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パラレル
Episode 02 -ライバル-
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<発令所>

ラミエル撃退の全指揮権を任された葛城ミサトは、着々と作戦準備を進めつつも、一方
ではコンソールを叩いて別の事を調べていた。

シンジ何処かしら?
病院かなぁ・・・。

ネルフの発令所になど初めて入ったので、建物の作りから計器の操作まで勝手がわから
ず、試行錯誤を繰り返す。

「作戦部長代理。戦自が陽電子砲の貸し出しを渋ってますが?」

日向が戦自と交渉を続けていたのだが、素直に貸してくれそうにない。この非常時に何
を言っているのかとカチンとくる。

「わたしが直接行くわ。エヴァのパイロットは?」

「初号機パイロットは依然意識が回復していません。零号機パイロットなら大丈夫です。」

意識が回復してない?
シンジ・・・。

「初号機パイロットは何処?」

「303号室です。」

「作業進めておいて。見てくるわ。」

「はい。」

残りの作業を日向と青葉に任せると、発令所を出て病棟までの地図を片手にシンジの眠
る病室へと急いで向かう。

命に問題は無いって聞いたけど。
意識が戻って無かったなんて・・・。

ヤシマ作戦発動も近いのであまり時間も無いが、とにかくシンジの顔を一目見なければ
安心して何も手につかない。

<303号室>

303号室の前に辿り着いたミサトは、”碇シンジ”というプレートを確認すると、こ
の扉の向こうにシンジがいるのだと思い、少しほっと安心する。

こんな所に独りで。
可愛そうに・・・でもアタシが来たから安心してっ!

ミサトはゆっくりと病室の扉を開けて、中で寝ているであろうシンジの方に視線を向け
た。

「!!!」

そこに予想外の光景を見る。こともあろうか、見知らぬ同じ年位の蒼い髪の少女が、シ
ンジのベッドの横にパイプ椅子を置いて座っているではないか。

誰よあれはっ!
なんで、あんな娘が横に座ってンのよっ!
ネルフにあんな娘がいるなんて、聞いたことないわよっ!

一気に嫉妬の炎をめらめらと燃え上がらせる。その時、日向というオペレータが、先程
『零号機のパイロット』とかなんとか言っていたのを思い出した。

零号機?
エヴァって2つもあるの?
じゃぁ、あの娘がっ?

7割その少女を零号機のパイロットだと確信したミサトは、平静を装いつつ病室へ入る。
すると、物音に気付いたレイがゆっくりと振り向いた。

「誰?」

「あなたが、零号機のパイロット?」

「はい。」

やっぱり・・・。

「これから戦自に行くから、来てくれるかしら?」

「あなたは?」

「作戦部長代理の葛城ミサトよん。」

「そうですか。わかりました。」

シンジの顔をもう少しゆっくり見たかったが、それ以上にシンジに近付く虫を早く取り
除かなければならないので、いそいそとレイを連れて病室を出て行く。

苦しんでる様子も無かったわね。
もうちょっと一緒にいたかったのに・・・。

シンジのこととなると、人知れず嫉妬心と邪心だらけの作戦部長代理、葛城ミサトであ
った。

しっかしっ!
シンジの奴ぅっ!
こんな娘がいるなんて、ひとっことも言ってなかったじゃないっ!
目が覚めたらとっちめてやるわっ!

<発令所>

エヴァで脅迫し、無理矢理陽電子砲を奪取してきたミサトは、二子山に仮設基地を設置
し日本全国から電気を集める準備に取り掛かる。

「日向くん。状況は?」

「送電線の配備完了しました。」

「エヴァは?」

「2体とも準備完了です。」

「パイロットの状況は?」

そうミサトが言った途端、シンジの病室がモニタに映し出され、またレイがシンジの横
に座っていた。

あっ!
あの女ぁぁぁっ!
シンジの周りをうろちょろするんじゃないわよっ!

「零号機っ! 発進スタンバイっ!」

「はっ?」

まだエヴァの発進予定時刻ではないにもかかわらず、突然の発進指示にマヤが不思議な
顔で聞き返す。

「零号機だけ、先にスタンバしておくのよ。備えは重要よっ!」

「はい。わかりました。伝えて来ますっ。」

マヤは自分の席を離れると、わざわざ直接シンジが寝ている病室まで走ってレイを呼び
に行った。

フフフ。
アタシの目が青いうちは、シンジには指一本触れさせないんだからっ!
あっ、今は目は黒いわね。じゃ、黒いうちだわ。

モニタを見ていると、先程出て行ったマヤが病室に入って来て、レイに何やら指示して
いる様子が見える。

そうそう。
それでいいのよ。

しかしレイが出て行った後、なぜかマヤがそのパイプ椅子に座ってシンジをじっと見つ
め始めてしまった。

あ、あの女っ!
何してんのよっ!!
アンタがそこに座ってどうすんのよっ!

