------------------------------------------------------------------------------
TwoPair
Episode 13 -新たな学園生活-
------------------------------------------------------------------------------

<学校>

学園の案内を一通り終わった一同は、夕食の時間も近いということでそれぞれの寮へ帰
ることにした。

さくら「それじゃ、そろそろ寮に戻りましょうか?」

転校生レイ「そうねぇ、もういい時間だし。」

さくら「綾波さんの部屋、あたし達の部屋に近いから案内しましょうか?」

転校生レイ「そうね、レイも一緒に帰ろっ。」

通常レイ「ええ、そうするわ。」

同室のレニが学校案内に来なかったので、通常レイもさくらや転校生レイと一緒に帰る
ことにする。

アイリス「アスカは、アイリスと一緒に帰るもんね。」

通常アスカ「よろしくね。」

通常アスカが少し腰をかがめて頭を撫でながらお礼を言った時、少しアイリスの目がぴ
くりと震える。

すみれ「それじゃ、そちらのアスカさんはわたしくしと部屋が近いですから、一緒に帰
        りましょうか。」

幼馴染アスカ「はぁーあ、あんな女と同室なんてさいっていだわっ!」

織姫のことを思い出した幼馴染アスカは、どうも気が合わないらしくぶぅぶぅと文句を
言っている。

シンジ「そんなこと言っちゃ駄目だよ。もっと仲良くしなくちゃ。」

すみれ「そうですわね。」

すみれはそう言いながらシンジの手を握って仲良く寮へ向かおうとするが、それを見た
幼馴染アスカは目を吊り上げて間に割って入った。

幼馴染アスカ「ねぇねぇ、すみれ? 晩御飯は何時くらいかしら?」

すみれ「え!? そ、そうですわね。6時半くらいからですわよ?」

突然、無理矢理に自分の手を奪い取って夕食の話を持ち出した幼馴染アスカに、きょと
んとしながら答える。

幼馴染アスカ「そ、そうなの? もうお腹ぺこぺこなのよぉ。」

すみれ「あら、そうですの? でも、あと少しの辛抱ですわよ。」

幼馴染アスカ「そっかぁ。よかったぁ。」

すみれに対して、めいいっぱいの作り笑顔を浮かべながら答えた後、幼馴染アスカはく
るりとシンジの方へ向き直った。

シンジ「うっ!」

その顔は怖かった。幼馴染アスカはシンジを睨み付けながら、耳元でぼそりとつぶやく。

幼馴染アスカ「あんまり仲良くして、変なことしたら殺すわよっ!!」

シンジ「へ、変なことって・・・。」

ぼくにどうしろっていうんだよ・・・。
だから、こんな所に来るの嫌だったんだ。

シンジはたじたじになりながら、自分に女装までさせて無理矢理こんな所に送り込んだ
ミサトを恨むのだった。

<幼馴染アスカの寮>

幼馴染アスカは、シンジの部屋から少し離れた所に位置する自分の部屋の前まで、すみ
れに案内されてやってくる。

すみれ「ここが惣流さんのお部屋ですわ。わからないことがあれば、織姫さんに聞かれ
        るとよろしいですわよ。」

幼馴染アスカ「ええ、わかったわ。」

そう返事だけはするものの、誰があんな女なんかに聞くものかっ!と、扉の向こうにい
るであろう織姫を睨み付ける。

すみれ「それじゃ、碇さん参りましょうか?」

シンジ「そ、そうだね。」

幼馴染アスカ「シン・・・ユイっ! わかってるんでしょうねっ!」

シンジ「わかってるよ・・・ははっ・・・ははははっ・・・。」

すみれ「どうなされましたの?」

シンジ「な、なんでもないよ。それじゃ、アスカ、また後で・・・。」

幼馴染アスカ「ええ。」

すみれと歩いて行くシンジを少し心配気に見送っていた幼馴染アスカだったが、今はひ
とまず自分の目の前の問題を考えることにする。

はぁ・・・なんでアタシだけ、あンな生意気な女と同室なのよっ!?

