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ポケ使徒
Episode 01 -旅立ち-
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<ミサトのマンション>

「シンちゃん、この家ちょっち出て行ってもらうことになったわ。」

ある朝のミサト発言である。

「どういうことよそれ! どういうつもりなの!?」

怒声を発したのは、シンジでは無く、横でお茶をすすっていたアスカだ。

「アスカ、仕方ないよ・・・。」

「なにが、仕方無いってのよ!」

「ぼくは居候なんだし。」

シンジは、もうしばらく3人で暮らしていけたらいいなと思っていた。しかし、やはり
ミサトさんは家族じゃなく上司だったんだと悲しくなった。

「それなら、アタシも出て行くわ! アタシも、同じ居候なんだから!!」

「もちろん、アスカもなんだけど。ちょっと、あなた達? ・・・。」

「なっ!」

アスカは、自分から出て行くとは言ったものの、まさか自分まで追い出される対象であ
ったとは思っていなかった。ミサトの言葉を遮って、怒声を発っする。

「なんですってー! わかりましたよ。さっさと荷造りして出て行きゃーいいんでしょ!」

「ちょっと、あんた達、何か勘違いしてない? 話は最後まで聞きなさい。」

「なによ。」

「誰も、追い出すって言ってるわけじゃないでしょ。仕事で出張してもらいたいだけよ。」

悲壮な表情で成り行きを見守っていたシンジの顔に安堵の色が戻った。

「それなら、そうと早く言いなさいよ! びっくりするじゃない。」

シンジとアスカが、こういう発想をしたのも無理はない、使徒との戦いが終わりエヴァ
は凍結された。元々、仕事上の都合でミサトのマンションに住むことになった2人は、
口には出さないが、いつまで住んでいられるのか、不安を抱いていたのだ。

「突然で悪いんだけど、この場所に行ってほしいの。」

ミサトは、旅に出る為のリュックサックと、マサラタウンの地図を手渡した。

「シンちゃんには、ポケ使徒を退治してもらうことになったの。そして、アスカは後方
  支援兼、シンちゃんの管理係りをお願いするわ。定期連絡は絶対に忘れないようにね。」

ミサトはそう言って、長距離携帯電話をアスカに渡し、シンジには2つのモンスターボ
ールを渡した。
マサラタウン周辺には、151種類のポケ使徒が生息している。元々は、ポケモンが生
息していた地域であるが、セカンドインパクトに続く、使徒との戦いの影響でポケモン
が、ATフィールドを持つ使徒と化してしまい、人々を襲いだしたのだ。

「ボクに、ポケ使徒と戦えということですか?」

「ちょっと待ってよ! それなら、なんでアタシが後方支援なのよ!」

アスカは、自分がメインでないことを知り、ぶーたれる。

「今、シンちゃんにわたしたモンスターボールには、この世で最強のポケ使徒が入って
  いるわ。ただし、シンちゃんの言うことしか聞かないのよ。」

「む〜! アタシ降りる!」

しょーがないわねーと言った顔で、ミサトはアスカの耳元で何やらささやく。その途端、
アスカの顔に笑顔が戻った。2人は、シンジに聞こえないように、コソコソと会話のや
り取りをする。1分少々の内緒話をが終わるころには、アスカはやる気まんまんになっ
ていた。

