<ミサトのマンション>

2019年6月6日。

ここ葛城家では、使徒戦が終わってから毎年やっている家族のバースデイパーティーが
開かれていた。今日は、シンジの誕生日。

「「♪ハッピバースデーシンジー。♪ハッピバースデーシンジー。」」

暗くした部屋で、ケーキに立てられた蝋燭が醸し出す暖かい光の中、シンジを中心にお
祝いの歌をアスカとミサトが歌い、拍手を捧げる。

「ありがとう。」

「さっ、一気にやっちゃって。」

「うん。フーーーー。」

ケーキに18本並べられた細い蝋燭に、シンジが一気に息を吹き掛ける。灯火が消え暗
闇に包まれた部屋を、電灯の明かりが照らす。

「おめでとう。シンちゃん。」

「シンジも18ねぇ。あの頃と比べると、背も高くなっちゃてぇ。」

「そりゃ、4年も経ったら高くなるよ。」

「加持さんと訓練し始めてから、急に伸びたもんねぇ。伸び過ぎって気もするけど。だ
  いたい、アンタは食べ過ぎなのよ。」

「訓練してたら、お腹減るもん。」

シンジの身長は既にゲンドウを追い越し196センチになっていた。逆に出会った頃は、
シンジより少し背の高かったアスカは、150センチ代のまま成長が止まってしまい今
では胸くらいまでしかない。

「はい。プレゼント。」

「ありがとう。」

15歳の誕生日の時は、まだアスカとはぎくしゃくしていたので、プレゼントは無かっ
たが、この3年間は決まって真っ赤なラッピングに包まれたプレゼントをくれている。

「開けていい?」

「いいわよ。」

「なんだろう。」

「はやく、はやくぅ。」

プレゼントを貰った本人よりも嬉しそうに見ているアスカの前で、丁寧にラッピングが
開けられる。

「わぁ、腕時計だ。ん? メッセージ?」

「うん。」

「読んでいいかな?」

「いいわよ。」

包装紙で包まれていた赤い箱には腕時計が入っており、それと一緒にメッセージカード
が添えられていた。

”この先シンジと共に同じ時を刻んでいけることを祈って。

                                                    アスカ”

「なんか、照れるよ。」

「えへへぇ。」

しばらく見つめ合う2人の世界の蚊帳の外に追い出されていたミサトだったが、それで
も嬉しそうに今度は自分が用意したプレゼントを出してくる。

「はいはい。ごちそうさま。これはわたしからのプレゼントよん。」

「あっ。ありがとうございます。」

アスカに貰った腕時計を早速手にはめたシンジは、続いてミサトからのプレゼントを礼
を言いながら受け取る。

「開けていいですか?」

「もっち。アスカのプレゼント程嬉しくないでしょうけどねん。」

「当然よっ!」
「そんなことないですよ。」

2人が同時に正反対の言葉を発する。

「んっ? これは?」

ミサトからのプレゼントは、何か印刷された紙と鍵が入った小さな封筒だった。

「車の免許の申し込み用紙と、車のキーよ。」

「え? 車?」

「もうシンちゃんも18でしょ。 来年からは大学もそうだけど、ネルフの正規職員に
  なって忙しくなるから、今年の間に免許取っときなさい。」

「免許? じゃ、このキーは?」

「わたしの車よん。もう古いけど、こんど新車買うからシンちゃんにあげるわ。」

「いいんですかっ? こんなにして貰って?」

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作者注:ミサトの車の仕様が良くわかりません。とにかく、4人乗りになっているとい
        う設定にしといて下さい。2人乗りだと、後々困るので・・・。
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「もちよ。っていうかさ、シンちゃんに車あげたいからっていう理由で、加持に新車買
  って貰うのよ。貰ってくれないと、困るのよねん。」

