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ジェネレーション
Episode 03 -ここは天界?-
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<第3新東京市郊外>

現代に付いて来てしまったアスカと一緒に、シンジは土手の上を人目を気にしながら急
ぎ足で家に向っていた。

「アスカ? お願いだから刀だけでも・・・。」

「ざけんじゃないわよっ! 武士の魂を捨てるなんて、できるわけないでしょっ!」

そう、合戦の真っ只中から現代にタイムスリップしてきたアスカは、甲冑を身に纏い腰
には大きな戦国時代の日本刀を刺していたのだ。

はぁ・・・この先大丈夫かなぁ・・・。

戦国時代から現代に戻る時は何も考えていなかったが、この先どうなることかと不安に
なってくる。そもそも、アスカは何処で暮らせばいいというのだろうか。

「ぼくの家に行くけど? いいかな?」

「当たり前でしょ? アンタが連れて来たんだからっ!」

「つ、連れて来たぁぁ? 付いて来たじゃ・・・。」

「今迄、ずっとアタシがアンタの面倒みてきたのよっ!」

「うん、ありがとう・・・。」

「今度は、アンタがアタシの面倒みてくれないと困るじゃないっ!」

「それは、わかってるけど・・・。」

戦国時代で世話になった恩もあるし、自分がなんとかしなくてはいけないことくらいわ
かっていたが、「連れて来た」という言葉には引っ掛かるものがある。

<シンジの家>

アスカを連れ、できるだけ人目に付かない道を選んで通りながら、自分が住むマンショ
ンへと帰って来た。

「ア、アンタっ!!!」

「ど、どうしたのさ?」

急にアスカが大きな声を出したので、マンションへ入ろうとしていたシンジは、びっく
りして振り返る。

「アンタって、こんな大きなお屋敷に住んでるの?」

「お、お屋敷って・・・そうじゃなくて・・・。」

「ふあぁぁぁぁっ!」

聳え立つマンションを見上げてアスカは呆然としていた。戦国時代にアスカが住んでい
た家と比べると、いや信長の城と比べても頑丈で巨大な建物である。

「こ、こんなすごい石造りのお屋敷見たことないわ。」

「あ、あのさぁ。アスカが住んでた世界から、400年以上経ってるんだよ? 家の造
  り方も変わるよ。」

「400年って・・・。も、もしかして、アンタって仙人だったの?」

「は?」

「どうやって400年も生きてるのよっ! 不老長寿の薬を飲んだのっ!?」

「そうじゃなくて・・・。だからさ、ぼくは未来の人だって言ったじゃないか。」

「未来?」

「だからさぁ・・・。」

初めてアスカに会った時もそうだったが、説明に困り果てる。それでも、なんとかかん
とか説明して、孫のそのまた孫のずっと先の世界だと理解して貰った。

「とにかく家まで来てよ。そんな格好、人に見られたら困るよ。」

「ふーん。わかんないけど、わかったわ。」

鎧甲冑を纏った女の子なんか連れていては、近所の人に何と噂されるかわからないので、
シンジはいそいそとアスカをエレベータに乗せた。

グイーーーーーン。

動き出すエレベータ。

ガタン。

そして、目的の階につき停止。ドアが開く。

「キャーーーーーーーーーーーーーーーっ!」

「どっ! どうしたのさっ!」

「この部屋に入った時と違う所に出たわよっ!」

「いや・・・これは、上に上がっただけだよ。」

「う、上っ!? こ、ここは天界なのっ!?」

「そんなに上に上がってどうするんだよっ! ちょっと上に上がる仕掛けなんだよっ!」

「ちょっとって・・・ここは・・・。」

ゴイーーーーーーーン。

「キャーーーーーーっ!!! い、いったーーーーっ!」

アスカは外の様子を見ようとマンションの窓から顔を出そうとしたのだが、窓ガラスに
思いっきり頭をぶつけてしまった。

「いたたたっ! シンジっ! 見てっ! こんなところに、見えない壁があるわよっ! こ
  れは、結界なのっ?」

「あの・・・それは・・・。はぁ、いいから、家まで来てよ。」

「シンジっ! 扉が勝手に動いてるわよっ!」

「エレベータは勝手に閉まるんだよっ! もういいからっ! 早くこっち来てよっ!」

何かを見る度に大騒ぎするので、いい加減説明するのが疲れたシンジは、アスカを引っ
張ってさっさと自分の家へと帰って行った。

ちょっと待てよ・・・。
ぼくって何日いなくなったことになってたんだろう?

