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TwoPair
Episode 19 -剣術大会-
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<体育館>

ダンスパーティーも終わり、いよいよ剣術大会が数日後に迫ったある日、ここ体育館で
は剣道部の部員達が練習に励んでいた。

ミロク「真宮寺さくら。今年は思い通りにさせない!」

剣道部の主将であるミロクは、去年の剣術大会の1回戦でさくらと当たり、完膚無きま
でに敗れてしまったという過去があった。

今年は何としてもっ。
真宮寺さくらには、優勝させない!

去年の敗退を1年間恨んできたミロクは、不気味な笑みを浮かべながら部員達の練習を
見ているのだった。

<運動場の隅>

近頃さくらは、剣術大会が近いということもあり、運動場の隅の桜の木の下で、日夜練
習に励んでいた。

転校生レイ「こうかしら? えいっ!」

さくら「そうね。レイちゃん。そのまま、飛び込む感じで打ち込んでみて。」

転校生レイ「うんっ。」

少し前からさくらに剣術を教えて貰っていた転校生レイ。大会に出場するわけでは無い
が、優勝候補のさくらの練習の邪魔にならない程度に、一緒に練習をしている。

転校生レイ「てやぁ。」

さくら「いいじゃない。大会に出れば良かったのに。」

転校生レイ「アハハハハ。またまたぁ。さくらちゃんと違って、そこまで気合い入れて
            無いからむりむりぃ。それより、さくらちゃんっ! 優勝してねっ!」

さくら「今年は難しいわ。去年はお家の事情で出場してなかったけど、すみれさんが出
        て来るもの。」

転校生レイ「すみれちゃんも、強いの?」

さくら「強い強い。なぎなた持ったら凄いんだからぁ。」

さくらは目を丸くしてすみれの話をする。このさくらをもってして、そこまで言わせる
のだから、すみれもかなりのものなのだろう。

さくら「よーしっ! あたしもがんばらなくちゃ!」

転校生レイ「がんばれーーっ! さくらちゃんっ!」

剣術大会の時、防具の下に付ける袴衣装姿のさくらは、木でできた剣を中段に構えて、
練習を始める。そんな様子を、転校生レイは嬉しそうに眺めていた。

さくら「はっ!」

ずばーーーっ!!!

