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TwoPair
Episode 02 -アタシがライバル-
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<アスカの家>

トントントン。

幼馴染アスカが、夕食の準備をしている。両親が家に居ないことが多かった幼馴染アス
カは、通常アスカと違って家事はお手の物だ。

トントントン。

通常アスカ「へぇ、アンタけっこう上手いじゃない。」

幼馴染アスカ「当然でしょ! 毎日シンジのご飯も作ってたんだから。」

通常アスカ「ふーん。いつもシンジが作るから、アタシはあんまり料理したことないわ
            ねー。」

幼馴染アスカ「アンタ、料理もできないの?」

通常アスカ「むッ! できないこと無いわよ! あまりやらないだけよ!」

幼馴染アスカ「ふーーーーん。あっそ。」

この瞬間、幼馴染アスカの顔がニヤリとしたが、背を向けて料理をしている為、通常ア
スカは、気付かなかった。

フフフフフ、そう、料理ができないのね。フフフフフ。

庖丁を握り締めながら、ニヤニヤする幼馴染アスカ。人が見たら、逃げ出していたかも
しれない。

<レイの家>

トントントン。

こちらも、夕食の準備。当然のことながら転校生レイが作っている。通常レイは、その
様子を珍しそうに見つめていた。

トントントン。

通常レイ「なにしてるの?」

転校生レイ「晩御飯の準備よ。」

通常レイ「そう。初めて見たわ。」

転校生レイ「えぇ? あなた・・・料理とかしたこと無いの?」

通常レイ「栄養剤があるから、必要無いわ。」

転校生レイ「栄養剤って・・・。そんなもの捨てなさいよ! 体に悪いから、よく今ま
            で生きてこれたわね。」

通常レイ「赤木博士が調合してくれているから、大丈夫。」

転校生レイ「いい? 今日からわたしが料理をするから、そんな薬やめなさいよね。そ
            れから、あなたにも料理を教えてあげるから、覚えるのよ。」

通常レイ「どうして?」

転校生レイ「料理くらいできないと、生きていけないじゃない。」

通常レイ「命令ならそうするわ。」

転校生レイ「あなたねぇ・・・。命令じゃなくって、同居人として・・・いえ、家族と
            して、言ってるの。わかる?」

通常レイ「家族?」

転校生レイ「そう、家族愛ってのがあるでしょう? それよ。命令なんて言うのやめて
            よね。」

通常レイ「家族愛・・・。」

その言葉を噛み締めるように呟いた通常レイは、しばらくうつむいて考えていたが、再
び、転校生レイを見た時の顔は、どことなくうれしそうだった。

<ミサトの家>

シンジ「ミサトさーーーん。」

冷蔵庫を覗き込みながら、シンジが情けない声で、ミサトを呼ぶ。

ミサト「なによーーー。」

シンジ「今日は、引越しとかいろいろあって忙しかったから、晩御飯の材料を買いに行
        くの忘れてましたーーー。」

ミサト「えーーーーー。つまみも無いの???」

シンジ「何もありませんから、目玉焼きくらいしかできませんよ。」

ミサト「目玉焼きぃーーーーー? しゃーないわね。どっかに食べに行きましょうか?」

シンジ「すみません。」

ミサト「いいっていいって。わたしの食事当番も代わってもらってることだしね。感謝
        してるわよん。」

ミサトさんが作ったら、食べれないじゃないか・・・。ブチブチ。

シンジは、夕食くらいおごってもらっても、当然だという気分になってきた。

<アスカの家>

幼馴染アスカ「チャーーーーンス!!」

寝転がってTVを見ていた通常アスカがトイレに行った瞬間を見計らって、行動を開始
する幼馴染アスカ。料理を皿の上に乗せてミサトの家に飛んで行った。

