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コンフォート17
Episode 03 -ちゅっ!-
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<通学路>

今日もまたシンジとアスカは学校への道程を2人で歩いている。転校してきてからまだ
あまり日数が経過したというわけではないが、友達といえるクラスメートもできた。

「アンタねぇっ! あんまり近づかないでよっ! 暑苦しいわねっ!」

「仕方ないだろっ! 好きで近づいてんじゃないよっ!」

「ったくっ! なんでこんなことになっちゃったのよっ!」

イライラしながら角を曲がる2人。そこには、毎朝待ち合わせをしているヒカリ、そし
て2馬鹿。

「今朝も朝から仲がいいわねぇ。」

「あったりまえじゃん。」

角を曲がった途端、腕を組んでご登場のシンジとアスカ。待っていた友達3人は、当然
家を出てからずっと腕を組んで来たものと信じて疑っていない。

「お前らには、夫婦喧嘩っちゅーもんがあらへんのかいな。」

「あはははははは。」
「えへへへへへへ。」

笑って誤魔化す2人は、その時同時に心の中で毎日喧嘩してるよ!と叫んでいたが、そ
んなことは知る由もなく、シンジとアスカの周りを囲んで歩くヒカリ達。

「ちょっとっ。」

耳元でアスカが口を開く。

「手っ! 胸に当てないでよっ!」

「歩いてるんだから、仕方ないだろっ。」

「わざとのくせにっ。」

「誰がそんなもんっ。」

「そっ! そんなもんーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

つい目を吊り上げ爆発し、大声で怒声を発してしまうアスカ。びっくりして、周りの3
人が振り返る。

ヤバっ。

「どうしたのっ?」
「どないしたんやっ! いきなりっ!」

「え、あ、あの・・・そ、そ、そ、そんな・・・そんな怪我くらい、アタシがチュって
  して直してあげるって言ったのよ。」

「どうしたんだ? 怪我でもしたのか?」

ケンスケがシンジの方に視線を移動させる。

もうっ!
いつもいきなり何言い出すんだよっ!
け、怪我って。どこに怪我したんだよ。ぼくっ!

「そうなんだ。ちょっとお尻を擦りむいちゃって。」

とにかく、見せてくれと言われそうに無いところを怪我したことにしておく。が、それ
を聞いたヒカリは、不思議そうにしていた。

「ねぇ、アスカって。碇くんのお尻にまでキスしてるの?」

「え・・・あ、あの・・・そ、そうなのよ。ついシ、シンジが痛がってたら・・・。」

脂汗だらだらのアスカ。シンジ、自らの過ちに気付きつつも他人のフリ。

バカシンジっ!
これじゃアタシがヘンタイじゃないのよっ!

