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ΔLoveForce
Episode 09 -恋人成立?-
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<学校>

今は放課後、シンジ,アスカ,レイの3人は、今日行われる相互換テストの為に、ネル
フへ行くことになっていた。

「ねぇ綾波、ぼくと綾波がエヴァを入れ替えて、シンクロテストをするんだよね。恐く
  ないの?」

「どうして?」

「乗ったことも無いエヴァに乗るんだよ。暴走とかしたらどうしよう・・・。」

エヴァに初めて乗った時、初号機が暴走したことが気になる。話によるとレイが零号機
に乗った時も暴走したらしい。シンジは不安で仕方が無い。

「あ! アスカ。」

今までアスカは、1年生の英語のテスト問題作成を手伝わされていた。『そんなの嫌よ!』
と最初は断ったのだが、『やってあげたらいいじゃないか。』とシンジに進められて、
仕方なく手伝うことになった。

「おまたせー、さっネルフへ行きましょ。」

「うん。」

アスカが現れたので、レイはシンジとの話もそっちのけにご機嫌である。一方シンジは、
まだ、不安を拭い切ることができず、できることなら今日の実験は止めたかった。
しかし、そんなことができるはずがない・・・と、シンジは思っていた。

今回の実験は、パイロットの精神状態が大きく影響を及ぼす。レイが零号機で事故を起
こした時の最大の原因は、レイの精神状態にあったことを考慮し、リツコはパイロット
の意志により棄権することができることを、レイに伝えていた。

「アスカ、また前に行った喫茶店に連れて行ってほしい。」

「いいけどね。」

レイが、そのことをシンジに言おうとした時、アスカが現れたので、意識が全てアスカ
の方に向いてしまった結果、シンジには伝えることを忘れてしまった。

シンジは不安を胸に抱いたまま、アスカとレイの後ろから、とぼとぼとネルフ本部へ向
う。

<ネルフ本部>

シンジとレイの相互換テスト開始。弐号機には互換性が無いので、アスカは付き合い程
度でテストをしている。

碇くんの臭いがする。

レイは初号機のエントリープラグに、シンジを感じていた。

弐号機との相互換テストがしたかったのに・・・。

「レイの様子はどう?」

リツコがマヤに状況を聞いた。

「問題ありません。パーソナルパターンも酷似していますから。」

「だからシンクロ可能なのよ。シンジ君の方は?」

「かなりの緊張が見られますが、神経パターンに問題無し。」

現在の所、シンジ,レイ共に問題は無いようだ。

「そんなの気にせず気楽にやればいいのに。」

あまり緊張してたら、危ないじゃない・・・。がんばってね、シンジ。

通信回線から入ったリツコの話から、シンジが緊張していると知り、少し不安になるア
スカ。

「それができない子なのよ、シンジくんは。」

ミサトがアスカにフォローを入れる。

「ところで、あの2人の機体交換テスト、アタシは参加しなくていいの?」

「どうせアスカは、弐号機しか乗る気無いでしょ。」

「まぁ、そりゃそうだわ。」

そうは言ったものの、初号機のエントリープラグに入ることができたレイが、うらやま
しかった。

「どう? シンジ君、零号機のエントリープラグは?」

レイが安定しているので、今度はシンジの様子を伺うリツコ。

「なんだか、変な気分ですけど、大丈夫です。」

「違和感があるのかしら?」

「いえ、ただ綾波の臭いがする・・・。」

その会話の内容も、全て弐号機に入っていた。

な、なにが臭いよ!!! 家に帰ったらアタシの香りで全て消さないと駄目ね!!

