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コンフォート17
Episode 01 -ムカつくアイツと婚約発表っ!?-
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<仙台>

桜前線が南の空から北上して来る春先。ここ仙台ではようやく訪れた梅の香りが、遅い
春の到来を知らせている。

「よかったわね。シンジくん。」

「お世話になりました。みんなのこと、宜しくお願いします。」

「後のことはまかせて。今までありがとね。」

古びた木造の建物の前で、わずかな荷物を手にした1人の少年が深々とお辞儀をしてい
る。望んだわけではないが、5歳の頃から9年近くも世話になった孤児院の人達。別れ
はいつも寂しいもの。

「そんな顔しないの。ようやくお父さんと暮らせるようになったんでしょ?」

「はいっ。仕事が落ち着いたのかもしれません。でも・・・。」

「どうしたの?」

「やっぱり、みんなに何も言わないで、行っちゃうってのは・・・。」

「あなたが去って行くとこ見たら、余計に辛くなるわ。あの子達。」

「はい・・・。そうですね。わかりました。」

シンジもいつしか14歳。この孤児院では、最年長になっており小さな子供達の面倒を
よく見てきた。

「やっとシンジくんが、家族の人達と一緒に暮らせるかと思ったら、先生は・・・。」

「あっ、先生。」

「ご、ごめんなさい。」

見送りに出てきていた1人の女性の先生が涙を流すと、つられるかの様に他の先生達も
目頭にハンカチを当て始める。

「じゃ、電車の時間がありますから。」

「そうだったわね。バスに乗り遅れたら間に合わなくなっちゃうわ。」
「名残惜しいけど・・・。また、いつでも遊びに来てね。」
「第3新東京でも、元気でね。」

「はいっ! ほんとに今までありがとうございました!」

新たな門出をまるで自分のことのように喜んでくれる先生達に手を振り、シンジは孤児
院を後にして行く。

仙台か。
次来るのは、いつだろう。

バスから見える仙台の景色。第2の故郷とも言えるこの地の景色を目に焼き付けるかの
様に、ずっと窓から眺めているのだった。

<ドイツ>

また違う時、違う場所、違う境遇におかれた違う性を持つ違う人間が、これまた違う門
出を迎えようとしていた。

「パパもママも調査団に選ばれちゃって・・・ごめんね。」

「それはいいけど、アタシの行き先はしっかりしてくれてるのよね。」

「ちゃーんと、手配しておいたって言ってるでしょ。ママに任せて。」

「ママにぃぃぃ? 大丈夫かしら?」

「あっらぁ。失礼ねぇ。あなたのママを信じなさい。」

「はいはい。」

「ここより、日本の方が治安がいいもの安心だしね。」

科学者であり聡明、それでいて美人で気立ての良い母親、惣流・キョウコ・ツェッペリ
ン。誰もが羨むこの母親だが、いくぶん抜けたところがあるのがたまにきず。

その娘であるこれまた賢くて、美人で、気立ては・・・の、惣流・アスカ・ラングレー
は、怪しむような目で母親のことをジト〜と見上げる。そうは言っても、ママっ子だ。

「こんなところにアスカちゃん1人で残していったら、ママは心配で心配で・・・およ
  よよよ。」

「泣くことないでしょ。わかったわよ。ママの言う通りにするからさ。」

「そっ。なら、ママも安心して研究に没頭できるわ。」

けろっと笑顔を見せるキョウコ。

「しょうがないわねぇ。今度の研究って、ママとパパの夢だったんでしょ。」

「ごめんなさいねぇ。でも、何かあったらすぐ言ってね。研究なんかより、アスカちゃ
  んの方がずっと大事なんだから、飛んで帰って来るからね。」

「大丈夫。大丈夫。アタシのことは心配ないって。さっ! ママも頑張るんだ。アタシ
  も新しい所へ行って、頑張んなくちゃっ!」

「アスカちゃん、頑張れ〜〜〜〜っ!」

「はいはい・・・。さ、そろそろ飛行機の時間に間に合わなくなるから。」

ボストンバック2つを両手に持ち、いよいよ玄関先に立つ。この家はこれから数年、賃
貸として人に貸すことになるので、自分の物は残らず送ってある。

もっとも、モタモタしていたせいで、送ったのは今朝・・・ついさっき。自分が先に到
着してしまうことになるので、生活に必要なものは手で持っていかなければいけなくな
ってしまった。

