<兵庫の最前線>

アメリカを制圧するゼーレは、アジア利権獲得の拠点として日本,台湾,韓国に睨みを
きかせていた。そんな情勢下に勃発した日本の内乱は、ゼーレにとって好都合の事態と
なり、時をおかずして両国の間に戦争が勃発。

それに対し日本は、第二次世界大戦の前に発生した日中戦争時の中国と同様に、内乱の
沈静化へと向かう。それは、皮肉にも外敵の存在が少なからず影響したことは否めない。

予想以上に早い内乱の沈静化。焦りを覚えゼーレは、やや強引ではあるものの一気に決
戦を仕掛けようとしていた。セカンドインパクト以降、極端に貴重となった化石資源の
蓄積のほとんどを消費させようとも・・・そして、それ以上に貴重なものを消費しよう
ともこの戦いの勝利にそれだけの価値を見出していた。

「あと2台、なんとかしたいね。」

「もう、ゲリラ戦は通じないわ。」

「だからさ。ここで敵の戦車を破壊すれば、それなりに報酬が期待できると思わないか
  い?」

「危険・・・。誰も付いてこないわ。」

「高額の前金を貰ったら、なんとかなるものさ。」

「そう・・・。でも、軍が出してくれるかしら?」

「出すさ。少しでも勝率が上がる可能性があるんだからね。」

敵の戦車は残り7台、これから作戦行動に出ようとしている味方は5台。しかも、即席
の電動駆動である為、砲撃力は五分でも機動力が全く違う。せめて数だけでも、5対5
になれば勝率もかなり違う。

「僕が話し合いをしてくるさ。この間の実績があるから、上手くいくと思うけどね。」

「私は、参加するメンバを集めておくわ。」

「任せるよ。」

傭兵の部隊の中で最高の実績を上げることに成功し、軍からも傭兵からもそれなりの信
頼を勝ち得たカヲルは、そのアドバンテージを元に終幕に近いこの戦乱で最後の利益を
考えていた。

<大阪仮設宮殿>

兵庫から撤退を余儀なくされ、大阪に仮設宮殿を構えた芦屋を中心とする貴族達は、決
戦を前に作戦を立てていた。

「それは無理だ。葛城。」

「こちらには、機動力がありません。それを補うには奇襲しかなく、この方法が敵に接
  近する時間が最も最小であり、また敵の意表を突けるという一点においても効果が期
  待できます。」

「さすがは、あれだけの革命を一夜にして成功させただけのことはある・・・が、俺は
  認めることはできん。効果とは成功して初めて出るものだ。リスクが高すぎる。」

「成功させます。」

「ダメモトでは通じん。今回の作戦、是が非でも成功させねば未来が失われる。ハイリ
  スク過ぎる。」

「加持将軍っ!」

「駄目だ。」

ミサトの立案した作戦とは、六甲の傾斜を利用することにより機動力に劣る自軍の戦車
を高速移動させ、敵に突撃し奇襲を掛けるというものだった。

「加持将軍程の人なら、きっとわかって頂けると思っていたのですが・・・。期待外れ
  です。」

「ちょっと待ってくれ。どんな目で見ていたのか知らんが、そこまで攻めるのが好きと
  いうわけではないぞ。ま、ベッドの中では別だがな・・・ははは。」

それまで作戦会議をしていた時とは裏腹に、男臭い笑みを浮かべてミサトに視線を送る
加持。だが、あっさりとその視線は叩き落とされる。

「では、わたし以上に有効な作戦を提示して下さいっ! より説得力のある案が無けれ
  ば、反論されても引き下がれませんっ!」

「ふむ・・・。」

しばし口元に手を当て考え込む加持。だが、こちらの劣勢を補いつつ敵を打破できる案
など有れば、最初から出している。それが無いからこうして会議を開いているのだ。

「ふむ・・・。」

「やはり、わたしの案しか無いのではないですかっ!?」

「いや・・・。ある。」

半信半疑、もしくはそんな案があるのなら聞いてみたいものだというような表情をして
ミサトは加持を見返す。

「葛城の案を半分採用させて貰おうか。」

「と、いうと?」

「六甲の上から奇襲をかける部隊を俺が預かる。戦車は2台あればよかろう。敵が混乱
  した所へ、葛城の部隊が海岸方向から奇襲を掛ける。挟撃の形となり効果も期待でき
  る。」

