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ΔLoveForce
Episode 11 -揺れる心-
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<ミサトのマンション>

あまり荷物の無い簡素な部屋に置かれたベッドにもたれ掛かりながら、シンジは考え事
をしていた。

どうしようかな・・・。

明日は休日で学校は休み、ネルフへ行く必要も無い。手元には加持に貰った遊園地のチ
ケットが2枚。

綾波って、遊園地とか好きなのかな?

レイを誘いたいのはやまやまなのだが、この間のデートでレイにつまらない思いをさせ
たのではないかという思いが、シンジを躊躇させている。

どうしようかな・・・。

しかし、せっかくの機会を無駄にするのも勿体無いと、かれこれ2時間以上うだうだと
悩んでいた。

どうして、こんなものくれるんだよ・・・はぁ。

悩み疲れて、あげくの果てには加持を逆恨みしてしまうシンジ。

はぁ・・・。

そして時間は過ぎていった。

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「ただいまーーーー。」

夕方になって、ヒカリと遊びに行っていたアスカが帰ってきた。

「あ、おかえり。」

レイに電話することができなかったシンジは、キッチンで夕食の準備をしながらアスカ
を出迎える。

「あら。もう晩ご飯?」

「うん。何もすることが無かったから、今日は早く作ったんだ。」

「何もすることがって、アンタ今日何してたの?」

「え・・・、部屋でじっとしてただけかな・・・。」

「えーーーーー。不健康ねぇ。」

何気ない会話を交わす2人。ヒカリと遊びに行った帰りなので、アスカも上機嫌だ。シ
ンジが1日暇を持て余していたと聞いて、勿体無い気もしているのだが・・・。

「そうだ、これあげるよ。」

「え? 何? 何?」

シンジは、2枚の小さな紙切れをズボンから取り出すと、アスカに手渡す。

「えーーーーーーーー!!! ほ、ほんとに!?」

シンジから受取ったものを覗き込むと、2枚の遊園地のチケット。それを見た瞬間、ア
スカは大はしゃぎして喜び飛び跳ねた。

「そんなに喜んで貰えるとうれしいよ。」

元々はレイと2人で行こうとしていた物だけに、シンジは苦笑いをしてアスカを見つめ
る。

「そりゃーもう、嬉しいに決まってるじゃない!」

大事そうに、遊園地のチケットを抱きしめるアスカだが、ふとなぜ2枚なのかが気にな
った。

「ねぇ、どうしてアタシが2枚持つの?」

「どうしてって・・・誰かを誘えばいいんじゃないかと思って・・・。」

シンジの言葉を聞いたアスカは、今まではしゃいでいた気分が何処かへ消し飛び、顔は
青ざめ目が少し涙ぐんでいる。

「それって・・・どういうこと?」

小さな声を絞り出す様に吐き出す。

「どういうことって・・・?」

「アタシが、誰かと遊園地に行けばいいと思ってるのかってことよ!」

「え?」

突然アスカの様子が変わったので、シンジは何と答えていいのかわからない。

「シンジが・・・誘ってくれた物だとばかり思って・・・ば・・・ばっかみたい・・・。」

ビリビリビリ。

アスカは、遊園地のチケットを破り捨てると、自分の部屋へと逃げ込む様に入ってしま
った。

「あ!」

・・・・・・・・・・・・・・・・。
ごめん・・・アスカ・・・。

そんなアスカに、何も声を掛けることができなかったシンジは、遊園地のチケットを軽
い気持ちで渡した自分の軽率さに腹がたつ。
それからシンジは、無意識のうちにアスカとミサトの夕食の準備を事務的に作ると、自
分は何も食べずに部屋へ入って布団をかぶってしまった。

どうして、ぼくは・・・。

自分が嫌で仕方が無かった。自分がいるだけで、みんなが傷ついている様な気がしてな
らない。

ぼくは、いつもアスカを傷つけている・・・。
綾波も本当にぼくのことが、好きなんだろうか・・・。

自分が、人を傷つけるだけの存在、誰からも愛されない存在の様な気がして、自己嫌悪
に陥る。

ぼくは・・・。

そして、シンジは逃げ出した・・・。

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「たっだいまーーーー。」

夜も遅くなってミサトが帰宅した。

「ミ、ミサト! シンジは!?」

ミサトが家の中に入るやいなや、アスカが血相を変えて飛び出してくる。

「え? シンちゃんがどうかしたの?」

「いつの間にかいなくなって、まだ帰ってこないのよ!」

「どういうこと!?」

「アタシがいけないの・・・アタシが・・・。」

アスカは部屋に篭っていた為、シンジがいなくなったことに気付いたのは、夜8時を過
ぎてからだった。最初は、コンビニにでも行ったのかと思っていたが、既に夜中の12
時をまわっている。何度かマンションの周りを探したが、見つけることはできなかった。