「はい。ありがとうございます。大事に乗ります。」

「良かったじゃない。免許取ったら、最初にアタシを乗せるのよっ。」

「うん。わかってるよ。」

「これで、やっと安心して車に乗れるようになるわぁ。」

「ちょっとアスカ? どういう意味よっ?」

「そのまんまでしょうが。アンタ何回警察に掴まってんのよ?」

「あら失礼ね。無事故無違反よ。」

「形式上は。でしょ?」

要するに、職権乱用で警察を捻じ伏せているのだ。たかが交通課の警察が、ネルフの作
戦部長の圧力に適おうはずもない。

「じゃ、シンジっ! 早速ケーキ食べましょうよっ。」

「そうだね。」

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                        :
                        :

2時間後。

「うらぁぁっ! シンちゃん、もっと飲みなさいよぉっ!」

「も、もういいですよ。」

「じゃぁ、頭から掛けちゃうもんねぇ。」

「わっ、アスカぁ。やめてよぉ。びしょびしょじゃないかぁ。」

「水も滴るいい男になったじゃない。」

「ビールも滴るだろ・・・。」

「アスカぁ、今日は飲むわよぉっ!」

「どーんときなさいよっ!」

「アスカ。もう駄目だよ。また前みたいになるよ?」

「ワインならだーいじょうぶっ! こないだは、ブランデーだったからよっ。」

「ほんとかよ。その小さい体の何処に入るんだよ・・・。」

「ウッサイわねっ! ミサトーっ! さっさと注ぎなさいよねっ!」

「よーしっ! 今日は全部開けちゃうわよぉぉっ! シンちゃんっ! 何してるのぉ? 飲
  まなきゃ駄目でしょうがっ。」

「後片付け・・・ぼくがしないといけないから。」

「パーティーの最中に、しみったれたこと言ってんじゃなーーーいっ! 折角の誕生日
  でしょ。」

「そうそう、今日はシンジの18のバースデーなんだからねぇぇぇっ!」

その後、飲み過ぎたミサトが歌い出したりするパプニングもあったものの、楽しいバー
スデイパーティーが夜遅くまで繰り広げられ、葛城家は大騒ぎであった。

なにも、たかが誕生日でそこまで・・・と思うかもしれない。

だが、いいではないか。生きて誕生日を迎えることができる幸せを、誰よりも知ってい
る者達のバースデイパーティーなのだから。

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                        :
                        :


「ねぇ。」

「ん?」

ビールをたらふく煽って寝てしまった、今では小さく感じられるミサトを寝室へ運んだ
シンジは、アスカと一緒にベランダへ出て月を見上げていた。

「ねぇ。」

「ん?」

ワインを飲んでほんのり赤くなったアスカは、シンジのことを見つめる。シンジは、そ
んなアスカの視線を感じつつ、夜風に当たり月を見上げる。

「18。なったね。」

「うん。」

「いろいろあったね。ここ来て。」

「うん。」

「レイの・・・。」

一瞬どもるアスカ。

「え?」

「レイのこと・・・好きだった?」

「うん。・・・・・・でもよくわかんない。」

最後の戦いで発生したサードインパクト。その戦いでシンジが望んだ者達の中で、2人
だけ帰ってこなかった人がいた。レイとカヲルだ。

「そう・・・。」

「あの時のぼくは、誰が好きだったのかわからないから・・・。」

「そうね。アタシも・・・そうかもしれない。」

「やっと自分を取り戻せた時、アスカが側にいたんだ。そこで始めて、やっぱりアスカ
  が好きなんだって・・・。」

「うん。」

シンジとアスカは月を見上げる。

シンジは、そこに決して忘れてはならない2人を見る。
アスカは、そこに決して忘れられない少女を見る。

「入ろうか。」

「もうちょっと・・・ここにいたい。」

「もう遅いよ?」

「今レイと話してるの。」

「綾波と?」

「ええ。お願いしてるの。」

「なにを?」

月を見ていたアスカが向き直り、顔2つ分以上背が高くなったシンジを見上げる。

「シンジ?」

今では側にいてこそ自然と思える様になったアスカを、シンジはいとおし気に見下ろす。

「ん?」

闇夜の中の2人を、満月が明るくそして優しく映し出す。

そんな神秘的な輝きの中、アスカがゆっくりと口を開いた。








                        「結婚しようか?」























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結婚
Episode 01 -いきなり疲労困憊-
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<宝石店>

宝石店でショーケースに数々並ぶ石のついたリングを見ながら、シンジは頭を抱えて悩
んでいた。

あぁ、もうっ!
わかんないよっ!
1度言い出したらきかないんだからっ!

