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ΔLoveForce
Episode 13 -過ちと反省(前編)-
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<学校>

昼休みになると、突然現れたマナのことが気になり午前中の授業に集中できなかったア
スカは、シンジの席に駈け寄って来た。

「あの娘のこと知ってるの?」

「うん・・・二子山の旅館で会ったんだ。」

「え? あんな娘、泊まってたっけ?」

「近くに池があっただろ? あそこを散歩してる時に、偶然会ったんだ。第3新東京市
  に引越しして来たって言ってたけど、同じクラスになるとは思わなかったよ。」

心配していた様な特に親しい知り合いというわけではなさそうだが、そのわりにはシン
ジに対するマナの態度が好意的に思えて、逆に安心できない。

「碇くん? 学校を案内してほしいなぁ。」

「あ! 霧島さん。」

2人が話をしている所へマナが割って入ってきたので、アスカはムッとしてマナを睨み
つける。

「まだ、碇くんしか友達いないから、おねがーーい。」

「別にいいけど?」

「ちょっと! なんでシンジが案内しなくちゃいけないのよ!」

「そんな言い方したら、かわいそうだよ。」

「だって・・・。」

ぶーー。

「案内するから、一緒に行こうよ。」

「ありがとう。碇くんやっさしー。」

マナと一緒に教室を出て行くシンジの姿を、アスカは寂しそうに見送る。そんなアスカ
の様子を、レイは自分の席からじっと見つめていた。

「ここが、屋上だよ。たまに友達と一緒に、お弁当を食べたりするんだ。」

「ふーーーん。ここの学校って、屋上に出れるんだぁ。」

「じゃ、次は体育館に行こうか。」

「ねぇ、碇くん。」

「何?」

「さっきの人がアスカさん?」

「そうだけど?」

「ふーーーん。綾波さんは?」

「窓際に座ってた娘だよ。おとなしい娘だから、気付かなかったかもしれないね。」

「そっか・・・。」

「じゃ、行こうか。」

「ねぇ・・・、碇くんって、エヴァのパイロットなんですって?」

「え・・・どうして知ってるの?」

「どうしてでしょう?」

少し意地悪い子悪魔の様な笑みを浮かべて、シンジに頬笑みかけるマナ。

「どうして・・・って、そんなのわかんないよ。」

「碇くんの顔に書いてある・・・。」

「え・・?」

シンジは、自分の顔を見つめられ妙な顔でもしているのではないかと、焦って顔に手を
当ててしまう。

「アハハハハ、そんなわけないでしょ。」

「もう、ひどいなぁぁ。」

その時トットットッという音がしたかと思うと、階段を登ってきたレイがシンジ達の前
に現れた。

「召集。先、行くから。」

「あ、ちょっと待ってよ! 綾波! ごめん、急いでネルフに行かなくちゃいけないんだ。
  学校の案内は委員長・・・洞木さんに頼むといいよ!」

それだけ口早に言い残したシンジは、マナに軽く手を振った後、慌ててレイを追い駈け
て階段を降りて行く。

綾波さんか・・・。

マナはしばらく階段の下を覗き込んでいたが、2人の姿が見えなくなると携帯電話を取
りだし人気の無い屋上で誰かに電話をするのだった。

<電車の中>

まだ時間が早いので電車に乗客は少なく、シンジ達はレイ,アスカ,シンジの順で椅子
に座っている。

「あの娘に、学校の案内はできたの?」

ずっと気になって仕方が無いマナのことを、根掘り葉掘り聞くアスカ。

「うん・・・屋上だけ・・・。後は委員長にお願いするように、言ってきたよ。」

「碇くん、楽しそうだったわ。」

ボソっとレイがつぶやいた。

「そ、そ、そんなこと無いよ! ぼ、ぼくは、ただ、転校してきたから、案内しなくち
  ゃって・・・だから・・・そんなんじゃなくて・・・。」

「・・・・。」

「綾波、だから、そんなんじゃないんだよ。」

「・・・・。」

「綾波、話を聴いてよ。」

「・・・・。」

「綾波・・・・・・だから・・・。」

「・・・・。」

想いつめたような顔で黙り込むレイと、必死で言い分けするシンジの顔を交互に見てい
たアスカは、じっと何かを考えるのだった。

<ミサトのマンション>

ネルフでの用事が終わった後アスカと一緒に家に帰ったシンジは、ずっと部屋に篭りき
っている。

「シンジ、ご飯できたわよ。」

チャーハンを作りテーブルに並べたアスカは、部屋の前でシンジを呼んでみる。

「悪いけど、食欲がないんだ。」

「ダメよ。しっかり食べなくちゃ。」

「ごめん・・・1人にしてくれないかな。」

「・・・・・・・。」

落ち込んでいる原因が解っているし、自分も1人で考えたいことがあったアスカは、そ
れ以上声を掛けずにシンジのチャーハンをラップに包むと、1人で食卓に座り食べはじ
める。

このままだと、シンジとレイは別れるかもしれない・・・。
アタシは、やっぱりそれを願っているの?

ガラスのコップに、自分の歪んだ顔が映る。

シンジは、レイのことが好きなことは間違いない・・・じゃ、レイは本当にシンジのこ
とが好きなの?

レイの態度を見ていると、ふつふつと疑問が沸いてくる。自分と照らし合わせて見ると、
とても好きな相手に対する態度だとは思えない。

アタシは、どうすれば・・・。

<レイの団地>

そのころレイは、ベッドでうつぶせに寝ていた。

どうして、私はあんなことを言ったの?
碇くんとあの人がうまくいけば・・・アスカが私に振り向いてくれるから・・・。

無意識に出た,シンジとマナが仲良くしていたことをアスカに告げる言葉に、レイは困
惑していた。

私は、アスカが好き・・・。
でも・・・私には碇くんへの償いがある・・・。

何かが、レイの心をチクチクと突いている。それが何かは、わからない。

私は、アスカの元へ帰りたい・・・。

マナの出現により、自分のこと,シンジのこと,そしてアスカのことを再び見なおすこ
とができたレイは、真っ暗な団地の一室で1人で悩みつづけるのだった。

<学校>

今日の家庭科の授業は、男子も女子も調理実習だった。女子にしてみればお目当ての男
の子に公然と料理を食べて貰えるチャンスであり、男子はその逆なのだが、どこにでも
例外はある。

