------------------------------------------------------------------------------
ポケ使徒
Episode 12 -愛と力と-
------------------------------------------------------------------------------

<第3新東京市郊外>

カヲルに助けられたネルフのスタッフ達は、第3新東京市の郊外に簡単な仮設基地を早
急に作り上げていた。

「さすがは、赤木リツコ博士ね。」

「これくらい、当たり前だわ。それよりマヤ、状況は?」

通信の回復,コンピュータの設置のあまりの早さに、感嘆の声をあげるミサトを軽くリ
ツコはあしらう。

「はい! 今、映像が入ります! ・・・こ、これは!」

「どうしたの?」

リツコが、コンピュータのディスプレイを覗き込むと、ネルフ本部からATフィールド
の反応が、映し出されていた。

「始まっているのね。」

部屋の奥に座る2人の男達も、その状況を見ていた。

「おい碇、押されているんじゃないか?」

「あぁ、問題ない。」

息子に掛けるのか・・・碇・・・。

<エヴァケージ>

くそぉ・・・どうしたらいいんだ。

シンジは、焦っていた。目の前に初号機と弐号機が見える。しかし、銃を構えた警備兵
が、厳重に警備しており、近づくタイミングが無い。

後少しなのに・・・。

カヲルと別行動を取ったことが、悔やまれて仕方が無い。もっとも、カヲルと一緒に行
動していれば、ライチュウに発見される可能性が高くなるという判断もあったのだが。

ドーーーーーーン。

上の方から、大きな地響きが聞こえる。

なんだ! 何か始まっているのか!? まさか、綾波や、カヲルくんの身に! ちくしょ
う、どうしたらいいんだ!

どうにか、エヴァに近づく方法は無いものか、ケージを睨み付けて隙を伺うが、相手が
多すぎる。

ドーーーーーーーン。バババババババババ。

再び、上から地響きと雷の様な音が聞こえる。

間違い無い。ライチュウとの戦闘が始まっているんだ・・・。くそーーーー!!

いてもたってもいられなくなったシンジは、拾った拳銃を片手にエヴァに向って走り出
した。

「うわーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

叫び声と共に、拳銃を打ちながら躍り出るシンジ。
突然、現れたシンジに一瞬驚く警備兵だが、すぐに戦闘態勢に入る。

ズガガガガガガガガガガガ。

マシンガンがシンジを狙う。

くそーーーーーー!!!

少し走った所にある。物影に隠れたシンジは、手だけだして拳銃を撃つが、相手はマシ
ンガンを持つ複数人の兵隊だ。シンジの対抗など全く意味が無い。

ズガガガガガガガガガガ。

シンジが隠れている遮蔽物もどんどん形を失っていく。近寄ってくる警備兵達。

やっぱり、無理なのか・・・。

やむおえずシンジは、物陰に隠れながらケージから退却しようと走り出した。

ズガガガガガガガガガ。

追いかけてくる警備兵。追いつめられるシンジ。

もう、ダメだ・・・。カヲルくん・・・力になれなかったよ・・・。

シンジが、死を覚悟した時。

ドカーーーーーーーーーーーーーーーーーン。

目の前の床が崩れ去る。

「うわーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

落ちていく警備兵達の断末魔が聞こえる。

「え?」

シンジの目の前には、赤い巨人が立っていた。

「ハローーー、シンジ!」

「ア、アスカ!!!」

「アンタが、警備兵を引き付けてくれたおかげで、エヴァに乗ることができたわ! ア
  タシも向こうの壁に隠れて、ずっと隙を伺ってたのよね!」

アスカ・・・。

久しぶりの再会に、涙が零れそうになるシンジ。

「なに、ぐずぐずしてんのよ! さっさとアンタもエヴァに乗りなさいよ! 上からAT
  フィールドの反応がするわ!」

「うん、わかった!」

<ネルフ本部地下>

バリバリバリバリバリ!!! バリバリバリバリバリ!!!