あの後、シンジとアスカは少し揉めた。いくらなんでも18歳で結婚は早過ぎるという
シンジだったが、1度言い出したことを諦める様なアスカではなく、結局押し切られて
しまい今ここに来ている。

プロポーズしなさいって・・・強引なんだからっ!
何の準備もしてないよ。
だいたいなんだよ。『OKしてあげるから、プロポーズしなさい。』ってのはっ!

いずれはアスカと結婚するものだと思っていたが、あまりにも突然過ぎる。更に、いざ
結婚するとなると感情を度外視した、金銭,手続き,挨拶,仕来たりなどの現実がどっ
かとのしかかって来るものだ。

「お客さん。どういった物をお探しですか?」

「婚約指輪なんですが。」

「でしたら、誕生石かダイヤモンドなんかが一般的ですが。」

「はい・・・。」

誕生石は絶対嫌だって言ってたもんなぁ。
アスカだったら、ダイヤかルビーだよなぁ。

どっちにしてもまだ高校生のシンジにとって、どちらも途方も無く高価だ。これから、
お金が山程いるのに、あまり婚約指輪だけにお金を使うわけにはいかない。

「うーーーん。」

「ご予算は?」

「うーーーん。」

一生に1度の物だもんなぁ。
やっぱりできるだけいいのを。
でも、結婚式とかいろいろあるし・・・。
予算も限られてるもんなぁ。

「どれか出してみましょうか?」

「うーーーん。」

「1度手に取って、見られてはいかがでしょうか?」

「すみません。もう少し考えてからまた来ます。」

「そうですか。お待ちしております。」

ショーケースから指輪を出そうとしていた店員だったが、シンジが煮え切らない態度の
まま店を出て行ったので、再びそれをショーケースに戻すのだった。

やっぱり、アスカ連れて来よ。
ぼくが見てもわかんないよ。

自分で選ぶことができなかったシンジは、今見てきた指輪の幾つかを何度も思い浮かべ
つつ悩みながらミサトのマンションへと帰って行った。

<ミサトのマンション>

「アンタバカぁっ!?」

「どうして馬鹿なんだよっ!」

「そんなの、アンタが選ばなくてどうするのよっ!」

「だって、わかんないよっ!」

「イヤよっ! 絶対イヤよっ! 結婚指輪ならともかく、エンゲージリングはアンタが選
  ぶのよっ!」

「そんなぁ・・・。」

家に帰ってアスカに一緒に選んで欲しいと言った途端、予想外のお冠である。どうやら
シンジが選んだ婚約指輪を貰いたいらしい。

しかし、いくら怒っても近頃アスカは、めったにビンタはしなくなった。理由は簡単で
ある。手がシンジの顔に届かなくなったのだ。その分、口が更に煩くなった。

「いいわねっ! しっかり選んで、ちゃんと考えたプロポーズの言葉と一緒に持って来
  るのよっ! わかったぁっ!?」

「わかったよ・・・。」

この時シンジは何気なくふと思んだことがあった。このままじゃ、下手をすれば尻に敷
かれてしまうのではないかと・・・。

「でさぁ、シンジ。アタシ、バイト決めて来たから。」

「バイト?」

「いろいろお金いるでしょ。アンタ、教習所で暇なさそうだし。ちょっとでも、バイト
  するわ。」

「何するの?」

「夜の2時間だけだけどね。近くのファミレスあるじゃん。あそこで、お皿洗うの。」

「そっか。ぼくも何かしないと駄目だなぁ。」

「アンタは、免許取るのと受験勉強あるでしょ。」

「うっ・・・受験か・・・。」

「大丈夫よ。さぼらなかったら、一緒んとこ行けるはずなんだから。」

「そうだね。」

既にシンジはアスカの知識に近付いていた。英才教育を受けたかどうかの差はあるが、
元々シンジはあのユイの子である。頭が悪いはずがない。ゲンドウの血が混じらなけれ
ば、おそらくとうにアスカを越えていたことだろう。

