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ポケ使徒
Episode 08 -潜入-
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<ホンコンの旧市街>

ペンダントを握り締めたまま、涙を流すマナ。その涙は悲しみの涙では無く、悔し涙だ
った。

2回も、してやられるなんて・・・。

ミルクティーから立ち上る湯気が、マナの前で揺れている。

「今回が最後のチャンスよ! わかってるの? マナ!」

自分に言い聞かす為の・・・決意を固める為の・・・独り言。

「行くわよ!!!」

運ばれてきたミルクティーに手をつけることなく、マナは料金を払い喫茶店を出る。

シンジ・・・わたしを守ってね・・・。

シンジもアスカも掴まったが、敵の場所は発見できた。マナは、ペンダントを握り締め、
決意を固めると、再びアスカの掴まったビルへと向かう。

まずは、敵のビルの様子を探り進入路を探す。
直接、敵のビルに潜入することは不可能。幾つか離れたビルから進入し、飛び移ってい
くことにする。

このビルから入れば、なんとかなりそう。

付近の地形を把握したマナは、敵のビルから3つほど離れた民間のビルに入る。中は何
の変哲も無い、ただの貸しビルのようだ。階段を見つけて駆け上がる。

この辺りに窓があったはずだけど、どこかしら。

地上から見て、飛び移る位置はおさえている。ここは11階、隣のビルへ渡れそうな窓
があったはずだ。

この部屋かしら?

そっと扉をあけると、山積みされたダンボールが立ちふさがっている。

倉庫かな?

ダンボールの隙間から進入し、部屋の奥に見える窓を開けてみる。

確かにここね。

マナは、窓から身を乗り出し、隣のビルの開いている窓に照準をあわせる。約2m下に、
隣のビルの窓があり、ビルとビルの幅は約3m。風が止むのを待ち、深呼吸。

よし、行ける!

ビルとビルの間を吹き抜ける風が止んだ瞬間、マナが飛び移った。

ドカーーーーン。

飛び込んだ、窓の中は女子用のトイレだった。予想以上に狭い個室に飛び込んでしまい、
壁に激突したマナは、顔を打って転んでしまう。

いたたたたた・・・。これだから下調べ無しの行動は・・・。

打った鼻を押さえつつ、きょろきょろと辺りを見回しながら、人に見つからない様にト
イレを出ていく。

はぁ、誰もトイレに居なくてよかったぁ。さて、次は屋上ね。

下から見た限りでは、このビルの屋上から次のビルの屋上に飛び移れるはずだった。屋
上を目掛けビルの階段を駆け上がるマナ。

ビューーーー。

屋上に出ると、風が強かった。マナは、風になびく短い髪を手で押さえて、手すりから
身を乗り出す。

うわっ! けっこう高ーーい。

隣のビルまで、思った以上に高低差がある。しかし、もたもたしているとシンジとアス
カの身が危険なので、何も考えず一気に飛び移る。

「えい!!」

ドサッ! ごろごろごろ。

勢い余ってうまく着地できず、屋上を転がるマナ。

あったーーーーーー・・・。やっぱり、ちょっと高かったか・・・。あー足がひりひり
するよ・・・。

こんな屋上でぐずぐずしていると、どこから見らるかわからない。痛い足を引きずって、
さっさとビルの中に入り、階段を駆け下りる。

次が最後・・・うまくいきますように・・・。

敵のビルには、開いている窓は無かった。ビルからわずかに出ている突起に飛び移り、
壁伝いに移動するしかない。
2階ほど階段を降りたマナは、窓のサッシに乗り、隣のビルを見る。

ひぇーー、あそこかぁ、うまくいくかなぁ。

ビルの壁伝いに、わずかな突起が突き出ている。失敗すれば、飛び降り自殺。

シンジ、今行くからね!!!

ペンダントを握り締め、恐怖心を払いのけるマナ。

せーの!

突起を目掛けて、一気に飛び移る。

ズリッ!

