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ΔLoveForce
Episode 02 -ユニゾン-
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イスラフェルへの攻撃が失敗。シンジに良いところを見せようとして、アスカが独断先
行したことが、原因である。

<アスカの家>

ここは、日本に来たアスカが一人暮らしをしているマンション。アスカの要望により、
3LDKという広い空間を持つ一室を、アスカは占拠していた。

まさか分離するとは思ってなかったわ。シンジの役に立つところを、見せるつもりだっ
たのに。自分勝手な女だと思われたわよね。きっと。

まだ、荷物はダンボールに入ったまま、部屋中を占拠している。その隙間にひかれた布
団の上で、足を両手で抱きかかえながら、アスカは座っていた。

今日は、何も食べる気にならないわ。

いつもは、ネルフの食堂で食事を摂るが、今日は出かける気になれない。

ピンポーン。

不意に呼び鈴が鳴る。ヒカリが友好的ではあるが、アスカには、まだ仲の良い友達はい
ない。訪ねてくる客に見当が付かないアスカは、不思議に思いながらも返事をする。

誰かしら?

「はーい。」

玄関先まで行き、相手を確認する。ドイツで身についた習慣から、相手を確認せず簡単
にドアを開けるようなことはしない。

「誰?」

覗き窓から、外を覗く。

「わたしなんだけど、開けてくれないかしら?」

ドアを隔てた向こうには、軍服を着たミサトが立っていた。

「ミサト? 今開けるわ。」

ガチャ。

「あっらぁ、まだ片付いてないじゃない。」

「中学への入学とか、使徒の侵攻とかで忙しいんだから、仕方無いじゃない。」

片付けるのが面倒なので、まだやる気が起きないだけなのだが、それらしい理由を並べ
る。
玄関で立ち話をする、アスカとミサト。ダンボールが山積みになっていて、部屋の中で
お茶を飲める状況ではない。

「今日の作戦失敗の話?」

責任を自分で感じていたアスカだが、ムッとした表情でミサトに問う。ミサトがアスカ
の家を訪ねてくる理由としては、それぐらいしか思い付かない。

「ま、それもそーなんだけどさ。」

「さっさと言いなさいよ。」

あまり機嫌の良くないアスカ。

「今、使徒はN2爆雷で沈黙してるけど、再度侵攻は時間の問題だわ。」

「それは、さっき聞いたわ。」

作戦失敗後、シンジとアスカは会議室に呼び出された。その時、パイロットへの状況説
明という形で、冬月副司令の元マヤが説明したのだ。

「それまでに、対策をしないといけないの。」

「アタシに何をしろって言うのよ。」

「作戦の説明は、シンジくんが居る時にするわ。とりあえず、まずは、わたしの家に引
  っ越してきてほしいの。」

「へ?」

ミサトから思いもかけないことを言われたアスカは、ハトがポジトロンライフルを食ら
ったような顔になる。

「だから、今日から一緒に暮らしてほしいの。」

「シンジは?」

自分が行くということは、シンジはどうなるのかが疑問になる。内心は、大きな期待も
している。

「シンジくんとも、一緒に暮らしてもらうことになるわ。というより、シンジくんとア
  スカが一緒に暮らすことに意味があるの。」

「どういうこと?」

一応聞き返すアスカだが、先程の不機嫌な様子はどこへやら、顔に浮かぶ笑顔が隠しき
れない。

「次の作戦の準備なんだけど。」

そこで、ミサトは一旦区切る。

「嫌なら、無理にとは言わないけどねん。」

目を細めて、アスカの顔をマジマジと見るミサト。この作戦は、ミサトでは無く加持が
立てたものであった。使徒攻略の作戦としても充分考えられているが、本意は別の所に
あった。シンジなら、閉じこもったアスカを救えるかもしれないと・・・。そして、そ
れにミサトも賛成したのだ。

「い、嫌なわけないでしょ!」

「なんたって、オフィシャルな口実で、シンちゃんと同居できるんだもんねん。」

真っ赤な顔で、玄関に置かれている自分の真っ赤な靴に視線を落としていたアスカも、
下を向きながら、うんうんとうなずく。

「じゃ、引越しは業者に頼んであるから。今日中に来るのよ。」

さっきまで動く気力のなかったアスカだが、ミサトが帰った後、てきぱきと引越しの準
備を始め、最低限必要な荷物を手に持ち、1時間後には、ミサトのマンションに到着し
ていた。

