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星の煌き
Episode 11 -窮鼠-
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<王宮>

自らの希望通り、またシンジとの時間を共にすることとなったマナであったが、状況が
思っていたものと遥かに異なるものとなり戸惑う日々を送っていた。

「マナ様、水を汲んで来ました。」

「あ、え・・えっと、置いといて。」

「はい。」

水を汲み終わりバケツを床に置くアスカを、視線を泳がせながら目の端でチラチラと覗
き見る。今はシンジの朝食の準備をしているのだが、どうも落ち着かず作業が進まない。

「おっしゃられていた仕事、終わりました。次は何を?」

「えっ!?」

突然アスカが近付いて来たので、ビクっとしてその場を退き視線を向ける。どうやら言
われていた仕事が全て終わり、次の指示を待っている様だ。

「あ・・・えっと、じゃ、じゃぁ、廊下。廊下の掃除。終わったら休んでて。」

「畏まりました。」

言われた通り調理場の外へ急ぎ足で出て行くアスカ。ようやく1人になれたマナは安堵
の溜息を零し、シンジの朝食の用意を再開する。

も、もう嫌。
怖い・・・。

先日、自分に奴隷が付くことを告げられたマナは、必死で抵抗を試みたがその決定は覆
らなかった。奴隷どころか父親の力のお陰で醜い宮廷闘争にすら無縁の生活を明るく楽
しく送っていたのである。それが、突然周りを奴隷がうろうろし始めたのだ。

あんなのがうろついてたら・・・。
王様に何するかわからないじわ。
そうよ。できるだけ王様には近付けないようにしないと。
例えわたしに何かあっても、王様だけは・・・。

まさにマナの持つ奴隷のイメージは、下等で獰猛。感情を刺激しようものなら、見境無
く暴れ出す獣そのものであり、怖い存在以外の何者でもなかった。

「さっ、できたっと。今日は王様の好きな、数の子のにっころがしよ。」

綺麗に洗った大貴族の娘である自分でも使ったことがない様な豪華な器に食事を盛り付
け王室へ運ぶ。

調理場や洗濯場などの仕事に必要な部屋からマナやアスカの部屋までもが、王宮の中に
設置された為、この建物の中で1日のほとんどを過ごしている。霧島公が自分の娘を守
る為に取った配慮だったが、それにアスカもあやかる形となった状況だ。

ちょっと遅くなっちゃった。
急がなくちゃ。

アスカのことが気になりビクビクしながら料理を作っていた為、本来シンジの部屋へ行
くべき時間より少し送れている。マナはワゴンを押し急ぎ足で王室へ向かった。

ガラガラガラ。

押されるワゴンのキャスターが忙しなく音を奏で廊下を曲がって行く。それに続きマナ
が足の方向を変えた時、一気に重力から開放された感覚に捕らわれた。

「キャッ!!!」

ドサッ!
ガッシャーンっ!

大きな物音が耳に入ると同時に、腰に激痛を感じる。パチパチと目を開けると、床に横
たわってしまった自分の体の前には、モップを持ったアスカの姿と横倒しになっている
ワゴンが目に入って来る。

