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ポケ使徒
Episode 04 -心の壁-
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<街道>

フシギダネを倒し、森から抜けたシンジとアスカは、次の街まで続く道を歩いていた。

「あー、なんで交通機関がないのよ。ちんたら歩いて移動してたら、街に着くまでに日
  が暮れちゃうわ。」

「仕方ないじゃないか。この国は、まだセカンドインパクトから立ち直ってないんだか
  ら。」

「はぁーあ、早くお風呂に入りたーい。」

舗装はされているものの、あちらこちらに亀裂が走り、土がむき出しになっている道路
を2人は歩いている。この辺りは、昔は畑だったようだが、今は荒れ地となり、四方見
渡しても何も無い風景が広がっていた。

「喉かわいたよー。」

「もう少しで街だから、がまんしてよ。」

「お腹減ったよー。」

「もう少しで街だから、がまんしてよ。」

街までは、あと10kmくらいの所に来ていたが、もう日が暮れかかっている。街燈も
無いので、暗くなる前に街にたどり着きたかった。

ブロロロロロロロロロロ。

後ろから車が走ってくる音がする。

「ヒッチハイクしよっか。」

運か良ければ、乗せて行ってもらえるかもしれないので、アスカはとびっきりいい顔で、
右手の親指を立てる。ヒッチハイクの時のお決まりの格好だ。

「やめようよ、どんな人が乗ってるかもわかんないじゃないか。」

「なに怖がってんのよ。だーいじょうぶだって。」

ブロロロロロロロロロロ。

トラックが、次第に大きくなり近づいてくる。アスカは、自分が目立つように、道の真
ん中寄りに立つと、手を振った。

「おーーーーい! おーーーーい! ほら、アンタも手、振りなさいよ。 おーーーーい!」

しかし、トラックは減速する気配を見せず、アスカに近づいてくる。

「危ない!」

とっさにシンジは、アスカの襟元を掴んで道路脇に引き戻した。その勢いでしりもちを
ついた2人の前を、トラックは砂埃をたてて通り過ぎて行った。

「ケホッケホッ。何なのよ、あれはぁ!!」

「だから言ったろ、どんな人が乗ってるかわからないって。」

「普通どんな人でも、あんなに失礼じゃないわよ! 今度見かけたらただじゃおかない
  んだから!」

下手に乗せてもらえることを期待していた分、余計に腹が立つのか、アスカはプリプリ
怒っている。

「行こうか。」

「はーぁ、もう嫌んなっちゃうわ。」

また、2人は街に向って歩き出した。

「喉かわいたよー。」

「もう少しで街だから、がまんしてよ。」

「お腹減ったよー。」

「もう少しで街だから、がまんしてよ。」

同じような会話を繰り返しながら、荒れ果てた道を歩く。数分歩いていくと、道路脇に
止まっているトラックが目に入った。

「ん? シンジ、あれさっきのトラックじゃない?」

「そうかな? トラックなんてみんな似たようなもんだし。」

トラックは、道端の小さな小さな物置小屋の横に止められていた。

「いーえ、絶対さっきのトラックよ。忘れるもんですか。ちょっと行って文句言ってくる
  わ。」

有無を言わさず走っていくアスカ。

「ちょっと、やめてよ! アスカーーー。」

余計な争い事は起こしたくないので、必死でアスカを追いかける。

ドンドン。

「あれ? 誰も乗ってないわ。こっちかしら。」

バンバン。

トラックを叩いて中を覗き込んだが、誰も乗っていないので、小屋の方を叩く。

「アスカ、止めてよ。誰もいないじゃないか、もう行こうよ。」

「うるさいわねぇ、男でしょ。ビクビクしないの! もしもーーーし。」

バンバン。

何度も叩くが、返事は無いので、物置小屋の扉をそーっと開けてみるアスカ。

「もしもーし、誰かいませんかぁ?」

扉を開けると、中は想像していた物置小屋とは違い、地下へ伸びるコンクリートの階段
があった。

「なにこれ・・・。」

地下は真っ暗で何も見えない。階段はどこまでも奥へ伸びている様だった。

