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結婚
Episode 03 -アスカの挨拶-
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<ミサトのマンション>

既にミサトが出社した後の葛城家。アスカは朝も早くから、ドタバタドタバタと走り回
っている。

「シンジっ! 服よっ! 服っ! 服どこっ!?」

「もう〜。ミサトさんがいないからって、下着姿で何してんだよ。」

「あぁ〜っ!! このブラ、やっぱ、ダメダメっ! こないだ買ったの何処っ!?」

「そんなのなんでもいいよ。時間が無いから早くしてよ。」

「そうはいかないわよっ! あっ、ルージュが無いっ! ミサトんとこから、ピンクの持
  って来てっ!」

「ぼくが、何処にあるか知ってるはずないじゃないか・・・。」

「もっ! 役立たずっ!」

「いいから急いでよ。化粧なんか、いっつもしてないじゃないか。」

暢気なシンジに対して、アスカは死に物狂い。それもそのはず、いよいよ今日は、ゲン
ドウに挨拶へ行くことになっている決戦日。

「シンジっ! ちょっと髪梳いてっ!」

「はいはい。」

アスカが口紅を引いている間に、シンジが髪を梳かす。急がなければ約束の時間に間に
合わない。

「あーっ! ヘタクソっ! もういいっ! 自分でするっ!」

「ごめん・・・。」

口紅を引き終わったアスカは、シンジのやり方がまどろっこしいという様子で櫛を取り
上げ、自分でいそいそと梳く。

「準備に何時間掛かってんだよ・・・。」

「うっさいわねっ! 今のうちに、戸締まりしときなさいよっ!」

「もう全部したよ・・・。」

「ネックレスっ! ネックレスどこっ?」

「さっき持ってたじゃないか。」

「あっ、そうそう。あまり、派手にしちゃダメかなって、しまったんだっ!」

「もう・・・。」

今日は早くに起きたアスカだったが、服選びと異様に長い風呂に膨大な時間を費やして
しまい、結果この有り様。

「よしっ! 大丈夫ねっ! うん。うん。」

何度も鏡を見て、自分の身形をチェック。シンジは、過去にボサボサの頭でネルフへ行
ったりしていたアスカが、今更なにを・・・と思いながら、玄関で腕時計を何度も見つ
つ立って待つ。