真宮寺家に伝わる剣術で、練習用に用意しておいた藁人形を次々と倒していく。その姿
を見ていると、優勝候補だというのも頷ける。

転校生レイ「すんごーーーい。」

今年の剣術大会は、全4戦の勝ち抜き戦だ。1日目に2戦が行われ、2日目に準決勝と
決勝が行われる。

順当に行けば、さくらは準決勝で剣道部主将のミロクと当たり、決勝ですみれと当たる
予定となっていた。

<シンジの寮>

その頃、シンジはすみれと一緒に部屋でローズティーを飲んでいた。剣術大会も近いと
言うのに、さくらと違いすみれは暢気なものだ。

シンジ「みんな練習してるけど、すみれさんは練習しなくていいの?」

すみれ「おほほほほ。わたくし。練習など必要ございませんの。」

シンジ「でも、レイの話だと、さくらさんかなり強いみたいだけど?」

すみれ「さくらさんは、強いですわね。だからこそ、今更練習した所でどちらが勝つに
        せよ、勝敗は変わりませんことよ。おほほほほ。」

さくらが強いことを知りながら、こうして笑っていられるのはかなりの自信があるから
なのだろう。

すみれ「それより、ユイさんも出場なされば良かったですのに。」

シンジ「ぼくなんて・・・ははは。」

すみれ「そんなことございませんわ。あの筋肉馬鹿のカンナさんと、互角にバスケット
        ボールをするくらいなんですもの。」

シンジ「ははは・・・。でも、やっぱりいいや。」

すみれ「まぁ。今更申しましても、仕方御座いませんけど。」

メイクコンテスト以来、なんだか下級生を中心とした視線が気になって仕方の無いシン
ジは、これ以上目立つ所には出たくなかったのだ。

<転校生レイの寮>

いよいよ剣術大会が明日に迫った夜。転校生レイは、さくらと一緒に部屋でくつろいで
いた。

転校生レイ「あーぁ。やっぱり、わたしも出とけば良かったなぁ。」

さくら「そうよぉ。だから、レイちゃんも一緒に出ようって言ったのに。」

転校生レイ「だって、あの頃は全然自信無かったんだもん。」

ここ数日の間、さくらと一緒に練習をしてきた転校生レイは、それなりに剣さばきや身
のこなし方がわかってきて、自信も付き面白くなってきてしまっていた。

さくら「じゃ、来年は一緒に出ましょうね。」

転校生レイ「うーーん。来年かぁ。」

遠い目で、窓の外に映る星空を見上げる転校生レイ。おそらく来年までには任務を終了
し、この学園にはいないはずなのだ。

でも、ゼーレなんて何処にいるんだろう?
平和な学園にしか見えないけどなぁ。
そんなことより、今はさくらちゃんを応援しなくちゃっ!

転校生レイ「そうだ。マッサージしてあげる。」

さくら「え? いいわよ。そんなの。」

転校生レイ「いいからいいから。ちょっとは、お手伝いしないとねっ!」

そう言いながら、さくらを押し倒して後ろから馬乗りになった転校生レイは、腰,ふく
らはぎ、腕とマッサージを始める。

さくら「ありがとうレイちゃん。頑張るわね。」

転校生レイ「大丈夫だって。さくらちゃんなら、少なくとも決勝までは楽勝なんだから。」

さくら「すみれさん。強いからなぁ。」

転校生レイ「さくらちゃんなら大丈夫だってっ!」

さくら「そうね。あたし頑張るっ! あはは。」

転校生レイ「そう来なくっちゃ。えいっ!」

さくら「あいたたたたた・・・。」

転校生レイ「あははははは。」

明日は剣術大会の第1日目。どう転んでも、明日はさくらも余裕で勝てる2試合である
為、2人は少しリラックスして夜を過ごしていた。

<体育館>

いよいよ剣術大会1日目。さくらの第1戦は、剣道部の1年生と当たることになってい
る。

転校生レイ「がんばれーーーっ! さくらちゃーーーんっ!」

さくら側の応援席から、盛大にさくらコールをする転校生レイ。さくらも、笑顔で転校
生レイに手を振りながら、試合場へと登る。

さくらちゃん!
かっこいいっ!

剣道の防具よりややシンプルで軽めの、女性らしい出で立ちをした防具を付けたさくら
と、対戦相手が中央に並ぶ。

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作者注:剣術大会のルールなどは剣道を元に考えてますが、作者が剣道のことを良く知
        らない為、多少おかしな所があるかもしれません。そこは大目に見て下さい。
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1回戦は、楽勝みたいね。
さくらちゃん頑張れっ!

楽勝だとは思うものの、どうしても緊張してしまう。転校生レイは、握った拳に汗を掻
きつつさくらを応援する。

シスター「始めっ!」

掛け声と共に、体育館に設置された3つの試合場で同時に1回戦が始まった。2つ向こ
うの試合場では、すみれが戦っている様で、シンジの応援する声が聞こえる。

転校生レイ「さくらちゃーんっ! がんばれーーっ!」

ビシッ!

その時、敵の剣道部の一年生が、無防備な足に向かってなぎなたを振り下ろしてきた。
膝より剣を下げるのは、この大会では反則なのでまさかの攻撃にさくらはモロにそれを
受けてしまう。

さくら「つっ!」

思わずよろけるさくら。シスターは、そこで試合を一旦中断し、剣道部員の一年生に反
則の注意を与える。3回の反則で退場となる。

シスター「始めっ!」

試合が再開される。痛めた足を少し引きずって試合に望むさくらを見ながら、転校生レ
イは敵の剣道部員の少女にムカムカきていた。

何てことするのよっ!
あんなの駄目じゃないっ!

転校生レイ「さくらちゃーんっ! どんまいっ! がんばれーーーっ!」

バシッ!

転校生レイ「あっ!」

転校生レイが応援していると、再びなぎなたがさくらの足へ向かって振り下ろされた。
同じ所を2度も叩かれて、苦痛に顔を歪め座り込むさくら。

転校生レイ「ちょっとっ! わざとじゃないのっ!」

我慢できずに立ち上がった転校生レイだったが、シスターに止められる。そして、相手
の選手には反則が2つ取られた。

やり方が汚いわよっ!
でも、後1回やったら反則負けね。もうやらないでしょう。
だったら、さくらちゃんなら大丈夫っ!

