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星の煌き
Episode 03 -襤褸-
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<河原>

剣と風が奏でるハーモニー。聞いていてあまり心地の良い音色とは思えない。特にその
剣、アクティブソードをただひたすら振り回しているアスカにとっては。

「このーーーーっ!」

ブンっ! ブンっ!

全くかすりもしないソード。それどころか、蒼い髪の女は余裕の笑みを浮かべて、剣を
構え様とすらせず、紙一重で交わし続ける。

「フフ。」

また、その笑みだ。アスカにとっては、これ以上に神経を逆撫でする笑みは無い。だが、
切り付けても切り掛かっても、まるで空を舞う花弁の様に当たるかに見えて当たらない。

「こんちくしょーっ!」

「アスカっ!!!」

「うりゃーーーっ!!!」

アスカの怒声が耳に入ったシンジが、慌てて近寄ってくる。しかし、2人は既に戦いの
真っ只中。止めればアスカは止めるだろうが、下手に注意を逸らす様なことを口にする
と、アスカがやられかねない。

「もう始まってるのかい? じゃぁ、ぼくも参加しようか。」

「なっ! ちょっとっ! やめてよっ!」

なんとか戦いを止めさせようと、駆け寄り掛けたシンジだったが、シンクロを始めるカ
ヲルの声が背中に聞こえ慌てて引き返す。

「たーーーーーーーっ!」

もう、目の前のレイのことしか眼中に無いアスカが、アクティブソードを大きく振り被
ぶって切り掛かろうとした。

ガキーーーーン。

初めて、ソードを構えるレイ。剣と剣が火花を散らす。

カーーーーーーーーン。

わずか、一瞬だった。

「あっ!!」

河の近くまで飛ばされるアスカのソード。レイが構える剣の切っ先が、アスカの胸元に
振り下ろされる。

「キャーーーっ!」

尻餅をついて、後ろに転がるアスカ。

「レイ、そろそろかい?」

「ええ。」

レイはソードを納め、両手に嵌めたリングを合わせる様に、腕を前に突き出す。

「やめてくれーーーっ!」

シンジの叫びが聞こえる。アスカは、目を閉じ両手で頭を覆ってただ怯えて丸くなるし
かない。

キュイーン。

マジックと呼ばれる戦闘兵器に相応しく、まるでそこに何かの精霊が集まって来ている
かの様な、神々しい青白い光が輝く。

水系マジックの最もレベルの高い技術。ダイヤモンドダスト。

ズバーーーーーーーーン。

一気に解き放たれる無数の氷片。

「ぐはっ!!!」

「あっ!」

それまで何があろうと冷静さを失わず、淡々と戦いを進めていたレイの瞳が大きく見開
いた。

「なんてことを・・・。」

同じくカヲルも、赤い瞳を見開きその場に唖然と立ち尽くす。

「ぐぐぐぐ・・・。」

「シンジっ!!!」

もんどりうって倒れるシンジに、突き飛ばされたアスカが駆け寄る。思わず飛び込んだ
シンジは、完全に逃げ切ることができずレイの攻撃をわずかに浴びてしまっていた。

「そんな・・・。」

がっくりと膝を折りレイがその場に崩れる。時を同じくして、カヲルはシンジの側まで走
って来る。

「シンジっ! シンジっ!」

足を押さえて苦痛に顔を歪めるシンジを前にどうしていいのかわからず、レイのことも
戦いのことも考える余裕すらなくなったアスカは、ただおろおろと名前を叫び続ける。

「とにかく病院へ運ぼうっ! 手伝ってくれるかい?」

「シンジーっ!」

カヲルは、いろいろと思うことがあったが、そんなことは後に回し今はシンジの出血が
酷いので、一刻も早く病院へ向かうことにした。

シンジは、カヲルとアスカに馬車へと運ばれて行く。その後から、愕然とした表情でレ
イが付いて来ていた。

<病院>

動物病院と人間の病院が分かれているのと同様に、奴隷と市民の病院も完全に区別され
ている。アスカとレイはカヲルがシンジを担ぎ込んだ後、病院の前で座り込む。

「アタシのせいで・・・シンジが・・・。」

少し気持ちが落ち着いてきたアスカは、ひたすら自分の軽率さを後悔し始めていた。ま
さか、シンジが怪我をすることになろうとは思ってもみなかった。それに、あそこまで
徹底的に力の差を見せ付けられることになろうとも思っていなかった。