<ミサトの家>

出かける準備のできたシンジとミサトは、玄関で靴を履いている途中だった。

ミサト「久しぶりに外食もいいわね〜。」

シンジ「そうですね。」

ミサト「さ! しゅっぱーつ!」

ミサトが軽快な掛け声を上げた時、玄関がひとりでに開いたかと思うと、幼馴染アスカ
が、料理を盛り付けた皿を持って入ってくる。

シンジ「アスカ・・・どうしたの?」

幼馴染アスカ「どうしたのじゃないわよ。シンジに料理を持ってきてあげたんじゃない。」

シンジ「へ? ぼくに?」

幼馴染アスカ「そうよ。光栄に思いなさいよね。」

シンジ「ありがとう・・・。へぇ、アスカは、料理ができるんだ。」

幼馴染アスカ「あんな、すぐに人を殴るような狂暴アスカとは一緒にしないでほしいわ
              ね。」

<アスカの家>

通常アスカ「あの娘、どこへ行ったのかしら・・・・・・・まさか!!」

トイレから出てくると、幼馴染アスカの姿が見えない。胸騒ぎがするので、ミサトの家
へとダッシュした。

<ミサトの家>

シンジ「アスカ・・・後ろ・・・。」

幼馴染アスカ「え?」

振り向くと、通常アスカが、両手を腰に当てて睨んでいる。

通常アスカ「アンタ! 人がいないと思って、あること無いこと吹き込まないでよね!!!」

幼馴染アスカ「あーーーら、本当のことじゃない!! さっき、何発もシンジを叩いて
              たの誰よ! だいたい、アタシは料理を持ってきただけよ! とやかく言
              われる筋合いは無いわ!」

通常アスカ「なんですってーーーーー!! そのコソ泥みたいな真似は何よ! フェアと
            かなんとか言っておいて、やってることはそれ!? 笑わせるんじゃない
            わよ!」

アスカ同士の口喧嘩は、苛烈を極める。おろおろするシンジと、ニヤニヤ見つめるミサ
ト。

シンジ「ちょっと、こんな所で喧嘩しないでよ・・・。」

通常アスカ「アンタは黙ってなさい!!」

幼馴染アスカ「シンジの所の冷蔵庫に、材料が残ってなかったから、余ったご飯を持っ
              てきてあげて何が悪いってのよ! 料理ができないからって、ひがまな
              いでほしいわね!!」

通常アスカ「だれがひがんでるってのよ!」

幼馴染アスカ「アンタに決まってるでしょ! とにかく、料理を渡しに来ただけだから、
              もう帰るわよ!」

ミサト「わるいわねぇ、アスカ・・・。」

ミサトが、嬉しそうに料理を盛り付けたお皿を受取ろうとするが、スッとその手をかわ
してシンジに手渡す幼馴染アスカ。

シンジ「あ、ありがとう。」

幼馴染アスカ「ミサトの分なんて、あるわけないじゃん。」

ミサト「・・・・・・・・。」

ミサトは、とぼとぼと1人で屋台のラーメンを食べに行った。

幼馴染アスカ「じゃ、シンジ、明日のお弁当も作ってあげるからね。」

シンジ「あ、ありがとう・・・。」

人に弁当を作ってもらったことのないシンジは、幼馴染アスカの言葉がうれしいのだが、
通常アスカのことが気になって、素直に喜べない。

シンジ「でも、アスカの弁当が・・・。」

幼馴染アスカ「大丈夫よ、ちゃんと3人分作るから。そんなせこい意地悪を、このアタ
              シがするとでも思ってるっての!?」

シンジ「そうだね。それならいいけど。」

通常アスカ「・・・・・・・・・・・・・・。」

<アスカの家>

あれ以来、2人は口もきかずに夕食を食べている。

なかなか美味しいけど、アタシにだってこれくらい作れるわよ!

言い合いで負ける形となった通常アスカは、くやしくてくやしくて仕方が無い。逆に幼
馴染アスカは、してやったりという感じで涼しい顔をしている。

たかが、ちょっと料理ができるくらいで、馬鹿にするんじゃないわよ!!

グサッ!!