さくらは再び足を引きずりつつ、試合に臨む。そして、シスターの開始の声と共に試合
が再会したその瞬間。

ビシッ!

またしても、剣道部の少女は同じ所になぎなたを叩き込んで来たのだ。防御すると、さ
くらも反則になるので、なんとか足を避けようとしたが無理であった。

さくら「キャッ!」

まさかの3回連続の反則に、さくらはその場に座り込んでしまう。シスターが敵の少女
に退場を命じている中、転校生レイはさくらの側へ駆け寄って行く。

転校生レイ「さくらちゃんっ! 大丈夫っ!? ひ、ひっどーい!」

さくら「レイ・・・ちゃん。大丈夫・・・よ。心配しないで。」

転校生レイ「あの娘っ! 何考えてるのよっ!」

あまりにも酷いマナーに、転校生レイは思いっきり怒りながらも、今は治療が先決だと
冷たい氷と水を袋に入れて腫れた足を冷やす。

転校生レイ「どう? 少しはまし?」

さくら「ありがとう。ごめんね。レイちゃん。」

転校生レイ「ううん。ほんとにもうっ! ひっどいことするんだからぁ。」

そうこうしているうちに、まだ腫れは引かないがさくらの2回戦となった。さくらの対
戦する相手は、剣道部の2年の少女である。

転校生レイ「さくらちゃーんっ! 仕返しよーっ! がんばれーーーっ!」

先程の試合に頭に来ていた転校生レイは、大声で”仕返し”などという言葉を口にしな
がら、さくらを必死で応援する。

シスター「始めっ!」

さくら「きゃーーーっ!!!」

しかし、またしても試合が始まったと同時に、敵の少女はなぎなたを畳ぎりぎり水平に
振り回し、先程怪我した所へ叩き付けてくる。

さくら「くぅぅぅぅっ!!」

腫れ上がっている所を、思いっきりなぎなたで叩かれたさくらは、悲鳴を上げてその場
に倒れる。

転校生レイ「さくらちゃんっ!!!!」

悲壮な声を上げて立ち上がる転校生レイ。この時、ようやく転校生レイは悟った。明日、
さくらが剣道部主将と当たる前に、後輩を使って潰しに来ているのだ。

き、汚な過ぎるじゃないっ!

目の前では、なんとかさくらが立ち上がろうと、剣を杖に体を起こしているが、既に足
が言うことを効かない様だ。

シスター「大丈夫ですか?」

さくら「はい。い、いけます。大丈夫です。」

さくらが定位置に戻り、試合が再開。剣道部の少女と睨み合う。

シスター「始めっ!」

転校生レイ「また反則してくるわよっ! 気をつけてっ!」

綺麗事など言ってられない。このままでは、さくらが潰されてしまうと思った転校生レ
イは、大声で敵を罵る。それと同時に、案の定足を狙ってくる敵の少女。

カキン。

今まで反則だけはしまいと頑張ってきたさくらだったが、そんなことは言ってられず、
畳に木の剣を突き立てなぎなたを防御した。しかし、弱った足がよろけた瞬間、敵の
少女はそのまま、さくらの足になぎなたを叩き込んで来た。