「ほんま、お前ら仲ええなぁ。」
「いいよなぁ。碇は。」

2馬鹿が羨ましそうな顔でシンジのことを見てくる中、ヒカリはもどかし気な顔でトウ
ジに視線を固定し通学して行くのだった。

<学校>

昼休みも終わりになろうかという頃、シンジとアスカは人通りの少ない3階の渡り廊下
の階段の陰で言い争っていた。

「なにも、お尻なんて言うことないでしょうがっ!」

「いつも、いつも、アスカが下手な嘘つくからいけないんだろっ!」

「あー言っとくしかないじゃないのよっ!」

「だいたい、婚約なんて言うからいけないんだよっ!」

「咄嗟のことだったんだから、仕方なかったのよっ!」

「もうちょっと言いようってもんがあっただろっ! なんで、そう単純思考なんだよっ!」

「た、たんじゅんーーーーっ! もう1度言ってみなさいよっ! このバカシンジがっ!」

互いの目と目を一直線に睨みつけ怒鳴り合う。そこに、あらぬ方向から突然声が聞こえ
て来た。

「お前ら。こんなとこで大声出すんじゃないっ!」

ビクッとする2人。恐る恐る見返すと、そこには竹刀を持ったキール先生がこちらを睨
んで立っている。

「婚約がどーとか聞こえたが。んーー? 破局かぁ? それとも、嘘だったなんて言うん
  じゃないだろうなぁっ!」

「そ、そんなことあるはずないじゃん。ねぇ。」

「当たり前じゃないか。ちょっと、夫婦喧嘩しただけだよね。はは・・・ははは。」

「そうそう。犬も食わないって奴よ。行きましょ、シンジぃ。本当は仲いいのよねぇ。」

「あたりまえじゃないか。そろそろ教室に戻らなくちゃね。」

今の会話が聞かれたのではないかと、ビクビクしながらも必死で取り繕い、シンジの腕
にしっかり自分の腕を絡ませ抱き付き教室へ戻ろうとするアスカ。

「お前らっ! 婚約が嘘なら、不順異性交遊で停学処分にしてやるからなっ! 今にみて
  るんだなっ!」

「そんなことないもんねぇ。シンジぃ、大好きよぉ。」

「さ、おいでアスカ。」

この上なく、いや必要以上にニコニコしながら、互いを見つめ去って行く2人の姿を見
送り、舌鼓を打つキール。

「チッ!」

あいつら絶対、化けの皮を剥いでやる。
親がいないことをいいことに、好き勝手してるに決まってやがるっ!

実はキールは2人が転校してきた時、婚約の話が本当か両親に確認を取ろうとしていた。
だが、両方の両親とも南極などへ行ってしまっており連絡の付けようがなかったのだ。

今に見てやがれっ!
狐どもめっ!

竹刀をブンと振りつつ、いずれシンジとアスカの背中をこれで叩くことを夢見ながら、
職員室へ帰って行くキールであった。

同じ頃、教室付近の廊下では。

「危なかったわねぇ。」

「学校じゃ、下手なこと言えないなぁ。」

「まさか、アイツが出てくるなんて。あー、びっくりした。」

「あの先生、いつもぼく達のこと睨んでるみたいなんだよなぁ。」

「ちょっと車のこと笑っただけで、いつまでも根に持って。やーねぇ。」

「あんなとこで、大笑いするから変なことになったんだよ。」

「なによっ! アタシのせいだって言いたいわけぇっ!」

「だって、そうじゃないかっ!」

「だいたいアンタがっ・・・やめやめ。何処でまた見られてるかわかんないわっ。」

「そうだね。」

まだドキドキいっている胸を撫で下ろしつつ、教室へ入って行く。少なくとも、次の授
業がキールでなかったことが救いであろうか。

6時間目になり、今日は文化発表会で出すものを決めてるホームルーム。2−Aの出し
物は演劇になりそうだ。

「はいっ! はーいっ! やっぱり、碇くんと、惣流さんを主役に、ロミオとジュリエッ
  トがいいと思いまーーすっ!」

余計な提案をクラスの女の子がいきなり出して来た。

「ちょ、ちょっとーっ!!!」

びっくりして目をまるくするアスカ。

「おーっ! リアルだなっ! 俺もそれがいいと思うっ!」
「わたしもーっ! 他のクラスにはできない劇になりそうねっ!」
「それしかねーだろっ! うちのクラスはっ!」