<ミサトのマンション>

「ただいまーーー。」

家には誰も居ないはずだが、挨拶だけはするシンジ。玄関を開けるとそこには、山積み
のダンボールが置かれていた。

「な、なんだこれ!!!?」

シンジらしくもないが、焦っていたのか靴を脱ぎ散らかし家に飛び込む。

「あ! シンジ? おかえり。」

「ア、アスカ? 何してるの?」

そこには、白いタオルを首からかけ、ジュースを飲むアスカがいた。苦手なアスカが思
いも掛けず現れたので狼狽するシンジ。

「今日から、ミサトはお払い箱よ、シンジはアタシと暮らすの。」

「え、え、えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

自分の部屋を見るシンジ。そこには、マクラが並べて置かれている自分のベッドがあった。

「あーーーー−−−−−−−−−−−−−−−!!!!」

「しっかし、どうして日本人ってこう危機感たりないのかしら? 信じらんない。」

鍵のかからないシンジの部屋の襖を開けたり、閉めたりしながらアスカがぐちる。

「あなたが、シンジくんを襲わないようによ。」

アスカが横を見ると、そこには音楽デッキを肩にかついたミサトが、いつの間にか立っ
ていた。

「ミ、ミサトさん。 どういうことですか?」

シンジがすがるような視線で、ミサトに問い掛ける。

「アスカ。でたらめ言わないでくれない? ここはわたしのマンションなんですからね。」

「やっぱり、嘘なんですか?」

「いーえ、今日からアスカもわたし達の家族になるっていうのは本当よ。でも、部屋は
  もちろん別々よ。」

一緒に暮らすことを肯定され冷や汗を流すシンジだが、少なくとも部屋が別々だという
ことなので一安心する。

「チェッ。」

予想はしていたが、残念そうな顔で舌を鳴らすアスカ。

「でも、この先1週間は一緒の部屋で暮らしてもらうわ。」

「えーーー、本当!?」

「えーーーーーーーー。男女7歳にして同衾せずって言うじゃないですか!」

満面の笑顔を浮かべるアスカと、露骨に嫌な顔をするシンジだった。

その後、リビングで作戦が説明される。使徒には2つのコアがある。そのコアを2点同
時攻撃しなければ、あの使徒は倒せない。そこで、2人の呼吸を完全に合わせる為、ユ
ニゾンの訓練を行うというものであった。

その日の晩から、ユニゾンの訓練が始まった。前回の挽回をするべく、アスカはがんば
るが、シンジは何をやってもどんくさかった。そして、ユニゾンはうまくいかないまま、
時間ばかりが経過していく。

数日後。

ピンポーン。

呼び鈴が鳴り、玄関に向かうシンジとアスカ。シンジがドアを開けると、そこにはトウ
ジ,ケンスケ,ヒカリが立っていた。
病欠していると思っていたシンジとアスカが、音符マークのペアルックで現れたので、
3人の顔が引きつる。

「裏切りもん!」

「またしても、今時、ペアルック! いやーーんな感じ。」

「これはミサトさんが、日本人は形から入るものだからって。」

「これはシンジが、どうしてもペアルックが着たいって言うから。」

トウジとケンスケに言い訳するシンジと、わけのわからないことを口走るアスカ。

「ふ、不潔だわ。」

ヒカリが顔を覆って、いやいやする。

「誤解だよ。」「誤解じゃないわ。」

「誤解も六階も無いわ!」

「だから、誤解じゃないって。」

「誤解なんだーー!!!」

そこに、ミサトに連れられたレイがやってくる。

な、なんで、綾波が・・・。

ペアルックでアスカといる所を見られたシンジは、申し訳なさそうな顔でレイを見る。
アスカは、苦手なレイがやってきたので、冷や汗をかきながら、家の中へ逃げ込んだ。
一方一瞬アスカの顔が見たレイは、赤みがかった顔でアスカの消えたドアを見ていた。

リビングに招待された一同は、ミサトから作戦の説明を受け納得する。

「で、ユニゾンの方はどうなんですか?」

「それが・・・。」

全く息の合わない2人が目に入る。

「「「「はぁ・・・。」」」

落胆するクラスメート3人。

「これは、作戦を変更する必要があるようね。レイ、やってみて。」

シンジとレイが入れ替わる。アスカとレイの息はぴったりだった。途中から、わざとタ
イミングをずらそうとするアスカ。

チッ。シンジとレイが入れ替わられたら、たまらないわ。

テンポより少し早く動くアスカ。しかし、レイも即座に追いかけてくる。今度は、テン
ポより遅めに動いてみるが、レイもぴったりと合わせてくる。
文句無く完璧なユニゾンである。

