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ポケ使徒
Episode 03 -遭遇-
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<樹海>

テントに入ると、シンジは携帯食料を1つアスカに渡した。

「お腹減っただろ? これ食べなよ。」

「うん。」

昼食も抜いて、慣れない森の中を歩いた為、お腹はぺこぺこだった。アスカは携帯食料
を開封すると、味わう間も無く食べていく。
そんなアスカをシンジは嬉しそうに眺める。
アスカが食べおわると、シンジは横になった。

「じゃ、僕は寝るからね。」

「え? 食べないの?」

「なんだか、今日は疲れて食欲が無いんだ。」

「嘘言いなさい。携帯食料ならまだ残っているんだから、食べなさいよ! 体持たない
  わよ!」

「もう、眠いんだ。じゃ、おやすみ。」

「ちょ、ちょっと!」

シンジからの答えは、それっきり帰ってこなくなった。アスカは、シンジに寄り添うよ
うに横になる。

携帯食料1つくらい食べたっていいじゃない! かっこつけんじゃないわよ! バカ・・・。

既に日は暮れ、10cm先も見えない暗闇に覆われていた。外では風に揺れる草木がザ
ワザワと音を立てる。静寂がアスカを包み込む。

・・・恐い。

シンジにしがみつくと、シンジの寝息が聞こえる。

先に寝ないでよ。恐いじゃない。

シンジの胸に顔を埋めるとシンジの心臓の音が聞こえた。その音を聞いていると、落ち
着いてくる。アスカは、目を閉じ眠りに落ちていった。

                        :
                        :

2人とも日暮れと共に寝たので、翌朝は4:00頃に目が覚めた。アスカはシンジに抱
き着いたままである。

「まだ、暗いわね。」

「まだ4:00だからね。」

ぐぅ。

シンジの腹の虫が鳴く。

「はは・・・。」

「無理するからよ。かっこつけちゃってさ。」

「本当に昨日は食欲無かったんだって。」

「どーだか。」

「ほんとだよ!」

「はいはい。あぁー、早く川に行きたいなぁ、もう、体中、泥とか汗でべとべとぉ。」

暗闇の中で話をしていた2人だが、辺りが明るくなり始めると、腰を起こす。

「いたたたたたた・・・。」

体中が筋肉痛で悲鳴をあげ、ひーひー言いながら、アスカが立ち上がる。
シンジも痛い体に鞭を打って、テントをかたづけ出した。今回はアスカも手伝う。

「っさ、行こうか。」

「うん。」

キャンプの後かたづけが終わると、シンジとアスカは再び進み始める。

ザッザッザ。

草を切りながらシンジが前進し、その後をアスカが付いて行く。最初は草木が覆い茂っ
ていたが、進むにつれ辺りも明るくなり、歩き易くなってきた。

「もうすぐ、川じゃないかな。森を抜けそうだ。」

お互い泥だらけの顔だが、笑顔が漏れる。先は、だんだん明るくなっている。

「川の音がしない?」

「え?」

アスカの言葉を聞き、シンジは耳をすます。遠くに川の音が聞こえる。

「本当だ。聞こえるよ。川だ、川が近いんだ。」

2人の足が早まる。もう、草を切り、道を作らなくとも進めるようになっていた。
視界が急に開け、目の前に川が流れていた。

「川だーーー。」

アスカは、泥だらけの格好で川に走って行った。

<川辺>

森を前進すること30分、川に到着。アスカは、川に腰まで浸かりはしゃいでいる。シ
ンジは、川辺で寝転んでいる。

「空・・・。」

シンジは空を見上げながら、くつろいでいた。

「シンジィーーー。魚取ってくるから、あれ貸してぇぇーーー!」

アスカが川の中から叫ぶ。リツコから預かった魚捕獲機で、魚を捕まえようとしている
のだ。魚捕獲機は魚の形をしていて、水に入れると自動的に魚を捕まえて戻って来るロ
ボットである。