「うっ。」

蚊の鳴く様な声ですすり泣くレイの声が聞こえてくる。振り返ると、じっと俯いて首を
垂れているレイの姿。

「アンタ・・・。」

それまで自分を攻めると同時に、シンジに傷を負わせたレイのことを怨んでいなかった
と言えば嘘になる。しかし、さすがに今のレイを見ては可哀相に思えてきてしまう。

「・・・・・・。」

俯いたまま木の根に座りじっとしているレイ。主人であるカヲルが病院から出てくるの
を待っているのだろうか。

「・・・・・・ア。」

何かを言おうとして、口を開いたアスカだったが、一瞬躊躇してしまう。仮にもシンジ
を傷付けた張本人。しかし、思い切って再び喉の奥で押し止まったセリフを吐き出す。

「アンタ、逃げなさいよ。」

「・・・・・・?」

「逃げれるかもしれないわ。」

市民を傷つけた奴隷は、裁判も無しに死刑。そのことを知っているアスカは、これ以上
レイを攻めることができなかった。

「逃げなさいよ。」

「・・・・・・。」

「このままじゃ、確実に死刑だわ。逃げたらもしかしたら。」

「駄目。」

「どうしてよ。」

「あの人に迷惑が掛かるわ。」

「アイツは、アンタを戦わせて金を稼いでただけでしょ?」

「私達はお互いの力を利用してるだけ。どっちがどうってことはないわ。」

「そう・・・。でも、それならなおさら逃げたって・・・。」

「でも、そんなこと・・・できない・・・。」

「・・・・・・。」

シンジを傷付けたのが、剣であればレイ1人が罪を被ることもできるだろうが、マジッ
クは奴隷だけでは利用できない。当然マジックによる犯罪は、主人も罪に問われる。

「アンタ・・・。」

その時、アスカはレイがカヲルのことを”御主人様”とは言わずに、”あの人”と言っ
ていることに気付いた。

よくよく考えると、あれだけの力を持つレイであればチルドレンショーで既に優勝して
いても不思議ではない。

だが、レイは奴隷。それにしては、着ている衣服などを見ると下手な市民より余程良い
物を着ている。

つまり、カヲルにとってパートナーとなりえるのは奴隷だけであり、この2人は戦って
も罰せられない奴隷制度という社会体制を、逆に利用しているのだろう。

シンジは、奴隷という闇の世界から自分を救ってくれようとする。しかし、この2人は
奴隷制度自体に光を見出しているのかもしれない。

「でも・・・このままじゃ、アンタ捕まるわよ。」

「・・・・・・。」

がっくりと力無く肩を落として座るレイに、それ以上何と声を掛ければ良いのかわから
ない。その時、病院から出てきたカヲルが、2人の側へ近付いて来た。

「シンジはっ!?」

「シンジ君は大丈夫さ。」

「だ、大丈夫ってっ! 怪我はっ!?」

「出血は酷かったけど、傷はそうでもなかったのさ。明日には退院できるらしいね。心
  配しなくていいよ。惣流さん。」

「え? 惣流・・・さん???」

今迄”さん”付でなど呼ばれたことの無いアスカは、どういう反応をすればいいのかわ
からず戸惑ってしまう。

「あぁ、僕には市民も奴隷も等価値なのさ。いや、奴隷以上に好意に値する身分は無い
  ね。」

「で、シンジどうしたの?」

「今、麻酔が効いて病室で寝ているよ。」

「そう・・・。よかった・・・。」

「それから、レイ。シンジ君が、僕達を助けてくれたよ。」

「えっ?」

「マジックを暴発させて、自分で自分を傷付けたと言ってくれたんだ。」

「・・・・・・。」

「惣流さん。君達には申し訳ないことをしたね。」

「いいわ。シン・・・御主人様が無事なら。」

「今更、言葉使いを言い直す必要な無いさ。」

微笑を浮かべるカヲルに、アスカは今迄散々”シンジ”と口に出していたことに気付き、
照れ笑いとも苦笑いとも取れる笑みを浮かべる。

「君の主人は好意に値するよ。」

「え?」

「身を持って奴隷を庇うなんて、今迄見たことがないからね。大事にするといいさ。」

「・・・・・・わかってる・・・ます。」

「それと、君はもっと強くなる迄は、戦わないことだね。」

「ええ。それもわかってます。」

「ならいいさ。じゃ、シンジ君にも断ったし僕達はそろそろ行くよ。」

カヲルは一礼すると、自分の乗っている馬4頭に引かれたかなり豪華な馬車へ向かって
歩き出す。

「私も行くわ。あなたの御主人様に、謝っておいて貰える?」

「わかったわ。」

「それと、プロのチルドレンは強いわ。気を付けて。」

「うん。でもっ! でもっ! いずれアンタに勝つくらいになってみせるわっ!」

「また戦いましょ。今度は、試合として。」

「今度は、返り討ちにしてあげるわっ!」

「フフ。じゃ。」

アスカの前をレイが去って行こうとした時、馬車に乗ったカヲルがレイを乗せに近寄っ
て来た。

「惣流さん。これをシンジ君に渡してくれるかい?」

「え? これ?」

「お詫びだよ。」

「そう・・・。わかりました。」

皮の重い袋を手渡したカヲルが、レイと共に乗った馬車を走らせる。その姿が見えなく
なるまで見送っていたアスカは、ふと病院の方へ振り返った。

「シンジ・・・大丈夫・・・なのよね。心配無いって言ってたもんね・・・。」

今直ぐにでも病院に入ってシンジの顔を見たいアスカだったが、この中に入るわけには
いかずその場に腰を落ち着ける。

「何かしら?」

何もすることがなくなったアスカは、カヲルから手渡された重たい袋の中を覗いてみる。

「なにこれっ!?」

中を見たアスカは、びっくりして声を出してしまった。重いはずである。その中に入っ
ていたのは100万ゴールドくらいのお金。シンジの治療費とお詫びの物なのだろうが、
それにしては額が大きい。