「きゃっ!」

体が壁にぶつかり弾き返されるが、なんとか片手で突起につかまり、ぶら下がる状態で
落下を食い止めた。

ふぅ・・・危なかったぁ。よっこらしょ。

突起の上によじ登り、壁伝いにカニ歩きするマナ。わずかな幅しか無い突起を足がかり
に、壁を伝って歩く為、風が吹くとバランスが崩れる。無風状態の時を狙ってゆっくり
と移動する。

あそこね。

少し向こうに、目的の排気口が見えた。

ここから先は、何もデータが無いわ・・・。いきあたりばったりか・・・。

排気口に入り込み、小さなライトの明かりを頼りに、四つん這いで進む。ビルが建築さ
れてから、排気口の中など掃除もされていないのだろう。進む度に埃が舞う。

さすがに、埃っぽいわねぇ。マスクを持ってくればよかった。

所々に、下の様子を覗ける格子がある。一個所づつ、調べていくと、アスカのリュック
サックを見つけた。

2人とも居ないわね。どこに監禁されてるのかしら?

音を立てないように細心の注意を払いながら、さらに排気口を進む。

ん?

下を覗くと、見張りの立っている部屋を見つけた。扉には鉄格子のついた小さな窓があ
る。

あそこに、シンジがいるの?

気付かれないようにその場を通り過ぎ、ビルの外に抜けるマナ。再び壁伝いにビルを進
む。

確か、この部屋ね。

見張りが立っていた部屋についていると思われる窓まで、カニ歩きで移動する。

アスカ!!!

中には、腕を組んで考え事をしているアスカがいた。どうやら、怪我も無く無事のよう
だ。

トントン。

鉄格子の入った窓を叩くが、アスカは気付いてくれない。

トントントントントン。

大きな音が立てられないので、何度も軽く窓を叩く。

その時、アスカは脱出の方法を考えていた。

このままでは、何をされるかわからないわ。なんとかして脱出しないと。
前に立っている見張りを、なんとか利用して・・・・ん?

窓の物音に気付く。

音を立てないように、窓に近付くと、壁にへばりついているマナが目に入る。

「!!! アンタ!!」

「シッ!」

口の前に人差し指を持っていき、ジェスチャーをからめてアスカを黙らせる。

「よくこれたわね。」

「前の見張りをなんとかするから、脱出できる?」

「うーん。それより、アタシのリュックサックを探してくれない?」

「え?」

「あれがあれば、なんとかなるから。シンジは、この1階下の監禁室に監禁されてるわ。」

「リュックサック? それなら、さっき見たわ。」

「アタシが逃げ出したら、一大事になるから、まずリュックサックについている赤と白
  の2色の色のついたボールを2つ、シンジに渡して。」

「わかった。じゃ、また後でね・・・。」

打ち合わせが終わると、マナは、再び排気口に入り、さっき見たリュックサックの置い
てある部屋へ戻っていった。

ここね。

下を覗き、アスカのリュックを確認する。

ガタッ。

格子を外し、飛び降りる。

「誰だ!!!」

上からは見えなかったが、その部屋には3人の男がコーヒーを飲んでいた。

しまった!!!

アスカのリュックサックにぶら下がっている2つのボールを手にすると、逃げ出すマナ。

「待て!!!」

ガガガガガガガ。

マシンガンを連射する男達。マナは部屋を抜け、廊下の角を曲がりながら逃げる。

まずい!! とにかく、アスカのところまで行かないと・・・シンジの所まで無事にた
どりつけそうにないわ。

どこにいるのかわからないシンジを探す余裕の無くなったマナは、アスカの部屋へ直行
することにした。

ガガガガガガガ。

後ろからマシンガンの音がする。全力疾走でコーナーを利用しながら、ジグザグに逃げ
るマナ。

「くっ!」

また、角を曲がり逃げようとした時、拳銃を持った男2人と鉢合わせになる。

ガンガン!

拳銃を撃つ男達。マナは腕を打ち抜かれる。

「うっ!」

それでも、走ってきた勢いのまま男達にぶつかり、無理矢理通り抜ける。全力で逃げる
が、追っての数は増えていく。

もうすこしで・・・アスカのいる部屋だ。

アスカは、監禁されている部屋でやきもきしていた。外で銃声が何度もしている。マナ
が狙われているのに間違い無い。

何してるのよ! さっさとシンジの所に行きなさいよ!

アスカの心配とは裏腹に、だんだん銃声が近くなってくる。

ガン! ガン! ドカ!