「アスカぁ、早く。」

「オッケーっ! さぁっ! 行くわよっ! なにボケボケっとしてんのよっ! さっさとな
  さいっ!」

「まったく・・・。」

ようやく朝からのドタバタした準備も終わり、家の中にはアスカの服から下着までひっ
くり返ったまま、2人は葛城家を慌ただしく走り出て行った。

<バス>

2人掛けの椅子に座ったアスカは、疲れた体を休め、ようやく落ち着いた感じで溜め息
を零す。

「はぁ〜、疲れたぁ。」

「なにも初めて会うってわけじゃないんだから、そんなに気合い入れなくても。」

「そうはいかないわよ。ねぇ、司令ってどんなとこに住んでるの?」

「さぁ、行ったことないから。でも、司令なんてしてるから、大きなとこじゃない?」

「そうかしら? 独り暮らしでなんでしょ? そんな大きなとこ住んだら大変よ?」

「家政婦さんとか、雇ってんじゃないかな? 父さんが洗濯してるとこなんて・・・。」

「・・・・想像できないわね。」

2人を乗せたバスが第3新東京市の郊外へ向かって走って行く。アスカも、そしてシン
ジでさえ、初めて見るゲンドウの家へと向かって。

<最寄りのバス停付近>

「何してんの?」

バスを降り、地図を見ながらゲンドウの家へ向かっていると、アスカが道沿いにあるケ
ーキ屋で立ち止まり、まじまじと陳列されているケーキを眺め始めた。

「ねぇ、司令って甘い物好き?」

「え? 父さん? 甘い物? さぁ・・・??」

「さぁって、そんなことじゃ困るわよっ!」

「はぁ? どうしてだよ。」

「手土産も何も持たずに行けるわけないでしょ。うーーん。」

人差し指を顎にちょこんと立てて、真剣な顔でケーキをまじまじと見詰めている。

「そんなのいいよ。時間無いから早く行こ。」

「アンタバカぁっ? 挨拶しに行くんだから、そうはいかないでしょっ!」

「そうなの?」

「そうよっ! うーん・・・。当たり障り無いとこで、イチゴショートかしら?」

「それでいいんじゃない?」

「アンタねぇっ! もっと真剣に考えてよっ!」

「考えてもわかんないもん、しょうがないじゃないか。」

「ったく。まぁいいわ。イチゴショート2つ、チーズケーキ2つ、モンブラン2つくだ
  さーーい。」

時間が無いのも確かなので、当たり障りの無いケーキを店員に注文する。

「6つも?」

「それくらいは無いと、見栄えしないでしょ?」

「お金持ってる?」

「これは、アタシのバイト代で買うからいいわ。」

「ふーん。」

シンジはそんなことより、時間に遅れたらゲンドウは煩そうなので、腕時計を見ながら
時間ばかり気にしているのだった。

<ゲンドウ邸>

そこは、警備員が多数立っているものの、少し金持ちの家といった感じの所。ヘリコプ
ターがあるため敷地は広いが、建物自体はコンクリート作りの小さな家だった。

「お待ちしておりました。どうぞ。」

「はい。」

ゲンドウの家の前まで辿り着いたシンジは、警備員に迎え入れられ家の中へと連れて行
かれる。

「いよいよね・・・。スーハースーハー。」

アスカは珍しく緊張しているらしく、深呼吸しながら腕にしっかりとしがみ付いて、敷
地内を歩いて行く。

「父さんの家初めてだから、緊張するよ。」

「アンタが緊張してどうすんのよ。」

「はは・・・。そうだね。」

警備員が玄関の扉を開け、シンジ達を屋内へと導く。

「碇シンジさん。惣流・アスカ・ラングレーさん。両名が参られました。」

「うむ。」

玄関を開けた所には、ゲンドウが立っており、警備員を含む3人を無表情で見下ろして
いる。

「上がれ。」

「うん。」

それだけ言いゲンドウが奥へ戻って行ったので、シンジも靴を脱いでアスカの手を引き、
屋内へ入って行く。

通されたのはリビング。飾り気が一切無く、ネルフの司令室を思わせる様な無機質な空
間。違う所と言えば、ゲンドウが黒いポロシャツと楽なスラックスという私服を着てい
ることと、洋酒のビンがいくつか並んでいることくらいだろう。

