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パラレル
Episode 04 -ほったらかしちゃイヤ-
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<バー>

加持とリツコは、参号機の起動実験を明日に控えた準備も終わり、飲み屋に来ていた。
更に1体エヴァが増えれば、3体を保有することになり後の戦いが有利に進められる。

「あまり飲み過ぎると、明日の実験に響くわ。」

「いいじゃないか。こんな所まで、仕事の話を持って来るもんじゃない。」

「あら。あの葛城ミサトが見つからないとなると、また私に戻って来るのね。」

「そんなことはないさ。俺にはリっちゃんだけさ。」

「知ってるわよ。あなた、探してるんでしょ?」

「ネルフの為にね。」

「どうかしら。」

「彼女は謎の人さ。諜報部員すら簡単にまいてしまう。」

ネルフが世界に誇る諜報部員が追尾しても、いとも簡単にロストしてしまったのだ。加
持をもってしても、これ以上どうしようもなかった。

<シンジの家>

その日の夜、アスカはパジャマ姿のままコソコソとシンジの部屋へやって来てたいた。
夜出掛けるとキョウコが煩いのでお忍びだ。

カチャ。

「シーンジ・・・。ん?」

「わっ!」

突然こんな時間に、アスカが音も立てず大好きなミルクセーキ片手に部屋に入って来た
ので、シンジは心臓が飛び出んばかりに驚いて、大声を出してしまう。

「シッ! ん? アンタ何してんの?」

なにやら大きな写真を机の前に張っている様だ。よくよく見ると、ミサトの写真を引き
伸ばした物である。

「何よそれっ!」

「あっ。こ、これは・・・その。あの・・・げ、芸能人なんだ。うん。ケンスケに貰っ
  たから、張らないと悪いかなぁって・・・ははは。」

なーにが芸能人よっ!
アタシが握ったマイクは、通信用のマイクだけよっ!

