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TwoPair
Episode 14 -背伸び-
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<通常アスカの寮>

アスカが自分の部屋へと帰って来ると、アイリスは看護婦の帽子をかぶった茶色い熊の
ぬいぐるみと遊んでいた。

かわいいじゃない。
なんだかんだ言っても、まだ11歳ね。

通常アスカ「ねぇねぇ。その熊さん、何ていう名前なの?」

先程、変な別れ方をしてしまったので、通常アスカは仲直りの切っ掛けを作ろうと、ア
イリスの喜びそうな話題を振ってみる。

アイリス「ジャンポールだよ。アイリスのお気に入りなの。」

通常アスカ「へぇぇ、そうなんだ。そうだっ! アタシにもねぇ、お気に入りのぬいぐ
            るみあるのよ。」

通常アスカは、そう言いながら昔母親に買って貰った猿のぬいぐるみを、まだ整理して
いない自分の荷物が詰まっているボストンバッグから、ごそごそと取り出す。

アイリス「わぁぁぁぁ。本当だぁ。かわいいっ!」

通常アスカ「でしょう? モンキチって言うの。」

アイリス「アイリス、ジャンポールのこと好きなんだけど、子供みたいに思われるのが
          嫌だったの。お姉ちゃんも持ってるんだったら、恥ずかしくないねっ!」

通常アスカ「何が好きだっていいじゃない。そんなこと気にしないで、自分らしくして
            るのが一番だと思うわよ。」

アイリス「でも。アイリス、14歳だもん。」

通常アスカ「だからぁ、そんなに背伸びすることないって。」

アイリス「背伸びなんかしてないもんっ! アイリス、14歳だもんっ!!!」

ようやく仲直りの切っ掛けを掴めそうだったのだが、アイリスは怒ってしまいジャンポ
ールを抱いてベッドの布団の中に潜り込んでしまった。

はぁぁぁ・・・子供を相手にしたことないから・・・難しいものねぇ。

通常アスカはやれやれといった顔をしながら、今日持ってきた自分の衣服などを洋服ダ
ンスに片付けていくのだった。

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通常アスカ「よっしと。一通り片付いたわね。」

ようやく持ってきた荷物の片付けが終わった通常アスカは、汗を流したくなり風呂場へ
行こうと準備を始めた。

通常アスカ「ねぇ、アイリス? 一緒にお風呂行かない?」

あれっきり、布団の中に潜り込んでしまい顔を出さないので、今度はお風呂を理由に仲
直り作戦を実行。

通常アスカ「ねぇ、お風呂行きましょうよ。お風呂案内してくれないかなぁ?」

しかし、通常アスカが何度呼び掛けても、アイリスからは返事も無ければ、布団の中で
動く気配も全く無い。

通常アスカ「もう、いつまでふて腐れてるのよぉ。アイリスってばぁ。」

少しおどけて言いながらアイリスのベッドの布団を捲ると、ジャンポールを抱いたまま、
すやすやと眠るアイリスの姿があった。

ふぅ・・・。寝ちゃったのか。
変に背伸びしなくたって、十分かわいいのにね。

通常アスカは、アイリスに再び布団をかけると、お風呂セットを持って部屋を出て行く
のだった。

<シンジの部屋>

その頃、シンジは最大のピンチに立たされていた。

すみれ「どうして、お風呂を嫌がるんですの? 不潔ですわよ?」

シンジ「あ、後で入るからいいんだ。」

すみれ「そんなことおっしゃらずに、ご一緒しませんこと?」

シンジ「ま、まだ時間も早いから、ぼくはいいよ。」

すみれ「今入っておけば、後でのんびりできますのに。」

シンジ「ほ、本当にいいんだ。ちゃんと後で行くから。さ、先に行ってきてよ。」

後になっても行けるアテは無いのだが、とにかくこの場から逃れなければいけないと、
必死で抵抗するシンジ。しかし、すみれも変なところでひつこい。

すみれ「もうっ! 強情ですわね。そんな意地を張らずに一緒に行きませんこと?」

部屋の隅で立ちながら、かたくなに拒否するシンジの手を無理矢理取って、強引に風呂
に誘い続ける。

シンジ「本当にいいんだ。ぼくは、人が少なくなってから入りたいから。」

すみれ「皆で、入った方が楽しいですわよ?」

シンジ「いいんだ。本当にいいんだ。お願いだから許してよ。」

とうとう情けなくも、涙声になってきたシンジを見たすみれは、やれやれという感じで
さすがに諦めた。

すみれ「そこまで嫌がらなくてもよろしいのに・・・。仕方ないですわね。それじゃわ
        たくしだけで行ってまいります。」

ようやく諦めたすみれは、タンスから部屋着を取り出すと、今まで着ていた制服を脱ぎ
始める。

シンジ「わっ!!! わわわわわっ!!!」

すみれ「どうなさったんですの? 突然大きなお声をお出しになって。」

シンジ「いいから、早く着替えてしまってっ!」

着替え途中の下着姿のまま、顔を除き込んでくるすみれから目をそらしながら、シンジ
は顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにじっと床一点を見つめる。