「それならば、一気に5台で奇襲を掛けた方が効果がありますっ! 海岸方向からだと、
  移動速度もさほど出ませんっ!」

「その分、安全だ。」

「しかしっ!」

「六甲の傾斜を戦車で降りる、いや落下するに等しい。下方の敵から砲撃されれば逃げ
  られない。失敗した場合でも、全滅させるわけにはいかん。」

「・・・・・・。」

「奇襲であれば2台で効果は出る。もし失敗した時でも、反対方向に3台が待機してい
  ればリカバリできるじゃないか。」

「それならば、わたしが奇襲部隊にっ!」

「駄目だ。」

「立案したのはわたしですっ! わたしにその権利がっ・・・。」

加持はいたずらっぽい目で、ミサトを見返す。

「状況が危険になっても、海岸方面じゃ逃げれない。六甲なら有馬へ逃げれるからな。
  悪いが、俺が山へ上らせて貰う。こればっかりは、譲れんさ。ハハハ。」

「・・・・・・。」

加持はおどけた笑いを響かせながら、会議は終了したとばかりに手を振り部下と共に会
議室を出て行く。その後ろ姿を、ミサトはじっと睨み付けているのだった。

<ミサトの部屋>

戦車と共に芦屋へ来たミサトには、それなりに広い部屋が割り当てられた。ある意味、
敗軍の将たる彼女には過大な対応である。ゼーレを前に少しでも有能な人材を利用しな
ければ未来がなくなる日本の現状が現れている、1つの事例と言れるかもしれない。

「いかがでしたか?」

「わたし達の組織のことを考えて、大きな功績を残そうとしたんだけどね。加持将軍に
  いいとこ全部持って行かれたって感じだわ。」

「仕方ないでしょう。あまり無理を通せる立場ではありませんし。」

「そうね。」

ミサトに同行してきた日向と、同じ革命軍としての立場でその後しばらく今後の作戦を
立てる。

「とにかく、いざ戦闘になったら混乱を極めるわ。そこでより多くの敵を粉砕して、今
  後のわたし達の立場を有利に持っていくしかないわね。」

「ですが、あまりご無理はなさらないで下さい。」

「大丈夫。心配しなくてもいいわ。」

「加持将軍は、いざとなったら本当に逃げるのでしょうか?」

「さぁね。ま、そうなってくれた方が、わたし達には都合がいいけどね。」

「そうですね。」

「このまま王朝軍だけが支配する世の中にするものですかっ!」

革命は失敗したものの、まだ全てを失ったわけではない。残された道は、少しでも碇王
朝の内部に根を生やし、今後に備えることであった。

<喫茶室>

作戦会議の後、加持は霧島公と喫茶室でコーヒーを酌み交わしていた。酒は嫌いではな
いが、さすがに今はまずいのでコーヒーだ。

「あの奴隷の成り上がりを捨て駒に、突撃させれば良かったのではないですかな?」

「女性を先陣に立たせるのは、どうもね。ははは。」

「こんな時に、フェミニストもないでしょうに・・・。」

少々機嫌の良くない顔で、加持に愚痴を零す霧島公。

「今後は、彼女のような人材こそ必要だ。それに・・・そんなこと、王が許すと思えん
  しな。」

「王と言えば、無事に帝都に辿り付かれたそうでなによりでした。護衛も無しに、ここ
  を出て行かれた時は、肝を冷やしましたよ。なんでも、加持将軍が逃げる様に助言さ
  れたとか?」

「なんのことだ?」

「そう伺いましたが。」

「さぁ・・・。」

視線をあらぬ方向に向け、知らぬ存ぜぬを決め込む加持。霧島公もそれ以上この話題に
突っ込もうとはせず、今目の前にある問題に話題を変える。

「で、加持将軍として、勝算は如何程で?」

「五分五分といったところか?」

「半分は勝てると?」

「五分五分というのは、わからん時にも使われることが多いものだがね。コインで占っ
  てみるか?」

ポケットから1枚のコインを取り出し、ピンと宙高く指で弾き上げそれを手の平と手の
甲で挟み取る。

「表なら、我軍の勝利だ。」

「国の運命とコインが同レベルとは・・・。」

「所詮、戦いなんてそんなものさ。おっと、これは。」

手を開き驚きの表情を浮かべる加持。そこに見えたのはコインの表面であった。

<第3新東京市>

ゼーレとの決戦の勝利を信じ、治安の回復にシンジは取り掛かっていた。幼い頃から教
育は受けてはきたものの、まさか14歳にして国の政策に取り組むことになるとは思っ
ていなかった。今は、書籍や専門家の意見を参考に政策を打ち出すしかない。