「わかったわ、シンジの監視はこのアタシが、しっかりするわね。」

ミサトさんは、監視じゃなくって、管理って言ったはずなんだけど・・・。

ニヤニヤしている2人に、シンジは嫌な予感を覚える。

「じゃー2人とも、荷物持ったらわたしの車に乗ってね。ネルフまで送るわ。」

「いえ、電車で行くからいいですよ。」

おどおどと、シンジはミサトの車に乗ることを拒む。

「あっらー、しばしのお別れじゃない。送ってあげるわよん。」

「ミサトの車なんかに乗ったら、マサラタウンに到着する前に、あの世に到着するじゃ
  ないのよ。」

アスカもミサトの車に乗ることを拒否する。

「人聞きの悪いこと言いう子ねぇ。」

「真実じゃない。余計なことしなくていいから、ミサトは家に残ればいいのよ。ネルフ
  に着いた後は、飛行機で送ってもらえるんでしょ?」

「ところで、ミサトさん、他には誰が行くんです?」

「ポケ使徒狩り自体は、全世界で実施されているけど、ネルフからのメンバーは、あな
  たたちだけよ。」

「えーーーーー そんなぁ・・・。」

「何が、そんなぁよ!」

「ポケ使徒よりも・・・アスカの方が・・・恐い・・・。」

アスカに聞こえない声で、ボソボソと文句を言うシンジ。

「なに、ブチブチ言ってるのよ! 時間無いんだから、さっさと出かけるわよ!」

シンジは、2人分の荷物を持たされ、アスカと共にネルフへと向った。

<マサラタウン>

「ふーん、ここが有名なポケモンマスターを、幾人も生み出したマサラタウンね。」

アスカは町を見渡し、なにやら感動している。

「ねぇアスカ、このモンスターボールには、何が入っているんだろう?」

「出してみたらいいじゃない。持ち主はあんたでしょ。」

「勝手に使っていいのかなぁ?」

「あ・ん・た・がぁ 持ち主なの! 好きに使っていいに決まってるじゃない! それに
  アタシだって興味あるしぃ。」

「そうだね。」

シンジは、モンスターボールを地面に投げる。モンスターボールが地面に当たると、青
い光に包まれ、中から人の形をしたポケ使徒が姿を現した。

「あ・あ・・あっ・・・。」

目の前に繰り広げられる光景に、アスカは絶句し声にならない。光の中には、レイが立
っていたのだ。

「あ、綾波! ど、どうして?」

「なに?」

レイは静かにシンジの近くに歩み寄ると、無表情で話し掛ける。

「なにって・・・。」

「何か用?」

「いや、特に用があるわけじゃないんだけど。」

「そう、用が無いなら、モンスターボールに戻るわ。」

「ちょ、ちょっと・・・。待ってよ、綾波。」

「なに?」

「どうして綾波が、モンスターボールに入っているのさ。」

「命令だから。」

シンジとレイがやり取りしている間、アスカはブツブツつぶやいていた。

「ミサトぉ騙したわね! なぁにが『新婚気分で旅行に行ってきなさいよ。』よ! 2人
  っきりじゃないじゃない!」

シンジは、レイを牢獄か何かに押し込めるようで、レイをモンスターボールに帰したく
なかった。

「戻らなくていいよ、こんな中になんか。」

「どうして?」

「どうしてって・・・。」

冗談じゃないわ! このまま、レイに付きまとわれたら、それこそせっかくの旅行が台
無しじゃない!

