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ΔLoveForce
Episode 01 -3つのベクトル-
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<オーバー・ザ・レインボー>

シンジ、トウジ、ケンスケは、ミサトに騙されてオーバー・ザ・レインボーに来ていた。
シンジとトウジはともかく、ケンスケはご機嫌だ。
ヘリコプターが、甲板に降りると、そこには、黄色いワンピースを着たサファイヤのよ
うな瞳の女の子が、立っていた。

ビューーー。

ヘリコプターから甲板に降りると、強い潮風が吹いていた。その風にトウジお気に入り
の阪神帽が飛ばされる。トウジが追いかける帽子は、女の子の足元まで転がっていった。

グシャ。

その女の子は、トウジお気に入りの帽子を踏みつける。

ビューーー。

ムッっとして、トウジが顔を上げると、潮風にまくられたスカートとその中が、目に映
り、トウジの顔がにやける。

パン!パン!パン!

「なにさらすんじゃ!」

「見物料よ。安いもんでしょ。」

言い返すことのできないトウジは、腫れた頬を押さえて黙り込み、情けない顔でその女
の子を見つめる。

シンジも、その様子をミサトの横で見ていた。

なんか、気の強そうな女の子だなぁ。こういうタイプは苦手だな。やっぱり、綾波がい
いや。

その女の子はミサトに近寄り、シンジを指差す。

「で、噂のサードチルドレンって、この子?」

「そうよ。」

「やっぱりぃ!? そーじゃないかと思ってたのよねー。アタシ、惣流・アスカ・ラン
  グレー。よろしく。」

アスカが右手を差し出してきたので、シンジもおずおずと右手を差し出し、握手をかわ
す。

「ぼくは、碇シンジ。」

「知ってるわ。艦内を案内するから、付いて来なさい。」

アスカの誘いを受けていいものか、ミサトの顔を伺うシンジ。

「行ってらっしゃい。」

許可もおりたので、シンジはアスカに手を引かれ、艦内へと消えて行った。

「なんやあれは! ワイとシンジに対する態度がえらいちゃうやないか!」

「あんなアスカ初めて見たわ。どうしたのかしら?」

むくれるトウジと、我関せずとカメラを回すケンスケを連れて、ミサトも、シンジとア
スカの後を追った。艦内に入ると、エレベーターを待っているシンジと、シンジの横に
寄り添うアスカがいた。

この子、アスカとか言ったっけ。思ったよりいい子みたいだな。

好意的な態度を示してくれるアスカに、最初の悪印象は消えて行くシンジだった。

ガシャ。

エレベータが開く。

「シンちゃーん。エレベータ止めといて。」

後から歩いてくるミサトが、声をかける。

「はい、わかりました。」

シンジは”開く”のボタンを押しっぱなしにして、ミサト達を待つ。

「エレベータが遅いからみんな来ちゃったじゃない。」

ボソっと呟くアスカ。

ブリッジに上がったミサトは、艦長への挨拶と事務手続きをしている。
その間もアスカは、シンジの手を握ったままで、コソコソとシンジに話し掛けてくる。

「いきなりの初陣で、シンクロ率40%を超えたんですって?」

「あの時のことは、よく覚えてないんだ。」

「なっさけないわねー。そんなんじゃ、戦闘の報告もできないじゃない。」

「そういうことは、ミサトさんがやってくれるから。」

「ふーん。そうなの。」

そんな時、後ろから突然男の声がかかる。

「よぉ!」

「あ! 加持先輩!」

シンジの手を握っている右手はそのままに、左手を振るアスカ。

シンジが振り返ると、無精鬚をはやした背の高い男が、ブリッジに入って来ていた。

「か、加持!」

「どもぉぉぉ。」

ミサトの声に、シンジが向き直ると、愕然としたミサトが頭を抱えてうめいていた。

艦長との事務手続きも終わり、一同は加持を加えて喫茶室へと移動しようとする。
全員がエレベータに駆け込んだせいで、すし詰め状態になってしまった。

「ちょっと! さわんないでよ!」

「仕方ないだろぉ。」

ミサトと加持のやりとりをよそに、アスカはぴったりとシンジの胸の中に納まっていた。

喫茶室は、小さな1室になっており、真ん中に6人掛けのテーブルと椅子が置いてあっ
た。シンジがミサトの横に座ると、アスカはそそくさと、シンジの横に座った。
ミサトと加持は向かい合って座るが、足を小突きあいながらブチブチ言い合っている。

