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ポケ使徒
Episode 09 -稲妻-
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<ホンコンの旧市街>

暗い部屋には、鉄の棒を持った数人の男達と、彼らに取り囲まれる様に椅子に座らされ
たシンジがいた。シンジの手は後ろ手に手錠がかけられており、足には少し大き目の手
錠がかけられている。

どうしたらいいんだ・・・。

なんとか逃げれないものかと考えるが、この状態ではとても逃げる隙が無い。そんな中
でシンジの尋問が開始された。
シンジは誓っていた。何があろうともアスカとマナのことだけは喋るまいと。

「碇 シンジだな。」

正面に座る黒服の男が、シンジに喋りかける。

「はい。」

「これから、幾つかの質問をする。解答を拒否することは許されない。」

「はい。」

「隠し事などをした場合、さきほど掴まった赤毛の娘・・・惣流・アスカ・ラングレー
  だ。彼女を殺すことになる。」

「!!!!!」

アスカが・・・アスカが掴まったのか!!?

「わかったな。」

「はい・・・。」

シンジには、もうどうすることもできなかった。下手なことをすれば、アスカの身に関
わる。迂闊なことはできない。

「では、あのモンスターボールに入っているポケ使徒についてだが、あれは何だ?」

「友達です。」

「そういうことを聞いているんじゃない!! なぜ、あんなに強力なATフィールドを、
  発生させることができるんだと、聞いている!!」

「知りません。ぼくは、ネルフであの2つのモンスターボールを預かっただけですから。」

男達がなにやらごそごそと話を始める。

「では、質問を変えよう。あのポケ使徒を自由に操れるのは君だけなのか?」

「はい、そう聞いています。」

「他の人間に操らせようとしたら、どうすればいい?」

「わかりません。」

その時、遠くで銃声が聞こえた。シンジを尋問していた男達がざわつく。

「なんの音だ! きさま見てこい!」

尋問は中断され、正面に座る男の命令で、側に立っていた一人の黒服の男が部屋を出て
行った。

ガンガン。

徐々に、銃声が近くなってくる。

ガタッ。

ドアが開き、様子を見に行った男が帰ってきた。

「最後のターゲットに潜入された様子です。」

「なんだと!! 小娘が!! 殺してしまえ!! あの小娘には用は無い!!」

マナ!!!!!

咄嗟にシンジは立ち上がり、その部屋を走り出ようとしたが、足も手も手錠に繋がれて
いる為、身動きが取れ無い。すぐに周りの男達に取り押さえられる。

「ちくしょーーーー!!!」

いくら暴れても、押さえつけられ身動きできない。

「この小僧を、監禁室へ連れて行け!!」

2人の男に両手を捕まえられ、正面に座っていた男に誘導されながら連行されるシンジ。

ガンガンガンガン!!

ガンガン!!

かなり近いところから、銃声が何度も聞こえる。こちらに向って、逃走している様だ。

マナ・・・無事でいてくれ。ぼくのことはいいから、もう逃げてくれ!!

連行されながら、シンジはマナの無事を祈っていた。しかし、廊下の角を曲がった時、
思いもしない光景がシンジの目に映し出される。

「!!!!!!!!!!!!」

長い廊下の向こうに、血みどろになったアスカが流れ出た鮮血の上に倒れていたのだ。

「アスカぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

シンジの視界がモノトーンになる。アスカを大声で呼ぶが、ピクリとも反応しない。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!
  うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