ヘッドホンを投げつけるアスカ。

「アタシ! シンジとじゃなきゃ嫌だからね!」

「アスカさん!」

ヒカリは立ち上がり声をかけるが、アスカは家を飛び出して行った。

「いーーーかーーーりーーーくーーーんー! 追いかけて!」

コーラーを飲んでいたシンジが、何のこと? という表情で、ヒカリを見上げる。

「女の子泣かせたのよ! 責任とりなさいよ!」

シンジは、言われるがままアスカを追いかけて行った。

「アスカ・・・。」

一生懸命やったのに、なぜ自分ではいけないのか。寂しそうなレイが、シンジとアスカ
の出ていった方向を見つめていた。

アスカがエレベータで降りたので、シンジは階段で駆け下りる。1階に出ると、マンシ
ョンの玄関から走り出て行くアスカの後ろ姿が、ちらりと見えた。
追いかけるシンジの目の前を走るアスカは、近くのコンビニへ入って行った。

<コンビニ>

コンビニに入ると、ジュースが並んでいる大きな冷蔵庫の前で座っているアスカが目に
入る。シンジは、ゆっくり近づきアスカの後ろから、何と声をかけていいものか悩んで
いると、逆にアスカが背を向け座ったままで声をかけてくる。

「わかってるわ。アタシがシンジに合わせれないのが、いけないの・・・。」

「そんなこと無いよ。ぼくが不器用だから。ごめん。」

アスカが完璧なことくらいは、わかっている。シンジはアスカの背中に謝った。

<屋上>

コンビニで買い物が終わると、2人はミサトのマンションに帰る。

エレベータに乗ったアスカは、屋上のボタンを押した。エレベータはミサトの家の階を
通過し、屋上まで上がる。
風の強い屋上に、一つ置かれているベンチに腰を降ろすシンジと、その横に、サンドイ
ッチを頬張りながら立つアスカ。

「アタシも、シンジに合わせるから、アンタもがんばってね! レイやミサトを見返し
  てやるんだから!」

「見返すだなんて、そんな・・・。」

サンドイッチを開封し、パクつくアスカ。

「傷つけられた! プライドは! モグモグ。 10倍にして! モグモグ。 返すのよ!」

この時シンジは、サンドイッチを口から飛び散らかして叫ぶアスカが、もう少し好きに
なれそうだった。

でも、ぼくと綾波ってパターンは無いんだろうか?

<ミサトのマンション>

2人の訓練は続いた。シンジは上達し、アスカはシンジの呼吸に合わせることができる
ようになっていった。

決戦前日。

「シンジー、ミサトは?」

シャワーから上がり、バスタオルをまいたまま髪の毛を拭いていたアスカが、バスルー
ムから顔だけ出してシンジを見ている。

「今日は徹夜だって。」

明日の作戦の準備があるのだろう。2人が一緒に暮らすようになってから、初めて家に
帰らないようだ。
いつもは、シンジ,ミサト,アスカの順で川の字になって寝ているのだが、今日は、ミ
サトがいない。

布団に寝転ぶシンジ、その横にアスカがやってくると、自分の布団を隣の部屋へ運んだ。
怪訝に思うシンジは、ヘッドホンステレオのイヤホンを耳から外し、アスカを見つめる。

パタン。

布団を運び終わると、襖を閉めるアスカ。

「アスカ? 何してるの?」

アスカはシンジの前に、タンクトップに短パンという姿で立っている。

「2人でなら、1つの布団でも寝れそうだから。」

言うが早いか、シンジの布団に入ってくる。

「うわーーーーーー!!!!」

シンジは飛び起きる。

「明日は決戦なんだから、ちょっとでもユニゾンを完璧にしないといけないのよ。早く
  寝ましょう。」

「だ、だ、だ、だ・・・だからって、一緒に寝なくてもいいじゃないか!!!」

「そう、これで明日の作戦が失敗したら、シンジの責任ね。アタシはぎりぎりまで、ユ
  ニゾンを完璧にしようと努力しようとしたのに、シンジが怠けましたって報告するわ。」

「そんなぁ。」

アスカの明快な頭脳が考えるへ理屈に、シンジがかなうはずがない。

「わかったら、早く寝ましょ。」

しぶしぶ、シンジは布団に入った。アスカがぴったりと寄ってくる。

「そんなに、くっつかないでよ。」

「作戦の為よ。」

「・・・・・・・。」

綾波・・・これは作戦の為なんだ。邪心は無いんだ。ごめん。

顔を赤らめながら、頭の中で必死に言い訳をするシンジであった。

                        :
                        :
                        :

夜中。

アスカは、まだ、寝付けなかった。シンジは既に熟睡している。

横にシンジがいる・・・。

アスカは、暗闇で見えない顔を真っ赤にしていた。

シンジに寄り添って寝ている・・・。
シンジのぬくもりが伝わってくる・・・。
シンジの寝息が聞こえてくる・・・。

明日は、決戦である。寝不足などとんでもない。わかってはいるのだが、興奮して眠る
ことができないアスカ。

                        :
                        :

モソッ。

寝ぼけ眼で、シンジが突然立ち上がる。

ヒッ!