さくら「キャーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」

再びシスターが試合を止める。今回はさくらも反則したため、両者に反則が取られる。

転校生レイ「どうして反則なのよっ! 先にあの娘が反則してきたからじゃないっ!」

ブーブー文句を言う転校生レイだが、ルールはルールである。反則は、撤回されなかっ
た。

シスター「次に膝より下になぎなたを当てたら、反則負けですよっ! あまりにも酷い
          ようなら今後の剣術大会への出場禁止を言い渡しますっ!」

反則すれば出場禁止などというルールは無いが、さすがにシスターも人間である。感情
が入っている様だ。

敵の少女「はーい。」

悪びれた様子もなく、素直に返事をする少女。反則負けなど、最初から予定しているの
だろう。

転校生レイ「さくらちゃんっ! まともに戦うことなんて無いわわっ! 逃げてっ!」

転校生レイの前で苦痛に顔を歪めながら足を引きずりつつ、さくらが剣を構えた。

試合再開。

シスター「始めっ!」

さくらが、敵の少女と正面に立つ。

転校生レイ「駄目っ! まともに当たったら、またっ!」

それでも逃げようとせず、向かっていこうとするさくらに転校生レイが悲鳴を上げる。

転校生レイ「さくらちゃんっ!!!」

敵の少女「やーーーーーっ!」

また、スネを狙ってくる敵少女。

さくら「はぁぁぁーーーーっ!」

真っ向からその反則攻撃に立ち向かうさくら。

さくら「破邪剣征っ!」

2人の距離が詰まる。

さくら「桜花放神っ!!!!」

怪我をした足に負担が掛かる為、控えていた真宮寺家の奥義。それを、試合開始と同時
に放つさくら。

敵の少女「きゃーーーーっ!!!」

敵の少女は、反応することもできずに、まともにそれを体に食らって倒れる。

さくら「うっ!」

同時に、あまりにも足への負担が大きく、その場でひざまづくさくら。その時、倒れて
いた敵の少女が、さくらの足目掛けてなぎなたを投げ付けてきた。

バスっ!

さくら「きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」

なぎなたをもろにすねに当てられたさくらは、悲鳴を上げながら思いっきり前のめりに
倒れる。

転校生レイ「さっ! さくらちゃんっ!!!