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                        :

「うーーーん・・・。やっぱりいいのは高いよなぁ。」

その夜シンジは、今迄見たことも無かった宝石のカタログを、インターネットで虱潰し
に見ていた。こうやって幾つもじっくり見比べていると、だんだんと目が肥えて来るも
ので、どうしても欲が出てくる。

だいたい、給料の3ヶ月分って・・・。
ぼく給料なんか貰ってないよ。
いくらくらいの買えばいいのか、見当がつかないよ。

シンジもアスカも、ネルフのクレジットカードを持っており、生活費は全てネルフの経
費で落ちている。生活費以外の物は、ミサトが買ってくれている。金で困ることはない
が逆に言うと給料が無い為、結婚の様な場合ネルフの経費でも落とせずミサトにも頼れ
ず困ってしまう。

結婚式のお金をネルフの経費で落としたら、怒られるよなぁ。

何かの時の為に、コツコツと溜めてきた預金通帳を見ると150万そこそこある。これ
でなんとかしなければならない。

そうだっ。
アスカも通帳あったよな。
いくらくらいあるんだろう?

アスカにも通帳があったことを思い出したシンジは、いそいそと部屋を出てアスカの部
屋へと入って行った。

「寝た・・かな?」

「ん?」

シンジが部屋に入ると、丁度眠り掛けたとこのようで、暗い部屋の中布団から顔だけ出
して返事をしてきた。

「なに?」

「ごめん。寝てた?」

「ううん。今、お布団に入ったとこ。」

「アスカ、貯金いくらくらいあるのかなって思って。」

「引き出しに通帳あるわ。持ってって。」

「うん。」

アスカに言われた通り、自分の写真が何個所かに飾ってある机の引き出しを上から順に
開けると、2段目に通帳とキャッシュカードそしてハンコが纏めて置いてあった。

「持ってくよ。」

「ええ。アタシ寝るから。おやすみ。」

「ごめんね。起こしちゃって。おやすみ。」

そっと襖を閉めて自分の部屋に帰り、期待しながら預かってきた通帳を見てみると、残
高3万と少し。

なんだこれ?
これだけ?