「申し訳ありませんっ! 大丈夫ですかっ!?」

「ひっ!」

モップを床にほおり投げ駆け寄って来るアスカ。マナは涙が出る程の痛みを腰に感じる
ものの、顔を真っ青にして大慌てで立ち上がる。

「だ、大丈夫っ!」

「すみません。ワックス掛けてて・・・。怪我とか・・・。」

「大丈夫だからっ!」

アスカから逃げる様に転がるワゴンの元へ走り、散らばった朝食を掻き集める。

「あっ、アタシがします。」

「いやっ!」

ワックス塗れになった朝食を拾い集めるマナの手伝いをしようとアスカも近付くが、マ
ナはその手を払い退け、青褪めた顔で壁に背中をくっつけ立ち上がった。

「あ、あの・・・アタシが片付けておきますから。」

「そ、そう・・・・じゃ、お願いっ!」

「はい。」

アスカのことを恐怖に満ちた目で見ていたマナは、その言葉を聞くと調理場の中へと逃
げ込んで行く。

「はぁ・・・。」

溜息をつきながら、シンジの元へ運ばれるはずであった、そして既に用済みとなってし
まった汚れた朝食を片付けるアスカ。

なんか・・・。
アタシみたい。

アスカはその朝食を全て片付け終わると、引き続きモップに力を込めて廊下の掃除を続
けるのだった。

<王室>

いつもよりかなり遅めの朝食をシンジは取っている。遅れた原因を不注意で転んでしま
ったとか必死で言い訳していたが、そんなことより今日もマナしか部屋に入って来てな
いことにがっかりする。

「あの・・・アスカは?」

「はい、只今お掃除で忙しいもので。」

「そう・・・。」

「どうかなさいました?」

「あのさ、アスカが掃除でマナが料理って役割なの?」

「そうですねぇ。彼女、お掃除上手いですし。」

「・・・そうなんだ。あ、あのさ?」

「はい?」

「マナもだけど、アスカも休憩ちゃんとしてる?」

「はい。お昼、王様がお仕事されている時は、洗濯くらいしかすることありませんから。」

「ならいいけど。」

ここにいれば安全であり酷い扱いを受けている様子もないみたいだが、そういう担当割
りになるとアスカとほとんど会えなくなる為、がっかりである。

「今日は岡山まで行かなくちゃいけないから、そろそろ出るよ。」

「あっ、申し訳ありません。お食事が遅れたばっかりに。」

時間の関係で朝食を半分くらいしか食べることができない。マナは申し訳なさそうに、
腰を折って謝罪する。

「そんなことより、今日はかなり遅くなると思うから寝ててね。帰れないかもしれない
  し。」

「かしこまりました。」

日本対ゼーレの絶対防衛ラインと定めている岡山と兵庫の県境迄、要塞などの様子を確
認しに行く為、日帰りではあるが遅くなると予想される。シンジは再度寝ている様にと
念を押して、王宮を出て行った。

<倉庫>

廊下の掃除が終わったアスカは、バケツやモップなどを片付けに倉庫までやって来てい
た。

廊下も綺麗になったし。
これで、シンジも気持ち良く仕事できるかな。

ガタガタと倉庫に掃除用具を片付け終わり、午前中の仕事も終わって一息付きながら出
て行こうとした時、鍬を持った男性が入れ違いに倉庫に入って来て当たりそうになる。

「あっ、失礼しました。」

「おっと。なんだ? お前みたいなのも、ここで働かせて頂けてるのか?」

「・・・・・・はい。」

「王宮となると違うねぇ。いやぁ、わしは平民だが、貧乏でなぁ。お世辞並べ立てて、
  ここで使って貰えるようになったんでぇ。」

「そうですか。」

「おめぇも、そうだろう。ここにいりゃぁ、飯に困らねぇもんなぁ。わはははは。」

「失礼します。」

「おぅっ! 金の為でぇ。せいぜいクビにならねぇようになぁ。」

倉庫を出たアスカは、自分が磨き上げた廊下を歩きながら、シンジのいない王宮の中を
見渡す。

違う。
そんなんじゃない。
アタシはっ!

アタシはついて行きたい。
王様なんかじゃなくてもいい。ついて行きたい。

身分不相応な煌びやかな宮殿の中を歩く薄汚れた自分。既にシンジは光り輝く雲の上へ
行ってしまった。

自分の体を眺めると、シンジの傍にいることができること自体おかしいことがありあり
とわかる。

でも・・・アタシは・・・。

ブルブルとクビを振り、頬を叩いて自分を叱咤するアスカ。

こんなアタシにだって、なにかできることがあるはずよっ。
シンジの為になにか・・・。
まだ戦いは続くのよね。
そうだっ!