「じゃ、ママっ! 手紙書くわねっ!」

「あぁ、アスカちゃん・・・行ってしまうのね・・・。およよよよよ。」

「ママが行けって言ったんでしょうがっ!!」

「あら、そうね。じゃ、行ってらっしゃい。」

「はいはい・・・。」

長年住み慣れたマンションに別れを告げ、ボストンバッグをぶらぶらさせながら旅立つ
アスカ。




全く違う場所で全く違う境遇の少年と少女が、全く違う門出を迎え旅立っていくその先
で、いったい何が待っているかなどこの時点で誰1人知るものはいなかった。

<コンフォート17マンション>

仙台から電車に揺られて数時間。ようやく辿りついたのは、長年仕事の関係で一緒に暮
らすことのできなかった実の親の家。

やっと、父さんや母さんと。
なんか、緊張するな。
先生達も喜んでくれたし・・・。
もうこれで、心配かけなくて済むな。

我が家に入るのに、わざわざチャイムに手を伸ばすシンジ。嬉しさのあまりその指が震
える。

最初に何って言おうかな。
うーん。やっぱり、ただいまかな・・・。
よしっ!
行くぞ。

ガンっ!!

「いっ! いったーーーーーーっ!!!」

ようやく両親に会う決心も固まり、チャイムのボタンを押し込もうと力を入れたその瞬
間、目の前の扉が勢い良く開き吹っ飛ばされる。

「むっ!? シンジか。」

「と、父さんっ! いたたたたた。」

「何をしている。」

「何って、父さんが吹っ飛ばしたんじゃないか。」

「そうか。」

「そうかじゃないよ。」

「急いでいるのだ。後は頼む。」

「もう・・・で、どっか行くの?」

「む? 南極だ。」

「は、はぁぁぁぁっ!????」

ゲンドウの姿を見ると、明らかに旅立ちの身支度をしている。これから一緒に住むこと
になったにもかかわらず、いったい何が起こっているのか理解できない。

「南極って・・・父さん、そんなとこ何しに。」

「もう母さんは先に行っている。わたしも急がねばならぬ。後は頼む。」

自分を無視してそそくさと歩き出すゲンドウ。なにがなんだかわからず、シンジはもう
半ばパニック状態である。

「ちょ、ちょっと待ってよっ! 母さんはっ!?」

「南極にいると言ったはずだ。どけ、愚か者めがっ。」

「待ってってばっ! ぼくはどうするのさっ!」

「家をずっと開けるわけにはいかぬ。留守番を頼む。」

「ひ、ひとりでーーーっ!?」

「留守番は1人で十分だ。」

「そ、そんなのっ! 酷いじゃないかっ!」

「問題無い。どけ。」

「とうさーーーーーんっ!!!」

纏わりついてマンションの下まで一緒に降りて来たシンジのことなどおかまいなし。ゲ
ンドウは呼び寄せたハイヤーに飛び乗って出発。

やっと、一緒に・・・と思ったのにっ。
る、留守番の為に・・・。
酷いよっ! 酷すぎるじゃないかっ!