サハクィエル戦以来、またアスカは警戒してミサトに変身はしていなかったにも関わら
ず、シンジはまだミサトのことを考えている様だ。

「ふーーん。芸能人なのね。」

そう言いながら、自分の胸にぶらさがっているクロスのペンダントをシャツの中に気付
かれない様に入れ、近付いて行く。

「なんて曲歌ってるの? アタシも聴いてみたいなぁ。」

「えっ・・・。さ、さぁ。よく知らないんだ。」

「おかしいわねぇ。写真張るくらいなのに、歌も知らないの?」

「は、俳優さんなんだ。だから、歌は出してないんだ。」

「そんな俳優さんいたかしら?」

「いるんだよ。あまり売れてないから、アスカは知らないんじゃないかなぁ。」

まったくコイツは・・・。
嘘の下手さでは、世界1ね。

「アタシも、明日相田にその写真貰おうかしら。」

「えっ! だ、駄目だよ。そ、その。ケンスケがぼくにくれたこと喋っちゃ駄目って言
  ってたんだ。」

ったく・・・バカ。

「そ、それよりアスカ、何しに来たの?」

「うん、寝つけなくてさ。」

「また、おばさんに怒られるよ?」

「見つかんなきゃ大丈夫よ。でしょ?」

「そうだけど・・・。」

「明日はネルフなのよねぇ。」

「そうなんだ。トウジがチルドレンになるって、リツコさんが言ってた。」

基本的にリツコは、シンジの心情などを察して物事を言うようなことはせず、伝えるべ
きことは淡々を伝えるタイプだ。

「嘘っ? 鈴原も?」

「らしいよ。危険だから、なんだか嫌だけど・・・ぼくは。」

「そっか。どうせなら、相田をパイロットにしてやれば良かったのに。」

「そうだね。ケンスケなら、大喜びだよ。」

そんな会話をしているうちに眠くなってきたアスカは、シンジのベッドに凭れてこっく
りこっくり船を漕ぎだした。

「アスカ?」

「もう。うるさいわねぇ。」

「ちょっとぉ。こんなとこで寝ちゃ駄目だって。」

「いいのぉ。」

適当なことを言いながらも、うつらな意識のままシンジの布団に潜り込んでしまうアス
カ。困ったものである。

「困るよっ! ぼくが、怒られるよっ!」

「もっ! ウルサイっ!」

結局その日シンジは、親にばれるのでリビングで寝るわけにもいかず、床に寝転んで寝
ることになってしまった。

<アスカの家>

「だいたいあなたは、どうして夜の遅くに男の子の部屋に入って行くのっ!」

翌日、シンジが早くにネルフへ行ってしまった後、1人シンジの部屋で寝ているのを発
見されたアスカは、キョウコに大目玉を食らったいた。

「シンジ君、床で寝たって言うじゃないっ! 聞いてるのっ!」

「はーい。」

「男の子が女の子の部屋に忍び込むって話は聞くけど、女の子がそんなことするなんて
  聞いたことありませんよっ! わかってるのっ!?」

「はーい。」

「『はーい』じゃなくて『はい。』でしょっ!」

「はいっ!」

いい加減うんざりしながらも、怒ったキョウコだけには勝てないアスカは、目をぱちく
りさせて返事しなおす。

「ねぇ、ママぁ。足痛い。崩していい?」

「あなたは怒られてることがわかってるのっ! ずっと正座してなさいっ!」

「はーい。」

「『はい。』でしょっ!」

「はいっ!」

ちょっとシンジの部屋で寝込んでしまったばかりに、朝からこっぴどく怒られてしまい、
さんざんのアスカであった。

ウーーーーーーーーーーーーーー。

その時、都市全体に非常事態宣言を知らせるサイレンが鳴り響く。同時に、市民がシェ
ルターに誘導され始めた。

しめたっ!
正座が崩せるわ。

「アスカちゃんっ! 急いでっ! 避難するわよっ!」

「助かったぁぁ。ふぅ〜。」

「続きは帰ってから、みっちりやりますからねっ!」

「げっ!」

<第3新東京市郊外>

とにかく今は正座から解放されたアスカは、キョウコと共にシェルターへ避難を始める。
その時、逃げている人達の声が聞こえてきた。

『参号機が、使徒に乗っ取られたらしいぜ。』

『じゃ。エヴァ同士の戦いかよ。』

えっっ!?
エヴァ同士っ!?
シンジと鈴原がっ!?

シンジの性格を考えると、そんなことができるはずもなく、相手が鈴原となれば自分を
犠牲にしかねない。シンジはそういう男の子であることを、アスカは良く知っている。

まずいっ!
もう変身しないって決めたけど・・・。

自分のことより、シンジの身が一番である。もう2度と変身しないと決めていたアスカ
だったが、3度目の変身を決心し人の群とは逆の方向へ走り出す。

「アスカちゃんっ!」

「忘れ物っ! ママっ! 先行っといてっ!」

「アスカちゃんっ!!!!!」

キョウコを振り切って全力でネルフへ向かうアスカ。避難する人の群が、周りでシェル
ターへ向っている。

まずいわねぇ。
人が多いわ。
何処で変身しようかしら・・・?
やっぱり公園・・・ね。

公園まで走って来ると、人の影もほとんど見えなくなっていた。この前アスカが飛び込
んで変身した花壇の前には、”立ち入り禁止”の札が大きく立っている。

「よしっ! いくわよっ! アスカっ!」

アスカは全力で走りながら、滑り台の下にある洞穴をイメージしたコンクリートの穴に
飛び込んで行った。

「ピピルマピピルマプリリンパっ! パパレホパパレホドリミンパっ!」

ゴチーーーーン☆★☆。

しばしの沈黙。

「いたたたた・・・。」

頭を押えながら穴から四つん這いで出てくるミサト。

「背が高くなるの忘れてたわ・・・。」

ミサトは涙目になりながらも、そんなことを言っている場合じゃないので、急いでネル
フ本部へ走って行った。

<発令所>

ミサトが発令所に到着すると、モニタに映し出されたシンジがゲンドウに突っ掛かって
いる所だった。

「嫌だよっ! トウジが乗ってるんだっ!」

「やらなければお前が死ぬぞ。」

「ぼくが死んだ方がマシだよっ!」

パネルを見ると、使徒に乗っ取られた参号機が、刻一刻と近付いて来ている。もう残さ
れた時間が無い。

「司令っ!」

「葛城君か。」

久し振りに現れたミサトに注目が集まるが、今回ばかりはシンジはそんな余裕は無い様
だ。そんな中、ミサトは意を決した様に、発令所の中央に出てゲンドウを見上げる。

「わたしに任せて下さい。」

「よかろう。」

ゲンドウの許可も出たので、ミサトは作戦を通信回線の先にいるシンジに向って説明し
た。その作戦を聞き、シンジを始め全スタッフが顔を青くしてミサトを見つめる。

「そ、そんなのっ! ミサトさんが危険過ぎますよっ!」

「やるだけのことはやっておきたいの。」

「ミサトさん・・・。わかりました。」

こうして、ネルフが迎えた3回目の危機に対し、葛城ミサトの第3番目の作戦が発動し
た。

<初号機>

ミサトは初号機の手の平の上に乗っていた。戦闘中のエヴァの参号機に飛び移り、トウ
ジを救出しようというのだ。

『ミサトさん。無理しないで下さい。』

「任せて。」

『でも、トウジは親友なんです。お願いします。』

「参号機。お願いね。」

『はい。ミサトさんが、無事に脱出するまで、押え込みます。』

「それから・・・もし・・・。」

『はい?』

いいえ。
アタシは、今はミサト。
そして、無事にアスカに戻るんだもんっ!
そうよ! 余計なことは考えちゃダメっ!