何かを思い立ったアスカは少し上向き加減に顔を上げると、勢い良く廊下を駆けて行っ
た。

<マナの部屋>

シンジが出て行った後は若干の仕事が残っているが、大した仕事があるわけでもなく、
マナは好きな詩集を自室で手にし寛いでいた。

今日は岡山の方まで行かれるとのことだけど。
大丈夫かしら。
あっちは、今危険なのでは・・・。

できることならシンジにはあまり危険なことはして欲しくないが、恐れ多くも王に対し
て意見などできるはずもなく、マナは心を痛める。

コンコン。

扉をノックする音が聞こえる。マナは詩集に花柄のしおりを挟み、ちらりと鏡で自分の
身なりをチェックして椅子を立ち上がる。

「はい?」

「マナ様。廊下のお掃除終わりました。」

「うっ・・・。」

アスカである。なにはさておき真っ先に部屋に鍵を掛けてから、息を吸い込み対応を考
える。

「き、休憩でもしてて。」

「あの・・・。」

「なにっ?」

早くさっさと立ち去って欲しいのに、扉の向こうから動こうとしないアスカにイライラ
してくる。

「王様が、戦場の方へ行かれたと聞きましたけど?」

「それがっ?」

「これからも行かれることがあるのでしょうか?」

「あるかもしれないけど、あなたには関係ないでしょ?」

「あの・・・王様の武器の手入れをしたいんですけど・・・。」

「武器? どうして?」

「もし戦闘になったら・・・。その時の為に。」

武器?
何を言ってるの・・・。女性が武器だなんて・・・。
やっぱり奴隷は野蛮。

マナは再度扉のノブに視線を落とし、鍵が掛かっていてアスカが入って来れないことを
確認する。これで安心して喋れる。

「王様に武器は必要ないでしょ。王様ご自身が戦ったりするはずないもの。」

「でも、いざとなったら、戦わなくてはいけませんから。」

「な、なんてことを言うのっ!?」

「はいっ?」

扉を挟んでの会話なので、相手の表情はわからないが、突然マナが声を張り上げたので
アスカは驚いて1トーン高い声を上げてしまう。

「あなたは、王様が戦闘に巻き込まれることを願ってるのっ!?」

「い、いえ・・・。ただ、もしものことを・・・。」

「もしもの時は従者が守るわっ。不吉なことを言わないでっ!」

「も、申し訳ありません。」

マナと顔を合わせてから何日か経つが、これ程大声を上げて叱咤されたことなどなかっ
た。アスカは、どう対応すればよいのかわからなくなり平謝りする。

「休憩時間でしょ。好きなことをしてたらいいじゃない。」

「では、武器の手入れだけでもさせて頂きたいと・・・。」

「はぁ・・・。」

さすがに少し呆れ気味になるマナ。

「倉庫の向こうにあるわ。休憩時間だから好きにすればいいわ。」

「はいっ。申し訳ありませんでした。」

部屋の外の廊下でアスカが遠退いて行く足音がどんどん小さくなっていく。マナはそっ
と扉を開けて外を確認すると、ふぅと息を漏らしやわらかいソファーに腰を下ろした。

でも・・・・。

遠くを見る目で窓から西の空を眺める。この空の向こうのどの辺りに今シンジはいるの
だろうか。

今日は危険な所まで行かれているのね。
どうか何事もありませんように・・・。

「はぁ。」

シンジのことが心配な為か、想い人が遠くへ行ってしまっている為か、再び小さな溜息
を漏らす。

大丈夫。
たくさんの従者の方がついて行かれたんだもの。

そう自分を納得させると冷めた紅茶を入れ直し、読み掛けていた詩集を手に昼の一時の
時間を平和に過すマナであった。

<会議室>

その日、闇夜の空をうっすら月明かりが照らし始めた頃、思っていたより早くシンジは
宮殿へと戻って来ていた。

「それは、本当なのっ!!?」

「いかがなさいますか?」

「そんなの決まってるじゃないかっ!」

王の帰りを知り急ぎ用意したマナの夕食も、シンジがここの会議室に篭りっきりになり、
手をつけられぬまま放置され冷たくなっている。