すみれ「変なユイさんですわね。」

すみれはしばらく怪訝な顔でシンジを見ていたが、再び今脱いだ制服を洋服ダンスに掛
け始める。

すみれ「あ、あら大変っ!」

シンジ「どうしたの? わっ!!!」

すみれが突然大きな声を出したので、思わずシンジが顔を上げてしまうと、まだ下着姿
のすみれが巾着の中を覗き込んでいた。

シンジ「ま、まだ着替えてないなら、そう言ってよ・・・。」

再び床一転をじっと見つめる。もう顔は沸騰寸前だ。

すみれ「ユイさん? ちょっとお願いがございますの。」

シンジ「な、なに? それより、その前に早く服を着てよ。」

すみれ「あの・・・ちょっときらしちゃったみたいで、1つ貸してくれませんか?」

シンジ「何を?」

すみれ「生理用品ですけど? 余分はありませんこと? もう購買も閉まってますし。」

シンジ「せ、せ、生理用品!?」

素頓狂な声を上げて、顔をがばっと上げるシンジ。

シンジ「わーーーっ!!!」

再びすみれの下着姿が目に飛び込み、慌てて視線を床に戻す。

すみれ「先程からユイさん、何かおかしいですわよ?」

シンジ「ご、ごめん。あの、その。きょ、今日は持ってないんだ。」

すみれ「あら、そうですの? 仕方ありませんわね。さくらさんに借りてきますわ。」

ようやくすみれが、服を着て部屋から出て行ってくれたので、シンジは疲れ切った顔を
してへなへなと床に座り込んだ。

はぁ・・・こんなのずっと耐えれないよ・・・。

シンジはもやもやした頭のまま、すみれのいない間に部屋着に着替え始める。

そうだ、ミサトさんに連絡しなくちゃ。

なんだかんだ言っても、本来は任務でこの学校に来ている為、定時連絡は義務付けられ
ている。シンジは携帯電話を取り出し、プッシュボタンを押した。

プルルルルルルルル。

ミサト『はい、葛城です。』

シンジ「ミサトさんっ!? シンジですっ!」

『あーら、シンちゃん? どう? そっちの様子は?』

シンジ「『どう?』じゃないですよっ! 無理ですよっ! ぼくだけでも帰らせて下さい
        よっ!」

ミサト『あら? どうしちゃったの? 情けない声出しちゃって〜。』

シンジがいくら懇願しても、あくまで他人事の様におちゃらけた返事を返してくるミサ
ト。予想通りである。

シンジ「知らない女の子と同室になったんですよっ! なんとかしてくださいよっ!」

ミサト『あっらーー。シンちゃんったら〜。いきなり手出しちゃだめよぉ。』

シンジ「手って・・・。そんなことするわけないじゃないですかぁ。』

ミサト『それなら、問題無いじゃない。じゃ、楽しんできてねん。』

プチッ。

シンジ「ミサトさんっ! ミサトさんっ! ちょっと! 切らないでよっ! ミサトさんっ!
        ミサトさんってばっ!!!」

しかし電話からは、既にツーツーという発信音が無情にも一定のリズムを刻みながら聞
こえてくるだけだった。

ひどいよ・・・。ひどいよっ!!
ぼくがどんなに苦労してるのかもしらないでっ!!

