------------------------------------------------------------------------------
ポケ使徒
Episode 02 -樹海-
------------------------------------------------------------------------------

<旅館の201号室>

シンジとアスカは旅館の探検を終えると、夕食の時間が来るのを待っていた。

「そろそろ、ご飯の時間だね。」

仰向けに寝転んでTVを見ていたアスカが、立ち上がる。

「そうね、食堂に行きましょうか。」

「綾波や、カヲルくんは?」

「モンスターボールに入ってるから、いいんじゃない?」

モンスターボールの中は、LCLで満たされていて生命維持モードになっている。LC
Lから、酸素、栄養分を吸収できる為、食事の必要は無い。

「でも、ちゃんとしたご飯を食べた方がいいよ。」

「2人分しか用意されてないじゃない。」

「注文したらいいじゃないか。」

「ファーストって、好き嫌いが激しいんだから、旅館の食事になんか誘ったらかえって
  迷惑よ。」

「そうかなぁ。」

アスカは、言い訳を並べ立ててシンジを納得させる。

邪魔されてたまるもんですか!

<旅館の食堂>

食堂に入ると、いくつかのテーブルに料理が並べられていた。アスカは、シンジの名前
を探す。旅館はシンジの名前で取ったので、”碇”のネームプレートがあるはずだった。

「あ、ここね。」

客数が少ないので、すぐに自分たちの席を見つける。

「わぁ、小さな旅館なのに、料理は豪華ね! おいしそぉ。」

「なんだか、他の人より豪華だね。」

他の客の料理と比べると、明らかに豪華であった。

「この旅館で、一番高い料理を頼んでおいたの。」

旅費がネルフ持ちとなると、やりたい放題のアスカである。

「いつも、ぼくの料理ばっかりだったから、たまにはいいかもね。」

「シンジの料理には、かなわないわよ。」

「だといいんだけどね。」

お世辞じゃないんだけどなぁ〜〜。

シンジ達が席に着くと、飲み物の注文を聞かれた。シンジはコーラ、アスカはジンジャ
エールを注文する。目の前には、和風の料理が並んでいる。

「アタシも料理、ちゃんと勉強しようかなぁ。」

「アスカなら、やる気を出したらすぐに上達するよ。」

「当然よ。シンジにはアタシの味見役を任命するわ。」

「毒味?」

「あ・じ・み!」

「ど・」

ゲシ。

シンジは、殴られていた。

「痛いなぁ、冗談じゃないかぁ。」

シンジは、殴られた頭をなぜながら、にゅう麺を食べる。

「シンジぃ、それちょうだい。」

アスカは、にゅう麺をねだる。

「アスカにもあるじゃないか。」

「アタシ、これが好きなの。代わりに、これあげるから。お願い。」

アスカは両手を合わせてお願いする。

こう、素直な時はかわいいんだけどなぁ。

「はい。」

シンジはにゅう麺を差し出し。代わりに、アスカの焼き魚の半分を受け取る。

アスカって、そんなににゅう麺好きだったかぁ。そー言えばみんなで食べに行った時も、
アスカがラーメンにしようって言い出したっけ。そっか、帰ったら麺類のレパートリー
も増やそうかな。

