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ポケ使徒
Episode 07 -失敗-
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<ホンコンの商店街>

ホンコンにたどり着いたシンジ達は、今後の旅に必要な物を揃える為に、商店街に来て
いた。

「シンジーー!! これ、かっわいーーー!! 来て来てーー!!」

先に走って行ったマナが、何かを見つけたようだ。手を大きく振って呼んでいる。

「うん。ちょっと待って。」

「シンジ、これおいしそうよ。買わない?」

走り出そうとしたところを、横について歩いていたアスカに呼び止められる。

「え? ちょっと・・・。そ、そうだね。」

受け答えはするが、マナのことが気になって仕方ない。ちらちらと、マナの姿を見る。

「あーー。これなんか、シンジ好きそうじゃない。見てごらんなさいよ。」

抵抗するアスカ。

「シンジーーーーー! まだぁぁ〜〜!」

マナも攻撃する。表面上は穏やかだが、水面下での激戦の間に立たされ、困り果てるシ
ンジ。

「あの、マナが呼んでるから・・・。」

「これ、買ってから行けばいいでしょ!」

アスカは、珍しいお菓子を手に持ち、シンジに見せる。

「そ、そうだね。」

シンジも、一緒にお菓子を選び出すが、マナの催促は続く。

「何してるのーーー? 早く早くぅーーー!!」

シンジは、お菓子を手にしながらも、マナが気になって仕方が無い。お菓子とマナの間
を、幾度か視線が往復する。

「ぼく、このお菓子でいいから。」

自分の選んだお菓子を、アスカに手渡すと、シンジは走って行った。

「もぅっ! なによ!!」

手にしていた2つのお菓子を、放り出すと、アスカもシンジを追う。

「ごめん。ちょっと、めずらしいお菓子があったから。」

「シンジ、遅ーーーい。ほら、これ見てみて。かっわいいーー。」

マナが、青い人形のペンダントをシンジに見せる。

「そうだね・・・。ハハ・・・。」

「買ってほしいなぁぁ。」

「えっ?」

「シンジやっさしぃぃぃーーーー!!」

マナ得意の攻撃である。シンジの弱点を押さえている。

「じゃ、買おうか。」

そこへ、さっきまで、お菓子を見ていたアスカが到着。

「何、余計な物買おうとしてるのよ! 旅の支度しにきたんでしょ!」

自分のことを棚に上げて、よく言う。

「でも、マナがほしいって言うし。これくらい、いいんじゃないかな?」

「そんなの、邪魔になるだけよ!」

「あ−−! アスカもほしいんだぁーーー。」

マナに図星をつかれた。別にこのペンダントじゃなくてもいい。自分も何か買ってほし
かったが、つい、意地を張ってしまう。

「いらないわよ! そんなもん!!!」

「あっそ。でも、わたしはシンジに買って貰っちゃうもんねーー。ねーーシンジ。」

「ハハハ・・・・。」

「じゃ、行こ行こ!」

得意満面のマナに手を引かれ、アスカのことが気になりながらも、シンジはペンダント
を持ってレジに向った。こういう時、マナの方が素直な分、有利である。

「ムーーーーーーーーーーー!!」

惨敗したアスカは、膨れっ面で仲良く手を繋ぐシンジとマナを睨む。

なによ! なによ! なによ! なによ!
今頃になって、急にのこのこ現れて!シンジは、もうアタシのものなんだからね!!
ぜーーーーーーったいに渡さないわよ!!

アスカは、この屈辱を10倍にして返してやることを誓った。

<ファーストフードショップ>

シンジ達は買い物を済ませ、一息ついている。

「えへへへへへ、かわいいでしょーーーぉ。」

さっきから、何度も聞いたセリフ。
シンジに買ってもらったペンダントを、自慢気にアスカに見せびらかす。

「かわいくなんかないわよ! そんなもん!」

「本当は、アスカも買ってほしかったんだーーー!!」

必要以上にアスカを刺激する。

「いらないって、言ってるでしょ!! アンタも相当ひつこいわね!!」

買い物の時から、ずっとこんな調子が続いている。

「ぼく、ちょっとトイレに行ってくるよ。」

シンジは、自分の荷物を手にすると、席を立つ。
アスカとマナの2人だけになると、会話が途絶える。

コツコツコツ。

横を向き、テーブルを指で叩くアスカ。

「シンジとまた会えるなんて、夢の様・・・。」

ペンダントを見つめ、語り掛けるように呟く。

「それは、よーござんしたね!!」

「最初はもう私なんて、シンジとアスカの間に入り込む余地は、無いかもしれないと思
  ってた。会えるだけでもいいと思ってた。」

ビクッ!!

アスカの体が震える。マナは人形に向って、語り掛けているが、あきらかにアスカへの
言葉だ。

「フン! よく言うわね! この女狐!」

アスカが、鼻で笑う。

「でも、まだ大丈夫みたい。 前は、もう会えないと思ったから、身を引いたけど、2
  度とシンジを離さない! 絶対負けない!!」

ジロ!