「ちょっと、アスカ。何かあったの?」

「アタシが、ひどいことをしたから・・・。」

アスカは、感情にまかせてシンジに貰ったチケットを破り捨てたことを後悔していた。
シンジがいなくなったのは、そのことが原因で怒ったのではないかと決め付けていたの
だ。

「とにかく、事情を説明してよ。ねっ。」

このまま、アスカが取り乱していては何もわからないので、ミサトはアスカを椅子に座
らせると、ゆっくりと事の成り行きを聞くことにした。

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説明を聞き終わったミサトは、落ち込んでいるアスカに優しく微笑みかける。

「それは、アスカの思い過ごしだと思うわ。」

「でも・・・他に何も思い付くことなんて無いわ。」

「シンジくんは、そんなことくらいで、怒って出ていったりする子じゃないでしょ?」

「でも・・・。」

「後はわたしに任せて、アスカはもう寝なさい。」

「寝れるわけないじゃない!」

「シンジくんが見つかった時、目の下に隈でもできてたら嫌われるわよ。わたしに任せ
  て。ねっ。」

完全に納得したわけでは無かったが、ミサトに説得されたアスカは、とりあえず自分の
部屋へと入って行った。

「さてと、たまには保護者らしいことをしなくちゃね。」

アスカが部屋へ入ったことを確認したミサトは何度か電話をした後、自分も部屋へ入っ
て眠りについた。

翌日ミサトがめずらしく朝早くに起きてくると、アスカがじっと食卓に座っていた。

「あら? アスカも今日は早起きねぇ。」

何か考え事をしているかの様にうつむいていたアスカだが、ミサトの声に反応するかの
様に顔を上げた。

「シンジは!? みつかったの!?」

椅子を立ち上がったアスカは、目の下に少し隈を作った顔でミサトに詰め寄る。その瞬
間ミサトは、おもむろに暗い表情を浮かべた。

「それがね・・・。」

言いよどむミサト。

「ど、どうしたの!?」

その反応に嫌な予感を覚えたアスカは、食い入る様にミサトを見つめる。

「諜報部の網からもロストしているらしいのよ。今、全力で探しているわ。」

「シンジ!!!」

ミサトの言葉を聞いたアスカは、咄嗟にミサトのマンションを駆け出して行った。

あーーあ。シンちゃんも罪よねぇ。

飛び出していったアスカを、微笑ましく見送ったミサトは、電話の受話器を取った。

<二子山>

ミサトに呼ばれたレイは、二子山の麓を歩いていた。約束した所にミサトがいない為、
あまり遠くへ離れずにうろうろと歩いている。

葛城三佐、どこにいるの?

その頃、アスカも二子山の麓でシンジを探していた。以前シンジが家出をした時、ここ
で発見されたことを知っていたので、またここにいるかもしれないと思ったのだ。

シンジ! シンジ! シンジ!

シンジを探し回るが、どこを探してもシンジの姿は見つからない。寝不足の体には、照
りつける太陽が暑く、先程から上空を飛ぶヘリコプターの音と蝉の声がやかましい。

いくらシンジでも、同じ所にはやっぱり居ないわよね・・・。

朝からずっと探していても、シンジの姿が見つからないので、そろそろ違う場所へ行こ
うかと迷いはじめる。

でも・・・諜報部の監視からロストする様な場所って・・・。

諜報部の網から逃げたとなると、都会では考えられないし、交通機関を使って遠くへ行
くというのも難しい。他に探す場所が思い当たらないアスカは、途方に暮れて歩き回っ
た。

チケットを破ったことが、シンジが出ていった原因じゃないってミサトは言ってたけど、
じゃぁどうして?

もし原因がわかればシンジの居場所がわかるかもしれないと思い、歩きながら考えてみ
る。

だいたい、どうしてシンジは遊園地のチケットなんか持っていたのかしら?

自分を誘うつもりでなかったことだけは明白である。そのことを考えると、針で刺され
る様な痛みが、胸に走り締め付けられる。

レイ・・・。でも、どうして? レイが行かないって言ったのかしら? どうして?

