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ポケ使徒
Episode 06 -再会-
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<旅館>

助っ人の人と合流予定の街まで移動した2人は、アスカの希望で豪華な旅館に宿泊する
ことにした。今日がシンジと2人っきりでいられる最後の日なのだ。

「ふぅ、ただいまー。」

先に風呂に入ったアスカが、体から湯気を立ち上らせて浴衣姿で帰って来る。

「ここのお風呂どうだった?」

この旅館は、温泉と食事が豪華なことを売りにしているので気になる。

「装飾も奇麗だし、広いし最高よ。泡風呂とか電気風呂もあったわ。」

「へぇ、ぼくも入ってこようかな。」

「そうしなさいよ。すっごく気持ちいいわよ。」

シンジは、自分のリュックから下着とモンスターボールを取り出す。

「カヲルくん。お風呂に行かない?」

シンジがモンスターボールに話し掛けると、いつもの微笑よりやや嬉しそうな顔をした
カヲルが現れる。

「シンジ君、誘ってくれて嬉しいよ。アスカ君は、せっかく風呂に行くというのに、一
  度も誘ってくれたことが無いからね。」

「アンタバカぁ? あったりまえでしょーが!!」

部屋の隅でごそごそと荷物の整理をしていたアスカが、苦手なカヲルを睨みつける。

「その顔は、君らしくていいね。さぁ、シンジ君行こうか。」

カヲルはアスカのことなど眼中に無く、シンジを引っ張って部屋を出て行った。

バーーーーン!

2人が出ていった扉に、湿ったバスタオルを投げつけるアスカ。

もぉぉお! せっかくいい気分だったのに、何でアイツが出てくるのよ!

アスカは浴衣の袖を噛んで、ヒステリーを起こしている。早めに風呂に行ったおかげで
シンジは、八つ当たりをされずに済んだようだ。

2人っきりなのは、今夜が最後なんだから、早めにアイツを帰さないといけないわね。
今夜こそシンジに、とどめを指すんだから!

アスカが何やら、よからぬ作戦を企てているとも知らずに、シンジはカヲルとのんびり
温泉に浸っていた。

「わぁ、すごい風呂だ。こんな風呂に入ったことないや。」

「ここの風呂は、広さといい雰囲気といい格別だね。」

男風呂はジャングル風呂であった。たくさんの木が生えており、吊り橋まである。吊り
橋の下には、危険が無い様に網は張ってあるが、ワニやピラニアを飼っているという凝
りようだった。

「カヲルくん、あっちに行ってみようよ。」

洞穴のような穴の中にミストが吹き出ている変わった風呂を指し示すシンジ。

「こんな風呂もあるんだね。気持ちいいよ。」

カヲルもミスト風呂が気に入ったようで、吹き出してくるミストを楽しんでいる。

「ぼくもこんなの初めてだよ。あまり銭湯とかって、行ったこと無いんだ。」

シンジとカヲルは、めずらしいジャングル風呂をうろうろと歩き回り、存分に楽しんだ。

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「あー、もう! いつまで風呂に入ってるのよ!」

カヲルの長風呂にシンジが付き合っているので、1時間近くもシンジは帰ってこない。
アスカは自分の入浴時間を棚に上げてイライラしている。

「もぅ!」

ドカ!