「投げるよ。」

シンジは、リュックサックから魚捕獲機を取り出すと、アスカに向かって投げる。

ポチャン。

アスカの側に魚捕獲機が落ちる。それを手に取り、電源を入れると、魚を求めて泳ぎ出
した。

「あれが、働いている間に、あっちの岩場で水浴びしてくるわ。服も洗いたいし。覗く
  んじゃないわよ!」

「わかってるよ。」

シンジは、魚を焼く為に、火をつける枯れ草や木を集めていた。

湿気を含んだ木ばっかりだなぁ。

乾燥した木がほしかったが、無いものは仕方が無い。近くにあった、枯れ草や木を拾い
集めて川辺へ戻る。
石を組み上げ、簡単な調理場を作り、集めた枯れ草に火をつけた頃、魚捕獲機が3匹の
魚を捕まえて川辺に戻ってきた。シンジは、魚に串を通して焼く。

「シンジぃー。」

岩場の向こうからアスカの呼び声がする。

「なに?」

「服洗っちゃったんだけど、着替えが無いのーーー。」

着替えどころか、バスタオルすらあるはずがない。

「そんなこと、いわれても、どうしようもないよ。 火をつけたから、こっちに来て乾
  かしなよ。」

「この暑い中で火になんかあたったら、また、汗まみれになっちゃうわ。」

「じゃー、服借して、乾かすから。」

「ん、わかった。岩の上に置いておくわね。」

シンジは魚を焼きながら、服を乾かした。その間に、魚捕獲機が2匹の魚を捕まえてき
たので、その魚も焼く。

「アスカぁ、服乾いたから、ここに置いとくよ。魚も焼けたから、早く来てね。」

「ん、ありがと。」

アスカは、服を着込むとシンジの隣に腰を降ろす。魚が焼けて、いい臭いがする。

「わぁ、おいしそう。それより、アンタも水浴びしてきなさいよ。どろどろじゃないの。」

「食べおわったら、そうするよ。」

昨日から、ろくに食事をしていなかったので、すぐに魚は食べ終わった。ようやく、お
腹も膨れ、一時の休憩を楽しむ。

「じゃ、ちょっと水浴びしてくるよ。」

「わかった。火の始末をしておくわ。」

シンジは、服を着たまま川に入り、汗と泥を落とす。暑い中での水浴びなので気持ち良
い。水に浸かりながら、空を見上げる。

いまごろ、トウジやケンスケは何をしてるかな。

トウジの足は、ネルフから提供された最先端の偽足になっていた。通常の生活は営める
し、学校にも通えるのだが、やはり不便である。今はヒカリが世話を焼いている。

「シンジーーー。服洗い終わったら借して、乾かすからぁー。」

「いいよ、このままでー。」

「そんな、ボトボトのままで出発したら、すぐにどろどろになるわよ。いいから借して。」

服を脱ぐと、アスカ同様岩場の上に置いた。

「置いておいたよ。」

「わかったー。」

アスカは、シンジが水浴びをしている間に服を乾かした。服が乾くと、出発の準備をす
る。

「そろそろ、行こうよ。」

「そうね。」

2人は川を渡り、フシギダネが発見された森へ足を踏み入れた。

<森>

こちらの森は、草の背丈も短く、進み易かった。

ガサガサ。

「何かいるわ。」

周りで、何かが動く物音がする。

「うん。フシギダネが現れてもおかしくない辺りだ。」

ガサガサ。

歩みを止め、辺りを警戒した。シンジは手に長めのナイフを持っていざという時にそな
える。

「アンタバカぁ!? ナイフ持ってどうすんのよ!」

「え? だって・・・」

「使徒相手にナイフで戦うつもり?」

「あ、そっか。」

あわててモンスターボールに持ち替える。しかし、その瞬間に草の蔓がシンジを襲った。
咄嗟に、避けようとするが、次から次に繰り出される草の蔓に捕まり、縛り付けられ、
地上高く持ち上げられた。