シンジは部屋の隅で「の」の字を書いて、ミサトを恨むのだった。

<お風呂>

通常アスカがお風呂に入ると、そこには丁度織姫と幼馴染アスカ,そしてすみれが入っ
ていた。

すみれ「あら? アスカさんじゃないですか。」

通常アスカ「あっ、すみれじゃない。」

風呂の真ん中でキーキーとケンカをしている、幼馴染アスカと織姫も見えたが、あまり
そっちの近くに行きたくないので、すみれの近くに寄って行く。

織姫「ソレハ ワタシガ ツカオウトシテイタ ボディーシャンプーデース! カッテニサ
      ワラナイデ クダサーイ!」

幼馴染アスカ「アンタなんかに使われるより、アタシが使った方がこのシャンプーも喜
              ぶってもんだわっ!」

織姫「アンタ ナンカトハ ナンデースカッ!」

幼馴染アスカ「見てごらんなさい。アタシのこのプロポーションに対抗しようってのっ?」

腰に手を当てながら織姫の前でポーズを決め、勝ち誇ったようにニヤリと笑みを浮かべ
る幼馴染アスカ。

織姫「ソンナノ ムネガ ウシ ミタイナ ダケデースッ! ナンノ ジマンニモ ナリマッ
      セーン!」

幼馴染アスカ「な、ぬわぁんですってーーーっ!!」

この先2人がのぼせるまで、その喧嘩は続く。

すみれ「ユイさんって、どうしてお風呂を嫌がるんです? いくら誘っても一緒に来ら
        れませんでしたわ。」

通常アスカ「あははははははは・・・そうかもね。」

もしここにシンジが来てたりしたら、その場で死刑だったわよっ!!

すみれ「わたくしが着替えてる間も、じっと下を見つめてましたし。何か悩んでおられ
        ることでもあるのでしょうか?」

通常アスカ「な、なんですってっ!」

すみれ「どうなされたんです?」

通常アスカ「なんでも無いわよ。それより、あまりユイの前では着替えない方がいいわ
            よ。人が着替える所を見ると、突然踊り出す奇妙な癖があるから。」

すみれ「えーーーっ! そうなんですの? どうりで目を伏せておられましたわ。わたく
        しも、これから気をつけますわ。」

シンジの奴ーー。まだ床見てたらしいから許すけど、一目でもすみれの下着姿なんか見
たら即刻死刑よっ!!

