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ΔLoveForce
Episode 08 -服を探して-
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<レイの団地>

トントン。

「綾波、迎えに来たよ。」

シンジは、朝からご機嫌だ。いつもより早起きして、ほとんど手入れなどしない髪の毛
に、ブラッシングまでしていた。

トントン。

「綾波、いるんだろ? 開けるよ。」

扉を開けようとした時、中から返事が帰ってきた。

「今、行くから。」

ガチャ。

レイも朝からご機嫌なようだ。しかし、その笑顔はシンジの後ろにいるアスカに向けら
れている。

「さぁ、行きましょ!」

「ええ。」

シンジとレイの間に割って入ったアスカが、レイの手を引いて行く。

どうしたんだろう? 昨日からやけに仲がいいじゃないか・・・。

昼休み。

「シンジ! レイ! お弁当食べましょ!」

今日は、アスカの席の近くが空いているので、自分の席に2人を呼ぶ。

「そうだね。綾波、行こうか。」

「パン買ってくるから・・・。」

レイが教室から出て行こうとした時、アスカが呼び止める。

「いいのよ! 今日は、アンタの分も作ってきてるから。」

「え? 本当?」

嬉しそうなレイ。レイには、昨日から良いことばかりが続いている。

「もちろんよ。」

3人は、シンジ,アスカ,レイの順番で座り、仲良く弁当を食べ出す。シンジは、レイ
の横に座ろうとしたが、アスカが間に入ってきたのだ。

その後、何をするにつけても、シンジ,アスカ,レイの順番で並び、行動するようにな
った。昨日のことで懲りているアスカが、意地でもシンジとレイをくっつけようとしな
いのだ。
レイは常にアスカの隣に陣取ることができるので、満足だった。
アスカも2人がくっつかず、自分もシンジの隣にいることができるので問題無い。
しかし、シンジは・・・。

どうしてアスカは、いつも邪魔ばっかりするんだよ・・・。

口には出さないが、不満たらたらであった。

<ネルフ本部>

MAGIの診断中。今日のテストに間に合わせる為に、技術部は総力を上げていた。

「どう? MAGIの診察は終わった?」

ミサトが司令室に入ってくる。リツコは、端末に向かって仕事をしていた。

「だいだいね。約束通り今日のテストには、間に合わせたわよ。」

「さっすがリツコ、同じ物が3つもあって大変なのに。」

ミサトは少しお上手を言いながら、手元にあったコーヒーを飲む。

「冷めてるわよ。それ。」

「ブッ。」

コーヒーを吐き出すミサト。近くにあった書類が汚れる。

シンジ達がネルフに到着したころ、MAGIの診断も終わりテスト開始。クリーンルー
ムに入る為、シンジ達は何度もシャワーを浴びていた。

「えー、また脱ぐのー?」

やっと着た服を、また脱げという指示に、ぼやくアスカ。

「ここから先は、超クリーンルームですからね。シャワーを浴びて、下着を変えるだけ
  では済まないのよ。」

リツコが事情を説明するが、アスカの気はおさまらない。

「なんで、オートパイロットの実験で、こんなことしなきゃいけないのよ!」

ぶーぶーぼやきながらも、仕方が無いので服を脱ぐ。

「ほら、お望みの姿になったわよ。」

「では3人とも、この部屋を抜けてその姿のまま、エントリープラグに入ってちょうだ
  い。」

「えーーーーーーーーーーー!!!」

「大丈夫、映像モニタは切ってあるわ。」

「そういう問題じゃないでしょ!」

拳を握り締めて、徹底的に抗議するアスカだが、短気なミサトの最後通告が響く。

「アスカ命令よ!」

「もう、絶対見ないでよ!」

「映像が切ってあるっていっても、ぼく達には丸見えじゃないか・・・。」

3人が通る通路は、1本であった。今は、肩より下は衝立てが隠しているが、同時に歩
き出せば、隠す物は無い。

「シンジ、アンタ先に行きなさいよ!」

「どーしてだよ! 嫌だよ!」

「何? 何か期待してるわけ?」

ジト目で睨むアスカ。

「そんなことあるわけないだろ!」

「じゃ、アンタが順番決めてみなさいよ!」

アスカは内心、『アスカが先に行ったらいいじゃないか』と言ってくれることを期待し
ているのだが・・・。

「まず、綾波とぼくが・・・・・」

パーーーン!!!   ドカ!!!

