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ポケ使徒
Episode 10 -困惑-
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<病院>

数日前。

シンジの懇親的な看病の結果、あの戦闘から2日たった昼過ぎにアスカが意識を取り戻
した。

「ん・・・。」

「あ、アスカ? アスカ?」

まだ、目がぼんやりとしているが、涙目で自分を覗き込んでいる嬉しさと悲壮さがいり
まじったシンジの顔が見える。

「シ、シンジ?」

「よかった・・・・・・・・お、おはよう、アスカ。」

「おはよう・・・って、ここどこ? アタシどうしたの?」

「ここは病院だよ。もう大丈夫だからね。」

「アタシ・・・・・・アタシは・・・敵のビルに乗り込んで・・・それで・・・。」

「あ!!!!!!! マ、マナは? あの娘どうなったの!!!? ねぇ!!」

「あそこで寝ているよ。まだ意識は回復してないけど、マナも無事だよ。」

「そう・・・。イタっ!」

マナの方を振り向こうとしたアスカの体に、足を中心として激痛が走る。どこか致命的
な怪我をしたのではないかと、不安になるアスカ。

「ど、どうしたの!? どこが痛むの?」

「足が痛くて動かない。アタシの足・・・どうなったの? 体中が痛い。」

「ひどい怪我をしたからね。大丈夫だよ後遺症は残らないってお医者さんが言ってたか
  ら、徐々に良くなっていくよ。」

アスカが、痛い体をゆっくりと動かし、マナのベッドに目をやると、薄い布団を覆って
眠っているマナが見える。

「マナに助けられて、それからぁ・・・。」

アスカは、その後自分の身に何が起こったのか記憶の糸を手繰るが、マナに助けられた
後がどうしても思い出せない。

「覚えてないの?」

「うん。よく覚えてない。必死でシンジを探してたはずなんだけど・・・。」

「そう・・・。無理に思い出さなくていいんじゃないかな。思い出しても、楽しい記憶
  じゃないだろうしね。」

あれだけの危機に見回れたのだ。精神を守る為に記憶が失われても不思議ではない。

「そう・・・。ねぇシンジ、鏡かしてくれない?」

「え? いいけど。」

シンジはベッドの引き出しにある手鏡を、アスカに手渡した。アスカは鏡を片手に持つ
と、自分の顔を映し髪の毛を少し整えながら色々な角度からじっくりと眺める。

「よかった・・・・・・。もういいわ。」

「どうしたの?」

「何でもない。怪我を確かめただけ。」

「そう・・・。」

アスカから手鏡を受け取り、再び引き出しに戻す。

「シンジ・・・もう少し眠るわ。」

「うん、そうした方がいいよ。」

「おやすみ。」

そして翌日。

近くで人の話し声がする。

『アスカは無事?』

『うん。もう2人とも大丈夫だよ。昨日アスカは目覚めたんだ。』

『よかった・・・。シンジはアスカに助けられたの?』

『ううん。ぼくが連行されている時、目の前に倒れているアスカを見つけたんだ。』

『アスカも大怪我したんだ・・・。でもみんな助かってよかったぁ。』

『そうだね。』

『シンジ、鏡かしてくれない?』

『いいけど・・・。』

マナが目覚めたようである。シンジとマナの会話が、アスカの寝起きのぼやぁっとした
思考回路を刺激する。

「シンジ。」

「あ、アスカ。おはよう。」

「アスカ・・・おはよう。」

シンジに続いて、顔を見つめていた手鏡を置き、マナもアスカの方を振り向く。

「うん。ねぇ、お腹空いたわ。」

「わたしも。」

「そうだね。点滴だけじゃお腹はいっぱいにならないからね。ご飯は食べてもいいそう
  だから、何か食べ易そうなものを買ってくるよ。」

シンジは、2人が無事意識を回復したので、嬉しそうに病室を出ていった。後には、恋
敵の2人娘だけが残されたのだが・・・。