まさに今、またも時の歯車が音を立てて回り始めていた。まるで歴史の1ページが捲ら
れる瞬間と言わんばかりの事体が勃発していたのだ。

「ミサト様は、そうおおせです。直筆の書面もございます。」

「じゃぁ、もう戦わなくていいんだねっ。」

シンジが戻って来るより少し前。宮殿に使者としてやって来たケンスケは、シンジを前
にし丁寧な物言いでミサトの言葉を伝える。

「お待ちくださいっ!」

「どうしたのさっ?」

「そう軽々しく承諾して宜しいのですか?」

「ケンスケが嘘をついてるって言いたいの?」

「そうではございません。むしろ当然の結果でありましょう。」

「なら・・・」

「私が言いたいのは、今更停戦などムシが良過ぎないかということです。」

「これで、内乱が終わるんじゃないかっ。」

「和平など結ばずとも、じきに終わりますっ! 我々の勝利でっ!」

「ゼーレが責めて来てるんだっ。日本人同士で争っててどうするんだよっ!」

「ですから、争いは既に決着がついております。和平の必要はありませんっ!」

2人の言い争いを前に、懇願する様な目でシンジを見続けるケンスケ。こうなっては、
シンジに頼るしか彼に残された道はない。

「既に関西の革命軍も天王山へ追い込み、四方から火を掛けております。数日で全滅す
  ること間違いありませんっ!」

「なっ! なんてことするんだっ!!!」

「ですから、既に我々は勝っているのですっ!」

「勝敗が決まってるなら、これ以上攻撃することなんかないじゃないかっ!」

「詰めを怠ってはなりませぬ。」

「やめさせるっ!」

「なりませぬっ!」

「そんなのおかしいよっ! なんで無駄な殺し合いするんだよっ! 停戦すればいいこと
  じゃないかっ!」

「王・・・・・・。」

シンジはそれ以上霧島公の言葉を聞くつもりもなく、天王山を攻めている加持に停戦の
伝令を飛ばした。

1時間と少し。

「王っ! 停戦とはまことですかっ!」

前線で戦っていた加持が、ことの重大さを知り直々に戻って来る。自分の目,耳で確認
しなければならない程の重要事項である。

「加持さん。これがミサトさんの手紙なんだ。」

「加持将軍は、いかがお考えになりますか?」

急ぎ戻って来た加持は、シンジと霧島公の両名を前にしながら、ミサトからの書面に目
を通す。

「ふむ・・・嘘ではなかろう。で、王は停戦を決意されたのですな。」

「これ以上、無駄な血は流したくないんだ。」

「どういう結果になるかは、神のみぞ知るといったところか・・・。」

「どういうことです?」

「未来のことはわからないってことさ。だが未来を選択するかは、王、あなただ。それ
  が王の権利であり、責任だ。」

「・・・・・・・ぼくは、平和を望みたい。」

「宜しいのですな。」

「うん。」

話の流れが和平の道に傾き始めた為、今更和平などしなくとも勝利を確信している霧島
公はたまらず口を挟んでくる。

「加持殿っ! 何をおっしゃられるっ! 今からの停戦などっ!」

「立場をわきまえぬかっ! たかだか1家臣の貴族が、王の決定に逆らうかっ!!」

「・・・・・・はっ!」

加持の怒声を耳にし、即座に恐縮する霧島公。

「王の決定であるっ!」

「はっ!」

「だが、今はまだ戦闘中だ。戦場を預けられる者もおらんのでな、俺は急ぎ戻る。後は
  頼んだぞ。」

事情だけ確認を取った加持は、再び馬に乗り急ぎ戦場へと駆け出して行く。それを見送
ったシンジは、ケンスケを控えさせている別室へと入って行く。

「ケンスケくん。停戦することになったよ。」

「ほ、本当に御座いますかっ!」

「これで、平和に1歩近付いたね。」

「ありがとうございますっ! 以前に助けていただいた時も・・・今回も・・・俺・・・。」

「みんなで平和な日本を作ろうよ。」

「はいっ! では、すぐにミサト様に伝えに戻ります。」

「今日くらい、ゆっくりしていったらいいのに。」

「いえ、ミサト様にもお世話になっていますから。」