「なんでもないわ。さっ、来たわ。シンジくん。レイ。行くわよっ!」

『『はいっ!』』

参号機と初号機が激突する。それと同時に、零号機が背後から参号機を挟む。

「今よっ!」

『はいっ!』

ゆっくりと、ミサトを参号機のエントリープラグ部分に乗せるシンジ。その時、参号機
が抵抗して大きく動いた。

「きゃっ!」

振動で、ずるりと滑り落ちるミサト。

『ミサトさんっ!』

ゴロゴロ。

落ちながらも、なんとか参号機背中の突起部分に掴まる。

「大丈夫よ。」

なんとか這い上がったミサトは、小型の爆弾でエントリープラグの頂点部分を破壊した。
使徒のATフィールドは初号機と零号機が2体がかりで中和している。

「鈴原くんっ! 早くっ!」

「すんまへん。助かりましたわ。」

「そのレバー引いて、直ぐ来て。」

「おっしゃ、任せて下さいっ!」

トウジは自爆レバーを引くと同時に、コクピットの椅子に飛び乗り、ミサトの手を掴ん
でエヴァの外に脱出する。

「シンジくんいいわっ!」

『はいっ!』

それまで、零号機と2体掛かりで参号機を必死で押えていたシンジは、ミサトとトウジ
をゆっくりと掴み、参号機から離脱する。

「「ATフィールド全開っ!」」

レイとシンジが参号機の周りにATフィールドを張り巡らしたと同時に、参号機は使徒
諸共自爆し消滅した。

<発令所>

初号機と零号機を無傷で帰還させ、チルドレンにも全く傷を負わせなかったミサトは、
絶賛されて発令所に上がって来た。

「見事だ。葛城作戦部長代理。」

「はっ。では、わたしはこれで。」

「待ち賜え。」

ゲンドウがミサトを呼び止める。

「はい?」

「正式にネルフの作戦部長にならんか。 三佐待遇で迎えるが。」

「いえ。今回限りで、もうネルフへ来るつもりはありませんので。」

「そうか。」

残念そうにするゲンドウを背に、ミサトが去って行こうとすると、その後ろからシンジ
が発令所を飛び出し追い掛けて来た。

「もう来ないってどういうことですかっ!?」

「後は、鈴原くんと綾波さんと協力してやっていくといいわ。もう、わたしは必要ない
  はずよ。」

「そんなっ! 必要ですっ! ぼくにはミサトさんがっ!」

「駄目よ。それより仲間を大切にすれば、必ず使徒に勝てるわ。」

「はい・・・。」

ミサトのなんとも良い話を、シンジは残念そうにしながらも神妙に聞いていた。しかし、
それは前振りでミサトの言いたかったことは、ここからであった。

「いいこと? シンジくん。仲間や幼馴染は大切にしなくちゃ駄目よ。決して部屋に女
  の子を1人でほったらかして、ネルフへ来たりしちゃ駄目よ。」

「は?」

「いくら時間がなくてもよ。後でその娘が、寝てる所を見付かって、こっぴどく怒られ
  ることになるかもしれないでしょ?」

「はぁ〜・・・。」

まったくっ!
バカシンジがほってったから、まだ正座させられた足が痛いじゃないっ!!!
シンジのバカバカバカっ!

「じゃね。」

そう言いながら、ミサトはシンジの前を去って行く。

「ミサトさーん・・・。」

その後ろ姿を、シンジは悲しそう目で見送るのだった。

<JRの駅>

ネルフ本部を出てからずっと、黒服の男達が追尾して来ているのを意識しながら、ミサ
トはJRの駅に向かっていた。

ったく。
しつこいわねぇ。
しゃーないなぁ。またトイレで元に戻るか。

ミサトは男性禁制の女性用トイレへ入って行く。それを見た諜報部員は、前回窓から逃
げたのかと思い、幾人かがトイレの裏へと回って行った。

「アハハハ。バッカねぇ。」

そんな様子を窓から見たミサトは、クスクス笑いながら、個室の中で元の姿に戻りトイ
レを出て行く。

「アハハハ。ネルフの諜報部員なんてこんなもんね。」

赤毛の少女が出てきたことを何も疑わず、じっと見張りを続ける諜報部員を後目に、ア
スカはホームへと上がって行った。

「どうして・・・。」

しかし、その様子を見る者がもう独りいたことに、アスカは気付いていなかった。

「なんで、ミサトさんが入った所から、アスカが出て来たんだ?」

シンジはなにもかもがわからなくなってしまい、アスカの去っていった方をただただ目
で追い続けていた。

<アスカの家>

「使徒が来てるっていうのにっ! あなたは何処へ行ってたのっ! ママは、もう心配で
  心配でっ!」

「はーい。」

「正座を崩しちゃ駄目でしょっ!」

「はーい。」

「『はい。』ですっ!」

「はいっ!」

「だいたいあなたは、いっつもいっつもフラフラとっ!」

家に帰ったアスカは、いつまでも続くおこごとに頭を抱え込んでいた。しかし、それ以
上に頭を抱え込んでいる少年が隣の家にいた。

<シンジの家>

なんで、あそこにアスカがいたんだ?
ミサトさんは、あの後出て来なかった。
どうして、アスカが・・・。
どうして・・・。

To Be Continued.
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