シンジも特に節約していたわけではないが、アスカの場合臨時収入が入るとすぐに甘い
物を食べに行ったり、洋服を買っていた差が出ていた。

仕方ないなぁ。
ぼくもバイト探そうかな。

受験勉強,学校,ネルフ,教習所,結婚準備に加えてアルバイトとなると、アスカの様
に毎日というわけにもいかず、夜遅くまで日雇いの物をインターネットで探すのだった。

<学校>

月曜から金曜までは、学校と教習所そしてネルフで忙しく、結婚準備が進展しない毎日
が続いていた。

「あのさ。ちょっといいかな?」

「なに?」

トウジとケンスケは男子校へ行ってしまったので、この高校で唯一こんなことを相談で
きるのはヒカリだけである。

「洞木さんならさ、今結婚するとしたら、いくらくらいの婚約指輪がいいと思う?」

「あははははは。アスカから聞いたわ。碇くんも大変よね。」

「給料なんて貰ってないしさ。いくらくらいがいいのか、見当がつかないよ。」

「そんなの、わたしだってわかんないわよ。」

「やっぱり・・・そうだよね。ごめん。変なこと聞いて。」

「でも、最近アスカすっごく嬉しそうよ。頑張ってね。」

「頑張ってるんだけど・・・。まぁいいや。ありがとう。」

他にこんなことを相談できる程の友人もいないので、シンジは人生の先輩に相談するこ
とにした。

ミサトさんに相談してみよう。
ちゃんと報告しなくちゃいけないし。

<ミサトのマンション>

その日の夜。ミサトが夜遅く帰宅するのを、シンジとアスカは起きて待っていた。

「ただいま。あなた達、まだ起きてたの?」

「はい。ちょっとミサトさんに話があって。」

「なーに?」

2人揃って改まった様子をしているので、ミサトは服も着替えずそのままダイニングテ
ーブルに腰を落ち着ける。

「何かしら?」

「あの・・・。その・・・。」

「まさかっ!」

シンジが言いにくそうにもごもご言っているので、ミサトは子供ができたのかと思い、
顔を青くする。

「そうなのよ。でも決めちゃったから。」

「えーっ!? じゃぁ、生むの?」

「は?」

「子供よ。」

「ブッ!」
「ち、違いますよっ! 何言ってるんですかっ! そんなことまだしてませんよっ!」

「違うの? ・・・・えっ? あなた達、まだなの?」

「コイツ、つまんない男なのよ・・・。」

「まぁ、いいわ。で、何?」

予想が外れたミサトはほっとする反面、シンジ達が何を言いたいのかわからなくなり、
改めて2人を見つめる。

「どうしたの?」

「あの・・・。僕達、結婚しようと思うんです。」

「結婚? どういうこと?」

「シンジが結婚して欲しいって言うのよ。」

「アスカだろ・・・。」

ボソっと言うシンジを無視して話は進む。

「せめて高校出てからの方がいいんじゃない? あと少しだし。」

「今から話を進めたら、式はだいたいその前後になっちゃうわよ。」

「まぁ、そうだろうけどねぇ。シンちゃん、大学は大丈夫?」

「はい。このまま勉強すれば、大丈夫だと思います。」

「でも、結婚したとして、あなた達何処で暮らすの? 新婚さんと一緒に暮らすなんて、
  わたしは嫌よ。」

「あっ! アスカ、どうしよう。」

「そんなのシンジが、ちゃんと新居構えてくれるわよ。」

「えっ? えーーーーーーーーーーっ!???」

「当たり前でしょ。」

「ちょ、ちょっと。えーーーーーーーーっ!?????」

すっかり住む所のことなど失念していたシンジだったが、どうやらアスカはシンジが新
居を構えるものだと決め付けているらしい。

「む、無理だよ。」

「アンタ男でしょ。なんとかなさいよっ!」

「そ、そんな・・・。」

「ほらぁ、やっぱり無理じゃない。」

ミサトが諭す様に言ってくるが、1度言い出したアスカが後に下がろうはずもなく、そ
んな言葉には耳を貸さない。

「イヤよっ! 結婚するっていったらするのっ!」

「お父さんやお母さんには言ったの?」

「そんなの。シンジがプロポーズしてくれた後よ。」

「はあぁ・・・プロポーズかぁ・・・。」

ここ数日、そのことばかりで悩んでいるシンジは、プロポーズという言葉を聞いてげっ
そりしてしまう。

「わかったわ。ずっとあなた達と一緒ってわけにいかないし、加持にも相談してみるわ。」

「えっ? ミサト、とうとう結婚すんの?」

その言葉を聞き興味津々で身を乗り出したアスカだったが、そこにあったミサトの顔を
見てヤバイと露骨に表情に現し一気に冷や汗を掻く。

「アスカ。聞いてはいけないことを聞いたわねっ。」

「あはっ。ははは。」

「あの馬鹿っ! 明日はそのことも加えて加持に詰め寄ってやるわっ!
  ねぇ、アスカ聞いてよ。
  何度も言ってるのよ?
  それなのに、いっつもはぐらかすのよ。
  こないだだって飲みに行った時、わたしは真剣に話してるのにっ。
  あの馬鹿、お酒ばっかり飲んで・・・。
  アスカ、聞いてる?
  だいたい、あの馬鹿。若い子に手出すわ。
  そうそう、こないだもね。
                        :
                        :
                        :                                     」

「う、うん。アタシもそう思うわ・・・。はは・・・。」

「アスカ。ぼく、もう寝るよ。ははは・・・。」

「あっ、シンジっ! ちょっとっ! 裏切りっ!」

「後、宜しくね。ははは・・・。」

「あーーーーーっ! アンタはこのアタシを見捨てるのねっ!」

「なんとでも言ってよ。おやすみ。」

「この薄情モンっ! 」

「アスカっ! 聞きなさいっ。」

「き、聞いてるわよ・・・はぁぁぁぁ・・・。シンジの奴ぅ・・・。」

「せめて、婚約指輪だけでもって言ったのよ。
  それなのに、今度今度って。
  あの馬鹿。
  全然買う気がなさそうなのよっ。
  アスカっ、ちゃんと聞きなさいっ!
                        :
                        :
                        :                                     」