「まーいいじゃない。呼び出したらいつでも会えるんでしょ。」

アスカは、なんとかレイをモンスターボールに帰そうとする。

「用が無いなら戻るわ。」

レイは一言残して、モンスターボールに戻って行った。

「あ、綾波・・・。」

「ねぇ、シンジ。こっちがファーストだとすると、もう一つの方には、誰が入っている
  のかしら?」

アスカが話題をそらす。

「え?」

こっちが綾波なら、もう片方は・・・たぶん・・・。

「アスカの知らない人だと思うよ。」

「誰よ! それ。」

「いずれ話すよ・・・。」

興味半分のアスカの言葉に、シンジは辛そうな顔で呟く。

「わかったわ。」

アスカはそれ以上追求しなかった。

<豪華ホテル>

「さって、今日はここに泊まるわよ。」

「もう少し小さい旅館にしない?」

「いいじゃない。旅費は全てネルフ持ちなんだし。このゴールドカードがあれば、どこ
  にでも泊まれるわ!」

「でも、なんだか、こういう所って落着かなくって。」

「なっさけないわね。わかったわよ、じゃぁ、旅館ならいいのね。」

「ご、ごめん。」

「まぁ、いいわよ。旅館の方が、雰囲気いいかもしれないし。」

シンジとアスカは、豪華ホテルを離れ、料理のおいしそうな和風の旅館を探した。

<旅館の受け付け>

旅館に到着すると、アスカが率先して部屋の予約をしている。

「2人部屋お願いします。」

「では、201号室を、ご用意いたします。食堂は、その廊下の突き当たり、大浴場は
  、そちらの廊下を・・・」

一通りの説明を受けると、アスカは部屋のキーを預かり、シンジの元に戻ってきた。

「201号室だって、さっ、行きましょ。」

アスカは、目の前で今預かったばかりのキーをぶらぶらさせている。

「ぼくの部屋は?」

「同室に決まってるでしょ!」

「えええええぇ!」

「いつも一つ屋根の下で暮らしてるんじゃない。旅館だからって過剰反応しないでよね。」

「で、でも・・・。」

「なに、意識してんのよ。」

「そういうわけじゃ・・・。」

「じゃ、いいじゃない。行きましょ。」

<旅館の201号室>

ドサッ。

シンジは運んできた2人分の荷物を、畳の上に置く。

「へぇ、いいんじゃない? こういうのも。」

部屋は、純和風にまとめてあり、床の間や障子、襖といったものが見える。アスカは、
日本に来てから、ある程度日本の生活に馴れたものの、こういった、純和風の部屋とい
うのは初めてだった。あちらこちらを興味深く見てまわる。

「アタシ、障子とか床の間って、生で見るの初めて。」

「だろうね、最近はめったに見かけないし、第3新東京市はマンションばっかりだから、
  こんな家は無いだろうしね。」

「へぇ・・・、いいわねぇ。」

この部屋は、かなりアスカのお気に召したようであった。

「大浴場も見てみたいわね。アタシからお風呂に入ってくるから、部屋で待っててね。」

「うん。わかった。」

アスカは言うが早いか、旅館で用意されていたタオルと浴衣を持つと、スリッパを履い
てパタパタと出ていった。

シンジは、アスカのいなくなった部屋を見渡す。

ぼくも、こんな部屋は初めてだな。落ち着く感じでいいなぁ。

ぐるりと部屋を見渡すと、2つのモンスターボールが目に入った。シンジは、1つのモ
ンスターボールを右手で掴む。今日、使った方のモンスターボールだ。

こっちが綾波・・・ 。

リュックサックの上に置いてある、もう1つのモンスターボールを左手で持ち上げる。

ということは、こっちは・・・。たぶん・・・。

シンジは、左手に握られているモンスターボールを見つめる。

「カヲルくん・・・なの?」

モンスターボールに向って話し掛けるシンジ。

「ぼくは、カヲルくんに会う資格があるの?」

再び、モンスターボールに話し掛けるシンジ。

「カヲルくん・・・。」

ピカッ。

モンスターボールが白い光につつまれる。その光の中には、レイの時と同様に、人の姿
が映し出された。

「ひさしぶりだね、碇シンジ君。風呂にさそってくれるのかい?」

「カヲルくん・・・ ぼくは、その・・・ 本当はカヲルくんを助けたかったんだ。だけ
  ど・・・、ぼくは・・・。」

「謝る必要は無いよ。あれはボクの望んだことだ。」

「だけど・・・。」

「何を悩むんだい? ボクはここにいるじゃないか。シンジ君の取った判断は間違って
  はいないよ。もっと、自分に自信を持つ必要があるよ、君は。」

「う、うん。ありがとう。」

カヲルの言葉は、いつもシンジの心を癒す。シンジは心が晴れていくようだった。

「さぁ、風呂に連れて行ってくれるんだろ?]

<旅館の男子浴槽>

風呂場も純和風の作りをしていた。壁には富士山が描かれており、作りはネルフの銭湯
に似ている。ただ、浴槽が3つあり、その1つ1つが、ネルフの物より大きかった。
シンジとカヲルは、一番大きな浴槽に浸かっていた。2人以外には人はいない。

「風呂はいいねぇ。リリンの生み出した文化の極みだよ。それに、ここは広くて気持ち
  がいいね。そうは思わないかい?」

「そうだね・・・。」

とりあえず返事はしたが、シンジは別のことを考えていた。

このカヲルくんは、やはり、2人目なのかな? ということは、綾波と同じように、他
にも体があるってことなんだろうか?