何かわかるかもしれないと思い、レイの団地へ向おうとするが、もしそこにシンジがい
たら自分はどういう態度をとればいいのか・・・まともに話ができるだろうか・・・と
不安がよぎる。

その時は、その時よ・・・。

アスカは、決心を固めると二子山を下り始めた。

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「アスカ?」

アスカが、山の裾野にある公園を横切ろうとした時、自分を呼ぶ声が聞こえた。その方
向に目を向けると、ベンチの前に立つレイがこちらを見ている。

「え? レイ?」

「やっぱり、アスカね! 」

アスカの声を聞いた途端、レイはトーンを2段階ほど高くして明るい声を出しながら駆
け寄って来た。

「どうして、ここにレイがいるのよ。」

「よくわからないの。アスカに会えたんだから、もういいわ。」

にこにこしながらベンチに座るレイと、どうも事の成り行きがわからなくて納得できな
いアスカは、ひとまず一緒にベンチに座った。

暑い日差しが2人の白い肌に照り付け、蝉の声と先程から飛ぶヘリコプターの音が、耳
にうるさい。

「あのさ・・・遊園地へどうして行かなかったの?」

「遊園地? 何のこと?」

首を傾けて、アスカに聞き返す。レイにとっては初耳の話なので、何のことだかわから
ないのだが、アスカはレイがシンジの誘いを断ったのだと決め付けていた。

「シンジから、遊園地へ行こうって言われたでしょ?」

「知らないわ。」

「とぼけないで!!!」

「とぼけてなんて・・・私がアスカに嘘をつくと思うの?」

悲しそうな顔でレイは、アスカの目をじっと見つめた。

「・・・・・・ごめん。じゃ、本当に知らないのね。」

「ええ。」

アスカにはますますわからなくなってきた。どうしてシンジが遊園地のチケットを2枚
も持っていたのだろうか。なぜ、レイを誘わなかったのだろうか。

「シンジが、行方不明なのよ。諜報部の監視からもロストしたらしいわ。何か知らない?」

「アスカ・・・疲れている様だけど・・・ずっと碇くんのことを探していたの?」

「そうよ。」

「アスカは、碇くんのことが心配?」

「当然でしょ!」

「そう・・・。」

「アンタ! シンジのことが心配じゃないっての? シンジのこと好きなんでしょ!?」

「!!」

アスカのセリフに、レイの顔が引きつる。

「もし・・・もし、私が行方不明になっても、アスカは私のことを探してくれるの?」

「は? 何言ってるのよ!?」

「碇くんだから、探してるの? 私でも探してくれる?」

ここで、アスカは気付いた。レイはシンジに嫉妬しているのだ。しかし、ならばなぜ、
最近シンジとの仲が急転したのかがわからない。

「アンタ、シンジのことが好きなんじゃないの?」

「・・・・・・・・・・・・・。」

答えないレイ。

「それより、碇くんを探しましょ。今は、それが最優先だから・・・。」

ベンチから立ち上がるレイ。

「そ、そうね。」

なんだかごまかされた気がしたが、シンジを探すことが最優先であることは事実なので、
アスカもこれ以上追求するのは止め、レイに続いて歩き出した。

<ヘリコプターの中>

昨日ミサトのマンションの近くの公園で、独り考え事をしていたシンジは、通りすがっ
た加持に声を掛けられ、そのまま加持の家へ泊まることになった。
そして今、迎えに来たミサトと一緒にヘリコプターの中で話をしている。