「・・・・・・。」

唖然と大金を見つめる。こんなものを自分に預けられては困る。慣れない大金を持つと、
周りを歩く人間が全て泥棒に思えてしまうではないか。

ガタン。

その時、荷馬車に誰かが手を掛ける音が聞こえた。

「泥棒っ・・・シ、シンジ?」

「あっ、アスカ。さ、行こうか。」

「行こうかって、足は・・・。今日は入院なんじゃ?」

「アスカ1人、こんなとこで寝かせられないじゃないか。」

「え?」

「だから、入院はいいんだ。」

「ちょ、ちょっとっ! ダメよっ! 入院って言われてるんでしょ?」

「もう大丈夫さ。」

そう言いながら、シンジが荷馬車を出そうとしている。こうなっては、遠慮などしてい
られない。なんとしても引き止めようとするアスカ。

「ダメっ! ダメっ! ダメっ! 今日1日、お医者様が入院するように言ってるって聞
  いたわっ!」

「ぼくだけベッドで寝るなんて、やだ。」

1度言い出したら、シンジはかなり頑固である。このあたり、王子様として育った性格
が出ているのかもしれない。しかし、引かないことにかけてはアスカも負けてはいない。

「お願いっ! 入院してっ! アタシはここでおとなしくしてるから。」

「やだ。」

「アタシのせいでっ! アタシのせいで、怪我しちゃったんだからっ! お願いだからっ!」

「もう大丈夫だよ。」

「もし・・・、もしシンジに何かあったら、アタシ・・・お願い。」

とうとう泣きそうな顔でアスカが懇願し始めたので、さすがにシンジはそれ以上強情を
張ることができず、馬車を出そうとしている手を止め困った顔で見返す。

「お願い。お願いだから。」

「・・・・わかったよ。」

「ありがとう・・・。」

「その代わり、馬車から出ちゃ駄目だよ。特に暗くなったら。」

「うん。わかってる。」

「じゃぁ、戻るよ。はぁ・・・無理矢理退院しちゃったから、看護婦さん怒ってたなぁ。
  やだなぁ。」

「それでも、戻って。」

「ん? その袋は?」

「あぁ、これ。あの2人が置いていったの。」

カヲルに貰った重い袋を、よいしょという感じでシンジに手渡す。シンジはその中を見
て、困った表情を浮かべた。

「こんなに・・・。気にしなくていいって言ったのに・・・。」

「あの・・・受け取っちゃまずかったかしら?」

「あぁ、いいよ。返すのも悪いだろうし・・・。返す方法も、もう無いけどね。」

こうして、シンジとカヲルの初めての出会いは幕を閉じ、その夜シンジは素直に病院で
一晩を過ごし翌日に退院した。

「アスカ? アスカ、そろそろ行くよ。」

寝ていたアスカの耳に、シンジの声が入ってくる。慌ててアスカが飛び起きると、既に
太陽は天高く昇っていた。

「あっ、今、何時?」

「もう、10時過ぎだよ。」

「えっ? もうそんな・・・あっ、シンジ、足は?」