「ここが父さんの家なんだ。もっと、豪華な物があるのかと思ってたよ。」

何気なく部屋を見渡し、そんな感想めいたことを口にしながら、ソファーに腰掛けるシ
ンジ。

「そんなことを言いに来たのか。」

「そ、そうじゃないけど・・・。あ、あの・・・。」

「なんだ。」

「あの。前にもちょっと言ったけど、アスカと結婚しようと思うんだ。」

「そうか。」

そこまで言ったシンジは、隣に座るアスカのふとももを人差し指でツンツンと突つく。
アスカはわかってると言わんばかりに、その手を払いゲンドウに向けて顔を上げる。

「あ・・・。」

そんなアスカに、ゲンドウはいつものポーズでジロリと視線を固定する。

「・・・・・・。」

言葉が出ない。

「・・・・・・。」

シンジは、助け船を出そうと、再びチョンチョンと太股を突つきながら、自分はゲンド
ウに話し掛けた。

「でさ。アスカが、父さんに話があるって・・・。」

「なんだ。」

一瞬タイミングを外してしまい、どうしようかと困った顔をしていたアスカだが、なん
とか話す切っ掛けを取り戻し口を開く。

「あ、あの。アタシ・・・シンジくんと結婚しようと思ってます。」

もう4年程、同じ職場にいるゲンドウだが、それまでもあまり親しかったわけでもなく、
更にこういう状況なのでめいいっぱい緊張して挨拶する。

「そうか。」

「そうなんだ。それで、アスカが挨拶したいからって・・・はは・・・。」

少しでも援護射撃をとシンジが口を挟むが、ゲンドウには無視され、アスカも自分のこ
とで必死であり、蚊帳の外。

「こ、これからは、弐号機パイロットではなく、娘として宜しくお願いします。」

「うむ。」

「で、では、認めて頂けるんですね。」

「問題無い。」

「ありがとうございます。あっ、そうだ。これ、買ってきたんです。食べて下さい。」

先程買ったケーキの入った箱を取り出し、テーブルの上に置く。

「必要無い。」

「え?」

「甘い物は食べん。」

「あ、す、すみません・・・。し、知らなかったから・・・。」

折角買ってきたケーキだったが、断られてしまい慌てて引っ込める。そんな様子を見か
ねて、シンジが身を乗り出す。

「で、でも。あんまり、甘くないケーキだと思うよ。」

しかし、焦るアスカはシンジの言葉を聞く余裕は無く、ゲンドウは最初から聞く耳を持
っていない様で、再び無視される。

「それだけか?」

「あ、その・・・。」

「用が終わったのなら、帰れ。」

「あ、あのっ! お願いがありますっ!」

このまま引き下がってなるものかと、必死で食い下がるアスカ。

「なんだ。」

「こ、これからはっ! プライベートでは、お義父さんと呼ばせて下さいっ!」

「むっ!?」

「よ、宜しいでしょうか?」

「う、うむ・・・。」

「じゃ、じゃぁ、あの。お、お義父さん・・・。」

ニコリとゲンドウに微笑み掛けるアスカ。

「むっ!!」

「これからは、近くへ来たら、寄らせて頂きますねっ! お義父さんっ!」

「むぅ・・・。」

「あんまり美味しくないですけど、少しくらいならお料理とかできるんですよ。」

「・・・・・・。」

「作りに来たりしても、いいですか? お義父さんっ?」

「う、うむ・・・。も、問題無い。」

一時はどうなることかと思ったが、少しは会話らしい会話に近くなってきて、シンジは
ほっと胸を撫で下ろし、少し嬉しくなってくる。

「じゃ、父さん。ぼくもたまに来ていいかなっ?」

「必要無い。」

「・・・・・・。」

シーーーン。

折角良い雰囲気になってきたにも関わらず、シンジの一言で再び重い雰囲気が漂い始め
てしまった。そんな中、アスカが頑張って口を開く。

「あの、お義父さん?」

「む・・・。」

「まだ場所決めてないんですけど、結婚式に来て下さいねっ!」

「あぁ。心配するな。」

「よかったぁ。ありがとう、お義父さん。」

ニコリとゲンドウに微笑み掛けるアスカ。

「う、うむ・・・。」

ゲンドウが結婚式に来てくれるかどうか心配していたシンジも、その言葉を聞いて笑顔
を見せる。

「本当? ぼくも心配してたんだ。来てくれるんだねっ!?」

「そう言ったはずだ。用が終わったのなら、帰れ。」

「・・・・・・。」

最後の最後に、また重い雰囲気になってしまったが、ひとまず大事な話は上手く運んだ
ので、その成果に満足して帰ることにするシンジとアスカ。

「じゃ、そろそろ帰るよ。」

「さっさと帰れ。」

「・・・・・・。」

「お邪魔しました。これから、宜しくお願いしますね。お義父さん。」

「う・・・うむ。も、問題無い。」

アスカがぺこりとお辞儀をすると、ゲンドウは一言だけ言葉を発し、後は警備員に任せ
てシンジ達を退室させるのだった。

<バス>

バスの椅子に座ったアスカは、短い時間ではあったが、ゲンドウとの対面に、どっと疲
れてぐったりしていた。

「はぁ〜。つっかれたぁぁぁーー。あんなに緊張したのって、久し振りだわ。」

「でも、結婚式に来てくれるって言ってたから、良かったよ。」

「はぁ・・・。汗出てきちゃった。」

パタパタとハンカチで顔を仰ぎながら、ようやくリラックスした表情を浮かべるアスカ。

「よっしっ!」

それまで、ぐたーーっとしていたアスカだったが、しばらくして汗が引いてくると、ガ