自分のことはおしとやかな娘だとでも思っているのだろう。幼馴染アスカは、溜息をつ
きながら、部屋の扉を開けて部屋へと入って行った。

織姫「アーラ、ハヤカッタデスネェ。アナタノ ツクエト、ベッドハ ソコトソコデース。
      ワタシハ、イマ ベンキョウチュウ デスカラ コエ カケナイデ クダサーイネ!」

机に向かって勉強をしていた織姫は、幼馴染アスカが部屋に入るとパッパと事務的に机
とベッドを指して部屋の説明をする。

幼馴染アスカ「あっそ。」

織姫「ム!? アッソ トハ ナンデースカ! ヒトガ シンセツニ オシエテイルノデスカ
      ラ オレイクライ イイナサーイ!」

幼馴染アスカ「声掛けるなって言ったから、声掛けなかっただけでしょーがっ!」

織姫「ワタシハ ウルサクシナイデホシイ トイウイミデ イッタノデース。ソンナコト
      モ ワカラナイノ デスカ? アナタ バーカデスカ?」

幼馴染アスカ「ぬ、ぬわんですってーーーーーッ!!」

見下す用にバカにした目つきでそう言ってのけた織姫に、とうとうブチ切れた幼馴染ア
スカは、次の瞬間飛び掛かっていた。

織姫「ハンッ! アナタナンカニ マケマセーーン!」

待ってましたと言わんばかりに応戦する織姫、それからしばらくの間、醜い争いが狭い
部屋の中で繰り広げられるが、今は本筋に関係無い為省略する。

<通常アスカの寮>

通常アスカは、アイリスと部屋へ帰ると制服を脱いで自分のタンスに掛け始めた。

アイリス「アスカお姉ちゃん、まだ着替えちゃ駄目だよ。晩御飯の時は制服じゃなくち
          ゃいけないんだよ。」

通常アスカ「えっ、そうなの? ふーん。ご飯の時くらい私服で行かせてくれてもいい
            のにね。」

アイリス「うちの学校は家に帰る時以外、寮から出る時は制服じゃなくちゃ駄目なの。」

通常アスカ「はぁ〜、これだからこういう学校は非効率的でダメなのよねっ。」

アイリス「仕方無いよ。規則だもん。破ったら、シスターにおしり叩かれちゃうんだよ。」

通常アスカ「はいはい。」

そんなことをしたら即刻死刑だと思った通常アスカだったが、ここはアイリスの言葉に
従って、脱ぎ掛けたスカートを再び腰まで上げ身に付けると、ベッドに腰を降ろした。

通常アスカ「ねぇ、アタシのベッドはどっち?」

ベッドに腰を下ろしながら、2段ベッドを見渡す。

アイリス「上だよ。アイリス、寝ぼけて落ちることがあるから、上は駄目なんだぁ。」

通常アスカ「あははははははは、そうねぇ。アタシもアイリスくらいの時にはそうだっ
            たかもねぇ。」

アイリス「アイリスっ! 寝相が少し悪いだけだもんっ!!!」

今まで和気あいあいと話をしていたアイリスだったが、突然そう叫ぶと机の前にある椅
子にどっかと腰を降ろして、明日の時間割をカバンに詰め始めた。

どうしたのかしら???

アイリスのことが少し気になった通常アスカだが、気まぐれだろうと思ってあまり気に
しないことにした。

<シンジの寮>

すみれと一緒に自分の部屋へとやってきたシンジは、身の置き場に困りながら、部屋の
隅でじっと座っていた。

すみれ「どうなさったんですの? そんな所にお座りになって。」

部屋に戻ると、早速今日の宿題を始めたすみれだったが、緊張した面持ちでじっと座っ
ているシンジが気になったのか、ペンを置き声を掛ける。

シンジ「え・・・。う、うん。」

すみれ「ご遠慮なさらずに、おくつろぎなさいな。今日からここは碇さんの部屋でもあ
        るんですから。」

シンジ「そ、そうだね・・・はははは。」

そうは言われても、遠慮しているわけではなく、見知らぬ女の子と同じ部屋にいるので
緊張しているだけなのだが、その真実も語れず困り果てる。

どうしようかな・・・。

シンジは視線の持って行き場所を探し、8畳ほどの部屋をぐるりと見渡すと、2段ベッ
ドと2つの勉強机、そして2つの洋服ダンスが配置されている。部屋の中央には、すみ
れの私物らしき小さなガラスのテーブルが置かれていた。