シスターと共に試合場に駆け寄った転校生レイが、袴の裾をまくし上げると、足が真っ
青になって腫れ上がっており、真っ赤な血が吹き出している。

転校生レイ「さくらちゃんっ! さくらちゃんっ!」

さくら「ぐぐぐ・・・。」

転校生レイ「さくらちゃんっ! 保健室に行きましょっ! 掴まってっ!」

敵の少女にシスターが2度と剣術大会に出ることを禁止すると言う声を聞きながら、転
校生レイはさくらを連れて保健室へ急ぐのだった。

<剣道部部室>

剣術大会の1日目が終わった時、転校生レイはアスカコンビを伴って怒りも露に剣道部
部室までやって来ていた。

通常アスカ「部長は何処よっ! 話があるわっ! 出てきなさいっ!」

幼馴染アスカ「汚い真似すんじゃないわよっ! とっとと出てきなさいよっ!」

さくらには内緒で、転校生レイと共に殴り込みを掛けるアスカコンビ。この2人が、髪
を逆立て目を吊り上げて乗り込んで来たのだ。さしもの剣道部員とて引いている。

通常アスカ「部長は何処かって聞いてるのよっ! さっさと返事なさいっ!」

ミロク「どうしたの? 部長はわたしだけど?」

転校生レイ「今日のあの試合は何よっ! さくらちゃん、怪我しちゃったじゃないっ!」

通常アスカ「アンタかっ! 後輩使って汚いってのよっ!」

ミロク「あぁ、あの試合ね。あれにはわたしも許せないものがあったわ。」

幼馴染アスカ「よくもまぁ、いけしゃーしゃーとっ!」

ミロク「だから、ほら。ちゃんと罰を与えてるわ。」

転校生レイ「えっ!?」

ふと見ると、試合に出場していた後輩の少女2人が、体育館の隅で正座させられており、
別の後輩が向きだしの背中に竹刀を叩きつけている。

ミロク「あれで、もう2度とあんなことはしないでしょう。」

通常アスカ「なっ! なんてことすんのよっ!」

慌ててアスカコンビと転校生レイが駆け寄ると、その少女達は背中を真っ赤に腫れあが
らせ、苦痛に顔を歪めていた。

幼馴染アスカ「ひ、ひどい・・・。」

ミロク「その娘達は、退部にしたわ。これで、あなた達の気も済むかしら?」

転校生レイ「最低っ!」

幼馴染アスカ「とにかく、保健室に連れて行くわよっ!」

今から思えば、この少女達は単なる使い捨てにされた様なものだ。ここへ来るまでは憎
んでいたが、逆に今は可愛そうになってくる。

転校生レイ「さぁ、行きましょ。」

幼馴染アスカ「こんなとこにいるより、退部になった方がずっとマシよっ!」

ミロク「でも、真宮寺さん出場できないんですってね。明日の対戦、残念だわ。」」

通常アスカ「なんですってーーーっ! こンのっ!」

転校生レイ「待ってっ!」

今にも殴り掛かりそうになっていた通常アスカを、両手で止める転校生レイ。

通常アスカ「離しなさいっ! 我慢の限界よっ!! 殺してやるっ!!」

転校生レイ「待ってっ! わたしにまかせてっ。」

通常アスカ「どうすんのよっ!!!」

転校生レイ「明日。代理でわたしが出るわっ!」

通常アスカの前に出て、転校生レイはミロクをギンと睨み付けた。

ミロク「あら? あなたがぁ? 楽しみね。フフフフフ。」

馬鹿にした様な顔でせせら笑うミロクから、視線を逸らさず睨み付け続ける転校生レイ。

通常アスカ「ハンっ! 明日まで生き延びたわねっ! レイに感謝するのねっ!!」

幼馴染アスカ「もういいわ。レイ行くわよ。」

転校生レイ「ええ。」

最後までミロクから視線を逸らさなかった転校生レイだったが、幼馴染アスカに促され、
打ちのめされて気を失いかけている女子部員2人と一緒に出て行くのだった。

<運動場の隅>

転校生レイは、足を引きずるさくらに肩を貸して、その日の夕方運動場の隅まで来てい
た。

転校生レイ「ごめんね? 痛む?」

さくら「それより、本当にレイちゃんが、試合に出るの?」

転校生レイ「ええ。さくらちゃんの代理で出るわ。」

さくら「でも、ミロクさんって去年も体を当てたり、汚いことしてきたから・・・。」

転校生レイ「汚いのは、もうわかってるわ。でも、わたしは絶対出るっ!」

さくら「そう・・・。」

しばらく目を伏せて考えていたさくらだったが、くっと顔を上げると転校生レイににっ
こりと微笑んだ。

さくら「レイちゃん。頑張りましょっ!」

転校生レイ「うんっ!」

通常アスカ「アタシも手伝うわっ! あんなヤツっ! 負けてたまるもんですかっ!」

幼馴染アスカ「ぜーーーーったい、勝つのよっ! いいわねっ! レイっ!」

通常レイ「私も・・・。何するの?」

通常アスカ「アンタは、黙って見てりゃいいの。」

幼馴染アスカ「そうそう。じっとしてるのが、アンタは一番。」

通常レイ「それでいいのね。」

それから転校生レイの特訓が続く間、通常レイはじーっとその様子を、ただひたすら眺
め続けていた。

さくら「レイちゃんっ! 踏み込みが甘いっ!」

転校生レイ「うんっ!」

アスカコンビ2人掛かりでレイの敵をしている。剣術には素人とはいえ、スポーツ万能
少女2人が同時に相手だ。転校生レイは、何度も叩かれ、倒され、吹っ飛ばされる。

転校生レイ「もう一回よっ!」

通常アスカ「よーしっ! 行くわよっ!」

転校生レイ「とりゃーーーーっ!」

バシバシバシっ!

必死で2人掛かりの攻撃を防御しつつ攻撃の機会を伺うが、どんどん後ろに押されてい
く一方。

バシッ!

