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ΔLoveForce
Episode 12 -ある事件-
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<宿>

シンジ,アスカ,レイは、マヤの案内でネルフが予約した古びた宿へとたどり着いた。
そこは、旅館やホテルという感じではなく、100年以上も前からほそぼそと経営して
いる様な小さな民宿だった。

「こ、こんな所なの??」

ネルフが手配してくれた宿なので、かなり豪華なホテルを期待していたアスカは、がっ
かりする。

「いらっしゃいませ。ネルフの方ですね。」

「はい、そうです。」

宿に足を踏み入れると、愛想の良さそうなおかみが3人を出迎えてくれた。おかみは、
シンジと簡単な会話をした後、3人を用意されている部屋へと案内する。

<部屋>

風情のある廊下を抜けた所にある部屋へと3人は案内された。その部屋は、最近では珍
しく床の間や障子,掛け軸などがある和風の作りで、テーブルの上には3人分のお茶が
用意されている。

「あの・・・3人で1室なんですか?」

「はい、1室しか予約されていませんが。」

「え・・・。そ、そうですか。」

「では、食事の用意ができましたら、また伺います。」

最近ではあまり見られない純和風の部屋を珍しそうに見るアスカと、座布団に正座して
お茶をすするレイ。そして、なんとなく落着かないシンジは、押し入れを開けてみたり、
座布団を並べてみたりしていた。

<ワンショットバー>

第3新東京市のJR駅前にある、わりと高級なワンショットバーで1組の男女がグラス
を傾けたいた。

「大丈夫なのか?」

「後はあの子達次第ね。わたしができることもここまで・・・。」

「いや、俺が言っているのは手配した宿のことなんだが。」

「外見は古いけど、あそこは昔から戦自の偉いさんが使っている旅館だから、警備シス
  テムに問題は無いはずよん。」

だからなんだが・・・。まぁ、まだ使徒が残る現段階で戦自が動くことはないか・・・。

無精髭をはやした男は、1人納得すると髪の長い女と3人の子供達の幸せを祈ってカク
テルグラスを傾けるのだった。

<部屋>

「あのさ、温泉があるみたいだから、お風呂にでも入ってきたら? 汗かいただろ?」

シンジが、何杯目かのお茶をすするレイと窓の外を眺めるアスカに声をかけると、汗が
やはり気になっていたのか、アスカがすぐに反応した。

「それじゃぁレイ、お風呂に入りに行きましょうか。」

「そうね。」

アスカが手早く風呂の用意をして廊下へと出て行くと、後ろからレイがとたとたと付い
て行く。そんな様子を見届けた後シンジは、窓から外を見てみた。

ん? ぼく達の他にもお客さんがいるのかな?