絶叫しながら暴れ狂うシンジ。しかし、3人の男達に力づくで取り押さえられ、身動き
ひとつできない。

「おとなしくしろ!」

「わぁぁぁーーーーーー!! アスカぁぁぁぁーーー!! うわーーーーーーーーー!!」

目の前の光景を信じたくない。すぐにアスカのもとに駆けつけたい。半狂乱でシンジは
暴れた。

「いいかげんにしろ!! おまえもああなりたいか!!」

拳銃をシンジに突きつける男。

「アスカぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!!!!」

パニックに陥ったシンジには、既に拳銃の脅しなど無意味だった。ひたすら暴れ狂う。

コロコロコロコロコロ。

廊下の向こうから転がってきた2つのモンスターボールが、シンジの足にコツンと当た
る。

ピカーーーーー!! シューーーーーーーーー。

その瞬間、青い光に包まれたレイと、白い光に包まれたカヲルが黒い影となって姿を現
した。

「碇くん!!!」

シンジの波長を感じ取り、レイとカヲルがモンスターボールから飛び出したのだ。

「綾波!! アスカが!! アスカがぁぁぁぁぁ!!!」

レイが振り返るとそこには、自らが流した血の海の中で倒れるアスカの姿があった。

「碇くんをはなして。」

シンジを取り押さえている男達に近寄り、睨み付けるレイ。

「お前は・・・。」

男達は、シンジのこめかみに銃をつきつけながら、シンジを引きずって後ずさりする。

「動くな! 少しでも動くとこいつの命は無いぞ!」

「離さないのね。」

ピキーーーン。

次の瞬間ATフィールド展開、シンジの手錠が砕け散り、シンジを取り押さえていた男
は壁に叩き付けられ即死していた。

「アスカぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーー!!!!」

アスカの元に駆け寄るシンジ。

「待て!!!」

連行していた男達が取り押さえようとするが、男達の前にオレンジ色の壁が展開される。

「うっ!!! ATフィールド!!」

「あなた達があの人に、怪我をさせたのね。」

無表情のレイに睨みつけられ。恐怖に体が凍り付く。

「いや・・・命令で・・・。」
「俺達は、何もしていないんだ。信じてくれ・・・。」

真っ青な顔に冷や汗をかきながら、じりじりと後ずさりする。

「いいわけはいいわ。」

レイの周りからオレンジ色の光が展開され、辺りの壁にベキベキと亀裂が入る。

「うわーーーーーーーーーー!!」

黒服の男達は一目散に逃げ出すが、光り輝くATフィールドが、男達を襲う。

ズガーーーーン!!!

次の瞬間、男達の姿は正面の壁と共に消え去っていた。

「アスカ! しっかりするんだ!」

血にまみれて意識の無いアスカを、そっと抱き寄せるシンジ。

「アスカ! アスカ! アスカーーーーー!!」

アスカを抱き上げ、血に染まった顔に頬擦りする。

「よくも、アスカを!!! ちくしょーーーーーー!!!」

カヲルが、ゆっくりとシンジの側まで歩み寄る。

「カヲルくん!!!」

「わかってるよ。」

シンジは、怒りに肩を震わしながら、アスカを背負って走り出す。

マナもいるはずだ! どこにいるんだ!!

シンジの前方にレイ、横にカヲルが並び、マナを探して走る。

ガンガンガン!
ガガガガガガガガガガガガガ!!

アスカを追いかけてきた男達が、階段から拳銃とマシンガンを連射する。レイやカヲル
にとって、銃で攻撃してくる敵など一瞬で全滅可能なのだが、マナの所在がわからない
今、安易に攻撃できない。見えている黒服の男から順々に攻撃し、進行する。

階段を降りてきたってことは、上からアスカを追いかけてきたのか?

「綾波! 上に行こう!!」

「ええ。」

銃撃からシンジをATフィールドで防御しつつ、階段の下まで進む。男達は、銃を乱射
しながら、上へ上へと後退する。

「レイ、後は頼むよ。」

「わかったわ。」

このままではなかなか進まないので、カヲルはレイにシンジの防御を任せて階段を駆け
上った。

「わぁぁぁぁーーーーーー。」

突然走り出したカヲルに恐れおののいた男達は、一斉に逃げ出す。

「手後れだね。」

階段を上り視界が開けたカヲルは、マナがいないことを確認するとATフィールドを廊
下いっぱいに展開した。

ズガーーーーーーーン!

男達と共に廊下の両端の壁が吹き飛び、一本の空気穴ができる。

「シンジ君、もう上がってきても大丈夫だよ。」

カヲルに手招きされ、レイと一緒に階段を駆け上がる。

マナ・・・今行くから、無事でいてくれ・・・。

マナを探して、今度はカヲルを先頭に廊下を歩く。

ガガガガガガガガガガガガガ。

不意に後ろから迎撃されるが、シンジの横にぴたりと付いていたレイのATフィールド
が自動展開される。

「向こうのようね。」

レイが向きを変え、元来た廊下を男達めがけて戻って行く。マシンガンを連射しても全
く効果が無いことを知り、恐怖に顔が引きつる男達。

「ひーーーーーーー化け物!!!」

レイに睨み付けられ、銃を乱射しながら逃げ出す。

「失礼よ。」

レイがATフィールドを展開した瞬間。黒服の男達はビルの外へ吹き飛ばされていた。

アスカ、死ぬんじゃないよ! すぐにマナも見つける! それまでがんばるんだ、アスカ!