家の前まで来たシンジは、重大なことに気がついた。自分は何月何日に戻ってきたのか
さっぱりわからなかったのだ。最悪の場合浦島太郎になっている可能性もある。

どうしよう・・・。

困り果てながらふと表札を見上げると、碇ゲンドウの名になっていたので、少なくとも
大幅な時間のズレは無さそうだ。

とにかく入ってみるしか無いな・・・。

鎧甲冑を身に纏ったアスカも横にいるので、玄関の前でのんびりもしていられない。シ
ンジはなるようになるだろうと、思い切って玄関を入って行った。

「おかえりなさい。遅かったのね。」

シンジが玄関を潜ると、リビングから母であるユイの声が聞こえて来た。どうやら、最
初にタイムスリップした時と同じ時刻くらいに戻っていた様だ。

助かった・・・。

「ただいま。母さん。驚かないで欲しいんだけど? ちょっと来てくれないかな?」

「どうしたの? あら? その娘は? 重そうなお洋服ねぇ。最近の流行かしら?」

シンジに呼ばれたので夕食の準備をしていたユイは、玄関まで出て来るとアスカの格好
を見てニコニコ笑っていた。

「そうじゃないんだ・・・。実は・・・あの、信じてくれないだろうけど・・・。」

「なに?」

「タイムスリップしちゃってさ・・・。この娘とは、戦国時代で会って、それで・・・。
  あははは、信じられないよね。でも・・・。」

「あらぁ。そうだったの。それじゃ、現代のお洋服とか買ってあげないといけないわね。」

「えっ!?」

「早く入っていらっしゃい。その娘のお夕食も用意しなくちゃいけなくなったわね。今
  度からは、もう少し早めに教えといてね。」

教えといてって・・・。
どうして信用するんだ?
母さん、どこかおかしいんじゃないか?

時々シンジは、自分の母親であるものの、ユイのことがわからなくなる。あの父親と結
婚したということ自体、最大の謎なのだが。

「アスカ。とにかく入って、それを脱いでよ。」

「シ、シンジっ!」

ぎょっとした顔でシンジを見返すアスカ。シンジはまた何か、戦国時代の作法と違った
ことを言ったかと困った顔で考えてしまう。

「いきなり・・・そんな・・・。」

「は?」

「別に脱ぐのはいいけど・・・その・・・やっぱり・・・。床の中で・・・。」

「ち、ちがうだろっ! 鎧が重いだろうからっ! 外した方がいいって言ったんじゃない
  かっ!」

「はっ! そ、そうだったのね・・・。」

ようやく暴走してしまっていた自分の思考に気付いたアスカは、顔を真っ赤にして俯き
ながらリビングへと入って行った。だが、男性の家に住み始めるということは、戦国時
代は嫁入りと同意なので、アスカにしてみればやむをえないのかもしれない。