「シンジぃぃぃ、もうできた?」

「もうちょっとかな・・・。」

シンジが作るお好み焼きを楽しみに待つアスカ。

「へぇ、碇くんって料理上手なんだぁ。わたしも食べてみたいなぁ。」

「ムッ!」

シンジと2人で話をしているところへ、またしても割っては入ってきたマナに、アスカ
は露骨に嫌な顔をする。

「別にいいよ。みんなで食べようよ。」

「じゃ、わたしの作った焼きそばも、碇くんに分けてあげるね。」

「む〜!」

「そういや、アスカは何を作ってるの?」

「え? アタシは・・・。」

アスカはヒカリとパートナーを組んでいたのだが、それは名ばかりでヒカリが2人分の
料理を作っている。

「あぁー、ダメじゃないか。委員長にまかせてたら。」

「だって・・・お好み焼きなんて、食べたこともないんだもん・・・。」

「そっか・・・アスカは知らないんだ、じゃあ今度作り方を教えてあげるよ。」

「本当?」

シンジの言葉に、2人っきりで料理をする構図を思い浮かべたアスカは、思わず笑みを
こぼしてしまう。

「だから、予行演習のつもりで洞木さんと一緒に作っておくといいよ。」

「うん、わかった。」

アスカは、大喜びでシンジに言われた様にヒカリと一緒にお好み焼きを作り出す。そし
て、数分後には調理実習室のあちこちから美味しそうな香りが漂い始めた。

「アスカ、ちょっと食べてみてくれないかしら?」

レイが、自分の作った焼きそばを小さなお皿に入れてアスカの所へ持って来た。

「どれどれ。」

一口食べてみる。

もぐもぐ。

「へぇ、おいしいんじゃない?」

「そう、よかった。」

「シンジにはあげないの?」

お好み焼きを作ることに熱中していたので今まで気付かなかったが、シンジの方を振り
向くとマナと楽しそうにお好み焼きを食べている。

「シンジ・・・。レイ、アンタ何も言わないの?」

「・・・・・・・・・・。」

「どうしたのよ。」

少し躊躇したレイだが、ボソボソと言葉を絞り出す。

「碇くん、あの人のことが好きみたいだから。」

あの、レイばっかり見ていたシンジに限って、そんなことありえない・・・。
でも・・・このままだとシンジとレイは別れるかも・・・そうすれば。

アスカの頭の中で、悪魔と天使が格闘する。しかし、それはレイの頭の中でも同じこと
だった。

このまま、碇くんがあの人と一つになれば、アスカは私を見てくれるかもしれない。
でも・・・それじゃぁ、アスカは・・・私の碇くんへの償いは・・・。

「綾波、お好み焼き作ったんだ、食べてみてよ。」

2人が自分自身と戦っている所へ、くったくの無い笑みを浮かべてシンジがお皿にお好
み焼きを入れて持って来た。

「・・・・・・・。」

「どうしたの?」

まだ、自分がどうすればいいのか結論を出していないレイは、すぐに対応できずなんと
答えていいのかわからない。

「食べてみてよ。美味しくできたつもりだけど?」

「私・・・いらいない・・・。」

「あ、綾波!」

自分の中で結論を見出せなかったレイは、シンジに背を向けると逃げる様に自分の席へ
と戻って行く。

「シンジっ!」

横で見ていたアスカが声をかけてくるが、シンジは上の空でレイの方を悲しげな瞳で見
つめている。

「シンジっ!」

「あ・・・何?」

「いくらなんでも・・・。」

そこまで言ったアスカだが、それ以上言葉が出てこなかった。この言葉を言うと、自分
にはもう可能性がなくなるかもしれないという想いが、アスカの言葉を遮ってしまって
いた。