長い髪の毛を振りながら、くるりと振り返りシンジを見る。

「こんなところに秘密の地下道。これはいったい何を意味するのでしょーか?」

「そんなこと言われてもわからないよ。」

「じゃっ、行ってみましょ。」

「えぇぇぇぇぇ!!! やめようよ、危ないよ。」

しかし、アスカはシンジの言葉など無視して降りて行ってしまった。仕方なくシンジも
後に続く。

「アスカぁ、戻ろうよぉ。」

「シッ、何がいるかわからないんだから静かに。」

アスカはすっかり探偵か、冒険家きどりである。もう、何を言っても無駄だとシンジも
あきらめ、アスカに付いて行くことにした。

「綾波? ちょっと出てきてくれない?」

安全の為、レイを呼び出しておく。モンスターボールが青白く光を放ち、レイが現れる。

「何? 碇くん。ここはどこ?」

「なんだか、荒野の真ん中に地下道があってね。やめようって言ったんだけど、アスカ
  が、だだをこねて、降りるって聞かないんだ。」

「なんですってぇ! 誰がだだをこねたっていうのよ!」

「だって、わざわざこんな怪しい場所に入ることないじゃないか。」

「好奇心を失ったら、人間終わりよ。」

よくわからない理屈をつけて、さらに進むアスカと、それを追う2人。階段は、奥深く
まで伸びていた。

「あら? 扉があるわ。」

階段の下には、頑丈な鋼鉄の扉があった。

ギィィィィィィィィィィィ。

「あら、開くじゃない。不用心ね。」

扉の向こうには廊下があり、赤い非常灯で照らされていた。

「危ないわ。血の匂いがする。」

レイが注意を促す。

「犯罪の匂いがするわね。」

廊下は左右に伸びており、廊下に面していくつかの扉があった。アスカは、左方向に向
って歩いて行く。

「ねぇ、アスカぁ、まずいよ。戻ろうよ。」

「シッ、音がするわ。」

「何も聞こえないけど?」


「この中から、音がしたわ。」

廊下に面した扉を指差し、中の様子を伺う。

ギィィィィィィィィィィィィィ。

アスカが扉を開けた。その瞬間、強烈な肉の腐った匂いが立ち込める。

「なにこれ!」

扉の中は、巨大な空間になっており、床一面に動物の死骸が横たわっていた。部屋の中
は暗くて先の方まで見えないが、あちらこちらで火が燃え盛り、そのまわりだけ明るい。

ガーン。ガーン。ガーン。

突然、銃声がこだまする。

「グッ・・・。」

シンジがその場に倒れた。足から多量の血を流すシンジ。

「シンジ!!」

アスカがシンジの側に行こうとした時、強烈な衝撃を体に受け、廊下にはじきとばされ
る。

「逃げて!」

レイが叫んだ。しかし、シンジは出血がひどく意識がもうろうとしている。

「碇くんは守るから、葛城三佐に状況を説明して指示を仰いで!」

レイの目の前には、巨大なリザードンが立ちふさがっていた。レイはATフィールドで
リザードンの吐き出す炎を食い止めている。

「普通じゃないわ。このポケ使徒。ATフィールドが強すぎる。」

通常、どれだけ進化したポケ使徒でも、レイのATフィールドはとうてい中和できない。
しかし、このリザードンは確実にレイのATフィールドを侵食していた。

ガーンガーン。

銃声が暗闇の中からこだまする。

レイがATフィールドを全開にしても、ほとんどが中和され、リザードンの炎と銃の弾
丸を食い止めるのがやっとだった。

アスカは、自分が残ってはレイの足手まといになると判断し、地上に向って走った。階
段を登っている途中で長距離携帯電話を取り出し、ミサトに連絡する。

プルルルルルルルルル ガチャ。

「はい、もしもし。」

「ミサト!? レイのATフィールドを中和するようなポケ使徒がいるの?」

「いるわけないでしょ。そんな強力なATフィールドを持ったポケ使徒なんて。」

「いるのよ! この地下に大きなリザードンがいて、レイのATフィールドを侵食して
  るのよ。」

「ほんとなの? でも、おかしいわね。こないだはヒトカゲが発見されたって報告がき
  てるのに、進化が早すぎるわ。」

「シンジが銃で撃たれたの。今、レイが守ってるわ。アタシはどうしたらいいの?」

「シンジくんが撃たれた? 人間もいるの?」

