ありがたき幸せっ!」

こうして、めでたく出世したアスカは、信長の名将としてのその地位を築き上げて行こ
うとしていた・・・はずだった。

<アスカの屋敷>

先日の出世で、住む場所も小さな小屋から少し大きな屋敷へと移ったアスカは、今日も
シンジと2人で朝食を食べていた。最近は、粟や稗に米を半分程混ぜて食べれるくらい
の余裕も出てきた。

「やっぱり、ご飯が混じると美味しいや。」

「あったりまえでしょうが。」

最初は足軽頭にしようとしていたシンジだったが、あまりにも情けないので、今はアス
カ家の台所を預かる主夫と化している・・・。

というのは建前で、アスカは天才的な軍事能力を秘めたシンジにいつしか興味を持つよ
うになり、それがだんだんと別の感情に変わるにつれ外に出したくなくなってきたのだ。

シンジにしてみれば、単に歴史で習ったことを言っているだけだったのだが・・・。

「あっ、そろそろ鶏の卵を取りに行かなくちゃ。」

「急いで取って来てよ。アタシも食べるわ。」

「うん。」

ここしばらくの生活で、シンジもこの時代の暮らしにかなり馴染んできた。人間の環境
適応能力とは大した物である。

ドアドタドタ。

その時、アスカの小さな屋敷に、背中に旗を挿した兵が飛び込んで来た。

「どうしたのっ!?」

「大変ですっ! 今川がっ! 今川義元が動きましたっ!」

「な、なんですってーーーーっ!」

「今、三河を通過したとのことにござりますっ!」

「の、信長様は、どうしてるのよっ!」

「尾張の東に陣を張って、迎え撃とうとされてますがっ! 数が違いすぎますっ!」

「相手はっ!?」

「2万とも4万とも、言われていますっ!」

「よ、よんまんーーっ!?」

「とにかく、アタシの兵を集めてっ!」

「へいっ!」

アスカは自分の馬にシンジを乗せ、すぐに駆けつけられる部下100人の足軽を連れて、
信長が陣を張る尾張の東に軍を進めた。

「シンジ・・・。」

「なに?」

「アンタとも短い付き合いだったわね。」

「どうしたのさ?」

「アンタ、やけに落ち着いてるわね。アタシは、怖いわ。」

「アスカでも怖がることあるんだ。」

「そりゃそうよ。敵4万よっ? きっと全滅するわ。」

しんみりとした顔で、馬の後ろに乗るシンジを見つめるアスカ。

「なんだか、アンタみたいな変わった奴に最後に会えて嬉しかったわ。できれば、祝言
  でもって考えてたの・・・本当は・・・。でも、もう無理ね。」

「あのさぁ?」

「さぁ、最後の花を咲かせに行くわよっ!」

いざ戦地へアスカが向かおうとした時、シンジはアスカの鎧をくいくいと引っ張った。

「あのさぁ。桶狭間に行かないの?」

「え?」

「あの、黒い雲のあたりが桶狭間じゃない?」

「ど、どうして?」

「だって・・・豪雨の中、狭い桶狭間で今川を数百の兵で奇襲したって・・・。」

「!!!!」

「行かないの?」

「アンタっ! それよっ! それ、いけるわっ!」

アスカの目がキラリと輝いた。そんなアスカを見たシンジは、どうして信長が行かずに
アスカが行くことになってしまったのだろうかと、不思議に思っているだけだった。

「敵が桶狭間にいる時こそ勝ち時ぞーーーっ! みんなっ! 行くわよーーーーっ!!!」

くるりと振り返ったアスカは、自分の率いる騎馬隊に意気揚々と号令を掛ける。

「桶狭間で、今川義元の首を取るのよっ! 恩賞は思いのままぞーーーーっ!!!」

「「「「「「おーーーーーっ!」」」」」」

「行っけーーーーーーーーっ!!!!」

だんだんと薄暗くなり視界の効かない雨の中を、全力で前だけを見て疾走するアスカの
騎馬隊。その疾風のごとき突撃は、風神雷神をも思わせた。

<桶狭間>

アスカの騎馬隊は、桶狭間の谷を見下ろす崖の上へ来ていた。丁度、源義経が”鵯越の
さか落とし”をした時の体勢だ。

「このまま崖を駆け下りるのよっ! 蹄の音は、雨が消してくれるわっ!」

「「「「「「おーーーーーっ!」」」」」」

桶狭間についた時、視界は限りなくゼロに近く、雷をともなった豪雨となっていた。そ
んな中、アスカ達の視界の下には今川本体が陣を張っている。

「アンタ達の命っ! アタシが預かるわっ!」

「「「「「「おーーーーーっ!」」」」」」

「シンジっ! しっかり掴まっててっ!」

「うん。」

「雑魚に構うんじゃ無いわよっ!!!
  目指すは、今川義元の首のみっ!!
  突撃ーーーーーーーーーーっ!
  行っけーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」