「でも・・・。ぼくはアスカの気持ちを知ってて・・・。」

「アスカは、そのくらいで負ける様な弱い子じゃないわ。それより、ちゃんと謝ること
  が、今のシンちゃんがすることなんじゃないの?」

「そうですね・・・ぼくは、また逃げてたのかもしれません。」

「ま、後は今後どうするかを考えることね。」

「はい。少し1人で考えてみます。」

「じゃ、ゆっくり歩いて帰るといいわ。」

「はい。」

二子山の麓へと着陸したヘリコプターからシンジは降りると、ゆっくりと歩き出した。

アスカに謝らなくちゃ・・・。
でも・・・もう、口も聞いてくれないかもしれないな・・・ハハッ。

自嘲気味に笑うと、シンジは今後の自分のことを考えながらゆっくりと歩き出した。

<二子山>

二子山を降りていくシンジ。

いっそぼくのことなんか、嫌いになった方がアスカの為なのかも知れない・・・。
なら、このまま謝らずにいた方がいいのかもな。

さらに歩みを進める。

同時刻、二子山の麓にたどり着いた2人の少女。

「今度は、どこを探せばいいかしら。」

麓までたどり着いたものの、まだ次に探す場所の見当がつかずにアスカは悩む。

「とにかく電車に乗りましょ。」

二子山にシンジはいないだろうと思っていたアスカは、いつまでもこんな所でうろうろ
していては時間が勿体無いので、さっさと二子山麓の田舎の駅へと向った。

<JR駅>

「えーーーーーーーーーー!!!!」

駅にたどり着いたアスカは、大声をあげていた。

「いつ復帰するのよ!」

「それは、ネルフにかかっていますので、我々では何とも。」

ネルフの命令で、この駅に来る電車の運行が中止となっていたのだ。

「レイ、携帯持ってる?」

「ええ。」

こんな所で足止めされてはたまらないので、ネルフへ文句の電話を入れようというの
だ。

プルルルルルルルル。

早速司令室への直通電話を入れる。

「もしもし!! マヤ? アタシ、アスカ!!」
「なんですって!!! どうするのよ!!! 野宿でもしろっての!?」
「宿!? シンジが行方不明なのよ!!! そんな暇無いわよ!!!」
「ええ、わかったわ。2時間以内になんとかしなさいよ!!!」

ガチャ。

マヤ曰く列車事故があったということだ。ネルフの施設が近くにあったということで、
指揮をネルフが取り、2時間ほど列車を止めているということだった。

「仕方無いわね。時間が勿体無いから、もう少し山を探してみましょうか。」

<二子山>

再び山を登っていくアスカとレイ。

「ん?」

少し登ったところで、山の上から降りてくる人の姿が見えた。

「碇くんだわ。」

「シ、シンジ!!!!!!!」

シンジの姿を発見したアスカは、目に涙を溜め走り出す。

「アスカ?」

なぜここにアスカがいるのかわからないシンジは、棒立ちのまま駆け寄ってくるアスカ
をただ眺める。

「シンジっ! シンジっ! シンジっ!」

アスカに抱き着かれても、呆然と立ち尽くすだけのシンジ。

「もう、家出なんてバカなことしないで・・・。チケットのことなら謝るから。」

「あ、謝るって・・・・あれは、ぼくがアスカの気持ちも考えないで・・・。ごめん。」

「そんなことならもういいの。家に帰ってきて。」

「うん・・・。帰るよ。」

アスカに抱き着かれながら、帰る道の方向を見るとレイの姿が見えた。

綾波・・・。

レイは、シンジをじっと冷たい目で見つめていた。正確にはアスカに抱き着かれている
シンジを嫉妬のこもった厳しい目で睨み付けている。

あんなにひどいことをしたのに、アスカは再会を喜んでくれた・・・。
でも、綾波はぼくに会っても笑顔を見せてくれない・・・。

アスカに抱き着かれたまま、レイに近づくシンジ。

「綾波、心配かけてごめんね。」

絞り出すような声で、話し掛けるシンジ。

「・・・・・・・・・。」

レイは何も答えず、アスカに抱き着かれているシンジをただ睨み付ける。

やっぱり、綾波はぼくのことが好きじゃないんだ・・・じゃぁどうしてあんなことを言
ったんだろう?

元々、シンジとレイが付き合い始めた切っ掛けはレイにあったのだ。シンジにはレイが
何を考えているのかわからなくなってきた。

「・・・・・・・・遅くなったから帰ろうか・・・。」

シンジは、アスカとレイに声をかけると駅に向って歩き出した。

<JR駅>

「えーーーーーーー!! 本日中復旧しないですって!!」

「はい。ネルフよりそういう連絡がありました。」

「ま、まぁいいわ。」

しかしアスカは、それ以上抵抗せずあっさりと駅を出て行く。

「アスカ、いいことないよ。帰れないじゃないか。」

「大丈夫よ。復旧しなかったら宿をとってあるってマヤが言ってたから。」

「で、でも・・・。」

「いいから行きましょ。ちょっとした旅行気分じゃない。」

シンジがみつかったアスカは、先程とは違い宿に泊まれることを大喜びしていた。
そして、3人はネルフの取った宿で宿泊することになる。

To Be Continued.
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