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ポケ使徒
Episode 05 -看病-
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<街道>

レイとカヲルがモンスターボールに帰ると、シンジが道の端に座り込んだ。足が銃で撃
ち抜かれた為、立っていることができない。

「シンジ!」

多量の出血の後に拷問を受けたのだ。月明かりしか無い状態ではあるが、シンジの顔が
真っ青であることがわかる。
さすがに、アスカがシンジを抱えて歩くことはできないので、シンジに肩を貸して、先
程乗ってきたトラックまで歩いて行く。なんとかサポートしながら、シンジを助手席に
乗せると、アスカも反対側に回り運転席に飛び乗った。

「もう少し、がまんしてね。」

アスカは、自分の興味半分な好奇心からこうなってしまったことを、シンジに詫びたか
った。しかし、今はそれどころではない。街に行けば病院があるはずだと判断したアス
カは、目の前に見える街明かりに向ってトラックを跳ばした。

街に入ってから病院を探している余裕なんてないわね。

街道を走る途中、片手で携帯を取り出し、ミサトに電話を入れる。

「ミサト!?」

『状況は?』

「敵は殲滅したわ。でも、シンジが重傷なの。病院の確保を頼むわ。」

『まかせといて!』

アスカはミサトに指示された病院へ向けて、全速力でトラックを走らせる。街中に入る
とパトカーに先導され、病院まで導かれた。

<病院>

トラックのまま、病棟の前に乗り付け、クラクションを鳴らす。

パパーーーーーン。パパーーーーーン。パパーーーーーン。

病棟から数人の医師と看護婦が出てくる。

「アタシは特務機関ネルフの惣流・アスカ・ラングレー。連絡が来ているはずよ!」

「はい、伺っております。」

医師団が、アスカの隣にいるシンジをタンカ乗せると、病院内に運び込む。アスカもぴ
ったりと横について行った。

「アスカ、ありがとう。」

シンジはアスカに微笑みながら、お礼を言う。

「バカ。余計な体力使うんじゃないわよ!」

「うん。」

そのまま、シンジは手術室に直行した。

手術中。

赤いランプが点灯する。

「手術の時間は?」

「断定はできませんが、3時間前後だと推測されます。」

アスカの質問に、近くにいた看護婦が丁寧に答える。

「そう。少し仮眠を取るから、手術が終わる前に起こしてくれないかしら?」

「承知いたしました。」

シンジのことが心配で、とても寝る気にはなれない。しかし、アスカは徹夜で看病する
つもりであった。その為には、何もできない時間をイライラしながら過ごすよりは、体
調の調整をしておくべきだと、感情的ではなく理論的な判断を下したのだ。

手術室の前の長椅子で、そのまま横になるアスカ。理屈ではわかっているが、シンジの
ことが気になってなかなか寝付けない。しかし、無理矢理、精神を集中してアスカは睡
眠を取る。

                        :
                        :
                        :

「惣流様。もうすぐ手術が終わりますが。」

ガバッ。

普段では考えられないくらいの寝起きの良さで、飛び起きるアスカ。かなり眠ったよう
な気もする。ふと時計に目を向けると、午前4:00を指していた。

「え! 手術って何時間かかったの!?」

「8時間近く経過しています。弾丸が体内に残っていまして、最悪の場合足を失うかも
  しれない状況でしたので、長引いた模様です。」

「な、なんですって!!! 大丈夫なんでしょうね!!!」

看護婦の胸ぐらを掴んで問いただすアスカ。

「は、はい。発熱する恐れがあるものの、足の方は成功したと聞いております。」

「それならそうと、最初から言いなさいよ!」

手術中のランプが消え、シンジが出てくる。アスカが駆け寄り、シンジの顔を覗き込む
と、血色を取り戻し眠っていた。

「成功したんでしょうね!」

今度は、医師にくってかかるアスカ。

「はい、もう大丈夫です。」

「そう。」

ようやく、緊迫していたアスカの顔にかすかな笑顔が戻った。病室へ向うシンジの横に
付いて歩くアスカ。

「退院はいつなの?」

病室へ向う途中、医師に聞く。

「本来でしたら、1ヶ月は入院していただきたいのですが、後は惣流様にまかせれば良
  いと伺っておりますので、1週間で退院となります。」

「そう、わかったわ。」

シンジが病室に入る。病室は、個人部屋よりはやや広めので、病人用のベッドが2つ並
んで配置されていた。おそらく1つはアスカ用の物であろう。
シンジを病室のベッドに寝かせると、医師団は後をアスカに任せて帰って行った。

シンジの体の何個所かに包帯が巻かれているが、ギブスが無いところから見ると、骨に
異常は無かったようだ。アスカは、いつまでもシンジを見続けていた。

<ネルフ本部>

ネルフ本部では、ゲンドウ,冬月,ミサト,リツコが集まり、緊急会議が開かれていた。

「今回の事態は予測していないことです。レイに対抗しうるATフィールドを発生させ
  ることが可能なポケ使徒は、自然には存在しません。サードチルドレン、碇シンジが
  銃で撃たれたという事実からも、なんらかの組織が関与し、ポケ使徒を人工的に強化
  しているものだと考えられます。」