背中に感じるかすかな心音だけが、アスカの生きている証だった。

男達が出てきた廊下を曲がるシンジ。血の海に倒れているアスカを見た時に予想してい
た光景。それでも、信じたく無い現実がシンジの前に現れる。

「マナぁぁぁーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

部屋の前で鮮血の海に倒れているマナを発見したシンジは、涙声で悲鳴を上げると、ア
スカを背負ったまま駆け寄った。

「マナ!!! マナ!!! マナ!!!」

いくら呼んでも、やはりマナの反応は無い。胸に手を当てると、心音が聞こえる。

「生きてる・・・・・・。マナ!!」

片手でアスカ、もう一方の手でマナを抱き寄せる。シンジの服は、2人の血で真っ赤に
染まっていた。

「碇くん。時間が無いわ。病院に行きましょ。」

レイの言葉に反応せず、ただ2人を抱きしめているシンジに近寄る。

シンジをレイのATフィールドが包み込む。

「レイ、頼むよ。」

「わかったわ。」

「あとは、ぼくがやっておくからね。」

レイの作ったATフィールドは、シンジ達3人を包み込み、ビルの壁を突き破って飛び
出して行った。

ズガガガガガガガ。

また、新たに大勢の男達が押し寄せレイを狙って銃を連射する。

「まだ、無意味なことがわからないのかい?」

カヲルはATフィールドを展開しつつ、男達に近寄る。

「そろそろ、終わりにしようか。」

敵の銃弾が、雨のようにカヲルのATフィールドを襲う。

「無意味だよ。」

レイが立ち去ることを確認すると、カヲルはATフィールドを拡張する。

ズガーーーーーーーーーーーン。

男達の悲鳴と共に、崩れ落ちるビル。周りのビルに被害を与えない様に、ビルの中央部
を円筒形に貫く形で、ATフィールドが展開されていた。

「ん? あれは?」

ビルの一角に、黄色い光が展開されている。そこだけは、カヲルのATフィールドにも
びくともせず、残っていた。

「そうか、そういうことか。それなら、今のうちに。」

バラバラバラ。

上空に飛来した、大型のヘリコプターがその黄色い光の光源を吊し上げようとしている。

「逃げられたら、まずいからね。」

ヘリコプターに向かって、ATフィールドを展開するが、黄色い光に阻止される。

「うーーん。これ以上のATフィールドは、この市街地じゃ使えないよ。」

カヲルはヘリコプターへの攻撃をあきらめ、黄色い光に向かって宙を移動する。
ヘリコプターで吊り上げられる、かなり大きな物体。

カヲルは、直接黄色い光に攻撃をかけるが、展開したATフィールドが中和されていく。

「やはり、だめだね。今なら倒せる相手だったのに・・・残念だよ。」

カヲルは一般市民のことを気使い、ATフィールドを全開にできない。やむなく攻撃を
諦めた。
黄色い光は、ヘリコプターに吊り上げられる。

「ピカッ!!」

カヲルが見上げる黄色い光の中から、奇声が聞こえた。その瞬間、カヲルを中心に、半
壊したビル全体に数100万ボルトの電流が流れる。

ビカビカビカビカビカ。ズババババババババ。

「まだ、君には無理だよ。自分を守る為になら、ATフィールドを強力に展開すること
  が可能だからね。そのくらいじゃ、なんともないよ。」

何度か奇声と共に電流がカヲルを襲うが、全てATフィールドに遮断される。

「ピカッ! チューーーーーー!!!」

黄色い光に包まれた巨大なピカチュウは、奇声を上げると空の彼方へ消えていった。

「彼らは、あのままライチュウに進化させるのかな。これはエヴァが必要になってきた
  ね。」

カヲルは、自分の体をATフィールドに包み込み、崩れ去ったビルを後に、レイの後を
追いかけた。

<病院>

タンカで運ばれるアスカとマナ。2人に寄り添い、シンジも手術室まで走る。

「アスカ! マナ! 死なないでくれ!!!」

点灯する手術中のランプ。2人の緊急オペが開始される。

「はぁ・・・。アスカ・・・マナ・・・。」

手術室の前で長椅子に座り込み、2人の無事を祈る。

「碇くん。寝た方がいいわ。」

レイがシンジの体を気遣う。

「寝れるわけないよ!」