「ねぇ、アンタ、ミサトと暮らしてるの?」

ミサトと加持の様子を、見ていたシンジの背後から、アスカが話し掛けてきた。

「うん。」

「よくもまぁ、あんな怠慢女と暮らせるわねぇ。」

「え、そうだね・・・。」

少し、遠慮がちに小声になりながら、頬をポリポリとかく。

「アタシはどこで暮らすんだろう?」

「1人じゃ寂しいからさ、綾波と一緒に暮らしたら?」

「綾波? ファーストのこと?」

「うん。」

そうしたら綾波も、女の子らしい生活をするようになるかもしれない。

アスカとレイが一緒に暮らすことは、自分でもいい考えのように思えてきた。

「変わってるって、よく聞くわ。」

「そ、そんなこと無いよ。」

部屋は、ちょっと、問題あるけど・・・。どうして、綾波、あんな所に住んでるのかな
ぁ?

「ふーん。」

ミサトと加持、シンジとアスカの様子を見ながら暇そうにしていたトウジが呟く。

「なぁ、ワイらここで何しとんや?」

「ここで、休憩するのかぁ。すごい! すごい! すごい! すごすぎる!」

「はぁ・・・。」

1人つまらなさそうな、トウジだった。

「ねぇ、弐号機見に行かない?」

「別にいいけど・・・。」

「っじゃ、行くわよ!」

アスカがシンジの手を引っ張って、喫茶室から出て行くのを見届けると、ブチブチと言
い合っていたミサトと加持が、顔を見合わせる。

「どう思う?」

加持がミサトに不敵な笑みを浮かべる。

「あんなアスカ見たことないわね。」

「シンジ君も大した物だな。彼ならアスカを救ってくれるかもな。」

「わたしも、後押しするわ。」

「やめとけよ。葛城が首つっこむと、ろくな事にならない。」

「うっさいわねぇ。でも、シンちゃん・・・。」

ミサトは、少しレイのことが気にかかっていた。

シンジとアスカの前には、赤い巨体を横たえるエヴァ弐号機の姿があった。

「へぇ、弐号機って赤いんだ。知らなかったな。」

「どう?」

「どうって言われても。」

「乗ってみない?」

「え、でも勝手に乗ったら叱られちゃうよ。」

「テストタイプのエヴァにしか乗ったこと無いんでしょ?」

「テストタイプって?」

「初号機のことよ。この弐号機が、世界初の・・・」

ドーーーーン。

その時水中衝撃波が、艦を揺する。甲板から海を見渡すシンジとアスカ。遠くに水しぶ
きが上がる。

「使徒だ!」

「あれが? 本物の使徒!? エヴァに乗る口実ができたじゃない。行くわよ!」

「でも、ミサトさんの命令も無いのに・・・。」

「そんなもの、後で貰えばいいのよ!」

アスカは、人気の少ない階段までシンジを引っ張って来ると、赤いプラグスーツをシン
ジに手渡す。

「アンタ、それ着なさい。後ろ向いて着替えるのよ。」

「うん。」

赤いプラグスーツか・・・なんだか、はずかしいな。女の子用だし。

あまり気の進まないシンジだが、アスカに言われるがまま、アスカと背中合わせで着替
える。
アスカはプラグスーツに身を包むと、左手のボタンを押し体に密着させる。

「行くわよ! アスカ!」

真剣な表情になり、気合を入れるアスカ。シンジも着替えおわり、弐号機が横たわる甲
板に移動する。

ギュイーーーーン。

排出されたエントリープラグのハッチを開け、弐号機に搭乗したシンジとアスカをLC
Lが満たす。日本語をベーシックに切り替えると、アスカがエヴァに起動をかけた。

「まず、アタシから行くわ。見てなさい。」

その頃、ミサイルによる迎撃に効果が無い為、ブリッジも大騒ぎになっていた。そこに
通信回線を介してアスカとシンジの声が聞こえてきた。ミサトは艦長からマイクを分捕
り迎撃命令を下す。

弐号機はB型装備の為、水中では動けない。アスカは、空母から空母へと飛び乗ってい
くが、それも時間の問題だった、使徒につかまり海中に引きずり込まれる弐号機。ガチ
ャガチャとレバーを引いてみるが、エヴァは沈黙している。