推論を交えながら、事態の説明をするミサト。

「コアそのものを強化することは不可能です。よって、複数のポケ使徒のコアを、1体
  のポケ使徒に埋め込んで強化しているというのが、MAGIの判断です。」

技術部としての調査結果を、報告するリツコ。

「どのくらいまで、強化可能なのかね。」

冬月が聞き返す。

「151体全てのポケ使徒を融合させると、アダム,リリス,タブリス以外の使徒全て
  と同等。つまり使徒14体分に匹敵する力を持つという計算になります。」

「なっ・・・。」

「しかし、今回、レイに対抗しうるポケ使徒を殲滅しています。今回のポケ使徒はコア
  を10〜15個、使用していると推測されますし、その他に殲滅済みのポケ使徒の数
  を考慮に入れますと、残り全てのポケ使徒を融合させても、使徒10体分前後となり
  ます。」

「あまり、楽観できる状況だとは思えんな。どう思う碇。」

「所詮、人間の敵は人間だよ。」

ゲンドウは動じた様子も無く、含み笑いを浮かべるだけだった。

「いざとなれば、エヴァがあるということか・・・。組織の解明、及び今後の対策を急
  ぎたまえ。」

「はい。」「はい。」

冬月の指示により、会議は終わった。

<病院>

翌日、シンジは目覚めた。横を見ると、アスカがベッドに腰をかけて、雑誌を読んでい
る。

「おはよう、アスカ。」

「あ、シンジ。目が覚めたようね。」

雑誌をベッドに置くと、シンジの元へ寄ってくる。

「うん。心配かけた?」

「心配はしたけど、そんなことはどうでもいいわ。何かほしいもの無い?」

「その前に、あれからどれくらい経ったの?」

「2日目よ。思ったより軽症でよかったわ。」

シンジの髪の毛をなでながら、いとおしそうに見つめるアスカ。

「水をくれないかな。」

「ちょっと、待ってなさい。」

アスカが、冷蔵庫に冷やしてあるミネラルウォーターを、コップに入れて持ってくると、
シンジは、水を飲む為に体を起こそうとした。

「い、いた!」

「無理しちゃダメよ。体中アザだらけなんだから。」

手で、寝たままでいるように促すと、アスカは、シンジの口元にコップを当てて、傾け
ていく。喉を見ながら、口に流し込む水の量を調整するアスカ。
何口か飲むと、シンジは手で、飲み終わったことを合図する。

「もういいの?」

「うん。ありがとう。」

コップをベッドの横に設置されている台の上に置くと、アスカはシンジの顔を覗き込む。
そのアスカの目は、悲しそうだった。

「ごめんね、アタシのせいでこんなになっちゃって。いつもいつも、アタシのせいで。」

「いいって。あれくらいじゃなきゃアスカらしくないよ。」

「えっ?」

「あれ? いつものように怒らないの? 意地を張ってないアスカなんて、アスカらしく
  無いよ。」

シンジが、ニヤニヤしながらアスカに話し掛ける。

「な、なんですって! もう一度言ってみなさいよ! バカシンジ!」

アスカは怒声を発するが、シンジは、手をアスカの頬に当てると笑顔になる。

「フフっ。それでいいんだよ。」

「クスっ。そうね。」

チルドレン,大学卒業,誰もが羨む容姿。しかし、シンジにだけは一生かなわないだろ
うとアスカは思う。意地っ張りな所、わがままなところを全て含めて、シンジは優しく
包み込んでくれている。自分がどれだけ、意地を張ろうと、全てはシンジの中で背伸び
しているような気した。