「ご飯作ったんだけど、食べる?」

「ごめん、先食べてて。この書類を今日中に内政官に提出しなくちゃいけないんだ。」

「そう。じゃ、待ってる。」

「いいよ。遅くなるからさ。先食べててよ。」

「あっ、じゃさ。なにか手伝えることないかな?」

「うーん・・・。えっと・・・なにか思い付いたらお願いするよ。」

にこりと微笑み掛けるシンジの笑顔に、『うん』と肯き笑みを返したアスカは、邪魔に
ならないように口を閉じ静かに近くのソファーに腰を降ろす。目の前には一心不乱に書
類を作成するシンジの姿。

コンコン。

扉をノックする音が聞こえてきた。人の取り次ぎくらいは自分にもできるとばかりに、
即座に席を立つと扉を開ける。

「はい。」

「来客の方が来られていますが。」

「どちら様でしょうか?」

「伊吹様のお使いの方ということです。」

「そうですか。少々お待ち下さい。王様? いかがなさいますか?」

こうなると自分だけでは判断できない。振り返りこちらを見ているシンジに、判断を任
せることにする。

「マヤさんの? すぐ通して貰えるかな?」

「畏まりました。」

伝言を伝えに来た人物が退室してから数分後、マヤの使いという30歳前後の男性が、
王室へと招かれ入って来る。

「失礼致します。」

「マヤさんが、どうかしたんですか?」

「ようやく、兵器がほぼ完成致しましたので、後日拝見して頂きたいとのことです。」

「兵器? でも、もうすぐ戦争も終わるし。」

「この兵器は、先帝の命令であの赤木博士が手掛けられていたものです。今後の為にも
  ぜひ1度。」

「父さんが・・・。どんな兵器なんです?」

「申し訳ありません。私は科学者ではありませんので・・・ご承諾して頂けましたら、
  そういった説明も含め後日。」

「わかりました。マヤさんにいつでも来て下さいと伝えて貰えますか?」

「畏まりました。ただいま急ピッチで準備を進めておられます。数日のうちに伊吹様が
  直接来られると思いますので、宜しくお願い致します。」

「うん。じゃ、マヤさんにも宜しく伝えて下さい。」

マヤの使いが退室すると、シンジは再び自分のデスクに戻り書類の作成に没頭する。政
策の実施が1日遅れれば、それだけ市民が長く辛い日々を過ごすことになる。

「あのさ、まだまだかかりそうだから、先食べてたらいいよ。」

「いいの。待ってる。」

「それじゃ、アスカが・・・。いいやっ、先ご飯食べよっか。」

「えっ?」

「うん。そうしよ。折角アスカが作ってくれたんだからさ、あったかいうちに食べた方
  がいいもんね。」

「あ・・・でも。」

「さ、行くよ。」

戸惑うアスカの先に立ち、そそくさといつも食事をするテーブルがある部屋へ歩いてい
く。

「ごめん、シンジ。アタシ先食べるから・・・。やらなくちゃいけないこと、あるんで
  しょ?」

「キリないからね。わぁ、美味しそうだっ。これ、テーブルに運べばいいんだね。」

「シンジ・・・。」

準備されている料理を嬉しそうにテーブルに運ぶシンジに、アスカは何も言葉を返すこ
とができなかった。

<大阪仮設宮殿>

戦車格納庫破壊工作案を提示してきたカヲルを、加持は応接室へ招き入れ興味深い目で