クラス中が、やんややんやの大騒ぎになる中、シンジも必死の抵抗。

「ちょっと待ってよっ! ロミオとジュリエットなんて、恥かしいよっ!」

「何言ってんのぉ? 碇くんと惣流さんの仲は有名なんだから、今更大丈夫よ。」
「そうよそうよ。きっと見に来る人、いっぱいになるわよ。」

「ロミオとジュリエットがいいんなら、アタシとシンジじゃなくてもいいでしょっ!」

「惣流さんと碇くんがやるから意味あるんじゃない。」
「いつも通りの生活が、そのまま劇になるようなもんじゃない。やってよぉ。」

その後もいくつか劇の案が申し訳程度に出たものの、最終的に多数決を取った結果は、
シンジとアスカを主人公にしたロミオとジュリエットが圧倒的だった。

放課後。

帰宅の準備をし肩を並べカバン持つシンジとアスカ。

「なんで、アンタなんかとっ!」

「ぼくだって、好きでロミオなんかっ! アスカとなんかっ。」

「ぬわんですってーっ! 帰ったら、覚えてらっしゃっ!」

肘でシンジの脇腹を小突きながら、アスカが教室から出ようとした時、トウジを始め幾
人かのクラスメート達がわらわらと集まって来た。

「よぉっ! シンジ。劇の打ち合わせをせなならんから、これからお前らの家に集まる
  ことなったんや。ええやろ?」

「なんだってーーーーーーーーーーっ!!!」
「ぬわんですてーーーーーーーーーっ!!!」

「委員長は今日は用事で来れへんちゅーとるけど、配役のある奴らみんなで行くさかい
  よろしゅう。」

「ちょっと待ってよっ! 急に困るよっ!」
「そうよっ! いきなり来るって言われたって、何の準備もっ!」

「なんやぁ? ワイらに見られたら困るもんが、あちこちにあるんか?」
「いやーんな感じっ!」

「違うわよっ!」

「なら、ええがな。」

「わかったわよっ! 来りゃーいいでしょっ!」
「えっ!? アスカっ!?」

「別に来るくらいかまわないでしょうがっ!」

「よっしゃ、決まりやっ! みんな、家帰ったらすぐシンジん家集合やっ!」
「おーーーっ!」
「碇くんと惣流さんの家、楽しみだわぁっ!」

こうしてトウジ,ケンスケを含む男子5名,女子4名の劇の役のあるメンバーが、シン
ジの家へ集まることとなった。

アスカの奴っ!
いっつも勝手に決めてっ!
これだから、単純だってんだよっ!
変なことにならなけりゃいいけどなぁ・・・。

嫌な予感がしてならないシンジだったが、どうすることもできず。そのままアスカと一
緒に見かけ仲良く学校を帰って行くのだった。

<コンフォート17マンション>

2人が家に帰り着替ている間に、次々とやってくるクラスメート達。禄に心の準備もで
きないまま、あっという間にリビングに一同が集合した。

「ねぇねぇ。役名をロミオとジュリエットじゃなくて、シンジとアスカにしない?」

「ブッ! バカ言ってんじゃないわよっ! 絶対やーよっ!」

「やっぱり、そこまでしたら先生に怒られるんじゃないかしら?」

「ほやほや。劇は劇やで。」

わけのわからないことを1人の女の子が言い出したが、トウジ達も反対してくれたので
なんとか阻止できたようだ。

「わぁ、惣流さんと碇くんって、夫婦(めおと)茶碗なんだぁ。」

目をキラキラさせて食器棚に置かれている夫婦茶碗を見つける女の子。実は、ゲンドウ
とユイの物であるが・・・。

「そりゃ、婚約者だもんねぇ。それくらいあるって。」

「おそろいのコップとかお箸もあるのね。」

「あったりまえじゃん。」

「いいなぁ。」

今日のキールのこともあるので、嘘がばれないよう伏線を張っておくアスカ。ゲンドウ
とユイのもので簡単に仲の良いことをアピールできるなら安いものだ。

「ほれやったら、枕もおそろいなんかっ?」

「げっ!」

順調に話を進めていたアスカだったが、トウジが余計なことを言ってきた。枕どころか
別々に布団を敷いているなんて言ったら、どんな反応が返ってくるかわからない。

「も、も、もちろんよ。でも、寝室は見せないわよ。」

「べつに、見たーないわい。」

「それより、早く打ち合わせしましょ。」

なんとか誤魔化すこともでき、劇の打ち合わせに話を無理矢理引き戻して行く。これ以
上突っ込まれると、いつボロが出るかわからない。

「ほんでや、最後のキスシーンって、ほんまにするんか?」

「ぬわっ!」
「なんだってっ!」

パラパラと台本を見ながら何気なく言ったトウジの言葉に、くわっと目を見開くアスカ
とおったまげるシンジ。

「別にしてもいいんじゃない? 婚約者なんだし。」

「そんなの先生が許すわけないでしょーがっ!」

必死で、本当に必死で抵抗するアスカ。

「ちゅってするくらいならわからないんじゃない?」
「惣流さんと碇くんなら、挨拶みたいなもんでしょ?」
「ほやほや。やっちまえぇ。」

「バカ言ってんじゃないわよっ! だいたい鈴原っ! アンタそういうの嫌いだって言っ
  てたじゃないのっ!」

「劇やったら別や。」

「コイツ、本当は好きなんだよ。」

「ほんなことあるかいっ!」

しかしシンジは、最初の印象と違い表向きは硬派だが本当はトウジは結構エッチだった
ことを、この数日でよくわからされていた。

や、やばいよっ!
どうするんだよっ!