「なんでもない・・・。」

とぼとぼとアスカも自分の席へと帰って行く。しかし、シンジはそんなアスカのことは
見ておらず、レイの方ばかりを見ているのだった。

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放課後、シンジは図書室にいた。

どうしよう・・・。綾波、勘違いしてるよ・・・。
霧島さんとは何でもないのに・・・。

調理実習以来、シンジはレイと口をきいていなかった。レイと話をするのが恐くて、近
寄ることもできなかったのだ。

「碇くん。」

見上げると、そこにはマナの姿があった。

「霧島さん・・・。」

「ちょっと、いいかしら?」

「ごめん・・・1人にしておいてほしいんだ。」

「今日は、ごめんね。わたしが碇くんと料理を食べてたから・・・おかしなことになっ
  たみたいで。」

「霧島さん・・・。」

「わたしに、何か手伝えることあるかな? このままじゃ、なんだか悪くって。」

申し訳なさそうな顔つきでうつむいたまま、マナはシンジの横に座った。

「ごめん・・・。」

「そう・・・。それじゃぁさ、気晴らしの相手くらいはさせてよ。」

「え?」

「そうねぇ、どんな話がいいかなぁ・・・そうだ! エヴァってどうやって操縦するの?」

「エヴァ?」

「聞きたいなぁ。」

小首をかわいく傾げて、甘える様な声を出しながら上目遣いでシンジを見つめるマナ。

「操縦っていっても、動けって念じるだけだから・・・。どうやってというわけじゃ・・・。」

「レバーとかペダルとかは無いの?」

「うん。LCLっていう液体に入ると、神経がエヴァと直結するんだ。」

「ふーーん。」

レイ以外のことに意識を少しでも向けることにより楽になったシンジは、エヴァのこと
をマナにいろいろと教えてやる。

「シンジっ!」

しばらく話をしていると、週番で遅くまで教室に残っていたアスカが、いつのまにかシ
ンジの後ろに立っていた。

「エヴァのことを喋っちゃダメじゃない。」

「え・・・あ、うん・・・。」

「あ、ごめんなさい。部外者には秘密のことだったのね。」

「だいたいなんで、アンタはエヴァのことなんか知りたがるのよ!」

「うーーん、ちょっとかっこいいなぁって思って。」

「とにかく、極秘事項だから。悪いけどこれ以上は言えないの。」

「ごめんね、碇くん。変なこと聞いちゃったみたいで。」

「いいんだ。ぼくが悪いんだし。それに霧島さんのおかげで、ちょっと気分が落ち着い
  たよ。」

「シンジ、帰りましょ。」

「うん。」

シンジとアスカが図書室を出て行くと、マナは人気の無い廊下の隅で携帯電話を取り出
し耳に当てた。

<通学路>

シンジとアスカは、学校を出てから無言で下校していた。

「・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・。」

学校からミサトのマンションまでの半分ほどの距離を下校した時、最初に口をきいたの
はアスカだった。

「シンジ・・・。」

「何?」

「ごめん・・・。」

「いいんだよ。ぼくも、うっかり極秘事項を喋ってたんだから。」

「違うの・・・。そのことじゃないの。」

「何が?」

「アタシね、このままいけばシンジとレイが別れるんじゃないかって・・・。そんなこ
  とばかり考えてて・・・。」

「アスカ・・・。」

「だってアタシには、もうそれくらいしかできないんだもん・・・。そんなことしか望
  みを託すところがないのよ・・・。」

「・・・・・・・・。」

「嫌な娘ね・・・アタシって・・・自分のことばかり考えて・・・。」

「そんなこと無いよ・・・。」