「ところで、そのお譲さんのお名前は何て言うのかしら?」

リビングに入ると、アスカの分の夕食を取り分けていたユイが、呼び方に困ったのか早
速名前を聞いてきた。

「はい。ご母堂様。アタシは、惣流・アスカ・ラングレーです。」

「ご、ご母堂って・・・。母さんでいいんだよっ!」

「あらあら。ご母堂はちょっと大袈裟ねぇ。お姉様でいいわよ。」

「何言ってんだよっ! 母さんでいいじゃないかっ!」

「それでも、いいわよ。」

時々シンジは、自分の母親であるものの、ユイのことがわからなくなる。いつまで経っ
ても老いを感じさせない母は、少し自慢なのだが。

「じゃ、わたしはアスカちゃんって呼ぶわね。それでね、アスカちゃん。泥だらけでし
  ょ? お風呂入ってきたらどうかしら?」

「はい、ありがとうございます。」

「それよりさ。アスカの住む所が無いんだけど。」

過去でも世話になったし、本心ではアスカと一緒に暮らしたいシンジだったが、いきな
り女の子と暮らしたいと、親の前では言い出せない。

「ぼく、過去の世界でかなり世話になったんだ・・・。」

「そうなの? じゃ、うちで暮らしたらいいじゃない。」

「へ?」

「あらあら、お部屋がいるわね。」

どうして、そう簡単に決めれるんだよ・・・。
まぁ、それでいいんだけど・・・。

「でもね、シンジ。これだけは、駄目よ。」

「わかってるよ。変なことしないからっ。」

「母さんや父さんの部屋は、あげないわよ。広くないんだから。シンジが連れて来た娘
  でしょ? 自分の部屋を仲良く使うのよ。」

「・・・・・・。」

ぼくは、信用されているのか?
それとも・・・。
まぁ、いいや。母さんのことは考えてもわかんないよ。
父さんよりは、マシだけど・・・。

理解できない部分も多かったが、概ね問題の無い方向に話が進んだので、シンジもユイ
に言われた通りにすることにした。

「じゃ、アスカ。お風呂に案内するよ。着替えは・・・。どうしよう・・・。
  母さんっ! アスカの着替えだけど・・・。」

「そうねぇ。あぁっ! そうだわっ、父さんがシンジに買って来た服があるのよ。」

「へ? ぼくのじゃなくて・・・。」

「まぁ、見てみなさい。」

自分の為に買ったということだったのだが、ユイが持って来た服は明らかに女の子の下
着と服だった。

「・・・・・・。これ、なに?」

「父さんがね、寝ているシンジに着せて写真を撮ろうって言って買って来たの。」

「はぁっ? なんで、そんなことするんだよっ!?」

「それをネタにシンジを苛めるとか言って、嬉しそうだったわよ?」

あぶなかった・・・。

シンジは半分泣きそうになりながらも、とりあえずは着替えの用意ができたので、アス
カの元へと戻って行った。

「アスカ、こっち来て。」

「うん。」

着替えと一緒に洗ったばかりの自分のバスタオルを1枚持って、アスカを風呂場へと案
内してあげる。

「今、お風呂溜めるから・・・もうちょっと待ってね。」

「わっ!」

ビクっ!