シンジと同じ歳の少年に視線を固定していた。

「10000ゴールドで戦車2台を破壊さ。前金で3000。どうだい?」

「確実に破壊できるのか?」

「フィフティーフィフティーだね。だから前金がないと、メンバーが集まらないのさ。」

「五分五分か。」

苦笑する加持。直接対面するのは初めてだが、前回の功績のことは聞いている。成功す
ればかなり有利になるが、確実性が薄い。

「どうだろう? 同じ金額で戦車を使ってみないか?」

「戦車・・・?」

「あぁ。1台君に指揮して貰おう。」

「僕に戦車を預けるのかい? そこまで傭兵を信頼する理由がわからないよ。」

「ここは貴族ばかりでね、将軍の器がいない。次に、革命軍の連中に一群を纏めて指揮
  させると煩い連中がいてね。十分な理由だろう?」

そこまで聞き、微笑をたたえたまま赤い瞳を加持に向け、視線を突き刺すカヲル。

「で、10000ゴールドで僕を雇ってくれるんだね。」

「そうだ。」

「だけど、僕1人じゃ戦車は動かせないさ。せめて後1人いなくちゃね。」

「それは、君が探してくれ。」

「もう見つかってるさ。」

「なら、頼みたいがいいか?」

「無理さ。報酬無しで、動くとは思えないだろ?」

「10000ゴールドもあるだろう?」

「それは、僕の報酬さ。そうじゃなかったかい?」

「・・・・・・。」

他に今回の戦闘で信頼に値する実績を上げた人物がいない。今回の作戦には、ミサトは
必須であり、その為には反対派の貴族を納得させる必要がある。

足元を見られる形となったが、実力は信頼に値する。加持はカヲルの提案を承諾し、契
約を交わすことにした。

<兵庫最前線>

ゼーレに気付かれない様に、加持の部隊は六甲の尾根沿いに戦車2台を進ませる。一方
葛城部隊は海岸沿いぎりぎりを進行する。

加持将軍・・・。
何処迄も手柄を1人占めする気ねっ。

革命軍で固めていた海岸線進行部隊にカヲルを入れられ、ミサトは加持に対する不信感
を抱きつつ戦車に乗り込み出撃していた。

この鉄の固まり、あっついわねぇ。
なんとかなんないのかしら。

さすがに周りには、ミサトの指揮に従う男性の兵士が数名乗り込んでいるので、裸にな
るわけにはいかないが、胸のあたりを大きく開けて手でパタパタと仰ぐと、汗が流れる
肌が冷やされて気持ち良い。

上手くいけばこれが最後の戦闘。
ここで功績を上げなければ・・・。
今度は内部から、共和主義の根を広げてやるっ!

そのミサトの前方を進むは、日向が指揮する戦車。そして後方からはカヲルとレイが乗
り込む戦車が3機列を作り進行する。

「全額、前金で貰えたわ。負けたら、返さなくてはいけないのかしら。」

戦車を操縦していたレイが、意外な顔でカヲルに雑談を持ちかける。

「負けた時は、返す所もなくなってるさ。こんな金額を出したのも、ヤケになってるの
  かもね。」

「勝てるの?」

「どっちでもいいさ。報酬はもう受け取ったんだからね。」

「なら、今から逃げる?」

「勝った時に困るよ。するべきことはするさ。」

今回の報酬も既に黄金に変えてある。碇政権,ゼーレのどちらが勝とうとも、当面生活
に困ることはないだろう。カヲルは、今回の作戦で傭兵から足を洗おうと考えながら、
決戦場へと向かう。