「見えないけど、暗闇の中から銃声がしたわ。」

「シンジくんの意識は?」

「出血がひどいの、意識を失いかけてるわ。」

その時、レイが階段を駆け上がってきた。

「だめ、碇くんが捕まったわ。」

「な!! シンジを助けにいかなきゃ!!」

「下はもうダメ、火の海になってる。」

階段を駆け降りようとするアスカを、レイが止める。

「離して!! シンジが・・・シンジが!!」

携帯からミサトの声がする。

「アスカ! 落ち着きなさい! こんな時にあなたが取り乱してどうするの! とにかく、
  撤退しなさい。レイ! アスカを連れて逃げて。」

「はい。」

レイは、アスカを連れて行こうとするが、アスカは抵抗する。

「何すんのよ、離してよ! 離せっ!!!」

ガン。

アスカの頭に軽くATフィールドをぶつけ、アスカを気絶させる。レイは、アスカを引
き摺り、側に止まっているトラックの助手席に乗せた。

「一時、撤退します。」

「たのむわ、レイ。」

「はい。」

                        :
                        :
                        :

<街>

「ん、うーーーん。」

アスカは、レイに頬を叩かれ目覚める。

「あ! シンジは!?」

「捕まったままよ。」

「どーして、アンタがついてて、シンジが捕まるのよ! どーして、アンタだけ逃げて
  来るのよ!」

レイは、下を向き沈黙を守る。

レイは、中和されつつあるATフィールドでリザードンの炎を防ぐことで精いっぱいだ
った。シンジが連れて行かれる時、シンジを守為に、ATフィールドの力を少しでも弱
めるていたら、シンジもろとも全てが灰になっていただろう。

「答えなさいよ!」

「今は、碇くんの奪回が最優先だわ。葛城三佐の作戦を伝えます。私がディフェンス。
  アスカがオフェンス。これが、攻撃用のショットガンとマシンガン。」

アスカが眠っている間に、レイが街の警察から調達したショットガンとマシンガンだっ
た。

「わかったわ。じゃ、行くわよ!」

まってなさい、シンジ。死ぬんじゃないわよ!!!

<地下>

シンジは椅子に縛り付けられていた。尋問する前に死なれては困る為か、足は止血され
ている。

「お前、ネルフの人間だな。どこまで我々の事を知っている。」

「・・・。」

「答えろ!」

ドカッ。

シンジを棒でなぐりつける。

「グッ・・・。何も・・・知りません。」

「知らないわけないだろう! なら、なぜ、ネルフの人間がここにいるんだ!」

「・・・こ、ここには・・・偶然立ち寄った・・・だけです。」

ドカッ。ドカッ。

黒服の男は、シンジを殴り付ける。

ドカッ。ドカッ。

「グッ、ほんとうに・・・何も・・・知らないんです。」

「さっさと、吐かないと死ぬことになるぞ。」

ドカッ。ドカッ。
ドカッ。ドカッ。
ドカッ。ドカッ。

シンジの尋問は、拷問と共に続けられた。しかし、知らないのだから吐きようがない。

ドカッ。ドカッ。

「子供の癖に、しぶとい野郎だ。」

シンジを殴り付けていた男は、その腕を止め、壁にかかっている電話機を手にする。

「自白剤を持って来い。」

このままでは、拷問と薬物で間違いなく、殺されるだろう。なんとか脱出する方法を考
えるが、椅子に縛られていては、何もできない。もし、縄をほどかれたとしても、既に、
体中はあざだらけとなり、足も銃で撃たれている。

しばらくすると、扉が開き、別の黒服の男が注射器の入っているらしき銀色のケースを
持ってきた。

もう、ダメか・・・。

自白剤など注射されたら、まず廃人となるだろう。

「最後に、聞かせてほしいことがあるんですが・・・。」

「なんだ。」

「いっしょにいた、女の子2人はどうなりました?」

「じきに捕まる。」

そうか、まだ捕まってないのか。うまく逃げ延びてくれ、アスカ、綾波・・・。

アスカとレイが無事であることを知り、シンジは覚悟を決め目を閉じた。

ドッガーーーーーーーーーーーーーーーン。バラバラバラバラバラ。

シンジは、椅子に縛られたまま、吹き飛ばされた。

な、なんだ???