シンジ「紅茶でも入れようか?」

すみれ「いいですわね。わたくし、お紅茶にはうるさいんですのよ。」

すみれはそう言いながら、いくつかの高価そうな紅茶の缶をタンスの上から取り出す。

シンジ「へぇ、すごいねぇ。こんなにいっぱい。」

すみれ「どれが、よろしいでしょうか?」

シンジ「うーん、どれでもいいよ。ぼくはお湯を汲んでくるから、どれか決めておいて
        くれるかな?」

すみれ「わかりましたわ。」

部屋を出たシンジは、少し廊下を歩いた所に置かれている共同のポットから、すみれに
借りたティーポットにお湯を入れに行く。

はぁー、緊張するなぁ。
こんなの、ばれないようにするなんて、無理だよ・・・。困ったなぁ。

ティーポットにお湯を注ぎながら、部屋に帰ってからどうしたものかと悩む。

アスカに相談してみようかな・・・。

お湯を注ぎ終わったシンジは、自分の部屋の前を通り過ぎると、少し向こうにある幼馴
染アスカの部屋へと歩いて行った。

<幼馴染アスカの寮>

ドタン! バタンッ! ドタドタドタッ! ガツンッ!

幼馴染アスカ「キーーーーー!! やったわねっ!!!」

織り姫「イ、イタイデーース! ヨクモ ヤッテクレマシタネ!」

ドタドタドタッ! ゴロゴロゴロッ! ゴツンッ!

アスカの部屋の前まできて、ドアをノックしようとしたシンジだったが、部屋の中から
聞える凄まじい物音にその手を止めた。

アスカ・・・忙しいみたいだから、やっぱりやめとこう・・・。

シンジは、何も聞かなかったことにして、自分の部屋へと戻ることにした。

<シンジの寮>

シンジ「お湯入れてきたよ。」

すみれ「ポットの場所は、おわかりになられた様ですわね。お帰りが遅いので、心配い
        たしておりましたの。」

シンジ「なんとかわかったよ。」

すみれ「今日はアップルティーでよろしいでしょうか? お夕食前ですので、お茶菓子
        はまた今度ということで・・・。」

シンジ「うん、それでいいよ。」

すみれはシンジからティーポットを受け取ると、お気に入りのティーカップを2つ用意
し、アップルティーを注いた。

シンジ「いい香りだね。」

すみれ「そうでございましょ?」

今の所、シンジはすみれと平和なお茶の時間を過ごすのだった。

<転校生レイの寮>

部屋に入った転校生レイは、2つ並んで配置されている木製の洋服ダンスに近寄って行
った。

「ねぇねぇ、サクラちゃんの服見せて貰ってもいいかな?」

さくら「ええ、いいわよ。レイちゃん。」

やはり洋服には興味があるのだろう。転校生レイは、どんな服が並んでいるのかと興味
しんしんでさくらの洋服ダンスを開いた。そこには何着かの洋服も掛けられていたが、
一際目立ったのはさくら色の着物と紺色の袴であった。