シンジの顔をずーーーっと見ていたアスカは、寝たふりをした。

とたとたと歩いていくシンジ。トイレの電気が部屋をかすかに明るくする。

ジャーーー。

トイレを流す音がする。薄目を開けて、明かりのついている方を見ると、シンジが戻っ
てきた。再び目を閉じ、寝たふりをする。

ドサ。

アスカに覆いかぶさるように寝るシンジ。

ドキドキドキドキドキ。

シンジに抱き着かれた!!

下敷きになったという方が正確だが、アスカはそう思っていない。目を開けると、そこ
にはシンジの顔のアップがあった。

ボッ。

顔から火が出そうなアスカ。シンジの唇に目が行く。

チャンスよね・・・。これは・・・。

顔を近づけるアスカ。シンジの顔が近づいてくる。

                        :
                        :

「シンジ!?」

「ん?」

声をかけられ、なにごとかと目をこする。

「ちょっと! シンジ! 上に乗らないでよ! 重いじゃない!!!」

アスカの怒声に目が覚めるシンジ。

「わーーーーーーーーー! ご、ごめん!」

シンジは飛び退くと、布団の端で小さくなってアスカに背を向ける。しばらくすると、
再びシンジの寝息が聞こえてきた。
シンジの背中にアスカが寄り添う。

やっぱり、最初はシンジからしてもらいたいからね。

<決戦場>

「最初から全開で行くわよ!」

「わかってる。62秒でけりをつける。」

ケージで待機するシンジとアスカが、お互いに確認する。

「エヴァ、初号機,弐号機発進!」

ミサトの号令と共に、打ち出される初号機と弐号機。外に打ち出されると、アンビリカ
ルケーブルを付けずに全力で動く2体。ユニゾンは完璧だった。予定通りに作戦が進む。
普段はどんくさいシンジだが、エヴァに乗ると見違えるように体が動く。

さすがは、シンジね。

アスカは、遅れそうになりながらも、必死でシンジに付いていく。

「今だ!」

シンジの掛け声と共に、2体のエヴァは飛び上がり、イスラフェルのコア2点を同時攻
撃する。エヴァの足がコアに突き刺さり、イスラフェルは、山まで押し返されると爆発
炎上した。

司令室のモニタは、爆炎で状況がわからない。

「映像回復します。」

爆炎が消えると、そこには2体のエヴァが折り重なるように倒れていた。最後の最後に
タイミングを外したのだ。

プルルルルルルルルル。

エヴァの外部に取り付けられた電話に、アスカから呼び出しがかかる。

「そんなに動けるんだったら、ユニゾンの訓練の時からしっかりしてよ! 付いていけ
  なかったじゃない!」

「ごめん。」

「でも、さすがはシンジね。今日の晩御飯、ハンバーグで許してあげる。」

「うん。」

<ネルフ本部>

作戦終了後、シンジとアスカは司令室に来ていた。

「これで、もう一緒に暮らす必要はないのね。」

レイが、アスカに話し掛ける。

「それがねぇ、前のアスカの住んでたところ、新しい職員が入ってしまって、空きが無
  くなったのよ。しばらく一緒に住んでもらうわ。」

仕方ないからという顔つきで説明するが、元々2人を一緒に暮らさせることの方が、加
持とミサトが立てた作戦の一番の目的だった。

「じゃぁ、私の所にくるといいわ。」

「いぃぃぃぃぃぃぃぃぃ・・・。」

悲鳴を上げ、懇願するような目でミサトを見るアスカ。

「それも、いいかもねぇ。」

ミサトの意地の悪いセリフに、青ざめるアスカ。

「なんなら、ぼくが綾波の・・・」

「あなた、用済みよ。こなくていいわ。」

シンジが言いおわる前に、レイに否定される。かわいそうに、シンジは、がっくりと頭
を垂らしてしまう。

「ま、そのことは、おいおい考えるとして、当分は、今のままで行きましょう。じゃ、
  解散していいわ。」

ややこしくなる前に、ミサトが無理矢理話を終わらせた。

「帰りましょ。アタシ達の家に。」

笑みを浮かべるアスカは、シンジの手を引いて退室して行く。シンジが、後ろを振り替
えりレイのことを見ると、自分を見つめているレイと視線が合った。赤くなるシンジ。
しかし、レイは憎しみを込めてシンジを睨んでいるのだった。

To Be Continued.
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