「びっくりしたなぁ。どうしたんだよ急に?」

「な、何これ? この筒から水がどんどん出てるわよっ!」

アスカは、目を真ん丸にしてお湯を注いでいる水道の蛇口を、いろんな角度から不思議
そうに眺める。

「あぁ、水道だよ。ここを捻ると、ほら止まるだろ。で、逆に捻ると出てくるんだ。」

「わっわっ! すっごーーーいっ! まるで、天界に来たみたーい。」

どうやら水道が気に入った様で、出したり止めたりを繰り返し、子供の様に遊んでいる。
井戸から水を汲む生活をしていたアスカには、これ程便利な物は無いのだろう。

「これがシャンプー。頭を洗うんだ。こっちが身体を洗うボディーシャンプー。これが
  頭を洗った後につけるリンス。こっちが、顔を洗う洗顔・・・。」

「わ、わかんないーーーっ! そんなにいっぱい、わかんないっ!」

「でも、そうなんだもん・・・。」

「わかんないったら、わかんないっ! シンジが洗ってっ!」

「えーーーっ! 駄目だよっ!」

「だって、わかんないわよっ! そんなにいろいろ言われてもっ!」

「だからね。これが、頭を・・・。」

「ウルサーーーーイッ! わかんないって言ってるでしょっ! それ以上言ったら、一騎
  打ちよっ!」

「一騎打ちって・・・。もうぉぉー・・・。じゃ、ちょっと待ってて。」

シンジは仕方無く、自分の部屋から「身体」「顔」「頭」「頭その弐」と書いた紙を作
って、それぞれの石鹸などに張りつけた。

「これでわかるだろ?」

「うん、これなら大丈夫。」

「じゃ、後はわかるね。お風呂から上がったら、このバスタオルで体を拭いて、服を着
  てから出てくるんだよ。」

「わかった。」

「じゃね。」

風呂なら戦国時代でも入っていたことなので、然程心配無いだろうと、シンジはアスカ
を残してバスルームから出て行った。

「キャーーーーーーーっ!」

しかし、時置かずして、バスルームから聞こえてくる悲鳴。

「どうしたのっ?」

「み、水がっ! シンジっ! シンジっ!」

「だから、どうしたんだよ?」

既にアスカは服を脱ぎバスルームに入っているので、安易に飛び込むこともできず、シ
ンジはどう対応していいのかわからずあたふたと慌てる。

「水が、漏れてきたわよっ! 凄い勢いよっ!」

「それって・・・。」

バスルームの中の音と、悩ましげでもあり滑稽にも見えるアスカのシルエットを見てい
ると、大体の想像がついた。

「それ、シャワーだよ。そこを右に捻ったら、さっきと同じ様に蛇口から出るよ?」

「え?」

しばらくすると、シャワーの音が聞こえなくなった。

「本当っ!」

「だろ?」

その後、何度かシャワーの音が聞こえたり止まったりする。どうやら、右に回したり左
に回したりして試している様だ。

「キャッ! シンジっ! これ、凄いわよっ!」

「気に入ったんなら、シャワーも使うといいよ。頭を洗うのに便利だよ。」

「うんっ! 滝に打たれている気分だわ。」

「はは・・・。」

ひとまず落ち着いた様なので、シンジは苦笑を浮かべながら再びリビングへと戻って行
った。

久しぶりの家だな。
アスカ、あの調子じゃこれから大変かも・・・。
父さんには何て説明したらいいんだろう・・・。

現代ではわずか1日の出来事だが、シンジにとっては長い間の時間旅行を終えて帰って
きた後なので、懐かしさが込み上げて来る。

なるようになるかな・・・。

こうして、シンジの平和な時間は過ぎて行こうとしていた。

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1時間後。

アスカ、遅いなぁ。
まだ、お風呂で遊んでるのかなぁ?
大丈夫かな?

少し心配になってきたシンジは、覗きじゃないことを強調するかの様に、わざと大きな
足音をたてながらバスルームへ近づいて行った。

あれ? 静かだな。

風呂に入った時の様な、はしゃぐアスカの声が聞こえてこない。ますます不安になって
くる。

「アスカーっ!? 大丈夫ーっ!?」

返事が無い。バスルームからは、かなりの水蒸気が洗面所の所まで、もわもわと出てき
ている。

まさか・・・。
かんべんしてよーっ!

「アスカーーーっ! のぼせたりしてないよねぇーーーっ!? アスカーーーっ!?」

返事が無い。ただひたすら、シャワーの音だけがけたたましくザーーザーーと聞こえて
くる。

そりゃないよぉぉぉ。
どうしたらいいんだよ・・・。

「アスカーっ! 開けるよーっ! アスカーっ! 返事しないと開けちゃうよーっ!?」

やはり返事が無い。

「開けるよっ! いいねっ!」

ガラッ。

「あ〜〜・・・。」

予想通り、シャワーの熱い水蒸気が少し先すら見えないくらいまで、バスルームに充満
しており、アスカは浴槽でぐったりしていた。

バスルームに飛び込んだシンジは、蒸気で痛くなる目をしょぼしょぼさせながら、シャ
ーワーを止め窓を開けると、熱気を外へと逃がしアスカをバスタオルでくるむ。

「よしっ! 見てないぞっ! 変な所も触ってないぞっ! 大丈夫だっ!」

わざわざ、大きな声でそんなことを言いながら、アスカを抱いて自分の部屋へ向かうシ
ンジ。言い訳はバッチリだ。

「わっ!」

しかし、転んでしまった。

ドスンっ!