転校生レイ「わぁぁ、これ着物じゃないの?」

さくら「うん、そうよ。」

転校生レイ「ねぇねぇ、着て見せてよぉ!」

さくら「え? いいけど? どうして?」

転校生レイ「だってわたし、着物なんて一着も持ってないんだもん。見てみたいっ! 見
            てみたいぃ!」

さくら「わかったわ。ちょっと待ってね。」

転校生レイにせがまれたさくらは、制服を脱ぐとサラシを取り出してブラの代わりに胸
に巻き始めた。

転校生レイ「わぁっ! 本格的ねぇっ!」

さくら「ええ、うちの家系って剣術の道場をしてるから、小さい時からやらされてたの。」

転校生レイ「さくらちゃんすっごーーーい。あっ! ねぇねぇ、これって竹刀じゃないの?」

さくら「木刀は学園に持ち込んだら駄目って言われたから、代わりに竹刀を持って来て
        るの。」

転校生レイ「ねぇ、構えてみせてよ。」

ミーハー根性丸出しの転校生レイは、珍し物見たさに目を輝かせて竹刀を持って手渡そ
うとする。

さくら「いいわよ。」

さくらはそう言うと、目を閉じてそっと竹刀を中段に構えた。

転校生レイ「わぁぁぁぁぁっ! さくらちゃんかっこいいっ!!」

さくら「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

目を閉じてじっと神経を集中している。

転校生レイ「ねぇねぇ、ちょっと振ってみせてよ。」

さくら「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

転校生レイ「ねってばさぁぁぁぁ。」

さくら「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

転校生レイ「さくらちゃん? どうしたの? ねぇねぇ。」

竹刀を持ってからというもの、さくらは何を話し掛けても一言も喋らず身動き一つしな
くなってしまった。転校生レイは、どうしたのかと小首を傾げて近づいて行く。

「!」

転校生レイがさくらの顔を覗き込んだ途端、キッと見開くさくらの瞳。

さくら「たぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっ!!」

次の瞬間、転校生レイの眉間の前数ミリの所まで、竹刀がもの凄い勢いで一気に振り下
ろされてきた。

転校生レイ「キャャャャャーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!」

突然のことに、思わず腰を抜かしてその場にへなへなとへたり込んでしまう転校生レイ。

転校生レイ「あわわわわわわわわ・・・・。」

腰が抜けた様な格好で尻餅をついて、竹刀を寸止めしているさくらを涙目で見上げる。

さくら「あはははは。ごめーん。冗談よっ。」

それまで真一文字に口を食い縛り、真剣な目をしていたさくらだったが、ぺろりと舌を
出して笑いながらおどけてみせた。

転校生レイ「えっ・・・・・?」

さくら「びっくりした?」

転校生レイ「あ、あぁぁぁぁぁぁ! ひ、ひどーーーーいっ!!!」

ようやくからかわれたことに気が付いた転校生レイは、ほっぺたを膨らませてさくらを
睨み付けた。

転校生レイ「ひっどーーーいっ! ひどいひどいひどいひっどーーーいっ!!」

さくら「ごめんごめん。ねぇ、もう許してっ。」

転校生レイ「もうっ! 許さないんだからねっ!!」

さくら「そんなに怒らないでよぉ。ちょっとした冗談なのにぃ。ごめんってちゃんと謝
        ってるじゃなーい。」

ちょっと悪ふざけが過ぎたかと平謝りするさくらに、ぷーーーっと膨れっ面で睨み付け
る。

転校生レイ「許して欲しい?」

さくら「うん。ねぇ、もう許して。ごめんっ!」

さくらは両手を合わせて、謝りながら懇願する。

転校生レイ「それじゃ、今のやつわたしにも教えてくれたら許してあげるっ。」

さくら「うん。わかったから。許してね。」

転校生レイ「約束だからねっ。」

さくらと指きりしながら転校生レイは、アスカコンビが腰を抜かして驚くシーンを想像
して、ニヤニヤと子供が新しい悪戯を思い付いた時の様な笑顔を浮かべるのだった。

<通常レイの寮>

通常レイが部屋に帰って来てからというもの、レニは一言も喋らず哲学の本を読み続け
ているので、通常レイも横の勉強机に座って昔の様にただ詩集を読んでいた。

・・・・・・・・・・・・・。

少し前までは詩集を読むと人の心に振れることができた様な気がして、何時間読んでい
ても嫌にならなかったのに、なんとなく空しさを感じる。

・・・・・・・・・・・・・。

もちろん、今でも詩集を読むと心温まることも確かではあったが、昔ほど熱中すること
ができない。

通常レイ「はぁ〜・・・。」

通常レイは詩集を閉じると机の引き出しに仕舞い込み、ひたすら本を読み続けるレニの
横顔を見つめた。

あなたは、どうして本を読むの?
私は心を詩集に求めていたけど、あなたはその本に何を求めているの?
あなたを見ていると心が痛い・・・。

転校生レイと一緒に暮らし始める以前の自分をレニに見ている様な気がして、心に隙間
風が吹き抜けていくのを感じる通常レイであった。

<食堂>

夕食の時間となり生徒達が一斉に食堂に集まる。席は自由だということで、真っ先に来
た転校生レイとさくらは、後から来る仲間達を手招きして自分達の所へ呼び寄せていた。

転校生レイ「アスカーーーっ! こっちこっちっ!」

幼馴染アスカ「あらっ、相変わらずご飯になると早いわねぇ。」

食堂に1人で入って来た幼馴染アスカは、転校生レイに招かれて食卓へと寄ってくる。

転校生レイ「あれぇ? どうしたの?  その手。」

近付いてきた幼馴染アスカを見た転校生レイは、バンソウコウを手や足にいくつも貼っ
ているのを見つけて驚いた表情で問い掛ける。

幼馴染アスカ「フンッ! 髪の毛引っぱるわ。ひっかくわ。さいっていよあの女っ!」

転校生レイ「え? 織姫さんと何かあったの?」

幼馴染アスカ「大有りよっ! あの織姫とかいう女にいきなり襲い掛かられたのよっ!」

転校生レイ「えーーーっ! 本当なのぉ? ひっどーーーいっ!」

さくら「本当に? 織姫さんって、そんなことする人じゃないはずなんだけど・・・。」

幼馴染アスカ「この傷が何よりの証拠よっ!」

丁度その時、幼馴染アスカより少し遅れて部屋を出た織姫が食堂へと入って来た。

織姫「ナーニヲイウンデスカッ! アルコトナイコト イワナイデクダサーイッ! サイ
      ショニ ケンカシテキタノハ アナタノホウデースッ!」

たどたどしい日本語が響き渡ったので、転校生レイとさくらが声のした方に振り返ると、
幼馴染アスカと同様、手や足にバンソウコウを貼った織姫の姿があった。関心するのは、
喧嘩をしていてもお互いの顔にだけは傷をつけていない点である。