その瞬間、シンジはアスカに蹴り出されていた。

「さっさと行け! このバカシンジ!!!!」

どたばたしながらも、3人はエントリープラグに入り、テストが開始される。

「気分はどう?」

リツコが通信回線を開く。

「何か違うわ。」
「うん、いつもと違う気がする。」
「感覚がおかしいのよ。右腕だけはっきりして、あとはぼやけた感じ・・。」

違和感を覚えながら、3人のテストは順調に進んでいた。

「また水漏れ?」

「いいえ、侵食だそうです。この上のタンパク壁。」

マヤがリツコに答える。

「まいったわね。テストに支障は?」

「いいえ、今のところは何も・・・。」

問題が無いということで、テストを続行しようとした瞬間、警報が鳴り響いた。

「キャーーーーーーーーー!!!」

「綾波!!!!」

レイの悲鳴を聞き、即座に反応するシンジ。

「全エントリープラグ緊急射出! 急いで!!」

3人を乗せたエントリープラグは、湖まで射出された。

<湖>

どうなったんだろう? 通信回線も使えないし・・・。綾波大丈夫かな?

さっきのレイの悲鳴が気になる。裸のままエントリープラグを抜け出し、レイの所まで
下手くそな泳ぎ方で泳ぐ。

コンコン。

「綾波、大丈夫? 開けるよ!」

「ええ。」

エントリープラグを開けると、そこには、裸のレイが座っていた。

「ブッ! ご、ごめん・・・。」

ハッチを開けるとどうなるか、あまり考えていなかったシンジは、顔を真っ赤にして、
あわててハッチを閉めようとする。

「中で待機しましょ。」

レイがシンジを招き入れる。

「え・いいの? ・・・う、うん・・・。」

罪悪感にとらわれながらも、”レイと裸で2人きり”という誘惑に負けて、エントリー
プラグに入る。しかし、直視する度胸も無く、あらぬ方向を向いた目は泳いでいる。

「さっき、悲鳴が聞こえたけど、なんともないの?」

「ええ。もう大丈夫よ。」

会話が続かず、シンジにとって落着かない沈黙の時間が過ぎていく。ふとレイの顔を見
ると、目を閉じて冷静に救助を待っているようだ。

綾波は裸を見られても、恥ずかしくないのかな?

視線が、自然に下に下がろうとした時。

コンコン。

ビクッ!

エントリープラグを叩く音がした。罪悪感に刈られドキドキするシンジ。

「レイ! シンジがこっちに来てない!?」

アスカである。

「ええ、来てるわ。」

「な、なんですって!!!!」

ガッターーン!

勢い良く、エントリープラグのハッチが開く。

「アンタのエントリープラグに行ったら、もぬけの殻だから、まさかと思ったけど! 何
  考えてるのよ! この変態!」

「あ、あの、さっき綾波の悲鳴が聞こえたから大丈夫かなと思って・・・。」

「じゃーなんで、中に入ってる必要があるのよ!」

エントリープラグに飛び込むアスカ。

「え・・・あ、綾波が・・・入って・・・待機してようって・・・あ・・・あの、アス
  カ・・・。」

目の前に裸のアスカが立っている。シンジの顔はトマトより赤かった。

「何よ!」

「あの・・・そんなこと・・より・・・アスカ・・・裸なんだけど・・・。」

目をそらすシンジ。

「べつにそんなこといいわよ! ここには、レイとアンタしかいないんだから。」

「ぼ、ぼくは・・・恥ずかしいよ。」

どちらを見ても、女の子の裸・・・。目のやり場に困る。

「服を探しに行くわよ! このままじゃ、何処にも行けないじゃない。」

「探しに行くって、どうやって探すんだよ。みんな裸なのに。」

「ここへ来る途中、初号機が打ち出されてたわ。シンジ、初号機取ってきて。」

「えーーーー!! そんなの無理だよ! どうやって行くんだよ!」

「泳いでいけばいいじゃない!」

「・・・・・・・・。」

泳げないシンジは、沈黙してしまう。

「どーしたのよ!」

「ぼく・・・あまり、泳げないんだ・・・。」

「えーーーーーー、中学生にもなって泳げないのーー!! アハハハハハハハハハ。」

予想通り、大笑いするアスカ。

「笑うことないじゃないか!!!」

だから言いたく無かったんだ。ん?