「ダメか・・・もう、ATフィールドがもたない・・・。」

苦痛にもがくカヲル。

「碇くん・・・もう・・・。くぅぅぅぅぅぅぅぅーーーー。」

レイは、既に限界を通り過ぎていた。

「最後にもう1度だけ聞く。リリス,タブリス。我々の元へ来るのなら助けてやるぞ。」

もう、限界だと見切ったキールは、レイとカヲルに再び問い掛ける。

「何度・・・聞いても、お・・・同じさ・・・。」

しかし、カヲルは断固として拒絶する。

「そうか・・・では、これでどうだ?」

キールが、後ろから引っ張り出したのは、縛られたマナの姿だった。」

「お前達がこちらへ来れば、この娘の命は助けてやるがな。」

「くっ・・・。」

顔を引きつらせるカヲル。

「んーーーーんーーーーんーーーー!」

さるぐつわをされ、喋ることができないマナが、首を大きく左右に振る。

「さぁ、タブリスどうする。とは言っても、もう、お前には選択の余地は無いだろうが
  な。」

その時、苦痛にもがいていたレイの赤い瞳に輝きが戻る。

「来るわ・・・。」

レイの言葉を聞いたカヲルも、神経を集中させる。

「フッ。それは、またわからなくなったね。キールさん。」

キールを見上げるカヲルの瞳にも、生気が宿っていた。

ズッガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン。

吹き飛ぶ床。

躍り出る紫と真紅の巨人。

「綾波! カヲルくん!」
「真打は最後に登場ってね!」

シンジとアスカは、ATフィールドを全開にし、カヲルとレイをライチュウの攻撃から
守る。

「シンジ君! 少しの間耐えてくれ!」

カヲルは、防御に使っていたATフィールドを、自分の体にまとわりつかせ、一気に上
のフロアまで飛び上がる。

「ちっ。死ね!」

マナに銃口を向けるキール。

「んーーーーーーー!!」

マナは、腰を床につけたまま後づ去りして逃れようとするが、縛られている為身動きが
できない。

ガン!

「間一髪だったね。」

キールが銃を撃つ寸前に、2人の間に割ってはいるカヲル。ATフィールドが、キール
の前に展開されている。

「キールさん。そろそろ終わりにしようか。」

カヲルは、キールに向ってATフィールドを大きく展開した。

「タブリス! お前は、産みの親とも言える私を殺すのか!」

「これは、けじめなのさ。それに、あなたがいては世界は破滅する。」

「き、きさまーーーーー!!!」

「それが、遺言かい?」

ズガーーーーーーーーン。

次の瞬間、キールの姿はこの世から消え去っていた。それと同時に、下でうごめいてい
たライチュウが、奇声を上げる。

「ライ・チュウーーーーーーーーーーーーー!!!」

ズバババババババババババ。

「うわーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

「きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

狂った様に暴れ出すライチュウ。

「しまった! あのポケ使徒は、キールの脳波と連動していたのか!」

ひとまずカヲルは、マナに駆け寄り、さるぐつわと縛られているロープを解く。

「君は、レイと一緒にいてくれ、今逃げるのは危険だからね。」

「はい。」

カヲルは、マナを連れてレイの元へと戻ると、再びATフィールドを全開にしライチュ
ウのATフィールドを中和しはじめた。

「なんて強力なATフィールドなんだ。」

エントリープラグの中で、シンジも苦痛にもがく。カヲルとシンジが使徒2体分並みの
ATフィールドを展開しているにも関わらず、中和しきれない。

ズババババババババババババババ。

ライチュウと接近戦をしているエヴァ2体に、ライチュウの電撃が走る。

「うわーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
「きゃーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

くそ・・・なんとかしなくちゃ・・・なんとか・・・。

どうすればこのライチュウに対抗できるのか・・・シンジは、苦痛にもがきながら考え
る。

そ、そうか・・・。それしか・・・ない!