「なんで動かないのよぉ!」

「B型装備じゃねぇ。」

沈黙する弐号機に使徒が口を開いて突進してくる。

「く、口ぃ!!!」

「使徒だからねぇ。」

弐号機は使徒に捕まり、海中を引きずり回される。ブリッジで、対応にせまられるミサ
ト。

「こりゃ、まるで釣りやなぁ。」

「釣り! そう釣りだわ!」

トウジの言葉をヒントに思い付いた作戦を、艦長に説明する。その作戦とは、無人戦艦
2隻を使徒の口内に突入させ、0距離射撃をするというものだった。その無茶苦茶な作
戦に艦長は反対するが、他に方法が無いということで、ミサトが押し切る。

無人戦艦が2隻が、使徒を目掛けて潜って行く。

「口を開けろって言われても、動かないものどうするのよ!」

「かして。」

シンジは、それだけ言うと、アスカの上に乗りレバーを握った。いきなりシンジが乗っ
てきたので、顔を赤くしながらシンジの動きを、ただ見ているアスカ。

「B型装備なのよ! 動くわけないじゃない!」

「集中して!」

エヴァはシンクロ率を上げると、計算では表せないことをシンジは知っている。シンジ
は意識を集中させて行く。アスカは、今までに無いシンジの真剣な顔に言葉を失う。

「開け! 開け! 開け! 開け!」

シンジが、シンクロ率を上げていく。

戦艦2隻が近づいてくる。しかし、まだ口は開かない。

「もっと集中するんだ!」

シンジがアスカを叱咤する。真剣なシンジをぼーっと見ていたアスカも、シンジの言葉
に我に返る。

「開け! 開け! 開け! 開け!」
「開け! 開け! 開け! 開け!」

戦艦が真後ろまで来ている。時間が無い。

「開け! 開け! 開け! 開け!」
「開け! 開け! 開け! 開け!」

「よし、行ける!」

シンジがそう言った瞬間、弐号機の目が光り、通常の数倍という力で口をこじ開ける。

ドーンドーン。

戦艦が、弐号機を挟むように、使徒の口に突き刺さる。

「すごい・・・。」

体験したことの無いエヴァの動きに、アスカは驚いている。しかし、シンジは、0距離
射撃に耐える為、意識の集中を続ける。

「気を抜いたら駄目だ! ATフィールド全開!」

シンジが自分達を守る為、ATフィールドを最大限に展開した。

ドカーーーーーーーン。

0距離射撃により、使徒殲滅。
爆発の衝撃も通り過ぎ、緊張を解くシンジ。ふと我に返るとアスカの上に乗っかってい
た。

「ご、ごめん・・・。」

あわてて飛び退くシンジだが、アスカは、ぼーーっとシンジを見つめているだけだった。
シンジとアスカは、アンビリカルケーブルにより、オーバー・ザ・レインボーとは別の
空母に引き戻された。