転校生レイ「あーーー。そういうこと。ふーん、それなら納得できるわ。」

幼馴染アスカ「なによっ。それってどういう意味よっ!」

ニヤリと自分のことを見る転校生レイを、いたずらが見つかってしまった子供の様に上
目使いで見返す幼馴染アスカだったが、何かを見つけてその顔を引きつらせる。

幼馴染アスカ「あーーーーっ!!」

幼馴染アスカが突然大声を上げながらとある方向を指さしたので、転校生レイもそちら
に目を向けると、すみれと手を繋いで食堂に入って来るシンジの姿が見えた。

すみれ「また、食後もお紅茶を飲みましょうか?」

シンジ「そうだね。美味しかったよ。」

その和やかな雰囲気の2人の間に間髪入れずにダッと割って入る転校生レイと幼馴染ア
スカ。こういう時は、ばっちりとユニゾンしている。

幼馴染アスカ「さぁ、ユイ。一緒に座りましょうか。」

転校生レイ「ユイったら、ずいぶんと楽しそうじゃない?」

幼馴染アスカ「本当よねぇ。」

シンジ「え? いや・・・その・・・。」

幼馴染アスカ「何かいいことでもあったのかしらぁ? ちょーっとお話があるから、こ
              っちへ来てくれるかしら?」

転校生レイ「あら? 奇遇ねぇ。わたしもユイにだーいじなお話があったところなのぉ。」

シンジ「え? は、話って・・・。別にここでもできるんじゃないかなぁって・・・。」

幼馴染アスカ「いいからっ! いらっしゃいっ!」

シンジ「はい・・・。」

すみれから引き剥がされたシンジは、幼馴染アスカと転校生レイに両手をむんずと掴ま
れてズルズルと食堂の隅へとひきずって行かれるのだった。

すみれ「あら? どうなさったのかしら?」

さくら「さぁ。それより早くご飯にしましょ。」

すみれ「そうですわね。」

それからしばらくして、こっぴどく叱られたシンジと幼馴染アスカそして転校生レイが
食卓に戻って来た時には、通常レイや通常アスカも既に食堂へ来ていた。

通常アスカ「何処に行ってたのよっ!?」

幼馴染アスカ「あまりにもすみれとユイの仲がいいもんだから、どうしたらそんなにす
              ぐに仲良くなれるのか、秘訣を教えて貰ってたのよ。」

転校生レイ「お手て繋いで、食堂まで来るんだもんねぇ。びっくりしちゃったわ。」

2人の言葉を聞いた通常アスカの髪の毛が、みるみるうちに逆立って行く。それと同時
にみるみるうちに恐怖に顔を真っ青にしていくシンジ。

通常アスカ「なんですってぇぇぇぇぇぇ! ユイっ! ちょっといらっしゃいっ!!」

哀れかな、今度は通常アスカにズルズルと食堂の隅までひきずられていくシンジであっ
た。

転校生レイ「どう? レイの方は上手くいってるのかしら?」

通常レイ「え!? え、えぇ・・・。」

転校生レイ「どうしたの?」

通常レイの様子がおかしいので気になった転校生レイは、心配そうに顔を覗き込む。

通常レイ「ひさしぶりに詩集を呼んだわ。」

そう言いながら、数席離れた所で食事をするレニの方をちらりと横目で見る。

転校生レイ「詩集?」

通常レイ「ええ。最近は読んでなかったけど、前はいつも読んでたの。」

さくら「あら、そうなの? レニもいつも本を呼んでるみたいだから、気が合うかもし
        れないわね。」

さくらの何気無い言葉に転校生レイは少し顔を曇らせた。ようやく人並みの女の子らし
さが芽生えてきた通常レイが、また出会った頃の様な雰囲気に戻ってしまうのではない
かという不安さえ抱いてしまう。