「リツコ! もうアタシはいいでしょ! 気分が悪いから降りるわ!」

「そうね、アスカはもういいわ。特に問題も無いみたいだし。」

「あったりまえじゃない。」

2人の相互換テストは、まだ時間がかかりそうなので、アスカは先にエヴァを降りた。
早めに着替えて、女に磨きを掛けようという腹積もりである。
その間も、2人の相互換テストは続く。

「データ受信再確認、パターングリーン。」

「では、相互換テスト、セカンドステージに移行。」

「初号機,零号機共に、第二次コンタクトに入ります。」

「ハーモニク全て正常位置。」

リツコの指示の元、相互換テストはセカンドステージに移行する。レイには特に問題が
見られず、そのままセカンドステージに入ったが、零号機のシンジに変化が発生した。

う・・・なんだこれ・・・頭に入ってくる。
直接・・・何か・・・。
あ、綾波・・・綾波レイ。
綾波レイだよな、この感じ・・・。
違うのか?

「どうしたの!?」

零号機の異変にいち早く気付いたリツコが、マヤに状況を聞く。

「パイロットの神経パルスに異常発生!! 精神汚染が始まっています!!」

「まさか!! このプラグ深度ではありえないわ!!」

「プラグではありません! エヴァからの侵食です!!!」

DANGER DANGER DANGER DANGER DANGER DANGER

警報が鳴り響く。慌ただしく動く技術部オペレータ達。
今回のテストの裏には、ダミープラグの実戦投入がかかっている。致命的なミスを起こ
すわけには行かない。

DANGER DANGER DANGER DANGER DANGER DANGER

ウオォーーーーーーーー。

暴れ出す零号機。

「零号機制御不能!!」

「全回路遮断!! 電源カット!! シンジ君は?」

「回路断線、モニタできません!!」

「零号機が、シンジくんを拒絶!?」

シンジは零号機の中で、意識を失っていた。このままでは、エヴァからの精神汚染を受
けてしまう。事は急を要した。

碇くん!

レイは自分が、大事な連絡をシンジに伝え忘れていたことに気付く。
あわてて、初号機を動かし零号機を止めに入り、組み合う形になった。

「可動時間、残り10秒! 9,8,7,6,5,4,3,2,1,0!
  零号機、依然稼働中!!!! 暴走です!!!!」

このまま長時間シンジを零号機に乗せていては、精神汚染されてしまう。レイはエント
リープラグの排出を急いだ。

「レイ! 急いで! 後はあなたにしか対応できないわ!」

リツコがレイに指示を出す。

「わかっています。」

零号機を羽交い締めにする初号機。

少し時間はさかのぼり、更衣室で着替え中のアスカは、ご機嫌斜めである。

まったくもう、口を開けば『綾波』『綾波』『綾波』・・・、アタシのどこがいけない
ってのよ!

「よっと。」

スカートを履く。

あの頑固者をどうやったら誘惑できるのかしらねぇーーーまったく・・・。なんだか、
自信無くすわぁ。

腕を組んで、シンジ攻略作戦を考える。

だいたい、ラブレターを何万通も貰ったこのアタシが声をかけてるのに、振り向きもし
ないんだもんねぇ。どうしたものかしら。

ビーーーービーーーービーーーー。

その時、警報が鳴り響く。

まさか、シンジの身に何か!?

今の状況で警報が鳴り響く可能性といえば、実験失敗の可能性が一番高く、次いで使徒
来襲であろう。もし、使徒が現れたのなら、即自分にも出撃命令が出るはずなので、お
そらくは・・・。