「さって、お昼ご飯食べるでしょ? 取ってくるわ。」

「うん。」

病室の前には、既にトレイに乗せられた昼食が置かれていた。2人分の昼食を持ってア
スカが戻ってくる。

「あまり、おいしくないのよねぇ。ここの食事。」

「病院だから仕方無いよ。ここに置いてくれないかな?」

シンジは、自分の胸の上を指差す。

「アタシが食べさせるわ。」

「えーーー、もう、そういうのは勘弁してよ。」

「嫌よ。」

「はぁ・・・。」

こうなっては、何を言っても無駄なことくらいシンジにはわかっているので、諦めた。

「はい、あーーーん。」

「あーーーん。」

アスカが、豆腐をスプーンですくって口に入れる。

「ア、アッチーーーー!!!!」

シンジの口から、豆腐がこぼれ出る。

「え? 熱かった?」

こぼれた豆腐を、箸でつまんで食べてみるアスカ。

「ほんと、熱いわ。」

「せめて、温度くらい確かめてよ!」

その後、熱そうなものは、唇で温度を確かめながら食べさせていくアスカだった。

シンジに全て食べさせ終わると、自分にも用意された同じ食事を食べる。

「本当に、ここの食事まずいわね。」

「退院したらさ、また、こないだの旅館みたいな食事のおいしい所に泊まろうよ。」

「そうね。それまでの我慢か。」

パクパクと食事を食べていたアスカだが、途中で箸を止めた。

「シンジ、こないだのポケ使徒の事だけどね。」

「何か、わかったの?」

アスカが、真剣な顔で話しだしたので、シンジも真剣に聞く。

「リツコの調査の結果では、人為的に強化されたポケ使徒らしいのよ。」

昨日、シンジの状況を報告した時に知らされた情報を伝える。

「だろうね。あまりにも強すぎたから。」

「現存するポケ使徒を全て集めると、使徒10体分くらいの力を持つポケ使徒が作れる
  そうよ。」

「え! 本当に!?」

そこまでとは、シンジも考えていなかった。

「ええ、だから、早期にポケ使徒の殲滅が必要なんだけど、アタシ達、こないだのこと
  があるから、狙われるかもしれないらしいの。」

「で、ミサトさんの指示は?」

「組織を解明する為に、囮になってくれって。」

「だろうね。」

「その代わり、あと1人助っ人をよこしてくれるらしいわ。」

「誰?」

「それが、教えてくれないのよ。白兵戦の訓練を受けた人って言ってたから、諜報部の
  人だと思うわ。」

「そう。どこで合流?」

「事前準備とか手続きが必要だから、アタシ達が次の街についた時に合流だって。」

「まだ、当分先だね。」

今までは、たとえ森の中の進行でも、シンジとアスカの2人っきりだった。ところが、
今度からメンバーが追加され、3人での行動となる。アスカは残念で仕方が無かった。

せめて、この病院での休養くらいは楽しまないとね。

この先の短い病院生活に、思いをはせるアスカだった。

「ねぇ、シンジ、鬚のびてるわよ。」

まだ薄い髭だが、剃ってからもう3日になるので、目立ってくる。

「仕方無いじゃないか。」

「剃ってあげよっか。」

「いいよ。」

本気で、シンジは嫌だった。床屋じゃあるまいし、剃ったことも無いアスカに剃られた
らどうなるかくらいは、容易に想像ができた。

「いいからいいから。」

アスカは、既に用意していたシェーバーとシェービングクリームを取り出す。

「い、いいって、本当にいいって。」

「嫌よ。」

はぁ・・・。これじゃ、おもちゃだよ・・・。

左手にたっぷり出したシェービングクリームを、シンジの顔に塗りたくると、右手に持
ったシェーバーを力強く握り締めるアスカ。シェーバーの刃が、光に当たって光る。シ
ンジは身を固くした。
まだ、薄い鬚をそーーーっと剃っていくアスカ。息もせず、真剣である。

「はぁーーーーーー。」

「緊張するわねぇ。」

シンジの方が、それ以上に緊張していた。

再び剃っていくアスカ。

「はぁーーーーーー。」

一剃りするごとに、深呼吸する。

そうして、一通り剃り終わると、濡れたタオルで顔に残ったクリームを拭きとるアスカ。
ようやく、シンジも生きた心地がする。

「だんだん上手くなるからね。」

「えーーー、毎日するの?」

「とーぜん。」

今日は、奇跡的にどこも切られなかったが、いずれ血を見ることをシンジは覚悟した。

顔を一通り拭き終わると、シンジのパジャマの上着を脱がし出すアスカ。

「こ、こんどは何?」

「あれから、お風呂入ってないのよ。気持ち悪いでしょ。」

体を拭いてくれるようだ。

「いいよ、そのうち、風呂に入るから。」

「嫌よ。」

鬚を剃ることに比べたら安全なので、アスカにまかせることにするシンジ。
アスカは、濡れたタオルを持ってくると、傷口に注意しながら、体を拭きだした。数日間、
風呂に入れなかったので、気持ちいい。
一通り、体を拭き終わると、パジャマを着せるアスカ。

「どう? すっきりしたでしょ。」

「うん。ありがとう。」

「じゃ、次は、歯磨いてあげるわね。」

「そ、そこまでしてくれなくても、歯くらいは自分で磨けるよ!」

「嫌よ。」

何もシンジにはさせるつもりはないらしい。シンジはこの病院にいる数日間、アスカの
人形になる覚悟をした。

                        ●

そうして、数日が経過した。

シンジの体力も回復していたが、病院にいる間はずっとアスカが世話をしていた。シン
ジも、少し髭を剃る時に顔が切られたものの、アスカがしたいようにやらせていた。

「ようやく退院ね。」

「そうだね。まだ、次の町で助っ人の人と合流するまでには2日程あるから、この町
  の旅館で一泊してから行こうか。」

「そうね。病院の食事には、もううんざりだから、おいしいものが食べたいわ。」

晴れた日の中、シンジとアスカは病院を後にするのだった。

To Be Continued.
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