「ねぇ、アンタ。」

「なに?」

「どうして、あの時アタシを助けにきたの?」

「シンジの所までたどり着けそうになかったから、せめてアスカだけでも助けないとね。」

「ふーん。」

「あの後どうなったの?」

「記憶が無いのよ。このアタシとしたことが、かなりやられたみたいね。」

「お互い、生きててよかったね。」

「マナが助けに来てくれた時は、緊迫してたから何も考えられなかったけど・・・。」

「え?」

「ありがとう。」

「仲間だもん。」

「そうね。アンタは立派な戦友だけど、だからといってシンジのことは譲らないからね。」

「わたしもそっちは容赦しないんだから! よーーーし。アスカより早く回復して、シ
  ンジとデートだぁ!」

「何ふざけたこと言ってんのよ、そんなこと許さないわよ!」

ちょうど、その時コンビニの袋を手にしたシンジが、病室へ戻ってきた。扉を開けたと
たんアスカの怒声が聞こえたので、きょとんとしている。

「ど、どうしたの? 大きな声だして。」

「なんでもないわよ。そんなことより早くご飯食べさせてよ。」

アスカに急かされ、シンジは買ってきたざるそばを交互に食べさせてあげた。

                        ●

そして数日が経ち、2人は傷も癒えかなり回復していた。最近は、リハビリの調子も良
く、もう生活に不自由することもない。

「ねぇ、シンジ。ミサトからの次の行動予定はまだ聞いてないの?」

連絡係のアスカが重傷を負っていた為、ここ数日はアスカに代りシンジがネルフとの連
絡係をしている。

「え・・・う、うん。まだ、アスカ達にはないよ。」

「そう。しばらく、休養ね。」

「まだ、完治してないんだから仕方ないわ。」

ベッドの上に座りオレンジジュースを飲んでいたマナも、シンジとアスカの会話に入っ
てくる。

「どうしたの? なんだか最近のアンタ、暗いわよ。」

「ただ、あの・・・ぼくだけ一度ネルフに戻らないといけないみたいなんだ。」

「えーーーーーー!!!」

突然のことに、アスカは大声を出して驚き、マナも目を真ん丸にしてシンジを見つめる。

「本当なの? どうして、そういうことはもっと早く言わないのよ!」

「ぼくも・・・さっき聞いたんだ。」

「いつ出発なの?」

「うん・・・明日にでも。」

「あ、明日??」

「うん。」

「でも、すぐに戻ってくるんだよね。」

「・・・・・・その予定だけどね。」

その日、アスカもマナも寂しさをまぎらわす為、妙に明るく過ごした。

翌日。

「じゃ、行ってくるよ。」

簡単に荷造りを終え、病院の玄関でアスカとマナにしばしの別れの挨拶をしている。

「3日くらいで戻ってくるんだよね。」

マナが永遠の別れでもするかのように、目を潤ませてシンジに確認する。

「うん。」

「アンタ、狙われてるんだから、気をつけなさいよ。」

アスカも寂しいのだろうが、そういった素振りを見せずにシンジを見送る。

「うん。こないだみたいな失敗はもうしないよ。」

「何暗い顔してんのよ! アンタが帰ってくるまでに、ばっちり回復しておくから心配
  しないで行ってらっしゃい。」

「そうだね。」

シンジは、アスカとマナの視線を背に病院を後にして、ネルフへと向って歩き出した。
病院の玄関には、シンジの姿が見えなくなるまで見送り続ける2人の女の子の姿があっ
た。

                        ●

5日後。

「おかしいわ。」

「こっちもダメ。」

電話機の前で、アスカとマナが顔をつきあわせている。3日で戻ると言っていたシンジ
は、未だ戻らず連絡も無い。
不信に思ったアスカがネルフ本部に電話を入れたのだが、どの回線も不通となっている。
ミサトの携帯すら繋がらない。
マナは、戦自に電話を入れたのだが、こちらも音信不通。2人の脳裏にとてつもなく大
きな不安がのしかかる。

