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ΔLoveForce
Episode 05 -昇進パーティー-
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<ミサトのマンション>

「ねぇ、シンジぃ、ちょっと着替え手伝ってぇー。」

アスカは、ただいま着替えの真っ最中。しかし、背中のジッパーに手が届かない。

ガシャ。

「あーーーー! アンタ達何やってんのよ!」

シンジが帰ってきた音がしたのに、返事が無いので、アコーディオンカーテンを開けて
みると、3バカトリオが揃い踏みしていた。

「何って、雨宿り。」

頭をタオルで拭きながら、シンジが答える。

「アタシ目当てなんじゃないのぉ? 今から着替えるんだがから、見たら殺すわよ!」

「誰がお前の着替え、見たいっちゅーんじゃ!」

「自意識過剰!」

タオルを握り締めて怒るトウジと、こめかみに青筋を浮かべて怒るケンスケ。

「シンジぃ、早く来てよー。 ジッパーに手が届かないのよ。」

「はいはい・・・。」

しょうがないなぁという感じで、アスカの着替えている部屋に、入って行くシンジ。

「なんでシンジばっかり、ええ思いするんじゃ!」

「裏切り者!」

タオルを握り締めて怒るトウジと、こめかみに青筋を浮かべて怒るケンスケ。

「あーん、ブラのホック外さないでよ。」

「ごめん、当たっちゃったんだ。」

「早く、止めてよ。」

「ちょっと、まってよ。」

ガチャ。

ビクッ。

アコーディオンカーテンを、鼻の下を伸ばして見ていた2人は、ミサトの登場に驚いて
背筋を伸ばす。

「あら、いらっしゃい。」

「はい、おじゃましてます。あ?」

挨拶をした後、ミサトの襟章を注意深く見るケンスケ。

「この度は、御昇進おめでとうございます!」

「おめでとうございます!」

襟章を見ていたケンスケがお辞儀をし、続いてトウジもお辞儀をした。

「ありがと。シンちゃーーーん! 行ってくるから、アスカといちゃついてばかりいて、
  今夜のハーモニクステスト遅れちゃダメよ!」

「ブッ!」

「わー、きったなーーい!」

ミサトの言葉に、吹き出してしまうシンジ。唾がアスカにかかったようだ。

ガシャ。

アコーディオンカーテンを開けて、シンジが顔を出す。

「いってらっしゃい。それから、ミサトさん。」

「何?」

「綾波に変なこと言わないで下さいよ。」

「わかってるって。」

ミサトは、ネルフへと出勤して行った。一方アスカは、アコーディオンカーテンの後ろ
で、膨れていた。

なんで、レイの名前が出てくるのよ!

「ところで、ミサトさんがどうかしたの?」

いってらっしゃいと、そろって手を振るトウジとケンスケに、さっきの言葉の意味を聞く。

「襟章だよ、襟章。線が2本になってる。一尉から三佐に昇進したんだ。」

横で腕を組みトウジも肯いている。

「へー、そうなんだ。しらなかった。」

「ふーーん。」

トウジとケンスケは、一緒に住む保護者の昇進も知らない2人に呆れ返る。人の心がわ
からない奴らとまで言われるシンジとアスカ。

<ネルフ本部>

「よくやったわ、シンジくん。」

ハーモニクステスト後、司令室に集合した3人を前に、リツコが結果報告をする。

「何がですか?」

「ハーモニクス値が8も伸びてるわ。」

「10日で8よ、たいしたものじゃない! この調子で行ったらアタシを抜くのだって、
  すぐよ。がんばんなさいよ!」

シンジはあまりうれしそうにないが、アスカは心底嬉しそうに激励する。

「はは、そうだといいね・・・。」

「実際アンタが一番エヴァの操縦上手いんだから、みんなを守って貰わないとね。」

本当は、「自分を・・・」といいたいアスカだが、”みんなを”と一歩引く。

「そうだね。ぼくが上手くなったら、綾波も守れるし・・・。」

「碇くんに、守ってもらう必要は無いわ。」

「・・・・・そ、そうだね。同じチルドレンだもんね・・・ハ、ハハハ。」

頭をポリポリとかくシンジの横で、ムーーーーーっと膨れるアスカ。

「アタシ先に帰る!」

アスカは、膨れっ面のまま、独りで帰って行った。

<ミサトの車の中>

昇進パーティーがある為、仕事を切り上げたミサトは、シンジを乗せて家路を急ぐ。

「シンちゃん、いくらなんでも、さっきのはまずいわ。」

「何がですか?」

「アスカよ。」

「そういえば、なんか急に怒りだしましたね。・・・・・・どうして怒ったんだろ?」

「レイの顔色ばかり伺うからよ。もうちょっと、アスカの事も考えてあげないと。」

「アスカの・・・ですか・・・。」

車は闇の中を走り抜けて行く。家に着くまでの間、レイのこと、アスカのこと、そして、
自分のことを考えるシンジだった。

<ミサトのマンション>

「御昇進おめでとうございまーす。」

ミサトの昇進パーティーが始まった。ミサトを始めとして、シンジ,アスカ,レイ,ト
ウジ,ケンスケ,ヒカリの総勢7名での開始だった。この後、遅れて加持とリツコが途
中参加する予定である。