窓から見える旅館の玄関先に、黒塗りの高級車が2台止まっている。シンジはあまり気
にせず少し遠くに見える池に視線を移した。

奇麗な池だなぁ。後で、あの池まで散歩しに行こうかな。

シンジはしばらく池を眺めていたが、いくら入浴時間が短いといえどもそろそろ風呂に
行かなければ夕食に間に合わないので、風呂の用意をして部屋を出て行った。

<宿の事務所>

『予測していなかったことですが、この機会に接触させるべきだと思いまして。』

『わかっております。現段階ではそのつもりです。』

『はい、只今到着致しました。手はずも整えております。』

『では、行動に移ります。』

<男湯>

「ふぅ、極楽極楽・・・。」

湯船に肩まで浸かり、夕焼けを眺めながら極楽気分を味わうシンジ。

「きゃ! どこ洗ってるのよ!」

「あ・・・ごめんなさい。」

木でできた1枚の壁の向こうから、アスカとレイの声が聞こえてくる。他には客はいな
いみたいだ。

さっきのお客さん、お風呂には入ってこないのかな。
まぁ、1人の方が気楽でいいけど。

「きゃ・・・アスカ・・・そこダメ。あはははは。」

「さっきの仕返しよ! ほれほれ!」

「そこ・・・ダメ・・・あははははははは。」

「レイの弱点を見つけたわよ! こちょこちょこちょ!」

「あはははははは。」

綾波・・・笑ってるんだ。

女湯からレイの笑い声と、どたばたと2人が暴れる音が聞こえてくる。シンジは、適当
に体と頭を洗い終えると、風呂を後にした。

「お風呂はいかがでしたか?」

「はい、よかったですよ。」

シンジが浴衣を着て廊下を歩いていると、階段から降りてきたおかみが声をかけてきた
ので、当たり障りの無い返事を返す。

「それはようございました。お連れの方はまだお風呂ですか?」

「はい、アスカは長風呂なんで。」

「そうですか。では、夕食は少し遅めにしましょうか。」

「すみません。」

「そうですねぇ、お連れの方がお風呂に入っている間、お暇でしょうから宿の裏手にあ
  る池にでも散歩に行かれてはいかがでしょう。」

「はぁ。」

「涼しくて気持ちがいいですよ。ここに簡単な地図がありますので持って行って下さい。
  玄関には下駄が用意されてますので、ご利用下さいね。」

「はい・・・。」

「では、涼んできて下さいね。」

おかみは、それだけ言うとまた2階へと上がっていった。シンジは、あまり散歩に行く
様な気分ではなかったのだが、おかみに強く勧められたので言われるがまま池の方へと
散歩に出かけることにした。

<池>

そこは、いくつかの有料ボートが浮かぶ林に囲まれた小さな池だった。地図を渡された
が、全体が見渡せるので、特に地図が必要だとも思えない。

一周だけまわったら帰ろうかな。

せっかくおかみに薦められたのだから、すぐに帰っては申し訳ないと思ったシンジは、
池を一周だけ散歩して帰ることにした。

小さな池だと思ったけど、歩いてみるとわりと時間がかかるんだなぁ。

涼みに来たはずなのだが、てくてくと池の周りを歩いていると少し汗が滲んでくる。

「あのぉ・・・。」

ん?

池を半周ほどした所で、林の中から女の子の声が聞こえた様な気がした。シンジは気に
なり林の中を覗いてみると、そこには同い年くらいの茶色い奇麗な髪のショートカット
の女の子が、ぺたりと地面に座り込んでいる。

「どうしたの?」

「足をくじいちゃって・・・歩けなくなっちゃったの。」

「え! 大丈夫?」

「あまり、大丈夫じゃないかも・・・ハハ・・・。」

シンジは、その女の子の近くへ近寄りスカートから伸びる足を見つめた。特に腫れ上が
ったりしている様子はない様だ。

「どこが傷むの?」

「足首が、動かないの。」

「全然歩けそうにないの?」

「うん。」

「よかったら、肩を貸そうか?」

「うん、ありがとう。」

シンジは、その女の子に肩を貸して立たしてあげようとした。

「痛いっ!」

「あ、ごめん。」

しかし、その女の子はやはり足首が痛いのか、立ち上がった瞬間にその場に座り込んで
しまう。

「やっぱり、ダメみたい・・・。」

「ぼく、近くの宿に泊まってるんだけど、誰か呼んでこようか?」

「あ! いい、いいの。しばらく休んでたら大丈夫だと思う。」

「でも・・・。」

「それより、足の痛みがとれるまで話相手になってくれないかな? もう暗くなっちゃ
  ったし、1人じゃ心細いから。」

「うん。」

こんな真っ暗な林の中で、1人ぼっちにされるのが心細いのだろうと思ったシンジは、
その女の子の横に腰を降ろした。

「わたしは霧島 マナ。あなたは?」

「ぼくは、碇 シンジ。」

「いい名前ね。わたしね、今度引越して来たんだ。今日は、特にすることもなかったか
  ら、見物がてらこの辺りに遊びに来てたの。」

「1人で?」

「だって、こっちに友達いないんだから仕方ないでしょ。」

「そ、そうだね。」

「碇くん、友達になってくれる?」

「え・・・う、うん。いいけど。」

「えぇーーーーー。やったぁ! 碇くんが、初めての友達ね。」

「あははは、そうだね。」

「ねぇ、碇くんって好きな娘とかいるの?」

「え・・・うん。一応は・・・。」

「つきあったりなんかしてるわけ?」

「一応は・・・。」

「えーーーーーーーーー、残念。」

「どうして?」

「もぅ!」

「え?」

「でも、その一応ってのは何?」

「うん・・・よくわからないんだ・・・。」

「喧嘩でもしたの?」

「そうじゃないけど。」

「ふーーーん。」

                        :
                        :
                        :