「何かあったってことに間違いは無いわね。」

「少なくとも、シンジはネルフと連絡してたみたいだから、ここ数日ってことだよね。」

「そうねぇ。そうだわ、一度ドイツ支部に連絡してみるわ。」

アスカは、元自分がいたドイツ支部に連絡を入れてみた。

プルルルルルルルル。ガチャ。

「あ、出た。」

「どうなってるのか、聞いてみて。」

ドイツ語で、今の状況の説明を求めるアスカだが、会話が進むにつれ顔は青ざめ足は震
え、電話が終わるころには廊下に崩れ落ちてしまった。

「ど、どうしたの!?」

アスカの様子があまりにもおかしいので、電話が終わるとすぐに顔を覗き込むマナ。

「も・・・もう・・・。2週間も前・・・。」

「2週間前? どうしたの!?」

「ネルフ本部が・・・か・・・。」

「え!!!? はっきり言ってよ!」

「壊滅したって・・・。」

「!!!!!!」

マナも、アスカの言葉を聞いて真っ青になり、その場にへたり込む。

「シ・・・シンジは?? じゃぁ、シンジはどこへ行ったの?」

「ここにいないのなら、ロスト状態だって・・・。」

「シ、シンジぃ!!」

「きっと、日本に帰って状況を確認しに行ったんだわ。」

「アタシ達が回復するまで、1人で悩みながら看病してくれてたのね。」

「あのバカ。単独行動もいいところだわ!!」

「わたし達に心配かけたくなかったのよ。きっと。」

「だから、バカだってのよ! すぐにばれることなんだから・・・その後、アタシ達が
  どれだけ心配するかも、わからない大バカよ!!!」

2人は、その場で無言のまま1時間ばかり固まっていた。アスカもマナもシンジのこと
が心配で、なんとかしたい。だが、何をすればいいのかわからない。

「アスカ?」

「何よ! 考えごとしてるんだから、話し掛けないでよね!!」

「今は、第3新東京市へ行くかネルフドイツ支部へ行くかしかないと思うんだけど。」

「まだあるわ。」

「何?」

「ここで待つのよ。」

「でも、それじゃ・・・。」

「シンジは、戻るって約束したわ。」

「・・・・・・そうだけど・・・でも・・・。」

しばらく、マナは考えていたが、一つの結論に達する。

「戻れる状況なら、連絡くらいできるんじゃない?」

「・・・・・・。」

「何か身動きできない状態になってるのよ。一旦、日本へ戻りましょ。」

「それしか、ないか・・・。」

アスカとマナは、荷造りを終えると退院手続きをした後、空港へ向った。

<空港>

「欠航!? なんとかしなさいよ!! 重大事なのよ!!」

アスカはネルフのIDカードを見せて、空港の職員を脅迫するが、いくら言っても日本
へのフライトはできないとしか答えが無い。

「ですから、日本の空港は破壊されているか、ゲリラに占拠されている為、着陸できな
  いと言っているでしょう! 無理なものは無理です!」

「無理かどうか、やってみてから言いなさいよね! アンタ、ネルフに逆らう気!?」

「そんな、無茶苦茶言わないでください。」

ぐいぐいと、アスカの袖を引っ張るマナ。

「何よ!」

「一旦ドイツへ行ったら?」

「え?」

「ネルフのドイツ支部で、軍用飛行機を手配してもらうしかないんじゃない?」

「そうね・・・わかったわ。」

マナとの会話が終わると、アスカは再び空港職員の方へ向き直る。

「じゃぁ、ドイツまですぐに飛行機を飛ばして!」

「はい。それなら可能です。すぐに手配致します。」

<ネルフドイツ支部>

故郷のドイツに帰ってきたアスカだが、家族に再会している余裕など今は無い。直行で
ネルフドイツ支部へと向う。

「こ・・・これは・・・。」

ドイツ支部の司令室にたどり着いたアスカが見た物は、衛星から映した第2,第3新東
京市の変わり果てた姿だった。

「どうして、ここまでやられるまでほっておいたのよ!」

ドイツ支部の作戦部長に食って掛かるアスカ。

「ほっておいたわけではない。何度も攻撃をかけているのだが、相手は使徒だ。通常兵
  器では倒せないのだ。それくらいはわかるだろう。」

「ネルフ本部の職員は!?」

「全員生死不明だ。」

不明な以上はまだ見込みがある。ネルフ本部にはミサトやリツコ、それにゲンドウがい
るのだ。ここは、彼らを信じるしかない。

「エヴァはここには無いの?」

「無い。」

「じゃ、ネルフ本部にあった弐号機と初号機はどうなったの!?」

「わからない。」

「じゃ、まだジオフロントにある可能性もあるのね!」

「そうだが、確証はできない。破壊されている可能性もある。」

「今すぐ、アタシとマナを日本に送り届けなさい! エヴァがまだ健在なら、対抗でき
  るわ!」

「危険だ。」

「アンタバカぁ!? このままエヴァが破壊されたら、終わりでしょ!」

「しかし・・・成功率の低い任務を命じては・・・。」

こいつ・・・。

「アンタ、よく作戦部長になれたわね! ミサトなら、怪我をしてようがアタシ達を病
  院から連れ戻して、こうなる前に対処してるわよ! たとえ、成功率が1%以下でも
  ね!」

「・・・・・・わかった・・・好きにしろ。ただし、責任は取れないぞ。」

やっぱり、無能で最低ね。

「じゃ、用意をすぐして!」

これ以上作戦部長の顔を見ていたくないアスカは、さっさとマナを連れて司令室を出て
行った。

<第3新東京市>

「碇くん・・・。」

巨大なライチュウが、電撃,電磁波を撒き散らす廃虚と化した第3新東京市で、レイは
1人さまよっていた。

早く碇くんを見つけないと・・・。

シンジを探しながら、敵の兵隊から逃げること数日。もうレイの体力は限界だった。

ドサッ。

碇くん・・・。

レイは、ライチュウの電撃の光に照らされる二子山の麓で、意識を失った。

To Be Continued.
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