「さすがは、実戦を積んできただけのことは、あるわね。」

「惣流がいたから、うまくいったんだよ。」

シンジは誉められたので、謙遜の意味で言ったのだが、アスカは顔を真っ赤にする。

「ア、アスカでいいわ。」

「へ?」

「これからは、アスカと呼ぶのよ!」

「別にいいけど。」

「じゃ、呼んでみて。」

「えーーーーーー。」

「早く!」

「ア、アスカ。」

「それでいいわ。」

「アンタ、彼女いるの?」

綾波は、彼女じゃ・・・ないよな・・・。

「いないけど・・・。」

「えーーー! 本当!」

「好きな娘はいるんだけど・・・。」

両手放しで喜んでいたアスカが、突然、ブスーーーーっとする。

「ふーん、好きな娘いるんだ。日本に着いたら紹介しなさいよ!」

「綾波だけど・・・。」

「な、な、なんですってーーーーーーーーー!!!」

右手の親指の爪をかみながら、なにやら考えるアスカであった。

<学校>

翌日、シンジの席に集まった3バカトリオは、昨日の出来事や、アスカのことを話していた。

「いけすかん女やったなぁ。」

「そーでもないよ。」

「シンジは、そやろなぁ。あの女の態度、ワイらと全然ちごたさかいなぁ。」

「そーかな。」

「せんせは、仕事で会うねんさかい、仲ようしといた方がええ、ワイらはもう顔合わさ
  んでええから、めでたしめでたしっちゅーこっちゃ。」

ガラガラガラ。

教室の扉から、担任の先生に続いて赤い髪の女の子が入ってきた。

「あーーーーーーーーーー!!」

席を立ち、声を上げるトウジ。

黒板に横文字で名前を書いた女の子は、長い髪の毛をひらつかせて振り返る。

「惣流・アスカ・ラングレーです。よろしく。」

唖然とするシンジの目一点を見つめて、微笑みながら挨拶するアスカだった。

キーンコーンカーンコーン。

1時間目終了後、アスカはシンジの所へ駆け寄る。

「ファーストは?」

「綾波? 午前中はネルフなんだ。昼から来るはずだよ。」

「ほー、お詳しいことで。」

目を細めてシンジを横目で睨むアスカ。

「そ、そんなんじゃないよ。ミサトさんに言われて、今日先生に連絡したから知ってる
  だけだよ。それより、綾波がどうかしたの?」

「ちゃーーーんと、挨拶しておかないとねっ。」

拳を固めながらも、顔は笑顔のアスカだった。

<校庭>

昼休みになって、綾波が登校してきた。校庭のベンチで本を読んでいる。窓からそれを
見つけたアスカは、シンジを連れて校庭へ走り出て来た。

レイの本が影になるように、日光を遮って立つアスカ。その後ろで、状況を見つめるシ
ンジ。

「アンタがファーストチルドレン、綾波レイね。仲良くしましょ。」

アスカは不敵な笑みを浮かべると、左手を差し出し握手を求める。好戦的な態度だ。
レイはパタっと本を閉じ、アスカを見上げる。その顔はかすかに赤い。

「アスカ?」

「そうよ、わたしが、惣流・アスカ・ラングレーよ! 写真くらいは見たことあるでし
  ょ!」

すくっと立ち上がるレイ。アスカを一直線に見て目を離さない。

「な、なによ!」

少し、後ずさりするアスカだが、レイがずいっと近寄る。

「な、何なのよ!」

シンジは、いきなりケンカになりそうな雰囲気の2人を、アスカの後ろでハラハラしな
がら見ている。

「会いたかった。」

突然、レイがアスカに抱き着いた。レイの頬は、上気しており目は潤んでいた。しっか
りと、アスカに抱き着いて離れない。遠巻きにアスカを見ていた生徒達が騒ぎ出す。

「アスカの額に冷や汗が流れてる。」

「ちょ、ちょっと!!!! アンタバカぁ!!!!」

必死でレイの手から、逃げ出すアスカ。

「やっと・・・。」

レイの目は、既に天空の彼方へ飛んでいた。

「ア、アタシは、そ、そういう趣味無いから・・・。」

最初の自信有りげで好戦的な態度はどこへやら、ジリジリと逃げるアスカ。

「私の事嫌いなの?」

ジリジリと詰め寄るレイ。

「い、いえ、嫌いとかじゃなくって、そ、そう、アタシは、コイツが好きなの。」

そう言って、シンジを腕を引っ張り、腕をからめる。遠巻きに見ていた生徒達が、シン
ジに怒りの目を向ける。が、それ以上にレイがシンジのことを睨み付ける。

「どうして、そういうことするの?」

シンジを、ルビーのような赤い目で睨み付けるレイ。

「え! いや、ぼくは、そういうつもりじゃないから・・・。ア、アスカ離して!」

突然の話の展開に、うろたえまくるシンジ。

「なんですって! アタシが嫌いだって言うの!」

「そうよ、碇くんはアナタのことが嫌いなの。あなたを愛しているのは、私・・・。」

レイが再び、アスカに詰め寄る。

「いぃぃぃーーーーー。」

アスカに引きが入る。

「シンジ! なんで、こんな女のことが好きなのよ!!!!」

「あーーー! なんで言っちゃうんだよ!」

「私と碇くんの間には絆は無いわ。あるのは私とアスカの間・・・。」

「そ、そんな・・・。」

シンジが、がっくりとうなだれる。

「アタシとアンタの間にも無いわよ! シンジ! 振られたんだから、諦めて、アタシを
  見なさい!」

「綾波・・・。」

3人を取り巻いていた見物客の数は増え、事の成り行きに校庭は大騒ぎとなっていた。

シンジは、愕然としている。

アスカは、シンジを盾にして、レイから逃げている。

レイは、ジリジリとアスカに詰め寄っていた。

思いのベクトルは向かい合うこと無く、3人のチルドレンの第3新東京市での生活が始
まった。

三角の愛の力が、この先波乱を巻き起こす。

To Be Continued.
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