ハンバーグにフォークを突き立てる通常アスカだった。

<ラーメンの屋台>

ズルズルズル。ズルズルズル。

<レイの家>

転校生レイは、まだシンジ争奪戦に参戦できる状態ではなかった。まずは、通常レイを、
一般的な女の子並みの生活ができるように、教育しなければならない。

転校生レイ「ねぇ、あなた、あんな所に1人で住んでいて、寂しくなかったの?」

通常レイ「ええ。」

転校生レイ「ふーーーん。馴れればそんなものかしらねぇ。わたしなら、1日も耐えれ
            ないわ。」

何気ない話をしながら、料理を盛り付けた皿をテーブルに並べる。その様子を、立った
まま、ただ眺める通常レイ。

転校生レイ「あなたも、手伝ってみる?」

通常レイ「よくわからない。」

転校生レイ「教えてあげるわよ。お皿くらい割ってもいいから、一緒にやりましょ。」

通常レイ「いいの?」

転校生レイ「もちろんよ。さっ。」

転校生レイは、箸やコップを通常レイに手渡す。見よう見まねで食卓に並べる通常レイ。
その顔には、かすかに笑みが漏れていた。

転校生レイ「さぁ食べましょう!! かんぱーーーい。」

転校生レイは、ジュースの入ったコップを差し出すが、通常レイは一瞥しただけで、箸
に手をかけ食べだそうとする。

転校生レイ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あはははっ。」

1人でコップを高々と差し出し、浮いてしまった転校生レイ。

転校生レイ「ちょっと、乾杯くらいしましょうよ。」

通常レイ「どうして?」

転校生レイ「お祝いだからよ。」

通常レイ「何の?」

転校生レイ「新しい、家族ができたお祝いよ。」

通常レイ「家族・・・。」

通常レイは、手にしていた箸を置くと、ジュースの入ったコップを眺める。

転校生レイ「さぁ、手がしびれてきちゃうじゃない。早く乾杯しようよ。」

通常レイは、おずおずとコップを手に持ち、ゆっくりと上げてみた。

カチン。

転校生レイが、そのコップに自分のコップを重ねる。

転校生レイ「新しい家族に、かんぱーーーい!!」

通常レイは、何もいわなかったが、すこし恥ずかし気にジュースを飲んだ。
通常レイにとって、初めての乾杯の儀式。初めての自分の為のお祝い。
おそらく今日という日は、通常レイにとって、一生忘れられない日になるであろう。

<ラーメンの屋台>

ズルズルズル。ズルズルズル。シクシク。

<アスカの家>

既に深夜。

通常アスカは、キッチンの電気だけをつけて、ジャガイモの皮を剥いていた。
庖丁の持ち方、物の切り方を知らない通常アスカは、我流で料理を作っていく。
シンジなどが見たら、危なっかしいことこの上ない作り方である。

通常アスカ「痛!」

もう、指を切ったのは何度目だろう。

細かい切り傷がいくつも指にできていた。既に横に置いてあるバンドエードをまた一つ
取り出す。

どうしてたかが料理で、こんなに苦労しなきゃいけないのよ!!!!

再びジャガイモを剥き出す。既に剥き終わったジャガイモを見ると、でこぼこで原形を
とどめていない。

通常アスカ「ふーーーー。ようやく終わったわね。」

ありったけのジャガイモを剥き終わった通常アスカは、レシピが書かれている本を手に
取り読み出す。

まったく、簡単に書いてある癖に、実際にやってみると難しいのよね。
この本を書いた人間が無能なのかしら?

じっくりと読みながら、肉じゃがを作っていく通常アスカ。

ぐつぐつぐつ。

煮えてくる。

こんなものかしらね。

頃合いを見計らって少し皿に取ると、味見をしてみる。

・・・・・・・。

もう一度皿に少し取り、味見をする。

美味しくない・・・。

ミサトに比べると遥かに料理らしい味だが、通常アスカが期待していた味とはかけ離れ
た物だった。

通常アスカ「ちくしょーーーーー。」

通常アスカの目から、涙が零れ落ちる。

どうしてよ!!! 本に書いてある通りに作ったじゃない!!! どうしてなのよ!!!

