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ΔLoveForce
Episode 07 -恋の駆け引き-
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<レイの団地>

レイは、傘の下で寄り添って歩く2人を、窓から見つめていた。
あれは、自分の傘。でも、アスカの隣にいるのはシンジ。

アスカ・・・。

アスカが見えなくなると、暗い部屋で独りベッドに横たわる。

このままではダメ。

寝返りをうち、うつ伏せになる。

どうして・・・ダメなの? 何がいけないの?

目を閉じて考える。

どうすれば・・・。

独り部屋で考える。

                        ●

翌朝、シンジとアスカは学校へ行く途中、昨日借りた傘を持ち、レイの家に寄った。

トントン。

インターホンが壊れているので、扉を叩く。

「綾波ー。」

返事は無い。もう一度叩く。

トントン。

それでも、返事は無い。

どうしたんだろう? もう、学校へ行っちゃったのかな?

「綾波、入るよ。」

いつも鍵のかかっていない、レイの家の扉を開ける。

「あ! 綾波いたんだ。ごめん、勝手に開けて。」

扉の向こうには、靴を履こうとしているレイの姿があった。

「どうしたの?」

「傘を返しに来たんだ。昨日はありがとう。おかげで濡れずに済んだよ。」

傘を手渡す。アスカは後ろで、腕を組み傍観していた。

「いいわ、たいしたことじゃないから。」

レイは、受け取った傘を、傘立てにさす。

「一緒に行こうよ。」

傘立ての方に向いたまま、シンジに背を向ける格好で立っていたが、一呼吸の時間を置
いてクルリと振り返った。

「そうね、行きましょ。碇くん。」

とびっきりの笑顔でシンジの手を取るレイ。

「えっ!?」

今まで、自分に対してかけられたことの無い言葉、見せてくれたことの無いとびっきり
の笑顔、シンジは言葉にならない。

「何してるの? 碇くん、早く行きましょ。」

シンジの手を引く。

「う、うん。そうだね・・・。」

突然のレイの行動に、シンジは戸惑うが、手を引かれながら嬉しそうに歩き出した。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

予想外の事の成り行きに、目を丸くして見ていたアスカだったが、あわてて追いかける。

ア、アタシがシンジに冷たくするなって言ったから?
いくらなんでも、そこまでしなくてもいいのに! もぅ!

シンジからレイをひっぱがそうと駆け寄る・・・・・が。

「!!」

近寄ると、仲良く手を繋ぎ、嬉しそうなシンジの顔が目に入る。
シンジの気持ちは知っている。自分が彼女というわけでもないし、シンジもそう言って
いる。
レイの気持ちも知っている。しかし、自分はレイの気持ちには答えていない。

引き離す理由が何一つ見つからないアスカ。ここで、レイを引き離したら、自分が惨め
なだけ。

「・・・・・・・・。」

楽しそうに会話する2人の背中を見つめながら、アスカは学校まで一言も喋らなかった。
いや、喋れなかった。

<学校>

学校に着いても、シンジとレイは仲良く話をしていた。アスカの割り込む隙が無いほど
に。

どうなってるのよ。どうして急にあんなに仲良くなるのよ!
いくらなんでも、やりすぎよ! レイ!

1時間目の授業、今日も聞く気になれない。

イライライライラ。

何がどうなっているのかわからないアスカは、苛立っていた。授業が長く感じる。

なんだって、あんなにべったりするのよ!
レイは何考えてるのよ!
シンジもシンジよ! アタシの気持ち知ってる癖に、あんなに見せ付けなくてもいいじ
ゃない!

