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エヴァリンピック
Episode 15 -恋の行方 〜Asuka II〜-
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<アスカの家>

関東大会。全国の高校の中でも優勝候補となっているシンジの学校は、今年も関東大会
で好成績を収めることができ、シンジも全国大会への切符を手にしていた。

しかし去年程、相田工業のプロテクタはアドバンテージを発揮しなかった。エヴァ用品
他社も、ハイテク装備プロテクタを発売し他高も導入したためだ。
これはプロの世界でも同じ現象がおきており、今後しばらくの間展開されるエヴァ装備
のハイテク戦争の幕開けの年となった。



そんなエヴァ用品界が大きく揺れ動いている時期、全く関係の無いところで赤く長い髪
の少女の心も大きく揺れ動いていた。

「はぁ・・・。」

勉強机を前に両肘を付き椅子に座る少女、惣流・アスカ・ラングレー。その前には、開
かれた1冊のノートとシャープペンシルが無造作に転がっている。

「はぁ・・・。」

また溜息。少女は物思いにふけるかのように、焦点の定まらぬ目で頬杖をつき溜息ばか
りを繰り返す。

アスカは思う。

あのバカ・・・。

それは、今日の昼の出来事だった。

                        ●

<学校>

放課後、授業が終わりクラブ活動が始まる前の僅かな時間の隙間。シンジはこの間のテ
ストの点数が悪かったせいで、先生に怒られていた。

「いいわね。授業を聞いていたらわかるレベルなんだから、もうちょっと頑張りなさい。」

「はい・・・。」

「じゃぁ、今日はもういいわ。」

「はい・・・。」

勉強のことで怒られると手も足もでなくなるシンジは、がっくりと肩を落とし疲れきっ
た顔で職員室を後にした。

「疲れたなぁ。わからないんだもん、仕方ないじゃないか。
  はぁー。気分を取り直して、クラブに行こっと。」

一度大きく伸びをし、少し遅れてしまったので急ぎ学校のコロシアムに向かおうとした
時だった。シンジの下駄箱の前で、3年生の先輩が数人たむろっているのが見えた。

「よぉ。碇シンジだな。」

「え・・・はい。」

「お前、最近調子に乗ってるみたいだな。」

「なんのことですか?」

「マネージャ2人にちやほやされてよ。卒業した新見先輩から伝言だ。これ以上、マネ
  ージャに近付くなだとよ。」

「ぼくは、ただクラブをしてるだけで・・・。」

「ほぉ。ま、いいけどよ。さっき、OBの先輩来てたしな。」
「今頃、マネージャ2人とも、OBの先輩達に遊びに連れて行かれてんじゃねーか?」

「なんだってっ!?」

「いいことしてるかもなぁ。ひひひひひ。」

「くっ!」

いやらしい笑いを浮かべる先輩など相手にしている余裕もなくなったシンジは、慌てて
いつもクラブが始まる前にアスカとマユミが向かう部室へ走った。

部室の近くへ行くと、案の定自転車置き場の影の少し離れた2箇所で、アスカとマユミ
がOBの先輩3人づつに壁際に追い詰められていた。

「あっ!!」

エヴァのソードを手にし走り寄る。

「あっ。シンジっ!!」

レギュラーにもなれず、卒業した新見の子分のようなことをしていた先輩達に言い寄ら
れ、困った顔をしていたアスカが、パッと顔を明るくしこちらを振り向く。

「山岸さんっ!」

だがシンジは、アスカに向かって手にしたソードをぽーんと投げつけると、振り向きも
せずマユミの元に駆け寄ったのだ。つまり、アスカはほおっておかれた形になる。

「すみません。やめてください。」

マユミと先輩達の間に割って入るシンジ。

「なんだよ。碇。あいつらから、マネージャに近寄るなって聞いてないのかよ。」

「山岸さん、嫌がってるじゃないですか。」

「レギュラーになれたからって、調子に乗ってんじゃねーよ。」

「山岸さんと関係無いじゃないですか。」

「お前見てるとムカつくんだよっ!」

眉間に皺を寄せながら、シンジの太ももを蹴ってくるOBの先輩達。だがシンジは抵抗