「大丈夫さ。もう退院してもいいって。」

視線をシンジの足に向けると、引きずり気味だがギブスも松葉杖も無しに歩けている様
なので一安心。

「アタシが、馬車走らせるからゆっくりしててっ。」

「悪いね。」

「アタシの方こそ、ごめん・・・。」

「でも、変な出会いだったけどカヲルくんと仲良くなれたよ。」

「そうなの?」

「なんか、チルドレンを怨んでるみたいだったけど、アスカと会ってカヲルくんもちょ
  っと見方が変わったって。」

「ふーん。そうなんだ。」

シンジの足を気遣いながら、荷台を振動させない様にゆっくりとペンペンを走り出させ
る。

「あのさ、アスカ。今日はホテルに泊まろうと思うんだけど。」

「そうね。それがいいわ。アタシは、ここでじっとしてるから大丈夫よ。」

「違うよ。アスカも一緒に泊まれるホテルが、少し向こうの町にあるらしいんだ。カヲ
  ルくんはよく利用するらしいよ。」

「そんな、ホテルがあるの?」

「そうか・・・その宿泊費もこのお金に入ってるんだ。かなり高いらしいからね。」

「なんかあの2人、そうとう稼いでるみたいね。」

同じ奴隷でも自分とレイを比べると天と地程の身嗜みの差がある。インターフェースヘ
ッドセットさえなければ、どこから見てもレイは貴族のお嬢様と言った感じだ。

ズドドドドドドドドドドドド。

その時大きな馬車が物凄い速さでシンジ達が乗る荷馬車を追い抜いて行った。

「な、なにっ!?」

「なんだ???」

その後から、警官が乗った馬が何頭か追い掛けてくるが、幾頭もの馬に引かせた荷馬車
は、猛烈なスピードで逃げて行く。

「泥棒かしら?」

「泥棒かなぁ? 奇麗な女の人が乗ってたけど?」

「むっ!」

「なんでもいいや。ぼく達はゆっくり行こうよ。」

「・・・・・・。」

アスカは少し不機嫌になりつつも、何も言わずホテルのある町までペンペンを走らせて
行くのだった。

<ホテル>

今日はシンジが怪我をしているので訓練は中止し、早い時間からホテルへ入った。幼い
頃、こういう所に泊まった記憶が微かにあるものの、実際こんな立派な建物に入ったこ
とが無いに等しいアスカは、きょろきょろしながら自分達の部屋へ入って行く。

「明日からまた荷馬車だから、今日くらいのんびりしようか。」

「なんだか、お姫様になったみたい。」

「よくこんな所に、カヲルくんいつも泊まってるなぁ。」

「シンジも、プロになる?」

「やだよ。人同士が戦うなんて、見たくないよ。」

「ははは。シンジらしいわ。」

「それよりさ、お風呂入ってきたら? 」

「うん。」

いろいろな街へ寄る度に、大衆浴場があると風呂には入っているものの、奴隷用浴場と
なると、さして綺麗な所では無い。アスカは、ほぼ10年振りに室内に設置されたピカ
ピカのバスルームへと入って行った。