怒りの持って行き場の無いアスカは、シンジのリュックを蹴りつける。

ガチャ。

ちょうどその時、シンジ達が帰ってきた。

「いい湯だったよアスカ。」

ドアを開ると同時に、シンジは気分良くアスカに話し掛けるが、アスカの怒声が響き渡
る。

「いつまで風呂に入ってるのよ!」

いままでのうっぷんをシンジにぶつけようと、ドスドスとアスカがシンジに向っていく。
その時、アスカの後ろから声がした。

「何?」

振り返ると、レイが立っているので、驚くアスカ。シンジのリュックを蹴り飛ばした時
の衝撃を、呼ばれたと勘違いしたレイが出てきてしまったのだ。

「ゲ! なんで、アンタがいるのよ!」

「そうだ、今日がこの4人でご飯を食べれる最後の日だから、みんなで食べに行こうよ。」

後ろにカヲルもいる、ご飯時にうまく4人が揃っているので、シンジがみんなに提案し
てみる。しかし、アスカにしてみればそんなことになってはたまらない。

「ダメよ! ファーストの食べれる物が出てくるかどうかわからないじゃない!」

前回と同じ理論で攻めるアスカ。成功した実績がある。

「大丈夫だよ。ここは京料理らしいから、ほとんどは綾波でも食べれるよ。」

「うっ・・・、だけど、2人分しか用意されてないでしょ?」

「大丈夫だよ。ここは、レストランみたいにその場で注文する形式だから、4人分を頼
  んだら問題無いよ。」

アスカの理論は総崩れとなり、ぐぅの音も出ない。うまい理由が無いものかと考えるが、
焦って何も頭に浮かばない。

「僕もシンジ君と一緒に食事をしたいな。」

カヲルが、笑顔でシンジの意見に賛成する。

「私も、一度京料理は食べてみたいわ。」

レイの加勢により、アスカは3:1の窮地に立たされた。

今日が最後の日だっていうのに、なんで、そうなるのよ! さっさと食べ終わって、モ
ンスターボールに帰すしかないわね、これは。

「わかったわ。大勢で食べた方が楽しいし、ファーストもいいって言うなら、みんなで
  食べに行きましょ。」

全員の意見が一応は一致したので、食堂へ向う廊下を歩く4人。シンジとカヲルが並ん
で先頭を歩き、その後ろをアスカとレイが続く形となる。

なんで、アイツとずっと一緒にいるのよ!

アスカは、なんとかシンジとカヲルの間に入ろうと試みたが、食堂までその隊列は変わ
らなかった。食堂に入るとシンジとカヲルを追い抜き先に座敷に座る。

「シンジ、ここ来なさいよ。」

パタパタと自分の隣の座布団を片手で叩くアスカ。

「カヲルくんが、一緒に食べようって言ってるから、カヲルくんと座るよ。」

「え! ちょっと・・・!」

シンジはアスカの言葉など聞かずに、カヲルと話をしながらアスカの対角線上に座って
しまう。

ムーーーーーーーーーー!!!

この旅館は料理の豪華さを売りにしているので、出てきた料理はすばらしいものだった。
シンジとカヲルは豪勢な料理を食べながら、盛り上がっている。レイもまんざらでは無
いようで、黙々と料理を食べていた。しかし、今のアスカには、料理の味などわからな
かった。

この邪魔な2人をどうしてくれよう・・・。

このままいけば、夜遅くまで4人で遊ぶことになりそうだ。何かの口実を見つけてモン
スターボールに返さなければならないが、肝心の口実が思い浮かばない。
料理人には失礼だが、考え事をしながら味わいもせず口に運ぶだけのアスカ。

「これも、おいしいね。」

「うん、見栄えも奇麗だし、京料理こそ料理の最高峰だね。」

楽しそうに会話するシンジとカヲルの声が、アスカの耳に入ってくる。
ふと、自分の料理を見ると、何を食べたのかわからないうちにほとんどの料理が無くな
っていた。

本当は、シンジと楽しく食べたかったのに・・・。どうしてこうなるのよ!

残っているほんのわずかな料理を、パクパクと口に運ぶアスカ。

「アンタ達も早く食べなさいよ。」

レイはもうすぐ食べ終りそうだが、話に夢中になっているシンジとカヲルは、まだまだ
料理がたくさん残っている。

「ちょっと、待ってよ。」

シンジは、アスカとレイが食べ終わりそうなことに気付き、急いで食べ出す。

「何も慌てることはないじゃないか、せっかくの料理がもったいないよ。」

「そ、そうだね・・・。」

もうすこしで、アスカの思惑通りになるところで、カヲルのチャチャが入り、シンジの
食べるペースが再びゆっくりになる。

いつも、いつも、いつも、なんで、コイツは余計なことばっかり言うのよ!