「ぐぁぁぁ!」

「シンジ!」

アスカは、ナイフで切り付けるが効果が無い。蔓とナイフの当たった所に八角形のAT
フィールドが展開される。

「シンジ!!!」

シンジは、手にしていたモンスターボールを地面に投げようとしたが、シンジの手から
離れる前に、モンスターボールが青白く光り輝く。

「碇くん!」

レイは、ATフィールドを中和しつつ、別のATフィールドで蔓を切断して行く。しか
し、次から次へと蔓は伸びてきて、シンジの体を締め付ける。

「くっ、きりがないわ。あなた、碇君を助けて! 私は本体を!」

レイは、蔓が伸びてきている方向へ、走って行った。アスカは、ナイフで蔓を切断する。

「なんで、こんなに多いのよ!」

ザクッザクッザクッ。いくら切断しても、永遠と繰り出される蔓はシンジを確実に締め
付けていく。

「レイ! 早くして!」

アスカは、必死で蔓に切り付ける。

ドカッ!

「キャーーーー。」

蔓が束になってアスカを殴り付けた。アスカは、3mほど後方に飛ばされ倒れる。

「こんちくしょーーーーーーー!!!」

すぐに立ち上がると、ナイフを振り回し、蔓を滅多切りにする。それでも、蔓は減らな
い。

「どりゃーーーーーーーー!!!」

蔓を体で掴み、切り付けようとしたが、接近しすぎた為、アスカも蔓に捕まり締め付け
られてしまった。

「このぉ!!!」

自分にまとわり付く蔓を切り付けていく。もう、ナイフの歯はボロボロであった。蔓は
容赦なくアスカを締め上げていく。

レイは、フシギダネの前まで来ていた。フシギダネは、葉っぱカッターでレイに攻撃す
る。しかし、レイの強力なATフィールドの前では、全くの無力である。ポケ使徒のA
Tフィールドでは、レイのATフィールドを中和することはできない。

「さよなら。」

レイは、冷静にフシギダネを見ながら一言言う。フシギダネは、葉っぱカッターを撒き
散らしている。

「ATフィールド全開!」

レイがそう言った瞬間、辺りの木々は全て砕け散り、地面の土は四方八方に吹き飛んだ。
まるで、その場に爆弾が投下された状態となる。目の前で葉っぱカッターを繰り出して
いたフシギダネの姿は、影も形も無くなっていた。

ドサッ。ドサッ。

レイがフシギダネを倒した瞬間、蔓の力が無くなり、シンジとアスカは地面に叩き付け
られた。アスカは、自分を締め付けていた蔓を切り、立ち上がる。

「シンジ!」

シンジに近寄り、肩をゆするが、長時間に及び、蔓に締め付けられたシンジは気絶して
いた。

「気絶しているわ。しばらくそのままに・・・。」

戦いから戻ったレイは、アスカの行動をたしなめる。

「ウルサイわね!! アンタに指図されたかないわよ!!」

アスカの言葉など、耳に入らないかのように、レイは、シンジが寝ている側に腰を降ろ
すと、シンジの顔を見つめた。

「アンタ何してんのよ! 早くモンスターボールに戻りなさいよ!」

「碇君が目を覚ますまで、ここにいるわ。」

「命令よ!」

「あなたの命令は聞かないわ。」

「な、なんですってぇ!」

それっきり、レイは沈黙しているので、アスカもそれ以上、何も言わずシンジの横に腰
を降ろした。
辺りの木々は、何事も無かったかの様に静かだった。鳥のさえずりと、蝉の音だけが聞
こえる。

チッチッチ。

ミーンミーンミーン。

じっと、シンジを見る2人、シンジはいつまで経っても目を覚ます様子はなかった。

ミーンミーンミーン。

チッチッチ。

「アタシ、ミサトに定期連絡を入れて来るから、少しの間シンジを頼むわ。」

レイにシンジをまかせるのは、嫌だったが、フシギダネ殲滅の連絡は入れなければなら
ない。

長距離携帯電話のボタンを押す。長距離携帯電話は、高性能な無線機のようなもので、
よほど深い地下に閉じ込められない限り、世界中どこからでも電話をかけることが可能
なのだ。