シンジの後ろから、笑い声が聞こえる。

「クスクス・・・。」

綾波に笑われたよ・・・はぁ・・・もう最悪だよ・・・。

「あーーーおっかし・・。仕方無いわね。アタシも付いて行ってあげるわよ。」

「ダメだよ!」

「どうしてよ! 仕方無いでしょ!」

「人に見られたらどうするんだよ。」

「あら? アタシのことも心配してくれるの? レイのことしか、そのおつむには無いの
  かと思ってたけどね。」

「そんなわけないだろ!」

「大丈夫よ! いざとなったら、シンジに隠してもらうから、さっさと行くわよ!」

言うが早いか、エントリープラグのハッチを開け、アスカが出ていく。

「もぅ!」

このままほっておくわけにもいかず、シンジもアスカを追って飛び出す。

パシャ。

「なんだ、泳げるじゃない。」

「最初だけだよ。」

「じゃ、行くわよ!」

シンジとアスカは、初号機が打ち上げられた所へ向かって泳ぎ出した。500mくらい
の距離がある。

「アスカ・・・ゴボゴボ・・・アスカ!! ゴボゴボ・・・。」

100mも泳がないうちに、沈み出すシンジ。

「えーーー、もうダメなの? しょうがないわね。」

アスカは、シンジを抱きかかえて泳ぎ出す。密着する2人。

「なんか・・・恥ずかしいね。」

「はっはっ・・・バカなこと言ってないで、はっはっ・・・さっさと泳ぎなさいよ!
  こっちは、はっはっはっ本当にしんどいんだからね!」

アスカは少し顔を赤らめるものの、シンジを抱いて泳いでいるので、あまり感傷に浸る
余裕は無いようだ。息を切らせて、必死で泳ぐ。

「ごめん・・・。」

そして、2人は初号機が打ち上げられた沖にたどり着いた。シンジは、裸のアスカを、
人に見られる前にエントリープラグに押し込み、自分も入る。

「ようやくたどりついたね。」

「はっはっはっ・・・あーーー疲れたーーー。シンジもちょっとは、泳げるようになっ
  てよね。」

「ごめん・・・。」

「いいわよ、それより、さっきさアタシが泳いで行くって言った時、心配してくれて嬉
  しかったわ。」

「だって、やっぱり嫌だから・・・。」

「レイならともかく、アタシまで心配してくれるの? おやさしいことで。」

「もしさ・・・綾波がいなかったら、たぶんアスカのこと好きになってると思うから。
  本当は、アスカのことも好きなんだ。けど、綾波を見てると・・・。」

シンジは辛そうな顔で、アスカを見つめる。

「今はその言葉だけで十分・・・・・。」

アスカは途中で言葉を失い、シンジに抱き着く。LCLの中には、宝石の様なアスカの
涙が幾つも、浮かび上がっていた。

「ごめん・・・。やっぱり・・・辛いの・・・ごめん・・・今だけでいいから・・・。」

シンジは、めったに見せない弱々しいアスカに戸惑ったが、いつのまにか抱きしめていた。

「ごめん。こんなぼくなんかの為に・・・。」

「うっうっ・・・本当は、アタシだけを見てほしいの・・・。うっうっ・・・シンジの
  ことが好きなの・・・。」

シンジは、もう何も言えなかった。ただ、自分の胸の中で泣くアスカを、抱きしめるこ
としかできない。

こんなにぼくのことを想ってくれているのに、ぼくは何をしているんだ・・・。
でも、やっぱり綾波のことが・・・。

短い2人だけの時間が過ぎた。
ひとしきり涙を流したアスカは、シンジから離れる。

「今のは忘れて。いいわね。」

赤く腫れ上がった目で、シンジを見つめる。

「忘れないよ。でも、ぼくには、これ以上答えることはできないから・・・。」

「わかってるわ。シンジが優しい言葉をかけてくれたから、ちょっとナーバスになった
  だけよ。さっ、愛するレイが待ってるわよ。さっさと行きましょ。」

「・・・・そうだね・・・。」

シンクロを開始。初号機は、エントリープラグが浮いている位置まで移動し、レイを収
納した。

「これから、どうしようか?」

「ネルフ本部に行ったら、服くらいあるわよ。」

アスカの案を、即レイが否定する。