とは言うものの、涙を流して喜んでくれた先生達に心配を掛けるわけにはいかないし、
強制的とはいえ留守番をすることになったのだから、やらないわけにはいかない。

もういいよ。
1人で気軽に暮らして行くよ。
学校も、もう転校しちゃったし・・・。

「ブツブツブツ。」

腑に落ちないことは多々あれど、人間の環境適応能力とは素晴らしいもので、既にこの
状況下でどうやって暮らしていけばいいのかを見つけ出しかけている。

さってと。
冷蔵庫に何か残ってたら、ご飯でも作ろっかな。

ゲンドウを追い掛けて1階迄降りてしまったので、再びエレベータで2階へ上がり我が
家の前に立つ。

フン。
もう、チャイムなんて押さなくていいや。

家の鍵をドアに差込み回す。

ガチャリ。

「んっ!?」

鍵を開けたはずなのに、掛かってしまっていた。

そっか、さっき開けっ放しで。

再び鍵を差込み、ガチャリ。

「さって、ご飯ご飯っと。」

「・・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・。」

家に入る。そこに見えるは、玄関で靴を脱いでいる赤い髪の少女。彼女もこちらを見て
いる。視線が真正面からぶつかる。

「アンタっ! 人の家に入ってこないでよねっ!」

「は、はぁぁぁぁ?????」

シンジ、本日2度目のパニック。

「こ、ここぼくのうち・・・。」

「ざけんじゃないわよっ! アタシのうちよっ! だいたいアンタ誰よっ! 家、間違え
  てんじゃないのーーーっ!?」

「えっ!?」

そう言われ、慌てて玄関に出て表札を見るとやはり”碇”。

「やっぱり、ぼくのうちだよ。君こそ間違えてんじゃない?」

「うっ、うっそーーーっ!?」

自信満々に言うシンジに、今度は少女が焦る番。脱ぎ掛けた靴を急ぎスリッパの様に引
っ掛け玄関に出る。

「見てみなさいっ! ”碇”って表札出てるでしょうがっ!」

「だから・・・ぼくが、碇シンジなんだけど?」

「えっ!? な、なんですってーーーーーーーーっ!!!!!」

「やっぱり、君が。」

「なんで、アンタがここにいんのよっ!」

「なんでって・・・ここ、ぼくのうち・・・。」

「碇家の人は、みんな南極に行ってるはずでしょっ! アタシは、碇ユイさんに頼まれ
  て留守番しに来たのよっ! 日本の方が治安がいいってママも言うしっ!」

「なんだってーーーーっ! ぼくは、父さんに留守番しろって言われて来たんだよっ。」

「そんなの知らないわよっ! もうアタシがいるんだから、アンタは用済みよっ! シっ
  シっ!」

「何勝手なこと言ってんだよっ! ここはぼくの家なんだから、君の方が帰ったらいい
  じゃないかっ!」

「ドイツまで”ハイソウデスカ”って、帰れるわけないでしょっ!」

もう家、人に貸してるし・・・。
はぁ、ママぁぁぁ〜やっぱりじゃないのぉっ!
信用するんじゃなかったよぉ。

「ぼくの家なんだから、ぼくはここで暮らすからねっ!」

「バカ言ってんじゃないわよっ! アタシがここで暮らすのよっ!」

冗談じゃない。
涙まで流して見送ってくれた先生のとこになんか、今更帰れるわけないだろっ!

「ぼくだっ!」

「アタシよっ!」

「ぼくだっ!」

「アタシよっ!」

「もうっ! ぼくの家なんだから、邪魔しないでよっ!」

いくら言っても話が平行線なので、シンジは強引にアスカを押し退け家の中へ入って行
く。しかし、そんなことを許すアスカであろうはずもない。

「この最低男っ! 女の子に外で寝ろってのっ! アンタはぁぁぁっ! ここにはアタシ
  が住むのよっ!!!」

「ぼくは出て行かないからねっ!!!」

そう言いながら、シンジはリビングに面した6畳の部屋に自分の荷物を置く。当然アス
カも対抗して、対面にある6畳の部屋に自分の荷物をどっかと置く。

「なにしてんだよっ! 君の部屋じゃないだろっ!」

「アンタこそ、勝手に荷物置くんじゃないわよっ!」

ムカーーーーーーーーーーーーーーっ!!

ムキーーーーーーーーーーーーーーっ!!

「君が出て行くまで、断固抵抗するからなっ!」

「アンタを追い出すまで、徹底的に対抗するわよっ!」

互いに睨み付け合いながらも1歩も引かない少年と少女。結局その日は、自分が荷物を
置いた部屋に両者共に閉じ篭り、一言も口を利かずイライラしながら眠ることになった。

翌日。

今日は新しい学校への転校だ。シンジはいつもより少し早めに目を覚まし、学校へ行く
準備を始める。

あのコ、今日は追い出さなくちゃ。
ったく、ぼくの家なのになんで出ていかなくちゃいけないんだよ。

一晩寝ても、まだイライラが納まらない。シンジはブチブチ言いながら、前の学校の制
服に着替えリビングへ出て行く。

「あーーーーーっ! 何してんだよっ! それ、ぼくが朝ご飯にしようと思ってたのにっ!」

「フン。アタシの家のもの、勝手に食べようなんてズーズーしいわねっ!」

「ぼくの家だって言ってるだろっ!」

冷蔵庫に食パン2枚があることを、昨晩チェックしていた。今日の朝ご飯に丁度良いと
思っていたのだ。ところが、それは既に、目の前の少女のお腹の中へ消えつつある。

「さって、アタシは学校行く準備しなくちゃいけないからねっ! さすがのアタシも、
  初日から遅刻はねぇ。アタシが帰ってくる迄に、荷物纏めて出て行ってるのよっ!」

「ぼくだって、学校行くんだっ! 君こそ、もう戻って来ないでよねっ!」

「ぬわんですってーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」

「ぼくの家なんだっ! 当然だろっ!」

「アタシが留守を預かったのよっ! アンタこそ出て行き・・・おっと、時間だわっ!」

「ぼくも急がなくちゃっ!」

揉めている時間はもう無い。急ぎ学校へ行かなくてはならない。

「勝手に洗面台使うなよなっ!」
「アンタっ! 人の家のトイレに入らないでよねっ!」
「ドライヤー返してよっ! ぼくのだろっ!」
「アタシの洗顔石鹸使わないでよねっ!」
「着替えるんだから、覗いたら殺すわよっ!」
「覗かれるのが嫌なら出て行きゃいいだろっ!」
「やかましいっ! この変態っ! その扉閉めろっ!!!」
「フンっ! 頼まれても、見たくもないよっ!」

バシャッ!

