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ジェネレーション
Episode 04 -モア トラブル モア トラベル-
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<シンジの家>

現代にアスカが来た波乱の初日は既に過去の物となり、碇家には平和な翌日の朝が訪れ
様としていた・・・はずだった。

空が白み始めるまだ朝の早い時間。シンジは久し振りに帰ってきた我が家の暖かいベッ
ドの中で夢心地。

「ハッ! テヤーーッ!」

「うーーん・・・むにゃむにゃ。」

「トリャーーーーッ!!」

「んーーー・・・。ん?」

気持ち良く眠っていたシンジの耳に、けたたましい叫び声が聞こえてきた。何だろうか
と眠い目を擦りながら、うつろな意識のまま声のする方に目を向ける。

「テヤーーーーーーーッ!!!」

「わーーーーーっ! 何してんだっ!」

サラシを胸に巻きベランダに出たアスカが、鈍く光る真剣を振り翳して剣術の訓練をし
ている姿が飛び込んで来る。それと同時に、シンジの目がパチリと覚めた。

「やめてくれーーーっ!」

「あぁ、シンジ。おはよ。」

「『おはよ』じゃないよ。何してんだよっ!」

「もうちょっと広い場所無いかしら? 動きにくくって。」

「駄目だよっ! こんなとこで、そんなもん振り回してたら。」

「そんなもんとは何よっ。剣術の鍛錬を怠った者には、死あるのみよっ?」

「だからね・・・。とにかく、ここでそんなことしちゃ駄目なんだってばっ。」

「そうなの? わかったわ。」

怒られたアスカは、しぶしぶ刀を鞘に納めて部屋の中に入る。狭い場所で僅かな時間し
か訓練ができず、運動不足なのか不機嫌顔だ。

「今、何時? ん? まだ5時じゃないかぁぁぁっ! おやすみぃ。」

「また寝るの? もうお天道様が明るいわよ?」

「後2時間は、寝れるよ。静かにして。ぐぅぅ。」

シンジが寝てしまい、剣術の訓練も駄目だと言われたアスカは、時間を持て余してしま
い、のそのそとリビングへと出て行った。

「むにゃむにゃ。」

静かになり心地良い眠りについていたシンジが、ようやく眠りが深くなりかけた頃、リ
ビングから騒がしい音が聞こえて来る。

ドサドサ。
ゴンゴンゴン。
ボワーーー。

「んーーー? 煩いなぁ・・・むにゃ。」

バタバタバタ。

『ゴホゴホ。』

バタバタバタ。

「ふわぁぁぁ。何してんだよぉー。」

耳を塞いで寝ていたものの、何やら様子がおかしい。シンジは眠い目を擦りながら、重
い体を起こして部屋を出て行く。

「なっ、なんだっ!???」

リビングの様子が目に飛び込んで来た途端、一気にシンジの目が覚めた。こともあろう
か、コンロの上に枯れ木や落ち葉を大量に乗せて火を起こしている。部屋中煙だらけだ。

「ゴホゴホ。あら、シンジ。ダメねぇ。乾燥してない木は・・・。ゴホゴホ。」

「何してんだよっ!!!!」

その状況に目を剥いたシンジは、慌ててキッチンの水道から水を汲むと、コンロの上で
燃えさかる火にザバーっとかけて鎮火する。

「あーーーっ! やっと火がついたのにぃぃっ!」

「もうっ! お願いだから、じっとしててよっ! 」

「朝ご飯の用意しなくちゃいけないじゃない。」

「母さんがするからいいんだよっ!」

「バカ言ってんじゃないわよっ! アタシが輿入れしてきてるのに、ご母堂様にそんな
  ことして頂くわけにいかないでしょっ!」

「だから・・・ね。はぁ・・・。お願いだから、もうちょっと寝かせてよぉぉ。」

「シンジは寝てていいわよ。後はアタシがするから。」

「だから、寝れないんじゃないかっ!」

もう少し寝ていたいシンジだったが、これ以上アスカを1人にしては、何が起こるかわ
からないので、しぶしぶ朝の時間をアスカと一緒に過ごすことにした。

「じゃ、作り方教えるからさ。とにかく、その葉っぱ片付けようよ。」

「どうして?」

「そんなのがあったら、コンロが使えないんだよ。」

「ぶぅぅ。」

朝からマンションの近くで拾い集めてきた枯れ葉などを捨てられ、アスカは不満そうに
口を尖らせる。

「まず、コンロだけどさ。火をつけたかったら、ここを捻るんだ。」

「捻る? 火打ち石あるわよ? いつも持ってるの。いざって時に備えは必要よ。」

「いいから、捻ってみなよ。」

「ここ?」

「そこ。」

ガシャン。ボッ!