「ん? キャーーーーーーーっ!」

頭や体が冷えてきたのと、今の衝撃で目を覚ましてしまうアスカ。体を包んでいたバス
タオルは既に無く、ベッドの上で裸の自分にシンジが覆い被さってきている。

「いっ、いやっ! だからっ!」

「キャーーーーーーーーーーっ!」

ベッドの下に落ちていたバスタオルを拾い上げたアスカは、体の前に当ててじっとシン
ジのことを睨み付けている。

「ち、違うんだっ!」

「責任取ってよねっ!」

「いや・・・だから・・・。」

「そ、そんなっ! 殿方に裸を見られて、捨てられては生きていけないわっ! 貰っても
  らえないのなら、死ぬしかないわっ!」

アスカはそう言うと、ガバッとシンジの部屋の隅に置いてあった日本刀を引きぬき、自
分の腹部に当てた。

「介錯は、お願いねっ!」

「わーーーーーーーーーーーーっ! わかったっ! わかったよっ!」

「じゃ、貰ってくれるのねっ!」

「わかったよ・・・もう〜・・・。どうせこうなると思ったんだ・・・。」

風呂場では完璧にこなしたシンジのはずだったが、結果はなぜかこうなってしまい、諦
めモードに入る。

いくらぼくががんばっても、結局こうなるんだもんなぁ。

それはともかく、いつまでも裸のアスカを自分の部屋に置いておくわけにはいかないの
で、ユイが出してくれた服を着る様に言ってアスカを洗面所に向かわせたのだった。

「シンジ。ちょっと来てごらんなさい。」

「うん、ちょっと待って。」

しばらくして、ユイが呼ぶ声が聞こえてきた。アスカが暮らせる様に、自分の部屋を片
付けていたシンジは、なんだろうと出て行く。

「アスカちゃん。何してるの? いらっしゃい?」

「はい・・・。」

シンジがリビングに出て行くと、ユイに手招きされたアスカが、もじもじしながら洗面
所から出て来る。

「わっ!」

顔を真っ赤にして、おずおずとシンジの前に出てくるアスカ。今まで髪を後ろで雑に束
ね、まさしく戦国武将という感じだったアスカだったが、服装から髪型まで現代風の女
の子に変身していた。

「か、かわいい・・・。」

ついつい、ぼぉーっとアスカのことを眺めてしまう。アスカは、やはり慣れない格好が
恥ずかしいのか、もじもじしている。

「あのね・・・シンジ?」

「な、なにっ?」

「これから、この服を着なくちゃいけないの?」

シンジは、もう絶対この方が良いという感じで、コクコクと何度も首を縦に振って頷き
続ける。

「わたしも、この方がずっとかわいいと思うわぁ。」

髪のセットなどをしたユイも、満足気にアスカのことを眺めている。

「父さんもきっと喜ぶわよ。シンジが生まれた時、『なぜ男なんだ』って、怒ってたく
  らいですもの。」

そういえば・・・。
この服をぼくに着せようとしてたのか?
何考えてるんだよっ!
父さんは、ぼくのことが嫌いなんだぁぁぁっ!

いじいじいじ。

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その夜アスカは、小さい頃ポルトガルで食べて以来、口にしたことがなかったステーキ
をお腹一杯に食べて満足していた。

「やっぱり、牛肉は美味しいわねぇ。」

「うん、ぼくもステーキなんて久しぶりだよ。」

「あら? アスカちゃんは、お肉が好きなの?」

「はい!」

「じゃ、これからは、お肉の料理も作りましょうね。」

なんだよっ!
ぼくの時は、もやし炒めばっかりだったのに・・・。
いいんだ・・・いいんだ・・・。

そして、夕食を食べ終わった頃、ゲンドウが珍しく早く帰ってきた。

「今帰った。」

「あなた、お帰りなさい。」

「うむ。」

「お館様でいらっしゃいますね。不束者ですが、末永く宜しくお願い致します。」

「そうだ。お館様だ。」

何か満足そうなゲンドウに、アスカは深々とお辞儀をしている。そんな横でシンジは、
アスカのことをどう説明しようかと悩んでいた。

「父さん、この娘は・・・その・・・。」

「問題無い。既に戸籍は操作しておいた。」

「え?」

説明しようとしたところで、いきなりいつもの「問題無い」である。

戸籍???
操作???
父さん・・・いったい何の仕事してんだよ。
まぁ、いいや。これで、アスカはここで暮らせるんだから・・・。

「かわりに、お前を戸籍から抹消しておいた。」

「えっ!!!」

ぎょっとするシンジ。

「父さんっ! そ、それってっ!」

「冗談だ。」

「・・・・・・。」

やっぱり、ぼくのことが嫌いなんだーーーーーーーーっ!!!