この街を出たら、いよいよ第1戦だ。

バスルームからシャワーの音が聞こえてくる中、シンジは今後のことを考えていた。降
って沸いた様な実戦だったが、あの戦いを見ているとまだショーに出るのはきつい。

後は野宿と訓練の毎日だな。
頑張らなくちゃ。
アスカを殺したりするもんか。
絶対に、市民にするんだ。

ホテルに入ってから終始優しい顔をしていたシンジだったが、アスカのソードを手にし
て顔を引き締める。

明日からはマジック中心に訓練しよう。
そっちの方が向いてそうだ。

アスカのことを考えていると、何気なく視線がバスルームの方へ向いた。その前には、
先程までアスカが着ていた服が畳んで置かれている。

そうだ。
だいぶ汚れてるし、洗っとこう。

服がかなり汚れていることに気付いたシンジは、その衣服を手にし洗面所で石鹸をつけ
て簡単に洗い始める。

痛んでるなぁ。
新しい服買わないと。

アスカと始めて会った時に着ていた服だ。奴隷商人に与えられた服など碌な物は無く、
痛んでいて当然である。

そういや、ぼくの服もボロくなってきたな。
まぁいいや、ぼくは。誰も煩く言う人いないし。ハハハ。

服装に無頓着なシンジは、宮殿にいた時に身嗜みをガミガミ注意されるのが嫌だったの
で、逆に今の方が気楽で良かった。

「あれ?」

声がした方を振り返ると、バスタオルを巻いて出て来たアスカが自分の服を探している
様だ。

「あ、ごめん。洗ってるんだ。」

「あっ!」

シンジが服を洗っているのを見つけ、バスタオルを巻いたまま大急ぎで駆け寄って来る
アスカ。

「い、いいっ! 自分でするからっ。」

「だって、もう洗い始めてるから・・・。」

「いいのっ!」

自分の衣服を必死で取り返そうとするアスカ。シンジはその剣幕に何が起こったのかと、
おろおろしてしまう。

「ごめん・・・洗っちゃいけなかった?」

「そうじゃなくて・・・その・・・その汚いから・・。」

恥ずかしそうに自分の体で汚れた服を隠そうとするアスカを見たシンジは、少し無神経
だったかもしれないと反省する。

「ごめん・・・でも、ぼくだって、ほらこんなに汚いよ?」

「だって、アンタと違ってアタシは・・・。」

「!」

「だから、あまり見ないで・・・。」

「『アタシは・・・』なんだよっ!」

アスカの言葉にピクッと反応したシンジは突然大声を張り上げる。

「『アタシは・・・』なんだってんだよっ! 言ってみろよっ!」

「・・・?」

「今の制度じゃ、アスカは奴隷だよっ! そうだよっ! 奴隷だよっ! それがどうした
  んだよっ!」

「シ、シンジ・・・?」

「ぼくだって、服は汚れてるよっ! 旅してんだから、当たり前じゃないかっ!」

「でも・・・。」

「でも、なんだよっ! 関係ないだろっ! 何着てても、アスカはアスカじゃないかっ!」

「・・・・・・。」

「そんなこと言っちゃ駄目だよっ! カヲルくんといたレイって娘を見てみろよっ! 奴
  隷がどうしたんだよっ! 身分なんてどうだっていいだろっ!」

肩を掴んで半分泣きそうになりながら訴え掛けるシンジに、最初は唖然と聞いていたア
スカだったが、ようやく我に返り視線を上げる。

「ごめん・・・そうね。」

「あっ・・・ごめん。これから頑張ろうって思ってた時だったから、つい・・・。」

アスカの言葉に頭に血を昇らせてしまったシンジも、我を取り戻す。

「ううん・・・。そうよね。ありがとう。」

「うん。」

「あの・・・バスタオル取っていいかな?」

「えっ?」

肩を揺すってしまったせいで、バスタオルが床に落ち自分の目の前でアスカが一糸纏わ
ぬ姿になっていたことに気付く。

「わーーーーーーーっ!!!!」」

顔を真っ赤にして、慌てて背中を向ける。その後ろで、アスカはバスタオルを取り体に
巻くと、自分の服を洗い始めた。

「あ、あのさ。服が乾く迄、ぼくの服着とけばいいよ。その・・・そんなに綺麗な服じ
  ゃないけど・・・。」

「いいの? じゃ、そうするね。」

「明日さ。アスカの新しい服買いに行こうか。」

「ううん。いい。」

「どうして?」

シンジが振り返ると、自分の衣服を洗いながらアスカは微笑んで答えた。

「今のアタシにプライドを持ちたいから・・・。」

「そっか・・・。」

「だから、優勝するまでこの服でいい。」

「わかったっ! ぼくも洗うの手伝うよっ。」

「うんっ。手伝ってっ!」

そして、アスカの服は綺麗に洗われた後、破れている所は縫い合わされて、窓際の夕日
が1番良く当たる場所に掛けられたのだった。

To Be Continued.
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