「キャーーーーーーーーーーーー!!!」

突然コンロから火が出てきたので、腰を抜かさんばかりに驚いて飛び上がり、アスカは
尻餅をついてその場に倒れた。

「あわわわわわ。」

「便利だろ?」

「魔術よっ! これは魔術だわっ!」

「違うよ。火をつける仕掛けなんだ。こうやって、この上にヤカンを置いたらお湯が沸
  くだろ? アスカもやってみなよ。」

「いっ! イヤよっ!」

「大丈夫だよ。ほら。」

「イヤだって言ってるでしょっ! イヤイヤっ! そんな危ないものっ!」

カチャン。カチャン。

おっかなびっくりのアスカの前で、火をつけたり消したりして見せるが、1度怖いと思
ってしまったアスカは、じりじりと後づ去りするだけで絶対に近付こうとはしない。

「まいったなぁ。じゃ、アスカは野菜でも刻んだらいいよ。」

「そ、それなら、できるわ。」

包丁を差し出すと、アスカはコンロと距離を置いて遠回りしながらまな板に近づき野菜
を切り始める。こちらはお得意の様だ。

「後はご飯だね。でも・・・どうしてぼくが朝ご飯なんか・・・。」

余程のことが無い限り全て母親任せで料理などしないシンジは、面倒臭そうに朝ご飯用
の米を砥ぎ始める。

「あっ、アンタっ!」

「えっ? な、なにっ?」

「そんなにお米をっ! 何してんのよっ!」

「・・・朝ご飯・・・。」

「そんなお米ばっかりっ! 勿体無いないでしょうがっ! あーっ! 1粒こぼれたっ!」

「いいんだよ。お米なんていくらでもあるんだから。」

「えっ? そ、そうなのっ?」

「うん。お米くらい、好きなだけ食べればいいよ。」

「ア、アタシ・・・すごい大名の所に輿入れして来たのねぇ。」

「そうじゃなくて・・・。はぁ・・・。」

そんなこんなで、なんとか4人分の朝ご飯の準備が整った頃、ユイとゲンドウが起き出
してきた。

「あら、珍しい。ご飯作ってくれたの?」

「うん・・・アスカが。」

「アスカちゃんが作ってくれたの? でしょうねぇ。シンジが作ったなんておかしいと
  思ったわ。」

なんだよそれ。
どんなにぼくが、苦労したかも知らないでっ。

ムッとするシンジだったが、折角アスカが誉められているので、ここは顔を立てておく
ことにする。

「そうそう、アスカちゃんも今日から学校に行けるわよ。」

「学校?」

「ええ。学校っていうのはね、大勢の子が集まって勉強する所なの。」

「勉強?」

「昔でいう修行みたいなものね。」

「そうなんですかっ! そっか。そうだったのかぁー。」

「でも、母さん。制服はどうするんだよ?」

「昨日、加持さんに調達して貰っておいたわ。」

そう言いながら、シンジの通っている中学校の女子の制服を出してくる。なんとなく、
嬉しそうだ。

調達って・・・。
加持さんも可哀相に。

加持のことはたまに遊びに来るので知っているが、プライベートな事情で使われ、しか
も女子の制服を買いに行かされたのを知り可哀相になってくる。

「アスカちゃん、着替えて来てくれないかしら。制服姿のアスカちゃんも、見てみたい
  わぁ。」

やっぱりユイは嬉しそうだ。アスカは、制服を受け取り着方を聞くと、シンジの部屋へ
と入って行った。

「あなた、良かったですわね。うちにも女の子ができて。」

「うむ。失敗作はもういらん。」

ムカッ!
なんだよそれっ!