「今日は、この前の様にすぐに消灯にはならないんだろ?」

「え、う、うん。」

「やはり風呂は、ゆっくりと入るに限るね。」

しばらく話をした後、シンジとカヲルは、体と頭を洗った。最後に再び浴槽につかった
が、カヲルはなかなか出ようとしない。シンジは、アスカのことが気になって仕方が無
かった。

部屋で待ってるって言ったのに・・・。もし、先にアスカ帰ってしまったら・・・。

しかし、いつまで待ってもカヲルは風呂から上がろうとしなかった。

「カヲルくん? そろそろ出ようよ。」

「もう少しいいじゃないか。」

カヲルは目を閉じて、風呂を楽しんでいる。

「・・・・・・・。」

そして、また時間が過ぎていく。

「カヲルくん? そろそろのぼせてきたから、出ようよ。」

「そうかい? じゃぁ、そうしよう。」

ようやく、シンジは風呂から出ることができた。急いで浴衣を身にまとうシンジ。カヲ
ルは客扱いになっていないので、風呂に入る前の服をそのまま着る。

「アスカが待っているといけないから、早く帰ろうよ。」

「そうか、それでシンジ君は、早く風呂から出たかったんだね。」

「いや・・・、そういうわけじゃ・・・。」

「じゃ、急いで部屋に戻ろうか。」

<旅館の201号室>

シンジ!! どこ行ったのよ!! 部屋で待ってるって言ってたのに!!

いつまで待っても帰ってこないシンジに、ご機嫌斜めのアスカである。最初は風呂にで
も、行ったのかと思っていたが、シンジの風呂にしては遅すぎる。時間が経つにつれ、
シンジの身になにかあったのでないかと、悪い方に想像を働かせる。心配が募り、どん
どん不機嫌になっていった。

せっかく、湯上がりの浴衣姿・・・見てほしかったのに・・・。

肌から蒸気が出なくなったころ、シンジとカヲルが帰ってきた。

ガチャ。

部屋の扉が開く音がする。

「シンジ!?」

「うん。遅くなってごめん。」

文句を言いながら、アスカはシンジの所へ走りよる。

「シンジ! 遅いじゃない! どこほっつき歩いて・・・って、 誰その子?」

シンジ1人だと思って、いつものように怒声を上げたアスカも、シンジの横に立ってい
る美形の少年が目に入り、おとなしくなる。

「あぁ、紹介するよ、もう一つのモンスターボールに入っているカヲルくんだよ。」

「あー、彼が・・・。はじめまして、惣流・アスカ・ラングレーです。」

初対面なので、丁寧にアスカは挨拶した。

「キミは、赤鬼のように赤い髪だね。好意に値するよ。」

「あ、あ、あかおにぃぃぃ????」

「キミにとって、好きと嫌いは等価値なのかい?」

「は?」

「ボクのシンジ君のことを、好きなのに、いつも嫌いと言ってるじゃないか。ボクには
  理解できない感情だね。」

「ア、ア、アンタバカぁ〜〜〜〜〜!!!?」

アスカは、カオルの言葉を打ち消すように、真っ赤になって叫んだ。

「そろそろボクは戻るよ。今日は、ゆっくりと風呂に入れなかったけど、次はゆっくり
  入りたいね。」

「うん。そうだね。」

シンジはカヲルに手を振っているが、アスカはそんなことは許せなかった。

「ちょ、ちょっとまちなさいよ! アンタ!」

しかし、既にカヲルの姿は無かった。アスカの怒りは、必然的にシンジに向く。

「シンジ! アタシがあそこまで言われて、腹が立たないの!?」

八つ当たりである。

「さぁ、カヲルくんの言うことは、よくわからないことが多いから。」

「なんなのよ! あいつはぁ!!!」

この状況はまずい・・・。身の危険を感じたシンジは、この場をごまかす為にお上手で
も言ってみる。

「へぇ、アスカも浴衣着たんだ。よく似合ってるじゃないか。」

「へ!?」

突然、自分の浴衣姿を誉められたアスカは、どういう対応をしていいのかわからず、言
葉に詰まる。

「そ、そりゃ、決まってるでしょ。アタシは何を着ても似合うのよ。」

シンジに浴衣姿を見てもらいたくて、待っていただけにうれしかった。

「そーだね。ぼくもそう思うよ。」

照れ隠しに言った言葉まで肯定されては、どうしていいのかわからない。アスカの目は
宙を泳ぎ、口は開くが言葉にならない。アスカはトマトの様になってしまっていた。

「ちょっと、旅館を探検しようか。」

「そ、そうね。」

アスカは、スリッパを履くと、シンジに寄り添ってついていった。




・・・まだまだ旅は始まったばかりである。

To Be Continued.
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