少しの誤解から、真実を通常アスカに知られなかったシンジは、ひとまず命を長らえる
ことができたようだ。

でも・・・シンジのお風呂どうしようかしら・・・。
うーーん・・・夜中、アタシが見張りに立ちながら入れるしかないわね。

今後のシンジのことをいろいろと考えながら、通常アスカは体を洗い終え、幼馴染アス
カと織姫の金切り声が、とどろき続ける風呂場を後にした。

<通常アスカの寮>

通常アスカが部屋に帰ると、あの後目が覚めたのだろう。アイリスは、机に向かって勉
強していた。

通常アスカ「あら? 偉いわねぇ。宿題してるの? よかったら、教えてあげましょうか?」

アイリス「いい。アイリス、自分でできるもん。」

通常アスカ「そう? まぁ、宿題は自分でやった方がいいけどねぇ。」

通常アスカはドライヤーで頭を乾かしながら、勉強するアイリスの後ろ姿を微笑ましく
見つめる。

通常アスカ「ふあぁぁぁぁぁぁぁ。なんだか、今日はいろんなことがあって、眠くなっ
            ちゃった・・・。」

アイリス「・・・・・・・。」

通常アスカの言葉に耳を貸す様子も無く、アイリスは黙々と勉強している。

お勉強の邪魔しちゃ悪いから、時間は早いけど寝ようかな・・・。
あっ、そうだ。夜中シンジをお風呂に連れていかないといけないわね。

先ほど風呂場で考えていたことを思いだした通常アスカは、シンジにそのことを言いに
行った後、0:00に鳴る様に目覚まし時計をセットして布団へ潜り込んだ。

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ジリリリリリリリリリリリ。

けたたましく、通常アスカの耳元で目覚まし時計が鳴り響く。

通常アスカ「むぅぅぅぅぅー。ねむいーー。」

眠い目をゴシゴシと擦りながら、目覚まし時計を見ると、予定通り夜中の0:00を指
し示している。

通常アスカ「ふあぁぁ。さってと、アイツを連れて行ってやるか。」

むくっと起き上がったアスカが、2段ベッドから降りていくとアイリスはまだ勉強して
いた。アスカが寝たのが8時前だったから、もう4時間も勉強していることになる。

通常アスカ「やけに熱心じゃない。」

アイリス「うん・・・。ちょっと、わかんない所があるから・・・。」

この学校はここまで勉強しなければついていけないのだろうかと、通常アスカがアイリ
スの教科書を覗いてみるが、特に変わった所の無いごく普通の内容だった。

通常アスカ「どこが、わからないの?」

アイリス「えっと・・・ここ・・・。先生が言ってたんだけど、聞いててもよくわかっ
          てなかったみたい。」

アイリスが質問している問題を見た通常アスカは、自分の目を疑った。それは、ここま
で必死に勉強しなくては解けない様な、難しい問題ではなかったのだ。

通常アスカ「これ?」

アイリス「うん・・・。アイリス・・・小4からいきなり中2になったから・・・。」

そういうことか・・・。

そこまで聞いた通常アスカは、これだけ勉強してるアイリスが、どうしてこんな初歩的
な問題が解けないのか理解する。

通常アスカ「なら、小学校5年からどうして行かなかったの?」

アイリス「アイリス14歳だもんっ! それなのに、みんなそんなことばっかり言んだ
          っ! アイリス子供じゃないもんっ!」

通常アスカ「ア、アイリス・・・?」

アイリス「だからっ! 一生懸命勉強してっ! 勉強してっ! 14歳の女の子になるん
          だもん!」

通常アスカ「・・・・・・・・・・。」

突然のアイリスの感情の吐露に、通常アスカは目を丸くして絶句する。

アタシも・・・、そんなこと考えてた・・・。

通常アスカは、人に認めて貰いたくて、大人として扱かって欲しくて、努力して努力し
て、背伸びしていた頃の自分の姿を思い出す。

ごめん・・・。アイリス。

人に子供扱いされるのが何よりの嫌だったのに、自分を子供扱いしていた大人達と同じ
態度でアイリスに接していたのだ。

通常アスカ「ごめんね・・・アイリス。ごめん・・・ごめんなさい。」

アイリス「どうしたの?」

一生懸命勉強しているアイリスの姿に、数年前、大学受験にやっきになっていた頃の自
分の姿をダブらせてしまう。

アイリス「ねぇ、どうしたの?」

少し心配気にまじまじと見返してくるアイリスの姿を、じっと見つめていた通常アスカ
だったが、アイリスに微笑み掛け・・・そして、こう言った。

通常アスカ「アンタバカぁ? こんなのもわかんないのっ!?」

アイリス「え?」

突然の”アンタバカ”攻撃に、通常アスカはどうしてしまったのかと、思わず自分の耳
を疑うアイリス。

通常アスカ「こーんなの、中学2年だったら誰でもできるわよっ?」

アイリス「だって・・・。そんなこと言ったって、アイリス・・・3年間学校に行って
          なかったんだもん・・・。」

通常アスカ「甘えてんじゃないわよっ! アンタは14歳なんだから、これくらい解け
            て当然なのよっ! わかってんのっ!?」

アイリス「えっ!?」

アスカにバカにされて、泣きそうになっていたアイリスだったが、その14歳という言
葉にアスカの顔を見上げる。

通常アスカ「でも、アンタは幸運だったわね。こう見えてもアタシは、この歳で大学ま
            で卒業した天才なんですもの。アタシが教えたら、これくらいすぐに解け
            る様になるわよっ! なんたって、アタシは天才なんですからっ!」

アイリス「大学? 天才?」

通常アスカ「そうよっ! だから中学生の勉強なんて、アタシにとっては楽勝なのよっ!
            このアタシが、じきじきに中2のアンタに教えてあげるわっ!」

アイリス「すっごーーーい! アスカお姉ちゃん。」

通常アスカ「このアタシにかかれば、3年のブランクなんてあっという間よっ! その
            代わり、容赦しないからねっ! 」

アイリス「うんっ!」

こうして通常アスカは、小学校5年の基礎からできる限り効率良くアイリスに勉強を教
え始めた。

アイリス「ここが、よくわかんないの。」

通常アスカ「こーーんなの、簡単じゃん。こうして、こうしてね。」

アイリスも、子供扱いされるのが嫌で今まで人に聞こうとしなかったのだが、「この歳
で既に大学を卒業した天才」という特別さを強調されたので、素直に聞くことができた。

アイリス「さっすがねぇ。先生より、ずーーっとわかりやすい。」

通常アスカ「そりゃ、そうよっ! そこいらの教師と、このアタシを一緒にしないで欲
            しいわねっ!」

通常アスカはそう言っているが、わかりやすいのも当然である。なにせ、小学校5年か
らさかのぼって説明しているのだ。

アイリス「ありがとう、アスカお姉ちゃん。」

通常アスカ「アンタねぇ。同じ歳の娘に、お姉ちゃんなんて言って欲しくないわねっ!」

怒った口調でそう言いながら、にこりと微笑む通常アスカ。

アイリス「そ、そうね・・・。それじゃ・・・。えっと・・。」

通常アスカ「アスカでいいわよ。アスカでっ!」

アイリス「うんっ! アスカ。」

こうして、ようやく勉強が終わった通常アスカは、アイリスとの間にあったわだかまり
もなくなり、その夜は気持ちよく眠りにつくことができたのだった。
















<風呂場>

シンジ「アスカぁぁぁぁ。いつ来るんだよ・・・。」

To Be Continued.
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