「何で委員長がここにおんねや?」

「アタシが呼んだのよ。」

「「ねぇ〜」」。

最後だけ口をそろえてハモらせるアスカとヒカリ。みんなが楽しそうに騒ぐ中、シンジ
だけは、自分の居るべき場所を見つけられずに、目を泳がせていた。

「まだ、苦手なの? こういうの。」

シンジの様子を察して、ミサトが小声で話し掛けてくる。

「いえ、ただ馴れなくて・・・。でも、今日は綾波がいるから嬉しいな。」

「そう。よかったわね。」

シンジには、そう言答えたものの、深刻な顔でアスカの方を見てしまう。

「アンタ、さっきから全然食べてないじゃない。せっかくのパーティーなんだから、ど
  んどん食べなさいよ。」

「私、肉嫌いだから・・・。」

「えーー、肉が嫌いなの? 変わってるわねぇー。でも、どうしてもっと早くに言っと
  かないのよ。」

テーブルの上を見渡すが、肉系とスナック系の物がほとんどである。

「ちょっと待ってなさい。」

台所へと歩いていくアスカの姿を、レイは目で追う。

ピンポーーーン。

「あ、加持さんかな?」

シンジが一番に反応し、タッタッタという足音と共に、玄関に走って行く。

「いらっしゃい、加持さん。リツコさんも一緒ですか。」

玄関のドアを開けると、予想していた2人が並んで立っていた。

「この度は、御昇進おめでとうございます、葛城三佐。いやぁ、これからはタメ口聞け
  なくなるな。」

わざとらしく、深々とお辞儀をする加持。

「何言ってんのよ、バーカ。そんなわけないでしょ。」

「司令と副司令が揃って日本を離れるなんてことは、前例の無いことだ。これも留守を
  預けた葛城を信頼してるってことさ。」

スルメをかじりながら、ミサトはまともに相手にせず、自分の隣に座布団を置く。その
上にどっかりと座る加持。

参加メンバーが全て揃い、パーティーも盛り上がって行った。

「ほらぁレイ、これでも食べときなさい。」

台所から戻ってきたアスカの手には、ワカメ,お揚げなどの具沢山な、うどんが持たれ
ていた。そのうどんの鉢をレイの前にどっかと置く。

「わ、私の為に? あ、ありがとう・・・。」

驚きと喜びで、レイの目は丸くなる。

「だって、食べる物無いんでしょ。せっかくのパーティだもんね。楽しまなくちゃ。」

「ありがとう。」

うどんを渡し終わると、レイの横に座るアスカ。お祭り好きのアスカである。みんなと
喋って騒ぎまくっていたが、ふと、自分のコップを見るとジュースが無くなっている。
手を伸ばしてジュースのペットボトルを取ろうとするが、その横から先にペットボトル
を取っていく手があった。

「綾波、ジュース入れてあげるよ。」

ジュースをレイのコップに注ぐシンジ。コップがジュースで満たされると、続いて自分
のコップにもジュースを入れ、元の位置にペットボトルを戻した。

「・・・・・・。」

空の自分のコップを見つめるアスカ。ふと、シンジの方を見ると、シンジはレイの方ば
かりを見ている。

空のコップを見つめるアスカ。

「アスカ? ジュースがもう無いじゃない。」

見つめていたコップにヒカリがジュースを満たす。

「ありがとう・・・。」

満たされた自分のコップを手に取り、一口飲む。

大丈夫よ・・・。レイはシンジのことが好きなわけじゃない。所詮はシンジの片思い。

もう一口、ジュースを飲む。

・・・・・・・・・・・・。

ジュースを飲む。

どうして、そんなこと考えるの?

ジュースを飲む。

違うわよ、そうじゃない!

ジュースを飲む。

レイに振られるシンジを待つんじゃないわ。アタシにシンジを振り向かせるのよ!