転校生レイ「くっ!!!」

幼馴染アスカの懇親の一撃が脳天に炸裂。防具を付けているとはいえ、その場に倒れ込
む。

転校生レイ「くぅぅぅ。よーしっ! もう1回よっ! はぁはぁ。」

幼馴染アスカ「ちょっと休憩しましょ。はぁはぁ。アンタがもたないわ。はぁはぁ。」

転校生レイ「大丈夫っ! 続けて。はぁはぁ。」

通常アスカ「はぁはぁ。その意気よっ! 行くわよっ!」

幼馴染アスカが、休憩を進めるがいつになく闘志を漲らせた転校生レイは、休む気配
など見せず練習を再開する。

シンジ「レイぃっ。冷たいお茶持ってきたから、ちょっと休憩しなよ。無理しちゃ駄目
        だって。ほら、ここに座りなよ。」

その時、シンジが冷たいお茶をやかんに入れて走ってきた。

転校生レイ「そうね。わたしも、そう思ってたの。」

転校生レイは、シンジにお茶を入れて貰うと、しっかりその横に腰を落ち付けた。

通常アスカ「・・・。」

幼馴染アスカ「・・・。」

そんなこんなで、途中数分の短い休憩が何度かあったものの、転校生レイの特訓は絶え
間無く続き、既に夜の9時になっていた。

通常アスカ「はぁはぁはぁ。行くわよっ!」

幼馴染アスカ「ふぅぅ・・・。ほらっ! 立ちなさいっ!」

さすがにアスカコンビとてかなりの疲労の色が出ている。そんな中、体中にあざを作っ
た転校生レイが、よろよろと立ち上がった。

さくら「も、もうっ! もういいわっ!」

転校生レイ「まだっ。もうちょっとで、タイミングが掴めるのっ!」

さくら「でもっ! もうっ!」

転校生レイ「大丈夫っ! さぁ、来てっ!」

さくら「レイちゃんっ!」

転校生レイのことを心配するさくらの横に、ゆっくりとシンジが腰を下ろす。

シンジ「大丈夫さ。レイなら。」

さくら「ユイさん。」

ボロボロになった転校生レイを前に、アスカコンビも手を抜かず切り込んでいる。そん
な様子を見る、シンジや通常レイも止めようとせずじっと3人の様子を見詰めている。

さくら「あなた達って・・・。」

その間も、ひっきりなしに転校生レイの特訓は続く。

通常アスカ「うりゃーーーーーっ!」

幼馴染アスカ「てやーーーーっ!」

ドサッ。

なんとか、ミロクに勝ちたいとがんばる転校生レイだったが、最後のタイミングが掴め
ず、またしてもアスカコンビに叩き倒される。

さくら「あたしの足さえ動けば・・・。」

自分がお手本をできればいいのだが、足が言うことをきかず立つことさえままならない
状態だ。とにかく、口だけで剣術を教えていくしかない。

さくら「もう少し早く踏み込んでっ!」

転校生レイ「はぁはぁ・・・うんっ!」

よろよろと立ち上がった転校生レイは、斬り掛かってくるアスカコンビを前に剣を構え
た。

もう少し早く・・・。
早く・・・。
早く・・・。
今だっ!

通常アスカ「てやーーーーーーっ!」

その瞬間、転校生レイの改心の一撃が決まり、通常アスカはもんどりうって後ろへ倒さ
れる。

転校生レイ「で、できたっ!」

くらくらする頭を押さえて立ちあがる通常アスカ。

通常アスカ「ぐぅぅぅ・・・やったじゃん。」

さくら「そうっ! できたじゃないっ!」

幼馴染アスカ「よしっ! 行けるわっ!」

転校生レイ「うんっ! この感じ・・・。もう1度お願いっ!」

この後、転校生レイとアスカコンビは夜11時が過ぎるまで、掴んだカンを完全な物に
する為に特訓を繰り返した後、疲れ切った体で床に入ったのだった。

<体育館>

剣術大会2日目。試合場に立つ転校生レイの前には、ミロクが剣を持って笑みを浮かべ
ていた。

ミロク「本当に出て来たの? 馬鹿ね。フフフ。」

転校生レイ「あなただけには、絶対負けないっ!」

いよいよ準決勝。転校生レイの周りには、さくらを始めアスカコンビ,通常レイ,シン
ジ,アイリスが応援していた。少し向こうでは、すみれも試合を行っている。

シスター「開始っ!」

シスターの言葉と同時に、ミロクは上段の構から転校生レイに斬り掛かってくる。剣道
部主将だけのことはあり、それをかわすので精一杯だ。

カンカンカン。

通常アスカ「あれだけ特訓したんでしょうがっ! 成果見せてやんなさいよねっ!」

幼馴染アスカ「負けんじゃないわよっ!」

昨日の特訓で、自分達も痣だらけになったアスカコンビが、あちこちにバンソウコウを
貼って転校生レイを応援している。

シンジ「レイっ! そこだっ!」

通常レイ「がんばって・・・。」

そんな声援の中、力強く切り込んで来るミロクの剣を転校生レイは必死で受け止めてい
た。

転校生レイ「くぅぅ!」

さくら「右へ逃げてっ!」

転校生レイ「くっ!」

さくらに言われた通り、すぐさま右へ体をずらす転校生レイ。

転校生レイ「はっ!」

その瞬間、袴の裾をミロクに踏まれて思いっきり転んでしまった。シスターはその行為
に気付いておらず、レイが1人で転んだものだと思っている様だ。

あんな人っ!
負けてたまるもんですかっ!