「そう・・・。わかったよ。」

ケンスケにはケンスケの事情があるのだろう。無理に引き止めるのも悪いかと思い、第
3新東京市迄の食料や衣服を持たせると、宮殿の門前迄出て見送った。

<宮殿>

ケンスケを見送った後も、しばらく門前で空を見上げたまま1人佇むシンジ。

「よしっ!」

まずは内乱が治まりつつあることに慶びが込み上げて来る。片手に握り拳を作り、これ
からの日本のことを考える。

後はゼーレだな。
岡山の要塞はかなりのものだった。
日本さえ統一してしまえば、なんとかあそこで・・・。

その時、地面を揺さ振る地響きが地震の様に響き渡った。何事かと耳を傾けると、馬の
樋爪の音である。

「なんだっ?」

「逃げろっ!」

「加持さんっ!!!」

「敵がすぐそこまで来ているっ!!!!」

宮殿の門の前で立っていたシンジは、猛烈な速度で馬を走らせ近付いて来る加持を、何
がなんだかわからずただ見詰める。

「急げっ!」

「あっ!」

真横まで走り寄って来た加持は、シンジの手を引き上げ馬に乗せると宮殿の中へ一緒に
馬を走らせてきた幾人かの兵士と共に雪崩れ込む。

「何があったんですかっ!」

「俺がいない間に、敵が捨て身の攻撃をしてきた様だ。」

「じゃ、みんなはっ。」

「わからん。俺も敗走してくる我が軍と接触した。」

「そんな・・・。ぼくが加持さんを呼び戻しちゃったからだ・・・。」

「戻ったのは俺の意思だ。未来のことなんて神様にしかわからないさ。俺も敵が窮鼠と
  化すとは思ってなかった。」

「でも・・・。」

「シンジくんっ! 今、日本の最大のガンはなんだっ? 攻めて来ている革命軍かっ?」

「・・・・・・ゼーレ。」

「この場の混乱は任せろ。第3新東京市へ行けっ!」

「ぼくだけ、逃げれないよっ!」

「今だから逃げれるんだっ!」

「イヤだっ! ぼくのせいなんだっ! ぼくも戦うっ!」

「霧島公と揉めるわけにはいかんのだ。霧島公と争わずに、ここを脱出できるのは今し
  かないっ! 混乱に乗じて、彼女を連れて行けっ!」

「アスカ!?」

「既に大勢は決した。王の名前はもうここには必要無い。好きな女を守れ。」

「アスカ・・・わかりましたっ! 行って来ますっ!」

「外は、猫を噛む鼠だらけだ。気をつけてな。」

「はいっ!」

馬に乗り、王宮の前までシンジを送った加持は、馬の方向を180度変え、男臭い笑み
を浮かべる。

「加持さんっ! ご無事でっ!」

「シンジくんは、葛城ミサトに会ったことがあるんだったな。」

「はっ!?」

「いい女か?」

「美人ですけど。」

「なら、会う迄は死ねないな。いざっ!」

加持は馬に鞭打つと、巨大な剣を手に再び王宮から走り出て行った。既に宮殿の中は戦
いなどに参加したことのない貴族達が、この世の終わりの様な悲鳴を上げながら、タキ
シードやドレス姿で右往左往している。敵は、王宮の周りを取り囲み始め一部は宮殿内
に乱入して来ていた。

この償いは、日本を平和にしてっ!

今回のことはシンジ1人に責任があるわけではなかったが、切っ掛けを作った1人であ
ることに違いはない。何が悪かったのか・・・その反省はこの先の長い旅で考よう。今、
自分がなすべきことは、一刻も早くアスカと父のいたあの場所へ!

「王様っ!」

王宮に駆け込むと、自分を待ちわびていたかの様なマナの姿。

「いざという時の為にシェルターがありますっ! こちらへっ!」

「ぼくはいい。君は早くそこへっ!」

「何をおっしゃるのですっ! 外をごらんくださいっ! 恐ろしいことに・・・。」

「マナ、今迄ありがとう。シェルターに早く行くんだ。ぼくの剣はっ!?」

「駄目ですっ! 王様をそんな危険な目に合わせるわけにはいきませんっ! どうかわた
  しと一緒にっ!」

「ぼくの剣はどこなんだっ!」

「いけませんっ! お命が危のう御座いますっ! お願いですから、わたしとっ!」

ドドーーーーーーーーーーーン!