「加持将軍。敵軍見えました。7台全機が隊列を成し、2号線を進撃してきます。」

「情報通りだな。Xポイント通過予測時間は?」

「1315前後かと。」

「後は、彼女達が動いてくれるかだな。」

六甲の尾根から見える敵の戦車部隊。

山林に隠れ傾斜を降下し、敵に気付かれてから接触まで30秒弱という計算。

その間にこちらへの迎撃態勢を整えられても、背後には葛城部隊がいる。

「上手くやってくれるといいんだが。」

「将軍っ! 敵、Xポイント通過っ!」

日本の運命を握る決戦。

眼下に見える敵部隊目掛け手を振り下ろす。

「出撃っ!」

加持の雄叫び。

木々を薙ぎ倒し2台の戦車が降下する。

雷の如く。

<第3新東京市>

兵庫での決戦から2日後、1騎の早馬が王宮に跳び込んで来た。

その知らせを聞き、宮殿から駆け出して行くシンジ。

「ミ、ミサトさんっ!?」

「陛下っ!」

その早馬に乗っていたのは、伝令の兵士ではなくミサト本人であった。

「ミサトさんが、どうしてっ? 戦闘はどうなったんですっ!?」

「我軍の勝利でした。敵は大きく退いています。」

「そ、そうですかっ・・・。」

ほっと胸を撫で下ろす。

「ですが・・・ですが・・・。」

「どうしたの?」

「加持将軍が、命を落とされました・・・。」

「なっ!!!!! なんだってっ!!!!!」

「わたしを・・・わたしを・・・。うっ・・・。」

                        ●

2日前、加持は予定通りに敵軍に六甲から突撃を慣行した。だが、功を焦ったミサトが
加持と敵が接触するより早くに動いてしまった。

「レイっ! 下がれっ!」

「はいっ!」

敵7台の猛攻撃を受けることになった3台の海岸部隊。同じ革命軍であった日向は、ミ
サトに続き突撃したが、さすがにカヲルはその状況での突撃はできなかった。

「まずいことになったね。右翼に回り込もう。」

「間に合わないわ。」

「このまま直進しても、意味なく命がなくなるんじゃないかい?」

「ええ。」

「加持将軍と、息を合わせよう。葛城さんが少しの間持ちこたえれたら、助けられるさ。」

「でも、加持将軍がわたし達と同軸上に降下してくるかしら?」

「大丈夫さ。あの人なら。」

カヲルの読みは正しかった。2号線を横軸に右へ右へ押される葛城部隊に合わせ、加持
は強引に進路を捻じ曲げ、敵との接触ポイントを合わせて来た。

その頃、敵の猛攻撃を一身に受けることとなったミサトは、生死の淵を彷徨い焦ってい
た。

「くっ! こんなとこでっ! 攻撃よっ!」

「損傷率が限界を超えていますっ! 持ちませんっ!」

「逃げれる状況だと思ってるのっ!」

ズドーーーーーーーンっ!

「日向機、炎上っ!」

「日向くんっ!」

「敵接近っ! 包囲されますっ!」

「ちくしょーっ! ありったけの弾撃ちなさいっ!」

ズガンッ! ズガンっ! ズガンっ!

敵2台撃破。

引き換えに、日向機を破壊されミサトの戦車もキャタピラを粉砕され戦闘不能に陥る。

「ここまでかっ!」

ズドーーーーーーーンっ!!!

前面から迫って来ていた敵戦車が粉砕。

加持の部隊2台の戦車と、逆サイドからカヲルの挟撃である。

「脱出するわよっ!」

「ハッチ開きませんっ!」

「ちっ! 無理矢理にでもこじ開けてっ!」

「はいっ!」

加持とカヲルの砲撃の隙間をすり抜け、敵2台がミサトの戦車に迫る。

同乗していた兵士が、ハッチを叩き開けているが、筐体が歪んでおりビクともしない。

「開きませんっ!」

「砲撃っ!」

「軸が曲がってますっ! 撃てませんっ!」

「どきなさいっ!」

敵が眼前まで迫る。

「このーーーーっ!!」

戦車の窓から拳銃で反撃するも、効果があろうはずもない。

「くっ!」

目を閉じるミサト。

ズドーーン!!! ズドーーーン!!!

強烈な爆発の熱風がミサトの顔を刺激した。

「なにっ!?」

目を開けると、眼前に迫る戦車を右方向から砲撃しつつ全速力で接近する戦車。

その戦車ハッチから、次々と兵士が飛び降りている。

「何をっ!?」

ズガーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!

進路軸を正確に合わせて突撃する戦車。

激突。

炎上。

「将軍ーーーーーーーーーーっ!!!!」

ハッチから飛び降りた兵士数人が、叫び駆け寄って来ている。

兵士達は、強引に炎上する戦車のハッチを開けようとするが、火の勢いが強過ぎる為近
寄れない。

「将軍っ! 将軍っ!」

眼前で敵味方の戦車同士が重なり合い漠炎を上げている。

更に向こう側では、ミサトの戦車に意識を集中していた為か、両サイドから挟撃された
敵の戦車が、カヲルと加持部隊の戦車に粉砕されている。

「将軍・・・。」

力無くポツリと呟くミサト。

体中に火傷を追いながら、加持を救出しようとする兵士達を前に、ミサトは戦車の窓に
手を掛け、がっくりと膝を落とした。

わたしは・・・。

                        ●

ミサトの話を聞いたシンジは、ミサトの肩を掴みゆさゆさと揺する。

「嘘だろ? 嘘なんだろっ? ねーーーーーーっ! 加持さんがっ! 嘘だろっ!」

「わたしのせいです。わたしを守る為に・・・。」

「加持さん・・・そんなんじゃ、いくら勝ったって・・・くっ!」

今となっては唯一の肉親のような存在であった加持の死。あまりの衝撃に、それ以上の
報告を聞く余裕が無くなったシンジは、顔を伏せ宮殿の中へ走り込んで行く。

「加持将軍・・・。」

ミサトはシンジの後姿をその目に焼き付けながら、後から戦車に同乗していた兵士に聞
いた加持の遺言を噛み締める。

”これからは戦いの世ではなくなる。俺なんかより葛城のような人物が必要だ。葛城に、
  王を頼むと伝えてくれ。目指すところは、葛城も王も同じはずだ。”