ゲンドウの言葉にシンジはブスっとしながら朝食を食べていると、制服に着替えたアス
カが部屋から出て来た。

「わっ!」

「どう? シンジ?」

「あらあら、そういう着方もあるのね。」

そこには、制服の上から鎧甲冑を身に纏い、腰に日本刀を刺したアスカの姿があった。
ユイはニコニコと微笑んで見ているが、シンジは頭を抱え込んでしまう。

「なんで、鎧なんか付けてんだよっ。」

「修行に行くんでしょ? 鎧はいるわ。」

「ち、違うよ。ほらぁ、母さんが変な説明の仕方するからぁ。」

「これからの流行になるかしら?」

「ならないよっ! ちゃんと説明してよっ!」

「うーん。シンジの言う様に、鎧は無くてもいいわねぇ。」

「無くてもいいじゃなくて、付けて行っちゃ駄目なんだよ。」

「うむ。鎧は良くない。」

「だろ? 父さんっ!」

「わたしは、もっとヒラヒラが良い。」

「・・・・・・。」

ゲンドウを無視したシンジは、そそくさとアスカを自分の部屋に連れて入ると、鎧を外
させ学校に行く準備を整えてあげる。

「困ったわねぇ。刀をどうしようかしら。」

鎧を外されてしまったアスカは、制服のどこに刀をぶら下げようかと困っている様だ。

「だから、刀もいらないんだって。」

「ダメよっ! 武士の魂だけは譲れないわっ!」

「でも、刀は駄目なんだよ。」

「いくらシンジの頼みでも、信長様から頂いたこれだけは譲れないわっ!」

はぁ・・・どうしよう・・・。
そうだ。母さんに説得して貰おう。

ガンとして刀を離さないアスカに困り果てたシンジは、こういうときこそ親の力で説得
して貰おうと、アスカを連れてリビングへと出て行く。

「母さん、アスカが刀を学校に持って行くってきかないんだ。何とか言ってよ。」

「問題無い。」

「どこが問題ないんだよっ! もうっ! 父さんには喋ってないよっ! 黙っててよっ!」

いい加減ゲンドウにイライラしていたシンジは、アスカのことでも溜まったストレスを
一気にぶちまけるが、そんなことでひるむゲンドウではない。

「刀を持つ許可は取ってある。」

「はっ?」

わけのわからないゲンドウの言葉に、唖然とするシンジ。しかし、ユイはニコニコと笑
ってアスカでは無くシンジを説得してきた。

「たぶんアスカちゃんは、刀を離さないと思って、父さんに頼んでおいたのよ。だから、
  大丈夫よ?」

「そ、そう・・・。じゃいいよ・・・もう・・・。」

まともに話をしようとすると疲れるだけなので、それならそれでいいとシンジは深く考
えるのを諦め、日本刀をスカートからぶら下げたアスカを連れて学校へ行くのだった。

<学校>

今日はいつもより少し早く学校の校門を潜り教室へ向う。アスカは転校生なので1人で
職員室へ行かなければならない。

「いいかい? 先生の言うこと、ちゃんと聞いて教室まで来るんだよ?」

「先生って、シンジより偉いの?」

「そうだなぁ。昔で言う頭だからね。」

「そうなんだ。わかったわ。」

「じゃ、ミサト先生。お願いします。」

「まっかせなさいっ!」

大丈夫かなぁ・・・。

アスカも不安だが、ミサトもそれ以上に不安である。そうは言ってもそろそろ教室に戻
らなければいけないので、心配しながらも職員室を去って行った。

キーンコーンカーンコーン。

授業開始のチャイムが鳴り、朝のホームルームが始まる。シンジの心配も杞憂に終わり、
アスカはミサトと一緒に無事教室まで来ることが出来た様だ。

「喜べー男子ーっ! 転校生を紹介するぅっ!」

ミサトの声と共に教室に入って来るアスカ。容姿はぴか一なので、当然クラスメートの
男子達はどよめきたつ。

「じゃ、惣流さん。自己紹介してね。」

「自己紹介?」

「名前を言うだけでもいいわ。」

「名前ね。わかったわ。」

ミサトに自己紹介のことをコソコソと教えて貰ったアスカは、ようやく理解した様だ。
そしてアスカは、生徒達の前に一歩出、胸を張り、・・・。

ジャキーーーーーーーーーーン!!