バサッ!!

レシピの本を振り上げると、思いっきり床に投げつける。

こんな本!!!

足で蹴飛ばす通常アスカ。

その頃、部屋で寝ていた幼馴染アスカは、リビングから聞こえてくる物音に反応して、
目を覚ます。

なにかしら?

気になった幼馴染アスカは、そーーーーっと、部屋の襖を開けて覗いてみると、そこに
は、剥き終わったジャガイモに庖丁を入れている、通常アスカの姿があった。

通常アスカ「痛!」

バンドエードを取り出すと、指にまく通常アスカ。良く見るとあちこちにバンドエード
が貼ってある。

あの娘・・・・・・・・・・。

幼馴染アスカは、そっと襖を閉めると、そのまま知らない顔で再び眠りについた。

翌朝。

幼馴染アスカは、いつもの習慣で6:30に目が覚める。

幼馴染アスカ「ふあーーーーーーーーーーーーーーー。」

伸びをする幼馴染アスカ。

あの娘、ちゃんとお弁当できたのかしら?

耳を澄ませて、キッチンの音を聞くが、静まり返っている。

仮にもアスカなんだから、途中で諦めたりしないはずね。

再び布団に潜り込む幼馴染アスカ。

7:30。

ふーーー退屈ね。そろそろ起きようかな。

もそもそと起きだし、リビングに出て行く。

幼馴染アスカ「いっけなーーーーーい、寝坊しちゃったわ!!!」

反応が無い。

夜遅くまでお弁当作ってたから、まだ寝てるのかしら?

とにかく、シャンプーをして、着替える。

7:50。

いいかげん起きてきてよね! 朝ご飯も食べれなくなるわよ!!

我慢しきれなくなった幼馴染アスカは、通常アスカの部屋へ入って行く。

幼馴染アスカ「このバカアスカ!! いつまで寝てるのよ!! さっさと起きなさいよ!!」

叫ぶと同時に、通常アスカの布団を一気に剥ぎ取る幼馴染アスカ。

通常アスカ「え・・・・もう朝?」

時計を見ると、7:50。

通常アスカ「えーーーーーーー!!! なんで、もっと早く起こさないのよ!!」

幼馴染アスカ「アンタが起きないのが悪いんでしょ!! さっさと学校に行かないと遅
              刻よ!!!」

通常アスカ「ウッサイわねーーー!! わかってるわよ!!」

あわてて着替える通常アスカ。

幼馴染アスカ「リビングで待ってるから、急いぎなさいよ!」

しばらくして、リビングに通常アスカが出てきた。

通常アスカ「さーーー行くわよ! お弁当貸しなさいよ!」

幼馴染アスカ「へ? お弁当って・・・昨日アンタが作ってたじゃない。」

通常アスカ「・・・・・・・え? な、なんで知ってるのよ!!」

幼馴染アスカ「昨日・・・夜中見ちゃったのよ。で、どこにあるの?」

通常アスカ「昨日作ったのは、あれよ!」

そこには、失敗作の肉じゃがと、わりとうまくいったシチューが鍋の中に納まっていた。

幼馴染アスカ「お弁当は?」

通常アスカ「昨日は、くやしかったから、練習してただけよ。アンタが作るって言って
            たんだから、その権利を勝手に横取りするような真似はしないわよ!
            って、まさか・・・アンタ・・・。」

幼馴染アスカ「・・・・・・・・・。」

通常アスカ「・・・・・・・・・。」

お互いの顔を見詰め合うアスカコンビ。

通常アスカ「プッ。」

幼馴染アスカ「フフフフフ。」

その後、2人は時間も忘れて、リビングで笑い転げた。そう時間も忘れて。

To Be Continued.
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