そして休み時間。アスカは真っ先にレイの元へ走る。

「レイ、ちょっと話があるから、来てくれない?」

レイは、一瞬笑顔を見せたが、すぐに元の無表情に戻る。

「何?」

「いいから、来て!」

アスカは教室からレイを連れ出し、人気の少ない廊下まで引っ張って行った。

「ここら辺りで、いいかしらね。」

周りをきょろきょろ見回し、他に人がいないことを確認する。

「ところで、レイ。ちょっと、やりすぎなんじゃない?」

「どうしたの?」

「確かに、シンジに冷たくしないでって言ったけどねぇ。別にあそこまでしなくてもい
  いのよ!?」

「どうして?」

「どうしてって・・・、そ、その・・・、変に期待させたら、逆にシンジが可哀相じゃ
  ないの!」

「碇くんに変な期待なんて持たせてないわ。」

「アンタがそう思ってても、シンジは絶対期待してるわよ! 今朝のシンジ、ものすご
  く・・・その・・・うれ、嬉しそうだった・・じゃない。」

あまり口に出して言いたくない。

「私、アスカが振り向いてくれないから、碇くんのことも考えてみようかと思ってるの。」

「!!!!!」

予想していた言葉、でも、心の中で必死に否定していた言葉。その言葉が、アスカの耳
に飛び込む。体が凍りついて、動かない。

「な、な・・・・・・・・ア・・・アンタ・・・・。」

レイを指差しながら、震えるアスカ。

「アンタ、アタシのことが好きって言ったじゃない! ど、ど、どういうことよ!」

「でも、アスカは碇くんばかり・・・。私のことなんか見向きもしてくれない。」

「そ、そんなこと無いわよ!」

キーンコーンカーンコーン。

「授業が始まるわ。」

レイは、教室に戻って行ってしまった。

そんな・・・。シンジ・・・。

教室へ戻る気になれない。アスカは、とぼとぼと体育館裏に向って歩く。

どうしよう・・・。

今まで、自分の気持ちを伝えても、誘惑しても、揺るがなかったシンジの想い。
それでも、レイが振り向くことなどありえないと安心していた。そんな保証など、どこ
にも無いのに・・・。
いずれ、シンジは自分に振り向いてくれると確信していた。

どうしよう・・・。

根底から崩れるアスカの自信。

このままじゃ、絶対に勝てない・・・。

レイがシンジに振り向けば、相思相愛。全く問題の無いカップル成立。
今朝見た、シンジの嬉しそうな笑顔が、腹立たしい。

なによ! なによ! なによ! あの女! アタシのことを好きだと言った癖に!

『私、アスカが振り向いてくれないから、碇くんのことも考えてみようかと思ってるの。』

何が、振り向いてくれないからよ!!!

『私、アスカが振り向いてくれないから、碇くんのことも考えてみようかと思ってるの。』

ん?

『アスカが振り向いてくれないから』

そ、そうだわ! 引き離すんじゃなくて、レイの想いを、またアタシに向ければいいの
よ!

もたもたしていると、事態はどんどん深刻になって行くばかりだ。今は、少しでもシン
ジとレイの接触を阻止しなければならない。

「行くわよ! アスカ!」

アスカは、走って教室に戻った。

そして、昼休み。

「レイーーーー! 一緒にお弁当食べましょ!」

いつもなら、シンジの所に駆け寄るアスカだが、今日はレイの元へ一直線。

「ええ。でも、パンを買ってこないといけないから。」

「じゃ、一緒に買いに行きましょ。」

レイの手を強引に引っ張り、そそくさと廊下に出る。

あ、綾波・・・。

シンジは、レイと一緒に弁当を食べる用意をしていた。しかし、用意している間に、レ
イをアスカが連れ出してしまったので、今日はケンスケと2人で食べることになってし
まった。