「カヲルくん! レイ! 1分! 1分だけ2人だけで耐えてくれ!」

「ど、どうする気だい!? シンジ君!?」

「頼む! カヲルくん!」

「わかったよ、シンジ君。」

カヲルとレイは、命の限りATフィールドを展開し続ける。

「アスカ! エントリープラグから出るんだ!」

「な! どういうことよ!」

「いいから! 早く!」

「わ、わかったわ!」

ギュイーーーーーーーーーン。

射出されるエントリープラグ。

「シ、シンジ君・・・急いでくれ・・・長くは持たない・・・。」

「碇くん・・・・。」

1つATフィールドが無くなり、負担がカヲルとレイにかかる。

「あと少し、頼んだよ!」

ギュイーーーーーーーーーン。

弐号機の側まで移動したシンジもエントリープラグを射出する。

「アスカ、乗って!」

「え!?」

「早く!」

「わかったわ!!!」

シンジのエントリープラグに飛び移るアスカ。」

「シンジくん!!!!! も、もう限界だ!!!!!」

「い、い・・・かり・・・くん・・・もう・・・ダメ・・・。」

再び、挿入されるエントリープラグ。

「「シンクロスタート!!」」

初号機に入ったシンジとアスカは、一気にシンクロをスタートする。

「「ATフィールド全開!!」

<第3新東京市郊外>

「状況どうなっている。」

ゲンドウが、リツコに状況報告を求める。

「はい・・・先程現れた2つのATフィールドで、なんとか戦っている様ですが、劣勢
  です。」

「そうか・・・。」

「碇、あれはエヴァだろう・・・。エヴァを出しても劣勢というのなら、まずいぞ。」

「ああ。」

その時、マヤがリツコを呼ぶ。

「変です。2つのATフィールドの反応が消えました。」

「なんですって!!!」

リツコがモニタを覗き込む。確かに、ライチュウの強力なATフィールドの他に、先程
まで4つあったATフィールドの反応が消えている。

「ま、まさか、やられたんじゃ。」

後ろから状況を見ていたミサトの顔が青くなる。

「ま、待ってください・・・。1つATフィールドが、再び現れました・・・こ、これ
  は!!」

「そ、そんなバカな・・・。」

マヤと同時に、リツコも驚愕する。

「ありえないわ。もし、これがエヴァだとしたら・・・こんな、強力なATフィールド
  なんて・・・。」

モニターに映し出されたのは、ライチュウに匹敵する様な強力なATフィールドだった。

<ネルフ本部地下>

「さすがは、シンジ君だね。」

その様子を見たカヲルは、安心した顔つきで自分のATフィールドを完全に防御に戻し、
疲れきって腰を落とすレイと、無防備なマナを守ることにした。

「どうしたの?」

突然カヲルが防御に徹したので、何が起ったのかわからないマナは、カヲルに聞く。

「あの2人が作る、1つのATフィールドだけで勝てるってことさ。」

マナは、目を光らせライチュウと掴み合う初号機を、ゆっくりと見上げた。

「アスカ! 行くよ!」
「ええ! へまするんじゃないわよ!」

ATフィールドを完全に中和した初号機は、プログナイフを取り出す。
シンジとアスカは、手を添え最後の攻撃に移る。

「ライ・チュウーーーーーーーー!!!」

ズバババババババババババババ!

電撃を初号機に走らせるライチュウ。

「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「うりゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

その電撃の激痛に耐えながら、ライチュウのコアをプログナイフで突き刺すシンジとア
スカ。

ビシッビシッビシッビシッ!!

コアから、電光が拡散する。

「ぐぐぐぐぐぐぐぐぐ!!!」
「くぅーーーーーーー!!!」

ライチュウから直接体に流れ込む電撃に耐えながら2人は、両手に全身の力を込める。

「ぐぐぐぐぐぐぐぐぐ!!!」
「くぅーーーーーーー!!!」

もがき苦しむライチュウ。

「ライ・チュウーーーーーーーー!!!」

ズババババババババババババババババババババババババババババババババ!!!!
ドカーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!