する様子もなく、ただひたすら我慢してマユミの前に立ち、彼女を守りつづける。

「なんだよ。レギュラーのくせして、俺たちが恐いのか?」
「レギュラーなら、ソード抜いてかかってこいよ。」
「レギュラーの力、見せてちょーだいよ。ケケケ。」

「エヴァは、喧嘩のためにやってるんじゃないですっ!」

「なんだとっ!」
「お前のそんなとこが、ムカつくんだよっ!」

殴られ、蹴られながらも、無抵抗のままひたすら耐えつづけるシンジ。その横でマユミ
が必死で「やめてください!」と叫んでいる。

そして・・・1人取り残されたアスカは。

「さぁさぁ、惣流さんは俺達と遊びに行こうか?」
「あっちのことは、惣流さんには関係ないだろ?」

などと言い寄ってくるOBの先輩を前に、俯いたままシンジが投げつけてきたソードを
拾い握り締めている。

「ささ、おもしろいとこ見つけたんだぜ。」
「車に乗ってきてるんだ。一緒に行こうぜ。」

シンジのやつーーっ!
あー、そうですか。
いいわよ。べつに守ってなんかくれなくったって。

どーせっ! ア・タ・シはっ!!!!

ニヘラニヘラしながら先輩達が近寄ってきた瞬間だった。アスカは目を45度に吊り上
げると、キッと顔を上げた。

「ウルサイッ!」

「な、なんだよ?」

「それ以上近付いたら、ただじゃすまないわよっ!!」

「なんだこいつ・・・。」

「アンタらなんかと話するだけで、ヘドが出るっつってんのよっ!!」

「なんだとっ!」
「調子に乗りやがってっ!!」

「フンっ!!」

手にしていたシンジのソードをズバっと抜き取り、見下すような目でOBの先輩達を斜
めに睨みつける。

「アタシに勝てるつもりっ!? レギュラーにもなれなかった、ド・ヘ・タ!!」

ビシっと、ソードの切っ先を突きつける。

「こ、このアマっ!!」
「泣かして欲しいかっ!!」
「やっちまえっ!!」

「ハンっ!! アタシはシンジみたいにあまくないわよっ! 喧嘩ぁ? 上等じゃんっ!」

ニヤリと笑みを浮かべ、先輩達をロックオン。

「アンタらまとめて、1分よっ!!!!」

                        ●

その後の惨劇は、都合良くアスカの記憶からは消えうせたようだ。ただ、アスカに迫っ
ていた先輩に加え、シンジに暴行を加えていた先輩達も、ボロボロになって帰っていっ
たような・・・暴れる自分を、必死でシンジが止めてきたような・・・。

『アスカっ! やりすぎだっ。やめるんだっ!』
『ハンっ! このアスカ様に喧嘩を売った自分を呪うのよっ!!』
『だめだっ! そこまでしちゃっ! アスカっ!!!』

                        :
                        :
                        :

なんだか羽交い絞めにされて、シンジに止められたような気もするが、そんなことはア
スカにとって大した問題ではなかった。

「はぁ・・・。」

机を前にし、また溜息をつく。

そりゃ、マユミと違って。
アタシは自分のことくらい自分で守れるわよ。

いや、自分の身を守るどころか、シンジの予想を大きく上回る程、攻撃的だったのだが。
それは言わぬがなんとかだろう。

でもさ・・・。

あの事件の後、OBの先輩達が立ち去るや、マユミは涙を浮かべてシンジに抱きついて
いた。

『大丈夫っ!? 碇くんっ! ごめんなさい。わたしの為にっ!』
『試合に比べたらたいしたことないさ。山岸さんが、なんともなくて良かったよ。』
『うん・・・。碇くん、ありがとー。』

涙を流しながら、シンジの怪我の手当てをするマユミは、なんとも可愛らしく女の子ら
しかった。それに比べて自分は・・・。

ソード片手に、何人もの男の先輩を殴り倒し仁王立ち。本当に仁王様のような姿で、女
の子らしさのかけらもない。

「はぁ・・・。」

アタシだって、シンジが守ってくれたらあれくらい・・・。
シンジが守ってくれたら。

『シンジぃぃぃ。恐かったよぉぉ。ありがとーーー。』
くらい言えるんだからっ。

だいたいシンジもシンジよっ!
女のコが男どもに囲まれてるのに、ソードをアタシに投げつけるってどーいうことよっ!
あれが、野獣に狙われたレディーに対する態度っ!?