「そ、そうね・・・はは。」

薮を突ついてしまったと後悔するアスカだったが、明日の加持の運命を哀れみつつも夜
遅くまで愚痴を聞かされることになるのだった。

<ネルフ本部>

シンジは、広い司令室に座るゲンドウとその横に立つ冬月の前に来ていた。

「なんだ。」

「あの・・・ぼく、アスカと結婚しようと思うんだ。」

「そんなことを言いに来たのか。」

「うん。」

「勝手にしろ。」

「その・・・今ミサトさんとこに住んでるけど、このままじゃ駄目だから・・・その・・・。」

金銭面や住む所など自分だけではにっちもさっちもいかなくなったシンジは、唯一の肉
親であるゲンドウに相談しに来たのだ。

「だから・・・その。」

「お前が決めたことだ。手出しはせん。」

「うっ・・・。」

先にガツンと言われてしまったシンジは、それ以上何も言えなくなって下を向いてしま
う。

「シンジ。できる範囲のことをしろ。今はそれでいい。」

「父さん・・・。」

「しかし、碇。住む所くらいなんとかならんか。いつまでも、葛城君の所というわけに
  もいかんだろう。」

そこへ、隣に立っていた冬月が助け船を出してくる。

「あぁ。」

「ふぅ・・・。シンジ君。少し私と話をしないか。それでいいな、碇。」

その後シンジは、冬月に別室へ招かれる。

「全く、碇の奴ももう少し・・・。まぁいい。座り賜え。」

「はい。」

冬月に促されたシンジは、対面してソファーに座る。

「最近の若い子は、早く結婚するんだな。」

「色々あって・・・。」

「まぁいい。だが碇の言うことにも一理あるな。若いうちに結婚するんだから、格好付
  け様とせずできる範囲でやればいい。」

「はい。」

「ところで。住む所だが、何か考えているのか?」

「それが、1番困ってるんです。」

「このまま葛城君の所という訳にもいかんだろう。」

「はい。」

「君も来年からネルフの職員になる。住む所は、こちらで何とかしよう。」

「本当ですかっ?」

「その代わり、家賃くらいは自分達でなんとかできるな。」

「はいっ。」

「うむ。後は、自分でできる範囲でしなさい。こういうものは、お金を掛ければいいと
  いうものでもなかろう。」

「はいっ。そんな、贅沢しようとしてるつもりはありませんから。」

「ならいい。頑張り賜え。」

「はい。」

「結婚は大変だぞ? 碇の時もな・・・。」

「父さん?」

「いや、いい。あまり言うと怒られるからな。はははは。」

「はぁ。」

その後、シンジは冬月に細々としたことを教えられた後、ネルフ本部を帰って行ったの
だった。

<電車>

帰り道シンジは吊革に掴まって、窓の外に流れる夜の景色を眺めていた。

住む所はなんとかなりそうだな。
敷金やら礼金ってあんなに高いなんて知らなかったよ。

敷金,礼金の必要も無くなり、住む所だけでも何とかなりそうなので、ひとまず安心す
る。だがまだ資金繰りにプロポーズ,互いの親への挨拶など問題が山積みである。

ん? 挨拶?
アスカの父さんや母さんって・・・。

シンジはとんでもないことを思い出してしまった。相手はドイツにいるのだ。挨拶にな
ど行ったら、それだけで貯金が消えてしまう。かといって呼びつけるわけにもいかない。

どうしよう・・・。
それに、アスカの父さんや母さんって、顔も知らないよ。
いきなり、結婚したいなんて言ったら・・・。
あぁぁぁ・・・どうしよう・・・。

精神面でも金銭面でも体力面でも、早くも疲労困憊のシンジであった。

To Be Continued.
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