刀を抜き、天高く突き上げ・・・。

「やぁやぁ! 我こそはっ! 尾張の国のぉー!」

名乗りを上げた。

目を剥くシンジ。びっくりして、引いてしまうクラスメート達。

「わーーーーっ! ちょっと待ったぁぁぁぁっ!!!」

自己紹介の冒頭を聞いたシンジは、転びそうになりながらも慌てて教卓の前まで出て行
くと、刀を鞘に収めさせる。

「何言ってんだよ。『惣流・アスカ・ラングレーです。』って言うだけでいいんだよ。」

「そうなの?」

「「「ドワハハハハハハハハ。」」」

教室中が、シンジとアスカに注目し大笑いし始めた。シンジにしてみれば、何かやらか
すだろうと覚悟はしていたが、恥かしくて仕方がない。

「でも、シンジ? アタシは、アンタんとこに輿入れしたんだから、碇にならないの?」

「だから、結婚は18までできないって言っただろっ?」

今まで大笑いしていたクラスメートだったが、今度はぎょっとしてシンジとアスカの方
に視線をあつめた。

「なんやっ! その結婚っちゅーんはっ!」

「いやーんな感じ。」

真っ先に声を上げたのは、シンジの親友であるトウジとケンスケであった。ここで初め
て自分の発言に気付いたシンジは、しまったぁっ!という顔をするが、後の祭りである。

ガヤガヤガヤ。

大騒ぎになるクラスメート達。しかし、どうしてクラスメート達が騒ぎ出したのかわか
らないアスカは、きょとんとしながらシンジに言われた通り自己紹介を始める。

「惣流・アスカ・ラングレーです。」

「ふぅ。ようやく自己紹介が終わったわねぇ。じゃ、霧島さんの隣が空いてるから、あ
  そこに座ってくれるかしら?」

「はい。頭っ!」

「か、頭・・・て・・・。」

さすがのミサトも目をまん丸にしてアスカを見つめる。シンジも何か言いたい様だった
が、みんなの前で何か言うとまた碌なことにならないので、黙っていることにした。

「霧島さん。仲良くしてあげて頂戴ね。」

「アンタが霧島さん? よろしく。」

「・・・・・・嫌です。」

「えっ?」

明るく気さくで人当たりの良いマナの言葉とも思えない返事が返ってきたので、ミサト
は自分の耳を疑った。

「そんな娘、碇くんには似合いません。」

「ちょ、ちょっと・・・それって・・・。」

「どうして、結婚なんですかぁぁ。わたし、ずっと碇くんのこと好きだったのにぃ!」

ドワアアアアァァァァーーーーーーー!!!

突然のマナの感情を吐露する様な告白に、納まり掛けていたクラスがまた鍋をひっくり
返した様な大騒ぎになった。困り果てるのは、勿論シンジ本人。

き、霧島がぼくのことをぉぉ?
嘘だろ?
そんなの全然知らないよぉぉぉっ!

「どういうつもりやぁっ! シンジぃっ!」

「いやーんな感じぃっ!」

やはり真っ先に大声を上げたのは、親友の2人である。この親友達は、碌な時に声を出
さない。続いて、男子生徒達も声を上げ始める。

「お前っ! 惣流さんばかりかっ、霧島さんにまで手出すつもりかぁっ!」
「なんで霧島さんが、碇なんかをっ!」
「おまえばっかり、何考えてんだーーっ!」

男子が怒るのも無理はないだろう。アスカが来て情勢に変化が訪れるだろうが、それま
で人気No1の女子であった霧島マナが、この状況で告白してしまったのだ。

そんなこと言われたって・・・。
ぼくにどうしろってんだよ。

クラスメートが大騒ぎする中、涙目になっているマナの近くまで歩いて近付いたアスカ
は、握手の手を差し出す。マナは、明らかにライバル視した目で見返してくる。

「なに?」

「アンタもシンジの所に輿入れするのね。」

「輿入れ? なに?」

「アンタは側室になるのよっ! 2人でがんばって、シンジのお世継ぎを作のよっ!」

「お、お世継ぎっ!?」

「子供よっ! 子供は多い方がいいわっ! お世継ぎがいないと、騒乱の元よっ!」

それまでシンジを責めていた男子達も女子達も、一気に視線をアスカとマナに向ける。
マナは、もう真っ赤になってしまっており、何も言葉を出すことができない。

「アスカっ! 何言い出すんだよっ!」

さすがにほおっておけなくなったシンジは、声を荒げてアスカの前に歩み寄る。

「何って、正室と側室は仲が悪いと、国が滅ぶのよっ! 今から仲良く・・・」

「もういいから、早く座ってよっ! 霧島もごめんね。」

それ以上アスカに喋らさないように、シンジはマナに謝りながら背中を押して席に付か
せるのだった。

それから、2,3,4時間目と授業が進む。過去から来たアスカには、数学や理科など
さっぱりわからず暗号の様にしか聞こえなかったが、4時間目の歴史の授業だけは、食
い入る様に教科書を見つめていた。