なんとか誤魔化そうと必死で頭を回転させるが、妙案がまったく浮かばずただ黙りこく
るシンジ。

「キスなんてしたら、先生にばれない?」

「そうよっ! ばれるわよっ! やっぱりダメよっ!」

1人の女の子の案に食い下がるアスカ。

「ばれるかどうか、やってみなわからんがな。」

「ばれてからじゃ遅いでしょうがっ!!!」

「じゃぁ、どんな感じか今やってみせてよ。」
「そうだっ! ばれるかどうか、見てやるよっ!」
「それ、いいわねっ!」

「なんだってーーーーーーーーーーーっ!」
「ちょ、ちょっとっ! 待ちなさいよっ!」

話がとんでもない方向へ進みだした。おったまげるシンジと、冷や汗を掻き始めるアス
カ。しかし、その場はもうキスムードで盛り上がりまくってくる。

「「「キースッ! キースッ! キースッ! キースッ!」」」

手拍子まで叩いて、キスコールが起こり始める。

「そんなのすぐできるわけないでしょっ!」
「そうだよっ! ちょっと待ってよっ!」

「「「キースッ! キースッ! キースッ! キースッ!」」」

「やめてって言ってるでしょっ!」

「どうしたのよ? いつもやってるんじゃないの?」

「そりゃ、そうだけど。なにも今しなくてもっ!」

「どうせ、結婚式ではみんなの前でするんでしょ? 練習よ練習。」

「結婚ーーーっ!????」

半ばパニックに陥りながら、結婚の相手の方を見ると頭を抱え込んでうっぷしている。

ぬわんでこのアタシがこんな奴とっ!
結婚なんかするもんですかっ!

一方シンジは頭を抱え込んで、必死で切り抜ける方法を考えていたが、ただでさえ凡才
なのに、パニックに落ちいった彼に何の考えも浮かぶはずがない。

なんとかしなくちゃ。
逃げなくちゃ駄目だっ! 逃げなくちゃ駄目だっ! 逃げなくちゃ駄目だっ!
あーーーっ! どうすりゃいいんだっ!
わかんないよーーーーーーーっ!

「「「キースッ! キースッ! キースッ! キースッ!」」」

「キスなんかしないって言ってるでしょっ!」

「なんや? お前ら、婚約者とかいいながら、もしかしてキスしたことないんちゃうか?」

ギックーーーーっ!!!

トウジの一言に仰け反るアスカ。シンジもその横で真っ青になっている。

「そ、そんなわけないでしょっ!」

「ほやかて、婚約者のくせにえろーキスくらいで嫌がっとるやないかぁ?」
「えー? 婚約者って言ってもその程度なのぉ?」
「なんだぁ、お友達くらいなの?」

やばい。こんなことが噂になってあのキールにでも伝わったら、どんなことを仕出かす
かわかったものではない。

停学とかになったら。
ママが帰って来ちゃう。
せっかくのママの夢が・・・。

「シンジっ! キスするわよっ!」

「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!?」

輪を掛けておったまげるシンジ。

「「「おーーーーーーーーっ!」」」
「「「きゃーーーーーーーっ!」」」

雄叫びを上げる男子と、黄色い声を響かせる女子。

「えーーーっじゃないでしょうがっ! キスよっ! キスっ! 怖いのっ!」

「別に怖くなんか・・・。いいよっ! キスくらいっ!」

冷蔵庫の前に立つシンジとアスカ。2人に9人のクラスメートが視線を集中させる。

「いくわよっ!」

「うん。」

近づくアスカの顔。

目を閉じる。

空気の向こうに、アスカの温もりが・・・。
空気の向こうに、シンジの温もりが・・・。

鼓動が高鳴るアスカ。

足が震えるシンジ。

そして2人は・・・。

直立したまま。

そっと。

ゆっくりと。

距離をゼロにし。

唇を重ね合った。

「「「うおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」」」
「「「ひゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」」」