怒髪天になって怒りを露にするミサト。その間も、ヤシマ作戦の準備は次々と進められ
ていく。

「ラミエル、狙撃位置確保しました。」

「わかったわ。」

日向の報告など適当に答えながらも、視線はモニタに映る病室に釘付け。その時、ゆっ
くりとシンジが目を覚ました。

『あっ。マヤさん・・・。』

『気がついた?』

『ずっと側にいてくれたんですか?』

『ううん。さっき来たとこよ。』

シンジとマヤのやり取りする声が、通信回線を通じてミサトの耳に入ってくる。

『なんだか嬉しいな。ありがとうございます。』

『大丈夫?』

既にミサトの肩はガタガタと怒りに震えており、髪は逆立ち、目は真っ赤に血走ってい
た。かなり恐い。

あの女が、シンジの言ってたマヤだったのねっ!
よくもよくも、いけしゃーしゃーとっ!
シンジが目覚めた時、横に居るのはアタシのはずだったのにっ!
殺してやるっ! 殺してやるっ! 殺してやるっ!

「あ、あの・・・葛城作戦部長代理・・・。」

「なによっ!!!!」

「ひぃっ! あ、あ、あ、あの・・・赤木博士が・・・呼んでますぅ・・・・・・。」

鬼の様になったミサトに思いっきり睨まれた日向は、泣きそうな顔でびびりながら伝言
を伝える。

「わかったわよっ! あのオペレータっ! すぐ呼び戻しなさいっ! いいわねっ!」

「は、はい・・・。」

ミサトは日向にマヤを呼び戻す様に言い付けると、不機嫌さを身体中で表しながらズカ
ズカと研究室へ歩いて行くのだった。

<研究室>

研究室へ着くと、ここへ来た時に会議室で見た厚化粧のリツコと、その横に無精髭を生
やした男が立っていた。

「葛城作戦部長代理。スナイパーポジトロンライフルが完成したわ。扱い方の説明をす
  るから聞いておいて。」

「ええ。」

リツコの説明によると、扱い方はさほど難しくないが1度発射すると次の発射までエネ
ルギー充填に時間が掛かることが要注意事項の様だ。

「じゃ、赤木博士。二子山への配備しといてくれるかしら。」

「わかってるわ。」

一通りの説明が終わり、ミサトが研究室を出て行こうとした時、それと同時に加持が部
屋を出て来た。

「突然現れて、凄い作戦を提案したんだってな。」

なんなのよ。
この男っ?

「作戦が終わったら、食事でもどうかな?」

「いいわよ。そんなの。」

「それは、肯定と取っていいのかな?」

「コホン。」

後ろから咳払いが聞こえたので振り返ると、いつの間にか研究室から出てきたリツコが、
2人をジロリと睨んでいた。

「や、やぁ。リっちゃん。」

「何してるの?」

「い、いや。これは・・・。」

「ちょっと話があるわ。」

耳を引っぱられて研究室へ連れ戻される加持。2人の雰囲気から、どうやら赤木博士の
恋人らしい。

よくもまぁ。
すぐそこに恋人がいるのに、他の女を口説こうとするもんだわ。

加持とリツコが研究室へ入り目の前から消えると、ミサトは半分呆れながら発令所へと
戻って行った。

<発令所>

ミサトが発令所に戻ると、まだモニタにはマヤの姿が映っており、なぜかシンジの上半
身が裸になっていた。

「なぁっ! なにしてんのよっ!!!!!!!!!!!!」

突然のミサトの怒声に、職員が一斉に振り返る。

「さっさと呼び戻せっつったでしょーがっ!!!!」

「シンジ君も出撃なんで、体調のチェックをしてから戻るとかで。」

どうやらそれは本当の様で、いろいろな医療関係の計器をシンジの体につけて、体調を
確認している。

「じゃ、その検査が終わったら、すぐに・・・」

ミサトが何か言いかけた時、モニタからシンジの声が小さな音で入ってくる。

『マヤさんに、検査して貰えるなんて・・・。なんだか、嬉しいな・・・。』

ビシッ!

何か切れた音がした。

「くぉらーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!
  伊吹マヤーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!
  忙しい時に何してんのよっ!!!!!!
  さっさと上がって来んかぁぁぁあああああああああああああああ!!!!!!!!!」

シンジの言葉が耳に入った途端、髪を逆立てたミサトが、スピーカーが割れるかと思う
程の大音量で、通信のマイクに向かって怒声を張り上げる。

『は、はいっ! すみませんっ!』

モニタの向こうでは、突然の怒鳴り声にオロオロしたマヤが計器類を片付けて、いそい
そと引き返している様子が映っている。

そうよっ!
それでいいのよっ!
今度近づいたら、あのでっかいポジトロンライフルの銃口に入れてやるわっ!