アスカは自分のにゅう麺をよそに、シンジからもらったにゅう麺を大事そうに食べてい
た。

<旅館の201号室>

晩御飯を食べ終え、部屋に戻ったアスカは布団の上に寝転んでいた。

「ふぅ。お腹いっぱい。」

お腹をポンポンとたたき、満足そうなアスカである。

「見た目より、けっこう量があるもんだなぁ。ぼくもお腹いっぱいだ。」

「毎日こんなんじゃ、太っちゃうわ。明日からは、全部食べるのはよそうかしら。」

お腹のまわりをさすりながら言うが、ダイエットが必要な体型だとは思えない。

「大丈夫だよ、明日はキャンプだから、大した物は食べられないと思うよ。」

携帯食料は、3日分用意している。しかし、何かのアクシデントがあった場合、携帯食
料は命綱となる為、通常は現地調達しなければならない。

「魚の取れる川辺でキャンプを張ったらいいじゃない。無敵のシンジ様なんだから、魚
  くらいなんとかしてよ。」

「こんな時だけ無敵、無敵って・・・」

都合のいい時だけ、『無敵』とか、『男だから』とか言われるので、ブチブチと文句を
言うシンジ。

「ブツブツ言ってないで、キャンプを張る場所を決めましょ。」

アスカは、シンジの前に地図を広げる。シンジとアスカは地図に見入っていた。目的地
はフシギバナが発見された森である。そこへ至るまでに1本の川が流れていた。

「この森を越えて、この川でキャンプってのはどう?」

シンジは、青い色で示されている川を指差す。

「この森って、かなり深そうよ。進めなくなるんじゃない?」

地図は、覆い茂っている木の量を色の濃さで表してある。アスカの指した森は、濃緑色
で示されていた。

「でも、この森を迂回したら、明るい間に川までたどり着かないから、森の中でキャン
  プしないといけないよ。」

「そうねぇ。まぁ、たいした距離じゃないし、なんとかなるわね。」

「ふぁぁ、じゃ、明日のスケジュールも決まったし、ぼくはもう寝るよ。」

シンジは布団に潜り込む。

「ちょっと、まってよ。 こんなに早くから寝るのぉ?」

「おやすみ・・・。」

シンジは頭まで、布団を被ってしまった。

「こうなったら、実力行使あるのみね!」

アスカは、布団を引っぺがすと、プロレス技をかけだす。

「ウゲェ!」

シンジはブレーンバスターの後、卍固めを決められた。

「ギ、ギブアップ。寝ない、寝ないから、ゆ、許して・・・。」

「ダメよ。もう、交渉の時は過ぎたのよ。」

「ちょ、ちょっと、アスカ。本当に苦しいよ。」

「アタシのお願い、何でも聞いてくれる?」

「嫌・・・ダ!!」

嫌な予感がしたので、シンジは今の状況も考えず拒否する。しかし、アスカの締め付け
る力が強まる。

「ヒィィィィィィィィィ・・・。わ、わかった・わかった・・・。」

「本当ね。」

「わかったから・・・たすけて・・・。」

アスカは卍固めを少し緩める。

「アタシ、枕が無いと寝れないのよねぇ。これから野宿が続くでしょ。だから、今後毎
  日腕枕しなさい。」

「えぇぇぇ〜。」

ギューーーーーーーーーーーー! 渾身の力を込めて締め付ける。

「グェェェェ!!!! は、はい・・・ わかり・・まひ・・・た・・・・。」

「よろしい。」

ようやくシンジは卍固めから開放された。ぜぇぜぇいいながら、布団の上に寝転がる。

「じゃ、眠よっか。」

アスカは、シンジの布団に寝転がり、シンジと一緒に掛け布団を被る。

「ア、アスカ? 何してるの?」

「何って、アタシの枕これだもん。」

そう言って、シンジの腕を指差す。

「え〜〜〜〜。今日は、枕、あるじゃないか。」

「毎日腕枕しなさいって、言ったつもりだけど? 約束やぶるつもり!?」

「でも・・・。」

「男に二言は許されないわよ。」

アスカはそのまま、シンジの腕を枕にして寝ていった。

          :
          :

翌日、シンジは5:00過ぎに目が覚めた。アスカの頭の下から腕をゆっくり抜こうと
するが、しびれているので、なかなかうまくいかない。

これから、毎日こうなるのかなぁ。大変な約束してしまったなぁ。

シンジはしびれた腕を振りながら、アスカの寝顔を見つめる。

寝てたらかわいいなぁ。腕枕くらい我慢してもいいな。

<森>

荷造りを終え、旅館を後にしたシンジとアスカは、うっそうと茂る森の入り口に唖然と
立っていた。

「思ったより深そうね。」

「で、でも、道もあるし、リツコさんから預かった虫除けもあるから大丈夫じゃないかな。」

「まさか、それつけたら、皮膚がただれたりしないでしょうねぇ。」

「超音波タイプだから、それはないよ。」

シンジはそう言って、虫除機をアスカの手の平に乗せて使い方を説明する。

「これが、電源で、これが出力量。虫が多そうだから、最大出力で行こう。」

アスカに説明しながら、最大出力で電源を入れたとたん、頭が割れるような痛みに襲わ
れる。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
「きゃーーーーーーー!」

シンジは出力量をすぐに弱める。近くに飛んでいた虫は全て、死滅していた。横には、
いつの間にか、レイとカヲルが、ATフィールドを張って立っている。

「綾波、カヲルくん・・・。」

「碇くん・・・。どうしてそういうことするの?」

頭を押さえて、レイがシンジのことを睨む。

「ご、ごめん。まさか、こんなに強力だとは思ってなくて・・・。」

「凄い衝撃波にだったね。驚いたよ。」

モンスターボールの中でATフィールドを張ると、モンスターボールを破壊してしまう。
ATフィールドを張るには、モンスターボールから出てこなければならない。

パン!