騎馬隊と共に、今川が陣を張る桶狭間に崖を下って猛スピードで突撃していくアスカ。
今川勢はまさかの奇襲にパニック状態に陥った。

「いたわっ! 義元見つけたりっ!」

逃げまどう義元に、アスカとその騎馬隊が襲い掛る。今川勢も必死で応戦したが、視界
が効かない為に同士討ちを繰り返し、ついには今川義元はその場で首を取られた。

「惣流様っ! 義元の首取りましたっ!」

「よーーしっ! よくやったわっ! これで我が尾張も安泰よっ!」

ピカッ! ゴロゴロゴロっ!

その時、アスカの乗る馬の真横に雷が落ちた。その衝撃で弾き飛ばされるシンジとアス
カ。

「いったーーっ! シ、シンジっ!? 大丈夫っ!?」

顔を上げたアスカの視線の先には、輝く青い光に包まれたシンジが見えた。

「アスカ・・・帰る時が来たみたいだ・・・。」

過去にやってきた時と同じ青い光の中で、シンジはあの時と同じような浮遊感を感じて
いた。

「も、戻るって、何処へ行くのよっ!」

「ぼくの世界へ戻るんだよ。今迄ありがとう。楽しかったよ。」

「尾張もアタシ達もこれからじゃないのよっ! どこに行くってのよーーーーっ!」

「きっと、アスカなら名武将になれるよ。がんばってね。」

「いやよっ! 行かないでよーーーーーっ!」

勝ち戦に沸き立つ騎馬隊の中、アスカは手を伸ばしながらシンジに駆け寄って行く。

ゴロゴロゴロッ!!!!! ザーーーーー!!!!!

雷雨の音。雷の光。

「アスカ、さようなら。」

青白い光にシンジの姿が包まれ、今にも消えそうになった時。

「イヤーーーーーーーーっ! アタシも行くぅーーーーーーーーーっ!」

その光の中へ脇見も振らず無我夢中で飛び込んで行くアスカ。

「ア、アスカ・・・。」

「アタシも連れてってっ! アンタの世界に連れてってっ!」

「でも、尾張は・・・?」

「もう大丈夫よ。後は信長様がやってくれるわ。」

「そう・・・じゃ、行こうか。」

「うん・・・。シンジっ。」

その後、信長は歴史通り全国統一を進めていくことになる。ただ真実と違うのは、アス
カの功績は、全て信長の手柄となったことであった。

<土管>

どさっ!

「いったーーっ!」

「いたたたたたたたた。」

全身に痛みを感じたシンジが起きあがると、そこは見覚えのある土管の中だった。

「あっ、戻ってきたんだ。」

「戻って? え? ここは?」

豪雨の中から、いきなり狭い土管に叩き込まれたアスカは、顔だけを外に出してきょろ
きょろと周りを見渡した。

ゴーーーーーーーーーーーー。

そんなアスカの頭上を、ジャンボジェット機が飛んで行く。

「ぎゃーーーーーっ! シ、シンジっ! ひっ、ひっ、火の鳥よーーーーーっ!!!」

「はぁ?」

その時、土手の上をバイクに乗った暴走族が走って行った。

「ぎゃーーーーーっ! 奇怪な馬が、雄たけびを上げてるわーーーーっ!!!」

「い、いや・・・だから・・・アスカ・・・・。」

そして、その暴走族をパトカーが赤いパトランプを回しながら、ウーウーと追い掛けて
行く。

「ぎゃーーーーーっ! 獅子よっ! 獅子が火を吹いてるわーーーーーっ!!!」

「あ、あれは・・・。あの・・・。」

「シンジーーーーーっ! ここはどこなのーーーーーっ!
  ここは天界なのーーーーーーーーっ!???????
  か、神様はどこーーーーーーーーーーーーーっ!????????????」

いきなりパニックに陥ってしまったアスカに、シンジは何と説明していいのかわからな
くなってしまい、あたふたと慌てるのだった。

To Be Continued.
作者"ターム"へのメール/小説の感想はこちら。
tarm@mail1.big.or.jp
inserted by FC2 system