「2人とも、かなりの銃弾を浴びているわ。手術には時間がかかるから。」

「いいんだ。」

「そう。」

レイも、シンジの隣に腰をおろす。

「ぼくが悪いんだ・・・元はといえばぼくが捕まったからなんだ。」

「それが作戦だったんじゃないの?」

「違うんだ。マナに会えたことがうれしくて、楽しくて・・・。ぼくが、しっかりして
  なかったから・・・。ぼくが・・・。」

涙を流しながら、自分を責めるシンジ。

「辛いのね。」

長い、手術の待ち時間がシンジを襲う。

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                        :
                        :

到着したカヲルが、ゆっくりとシンジの側に寄ってくる。

「カヲルくん!」

カヲルの気配を感じて、顔を上げるシンジ。

「自分を責めているのかい?」

「だって、ぼくが・・・ぼくのせいで・・・。」

自分への苛立たしさに、奥歯を噛む。

「大丈夫さ。2人の手術は成功するよ。」

「本当!? 本当なの!?」

カヲルは笑顔で答えた。カヲルが言うことは、不思議にもシンジには真実に聞こえる。

「だからシンジ君は、今日は寝た方がいい。明日から2人の看病をするんだろ? 疲れ
  てたら満足な看病もできないよ。」

「そ、そうだね。」

シンジは、アスカとマナが元気に回復する姿を思い浮かべながら、長椅子で横になった。
今まで、アスカとマナのことが心配で、気力で起きていたようなものだ。カヲルの言葉
に安心すると、すぐに眠りについた。

「レイ・・・敵はポケ使徒30体前後を既に融合させていたよ。しかも、母体はピカチ
  ュウなのには驚いたね。」

「そう・・・。いずれ、ライチュウになるのね。」

「あまり時間が無いみたいだよ。」

「わかったわ。」

                        :
                        :
                        :

翌日、シンジはレイの膝の上で目覚めた。まくらが無く寝苦しいと思ったレイが、一晩
中膝枕をしていたようだ。

「あ、綾波!!」

恥ずかしくて、がばっと起きるシンジ。

「お目覚めね。」

「ごめん。いつのまにか・・・。」

「いいのよ。大したことじゃないから。」

「手術は?」

「もうすぐ終わるわ。顔でも洗ってきたら?」

「うん。」

洗面所で顔を洗うシンジ。鏡に映し出される自分の顔を殴りつける。

くそっ、何もできなかったなんて・・・。くそっ!! くそっ!! くそっ!!

しばらくシンジは、洗面所で涙を流していたが、ある程度落ち着くと手術室の前まで戻
った。

「カヲルくんは?」

「モンスターボールに戻ったわ。」

「そう。」

手術中のランプが消え、手術室のからアスカとマナが運び出される。

アスカ! マナ!

駆け寄るシンジ。

「大丈夫です。2人とも1ヶ月は入院しなければいけませんが、命に問題はありません。
  もちろん、医学の粋を結集して治療させてもらいましたので、銃創一つ残りません!!」

「そうですか・・・。」

2015年の医学の進歩に安心し、その場に崩れ落ちるシンジ。

「麻酔が効いていますから、今日は目覚めないと思いますが、問題ありませんので。」

「わかりました。ありがとうございました。」

シンジ達は、4人部屋の病室を貸し切りで使うことになった。
ミサトあたりが裏で動いていたのだろう、病室にしてはかなり豪華だ。

「碇くん。疲れたから、戻るわ。」

「ありがとう・・・綾波。」

「いいのよ。」

レイも疲れを癒すため、モンスターボールへと戻った。

体中を包帯で巻かれたアスカとマナが、ベッドに横たわっている。

「もう大丈夫だよ。アスカ・・・マナ・・・。」

2人の頭をやさしくなでるシンジ。
前回とはシンジとアスカの立場が逆転し、さらにマナも加えて、病院での生活が始まっ
た。

To Be Continued.
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