頂いた命。
必ず陛下と共に、この国の為に・・・。

一方加持の訃報を知らされたシンジは、王室に飛び込むとテーブルに肘を付き頭を垂れ
項垂れていた。

「どうかしたの?」

「どうして・・・。」

「シンジ?」

「どうして、ぼくの大切な人はみんな・・・。」

「なにがあったの?」

「加持さんが。」

「えっ!? ま、まさか!!」

「ぼくを育ててくれた人達、誰もいなくなっちゃった・・・。」

愕然とするシンジに、何と声を掛けていいのかわからない。なにか口にしようと、ただ
言葉を捜して立ち尽くす。

「アスカっ!」

「な、なにっ!?」

「アスカはいなくなったりしないよねっ。」

「あったりまえじゃん。」

「もう、ぼくにはアスカしかいないんだ。」

「シンジ? ねぇ、聞いて。」

「もう、誰も・・・。」

「そんなことないわよ。シンジがこれまでに出会って来た人がいるじゃない。1人だな
  んてことない。」

「これまでに・・・カヲルくん。綾波・・・マナ・・・ミサトさん。」

「うん。」

「アスカのそういう前向きなとこ、好きだけど・・・でも、辛いよ。」

「うん。」

「ごめん・・・少しだけ。」

「うん。」

それからシンジは、まるで1人になるのを恐れるかのように、しばらくの間アスカの細
い体を抱きしめていた。

                        :
                        :
                        :

数日後。

ゼーレとの戦闘は、六甲での戦車戦での勝利を切っ掛けとして日本軍が有利になり、今
では敵を九州迄撤退させることに成功していた。

全てが好転し始め、加持の死から見掛け上立ち直ったシンジは、今迄以上に治安の回復
に力を注ぎ、これから新しい日本を作り出そうとしていた。

そんなある日。

「陛下っ!」

突然、ミサトが血相を変えて飛び込んで来た。

「どうしたの?」

「ゼーレが攻撃勧告をっ!」

「攻撃? だって、もうゼーレの軍は・・・。」

「あまりにも脆過ぎると思っていたのですがっ! 降伏しなければ空爆すると言って来
  ましたっ!」

「なんだってっ! やっぱり、飛行機を飛ばせるくらいのエネルギーが・・・。」

「問題はそこではありませんっ! N2があるようですっ!!!」

「なっ!! N2だってっ!! そんなもの、どうやってっ!!」

「まだ、ようやく1つ目の再開発に辿り着いたくらいでしょうが・・・。そんなものを
  落とされたら、日本は。」

「そうか。兵庫から撤退したのは、戦力温存の為に軍を引いたのか・・・。」

「応戦方法がございません。」

「降伏しろというのっ?」

「そうではないですが・・・応戦できないのも事実です。関西は焼け野原。ここに、N
   2など投下されれば、軍事面でも経済面でも戦闘不可能に陥ります。」

「・・・・・・降伏。返事はいつ迄に。」

「3日の猶予がございます。」

「そう。わかったよ。1つだけ、考えがあるんだ。」

このことは、兵の士気にもかかわり、市民に対しても大きな混乱を招く恐れがある為、
対応方法が決定する迄トップシークレットとなった。

更に数日が経過した。

洗濯室で、アスカはシンジのパジャマを洗っている。

最近、シンジの様子おかしいなぁ。
働き過ぎじゃないかしら?