ッツポーズをして胸を張る。

「これで、アタシの最難関は突破したわっ!」

「そうだね。」

「へへーん。次はシンジよっ!」

「うん・・・。わかってるんだけどさ。旅費どうしよう。」

「それが問題よねぇ。ドイツだもんねぇ。旅費とか2人で30万以上するって言ってた
  わ。」

「うん。」

「さすがに、30万も無理ねぇ。パパとママに来て貰おうか?」

「そういうわけにいかないだろ?」

「大丈夫よ。こないだ電話したら、ママは喜んでたもの。」

「そうなんだ。良かったぁ。」

「パパは、怒ってたけど・・・。」

「ウ、ウ、ウソぉっ!?」

「大丈夫よ。パパが怒ってるだけじゃん。」

「だけって・・・。それが、困るんじゃないか・・・。」

「今迄アタシをほったらかしにしたんだもん。何も言う権利ないわ。」

「いや・・・そうじゃなくて・・・。はぁ〜。」

旅費の心配に重なり更に心配事が増え、また胃が痛くなってくる思いがする。その時、
バスの少し前に座っていた人が、何気なく立ち上って振り返った。

「ん? 碇? 碇じゃないか?」

「え? あっ、佐藤くん?」

「あぁ、やっぱり碇だ。久し振りだな。どうしたんだ?」

「うん、ちょっと用事で・・・。佐藤くんは?」

「俺、最近この近くに引っ越して来たんだ。」

「へぇ、そうなんだ。」

突然現れた少年と仲良さそうに話をするシンジの袖を引っ張って、アスカはシンジを見
上げながら、きょろきょろしている。

「おい、まさか碇。その娘、彼女か?」

「う、うん・・・まぁ。」

「へぇ、碇にも彼女ができたんだな。かわいい娘だな。」

「そ、そうかな・・・。ははは。」

ピンポーン。

その時、バスのスピーカーから音が鳴り、バス停に停車するというアナウンスが流れる
と共に、ブレーキが効き始める。

「じゃ、俺ここで降りるから。これ、俺の携帯の番号。また、連絡してくれよな。」

「うん。わかったよ。またね。」

「じゃぁな。」

降りて行く少年に手を振っていたシンジは、バスが走り出すと再びアスカの隣に腰を下
ろす。

「へぇ、この近くに引っ越して来たんだ。」

「ダレよっ! アイツっ!」

「誰って・・・。どうしたの?」

なんとなく、アスカの機嫌が悪そうなので、友人が何かアスカの嫌がることでもしたの
かと、思い返して考える。

「だから、ダレなのよっ! ぜっぜん、紹介もなんもしてくれなかったじゃないっ!」

「え? だって・・・。」

「しかもっ! 『彼女か?』って聞かれたのに、『まぁ』って返事はないでしょうがっ!」

「どうして??」

「ちゃんと、婚約者だって、なんで紹介してくんないのよっ!」

「どっちでも、一緒じゃないか・・・。」

「違うわよっ! 婚約って言ったら、アンタの知り合いも、そういう立場で見てくれる
  けど、彼女じゃ違うでしょうがっ!」

「うーん。そうかなぁ。」

「アンタの知り合いと顔合わすこと増えるんだから、アタシは嫁として挨拶しなくちゃ
  いけないのっ! これからはちゃんと紹介すんのよっ! 何よっ! さっきのはっ!」

「ご、ごめん・・・。」

「『婚約者のアスカです。』ってくらいでいいから、ちゃんと言うのよっ! わかった
  ぁっ!?」

「わかったよ・・・。」

ただ、古い級友と会ったので懐かしいなぁと話をしただけが、猛烈に怒られてしまい、
これからは友人に会うのもやっかいだなぁと思うシンジであった。

<教習所>

いよいよ今日はシンジの卒業検定の日である。これで免許が取れれば、この先結婚に向
けてかなり楽になるので気合いが入る。

「なんだか、緊張して来ちゃったよ。」

「大丈夫よ。今迄ストレートだったじゃん。」

「うん。そうだけど・・・。」

今迄ミス無く来た為、おそらく大丈夫だとは思うものの、やはり試験となると緊張して
しまうのは仕方ないだろう。

「こんなの入試じゃ無いんだから、”失敗したら次がある”程度の気持ちで行きゃいい
  のよ。」

「そうだね。」

「ほらほら、そんな顔しないの。もう・・・。1回目は盛大に落ちて来なさいよ。それ
  でいいじゃん。」

教習所の待合室で、シンジを励ましニコリと微笑むアスカ。

「それに、アンタは強運の持ち主なんだから、もしかしたら合格するかもよ?」

「そうかな。」

「そうよっ! なんたって、アタシをお嫁さんにできるのよっ!」

「ははっ。そうだね。」

そうこうしているうちに、いよいよ試験の時間となった。シンジは、アスカと別れ車に
乗りに階段を降りて行く。

今迄ミスなんかなかったんだから、大丈夫さ。
そうさっ!
それに、ぼくは強運の持ち主なんだっ!

待ち合い室から外を眺めると、シンジが車に乗り込みエンジンを掛ける音が聞こえてく
る。そして、シンジの車はアスカが見守る中、公道へと走り出て行った。

「シンジ。頑張ってね。神様・・・シンジを合格させて下さい。」

なんだかんだ言いながらも、車が見えなくなった後、何も力になれないアスカは、心が
締め付けられる思いをしながら、神様に合格を祈り続けていた。

                        :
                        :
                        :