人形を見ていたマナの目が、アスカに向く。恐い・・・。

「フフフフフ。残念ながら手後れのようね。もう、アタシとシンジは固い絆で結ばれて
  いるの。アンタの入り込む余地なんて、針の通る隙間も無いわ!」

ギロ!

横を向いていたアスカの目が、マナに向く。恐い・・・。

「フフフフフフフフフフ。」
「フフフフフフフフフフ。」

お互いの目から、視線を一瞬足りともそらさず、低い声で笑い合う2人。

火花が散るとは、まさしくこのことを言うのだろう。背筋が凍り付く。
トイレから出てきたシンジは、柱の影に身を潜め、そう思った。

こ、恐い・・・。

<表通り>

ファーストフードショップを出て以来、アスカとマナはお互いに牽制し合って、なかな
かシンジに近づけない。

「アスカ。」

そんな時、予想外にアスカをシンジが呼んだ。このチャンスを見逃すアスカではない。

「何、何! ア・タ・シに何の用?」

自分が呼ばれたことを強調して、そそくさとシンジに近寄る。当然、マナもアスカが余
計なことをしないように、ぴったりと付いて行く。

「悪いけど、ちょっと荷物持っててくれないかな?」

「どうして?」

「ジュース飲みすぎたみたいでさ、ちょうどあそこに公衆便所が見えたから。」

公衆便所の方を見ながら、アスカにリュックを差し出す。

「そういうこと。いいわよ。貸しなさい。」

笑顔でリュックを受け取る得意顔のアスカと、なぜ、アスカなのかと、不満顔のマナ。

「ありがとう、マナには重そうだから、助かったよ。じゃ、行ってくるね。」

余計な一言を残して、シンジは走って行った。

「な! それ、どういう意味よ!!!」

「そういう意味なんじゃない? あぁ、シンジはわたしのことを気遣ってくれてるのね。」

乙女チックに、胸の前に手を当て空を見上げる。

「ムーーーーーーーーーーーーー!!!」

2人の表情は、逆転していた。

しばらくして、シンジが公衆便所から出てくる。

「シンジぃ、こっちこっちーーーーーー。」

マナがシンジに手を振った時、突然黒い車が猛スピードで現れ、シンジの横で止まった。

「わーーーーーーー!!」

車に押し込まれそうになるシンジ。咄嗟にマナが走り出す。

「シンジ!!!」

膨れっ面でそっぽを向いていたアスカも、マナのただならぬ声に事態を把握する。

「アンタ達! 何やってんのよ!!!」

しかし、全ては手後れだった。

ブォン。ブォン。ブロロロロロロロロ。

アスカとマナが駆けつけた時には、排気ガスの嫌な臭いが残っていただけだった。

「シンジ・・・・。」

全身から力が抜け、愕然と崩れ落ちるマナ。

「ちくしょー。やられた・・・・・・。」

崩れ落ち、拳で地面を叩き付けるアスカ。

「ちくしょーー!! ちくしょーー!! ちくしょーー!! ちくしょーー!! 」

奴等、ずっとこの瞬間を狙ってたんだ。もっと注意してれば、こんなことには!!!
 ちくしょーー!! ちくしょーー!!