シンジとマナは、それからしばらく話をした。マナは、積極的に最近のシンジの悩みを
聞き、励ましてくれた。

「それじゃ、だいぶ足の痛みもひいたみたいだから、そろそろ帰るわね。」

「うん。気をつけてね。」

「また・・・会えるといいな。」

「そうだね。」

「それじゃ、また。」

マナはシンジとは逆方向へと帰って行った。その姿が見えなくなるまで見送った後、シ
ンジは宿へと戻ったのだった。

<部屋>

シンジが宿の部屋へ戻ると、そこには膨れっ面のアスカとお茶をすするレイの姿があっ
た。2人とも浴衣を着ており、座布団の上に座っている。

「おっそーーーーーーーい! 何処行ってたのよ!」

「あのぉ・・・池の方へちょっと散歩に行ってたんだ。」

「えーーーー!! 1人で? アタシも行きたかったのにぃ!!」

「だって、アスカはお風呂に入ってたから・・・。」

「上がるのを待っててくれてもいいじゃない。」

「ごめん。」

「あの・・・碇くんは、もう行ったみたいだから、今度は私達が散歩に行きましょ。」

アスカとシンジの会話をお茶をすすりながら聞いていたレイは、妙案が閃いた様に目を
輝かせてアスカを誘う。

「今からじゃ、遅いわよ。もうご飯の準備もできてるってのに。」

「そう・・・そうね。」

「じゃぁ綾波、ぼくと一緒に行こうか?」

「もう、晩ご飯だからやめとくわ。」

「ご飯の準備が出来てるって言ってるのに、アンタは何言ってるのよ!!」

「ハ・・・ハハハ。そうだね。」

アスカとレイに一気に責められ、たじたじになったシンジは2人について食堂へと向う
のだった。

<食堂>

食堂には、予想していたより遥かに豪華な料理が並べられていた。シンジ達は、ただの
民宿程度としか思っておらず、まさか戦自の偉いさんが昔から利用している由緒ある旅
館だとは夢にも思っていなかったので、そのギャップは激しかった。