「うわーーーーっ!」

扉の外で銃声が響いたかと思うと、男の悲鳴が聞こえた。
扉に駆け寄り、覗き窓から外を見ると、胸をナイフで刺された見張りの男が倒れていた。

「アンタ!!」

男から奪った鍵で、マナが部屋の扉を開けようとしている。

ガチャガチャ。

「しくっちゃった・・・。シンジの居場所がわからないから、おいしい役をアスカにあ
  げるわ・・・。シンジをお願いね。がんばって・・・。」

ガンガンガンガンガン!!

銃声がこだまする。マナの体から血しぶきが飛び散る。

「ぐぐぐぐぐ・・・・。」

崩れ落ちそうになる体を再び起こし、最後の力を振り絞って、アスカが監禁されている
扉を開け放つ。

ガンガンガン!!

「ぐぐぐぅ・・・。」

「マナ!!!!!」

体中から出血し、真っ赤になった手で、アスカにモンスターボールを手渡す。

「早く・・・時間が・・・ない・・・。シンジを・・・お願い・・・。」

ガンガンガン。

「キャーーーーーーーーーーーーーーー!!」

体を貫く銃弾。マナの体は宙を舞い倒れ込む。真っ赤になった服に包まれるマナ。

「くっ!!! わかったわ!!! 死ぬんじゃないわよ!!!!!!!」

モンスターボールを2つ握り締め、部屋を飛び出すアスカ。
銃弾が後ろから飛んでくる。

「ちっ! アタシはそう簡単には殺られないわよ!」

見張りの男の持っていた拳銃を拾うと、追手を振り切って廊下をひた走るアスカ。

廊下を曲がると、また別の黒服の男が1人。

ガン!

アスカの方が早く、拳銃を撃つ。倒れた男を踏み越え、階段を目掛けて突っ走る。

ガンガンガン。

後ろから銃声が聞こえる。アスカも振り返り拳銃をぶっ放す。

ガン。

「うわっ!」

一人に命中したようだ。

敵がひるんだ隙に、階段に飛び込み駆け下りる。

「また来たわね!」

階段の下からも拳銃を持った男達が駆け上がってきていた。

ガンガン!

「どーーーーーりゃーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

一気にジャンプし、男達に飛び蹴りをくらわすアスカ。階段の位置エネルギーを利用し
た為、蹴られた男達は、階段を転げ落ち意識を失う。

「くぅぅ・・・!」

しかし、かなりの高さから飛び降りた為、足を捻挫してしまったようだ。

「これくらいでぇーーーー止まってらんないのよーーーーーー!!」

捻挫した足を無理矢理動かし、あと少し先のシンジの監禁室へ走るアスカ。
後ろから男達が追いかけてくる。

ガンガン!!

アスカは、消火栓に身を隠し、追ってくる男達を目掛けて拳銃を撃つ。

カチッ。

「ちっ、弾切れか。」

拳銃を男達に向かって投げつけると同時に走り出すが、アスカに銃が無くなったことを
知り、男達が猛追してくる。

あの角を曲がれば!!

男達が後ろに迫り、丸腰のアスカ目掛けて銃を乱射する。

ガンガンガン!!

「キャーーーーーーーーー!!!」

肩と足を打ち抜かれ、前のめりに倒れ込むアスカ。

あの部屋には、シンジがぁぁ・・・。

「こんちくしょーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

銃弾が数発突き抜けた血みどろの足を気力で動かし、起き上がったアスカは、シンジの
監禁室の前に転がり込んだ。

「そ・・・そんな・・・。」

しかし、その部屋の扉は開け放たれており、中はがらんとした無人の空間があるだけだ
った。

そんな・・・。

出血の中、意識を失っていくアスカ。力を無くした手から、握り締めていた2つのモン
スターボールが転がり落ちる。

シンジ・・・ごめん・・・。

アスカの手から転がり落ちたモンスターボールが、長い廊下を転がっていく。

アスカの監禁室の前で、体中を真っ赤に染めて倒れるマナ。
シンジの監禁室の前で、鮮血の海に身を浸すアスカ。

自分の流した血の海の中で、2人の少女は、かすかな意識の中、シンジに別れを告げて
いた。

さようなら・・・シンジ・・・。

そして、暗闇が2人の少女達に訪れた。

To Be Continued.
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