着替えもそこそこに、更衣室を飛び出すアスカ。

「だから、あんまり緊張してたらまずいってのに!!!」

廊下を歩くネルフの職員に当たりながら、全力で突っ走っていく。

「シンジ!!!!!!」

駆けつけたアスカの目には、暴れる零号機とそれを取り押さえる初号機の姿が映った。

「シンジは! どうなってるのよ!! シンジは!!」

リツコに詰め寄るアスカ。

「今、レイが救出しているわ!」

「な、なんですって!!! アタシも弐号機で出るわ!!!」

「待ちなさい!! 今から弐号機を起動していては、とても間に合わないわ。ここでサ
  ポートしなさい!!」

「シンジの精神状態は、わかってたんでしょ! なんで、実験を中止しなかったのよ!!」

「精神はロジックじゃないから、本人が判断しなければどうしようも無いのよ。自分の
  管理、実験棄権の申し出は、パイロットから申請するしかないわ。」

「シンジもシンジよ、あれだけ緊張するんなら、今回は棄権すればよかったのに!!」

その時、零号機を押え込んでいるレイから通信が入る。

「私が・・・私が、棄権できることを伝えてなかったの・・・。」

「そう。今さら言っても仕方無いから、シンジ君の救出に集中しなさい。」

冷静に指示を出すリツコ、それとは対照的に、アスカは頭に血が登っていた。

「レイ!! アンタ!! 自分が何をしたかわかってるの!? まさか、わざとじゃない
  でしょうね!! シンジの身に、もしものことがあったらただじゃ済まさないわよ!」

「ごめんなさい。」

「アスカ、今はシンジ君の救出が最優先よ。黙って!」

レイも必死だった。零号機を押え込みつつ、エントリープラグの排出ボタンに片手を回
す。

カシューーーー!!

排出されるエントリープラグを、レイが受け止める。パイロットがいなくなり、零号機
も沈黙した。

<病室>

シンジは、精神汚染の後遺症が残らない様に、3日間ICUで治療が行われた。

そして4日目、治療も終わり、ベッドに寝ている意識の戻らないシンジの横には、心配
そうなアスカの姿があった。診断の結果では、精神汚染の後遺症は見られなかったが、
シンジが意識を取り戻すまでは、心配で仕方が無い。

「レイ、何してるの?」

病室の前で1人で立っているレイを発見したミサトが、怪訝に思い声を掛ける。

「どんな顔をして、碇くんやアスカに会えばいいのかわからなくて・・・。」

「終わったことを悔やんでも仕方無いじゃない。シンジくんも無事だったんだし、意識
  が回復したら、謝るのね。」

「はい。」

レイは、ミサトの言葉に背中を押され、勇気を出して病室のドアを開けた。

「レイ・・・。」

あれ以来、アスカとレイが顔を合わせるのは始めてだ。シンジが、ICUで治療を受け
ている間、アスカの精神状態は普通では無かった。そんなアスカに会うことが、レイに
はできなかった。

「アスカ・・・ごめんなさい・・・。私・・・。」

「その言葉は、シンジに言うのね。アタシに言っても仕方が無いわ。」

「わかってる。」

2人は、ベッドの横にパイプ椅子を並べて、シンジの寝顔をしばらく見ていた。
静寂に包まれた時間が過ぎて行く。

スースースー。

シンジの寝息だけが聞こえる。

「もし、シンジに精神汚染の後遺症が残ったら、アタシはアナタを許すことができなか
  ったと思うわ。」

沈黙を破って、アスカがレイに話し掛けた。

「そうだと思う。」

「でも、シンジも無事だったんことだし、後はシンジの意志に従うわ。シンジは、アタ
  シとアンタが喧嘩している所なんて、見たくないだろうし。」

「ええ。」

「じゃ、ちょっとアタシは、家に帰ってシンジの着替えを取ってくるから、少しの間シ
  ンジを頼んだわよ。退院する時に服も無いんじゃ可哀相だしね。」

「わかったわ。」

アスカが病室から出て行った後、レイは申し分けなさそうにシンジを見続けていた。

<ミサトのマンション>

「ふぅ、久しぶりに帰ってきたわね。」

シンジがICUに入っている間、ミサトを始めとする周りの反対を押し切って、アスカ
はネルフに泊り込んでいたのだ。ネルフにいても何もすることはできないが、せめて側
にいたい一心だった。