「どうして!? どうして、嫌な娘だって言ってくれないのよ!? こんなアタシなんか
  嫌いだって!! どうして、アタシに頬笑みかけるのよ!!」

突然、声を張り上げてシンジに食って掛かる。

「ぼくだって・・・自分のことばかり考えてる。」

「シンジは自分の好きな人のことを、考えてるだけじゃない!」

「それなら、アスカも一緒じゃないか。」

「違うわよ・・・アタシは・・・。」

「違う? 何が?」

「シンジは、自分の想いがかなった。だけど、アタシは・・・。」

「・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・。」

「あのさ・・・・本当に、綾波ってぼくのことを好きなの?」

「えっ?」

シンジの言葉に対して、肯定も否定もできないアスカはうつむいてしまう。

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

再び無言で歩く2人の間に、気まずい雰囲気だけが漂う。

「ぼくは・・・。」

「・・・・・・。」

「ぼくは・・・アスカのことを嫌いだとも嫌な娘だとも思ってないよ。」

「その優しさが・・・辛いのよ・・・。」

「アスカらしくないじゃないか!!」

「何が、アタシらしいってのよ!!!」

「このぼくですら、どんな状態になっても綾波を想い続けてるってのに! なんだよ、
  今のアスカはウジウジしてさっ!」

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

「でもアタシは、シンジと違って自分が嫌になっちゃったから・・・。」

「自分が間違ってたって思ったら、反省すればいいじゃないか。」

「シンジは、許してくれるの?」

「うん。」

アスカは、顔を伏せたまま歩き続ける。シンジもまた、同じ様にアスカの横を歩き続け
る。

「シンジ・・・ごめんね・・・。」

「お互い様だよ。」

「ありがとう・・・。」

アスカは何かが吹っ切れた様に、顔をあげるとシンジに頬笑みかける。

「それにしても、誰のせいでこんな想いしてると思ってんのよ! わかってんの!?」

「え・・・あ・・・ご・・・ごめん・・・。」

「ちゃんと、反省しなさいよね!」

「ごめん・・・。」

「反省したら、アタシのことを好きになりなさい!」

「・・・・・それは・・・。」

「あーあ、なんて顔してんのよ! 冗談よ・・・冗談。半分本気だけどねぇぇーー。さ
  ーーって、アタシもシンジに負けないようにがんばろっと!」

「じゃぁ、ぼくも。」

「アンタは、あんまりがんばんなくていいわよーーだ!」

2人は夕暮れの街を笑顔で歩きながら、ミサトのマンションに向って帰って行った。

<病院>

先日騒ぎとなったロボットが発見された。パイロットには同じ歳くらいの男の子が乗っ
ていたということを聞いたシンジは、その子が収容された戦自の病院にアスカ,レイと
一緒に来ていた。

「ICUはこっちよ。」

前に来たことがあるのか、病院の中を知っていたレイが、その子が入院しているICU
へシンジとアスカを連れて行く。

「話が違うじゃないですか!! ケイタをこんな目にあわせるなんて!!」

「おまえは、一度戻れ! 命令だ!」

「ひどい! もう信用できません!!」

扉が開き、シンジ達が入って来る。

「き・・・霧島さん!?」

ICUへたどりついた3人が見たものは、黒服の男と口論しているマナの姿だった。

To Be Continued.
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