「すごいわね。」

「まさか、こんな豪華な料理が出るなんて思ってなかったよ。」

レイはあまり気にしていないようだが、アスカとシンジは、料理の豪華さに感嘆の声を
上げる。

「さぁ、早速食べましょ。こんな豪華な料理、めったに食べれるものじゃないわ!」

宿を初めて見た時は落胆したアスカだが、今は目を輝かせて自分の席に座った。シンジ
とレイもアスカに続いて席につく。

ん? 他にお客さんがいたみたいだけど、ぼく達以外には誰もいないんだな。
ぼく達が遅かったからかな。

シンジはふと疑問に思ったが、あまり気にせず箸を手にした。

「いっただっきまーーーす!」
「いただきます。」
「いただきます。」

ピピピピピピピピピピピ。

3人が夕食を食べようとした時、シンジの携帯電話が鳴り響く。

「もしもし。」

『シンジくん!? アスカとレイもそこにいる?』

電話の向こうから聞こえるのは、ミサトの声だった。

「はい、いますけど。」

『今、そっちにヘリが向ってるわ! もうすぐ到着すると思うからすぐに乗ってネルフ
  まで来てほしいの?』

「使徒ですか?」

その言葉を聞き、アスカとレイは箸を止め視線をシンジに集中させる。

『現時点ではわからないわ。ただ、非常事態に備えてエヴァで待機しておいてほしいの。』

「わかりました。」

『じゃ、急いでね。』

シンジが電話を切ると、アスカが身を乗り出してシンジに顔を近づける。

「使徒なの?」

「わからないけど、もうすぐヘリが到着するからそれに乗ってって。」

「えーーーーーー!! せっかくの料理がぁ。」

「急ぎましょ。」

最初に席を立ったのはレイだった。それにシンジも続き、アスカはお作りを口に入るだ
け詰め込むと、シンジの後を追いかけた。

<宿の事務所>

『ロボットが?』

『はい、わかりました。こちらでも即手を打ちます。』

『チルドレン達はどうしましょう?』

『そうですね。まだネルフを敵にまわすわけにはいきませんから。』

<ネルフ本部>

軍用ヘリコプターに乗って急行したシンジ達が、司令室に到着する。

「せっかくの外泊だったのに、悪いわね。」

「まったくよ。おかげで料理を食べ損ねたわ!」

「それを言うなら、アタシもカクテルを飲んでる最中に呼び出されたから、おあいこよ。」

「ちょっと、ミサト・・・まさか飲酒で作戦指示してるわけ?」

料理を食べ損ねた逆恨みも入り、アスカはミサトに食ってかかる。

「あれくらい、水よ。水。」

「ところで、ミサトさん。敵は?」

「それが、行方をくらましちゃって・・・。しばらく休憩室で待機しててくれたらいい
  わ。」

「まったく! それなら、もうちょっとゆっくりご飯が食べれたじゃないの!」

「まぁまぁ、アスカもそんなに怒らないで。今度おごるから、ね。」

「えーーーー! 本当? やったーーー!!!」

ミサトは、今の自分のセリフを果てしなく後悔するのだった。

<ミサトのマンション>

結局、昨日はその後何も無く、シンジ達は家へ帰ることとなった。遅くまで待機してい
たので、今朝は寝不足である。

「アスカーーー、そろそろ起きないと遅刻しちゃうよ。」

「うーーん。」

普段でも寝起きの悪いアスカが、寝不足なので今朝はなかなか起きてこない。シンジは
アスカに呼びかけた後、朝食の準備をしていたがいつまで経っても部屋から出てこない
ので、また声をかける。

「アスカーーーーー!! 起きてるの!?」

「うーーん。」

「はぁ・・・・。アスカ!!」

「うーーん。」

「もう、遅刻だって! 早く起きてよ!」

「うーーん。」

「困ったなぁ・・・。アスカ! 開けるよ。」

「うーーん。」

以前に一度、アスカを起こしに行って顔を蹴り飛ばされた経験のあるシンジは、あまり
気乗りはしなかったが、このままでは本当に遅刻してしまうので、アスカの部屋へと入
って行った。

ゆさゆさ。

「アスカ、もう朝だよ。起きてよ。」

「シンジぃぃぃ。」

ガバっ。

「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「ん? きゃっ!」

「ご、ご、ご、ご飯ができてるから、もう起きてきてよ。」

シンジは逃げ出すかの様にアスカの部屋を飛び出して行った。

びっくりしたなぁ。いきなり抱き着くんだもんなぁ。

食卓の前に立ちながらドキドキする心臓を押さえて、シンジはアスカが部屋から出てく
るのを待った。同じ頃、アスカも心臓を押さえていた。

ドキドキドキ。

シンジ、今日はどうしたのかしら・・・。

バクバク。

朝から、いきなりシンジに抱きしめられちゃった・・・。
明日からもこんな起こし方されるといいなぁ。

にんまりしながら制服に着替えるアスカは、最高の目覚めに喜んでいた。

<学校>

シンジ,アスカ,レイが教室に入ると、なんだかクラス中が騒がしかった。なんでも、
女の子が急に転校してくることになったらしい。クラスメートの話題は、そのことと昨
日のロボット騒ぎのことで持ち切りだった。

キーンコーンカーンコーン。

担任の老教師が教室に入ってくると、その後ろから噂の転校生が続いて入ってきた。

「き、霧島さん!!」

「あ! 碇くん!!」

クラスメートの視線が、シンジに集中する。

な、何? どうしてシンジが転校生のことを知ってるのよ!!

アスカの胸中は穏やかでは無かった。

To Be Continued.
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