ジュースが空になる。

「シンジ! ジュースついでくれない?」

「え? あー、うん、いいよ。」

丁寧にジュースを注ぐシンジ。

攻めて、攻めて、攻め抜くのよ! それが、惣流・アスカ・ラングレーの生き方なんだ
から!

シンジに入れてもらったジュースを、一気に飲み干し立ち上がるアスカ。

「さぁ、まだまだこれからよ!」

アスカの掛け声で盛り上がるパーティー。宴も酣であった。

                        :
                        :
                        :

「じゃ、散らかしっぱなしで悪いな。」

「いえ、いいんですよ。それじゃ、お気を付けて。」

「またな。」

最後まで残った加持も帰った。加持によって寝室に運ばれたミサトは既に夢の中。シン
ジとアスカの2人でパーティーの後片付けをする。

「アスカ、これもよろしく。」

食器を流しに運ぶシンジ。

「そっち置いといて。」

アスカが洗い物の係で、シンジが掃除の係だ。てきぱきと片付けていく。

「アスカ、これで最後。」

「かして。」

ジャーーーーー。

最後の洗い物を終わらせ、タオルで手を拭く。振り返ると、部屋は既に片付いており、
シンジは腰を落ち着けていた。

「アスカ、お茶入れたから、一緒に飲もうよ。」

シンジの横に座り、お茶をすする。

「ふぅ、思ったより早く片付いたわね。」

「2人でやったからね。」

「ねぇ、シンジ、ちょっと話があるんだけど。」

「ぼくもあるんだ・・・。」

「じゃ、シンジからでいいわよ。」

言い出しにくそうなシンジを、根気強く待つアスカ。

「あ、あのさ。こんな事聞いたらダメなのかも知れないけど、ぼくのことどう思ってる
  の?」

「え!?」

直球ストレートで核心を突かれ、さすがにあわてる。

「わ、わかってるでしょ。好きに決まってるじゃない。」

「ありがとう・・・。でも、前にも言ったけど、ぼくは綾波のことが好きなんだ。今も
  変わってない。」

「知ってるわ。でも、いいの、それでもアタシは諦めないから。」

「まだ、綾波はぼくに振り向いてはくれない。でも、未練を残したままで、アスカの気
  持ちに答えたくないんだ。そういうの、よくないと思う・・・から・・・。」

「当然よ! そんなことしたら死刑よ!」

「うん、ごめん。」

「謝らないでよ。まだ、終わったわけじゃないんだから。アンタと同じようにアタシも
  諦めてないんだからね!」

「ハハハ。似た者同士だね。」

シンジの言葉に呆れ返るアスカ。

「よく言うわねぇ〜。 誰のせいだと思ってるのよ!」

「ごめん。」

「だから、謝んないでよ。振られたみたいじゃない。」

「ハハ・・・そうだね。じゃ、もう遅いし、寝ようか。」

「うん!」

湯飲みを流し台に置いて、2人はそれぞれの部屋に入って行った。2つの湯のみは、触
れ合いそうで触れ合わない距離を保ちつつ、朝まで寄り添っていた。

<ネルフ本部>

「手で、受け止める−?」

成層圏からの使徒の来襲。サハクィエルは、自分自身を爆弾と化してネルフ本部に落下
しようとしていた。

「この作戦は、それしか方法が無いの。」

「これが、作戦と言えるの!!!!?」

「言えないわね。だから、辞退することもできるわ。」

しかし、辞退などできるわけもなく、ステーキをおごってもらえるという約束と引き換
えに、エヴァに乗ることを決める3人。

「でも、ステーキじゃ、レイがこれないわねぇ。」

「どうして?」

アスカの意外な一言に、聞き返すシンジ。

「私、肉嫌いだから。」

「セカンドインパクト世代は、安直にごちそうと言えばステーキに決まりみたいだけど、
  他の物を考えましょ。」

そう言うと、どこに隠し持っていたのか、グルメガイドを取り出すアスカ。

「ど・こ・に・し・よ・お・か・な〜。」

<ケージ>

エントリープラグ搭乗位置に向うエレベータに3人は乗っていた。

「アスカは何の為にエヴァに乗ってるの?」

「そんなの決まってるじゃない。自分の才能を世に示す為よ。」

「自分の存在を?」

「ま、似たような物ね。レイには聞かないの?」

「前に聞いたんだ。」

「ふーーん。シンジはどうなのよ。」

「わからない。」

「わからないって、アンタ・・・。」

ガタン。

エレベータが止まる。話を中断し、それぞれのエヴァへ走って行く。

<地上>

第3新東京市を三角形で囲む形で、3体のエヴァは配置された。どこに落下してくるか
わからない大質量の使徒を直接手で受け止めるのだ。誰が見ても成功するとは思えない
今回の作戦の成功確率0.00001%。