ゆっくりと立ち上がった転校生レイは、再びシスターの指示により中央に寄り剣を構え
た。

シスター「始めっ!」

合図と共に、またもや容赦無く剣を振り翳してくるミロク。

転校生レイ「くぅぅぅ!」

ガンっ!

転校生レイの剣が、大きく外へ弾かれる。

さくら「沿ってっ!」

転校生レイ「くっ!」

さくらに言われるがまま、思いっきり上体を逸らしミロクの攻撃を交わす。ミロクの剣
は、そのまま面の防具に当たり無効となったが・・・次の瞬間。

転校生レイ「ぐぅっ!」

ミロクがよろけた振りをして、その剣を喉元に突き刺してきた。この大会、女の子の大
会ということもあり突きは禁止なのだが、不意の事故を装ったのだ。

転校生レイ「ゲホッ! ゲホッ!」

喉を押さえて、その場に倒れ込む転校生レイ。シスターが、そんな転校生レイの側へ駆
け寄って来る。

シスター「大丈夫ですか?」

転校生レイ「げほげほ。は、はい。げほっ。」

なんとかかんとか、喉を押さえて立ち上がった転校生レイは、剣を構えてミロクと向か
い合う。

試合再開。

駄目。
このままじゃ、勝てない・・・。

所詮は一夜漬けに近い転校生レイ。相手は3年間練習してきた剣道部員だ。いくら頑張
ったところで、その力の差は歴然としていた。

勝ちたいっ!
この試合だけはどうしてもっ!

パーーーーン。

ミロクの剣が振り翳される。

転校生レイ「ぐっ!!!」

その場でよろけて座り込む転校生レイ。一本は取られなかったものの有効だ。もう一度
食らうと負けになる。

さくら「レイちゃん。」

その時、試合場の側ぎりぎりまで近寄って来ていたさくらが、畳を叩きながら転校生レ
イに叫んだ。

さくら「一撃必殺っ! 自分を信じてっ!」

転校生レイ「さくらちゃん・・・。」

さくら「昨日のタイミングを思い出してっ!」

転校生レイ「で、でも。」

さくらの授けた必殺。1度打たせてそれを避ける。相手が再度振り被る瞬間に出来る隙。
そこに全てを掛けるのだ。だが、失敗すれば振り被られた剣をまともに食らう諸刃の刃。

さくら「大丈夫っ! レイちゃんっ! 自信を持ってっ!」

転校生レイ「わかったっ!」

シスターが転校生レイとミロクを中央に寄せる。

シスター「始めっ!」

試合再開。

優勢に試合が運んでいるミロクは余裕の様子。

カンカンカン。

やはり押されて行く転校生レイ。

次の瞬間、ミロクが大きく振り被った。

これを逃げるっ!

ガスッ!

体制を崩さない為に、その一撃をモロに肩で止める。激痛が体中を駆け抜ける。

くぅぅっ!

一撃が外れたので、ミロクが剣を戻し振り被ろうとした。

今っ!

一気に、剣を振り被る転校生レイ。

神経を切っ先に集中させる。

転校生レイ「破邪剣征・桜花放神ーーーーっ!!!」

ズバーーーーーン。

ミロク「ぐぅぅぅっ!」

しかし、一旦ミロクが間合いを取ろうと数歩後ろに下がってしまっていた瞬間だった。
ギリギリの所で、的が僅かに外れる。

しまったっ!

ミロク「はーーーっ!」

体制の崩れた転校生レイを前に、ここぞとばかりに剣を振り下ろすミロク。

転校生レイ「くぅっ!!」

必死で自分の体重を片足で支えた転校生レイは、剣を思いっきりに振り被って直撃を避
け頭をずらす。

バーーーーン。

無理な体勢で避けた為、ミロクの一撃が無防備な腕に直撃する。

血が出る転校生レイの腕。

転校生レイ「くぅぅっ!」

しかし、痛みに耐えながら、振り被った剣をそのままの勢いで振り下ろしていく。

転校生レイ「破邪剣征・桜花放神ーーーーっ!!!」

バーーーーーーーーーーーンっ!