もっともOBの先輩達からすれば、アスカこそが野獣だと目に映ったであろう。そして、
今後2度とアスカを狙うやからは現れないことだろう。

「はぁ・・・。」

何度目の溜息だろう。アスカはべたりと机の上に上半身を寝そべらせ、だらしない格好
で椅子に座り、机の上に飾ってある、この間の関東大会の時に取ったプラグスーツ姿の
シンジの写真を、指の先でコツコツとこつく。

アンタにとってアタシは何?

コーチ?
同じクラブのマネージャ?
幼馴染?
同じ学校の女の子?

ただの・・・友達?

去年から同じクラブの同じマネージャとしてマユミと時間を共に過している。そしてマ
ユミがシンジに好意を持っていることは、アスカにも明らかにわかっていた。

シンジも・・・マユミのこと好きなのかな。

これまでもシンジとマユミが2人っきりになったこともよくあったし、2人で楽しそう
に話をしていることも幾度も見た。

その度にアスカは、自分はシンジと同じ夢を実現しようとしているコーチだという立場
を自分に言い聞かせ、特に邪魔をするなどプライベートを阻害するようなことはしなか
った。

なんだか。
辛いな。

アンタにとってアタシは何・・・。

ううん。

アタシにとって、シンジはなんなんだろう?
アタシにとって・・・。




「ハンっ!!」

椅子の上で両手を上げ、大きく伸びをする。

「アタシらしくもない。くよくよしたってはじまんないわっ! テレビ見よっと。」

自分の部屋にある14インチの小さな液晶テレビのスイッチを入れ、いくつもある衛星
放送のチャンネルを変えて見たい番組を探す。

「なにもやってないわね。こんなときに限って。」

映画、ドラマ、アニメ、ニュース、ショッピング、スポーツ・・・くるくる回るチャン
ネル。そして・・・。

「んっ!? あーーーーーーーっ!!!」

突然、それまで悩んでいたことなど一気に吹き飛ぶような映像が、アスカの目に飛び込
んで来た。

全米 ヒットチャート No.1 「Have a happy dream !」

作詞 MANA KIRISHIMA
作曲 MANA KIRISHIMA
歌   MANA KIRISHIMA

「マ、マナだーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

プロモーションが流れると同時に、バックグラウンドからマナについての簡単な解説が
聞こえて来る。

ある程度オブラートに包んで解説されているが、こういうことだった。結局、音楽事務
所はやめなかったものの、自分で作詞、作曲すると強く押し切ったマナは、しばらく干
されたような状況になりNew Singleを出せなかった。

そして、ようやく念願の作詞、作曲を自分で行ったSingle発表。業界から白い目
で見られ、前評判もよくなかったこの曲だったが、リスナーには受け入れられた。

そして、発売しわずか数日で、ヒットチャート No.1の快挙達成!

マナがアイドルから、本物のアーティストに羽ばたいた瞬間であった。

「マナだっ! マナ、マナ、マナっ! 連絡くらいしなさいっつーのっ!!
  やったーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

大慌てで自分の鞄をひっかきまわし、携帯電話を取り上げると、すぐさま電話をかける。

プルルルルルル。
プルルルルルル。

早く出なさいっつーのっ!