信長様・・・こんな所で明智に打たれるとは・・・。
天下を目前に、さぞや無念だったことでしょう。

涙をぽろぽろ流しながら、歴史の教科書を読み拭けるアスカ。桶狭間の戦いが、信長の
功績になっていたのはむしろ喜ばしいことであったが、本能寺まで読み進めて涙がどっ
と溢れて来た。

お館様、あの努力家の藤吉郎がしっかりと後を継いで天下を統一してくれました。
やすらかにお眠り下さい。

4時間目の授業の間、涙を流しながら歴史の本を読むアスカには、教師も声を掛けるこ
とができない程であった。

                        :
                        :
                        :

今日は土曜日なので、授業も半日で終わり放課後となる。

「ねぇ、碇くん。一緒に帰りましょ。」

今朝、思わぬアスカの登場で、勢い余って告白してしまったマナは、何か吹っ切れた様
にシンジを誘ってくる。

「あ、ごめん・・・今日はアスカの買い物に行かなくちゃいけないんだ。」

「え・・・。」

アスカの名前が出て、顔を曇らせるマナ。既に自分の入り込む余地は無いのかと、いつ
もの明るさが見えなくなる程、暗い顔になる。

「シンジっ! どうしてそんな冷たいこというのよ。」

「え?」

「あなたのお世継ぎを生む、大事な側室でしょ。もっと、やさしくしてあげなくちゃ。」

「ぶーーーっ!」

アスカの言葉に思わず吹き出してしまう。マナも、また顔を真っ赤にしてシンジとアス
カを交互にチラチラと見ている。

「さっ、みんなで一緒に帰りましょ。マナだったかしら? いいわよね。」

「え? あ、え、ええ。」

どうもアスカを相手にすると、彼女のペースに巻き込まれてしまうマナは、一緒に付い
て教室を出て行った。

シンジに教えられた通りに、上靴から下履きに履き替え校庭に出てきたアスカの目に、
体育館の様子が入ってきた。

「シンジっ! シンジっ! 武者修業してるわよっ!」

「いや・・・あれは、剣道って言って・・・。」

「ちょっと、見て来ていいかしら?」

「うん、いいけど。」

アスカは目を輝かせて体育館へ走って行く。この学校の剣道部は強く、全国大会には必
ずといって良い程出場し、何度も優勝している。

<体育館>

「とりゃーーーっ!」

叫び声と共に、試合形式で練習をする部員達。中でも主将たる3年生の体の大きな先輩
は、一際目立っていた。

「そんなことじゃっ! 次の大会で負けるぞっ!」

「すいませんっ!」

激を飛ばしながら、後輩を叱咤する主将。アスカはその様子を、目を覆いながら見てい
た。

「あぁ・・・。あの偉そうなの、口ばっかで下手糞ねぇ。見てらんないわ。あれじゃ、
  アタシの足軽より下手ね。」

その暴言が耳に入り、ピクリとした主将が近づいて来る。

「なんだとっ! もう一度いってみろ。」

「下手糞って言ったのよ。アンタ? 何? 足軽頭?」

「な、なんだと−−−っ! 何もわからない癖に、ふざけたこと言いやがってっ!」

そうは言われても、生死を掛ける実戦で鍛え上げたアスカからしてみれば、子供の遊び
である。

「何なら、アタシがお手本を見せてあげましょうか?」

「おまえがっ? お手本だとーー? 女の癖にっ、笑わせるなっ!」

そんな様子を、マナは驚いた顔で見つめていた。強面で有名な剣道部の主将に喧嘩を売
る女の子など見たことがない。

「ま、まずいよ・・・。」

シンジは、逆の意味で青ざめていた。アスカの剣の実力を、ここ数日戦国時代でしっか
りと見てきたからだ。

「シンジ、助けなきゃっ!」

「うん、主将やられちゃうよ。」

「へ?」

シンジが何を言ってるのかわからなかいマナ。

「いくぞっ!」

竹刀を持った主将がアスカに迫る。アスカも貸して貰った竹刀を、上段に構えて迎え撃
つ。

「だーーーーーっ!」

打ち込んでくる主将を、あさっりとかわすアスカ。

「どりゃーーーーっ!」

再び主将の打ち込みを交わす。現代に来てから見ることができなかった、闘志に満ちた
青い目となっていた。

「ハッ!」

ズバーーーーーーーーーーーン!