ズガガガガガガガガガガガガガガ。

レイがATフィールドを全開にして、あたりの壁という壁をぶち壊している。その後ろ
から、アスカなにやら叫びながら、マシンガンとショットガンを乱射しているのだ。

「あ、危ない! アスカ! やめてくれ! ぼくだ! ぼくだよ!」

しかし、砂埃と漠炎で視界は悪く、けたたましい銃声のせいで、シンジの声は届かない。

こ、殺される・・・。

シンジは芋虫のように、椅子に縛られたまま、アスカ達の入ってきたドアの方に移動し
て行った。

ドッガーーーーン。

レイが、壁をぶち壊す。壁の向こうには数人の男達がいた。男達は拳銃で対抗するが、
レイのATフィールドに阻まれ全く意味をなさない。レイの後ろから、アスカがなにや
ら叫びながら、マシンガンを狂った様に乱射している。

ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ。

表情はサングラスの為わからないが、男達は死にもの狂いでさらに奥の部屋に逃げる。

ドッガーーーーン。
ドッガーーーーン。
ドッガーーーーン。

レイが、まわりの壁という壁をぶち壊していく。天井があちこち崩れ落ちてくる。
動くものが目に入ると、アスカはマシンガンとショットガン乱射する。辺りは地獄絵図
と化していた。

レイが、扉を壁ごとぶち壊す。その瞬間、強烈な炎がレイに襲い掛かった。男達は、リ
ザードンのATフィールドの後ろから、銃を撃ってくる。
レイのATフィールドが中和されていく。

「まずいわ。」

アスカとレイは、遮蔽物を使いながら、ジリジリと後退して行く。



シンジは、椅子に縛られたまま、芋虫のように廊下付近まで移動していた。

アスカ、綾波・・・むちゃくちゃだよ・・・。

シンジが廊下に目をやると、そこにはシンジのリュックサックが置いてあり。その上に
はモンスターボールが2つ鎮座している。シンジは、それが天の助けに思えた。

「カヲルくん、出てきて!!」

並んで置かれていたモンスターボールの1つが、白く光り輝く。

「やぁ、シンジ君どうしたんだい? ん? 縛られているのか、今ほどいてあげよう。」

「カヲルくん・・・。」

シンジは自由になると、簡単に今の状況を説明した。

「わかったよ。シンジ君は、ここにいてくれたらいい。」

その時、リザードンに押されて、奥の部屋からアスカとレイがジリジリと後退してきた。
レイは必死にATフィールドを張り巡らせるが、完全なATフィールドとならず、炎が
レイに襲い掛かる。

「やぁ。」

レイとアスカに話し掛けるカヲル。アスカが振り向く。

「あ! シンジ!」

アスカがシンジの元に駆け寄る。アスカの笑顔を見たシンジは、さっきアスカに殺され
かけたことの、文句の1つも言いたい気分だった。

「ん? あの心の壁は・・・。そうか、そういうことか。
  レイ、シンジ君を守ってくれないかい?」

カヲルは1人で納得すると、レイに撤退を促す。レイも、こくりとうなずき、シンジの
前に立ちはだかる。

「なかなか、よく作られているね。」

カヲルは、リザードンを見ながら話し掛けるが、無視して銃を撃ってくる。リザードンの炎がカヲル
を包み込む。

「かわいそうだけど、僕の心の壁は結界を作り出すんだ。シンジ君をこんな目に合わせ
  た償いはしてもらうよ。」

カヲルは、ポケットに手を入れたまま、絶え間無く微笑を浮かべていたが、ほんの、わ
ずか一瞬、カヲルの口元から微笑が消えた。

ズガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン。

一瞬の出来事だった。カヲルの立っている位置を境目に、目の前に視界が広がっていた。
シンジ達が見上げると、満点の星空だけが見えた。
カヲルが、ATフィールドを半球状に半径100mで展開した結果だった。
カヲルは、微笑を浮かべたまま、シンジ達をATフィールドに包み込み、ふわふわと地
上まで浮かび上がって行く。

「カヲルくん、ありがとう、助かったよ。」

「ハハハハハ、僕はシンジ君を守る為に生きているからね。」

「碇くん、ごめんなさい。私、守り切れなかった。」

横で、レイが頭を下げて謝罪している。

「綾波がいなかったら、リザードンに焼かれていたよ。ありがとう、綾波。」

その言葉を聞いて、レイはかすかに微笑み、モンスターボールへ帰って行った。

「僕も帰るとするよ。」

2人がモンスターボールに帰った後、亀裂の入った舗装道路には、シンジとアスカだけ
がたたずんでいた。

To Be Continued.
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