などなど、すったもんだの大騒ぎの早朝バトルを乗り越え、いよいよ2人は学校へ向か
おうとした時、ベランダの方から大きな物音がした。

グワッシャーーーーーーーーンっ!

「なにっ!?」
「なんだっ???」

野次馬とはこの2人のことを言うのかもしれない。こういう時だけユニゾンして、ベラ
ンダへ飛び出すと、高級車が道端の溝に片輪を嵌めていた。

「アハハハハハハハハっ! よくあんな端っこに落としたものねっ! へったくそねぇっ!」

大声で笑うアスカ。ピカピカのセルシオを傷だらけにした車の持ち主が、その声を聞き
ギロリと睨んでくる。

「やめろよっ! こっち見てるだろ。」

「アンタに命令される筋合いなんかないわっ! おっと、あんなへったくそ見てる暇な
  いわ。」

「ぼくもだっ!」

ようやく今の時間がかなりやばいことを思い出した2人は、互いに押し合い玄関先へ走
って行く。

「邪魔よっ! 靴が履けないでしょっ!」
「君こそ、学校なんか行かないで、家出る荷物纏めろよっ!」
「もっ! 押さないでよっ!」
「ぼくの家でなにしても勝手だろっ!」
「イヤっ! 胸さわるなっ!」
「触ってないだろっ! 狭いとこに入ってくるからじゃないかっ!」

そのままゴタゴタゴタと互いに押し合い、玄関と飛び出した2人。そこから先はバラバ
ラに学校へと走って行った。

<学校>

学校へ辿り付いたシンジは、言われていた通り職員室へ向かう。今日からこの学校で楽
しい学園生活をおくるのだ。

「おはようございます。今日、転校して来た碇です。」

「うむ。聞いてますよ。」

挨拶をしながら職員室へ入ると、担任らしき老教師が出迎えてくれた。シンジはそこで
教科書を貰い、自分が2−Aの教室になることを知らされる。

2−Aかぁ。
友達できるかな。

内心ドキドキしながら、先生に言われた通りに廊下を歩き教室へと向かう。

ここか。
はぁ、先に行っててって言われてもなぁ。
席もわかんないよ。
困ったな。

心配事は多々あれど、ずっと教室の前に立っているのも変である。シンジは勇気を奮い
立たせて、教室へ足を踏み入れた。

知らない子ばかりだ・・・。

当たり前であるが、皆が興味深そうに自分の方を見て来るのが、なんだか辛い。時計を
見るとモタモタしているうちに、チャイムが鳴る1分前になっていた。

早く先生来ないかなぁ。
はぁ。

教室の端に立ち、今度からクラスメートになる生徒達の視線を一身に浴びながら、先生
が来るのをひたすら待つ。

キーンコーンカーンコーン。

ようやくチャイムだ。皆が席に付き始める。

廊下から足音が聞こえてくる。

なにをしていいのかわからず、教室の端に立ちその足音の主であろう先生が入ってくる
のを待ちつづける。

ガラ。

教室の扉が開たい。

「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」

「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」

「な、なんで、アンタがここにいんのよっ!」

「君こそ、こんなとこで何してんだよっ!!!」

確かに先生は入って来た。だが、おまけが出かかった。アスカである。

「おや、お2人はお知り合いですか?」

「フンっ! こんな奴知らないわよっ!」

「ぼくだってっ!」

「そうですか。とにかく、今日からこのクラスに入ることになった、碇シンジくんと、
  惣流・アスカ・ラングレーさんです。みなさん・・・」

などなど事務的に簡単な紹介だけをして、担任の老教師はクラスから出て行った。シン
ジもアスカもに与えられた席に座り、目尻で互いをチラチラを見てはムスっとしている。

なんで、よりにもよって・・・。
絶対に今日こそは追い出さなくちゃ。
ぼくはもうあそこしか住むとこないんだっ。

なんなのよっ! アイツはぁぁぁっ!
ママには心配かけれないもんっ!
アタシはあそこにしか住むとこないのよっ!
ぜーーーーーったい、アイツ追い出さなくちゃっ!

キーンコーンカーンコーン!