食事が終わったのは、それから30分も経過してからだった。

「ぼく、ちょっと用事があるから、先に戻ってて。はい、これが部屋のキー。」

部屋のキーをアスカに渡して、走り去っていくシンジ。

「ちょっとー!! どこ行くのよ!」

「すぐ戻るよーーー!」

残った3人だけで部屋に戻り、食後の休憩をしていると、数分もしない間にシンジが戻
ってきた。

「ただいまーー。宿泊の人数を4人に増やしてきたよ! 布団も4組敷いてもらえるか
  ら、今日はみんなで寝ようよ!」

走って帰ってきたシンジは、息を切らせながら得意げに報告する。

「な、な、なんですってーーーーーーーーー!!!!!!」

TVを見ながら座っていたアスカが、シンジを睨んで立ち上がる。

「ア、ア、アンタ! 何考えてんのよ!!!!!」

シンジに詰め寄るアスカ。

「何って・・・、みんなで泊まるんだから、ちゃんと手続きしておかないといけないと
  思って。」

「なんで、アンタは余計なことばっかりするのよ!」

「何が余計なんだよ。」

「フン! もういいわよ!」

アスカは既に敷かれていた布団に潜り込んで寝てしまった。その後、レイはモンスター
ボールに帰ったので、シンジとカヲルは夜遅くまで長風呂を楽しむこととなる。

翌朝。

「ふぁぁぁーーーー。」

早くに寝たので、目覚めの良いアスカ。周りを見渡すと、シンジが出立の準備をしてい
る。

「ファーストとアイツは?」

「おはよう。綾波とカヲルくんは、もうモンスターボールに帰ったよ。そんなことより、
  昨日は、何を怒ってたのさ。」

「知らない!」

アスカはそっぽを向いて、顔を洗いに洗面所に入ってしまった。

「なんだよ。」

歯をみがきながら、アスカの入った洗面所の扉を見つめる。

<喫茶店>

指定された喫茶店で助っ人を待つシンジとアスカ。

「どんな人だろうね。」

「白兵戦の訓練を受けたってくらいだから、諜報部の人じゃないの?」

「怖そうな人だったら嫌だな。」

しかし、待てども待てども待ち人は現れない。2人は待ち合わせの時間より、早く到着
していたので、よりいっそう待ち時間が長く感じられる。

「遅いね。」

「ねぇ、もうどこかの席に座ってるんじゃないかしら?」

それらしい人が座っていないか、きょろきょろとアスカが見渡すが、それらしき人物は
見当たらない。

「でも、ぼく達の顔は知ってるはずだから、見つけたら声を掛けてくるはずだよ。」

「そんなのわかるわけないじゃん。シンジ、ちょっと探してきてよ。」

「顔も知らないのに、わかるわけないよ。」

「もうっ、だらしないわね!」

「無茶言うなよ!」

カラン。

喫茶店の扉が開く音がする。待ち人が来たのかと期待して振り向くと、2人の目には思
わぬ人物の映像が飛び込んできた。

「おひさー。あなた達、元気そうじゃない。」

シンジとアスカを見つけたミサトは、手を振りながら近づいていく。

「ミサトさん!」

「ミサト!?」

「ハーイ。待たせちゃったわねん。」

「まさか、助っ人ってミサトさんですか?」

確かにミサトならば、白兵戦の訓練くらい受けていてもおかしくはないのだが、まさか
作戦部長のミサトが来るとは思っていなかったのだ。

「ざーーんねん。シンちゃんが、もっと喜ぶ人よん。」

ミサトはそう言って、喫茶店の外にいるらしき人物を手招きする。2人の視線もミサト
からそっちの方に自然と向く。

カラン。

「シンジ・・・。」

「マナ!!」

そこには、ロボット事件依頼、消息不明になっていたマナが立っていた。シンジは自分
の座っていた椅子をガタンと倒して立ち上がると、喫茶店の入り口に立つマナに駆け寄
る。

「マナ!!」

マナの片手を両手で握り締め、再会を喜ぶシンジ。

「ずっと、会いたかった。ずっと・・・。やっと会えたのね。」

マナはよほど嬉しいのか、目に涙を浮かべてシンジの胸にもたれかかる。

「もう、会えないんじゃないかって思ってた。また、会えて嬉しいよ。」

そんなマナを受け止めるシンジ。そんな2人を微笑ましくミサトは見ていたが、横から
低い声が響く。

「ミサトぉ、約束が違うじゃない! どういうつもりよ!」

「え? さ、さぁ、なんのことかしらぁ。」

「2人っきりの旅行だっていうから、引き受けたのに! ファーストやあのよくわから
  ない奴がモンスターボールから出てくるし、今度は、よりによってあの女を連れて来
  るなんて! 何考えてるのよ!」

やっぱり、昨日のうちにとどめをさしておくべきだったわ!