避けられ体勢が崩れた主将に、竹刀を片手に持ち踏み込んだアスカの突きが顔面を直撃
する。

ベキベキベキベキ。

砕け散る竹刀。

ドカーーーーン。

そのまま主将の巨体は吹っ飛び、壁にぶつかって気を失ってしまった。

「フンっ!」

カランカラン。

「だから、下手糞って言ったのよ。真剣なら即死ね。」

砕けた竹刀を体育館にほおり投げ、体育館を後にするアスカ。

ドアドタドタ。

そんなアスカの前に、剣道部の部員達が集まって来る。

「ぜひ、剣道部に入部して下さいっ!」
「お願いします。あなたに入部して貰えらば、優勝間違い無しですっ!」
「僕達に剣道を教えて下さい。」

しかし、アスカにしてみれば、こんな弱々しい人間に武術を教えようという気は起こら
なかった。今まで相手にしてきた足軽は、皆生きる為に戦っていたのだ。

「残念ね。もうちょっと上手くなったら教えてあげるわ。」

そう言いつつ、体育館を出て行くアスカ。それを見たマナは、今は優しく接してくれて
いるが、下手なことをしてアスカ怒らせると、殺されると思ったのだった。

<通学路>

「ねぇ、シンジ? 何処に行くの?」

「いろいろ、足りない物があるからね。」

「母さんからも、お金預かってるから、今日中に揃えちゃおうよ。」

その言葉を聞いたマナが、ビクッとしてシンジに詰め寄る。

「母さんって・・・もしかして惣流さんと一緒に暮らしてるの?」

「そ、そうだけど・・・。」

「えーーーーーーーっ!」

「あ、いや・・・だから、これは・・・。」

「惣流さんの、お父さんやお母さんは?」

「そ、それは・・・ポルトガルにいるんだ。うん。」

「で、でもわたしだって、負けないんだからっ!」

アスカとシンジが一緒に暮らしていることを聞いて、少なからずショックを受けたマナ
であったが、逆転を信じて闘志を漲らせる。

「あら? マナも一緒に暮らせばいいのに。」

「そんなことできるわけないでしょ。」

「どうして?」

「どうしてって・・・。」

「あーーそっか。18まで結婚できなんだ。じゃ、アタシがマナが嫁いで来るまで、シ
  ンジの面倒しっかり見てるから、早く嫁いで来なさいよね。」

「あの・・・だから・・。」

漲らせたはずの闘志が、アスカと話をしているとヘナヘナと萎えていく。どうも、思考
がついていけない。

「待ってるわ。」

「そ、そう・・・。」

そして、分かれ道でマナが家の方へ向かって行った。残されたシンジとアスカは、商店
街へ向かって土手の上を歩く。

「あれ?」

その時、川辺の土管が青く光っている様に見えた。

あの光って・・・。

「ちょっと来て。」

「いいわよ。」

興味を引かれたシンジは、アスカと共に土手を降り土管へ向かう。

「あれ? さっき光った様に見えたんだけどなぁ。」

「そう? アタシはわからなかったけど?」

2人して土管を覗き込むが、光っている様には見えない。

「気のせいかな。行こうか。」

「ええ。」

その時。

ピカッ!!!!!

2人の体を青い光が包み込んだ。

「わーーーーーーーーーっ!!!」

「キャーーーーーーーーッ!!!」

                        :
                        :
                        :

シンジとアスカは、無機質な空間で互いに折り重なる様に倒れ気を失っていた。

コツコツコツ。

足音が聞こえてくる。

「ん・・・。」

その音に意識を取り戻すシンジ。

ぼくは・・・。

「はっ! アスカっ! アスカっ!」

「ん・・・なに? どうなったの?」

コツコツコツ。

足音がだんだんと近づいてくる。

「誰か来るよ。」

「くっ!」

刀に手を掛けるアスカ。

ギーーー。

目の前の扉が開く。

「ようやく会えたわ。」

「やぁ、君が惣流・アスカ・ラングレーさんかい。」

目の前には、赤い瞳の男の子と女の子が立っている。

「ここは?」

「シンジ君の時代を中継して、僕達が呼び寄せたのさ。ここは、2115年。」

「2115年っ?」

「そう。君の父であり、司令であった碇ゲンドウが設立したネルフ本部がある、ジオ・
  フロントさ。第14使徒、ゼルエルを倒すにはアスカ君の力が必要なんだ。」

シンジとアスカは、目の前の少年,少女が何を言っているのかわからず、ただただ唖然
と立ち尽くすのだった。

To Be Continued.
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