待合室でじっと待っていたアスカの視線に、公道から帰って来たシンジの車が入って来
る。

「シンジっ! シンジっ!」

ガラス窓にへばり付いて、車のウインドウから中のシンジを見ようとするが、光の加減
と角度からその表情が伺えない。

「大丈夫・・・。大丈夫よね。」

まるで、自分に言い聞かせるかの様に、無意識に小声で独り言を何度も呟く。それから
少しして、階段を上がって来たシンジの姿が、視界の中に入って来た。

「シンジ・・・ど、どうだった?」

「アスカ・・・。」

しかし、シンジはがっくりとした様子で俯き加減に、アスカを見るばかり。その顔を見
たアスカは、全てを悟り無理に笑顔を作り元気を出す。

「・・・・・・。」

「あはっ! あははははっ! ほらぁ。そんな顔しないの。1回目は練習よっ! 練習。
  みーんなそうよ? 最後までストレートで行ってる人なんて、めったにいないって。」

少し声を大き目にして、背中をポンポンと背伸びしながら叩く。

「下手に、スイスイ行ってさ、事故するよりさ、ちゃーんと教えて貰った方がいいって
  もんよっ! ね。」

更に、堰を切った様に止めど無く喋り続ける。

「所詮、教習所なんて勉強しに来てる様なもんなんだからさ。何度もやって、いろいろ
  教えて貰った方・・・」

「受かったよ・・・。」

俯き加減のまま、頭と垂らしてぼそりと呟くシンジ。

「・・・が特ってもん・・・えっ?」

「受かったんだ。」

「受かっ・・・え?」

「受かったよっ! アスカっ! はははっ。」

「ほ、ほんと・・・? う、受かったのっ!? ねぇっ! 受かったのぉぉっ!?」

「うんっ! 合格だよっ!」

「やったーっ! よくやったーっ! シンジぃぃっ! ・・・・って。ちょっとぉぉっ!」

ようやくからかわれたことに気付いたアスカは、ジロリと睨んでシンジを見上げる。

「アンタねぇぇっ! アンタがアタシをからかおうなんて、10年早いのよっ!」

ツンとそっぽと向いき、怒って背を向け歩き出してしまうアスカ。

「あっ、ごめん。ごめん。嬉しくってさ。つい。」

慌てて追い掛けたシンジは、アスカの肩に手を掛け引き止める。しかし、そのアスカの
表情にはセリフとは裏腹に、笑みが零れていた。

「もうっ! バツとして、明日の学科が終わったら、ドライブ連れて行くことっ!」

「うんっ! もちろんさっ!」

「でもさ、良かったねっ! おめでとっ、シンジっ!」

クルリと振り返ったアスカが、まるで自分のことの様に嬉しそうに微笑み見上げて来る。
それを見たシンジは、この笑顔が見れるならどんなことでも頑張れる気がするのだった。

<ミサトのマンション>

その夜は、卒検合格祝いも兼ねて、今日はアスカが1人でご馳走を作っていた。シンジ
の好きな料理が、どっちゃりと大量に作られて行く。

「♪フン。フン。フン。」

シンジのいないミサトのマンションから、アスカの陽気な声が聞こえて来る。今、シン
ジは駐車場で、ミサトから貰った車を明日のドライブの為に洗いに行っている。
いよいよ、明日からあの車に乗れるとなると、今迄以上に愛着が湧いてくる様だ。

「そうだわ。好きな曲とか集めたSDVD作って、車に積んどかなくっちゃ。」

免許を取ったのはシンジだが、これからは間違い無くその横に座る機会が多くなるアス
カも、いろいろと夢を膨らましている。

プルルルルルル。

その時、葛城家の電話が鳴り響いた。アスカはフライパンの火を止めると、エプロンで
手を拭いていそいそと電話に出る。

「もしもし。葛城ですが。」

                        :
                        :
                        :

「アスカ、洗い終わったよ。」

しばらくして、車を洗い終わったシンジが、帰ってきた。

「ねぇねぇ、シンジっ! 聞いて聞いてっ!」

「どうしたの?」

やけに嬉しそうに、飛び出してくるアスカに、どうしたのかと怪訝な顔をするシンジ。

「来週さ、ネルフの輸送機がドイツ支部へ飛ぶんですってぇっ! リツコが、乗せて行
  ってくれるってさぁっ!」

「ほ、ほんとっ!?」

「やっぱ、持つべきは、仲間よねぇっ!」

「助かるよっ! これで、ドイツに行けるじゃないかっ!」

アスカと共に大喜びするシンジ。

「でさぁ、早速パパやママに来週行くって電話しといたわっ!」

「どう? いいって?」

「うんっ!」

「良かったぁ。」

「パパがね。『来れるもんなら、来てみろ。』ですってぇぇ。アハハハハハ。」

「・・・・・・。」

今迄大喜びしていたシンジだったが、一瞬にして胃に100個の穴が空いた気分になる
のだった。

To Be Continued.
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