レイは緊張し、アスカは顔には出さないまでも不安だった。そしてシンジは、意識を集
中していた。

「距離25000。」

日向がミサトに報告する。

「おいでなすったわあね。弾道計算は光学観測でしかできないわ。距離10000まで
  はMAGIがサポートするから、後は各自の判断で動いて。あなた達に全てまかせる
  わ。」

ミサトの作戦開始の合図を聞き、ゆっくりと目を開けるシンジ。

「行くよ。」

肯くアスカとレイ。

「用意! スタート!」

走り出す3体のエヴァ。山を飛び降り、高圧電線を飛び越えて行く。

「まだ、アタシ達の決着は着いてないのよ。こんなところで終わらしてたまるもんです
  か!」

目標に向ってアスカは走る。

「フィールド全開!!」

他の2体と比べ物にならない速度で、走り抜いた初号機は、唯一サハクィエルより早く、
落下地点に到着した。フィールド全開でサハクィエルを食い止めるが、あまりの質量に
足は地にめり込み手や足が破損する。

必死で目的地に向うアスカだが、シンジほどの速度が出せない。焦るアスカ。

「アスカ! フィールド全開!」

レイも全力で目的地に向かい、ようやく到着。アスカも同時に到着する。

「やってるわよ!」

レイも初号機に加勢し、ATフィールド全開で落下を食い止める。

「今よ!」

「うりゃーーーーーーーーー!!!」

ATフィールドを中和しつつ、コアをプログナイフで突き刺すアスカ。

ドッカーーーーーーーーーーン。

サハクィエルは3体のエヴァに覆い被さるように爆発した。爆発の煙幕が辺り一帯から
消えた後には、初号機,零号機そして、ボロボロになった弐号機が現れる。サハクィエ
ルを攻撃する時に、ATフィールドを中和した為、自分を守る為に展開する、ATフィ
ールドが遅れたのだ。

「アスカ!!!」

弐号機のエントリープラグを引き抜いた後、走り寄るシンジ。

「アスカ!」

ハッチをこじ開け、覗き込む。

「シンジ・・・・、ごめん、しくじった。」

衝撃の為、体中が痛そうだが、大きな怪我はしてないようだ。

「立てる?」

シンジが差し出した手に捕まって立つアスカ。後からレイも駆けつけてくる。
上空からは、ネルフのヘリコプターが降りてきた。

「アスカ、大丈夫?」

「大丈夫よ。レイ。」

シンジの背中に担がれながら、レイに微笑み掛けるアスカ。シンジは、わき目も振らず
真剣な表情でアスカをヘリコプターに運ぶ。その少し後ろから、レイが付いて行く。

「初めてだね。アタシだけを見てくれたの。」

耳元でシンジに話し掛けるアスカ。

「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!!」

シンジは少し怒ったようだが、日本に来てから、いや、生まれてから最高の幸せを、シ
ンジの背中の温もりから感じていた。

<ネルフ本部>

アスカは簡単な治療程度で済み、3人揃って司令室に立つことができた。ミサトが、笑
顔で3人を迎える。

「司令から通信が入っています。」

ミサトが冬月とゲンドウに状況説明をする。

「初号機のパイロットはいるか?」

ゲンドウがシンジを呼ぶ。

「はい。」

「よくやったな、シンジ。」

「はい。」

ゲンドウからの意外な言葉に、シンジはうろたえるが、その言葉はシンジの最も欲して
いた言葉だった。

<ラーメンの屋台>

「ミサトの財布の中身くらいわかってるわよ。レイもここなら大丈夫だって言うし。」

とてつもなく高い物をたかられると思っていたミサトが、屋台の前で立ち尽くす。レイ
とアスカは、おかまいなく屋台の椅子に座る。

「フカヒレチャーシュー大盛り!」

アスカが注文する。

「チャーシューラーメンにんにく抜き。」

レイも注文する。

シンジ,ミサトも続いて注文し、出来上がりを待つ。

「ミサトさん。父さんに誉められて、人に誉められることが嬉しいことだって、初めて
  解った気がします。ぼくは、父さんのあの言葉が聞きたくてエヴァに乗っているのか
  も知れない。」

シンジも、アタシと一緒で家族愛に飢えてるんだ・・・。

シンジの言葉を聞き、心が痛くなるアスカ。

「へい! お待ち!」

ラーメンが4つそれぞれの前に置かれる。

「な、何? 何なのこれは・・・・!」

レイは自分の前に出てきたラーメンを、真っ青になりながら茫然自失で眺めていた。

To Be Continued.
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