パンを買う列に並ぶアスカとレイ。

「ねぇ、お弁当を半分あげるからさ、パンも半分こしない?」

「本当? いいの?」

「いいわよ! アタシとレイの仲じゃない!」

アスカに両手で自分の手を握りしめられ、レイの顔がほのかに赤くなる。

「ありがとう。」

ようやく順番が回ってきた。食べるパンを仲良く選ぶ2人。

「ねぇ、レイってどんなのいつも買ってるの?」

「サンドイッチが多いわ。」

「そうよねぇ栄養を考えるとねぇ。でも、今日はお弁当もあるんだから、もうちょっと
  甘いのにしない?」

「ええ、いいわ。」

「このクリームパンなんてどう?」

クリームパンを手にして、レイに見せる。

「アスカはそれがいいの?」

「何いってるのよ。買ったパンは2人で食べるんじゃない。レイも食べるのよ。」

「2人で・・・そうね。」

クリームパンとサンドイッチを手にし、アスカに手を繋がれ、教室に入ってきたレイの
顔は幸せ一杯だった。

「さっ食べましょ!」

パンを半分に千切り、弁当も半分に分ける。

「今日は、アタシが作ったから、おいしくないかもしれないけど、我慢してね。」

「そんなことない。」

即座に否定するレイ。

「アハハハハ、そう言ってくれるといいけどね。さっ、早く食べましょ。」

ワイワイ話をしながら、仲良く弁当を食べる2人。

いいな・・・アスカ。

シンジは、ケンスケと一緒に弁当を食べている間中、ちらちらとレイの方を気にしてい
た。

そして、放課後。

「レイーーーー、一緒に帰りましょ。」

「ええ。」

終業のチャイムとほぼ同時に、アスカはレイの手を引いて、そそくさと教室を出て行っ
てしまった。

あ、綾波・・・。

レイと一緒に帰ろうと思い、帰り支度をしていたシンジは、声もかけられず取り残され
る。

「よーー、シンジ。たまには、ワイらと一緒に帰ろうや。」

「う、うん。そうだね・・・。」

トウジは帰る用意ができていたが、ケンスケがまだだった。
ケンスケが帰る用意をしている間、がっかりとして、窓の外を見つめるシンジ。

あ! 綾波!

校舎の下を歩くレイに目が行く。そこには、手を繋いで楽しそうに会話しているアスカ
とレイが見えた。

「ねぇねぇ、パフェ食べに行かない?」

「いいの?」

「もちろんよ! 今日はアタシのおごりでいいわよ。さっ行きましょ。」

レイの手を引っ張り、そそくさと学校から離れるアスカ。
引っ張られるレイの顔は、幸せいっぱいといった感じだ。

「もうちょっと先に、アタシの好きな店があるのよ。そこでいいわよね。」

「ええ。」

<喫茶店>

アスカの言っていたお店は、小さいがお洒落な喫茶店だった。女の子受けする食べ物が
多数揃えられており、雰囲気もかわいい感じだ。

「うわっ、座れるかしら?」

店に近づくと、店内が満員状態なのがわかる。女の子ばっかりが、ぎっしり寿司詰め状
態だ。

シンジを連れてこれないわね・・・ここは。

店に近付くと、女子高生らしい3人のグループが店内に入ろうとしているのが見えた。

「まずい!」

アスカは、レイの手を引っ張り走り出す。

「きゃっ!」

突然走り出したので、こけそうになるレイ。

「早く! 席が取られるわ!」

3人の女子高生のグループが、喫茶店の扉を開けた瞬間、走ってきたアスカが先に割っ
て入る。

「ごくろう!」

アスカは、扉を開けてくれた女子高生にお礼を言って、どうどうと店内に入って行き、
最後の空席をGET!

「な、なに、あの子ーーー。」

しばらく唖然としていた女子高生3人グループだったが、ようやく我に返り、怒り出し
てしまった。

「ちょっと! 出て来なさいよ!」

あーーあ、怒っちゃった。やーねー、心が狭くって。
ん?
こ、この展開は・・・。チャーーーーンス!!

にたーーーーーーーと、含み笑いを浮かべるアスカ。

「アスカ、やっぱり怒ってるわ。出ましょ。」

「いいのよ。先に座ったのはアタシ達なんだから。」

「アスカがそういうなら・・・。私もそれでいいわ。」

そこへ、ズカズカと女子高生3人グループが寄ってくる。

「中学生の癖に、何生意気なことやってんのよ! さっさと出て来なさいよ!」

レイの襟首を掴む1人の女子高生。店内の客の視線が、一斉にレイに注がれる。
ムッっとするレイと、願ったり叶ったりのアスカ。

「あなた・・・・。」

レイは何か喋ろうとしが、アスカの言葉に中断される。

「アタシの親友に何するのよ!!!!」

ガタンと椅子を倒して、レイから女子高生をひっぱがすと、外へ連れ出した。

「アスカ!」

後を追うレイ。

アスカは、レイが出て来たことを確認した後で、ビシっと女子高生を指して大きな声で
叫んだ。

「よくも、アタシの親友に汚い指を触れたわね! 絶対に許さないわよ!」

そして、乱闘・・・とまではいかず、あっけなく敗退する女子高生3人グループ。訓練
を受けているアスカに、民間の女子高生が勝てるわけがない。それでも、相手がレイで
なくて良かったと言うべきだ。