転校生レイ「何か、困ったことがあったら相談してね。」

通常レイ「ええ・・・。でも1人で考えたいことがあるから・・・。」

転校生レイに簡単な相槌を打った通常レイは、食事に少し手を付けただけで食堂を出て
行ってしまう。

転校生レイ「レイ・・・。」

そんな食堂から出て行く通常レイの後ろ姿を、転校生レイは悲しげな目でじっと見送っ
ていた。

通常アスカ「あぁぁぁ、おなかぺこぺこーーー。」

通常レイと入れ替わりに意気揚々と戻ってきた通常アスカは、今まで通常レイが座って
いた席に腰を降ろす。その横には、ひどく疲れた顔をしているシンジがぐたぁっと腰を
降ろした。

通常アスカ「へぇぇ、学校のご飯にしたら結構美味そうなんじゃない?」

アイリス「そうなんだよ。うちの学校のご飯って、美味しいことで有名なんだからぁ。」

通常アスカ「どうりでねぇ。さっ、食べましょうか。」

アイリス「うん。」

食卓に並べられた夕食を黙々と食べ始める通常アスカ達一同。アイリスが自慢するだけ
のことはあって、なかなか美味しい。

通常アスカ「あら? どうしたの?」

ある程度食事が進んだ頃、ふと転校生レイの方を見るとあまり料理が減っていないこと
に気付く。食欲旺盛な転校生レイにしては珍しいことだ。

転校生レイ「え? ううん。何でも無いわ。ちょっと、今日は食欲が無くて・・・。」

通常アスカ「ふーん。珍しいこともあるものね。」

アイリス「ねぇねぇ、このお肉おいしいね。」

通常アスカ「そうねぇ。まぁ、ユイの料理にはかなわないけど。」

アイリス「えぇぇぇ。ユイお姉ちゃんって、そんなに料理が上手なんだぁ。」

通常アスカ「ええ、そりゃもう。」

通常アスカは自分のことの様に自慢気に威張りながらシンジの方を見ると、既に食事は
終わっておりなんとなく物足りない顔をしていた。

あっ、そっか。

女子校なので女の子の食べる量に合わせてある為、本来男であるシンジにしてみればト
ウジほどではないにしても物足りないのだ。

通常アスカ「ねぇ、ユイ。アタシの少し分けてあげましょうか?」

シンジ「え? いいの?」

転校生レイ「あっ! それなら今日わたし食欲無いから、わたしのをあげるわ。」

通常アスカ「いいわよ。アタシのをあげるんだから。」

転校生レイ「食欲ないから丁度いいじゃない。」

シンジ「そうだね。それじゃ、レイのを貰おうかな。」

通常アスカ「ぶぅぅぅぅぅぅっ!」

せっかく自分が思いついたアイデアを横取りされた通常アスカは、ジロリと転校生レイ
を睨み付ける。

転校生レイ「へっへーんだ。」

してやったりという顔でニヤリと笑った転校生レイだったが、すぐに真剣な顔に戻ると
席を立って食堂を後にした。

アイリス「ふぅ、お腹いーーっぱい。」

通常アスカと転校生レイの水面下の戦いなど知る由もないアイリスは、夕食を食べ終わ
り満足気な笑みを浮かべている。

通常アスカ「あら、偉いわねぇ。全部食べれたのね。」

アイリス「むっ!」

通常アスカ「どうしたの?」

アイリス「アイリス、これくらい全部食べれるもんっ!!」

そう言いながら、ジロリと通常アスカのことを睨み付けたアイリスは、食器を片付ける
とそそくさと食堂を出て行ってしまう。

通常アスカ「どうしたのかしら? 誉めてあげたのに。」

さくら「あのね。アスカさん、ちょっといいかしら?」

通常アスカ「なに?」

さくら「アイリスも、本来なら14歳なのよ。だから、子供扱いされるのをいつも嫌が
        っているの。」

通常アスカ「ふーーーん。でも、実際は11なんでしょ?」

さくら「そうなんだけどねえ。」

通常アスカ「無理に背伸びしたって仕方無いわよ。」

さくら「それもそうなんだけどね。」

アイリスがいなくなった後なんとなく暗い雰囲気になった食堂だったが、皆食事も終わ
りそれぞれの思いを胸にそれぞれの部屋へと帰って行った。

新たな学園生活はまだまだ初日を終わろうとしているところであった。

To Be Continued.
作者"ターム"へのメール/小説の感想はこちら。
tarm@mail1.big.or.jp
inserted by FC2 system