そう、狙われていたのだ。モンスターボールを手放したシンジが、単独行動する瞬間を。
驚異となるレイとカヲルを、まんまと封じ込める為に。

「クッ!」

地面を叩き付けていたアスカが、勢いよく立ち上がる。

「ほら! 行くわよ!」

座り込んだままのマナの腕を掴んで、立ち上がらせようとする。

立ち直りは、何度も絶対絶命のピンチを乗り越え、死線を潜り抜けたアスカの方が早か
った。訓練を積んだマナと、実戦を繰り返したアスカの違いである。

「行くって、どこへ行くの! 何の手がかりも無いじゃない!」

「だからって、じっとしてるわけに行かないでしょーが! 立ちなさいよー!」

しかし、マナの体に力は入らない。

「フン!」

アスカは、そんなマナを無視して、シンジのリュックを取りに戻る。
モンスターボール,IDカードなどの重要な物だけ身につけ、後の荷物は近くの店に預
けた。

アスカが荷物の整理をしている間も、立ち上がれないマナ。

「シンジ・・・。」

座り込んだままペンダントを見つめる。

「そうよね。じっとしてても仕方無いわよね。シンジ、今行くから!」

ペンダントに語り掛け、拳を握る。

「来ないんなら、アタシだけで行くわ。さよなら。」

荷物の整理が終わり、アスカが戻ってくる。腰に手を当て、マナを見下ろすように立つ。

「待って。」

意を決したように、すっくと立ち上がり、アスカを見つめる。

「何よ。」

「ごめん・・・気が動転してた。わたしも行く。」

「勝手にしなさい。」

「ごめん。」

あてがあるわけではないが、車の走り去った方向に歩き出す2人。
道は、ホンコンの旧市街の方へと伸びていた。

「どこにシンジが連れ去られたか、見当がついてるの?」

「そんなの、わっかるわけないじゃん。」

「当てずっぽうってことね。」

「でも、考えはあるわ。」

くるっと、真剣な面持ちでマナの方に振り向く。

「考え?」

「アタシが囮になるから、アンタは敵が現れたら援護して。1人でも敵を捕まえること
  ができたら、突破口が開けるわ。」

「き、危険だわ! 失敗したらどうするの!」

「他に方法がないでしょ!」

「・・・・・・・・・・・・。」

確かに危険な作戦だ。しかし、より良い対案が考え付かないので、反対することができ
ない。

「わかった。その作戦でいい。けど、囮にはわたしがなる!」

「ダメ。」

「どうしてよ!」

「ア、アンタを囮に使ったら、シンジに・・・怒られるから・・・。」

うつむくアスカ。言いたくないセリフ。

「それを言うなら、わたしも同じよ!」

「それに、いざという時、今回の場合アンタの方が適任だから。スパイと白兵戦の訓練
  を本格的に受けたんでしょ。」

「・・・・・・・・。」

嫌なことを思い出し、言葉を失う。

「せめてるわけじゃないわ。今は、どんなことでも利用しないといけないの。余裕がな
  いの。」

「わかった。」

2人は、作戦を練るとホンコンの旧市街へと乗り込んだ。

<ホンコンの旧市街>

アスカとマナは離れて行動する。
マナは常に自分の周りを注意しながら、隠れてアスカを監視する。今回の作戦でマナが
先に捕まることだけは、絶対に許されない。
アスカは、ポケ使徒を集めている組織の事を、あえて目立つように聞き込みを繰り返す。

『アスカ、尾行されてる。』

マナから通信が入る。

『どこ?』

『あなたの位置からだと、見えないけど、右斜め後ろの路地に黒服の男が2人、左斜め
  後ろの店に茶色のスーツの男が1人。』

『OK!』

『危険だから、通信はこれでやめるから。』

ここじゃ、ダメね。もっと狭い所に行かないと、囲まれたら不利だわ。

アスカは、人通りの少ない細い裏道へと移動開始。走るとマナがついてこれないので、
ゆっくりと、行動する。

いつだったか、国語で習った、飛んで火に入る夏の虫ってやつね・・・。

マナは変装と、カモフラージュを巧みに使い、ばれないようにアスカと後に続く男達を
尾行する。

アスカ・・・いつ行動するの!?

状況は緊迫している。しかし、逃げる様に歩くだけのアスカ。考えが読めないマナは苛
立つ。

もう! 何でついてこないのよ!

アスカも苛立っていた。歩調を速めると、男達が遅れ出すのだ。少し道を戻り何気なく
違う道へおびき寄せる。こんなことを、何度も繰り返していた。

どこでもいいから、早く細い路地に誘導しないと、埒があかないわ。

人気が少ない場所で、囲まれることの無い狭い路地を探しながら、男達を引き付ける。

ちゃんと付いて来なさいよ!

ある狭い裏の路地に入ったとたん、ようやく男達がアスカに走り寄ってきた。

フン! ようやく来たわね! あの角までおびき寄せて勝負よ!

アスカも走る。

もう! 急に走らないでよ!

アスカ達が急に走り出したので、マナは大慌てだ。

アスカが角を曲がり細い裏道へ入る。マナは道を1本迂回し、後ろに回ろうとしている。
男達もアスカを追いかけ、角を曲がる。

「遅かったじゃない!」

男達が角を曲がると、そこには待ち伏せていたアスカが仁王立ちしていた。

「行くわよ!」

追いついた男達に攻撃をしかけようろした瞬間。

プシューーーーーーーーーーーーー!

「な! 何?」

おびき寄せたつもりが、誘導されていたのだ。周りのビルから催眠ガスが噴射された。
男達は、マスクをしている。

口を手で押さえ、逃げ出そうとするが、意識が遠のいていく。

ちくしょーーー、やられた・・・ごめ・・ん・・・・シ・・・・・・・ンジ。

ドサッっとその場に崩れ落ちるアスカ。

一方、マナは焦っていた。思った以上に距離がある。

「ハッハッハッ!」

男達とは反対側から、狭い路地に飛び込もうとしたマナは、自分の目を疑う。

アスカ!!!!

マナが見たものは、アスカの勇姿では無く、ぐったりとしたアスカを、男達がビルの中
に運び込む姿だった。

やられた・・・。

助けに行きたいが、近寄ることができない。アスカに辿り着く前に、マナも眠ってしま
う。一旦退却をよぎなくされ、追手を気にしながら、逃げるマナ。

アスカ・・・。

マナは表通りまで逃げ、追ってがいないことを確かめると、人の多い喫茶店に入った。

アスカまで・・・捕まるなんて・・・。

「おまちどうさま。」

ウェイトレスが、頼んだミルクティーを運んでくる。

シンジぃ・・・・また、失敗しちゃった・・・・・。

マナはペンダントを握り締め、悔し涙を流した。

シンジーーーーーーーー!!!

To Be Continued.
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