「フン! アタシのレイに手を触れた罰よ!」

ちらちらと、レイの反応を伺いながら、再びアスカは、大きな声で叫ぶ。
そんな様子を見ていたレイは、天にも登る気持ちだった。

『アタシのレイ』
『アタシのレイ』
『アタシのレイ』
『アタシのレイ』

レイの頭の中で、リフレーンするアスカのセリフ。

「ありがとう、アスカ。」

ぺこぺこと頭を下げるレイ。

「いいのよ。アタシ達の仲じゃない。」

2人が、再び店内に入ると、一斉に他の客が視線をそらした。触らぬ神に祟り無し。
アスカは気にせず、元の席に座る。

「さっ、気を取り直して、パフェ食べましょ。ど・れ・に・し・よ・お・か・なー?」

「私は、アスカと一緒のでいいわ。」

さっきから顔を赤くしているレイは、モジモジしながら小声で答える。

注文後、しばし・・・。

「おまちどうさま。」

やがて、2人の前にはフルーツが山盛りの、フルーツパフェが並んだ。

パクパク。

幸せそうな、アスカ。

「どう? おいしいでしょう?」

パクパク。

レイも夢中で食べている。

「初めて食べたわ。」

「アンタ、食べたこと無いの?」

「ええ。こういう店に来たこと無いから。」

「そう・・・。これからは、アタシがいろんな店、教えてあげるからね。」

「本当!? ありがとう。」

「いいのよ、アタシとレイの仲じゃない!」

レイは、今の時間が永遠に続けばいいと願っていた。
その後、おかわりを注文し、ワイワイと話をしながら、2時間ほどの楽しい一時を過ご
した。

<帰り道>

手を繋ぎ、帰る2人。

「ねぇ、楽しい?」

歩みを止めて、レイの前に立ちふさがり、顔を覗き込む。

「ええ、こんな気持ち初めて。」

「そっ。よかった・・・・。その・・・。あのさ・・・。」

「何?」

「シンジと一緒にいる時と、どっちが楽しい?」

神妙な顔で、レイを見つめる。アスカにとっては、今日の努力が報われたかどうかの判
決の一瞬なのだ。

「アスカ・・・の方が・・・いい。」

パーーーっと明るくなるアスカの顔。

やったわ!!! 成功よ!!!

「でしょ、でしょ。じゃ、これからも、また仲良くしてね!」

レイの手を両手で握り、小躍りするアスカ。

「ええ。」

そして、家路を分ける、分かれ道。

「じゃ、また、明日ね!」

「今日はありがとう。」

「いいのよ、そんなこと。じぇね!」

レイに向って大きく手を振る。レイも喜色満面の笑みで、小さく手を振って帰って行っ
た。

これで、元通りだわ! 後は、シンジを振り向かせるだけよ!!
・・・・・・・・。
はぁ・・・、それが、最大の悩みなのよねぇ・・・。
このアタシのどこに不満があるっていうのかしらねぇ。まったくぅ。
まぁ、いいわ! 最悪の事態は避けられたんだし!!
さすがは、アタシね。作戦勝ちだわ!

アスカは、スキップしながら、今日はあまり話ができなかった、愛するシンジに少しで
も早く会うべく、家路を急いだ。

<レイの家>

ベッドにうつ伏せに横たわり、今日のことを思い出すレイ。

今日は、楽しかった・・・。こんなに楽しいのって初めて。

いつもは無表情なレイだが、今日はどことなく、笑みが見える。

こんな幸せがずっと続かないかしら。
でも、ごめんなさいアスカ。嘘ついて・・・。

少し、辛そうな顔になる。

私のことを見てほしかったの。ああすれば、見てくれると思って・・・。

アスカの嫉妬心を駆り立てる為に、シンジをダシに使ったことをアスカに詫びるレイ。

アスカ、やさしくしてくれてありがとう。
本心から私を見てくれるまで、がんばるわ。

今回は、レイの作戦勝ちに終わった様だ。

<ミサトのマンション>

シンジは自分の部屋で、寝転んでいた。

あー、綾波と一緒に帰りたかったなぁ。アスカと2人で帰るなんて珍しいな。
何か用事でもあったのかなぁ?

今朝のことを思い出すと、顔がほころぶ。

今朝は、手を繋いで登校したんだもんな、夢のようだな。これは、大きな進歩だよな。
うれしいなぁ。明日は一緒に帰りたいなぁ。

今回の最大の被害者であるシンジも、幸せそうである。

3者3様ではあるが、今晩はみんな、幸せな夢が見れそうである。








<ネルフ本部>

そのころ、ネルフ本部B塔では、第87タンパク壁が増殖していた。しかし、そのこと
に気付く者は、この時点では誰もいなかった。

To Be Continued.
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