アスカの平手がシンジに飛ぶ。

「ア、アンタバカぁ!? アタシを殺す気?」

「ご、ごめん・・・」

よってたかって、怒られるシンジであった。

「あいかわらず、狂暴だね。大丈夫かい? シンジ君。」

「な、なんですってぇ!」

昨日の今日である。アスカの平手がカヲル目掛けて振り下ろされる。しかし、当たる寸
前でカヲルはモンスターボールに消えて言った。アスカの平手は宙を切る。

「キーーーー! 逃げるんじゃないわよ!」

アスカはその場で地団太を踏む。

「私も、戻るわ。」

レイも、モンスターボールに戻って行った。

「シンジ! ちょっと、そのモンスターボール渡しなさい!」

カヲルのモンスターボールを指差すアスカ。

「どうするの?」

「踏み潰すに決まってるでしょ!」

「カヲルくんは、ATフィールドを張ることができるんだよ。」

「フン! わかってるわよ!」

アスカは、ドスドスと森の中へ入って行った。シンジも慌てて後を追う。

森の入り口付近は、明るく道も広かったが、奥に進むにつれて、光が差し込まなくなり、
道は細くなってきた。

「迷わないように、手を結んで歩きましょ。」

「一本道だよ?」

「ポケ使徒を捕まえる為の落とし穴とかに、シンジが落ちたらどうするのよ。アタシが
  気付かずに、先に進んで行ったらまずいでしょ。」

「わかったよ。」

シンジはアスカの手を引いて歩き出したが、いつの間にか、ぴったりと寄り添い、腕を
絡める状態になっていた。

「アスカ。そんなにくっついたら、歩きにくいよ。」

「アタシは、これが歩きやすいの!」

昼間でも暗い森の中、しかも獣道に近い状態である。使徒には猛然と立ち向かうアスカ
も、得体の知れない闇というものが恐かったのだ。

そのまま、森の奥へ進んでいくが、道無き道の進行となってきた。

「道、間違えたかなぁ。」

シンジは、木の間から差し込むわずかな光を見つけると、地図とコンパスを取り出した。

「あってるんじゃない?」

アスカも地図を見て位置を計算する。

「もうちょっと、進んでみようか。」

シンジは、長いナイフを取り出し、草に切り付けながら先へと進む。アスカはシンジの
手を握り、ぴったりとついて行った。
リツコから預かった虫除機は、高性能で虫どころか、ヘビすら近くには寄ってこないの
で、害虫などの心配は無かったが、服や靴は泥と草の汁で汚れ、体は汗でべとべとにな
っていた。

ザッザッザ。

辺りは、森というより南国のジャングルの様になってきた。樹海と言う言葉がふさわし
い。
シンジは、昼食も取らず、草を切り、体で押しのけ進んでいく。もう、道と呼べるもの
では無かった。足場はぬかるみ、行く手を草木が邪魔する。コンパスだけを頼りだ。

ザッザッザ。

アスカの手をしっかりと握り、アスカを引っ張っていく。森に入ったころは、何かと話
をしていたアスカも、終始無言である。アスカを引く手にかかる体重が徐々に重くなる。
アスカの体力も限界に近づいている為、シンジに付いて行くことができなくなってきて
いた。

「シ、シンジ・・・。お願いちょっと休んで・・・。」

「もうちょっとで川なんだ。森を抜けないとキャンプを張れないから、がんばって。」

「ん。わかった。」

アスカを励まし、前進する。アスカも必死でシンジに付いていく。

ザッザッザ。

ザッザッザ。

ザッザッザ。

「キャッ!」

後ろでアスカが転ぶ。

「アスカ!大丈夫か!?」

シンジは、とっさに振り替えると、草を掻き分け、アスカを起こす。

「平気。ちょっと転んだだけ。」

アスカは立ち上がろうとするが、膝に力が入らず立ち上がれない。

「ちょっと待ってね。」

アスカは、泥濘に足が取られないように足場を安定させると、ゆっくりと立ち上がった。

もう少しなんだ・・・。けどアスカはもう・・・。

あと少しで川に出られるはずであった。しかし、覆い茂る草木に阻まれ、泥が足を取る。
100m進むにも多大な時間がかかるのだ。

「ここで、キャンプしよう。」

「え?」

「これ以上は無理だよ。」

「大丈夫よ! あと少しでしょ。」

「日が暮れるまでに、川にたどり着けなかったら、キャンプもできなくなるよ。」

「ごめん・・・。」

「アスカは休んでて、なんとか、草を切ってテント張ってみるから。」

「ごめん・・・。」

自分のせいで前進できなくなったのだ、テントを張ることぐらい手伝いたかったが、そ
れすらもできないくらいアスカは疲労していた。アスカは、近くの倒れた木に腰をかけ
て、休むことにした。

シンジは、木の無い場所を見つけると、テントを張るスペースを確保する為、長いナイ
フで草を刈っていった。

ある程度草を刈り終えると、紐を木にかけテントを張る。地面がぬかるんでいるので、
釣り下げないとテントが張れないのだ。

そんな様子をアスカはじっと見つめていた。

やっぱり、アンタは無敵のシンジ様なのね。頼りにしてるからね。シンジ。

ようやくテントが張りおわると、アスカを呼ぶシンジ。

「さぁ、できたよ。ちょっと、ふわふわするけど、寝るくらいはできると思うから、入
  って休もう。」

「うん。」

アスカは、思い足を引き摺りながら、泥だらけの体でテントに入って行く。シンジもア
スカが入ったことを確認すると、テントに入った。

もう、日はほとんど暮れていた。

To Be Continued.
作者"ターム"へのメール/小説の感想はこちら。
tarm@mail1.big.or.jp
inserted by FC2 system