その時、大きな火薬の音がし、防衛ラインを抜けた敵兵の3人が大きな斧を手に、王宮
に飛び込んで来た。

「キャーーーーーッ! 王様、早くっ!」

必死で逃げ様とシンジの手を引くマナ。

「マナっ! 逃げてっ!」

「王がいたぞーーっ!」
「殺せーーーっ!」

躍り掛かって来る敵。

「イヤーーーーーッ!」

マナを守る様に立ち塞がりガンとしてシンジは動かない。

いてもたってもいられず、マナは逃げ出す。

「王様ーーーーーーーーーーっ!」

悲鳴を上げるマナ。

「このーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」

シンジとて、あの加持に訓練を何年も受けたのだ。武器がないのは致命的ではあるが、
だからと言ってあっさりとやられる程貧弱でもない。

「ぶった切れっ!!」
「殺せーーーっ!」

敵と素手で取っ組み合いながら、必死で応戦する。しかし相手は、武器を持った3人の
兵士。勝負は目に見えている。

ドガンっ!

斧を避けた隙を狙われ、蹴り飛ばされ壁に叩きつけられる。

「王様っ! 王様っ! 王様ーーーーーーーーっ!」

廊下の向こうからマナの悲鳴が聞こえる。

「とどめだッ!!!!」

敵が斧を振り被り迫る。

「シンジッ!! 受け取ってッ!!」

悲鳴を上げているマナの横を駆け抜ける一陣の紅い風。

それと同時に、シンジの横に剣が投げ付けられた。

「よくもーーーっ! こんちくしょーーーーーーーーっ!!!!!」

ガキンっ!

倒れるシンジの前に身を呈して立ち塞がり、自分の剣で敵の斧を受け止める。

「アスカっ!」

「うりゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!」

ガキンガキンっ!

剣を振り翳し敵に向かって行くアスカ。

「よしっ!」

剣を手にシンジが跳ね起きる。

「シンジっ! こいつら、でかい癖に弱いわっ!」

「剣さえあればっ!」

「アスカさえいればっ! でしょっ!?」

「そうだったっ! アスカさえいればっ!」

ガキンっ! ガキンっ!

互いに剣を手に、一糸乱れぬ動きで王宮から敵を追い詰めるシンジとアスカのユニゾン。

「アスカっ! ペンペンはっ!」

「馬小屋っ!」

「東京市へ行くっ! アスカもっ!」

「決まってるじゃんっ!」

ズガンっ! ズガンっ! バーーンっ!

敵3人を王宮から叩き出す。

その勢いのまま馬小屋へ走り去るシンジとアスカ。

「・・・・・・。」

廊下にひとり佇むマナの下へ、騒ぎを聞き付けた護衛の兵士と貴族達が駆け寄ってくる。

「マナ様、早くシェルターへ。」

「わたし・・・。」

「マナ様っ!」

「わたし・・・。」

従者に周りを固められシェルターへ向かうマナは、だんだんと暗くなってくる地下の廊
下の床を見ながら一言呟いた。

「身分不相応だったのは・・・。」

<荷馬車>

ペンペンに荷馬車を繋ぎ、混乱の中戦場と化した宮殿の外へ飛び出して行く。

「手綱頼むよっ!」

「うんっ!」

自分の剣とアスカの剣を両手に持ち荷馬車の前に立つ。

シンジが敵を蹴散らし、アスカが馬を走らせる。

「アタシっ! 豪華な王宮より、荷馬車の方がいいっ!」

「敵だっ!」

「行っくわよーーーっ!!!!」

「うぉおおーーーーっ!!!!」

最後の戦火の炎が燃える関西の町を、薄汚れた荷馬車が失踪する。

未来に光輝く4つの瞳を乗せて。

To Be Continued.
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