真後ろに吹き飛ばされるミロク。

ミロク「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

勢い余って、前のめりに転ぶ転校生レイ。

ゴロゴロゴロ。

シスター「一本っ!」

不恰好ではあったものの、見事に転校生レイの一本が決まった。ミロクは、膝を付き奥
歯を噛み締めながら痛む体を起こす。

応援者達「「「「わーーーーーーーーっ!」」」」

立ちあがった転校生レイの周りに、さくらの肩を支えたアスカコンビやシンジ,そして
通常レイが駆け寄って来る。

さくら「手っ! 大丈夫っ!?」

転校生レイ「だーいじょうぶ。えへへへへ。勝っちゃったよ。」

さくら「ありがとう。ありがとう。レイちゃんっ!」

目に涙を流して、転校生レイに抱きつくさくら。その横では、負けたミロクが恨んだ様
な、目で転校生レイのことを睨みつけていた。

通常アスカ「ハンっ! 汚いことしても、所詮アンタはそンなもんよっ!」

ミロク「くっ。あんな素人に・・・。」

幼馴染アスカ「アンタなんか、さくらが少し教えたら、素人でも勝てないってことよっ!
              アンタはさくらに負けたのよっ!」

ミロク「くぅぅ・・・。」

その後、普段から部員の不満を募らせていた部長ミロクは、2年連続の敗退という理由に、
剣道部を追われることになった。

そして、いよいよ決勝。

対するは、なぎなたのすみれ。

転校生レイ「あはははは、すみれちゃん。お、お手柔らかに。あはっ。」

すみれ「おほほほほほ。残念ですわぁ。今年こそ、さくらさんと対戦できると思ってま
        したのにぃ。」

転校生レイ「わたしだって、頑張ったんだからなかなかのものよ。なんちゃって。」

試合開始。

カンカンカン。

何度か剣となぎなたの打ち合いが繰り返される。

すみれ「おほほほ。どうされましたの? 桜花放神は、出しませんの?」

カンカンカン。

転校生レイ「むぅっ! 見てなさいよぉっ! さくらちゃん直伝なんだからっ!」

転校生レイは、すみれがなぎなたをひっこめた瞬間を狙って、先程ミロクを倒したさく
ら直伝、破邪剣征・桜花放神を全神経を集中して叩き出しす。

転校生レイ「破邪剣征・桜花放神っ!!!!!」

カーーーーーン!

転校生レイ「あっ!」

しかしその剣は、軽々とすみれに跳ね返される。

カウンターを食らい、体勢を崩す転校生レイ。

一気に間合いを詰めるすみれ。

すみれ「神崎風塵流! 胡蝶の! 舞っっ!!!」

ズバーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!

転校生レイ「きゃーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」

一気に、叩き飛ばされる転校生レイ。

シスター「一本っ!」

頭をブルブルと振って立ち上がろうとする転校生レイに、すみれがゆっくりと手を差し
出してきた。

転校生レイ「ふぅぅぅ。すっ、すっごーい。すみれちゃん。」

すみれ「おほほほほほ。さくらさんの桜花放神に比べたら、子供の遊びですわね。」

転校生レイ「あははははは。それ言わないで・・・。」

転校生レイは、照れ笑いをしながら、すみれの手を取って立ち上がる。

すみれ「また、しっかりと教えて貰っておいて下さいね。また対戦いたしましょ。」

転校生レイ「そうねっ! あははっ! やっぱ、すみれちゃんに真似事じゃ通じないね。」

すみれに起こされた転校生レイは、2人一緒にさくら達の所へ歩いて行った。

すみれ「さくらさん。来年こそは。わかっておられますわね。」

さくら「ええ。修行しておくわ。」

すみれ「負けませんわよ。わたくし。」

さくら「あたしだってっ!」

手を取り合う2人を見ながら、剣の奥の深さが少しだけわかった転校生レイは、来年こ
の学園にいなくなっていても、2人の試合だけは見に来ようと楽しみにするのだった。

To Be Continued.
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