目を血走らせて、マイクが潰れんばかりに握りしめるミサト。それを見た日向は、綺麗
な人だと思った最初の印象はすっかり消え失せ、ただただ怯え続けるのだった。

<仮設基地>

ミサトの待つ仮設基地へ上がって来たシンジと、長い間待機させられていたレイは、エ
ヴェの下で作戦指示を聞いていた。

やっぱり、プラグスーツ姿のシンジは格好いいわねぇ。
今度、この格好でデートしようかしら?

少しその時の様子を想像してみる。私服姿の自分とプラグスーツ姿のシンジが繁華街を
歩いてデートしている様子。

やっぱり、ダメね・・・。
こんな姿・・・変なカップルだわ。
そうそう、それどころじゃないんだった。

やっとシンジに会えて変なことを考えていたミサトだったが、自分の役目を思い出し作
戦指示を伝える。

「シンジくん。初号機で砲手担当。綾波さん。零号機で防御を担当して。」

「その根拠は?」

レイに質問され、咄嗟に言い訳を考える。単に砲手の方が格好良さそうだと思ったから、
シンジを砲手にしたとは言えない。

「シンジくんと初号機とのシンクロ率が高いからよ。今回の作戦では、より精度の高い
  オペレーションが必要なの。」

うーん、完璧な言い訳だわっ!

「決して、格好で選んだんじゃないわよ?」

「は?」

「なんでもないわ。」

シンジの方を見ると、何も言わずただぼーっと自分のことを見ている。あれだけの衝撃
を受けたのだ、まだ疲れが残っているのかもしれない。

作戦が終わったら、おうちでサービスしてあげるわね。
もうちょっと、一緒に頑張りましょ。
はっ! 一緒に・・・。
いい響きだわぁぁぁぁぁ。
アタシも、シンジの役に立ってるのねぇ。

「あら?」

ぼーっと自分の世界浸っていたミサトが、ふと我を取り戻して周りを見ると、シンジも
レイも所定の場所に行ってしまい、自分1人がその場に残されていた。

さっ!
行くわよっ!

そして、葛城ミサトが世に送り出した最初の作戦となる、ヤシマ作戦が発動する。

<発令所>

状況は、緊迫していた。シンジの砲撃と同時に、ラミエルが加粒子砲を発射。第1射目
が大きく外れたのだ。

「再装填急いでっ!」

再びスナイパーポジトロンライフルへのエネルギー充填が開始され、カウントダウンが
始まる。

「はっ! まずいっ!」

それより早く、加粒子砲のエネルギーをラミエルに確認。

シンジっ!
逃げてっ!

思わずそう言いそうになったミサトがモニタに見たシンジの顔は、闘争心を失っていな
い戦士のそれだった。

シンジ・・・。

今更自分だけ弱音を吐いてはいけないことを悟ったミサトは、シンジと運命を共にする
覚悟で作戦を続行する。

ズバーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン。

ラミエル、加粒子砲2射目発射。

モニタが一瞬真っ白になる。

「シンジっ!」

思わず声を出してしまうミサト。だが、モニタにはシンジを庇うレイの乗った零号機の
姿があった。

『綾波っ!』

初号機のモニタには、なおも諦めず戦うシンジの姿。

エネルギー充填完了。

「シンジ君っ! 第2射っ! 早くっ!」

敵ロックオン。

ズバーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン。

第2射発射。

青い立方体から炎が上がり落下する。

ラミエル撃沈。

『綾波っ! 綾波っ!!!!』

通信回線に悲痛な叫びが聞こえたかと思うと、シンジは初号機を駆け下りレイを助けん
と一目散に走っていた。

戦友か・・・。
いいな。

この時ばかりは、ミサトの心にも嫉妬心は浮かび上がって来なかった。ただ、自分には
無い物を持っているレイを、すこーしだけ羨ましいと思った。

                        :
                        :
                        :

シンジと共にレイも無事に帰還し、2人は発令所で作戦部長代理であるミサトの前に並
んで立っていた。

「2人共良くやったわ。」

あんな壮絶なシーンを見た後だ。シンジのことは勿論のこと、レイをも素直に賞賛した
くなる。

「はい。ありがとうございます。」

シンジが嬉しそうに返事をする。

「これからも、また一緒に作戦することになるかもしれないわ。宜しくね。」

「こちらこそ、よろしくお願いします。」

ん?

シンジの頬が少し赤くなり、火照っている。

「ぼくも、ミサトさんとずっと一緒に戦えたらいいな、なんて思ってたんですよ。」

「なっ!」

そのシンジの言葉を聞いて、ミサトの顔は真っ青になった。シンジが、こういう態度で
年上の女性を名前で呼ぶ理由はただ1つ。

『ミサトさん』って・・・。
今、シンジが『ミサトさん』って・・・・。
そんな・・・そんな・・・そんなぁぁぁぁぁぁあああっ!

ミサトの中のアスカは、愕然としてシンジを見つめていた。こともあろうか、シンジは
変身した自分に恋をしてしまった様なのだ。

そんなぁぁぁぁぁぁぁ・・・。

今ここに、アスカの最大のライバルが、出現したのであった。

To Be Continued.
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