「確か、この”平常心”って書いたTシャツがシンジのお気に入りだったわよね。これ
  のどこがいいのかしら? 日本人じゃないとわからない感性なのかしら?」

おそらく、日本人でもわからないだろう。
アスカは、着替えの用意を手提げバッグに詰め込むと、ビタミン不足にならない様に、
野菜と果物中心の食事をする。

最近コンビニの弁当とか、パンばっかりだったからねぇ。でも、1人で食べても美味し
くないのよねぇ。シンジと一緒に、ご飯が食べたいなぁ。

早く着替えを持って行きたいアスカは、栄養補給目的だけの食事を、急いで済ませた。

<病室>

「ん・・・・。」

4日振りに目覚めるシンジ、視界にはいつもの病室の天井が広がっていた。

またこの天井だ・・・嫌だな・・・。

「碇くん・・・。」

ふと横を見ると、レイがシンジの顔を覗き込んでいる。

「あ、綾波、どうしたの?」

レイの呼びかけに、シンジは笑顔で答える。

「ごめんなさい。私のせいで、こんなことになってしまって・・・。」

「え? 何のこと?」

「私が、ちゃんと伝えてなかったの・・・あの実験は棄権することができたのに。」

「そうだったの? でも、いいよそんなこと。」

「どうして? 碇くんは、私を責めないの?」

「うん。」

「そう・・・。」

「別に、何もなかったんだし。」

「アスカは、怒ってるわ。」

「どうして?」

「私が、碇くんを危険な目に合わせたから。」

「無事だったんだから、もういいじゃないか。」

「どうして、私を許してくれるの? 碇くんにひどいことをしたのに。」

「ぼくは、綾波のことが好きだから・・・。怒ることなんて、できないよ。」

「碇くんは、私を望むの?」

「そ、そうだね・・・変な意味じゃなくて・・・、その・・・。」

「わかったわ、今日から碇くんの恋人になるわ。」

「え?」

「嫌?」

「そ、そんなこと無いよ! でも、その・・・。」

「何?」

「いや、何だか信じられなくて・・・。」

「碇くんが望まないのならかまわないけど、真実よ。」

「うん。そ、その・・・なんて言ったらいいのか・・・。」

いきなりの話の展開に、頭が錯乱しているシンジ。自分の身に、今何が起こっているの
か判断できない。

ガチャ。

病室のドアが開く。

「ただいまーーーーー。」

「アスカ。」

「着替え持ってきたわよ。」

「ありがとう。」

「シンジの状況を医師に聞きに行ったら、意識が回復したから、もう帰ってもいいって
  言われたわよ。よかったわね、シンジ。」

「うん・・・・。その・・・・。」

なんだか、アスカに対して悪いことをしている気になり、まともにアスカの顔が見れな
い。

「ほら〜、退院できるんだから、そんな辛気臭い顔してないで、早く服を着替えなさい
  よ。アタシ達は外で待ってるからね。レイ、出ましょ。」

「ええ。」

アスカとレイは、廊下でシンジが着替えるのを待つことにした。

「レイ、シンジに謝った?」

アスカはレイに、シンジに聞こえない程度の声で状況の成り行きを聞く。

「ええ。」

「まっ、シンジのことだから2つ返事で許してくれたでしょうけどね。次からは、注意
  しなさいよ。」

「許してくれたわ。」

「そーねー、今度、ご飯でも一緒に付き合ってあげたら? シンジ、きっと喜ぶわよ。
  本当は、そんなことさせたく無いんだけどねぇ。ま、この際仕方無いわね。」

「そうするわ。」

そこへ、着替えたシンジが出てくる。

「おまたせ、帰ろうか、綾波、アスカ。」

「ええ。」

「シンジ、ひっさしぶりに家に帰れるわね。アンタ長い間お風呂に入ってないんだから、
  帰ったら入んなさいよ。」

「うん。」

そして、歩き出す3人。

シンジとレイが、アスカを置いて、肩を並べて歩き出す。

「ちょ、ちょっと待ってよ。」

シンジとレイの間に入ろうとするが、その隙が無く、レイとは反対のシンジの隣に並ん
だ。

どーーなってるのよ!?

シンジとレイが、話をしながら歩く。2人の意識はアスカには無い。ただ、たまにレイ
が悲し気な目で、アスカをちらちらと見ているだけである。
アスカは、身の置き場の無い雰囲気に、嫌な感覚を覚えていた。

To Be Continued.
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