ゼーレのことなど聞かされていないアスカは、様子のおかしいシンジのことを心配して
いた。

ゼーレもいなくなって、日本も平和になってきたし。
シンジが頑張ってる証拠ね。
みんなが笑って暮らせる世の中になってほしいなぁ。

パンパンと洗い終わった洗濯物の皺を伸ばし、物干し竿に干して行く。洗濯をし食事を
作り掃除をする。そして後はシンジの邪魔にならないようにしている。それが最近のア
スカの日課。

「あの? 惣流・アスカ・ラングレーさんでしょうか?」

「えっ!? はい、そうですが?」

突然背後から、白衣を来た男性に声を掛けられ振り返る。

「陛下の為に、少しお力になって頂けないでしょうか?」

「陛下? あっ! は、はいっ!」

「宜しいですね。」

「はいっ!」

シンジの力になること。思わず返事をしたアスカは、洗濯籠を置きその男性に付いて行
く。

シンジの役に立つ?
なんだろ?
でも、シンジの為にアタシでもなにかできるかもしれない。

「こちらです。」

アスカが連れてこられた所は、王宮の前に即席で作られたプレハブの様な建物だった。
白衣を来た男性は、扉を開けるとアスカを招き入れた。

同時刻。

今回のゼーレに対することを相談しようと急ぎ招いたマヤが、王室へと訪れていた。

「陛下。ご用件を承り、急ぎ参りました。」

「あのさ、この間言ってた兵器についてだけど、詳しく聞きたいんだ。」

「はい。資料をお持ちしました。」

「N2からの空爆に対抗できるものなのかな?」

「勿論です。」

「ほんとっ!? でも、動かす燃料とかは?」

「先帝が赤木先輩に依頼し膨大な投資をされて研究されていたもので、化石燃料は必要
  ありません。電力と遺伝子工学を駆使した物にございます。」

「そうか・・・父さん、いつの間にそんなものを・・・。」

「ご存知だと思いますが?」

「え? 知らないよ?」

「チルドレンショーです。あれは表向きはショーですが、実際は兵器開発の実験です。」

「なんだってっ!!」

「MAGIを使い、膨大な予算をショーの為だけに投資するはずが御座いません。」

「ど、どういうことっ!」

「この兵器を動かすには、コアと呼ばれるものとシンクロする必要があるのです。その
  シンクロのデータを取る為に、チルドレンショーというものを開催しておりました。」

マヤはそう言いながら、先程カバンから取り出した書類を見せる。シンジはその書類に
パラパラと目を通し、コアに対する説明の部分で手を止めた。

「このコアって・・・。」

「今、陛下の為に作成した完成品を用意しております。」

「いや、だからコアってどうやって作るの?」

「そこに書いてある通りですが、なにか?」

「書いてあるって・・・人を。」

「いえ、人ではありません。奴隷を利用しますので。」

「利用ってっ! まさか、奴隷をコアにするんじゃないだろうなっ!!!!」

「その為のチルドレンですが?」

「ちょっと待てっ! 今完成品とか言わかなったかっ!」

「はい。表に急ぎ設置した研究施設で。エヴァンゲリオンの完成したものを、もう直ぐ
  ご覧頂けます。」

「まさかっ! コアまで作ってるんじゃっ!」

「はい。この間拝見したチルドレンで。」

「なにっ!!!!!!!!!!!!!」

次の瞬間、シンジはマヤに構っていることなどできず、走り出していた。

研究施設。

オレンジ色の液体を前に、アスカは男達に両手と頭を押さえつけられていた。

「イヤーーーーーーーーーーーーーーーっ!」

「おい。時間が無い。急げ。」

「はっ。このコアが、抵抗するもので。」

「助けてーーーーーーーーーーーっ!!! シンジーーーーーーーーーーーーーっ!」

「おいっ! 手伝ってやれっ。」

「はっ。」

強引に髪を引っ張られ、両手両足を雁字搦めにされたアスカは、そのままオレンジ色の
液体に押し込まれる。

「イヤーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」

ガラス張りの水槽の中に、オレンジ色のLCLと呼ばれる液体が満たされて行く。必死
でアスカは抵抗するが、頭の先まで液体に浸けられ水槽を叩けどビクともしない。

「始めろ。」

「はっ。」

科学者が計器のスイッチを入れると同時に、アスカは意識が遠くなっていくのを感じた。

シンジ・・・。
アタシもいなくなっちゃうよ。
ごめん、約束やぶっちゃった。

水槽の中から、アスカは姿を消し始める。

そして、その姿が完全になくなった時、アスカの意識もこの世から消え去っていた。

シンジは廊下を走っていた。

最愛のものが失われる恐怖と怒りを全身に感じて。

アスカっ!
アスカっ!
アスカっ!

「アスカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」

シンジの叫び声が、雷鳴のごとく響き渡った。

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星の煌き
Episode 14 -雷鳴-
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To Be Continued.
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