ライチュウは、最後に全ての電気を放出して爆発した。

ATフィールドを全開にして、覆い被さる様に爆風からレイ,カヲル,マナを守る初号
機。

「碇くん・・・。」
「シンジ・・・。」
「おつかれさま、シンジ君。」

自分達に覆い被さる初号機に向って、戦友達は声を掛ける。そんな様子を、初号機の光
る目が見ていた。

<第3新東京市廃虚跡>

シンジとアスカのエヴァの手の平に乗って、地上に運ばれたレイ,カヲル,マナは、廃
虚と化した第3新東京市を眺めていた。

ギュイーーーーーーン。
ギュイーーーーーーン。

射出される2本のエントリープラグ。そこから出てくる2人のチルドレン。

「シンジ君、さすがだね。」

地上に降り立ったシンジに、カヲルが声を掛ける。

「ライチュウを倒せたのは、ぼくの力じゃないよ。」

「最後は、私達は何もしてなかったもの。」

レイも、シンジを称える。

「でも・・・。やっぱり、ぼくだけの力じゃないよ。」

あまり、こういうことで誉められても嬉しくないシンジは、閉口してしまう。

「シーンジぃ・・・。そうよねぇ、シンジだけの力じゃないわよね!」

マナが、シンジの側に駆け寄ってくる。

「うん。そうだよ。やっぱり・・・。」

シンジが何か言いかけた所で、マナがシンジの口を人差し指で押さえる。

「やっぱり、アスカと2人の力?」

いたずらっぽい微笑みを浮かべて、シンジのセリフを勝手に続けるマナ。

「マナ・・・。」

シンジの後ろから、マナを見つめるアスカ。何と言っていいのかわからない。

「さっきの戦いでわかったわ。今、シンジが誰を必要としているのか。」

「・・・・・・・。」

「でもね、アスカ。アタシは、まだ諦めたわけじゃないんだからね。まだまだ、勝負は
  これからよ!」

マナのいたずらっぽい微笑みに答えるかの様に、アスカもニヤリと笑う。

「フン! アンタなんかに負けるもんですか! これからが、本当の勝負ね!」

マナとアスカが固く握手をしながら、微笑みを浮かべて見詰め合う。

「アスカ・・・。」

マナは、何かを言いかけるが、そのまま口を閉ざした。

「じゃ、僕達は赤木博士の所へ行くよ。」

「うん。またね。カヲルくん。綾波。」

シンジに手を振りながら、立ち去るカヲルとレイ。

「わたしも、一旦帰るわ。お風呂にも入りたいし。」

「あっそ、バイバイ!」

マナに、手を振るアスカ。

「何? その投げやりな言い方! わたしがいないと思って、シンジを襲っちゃダメだか
  らねぇ!」

「さって・・・そんなの知らないわ。」

「あーーーーー!! ひどーーーーい!!」

「お風呂に入りたいんでしょ。さっさと帰りなさいよ!」

「わ、わかってるわよ! べぇぇぇ!」

2人のやり取りを、唖然と見つめるシンジの方へ、そっと振り返るマナ。

「じゃ、帰るね。」

「え・・・う、うん。」

シンジに手を差し出すマナ。それにシンジも答えて、手を握る。

「さよなら、シンジ。」

「え・・・あ、さようなら。」

マナは、最後にシンジをじっと見つめると、ゆっくりと背を向けシンジとアスカの元を
去って行った。

「無理しちゃってさ!」

「何が?」

「何でもない。さぁシンジ、帰るわよ! 久しぶりのアタシ達の家へ! まっ、残ってた
  らだけどねっ!」

「そうだね。帰ろうか、ぼく達の家へ。」

エヴァ2体をその場に残し、手を繋ぎながら立ち去るシンジとアスカ。












戦いは終わった。

まだ14歳の彼,彼女達が、この先どの様な人生を歩んでいくのかは、まだわからない。
ただ、エヴァに背を向けて去っていく少年少女達が、再びエヴァに振り返る時が、今後
二度と訪れないことを祈りたい。




しかし、もしまた世界に危機が迫った時、




霧島マナ,綾波レイ,渚カヲル・・・
そして、惣流・アスカ・ラングレーは、駆けつけるだろう。

彼,彼女達の中心となり得る魅力の持ち主、




                        碇シンジの元へ・・・。

fin.
作者"ターム"へのメール/小説の感想はこちら。
tarm@mail1.big.or.jp
inserted by FC2 system