男子と女子が一斉の歓声を上げる。

唇はまだ重なり合ったまま。

その歓声にシンジが、目を薄く開く。

そこには・・・。

うっすらと涙を閉じた目に滲ませたアスカの顔。




アスカ・・・。




そっとシンジが手を持ち上げ。

周りにわからないように、アスカの頬に両手を沿えてその涙を親指で何気なく拭う。

そして。

「いたっ! いたたたたたたたたたたたたたたたたたたたたっ!!!!」

シンジが突然、お腹を押さえて蹲った。

「ど、どうしたのっ!」

驚いてアスカも目を開ける。

「きゅ、急に、お腹が・・・。」

「どないしたんやっ! シンジっ! 惣流に当たったんかっ?」

「なんだか、わかんないよ。ご、ごめん・・・今日はみんな帰ってくれないかな?」

「大丈夫かいなっ?」

「うん。ちょっと、横になりたいんだ。みんなごめん。」

「ほういうことなら、しゃーないなぁ。後は嫁はんに任せて帰ろかいなぁ。」
「そうねぇ。碇くんお大事に・・・。」

それまで歓声を上げていたクラスメートだが、シンジの非常事態にそれどころではなく
なり心配そうな顔で次々と家を後にしていく。そして、最後の1人を見送りアスカが玄
関から戻ってくると・・・。

「アスカ、タオル濡らしておいた。口、拭けばいいよ。」

「アンタ・・・。」

「やっぱり、ぼくが嫌だって言えば良かったんだ。ぼくが・・・。ごめん。」

シンジの顔をマジマジと見返すアスカ。

「気休めかもしれないけど・・・。タオル。これ。」

「アンタ・・・。」

目をゆっくり細め、黙ってシンジを見る。

「いらないわよっ。べつに。」

「だって。」

「アンタ、やっぱりどーしよーもないバカねっ!」

「ごめん。」

「このアタシのファーストキスの相手は、アンタだった。それだけのことよ。
  あーぁ、これがアタシの運命だったなんてねぇ〜。」

アスカはシンジからタオルを受け取らず、そのままリビングを部屋に向かって横断する。

「今日はアンタが当番なんだから、ご飯作っときなさいよっ!」

「うん。」

「アタシは疲れたから、ちょっと休憩するわっ!」

そう言いながら、アスカは部屋に入ると布団に倒れ込みじっと天井を見上げ・・・。




アイツ・・・。




そして、シンジが涙を拭い手を当てた頬にそっと自分の手を当て、唇を指でゆっくりと
なぞるのだった。

<第3新東京市>

次の首都に予定されているこの街の高速道路。まだ車も少ない為、わりとスムーズに車
が流れている。

ヘッドライトが交錯するそんなハイウェイを、青いルノーが駆け抜ける。

「ったく! 無茶な投資するから、家までなくなったじゃないか。」

「ちょっと、やりすぎたかしら?」

「ちょっとじゃないだろ?」

「でも、大丈夫。当てがあるのよん。」

「そこは確実なんだろうな?」

「家の人がねぇ、数年は南極に行ってるはずなのよ。こないだ、ちょこっと内緒で合鍵
  作ったのよねぇ。しばらくそこで暮らせるわ。」

「おいおい、泥棒みたいじゃないか。」

「失礼ねぇ。何も取りゃぁしないわよ。留守番してあげるだけじゃない。その方が家も
  綺麗なままだし。いいことばっかでしょ?」

「物は言いようだな。ま、ホームレスになるよりはマシか。」

「そうよん。今は誰もいないはずだから、しばらくは安心して暮らせるわ。」

「もし、誰かに貸してたらどうするんだよ。」

「決まってるでしょ?」

「なにがだ?」

「追い出すまでよっ!!」

ハイウェイを降りて行く青いルノー。タイヤは、コンフォート17マンション目指し回
り続ける。

To Be Continued.
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