とにもかくにも、難関だと思っていたゲンドウもクリアした様なので、これ以上父親と
話をしたくなくなったシンジは、疲れた身体を休めようと眠ることにする。

「あのさ、ぼくの部屋でアスカに寝て貰うから、ぼくは父さんの部屋で寝ていいかな?」

「駄目だ。」

「どうしてだよーっ!」

「嫌だ。」

「嫌って・・・。自分の息子じゃないかっ!」

「い・や・だ!」

いいんだ、いいんだ。
どうせぼくなんて・・・。

いじいじ。

「シンジっ! アタシと寝てくれないの?」

「ちょ、ちょっと、父さんや母さんの前で何言いだすんだよ?」

「さっき、アタシを貰ってくれるって・・・・。うぅぅぅーーーっ!! 死んでやるっ!」

強烈なショックを受けた様子で、アスカは顔を手の平で押さえると、刀を取りにシンジ
の部屋へ掻け込んで行く。

「ちょっとっ! 待ってっ!」

「介錯は、お願いねっ!」

「わーーーっ! 父さんっ! 母さんっ! 止めてよっ!」

「シンジ。」

「なんだよっ! 父さんも落ち着いてないで止めてよっ!」

「お前には失望した。」

「そんなこと言ってる場合じゃないだろっ!」

両親が当てにならないので、シンジは慌てて刀を取り上げると、切腹しようとしている
アスカを止める。

「わかったよ。一緒に寝るから、やめてよっ!」

「本当?」

すると、ユイは嬉しそうにカレンダーを見始めた。

「今からだと、予定日は・・・。」

「母さんっ! 一緒に寝るだけだよっ! 変なこと言わないでよっ!」

「あら、そうなの? 残念・・・。」

「はぁ・・・。」

前々から、友達の家族と比べて少し変わった家族だとは思っていたが、今日程生まれて
くる子供は親を選べない悲しさを痛感した日はなかった。

                        :
                        :
                        :

その夜、アスカはユイに買って貰ったパジャマを着て、シンジが横になるベッドの脇に
立っていた。

「どうしたの? 寝ないの?」

なかなか布団にアスカが入って来ないので、シンジがくるりと振り返ると、そこには真
剣な顔で自分のことを見つめるアスカが立っていた。

「どうしたの? やっぱり、1人で寝たいの?」

「では・・・、お情けを頂戴致します。」

「お、お情け?」

言うが早いか、アスカは服を脱ごうとパジャマのボタンに手を掛け始める。

「わーーーっ! ちょっと待ってっ!」

「どうしたの?」

「だ、だから、一緒に寝るだけだっていったじゃないかっ!」

「アタシは、シンジの妻・・・。今宵は・・・。」

「ち、ち、違うだろーーっ! だ、だ、だ、だからっ!」

なんとか、この場を逃げ切ろうと慌てふためくシンジ。

「そ、そのっ! そうだっ! げ、げ、げ、げ、げ、現代では、18まで結婚できないん
  だよっ!」

「えっ!?」

「だ、だ、だ、だ、だ、だからっ! そういう規則なんだーーっ!!!」

「そ、そうなの・・・。わかったわ。じゃ、その時まで待つわ。」

「ほっ・・・。」

「じゃ、もう寝るわね。」

「た、たすかった・・・。」

今回は結構素直に納得して貰えたようだ。こういう規則や仕来たりということに関して、
武家で育ったアスカは重んじる傾向にあるらしい。

「ねぇ、シンジ?」

「なに?」

「4年たったら、アタシを貰ってくれるのよね?」

「え・・・う、うん・・・。」

シンジの顔をぐいと掴むと、自分の顔の前に持ってきて心の奥底を貫く様な目で、ぐい
とその瞳を見つめるアスカ。

「アンタを追って・・・。アタシの全てを捨ててこの世界にきたんだからね。約束よ。」

「そうだね。そうだったね。うん。わかったよ。」

「へへへぇ〜。」

アスカはニコリと照れ笑いを浮かべると、4年後の自分を夢見ながら、400年以上先
の世界で、シンジと一緒に眠りについたのだった。

これから、アスカとがんばっていかなくちゃ。

シンジは、アスカの寝顔を見ながらそう決意すると共に、現代に戻れたことに安堵する。
しかし、シンジとアスカの波乱は、まだまだこれからだった・・・。

To Be Continued.
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