プルルルルルル。
カチャ。

『Hello・・・? ふぁぁぁ。』

「マナーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

『キャーーーーっ!!!』

「ん? どしたの?」

『ア、アスカぁぁ? い、いきなり、耳元で叫ばないでよっ!!』

「叫ぶわよっ!!!!!」

『叫ばないでっ!』

「やったじゃんっ!! マナぁぁぁぁぁっ!!」

『なにがよぉぉ。こっちは、やっとレコーディングが終わって、へとへとなのよぉ。
  ふぁぁぁぁぁ・・・。』

「Single発売、おめでとーーーーっ!!!」

『ありがと・・・、ん? なんでSingle出したこと知ってるの? まだメールして
  なかったはずだけど?』

「そうよっ!! なんで教えてくんないのよっ!!」

『だって、全然ダメだったら、またわたしのこと心配するでしょ。ちょっとはわたしだ
  って、アスカにも気つかってあげてんのよ。』

「はぁ???? って、アンタもしかして・・・知らないの?」

『なにが? ふぁぁぁぁ、眠いよぉぉ。』

コ、コイツは・・・。
アタシのまわりには、すっとぼけたヤツばっかりだわ。

「テレビ見てみなさいよっ! 音楽番組っ!!」

『えーーー。いやよぉぉ。恐いもん。』

「いいからっ!!」

『今、オフなんだから、ショック受けるのは事務所に行ってからでいいのぉ。』

「いいから見なさいっつってるでしょうがっ!!! このバカっ!!!」

『怒んないでよぉぉ。』

しぶしぶと言った感じだったが、電話の向こうでテレビをゴソゴソつけて、チャンネル
を切り替えている音が聞こえてくる。そして数秒後・・・。

『キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!』

悲鳴。絶叫。受話器から大音量の金切り声が聞こえてきた。

どうやら現実を知ったらしい。

「耳元で叫ぶなぁぁっ!!!」

『わたしぃぃっ! わたしぃぃぃぃっ!!!』

いつしか電話の向こうでは涙声になっている。

『わたしねっ! なにもかも捨てて、夢に向かってね。わたしね・・・。ぐすん。』

「おめでと・・・。」

『うん・・・。うん。ぐす・・、ぐすぐす。』

「これからが本当の勝負よ? がんばんなさいよ!」

『うん。うん。ぐすっ・・・ぐすぐす。』

それからマナと少しの間話をし電話を切った。ずっとマナは泣き続けていた。マナはあ
まり語らなかったが、その様子からSingleを発売するまで、作詞、作曲の苦労だ
けでなく、まわりの圧力など様々な面でどれ程苦労した結果なのかが痛い程わかった。

がんばれっ!
マナっ!!

音楽番組を見ていると、また違うチャンネルでマナの歌が流れている。

いい曲じゃん。

だが、先ほどは興奮して気付かなかったが、その歌詞はかつて3人で誓い合った夢・・・
について歌っているだった。



夢は自分で掴むもの!



夢・・・。

アタシの夢・・・。
アタシの夢は・・・シンジとエヴァリンピックに行くことっ!

『なにもかも捨てて、夢に向かってね。』

マナの言葉。

そうよね。
途方も無い大きな夢なんだもん。
それだけで精一杯。

アイツは全力でエヴァリンピックに向かって歩いている。
アイツの背中には、大きな大きな夢が乗ってる。

アタシより、アイツはもっと不器用だもん。
恋まで両立なんて無理よね。

そんな負担をアタシがアイツにかけちゃダメじゃん。

これがアタシの選んだ道なんだもん。
そして、アイツが選んだ道・・・。

アタシだって!
今は、夢を掴むんだっ!!

アスカはぶんぶんと頭を振って、さっきまで悩んでいたことを振り払うと、再び机の前
に座り、ノートに向かってシャープペンシルを走らせ始めた。

明日からは・・・っと。
鉄アレイをそろそろ3kgにして。
ターンダッシュと・・・。

シンジの成長に合わせ、いろいろなエヴァのコーチの体験談の本などを参考に、スケジ
ュールをたてていく。

よーしっ!
まずは、全国大会優勝よっ!