「ダメ。問題があるから初号機は打ち出されたはずだわ。」

確かにレイの言う通りである。今後どうするか悩んでいる時、通信回線が突然開く。

「シンジくん? 乗ってるの? あ!!」

「あ! ミサトさん!」

即、SOUND ONLYに切り替わる。

「シンジくん! 裸の女の子2人も連れ込んで何してるの!!!」

「あ! いや・・・これは・・・。」

「アスカ? レイ? 大丈夫?」

「キャーーーーーー助けてーーーーーーーー!!!」

突然アスカが叫ぶ。

「シンジくん! 何してるの!!! シンジくん! シンジくん!」

「キャーーーーーキャーーーーーキャーーーーー!!」

アスカの悲鳴の中、ミサトの叱咤も飛ぶ。

「ちょ、ちょっとアスカ!! 何もしてませんよ!! やめてよアスカぁぁ。」

「なんで、何もしないのよ!」

悲鳴を上げるのを止めたアスカが、ジト目でシンジを睨む。

「そんなぁ・・・。」

もう、何を言えばいいのかわからない。

「葛城三佐。これから、どうすれば?」

唯一冷静なレイが、指示を仰ぐ。

「もう、片付いたから、戻ってきていいわよ。そっちに救出班が回っているから、合流
  してもいいけど、どうする?」

「じゃ、戻ります。通常通り、ケージに戻ればいいんですね。」

「そうね。じゃ、服を用意して待ってるわ。くれぐれも言っとくけど、アスカとレイを
  襲っちゃダメよ!」

「ミサトさぁぁぁぁーん・・・。」

しかし、もう通信は切れた後だった。その後、初号機はケージに向かった。

<ケージ>

格納される初号機。エントリープラグが排出される。

「ようやくご帰還ね。両手に花でどうだった? シンジくん。」

「いいかげんにして下さいよ! それより、早く服を貸して下さい。」

真剣に怒るシンジ。

「はいはい。」

エントリープラグのハッチから、シンジは手だけを出し、3人分の服を受け取る。
服を着るのだから、当然LCLは排出済みだ。

「シンジ! 今日は、アタシとレイに何かおごってくれるわよね。」

「へ?」

「あれだけ、目の保養をしたんだから、安いものでしょ。」

「・・・・わかったよ。頼んだわけでもないのに・・・。」

最後の方は、ボソボソと小声になっていた。

<ネルフの喫茶店>

「ねぇ、シンジ。アタシとレイとどっちが奇麗だった?」

「ブッ!」

コーラを飲んでいたシンジが、突然のアスカの問いかけに吹き出し、辺りの視線を気に
する。

「なんてこと言うんだよ! 誤解されるじゃないか!」

きょろきょろしながら、小声でアスカに文句を言う。

「あら、だれも”裸”だなんて言ってないじゃない。やーねー意識しちゃって。」

「う・・・。」

「で、どうなのよ!」

「そんなの、緊張してたから良く覚えてないよ・・・。」

本当は、しっかり脳裏に焼き付いているのだが、ごまかすことにする。

「そう、なら今日帰ったら、目に焼き付けてあげましょうか?」

「ブッ!」

「アスカぁ・・・、勘弁してよ!」

ふと、レイを見ると、赤い目が睨み付けていることに気付く。

「綾波、冗談だよ! ねぇ、本気にしないでよ!」

ジっと睨みつけるレイ。

そうか・・・綾波がぼくによく怒るのは、アスカのせいなんだ・・・。
ぼくがアスカと仲良くしてるから、嫉妬してくれてるのかな?

実際は、嫉妬する相手が逆なのだが、都合よく解釈するシンジ。

「綾波、大丈夫だよ。アスカがぼくのことを、好きなだけで、ぼくは何とも思ってない
  よ。ぼくは、綾波の一筋だから。」

パーーーーーーーーン!!!!
パーーーーーーーーン!!!!

アスカとレイに平手をくらい、その場に倒れ込むシンジ。

「もっと、デリカシー持ちなさいよね!」

怒って立ち上がるアスカ。

「嫌い。」

睨み付けて去っていくレイ。

なんでだよ・・・。

崩れ落ちたシンジは、”の”の時を書いていた。

To Be Continued.
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