すっとぼけるミサトを、鬼も恐れをなすような形相で睨み付けるアスカ。

「これからは、人間が相手になることがあるわ。霧島さんはその方面の訓練を積んでる
  から、一緒に行動してもらいたいのよ。」

「ファーストとか、あのわけのわからない奴がいたら、ATフィールドがあるんだから、
  それだけで充分じゃないの!」

口調はきついが、アスカはミサトに懇願していた。このままではシンジがどこかへ行っ
てしまうのではないかという恐怖が、アスカにのしかかっていたのだ。

「ダメよ。トラップを仕掛けられたらどうするの? レイやカヲルくんは自分の体を守る
  ことはできるでしょうけど、シンちゃんやアスカを助ける余裕なんて無いわ。」

「だからって、何もアイツじゃなくてもいいじゃない! 加持さんとか、その方面のプロ
  なんていっぱいいるじゃない!」

ミサトの顔が一気に曇る。そして、少し躊躇したが、いままでアスカにだけ隠していた
事実を告げる。

「加持は・・・、死んだわ・・・。」

ミサトの言葉に、アスカの表情が一変する。

「じょ、冗談・・・・・・・・・・でしょ?」

「本当よ。」

「嘘! 嘘よ、そんなの!」

服を両手で握り、ミサトを揺さぶるアスカ。

「こんな嘘を、わたしが言うと思う?」

「そんな・・・。いつなのよ、いつ加持さんが・・・・・シンジは? シンジは知って
  るの?」

「たぶん、知ってると思うわ。加持はアスカが入院している時に、死んだの。」

「そんな・・・・・・。そんなのって・・・・。」

アスカの頭には、既にマナのことは無かった。あの加持が死んだ。アスカが昔から慕っ
ていた加持が死んだ。言葉が出せなかった。

「今まで黙っててごめんなさい。でも、アスカは加持のこと慕ってたから、退院したば
  っかりのあなたには言えなかったの。わかって。」

「・・・アタシのことなんていいわよ。アンタの方が何倍も辛かったんでしょうから。」

拳を握り締め、悲しみに耐えながらも、ミサトのことを思いやるアスカ。このあたりが
少し前のアスカとの違いであり、シンジのもたらしたアスカの成長である。

「一時期は毎日泣いてたわ。けど、もう吹っ切れちゃった。」

無理に明るく、笑顔でミサトがおどけてみせる。

「そう、アタシが入院してる時に・・・。シンジも辛かったでしょうね。」

「そうね。もしかしたら、一番辛かったのはシンちゃんかもしれないわ。」

「人の苦労まで背負い込むのよ。アイツ。」

「シンちゃんを信じなさい。あなたもそんなシンちゃんに、あそこから救い出してもら
  ったんだから。」

「でも、シンジの優しさはアタシ1人に向いてるわけじゃないから・・・。」

「それは、アスカの努力次第でしょ?」

「・・・・・・。」

ミサトとアスカがいつのまにか、しんみりと会話をしている所に、シンジが戻ってきた。

「ミサトさん。これからぼく達どうしたらいいんですか? マナに聞いても知らないっ
  て言うし。」

「今から説明するわ。霧島さんもこっちに来て。」

「はい。」

ミサトに呼ばれたマナが、シンジの背後から出てくる。

ビシッ!!!

アスカとマナの視線が合った瞬間、火花が出るような衝突があったが、表面上は穏やか
にミサトの前に座る。

「これから、あなた達には、ホンコンに行ってもらうわ。どうも、ポケ使徒が集められ
  てるみたなの。これが、その付近の地図よ。」

ミサトが3人分の地図を配る。

「恐らく、ホンコンに行けばあなた達は狙われるわ。危ないけど、その時がチャンスな
  の。相手の組織を探ってほしいの。」

「わかったわ。ミサトはどうするの?」

「わたしは、他の部隊に連絡とか指示をしないといけないから、このままネルフ本部へ
  戻らなくちゃいけないの。」

「そう。じゃ、これからはアタシ達3人とボールの中の2人で行動するわけね。」

「そうなるわね。」

「じゃ、さっそく出発するわよ。」

「危険だけど、よろしく頼むわね。」

「まかせてよ。さ、シンジ行こ!」

アスカは、シンジの腕を捕まえようとするが、いつの間にか、その腕にはマナがぶら下
っていた。

「行きましょ、シンジ。」

腕をからめて、喫茶店を出て行こうとするマナ。

「アンタ何してるのよ!」

アスカが、力ずくでシンジとマナの間に割って入った為、マナが転んでしまう。

「いったーーーーー。」

「アスカ! 危ないじゃないか!」

シンジとマナの間にいたアスカを押しのけ、マナに手を差し伸べるシンジ。

「マナ、大丈夫? もう! アスカは強引なんだから!」

「ムーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

マナが、再びシンジの右腕にぶらさがると、対抗して左腕にぶらさがるアスカ。そのま
ま、両腕を引っ張られながら連行されるように、店を出て行く。

「ミサトさーーーーん。行ってきまーーーーす。」

シンジは連行されながらも、振り返りミサトに挨拶をする。

「がんばるのよーーーー!!」

「はい! がんばって、敵の組織を暴いてみせますよ!」

カラン。

戦いに行く3人とモンスターボールの中の2人を、手を振りながら見送るミサト。

「がんばるのは、違うことでしょ。シンちゃん。」

To Be Continued.
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