チャイムが鳴り響く。1時間目は英語。

スタスタスタと教師の足音が廊下から近づいてくる。お喋りをしていたクラスメート達
も、皆教科書を出し静かに席に座る。どうやら、英語の教師は怖いらしい。

ガラ。

扉が開いた。外人のがっちりとした体格の、やや歳のとった怖そうな教師である。

「きりーつ。」

委員長のおさげの女の子が号令を掛け、それに伴い皆が席を立つ。

「あっ! 今朝のへたくそっ。」

教師の顔を見た途端、思わず声を発するアスカ。

「むっ!?」

視線を向けた教師がアスカに気付き目を吊り上げる。そのままその視線がシンジの方へ
向かってくる。かなり不機嫌な顔だ。

「今日から2人転校生がいると言っていたが、おまえらか。」

しかめっ面で、アスカとシンジを見ている。

「へたくそで悪かったな。」

「だって、あーんな広い道で脱輪するなんて、おっかしくって。」

「フン。まぁいい。そんなことより、お前ら。なんで、あんな朝っぱらから、同じ家に
  いたんだ?」

「ゲッ!」

教師の一言に、思わず顔を引き攣らせるアスカ。シンジもヤバイという顔をしている。

「言い訳できんのか?」

「うっ・・・あ、あれは。」

焦るアスカ。別にやましいことなどしていないが、では何と言えばいいのかすぐには出
てこない。

「これは、保護者に連絡する必要がありそうだな。」

「ちょ、ちょっと待ってっ!」

ここで連絡などが行っては、あのキョウコのことである。自分の夢など捨てて、飛んで
駆けつけてくれるだろう。それだけはなんとか避けたい。

「不純異性交遊していたくせに、なにが待ってだっ! んーーーっ!」

嫌らしい目で自分を見返してくる教師。クラスメート達も、一番恐持ての先生の前なの
で今は大人しくしているが、興味深々の目を向けている。

ママの邪魔だけは・・・。
ママの邪魔だけは・・・。
ママの邪魔だけは・・・。
ママの邪魔だけは・・・。

「ふ、不純異性交遊なんかじゃないわよっ!」

「じゃ、何してたんだっ!」

「ア、アタシとシンジは、婚約してるのよっ! 一緒に住んでなにが悪いってのよっ!」

「な、なんだってーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」

真っ先に反応したのは、シンジである。目を剥いてアスカを見ている。

「アンタっ! 不純異性交遊とか言って、コイツ警察にでも突き出す気よっ! なんとか
  言いなさいよっ!」

「げっ・・・。」

シンジも考える。長年世話になった孤児院の人達にこれ以上心配を掛けるようなことは
したくない。

そもそも自分の家に帰って、なんで怒られなければならないのだ。何も悪いことなどし
ていない。

「そうだよっ! 婚約者と一緒にいて何が悪いんだよっ!」

「ぬぅぅぅ。本当だろうなぁ。」

疑いの目でシンジとアスカのことを睨みつける教師。

「あったり前よねぇぇ。シンジぃ。」

「もちろんさ。アスカ。」

ニコニコ笑みを浮かべながら互いに見つめ合う2人。

教師も婚約者と言われてはそれ以上、言い返すこともできず。ひとまず授業を開始する
ことにした。

「えー、では。なんか婚約とかふざけたことを抜かす転校生が来たので、改めて自己紹
  介をする。俺が英語の教師をしているキールだ。また生活指導もやっている。不純異
  性交友は、絶対に許さんからそのつもりでなっ!」

全員に言っているようだが、明らかにシンジとアスカに向かって、婚約が嘘ならただで
は済まさんと言っているようなものである。

そんなこんなで、授業も終わり休み時間。

キールが教室から出て行くと、もう教室はパニック状態になった。

「婚約ってなにっ!?」
「いつから付き合ってるのっ!?」
「どこが好きになったのっ!?」
「すげーな。お前らっ!」

などなど、2人を取り囲み質問の嵐。しかし質問されても、苦し紛れのアスカのでっち
あげである。いつから付き合ってるもなにも、答えれるはずもない。

「いいなぁ、愛し合う2人だなんてぇ。」
「俺にも可愛い彼女できないかなぁ。」

そんなクラスメートの隙間を縫い、アスカが近付いて来ると耳元で囁いた。

「先生をごまかす為に言っただけよっ! 勘違いするんじゃないわよっ!」

「こっちから願い下げだね。」

「ムッ! 帰ったら覚えてらっしゃいっ!」

「ふんっ!」

ここで喧嘩すると嘘がばれてしまう。シンジとアスカは、一瞬互いにキっと睨み合った
ものの、すぐに笑顔に戻りまるで愛し合っている婚約者のような表情で互いを見つるの
だった。

To Be Continued.
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