プルルルルル プルルルルル ガチャ。

「ふぁーい。誰よこんな朝っぱらから!」

日本では、まだ朝のようだ。もっともミサトの朝とは何時までを指すのかは不明だが。

「アタシよ!」

「あ、アスカ? な〜に?」

「シンジが死に掛けている時に、寝てんじゃないわよ!!!」

「何かあったの!? 状況は?」

さすがに、シンジが死に掛けていると聞いて、声が変わる。作戦指揮を取る時のミサト
の声だ。

「フシギダネは倒したわ。でも・・・シンジがやられた。」

「え、アスカ! シンジ君がどーしたの!!!!?」

『やられたを』、『殺られた』と取ったミサトは、電話の声も自然と大きくなってしま
う。

アスカは事の成り行きを、事細かに説明した。命に問題が無いとわかって、ミサトはひ
とまず安心したのか、落ち着いてアスカに話し掛ける。

「わかったわ。今後気をつけてね。」

「何を気を付けろって言うのよ! アタシがいくらがんばっても・・・。アタシが気を
  つけたところで、何ができるのよ!」

「どうしたの!? アスカ? アスカ?」

「アタシは・・・ 何もできなかったのよ。」

「シンジくんは無事だし、フシギダネも倒したんでしょ?」

「倒したのはファースト。アタシは何もしてない。」

何もできなかった、

「アスカ? あなたの仕事は、使徒と戦うことではないわ。あたなにはあなたにしかで
  きない任務があるはずよ。 それを実行していれば、何もしてないことにはならない
  わ。」

「けど、シンジが危険な時に、アタシは何もできなかったわ。エヴァが無いとアタシ
  は・・・。」

「使徒との戦いで、あなた達が危険な時、わたしが直接使徒と戦闘した? 碇司令が戦
  闘に参加した?」

「それとは別でしょ!」

「同じことよ。あなたは赤木リツコの役目を果たせばいいの。シンちゃんはわたし、葛
  城ミサトね。どう? 安全な所から指揮することの辛さがちょっとはわかったかしら
  ん?」

しばらくの沈黙が流れるが、アスカはミサトの言葉に吹っ切れたものがあった。

そうね、何も直接戦闘だけが全てじゃないわね。

「シンジ、見てくるから。そろそろ切るわ。」

「じゃ、シンちゃんにも、よろしくねん。」

電話を切り、アスカがシンジの所に駆け戻る。シンジは既に目覚めており、レイと話を
していた。

「なんか倒れた後に目覚めると、いつも綾波がいてくれるね。」

「いいわ、たいしたことじゃないから。」

シンジは、嬉しそうにレイに話し掛けている。

しまった・・・。一番いい役を取られた・・・。

「じゃ、私戻るから。」

「綾波、ありがとう。」

レイは、かすかに微笑むとモンスターボールに戻っていった。

「ようやくお寝覚めね。」

話し掛けるタイミングを無くしていたアスカが、ようやく口を開く。

「あ、アスカ。どこに行ってたの?」

後ろからアスカの声がしたので、シンジは振り替える。アスカは、草を避けながらシン
ジの側まで歩いてきていた。

「ちょっと、定期連絡をしてただけ。フシギダネ殲滅と、シンジの状態を説明しておい
  たわ。」

「心配かけた?」

「アタシ達の任務は直接戦うわけじゃないのよ。 アンタはレイの指揮を取らないとい
  けないのに、そのアンタが真っ先にやられてどうすんのよ。」

腰に手を当て、ミサトの受け売りを自分の言葉の様に、得意に話すアスカ。

「ごめん。」

「まぁ、いいわっ。早く次の町まで行って休みましょ。」

次のターゲットはヒトカゲである。ヒトカゲが発見された砂漠までは、かなりの距離が
あり、その間に、大きな町が3つ存在する。
この国はセカンドインパクトの影響で、多くの町が破壊され、いまだ復旧していない。
使徒との戦いに膨大な金を使った国連は、この国のような小さな国には復旧資金を提供
していない。それどころか資金を吸い上げていたのだ。
町と町の間には、道はあるものの交通機関が全く整備されていないので、シンジ達は歩
いて移動することになる。

「じゃ、行くわよ!」

「うん。」

To Be Continued.
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