机の上の写真立て。その中のプラグスーツ姿のシンジの写真を、指の先でコツコツとこ
ついてニコリと笑いかけた。

<学校>

翌日クラブに出ると、既にシンジは先に来ておりベンチに座ってマユミと仲良さそうに
話をしていた。

「いいよ。大袈裟だなぁ。」
「駄目よ。昨日、怪我しちゃったんだし。じっとしててね。」
「たいしたことないってば。」
「ううん。わたしのせいで・・・。」

どうやら、昨日マユミを守って怪我をしてしまったところを、手当てして貰っているよ
うだ。

なにしてんだか・・・。

「シンジっ! 今日は鉄アレイを3キロに上げるわよっ!」

「そ、惣流さんっ! 碇くんは怪我してるんだから、今日は練習休みますっ!」

アスカが3kgの鉄アレイを2つ持って、シンジに手渡そうとすると、声を張り上げて
マユミが割って入ってきた。

「1日休むと、後が辛いしさ。間接とか痛めたわけでもないでしょ。それくらいの怪我
  なら心配ないわよ。」

「惣流さんっ! 前から思ってたけど、惣流さんの練習は厳しすぎますっ! 碇くんに思
  いやりがないのっ!?」

「思いやり?」

「怪我してるとき、休ましてあげるとか。」

「それが? 思いやり?」

「人として当たり前ですっ!」

「そうかもね。マユミの言うことも正しいわ。」

「ならっ!」

「でも、アタシの思いやりは、これよっ!」

持ってきた3kgの鉄アレイを2つ、シンジの前にドン、ドンと落とし、怪我をしてよ
うが情け容赦なく言い放つ。

「これを持って、ダッシュよっ!」

ここまで言っているのに、シンジをダッシュさせようとするアスカにびっくりしたマユ
ミは、慌てて2人の間に立ちはだかる。

「碇くんっ! そんなことしなくていいわよ。怪我が治ってから練習しましょ。」

「ありがとう。でも、ぼくなら大丈夫だから。」

だがシンジは足元の鉄アレイを取って、アスカと共にコロシアムの中央に向かって歩き
出す。

「碇くんっ!」



「ねぇねぇ、ほら、ほら、アスカっ! 3キロでも速く動かせるよ? 5キロでもいいん
  じゃない?」

シンジの目は既にアスカ・・・そしてエヴァの練習に向けられており、マユミの姿はも
うその瞳には映っていなかった。

「調子にのんじゃないのっ! 無理すると、筋肉痛めるからダメー。」

「チェッ!」

「それより、マナがさっ! マナがねっ・・・ヒットチャート・・・」

「えーーーーっ! ほ、ほんとなのっ! ほんとにぃぃっ!!!」



笑顔で話をしながら、歩いて行くシンジとアスカの姿。自分が手当てをしていた時より、
はるかに元気に、楽しそうに練習を始めるシンジの姿を、ただ見送ることしかできない
マユミ。

あの時、碇くんは惣流さんじゃなくてわたしを助けてくれた。

だけど・・・。

もし本当に惣流さんがピンチになったら、どっちを助けてただろう・・・。
その時は、碇くんの嫌いな喧嘩をしてでも・・・きっと・・・。



いつしかシンジは、アスカの指導の元、全国大会に向けて練習を始めている。
アスカの作ったトレーニングメニューを必死でこなすシンジの姿。

アスカを見るシンジの目には、圧倒的な信頼の色が伺える。

先輩に言い寄られた時も、自分が守らなくてもアスカなら大丈夫。
・・・それも彼女のことを理解している証。

アスカの作るトレーニングメニューなら、疑うことなく従っていられる。
・・・それも彼女のことを信頼している証。

あちこちにいる恋人の関係など及びもつかない、互いに、互いのことを完全に理解した
信頼関係。

シンジとアスカが、恋人同士のようないちゃついた行動をするところをマユミは見たこ
とがない。そんな噂も聞いたことがない。

2人が揃えば、練習、練習、練習・・・ただそれだけ。

それでもマユミは思った。

わたしはあの人・・・惣流さんには勝てない。
わたしの入り込む隙間は・・・どこにも見つからない。

青く澄み切った空を見上げるマユミの瞳から、綺麗な涙が頬の輪郭に添って一筋の軌跡
を描いたのだった。

To Be Continued.
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